正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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なんか筆が乗った気分だったので。頑張って書きました。

ぜひ、楽しんでいただければと思います。




2・ヘヴンホワイティネス

 これは、神宮カエデ、宮寺レン、甘白ミドリコのヘヴンホワイティネス結成の物語。 

 

 コンクリートの造りの簡素なマンションの一室。

 

 2022年、1月中旬。まだまだ寒い日本の冬。

 

 朝日がカーテンから漏れ出し、その光の暖かさ、眩しさと共に来る冷え込みで宮寺レンは眼を覚ます。

 

 あの日──レジスタンスがレンに全てを託し、レンは過去の世界へと飛んできた。

 

 今は保護してくれた女性の家を住居として登録させてもらい、住まわせて貰っている。言うなれば居候だ。

 

 「レン、入るぞ」

 

 レン五畳しかない小さな部屋へ、低く落ち着いた女性の声がする。ノックの後に扉が開く。

 

 「おはよう、ございます。甘白さん」

 

 やや寝ぼけ眼のままミドリコへ朝の挨拶を済ませる。

 

 「ああ、おはよう。昨日はよく眠れたかな」

 「問題ない。言われた通り、8時間は寝れた」

 「顔、洗って来な。朝食を済ませよう」

 

 言われると、レンは洗面台で行き身だしなみを整え始める。

 

 タイムスリップしてきた夜、ミドリコに保護されたレンは全てではないが、自分の情報を話した。レンの産まれた時代での常識の範疇で話した事は、ほとんどの人間がまともに聞き入れず、精神病棟へ勧めてくれた。

 

 たった一人を除いては。

 

 「甘白さんは、今日は仕事?」

 

 身だしなみを整え、スカイブルーの髪を綺麗に纏める。一本だけ、意思を持っているのか反発力がすごい。

 

 朝食を食べようと、席に付くレンの眼の前で、簡単な化粧を済ませるミドリコ。

 

 「ああ、そうだ。今日は帰りが遅いと思うから、戸締まりをしっかりしていて欲しい」

 「了解。甘白さんも、奴らが現れたら、直ぐに呼んで欲しい」

 

 奴ら。レンが話した巨大な悪の組織、ヘルブラッククロス。

 

 ミドリコを初め、公安のほとんどが存在の尻尾すらつかめないその巨悪を、追いかけるのに躍起になっていた所の、ミドリコに取っての僥倖。

 

 初めて合った時、気絶していたレンを助けてくれた恩義と、ミドリコの立場を知って協力関係を結ぶ為に、二人は日夜ヘルブラッククロスの知り得る情報をレンは伝えたのだ。

 

 それについては80年後の未来でも、悪事を働いている今より巨大な

組織で有ることをミドリコも最初は、にわかには信じられなかった。

 

 ミドリコが追いかける集団犯罪と、レンの話す組織の話と複数の共通点、そしてなによりレンの話には覚悟を感じた。だから二人は協力して戦う事を選んだのだ。

 

 「ん、肝に命じておく。それより、レン」

 「?」

 「寝癖、治ってないぞ」

 

 これは意思を持っている。それを力説するのに時間がかかってしまった。

 

 軽めの朝食を済ませると、レンも学校へ通う支度を始める。

 

 今後の活動の為にも、両親の仕事の都合上、親戚の家に引っ越して転校してきたという設定で、レンは度固化野名神(どこかのめいじん)高等学校に通わせて貰っている。

 

 年明けすぐの転校生で、髪色も珍しいと言うことで、話題になったが、レンはそこまで会話が得意じゃない。浮かずとも、受け入れられず、といった環境でいる。

 

 中休みの時間ではひたすら屋上から、犯罪が起こっていないか日々調べてる。

 

 「今夜のお金を置いとく。いつも少なくて悪いな。今度休みの時はもう少し良い食べ物を買いに行こう」

 

 1000円と少々の小銭を机に置き、スーツを着るとミドリコは、鏡の前で身だしなみを整えてリビングを後にする。

 

 「今度は、コロッケ、アジフライ、買おう」

 「惣菜は素敵な味方、だな。行ってきます」

 

 ミドリコを見送ると、レンも時間に送れないように、マンションを後にする。

 

 (ふむ、時間はいつも通りだな)

 

 ゴッゴッ、っとヒール鳴らしながら歩き、左腕の時計を見て、曲がり角で人とぶつかる。

 

 「あわわ」

 「あ、すいません。時計を見て、よそ見してました。申し訳ない」

 ミドリコがぶつかったのは黒みがかったセーラー服と赤縁のメガネをかけた小柄な少女だ。

 

 「いえ、こちらこそすいません。わたしもよく前を見ていませんでした」

 

 礼儀正しい少女に道を譲ると、ミドリコは少女の後ろ姿を見る。

 

 おそらく中学生ぐらいだろうか。あんなに可愛い少女も暮らしてるこの街で犯罪が横行してるなんてやはり許せない。

 

 力強いミドリコの一歩は自身にやる気を出させる。必ず、犯罪を無くしてみせると。

 (しかしかわいい娘だ。きっと子猫とか子供には優しいはずだ!がんばれ少女!)

 

 勝手にぶつかった人に声援を贈りながら、ミドリコは足早に職場へと向かう。

 

 (きれいな人。わたしが実験材料として連れて行ったら、みんなよろこぶかな、くふふふ)

 

 表情には見せないが、おそらく狂気を混ぜた奈落の様な瞳で、ミヤコは上機嫌になりながら振り向く。

 

 ぶつかった女性がこちらを向いている。

 

 「気をつけて学校へ行くんだぞ!」

 (うざ)

 

 おそらくあれは真面目な新任教師なのだろう。一瞬で興味を無くしたミヤコは再び行くべき道をあるき出す。

 

 足取り軽くスタスタ進むミヤコの姿へ、背中合わせになる形で、レンは歩いて行く。

 

 学校とはなんとも素晴らしい場所だ。なんと言っても、産まれた未来では学び舎なんて存在していなかった。未来の世界で学んだことと言えば、文字の書き取り、計算、言葉の意味。

 

 そして。

 

 (戦い方だけ。それだけ)

 

 出会ったレジスタンスの仲間は皆家族だ。だから友達を作れる場所としてレンは楽しみにしていた。

 

 しかし実際は、レンが会話が得意じゃないと知ると、周りの反応は急激に薄くなった。とは言え、彼らが悪い訳じゃない。レジスタンスでも新しい武器を調達したら、子どもたちはそれに興味津々だった。でも次第に触れないし、見れなくなるしで興味を無くすのだ。

 

 それと同じだ。さらに言えば、レンはこの時代にお友達を作りに来ているわけではない。

 

 その事を肝に命じて、うつつを抜かさない様にしないと行けない。

 

 結局気を抜けば、次は、次こそは死ぬかもしれないのだから。

 

 (遅れないように、しなきゃ)

 

 ほんの少しの虚無感と戦う使命感を背負い、レンは日差しが強くとも、寒空の下を歩くのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 豪華な白いレンガ造りの大きなお屋敷に呼び鈴が鳴る。

 

 『おはようございまーす!角倉でーす』

 

 元気な少年の挨拶に、給仕が返事をする。ここ最近の少年──角倉ケイタの朝のルーティーンであり、友達と毎日登校している。

 

 大門を超えた中庭からは、美しいバラの庭園が左右からケイタを出迎える。

 

 「あら、おはよケイタ」

 

 耳に心地よい声がケイタを出迎える。

 

 「おはようカエデ!」

 

 角倉ケイタはこの場所、神宮財閥が所有する土地に建てられた、神宮家の一部に来ていた。

 

 神宮財閥の一人娘である神宮カエデと中学の時に仲良くなって以来、彼はずっとこのルーティーンを続けている。

 

 「毎日来なくてもいいのよ?学校とは反対だし、疲れるでしょ」

 「いいよ大丈夫だよ。僕が来たくて来てるんだし。それに一人で行くより二人の方が楽しいからさ」

 「ふふ、変なやつ。暇じゃないなら、さっさと行けばいいのに」

 

 カエデは朝の紅茶を飲みながら悪態をつくが嘘だ。

 

 本心ではケイタが来てくれるのを嬉しく思ってる。

 

 神宮カエデというお嬢様は、昔から高慢ちきな性格で、神宮家の格闘術を幼少の頃から習っていた事もあり、いじめっ子を一捻りで沈めたり、成長と共にその性格もどんどんキツくなっていた。

 

 財閥令嬢としてのプライドと、常に完璧でいなければいけないプレッシャーもあったからか、話す人全てに強くあたっていた。

 

 それ故に嫌な人というレッテルだけ貼られて、周りからは誰からも好かれない、可愛そうに孤立してしまう存在になってしまった。

 

 そんな今更どうしようもない状況で声をかけてくれたのが、角倉ケイタだ。

 

 ただ、カエデ自身は何も、自分の力を誇示したいわけではない。

 

 いじめだったり、ひったくりだったり、人として間違っている事が嫌いなだけなのだ。

 

 人は暴力だけでは問題を解決できない。だから言葉がある。それでも言葉を聞き入れない人には、仕方がないから手を出してきた。カエデの真っ直ぐな思いをケイタは知っている。その真っ直ぐさに仲良くなれると思ったから、財閥の令嬢とかの立場とかは関係なく、分け隔てなく接しようと、決めたのだ。

 

 「学校で何かあったらいつでもあたしに言いなさいよ、ケイタ」

 「あはは、何も無いに越したことはないけどね。でも、ありがとう、カエデ」

 

 黒服のお見送りを受けて、二人は学校へと向かう。

 

 通学中、二人が話す事はなんでもない他愛ない話だ。

 

 最近街で起こってる奇妙な犯罪事件や、昨日のニュースでやってた美味しいスイーツお店とか。

 

 「あ」

 

 通学していると様々な生徒と出会う。同じ学校の生徒だし、高校生になったカエデは昔ほどの凶暴さは無くなり、今では普通に友達と呼べるだけの存在がたくさんいる。

 

 目に入ったのは、最近転校してきたという少女。ケイタもカエデも同じクラスで挨拶は積極的に行っている。

 

 「おはよう!宮寺さん」

 

 カエデの良い所は季節、時期問わず元気なところだ。言葉使いも令嬢に寄せていればきっともっと人気になれるだろう。

 

 「おはよう、ございます。えと、神宮さんと・・・角倉くん」

 「おはようございます!」

 

 ケイタも元気に挨拶を返す。

 

 「宮寺さん、今日は元気無い?」

 「い、いえ・・・そんな事は」

 

 ケイタの質問に首を振るレン。

 

 「じゃあ、少し体調悪い?無理しないでね、僕たち同じクラスなんだから」

 「・・・いえ、お気になさらず。本当に」

 

 体調でも悪く見えたのか。これでもちゃんと寝て健康なのだが。

 

 「コラ、バカ」

 「いでっ」

 

 ケイタの後頭部に革製の丈夫な鞄がぶつけられる。もちろんぶつけたのはカエデだ。

 

 「あはは〜ごめんね宮寺さん。ちょっとこっち来なさい」

 

 無理やりケイタの腕を引っ張るカエデ。少し怒ってるのかいつもより力が強い。

 

 「女の子には色々あるのよ。不用意に聞いたら駄目よ。いくらなんでもデリカシー無さすぎよ」

 「だからって鞄で叩く事ないだろ・・・僕の頭だって頑丈じゃないんだぞ」

 「・・・」

 

 カエデの気づかいのつもりだろうが、そのフォローは小声ではなく普通に聞こえる声量だった。

 

 「その色々へ配慮できていなかったのは、僕の責任だけど、カエデの声も十分でかいよ」

 「あたしはいーのよ!」

 「なんでさ」

 「・・・」

 

 二人の会話を横に聞いてるレンは少しだが口角があがる。

 

 「お、女の子だから・・・?」

 

 あまり考えていなかったのか、あまりにも適当な答えに「なんじゃそりゃ」と、ケイタが不服そうな表情を見せる。

 

 「・・・くっ」

 「あ、今笑った!宮寺さんが笑ったよケイタ!」

 「あ・・・その、私が笑うと・・・不愉快ですよね?」

 『なんで?』

 

 二人して同じ返答。レンにとっては新鮮な光景に、ついに口角だけじゃなく表情全体が明るくなる。

 

 「ほらーあたしの言うとおりよ、宮寺さんはあたしみたいにハイレベルな人間じゃないと笑顔になれないのよ」

 「どういう理屈なのさ、僕だって宮寺さんを笑わせられるよ」

 「へ〜じゃあやってみなさいよ。デリカシー無し男に果たしてできるのかしらねぇ」

 

 自分をハイレベルと言ったり、デリカシー無し男と呼んだり、未来には無いワードがたくさん出てくる。神宮カエデという人間は最初は、取っ付きにくい様な印象をレンは抱いていたし、自分から話すのも少し気が引けていた。

 

 「あははははは」

 

 通学中、三人の周りには同じ様に学校に向かう生徒達が半数以上を占める中、この寒さにやられて通学をけだるそうにしている生徒も多い。

 

 そんな中、普段笑わないことで周りから冷たい等の印象を持たされていたレンが周りに聞こえる程の爆笑を放つ。

 

 「ぷっ、ふふふ、あはははは」

 「あはははは」

 

 それに釣られてカエデも爆笑する。

 

 もうこの場面をみたら直ぐに学年中に噂が広まるだろう。神宮カエデがまた友達を増やしたと。

 

 「も〜何がそんなに面白いのさ。はやく学校行こうよ・・・」

 

 たまにはこんな風に笑ってるのもいいのかもしれない。ただ自分が思い込んでいただけで、笑顔になってもいいのだから。

 

 神宮カエデ。この人とはきっと仲良くできるだろう。

 

 レンはこの世界で少しだけ窮屈だった気持ちが、解れて優しい気持ちになった。

 

 でも、それでも。

 

 彼女達は、私が守らないと、いけない。使命を背負って生きているわたしと、将来へ向けて勉強して、恋もして、仲間と遊んで生きなければいけない、彼女達はわたしが守るんだ、と。

 

 より一層の覚悟が重くのしかかると思ったが、今だけはこの、笑う、という感情を無くしたくない、とレンは心に押し留めるのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 繁華街の規模は日々開拓によって広がっており、新店舗がたくさん入れ替わる。1月とう季節はこの街の年末商戦や正月商戦に負けた店舗が直ぐに去っていく。

 

 路地裏にも等しい薄暗いワンスペース。そこに灰色の服を着た戦闘員達は、今日の作戦について話し合っていた。

 

 ドクターミヤコが開発した消音ボトルは、声を外に漏れ出さないようにする為の優れ物で、外で活動する事の多い下っ端戦闘員はいつもこのボトルを持たされている。

 

 「なぁ、この戦闘服って、マスクの部分に黒い眼球の刺繍があるじゃん。これ何かわかる?」

 「俺たちが知るかよ。そんなことより、今日は怪人様も一緒に出撃してくれるそうだぜ」

 

 戦闘員の数は10人程。この下っ端達は、今回が初の作戦と言うことで、少数精鋭での動きになるという。

 

 「皆いるな?」

 

 路地裏の光を通さない闇の向こう側から、重たい威圧がやってくる。その威圧を感じた瞬間、態度悪く座る戦闘員達が、それぞれ整列し、背筋を伸ばす。

 

 ヘルブラッククロスの戦闘服はいわゆるパワードスーツだ。

 

 非力な一般市民が公安などに立ち向かう為には、防弾や攻撃にある程度耐えれる為の装備である。

 

 暗闇からいかにも重たい足音と、重たそうな巨躯。人の顔ではない豚の顔をした戦闘員達の上司。

 

 (オーク怪人って聞いてたら、俺ら、態度なんて悪くしてなかったよ。こえーんだよこの人)

 

 ここにいる戦闘員達のリーダー格は、オークと目が合わせられない。まるで冗談の通じない感じがしているからだ。

 

 「今日君たちには、ある場所を襲撃してもらいたい」

 

 軍服に身を包んだ豚顔の怪人は、後ろからもう一人の怪人を紹介する。

 

 「今回の襲撃作戦には、この怪人が付いていってくれる。紹介しよう、紐の怪人だ」

 

 紹介されたその怪人は漆黒のロープそのものだった。

 

 それはまるで誰にでも書ける落書き、棒人間に似ている。

 

 「ホッホッホッ、私が紐怪人です。はじめまして捨て駒の諸君」

 

 明らかに見下している様な発言を出会い頭に言われた為、明らかに不穏な空気が流れる。

 

 「せいぜい、我々の役に立ちなさい。あなた型【使い捨て】の働きが、組織、そして総統、さらにはドクターミヤコへの恩義と忠誠の形になるのです」

 

 顔の部分は円型の空洞。大きなリングだ。だが、次の瞬間、首と思わしき所につながっている、輪っかの下部分から上に向けて紐が別れ始める。

 

 その紐は真ん中まで進むと2つ、上下に分かれる。まるで一つの瞳が開くように、ゆっくりと開かれたその紐はやはり瞳の模様が浮き出る。

 

 眼球は黒く、瞳は赤い、怪人特有の眼だ。

 

 「すごい・・・オークさん以外の怪人はタコ怪人さん以外では初めてみましたよ」

 

 リーダー格の後ろに居た、舐めた態度の戦闘員が歩きながら、紐の怪人に近づく。

 

 「ホッホッホッそうですか。素晴らしいでしょう。では死ね」

 「え?」

 

 紐の右手が戦闘員の首を締め始め、持ち上げる。体重に支えられなくなった首がボキり、と嫌な音を響かせる。ピクピクと動くもはや死んだも同じ状態の戦闘員を自分から分離させた紐で、吊るしあげる。

 

 「そう勝手に殺されては困るな、紐の怪人」

 

 オーク怪人が軍帽で眼を隠す。やれやれ、またか、といった態度だ。

 

 「あ、申し訳ない・・・私が、ちゃんと抑えていなかったから」

 

 リーダー格の戦闘員が、声を震わせながら謝罪する。こんな簡単に部下を殺すなんて想像以上だ。タコ怪人やオーク怪人はまだこんな事はしない。

 

 にっこりと微笑んでいるのか、瞳はUを反転させた様な表情をしていた。

 

 「いえ、わたくしも失礼いたしました。何分殺したりなかったので」

 

 「それでは、行きますよみなさん」、と紐の怪人はオークをすり抜けて、路地裏の闇へ歩みをすすめる。

 

 「気をつけろよ、戦闘員。我々怪人は癇癪で人を殺す。特に紐怪人は残虐だ」

 

 リーダー格を初め9人前後の戦闘員はこの有様を見たら逆らうはずがない。

 

 『了解であります』

 

 その場に居た全員の戦闘員が、声を揃えて敬礼する。

 

 「皆さん、初めからそれぐらいの気合で居て欲しいものですよ」

 

 紐怪人が後ろに手を組みながら歩いている。はたから見ればその姿は結構コミカルな絵面かもしれない。

 

 「あ・・・」

 

 重要な事を忘れていた。作戦となる舞台をまだ伝えていなかったオーク怪人は急ぎ早に紐の怪人に伝える為に、足早にその場を後にする。

 

 吊るされた戦闘員は組織の誰かが、回収するだろう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「それでね、その時ケイタが・・・」

 

 学校の昼休み。各自学食なり、持参したお弁当なりを持ち寄って、思い思いに50分という短い時間を有意義に過ごすだろう、学生達には憩いの時間だ。

 

 カエデとケイタとレンは、朝のまま一気に仲良くなり、昼休みも一緒に過ごしていた。朝食を食べてるのは、暖房の聞いた空き教室だ。話してる内容と言えば、カエデやケイタの幼少から今に至るまでの経緯だ。

 

 レンにしてみても新鮮な話題、今だけは自分の使命を忘れてもいいだろう、とコンビニのパンを食べながらカエデの面白可笑しい話を聞いている。

 

 「あーはいはい。もういいよ僕たちの話は。宮寺さん困ってるよ」

 「大丈夫。時間があるなら、聞いてみたい」

 

 久しぶりに、いやもしかしたら初めてかも知れない。これだけの楽しい時間を過ごせたのは。

 

 「あーでも確かに話しすぎたかもね。そうだ、宮寺さんはこの学校来る前は、どんな風に過ごしてたの?お友達は?地元は?」

 

 カエデの質問責めには困惑したが、自分に興味を持ってくれるのは嬉しい。

 

 でも、前に住んでいた所・・・未来とか行ったらまた精神病棟を進められるかも知れない。

 

 ジモトとはなんだろうか?

 

 お友達は・・・居ない・・・とも言えない。

 

 「あ、えと・・・と、友達は、し、シルヴァって言いまして・・・」

 

 到底わかり得ない話をうっかりしてしまいそうだった。

 

 せっかく仲良くしてくれてる人に嘘を話す事が、気が引けてしまっていた。 

 

 だから正直に未来の話を・・・そこでシルヴァの名前を出したが、これは不味い。

 

 シルヴァの事を根掘り葉掘り聞かれては、いよいよ隠せなくなってしまう。

 

 「え!?外人さん!?帰国子女!?きゃーーすごいわよケイタ!宮寺さんって外国のお友達がいるみたいよ」

 「ちょ、痛いって、あ、あああ、待って弁当が溢れる!落とす!」

 

 興奮気味なカエデの暴走に困るケイタ。それを見ながらまた笑うレン。

 

 「で、シルヴァさんてどんな人なの?」

 

 ケイタからも質問が来た。一瞬困ってしまう。なんて答えたらいいのか。一言で言うなれば。

 

 「お、恩人です」※間違いではないです

 「ほー恩人ですか」

 

 急に真剣な表情になるカエデの視線にギクリと視線が震える。

 

 「え、えーとその、どういう形で恩人になったのかな?ぜひ教えてほしいな」

 

 ケイタのフォローが再びレンにチャンスが訪れる。

 

 「その・・・私は親の事情でこっちに引っ越して来てて」

 「うんうん」

 「その、引っ越す前に、私が引っ越す事を、伝えられていなくて、喧嘩しちゃって、えーとえーと」

 

 しどろもどろしていると、昼休みが終わりを告げて、地獄の午後が始まるチャイムが鳴る。

 

 「あ、戻らなきゃ」

 「気になるはなしだけど、また後で聞かせてね!放課後一緒に帰りましょ」

 「また、そうやって勝手に話をすすめる。でも僕も気になるな」

 

 三人でお弁当屋パンの袋を片付けながら、急ぎ目に教室に戻る。

 

 

 (楽しみだな)

 

 レンの期待や楽しみ。そしてなにより初めてのお友達との一緒に帰宅する事は本当に嬉しく思っていた。しかしそれは放課後、崩れることをまだ知るよしもなかった。

 

 「あれ、なにかしらこれ。リング?にしてはでかいわね」

 

 最後に暖房を切って、教室を出ようとしたカエデの足元に蛍光色に光る輪っかを見つける。吸い込まれそうな光のリングは、きっと誰かの忘れ物かも知れない。

 

 (あとで、届けとこっと)

 

 そのリングを持ち出し、カエデは足早に空き教室を後にした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

夕日が早めに沈む放課後に、進級の話題でもちきりの下校する生徒達。もうすぐ三年生は卒業、カエデ達は二年生になる。

 

 冬により暗くなるのも早いのと、近くの街で事件が起きている事から、部活動に所属していない生徒は早めに帰宅することを推奨されている。

 

 部活動の生徒達も本来より1時間早く下校を義務付けられ、暗い時間に帰る時は集団下校を命じられていた。

 

 それをめんどくさがって、ほぼ野名神高等学校は生徒の居ない校舎となっていた。

 

 残っているのは、真面目な生徒会や、規模の大きい吹奏楽部、卒業式に向けて垂れ幕の準備を受け持つ美術部ぐらいだ。

 

 先に下駄箱で待つように命じられたケイタはレンとカエデを待つ。

 

 「遅いなぁ」

 

 落とし物を渡してくると言うカエデ。忘れ物を取りに戻ったレン。

 

 行く先はバラバラだから二人して合流するなんて事はないはずだ。

 

 「そういえば、カエデは何を拾ったんだろ。何か真面目な顔してたけど」

 

 ケイタの知る、真面目なカエデの顔は何か正しい行いをしている時だから、心配はあまりしていない。

 

 宮寺さんの方は、転校してきたばかりだけど流石に教室から下駄箱までの道のりは解るだろう。そして戻ってくるのが遅いということは・・・。

 

 (あ、トイレかな!)

 

 女性が用を足す時は決まって長い。色々ヘアスタイルなり、男には見えない化粧を直したりで時間がかかることをケイタはなんとなく察した。

 

 「失礼、あなた、この学校の人間ですか?」

 

 下駄箱近くの校門の方から声がする。視線をやればそこには、謎・・・棒人間みたいな人から声をかけられる。

 

 その後ろには灰色の奇妙な服を着た、前が見えるのかよく解らないマスクをつけた人たちが後ろから近づいてくる。

 

 「聞こえてんのかーおい」

 

 後ろのリーダー格だろうか。棒人間みたいな存在の後ろからケイタに怒鳴る。

 

 「あ、えーと、僕ですかね」

 「ホッホッホッ脅かしてはいけませんよリーダーさん。失礼いたしました、わたくし、紐の怪人と申します」

 

 空洞の顔部分にはあやとりみたいな目玉が描かれており、それは黒く、中心部分、瞳の部分は赤く染まっている。

 

 「そうです、貴方ですよ」

 「えと、卒業式の準備の仮装ですかね?完成度高いですね・・・あはは」

 「やれやれ、わたくし達を前に冗談を言える余裕はあるそうですね」

 

 静かに、そして丁寧なそぶりは、不気味さを引き立てる。

 

 「どうしますか」

 「目的は不特定多数の瑞々しい女性と聞いてます。殺してよいでしょう」

 

 校門を一瞬で乗り越え、一人の部下と思わしき男がケイタに肉薄する。

 

 「がはっ」

 

 パワードスーツに強化された拳は、素人同然の動きでも十分な威力を発揮する。みぞおちにめり込んだ、拳はケイタを激痛によって悶絶させる。

 

 膝から崩れ落ちた男子生徒を尻目に、紐の怪人が校門を抜けて、ケイタに近づいていく。

 

 「君の名前は?」

 「・・・っ、くぁ・・・」

 

 痛みで腹を抑えるのに精一杯なケイタに、意地悪するような声音で紐の怪人が尋ねる。

 

 「おや、痛くて喋れませんか。それでは・・・死ね」

 「うぐっ・・・」

 

 一瞬で伸びた紐に首を締められ、呼吸が苦しくなっていく。

 

 「・・・何をしているんですか、みなさん」

 

 ケイタの首を締めながら、紐の怪人は自分を取り巻く戦闘員達を睨みつける。

 

 「はやく女性を攫うのです!邪魔立てするなら殺して構いませんよ!」

 

 一気に戦闘員達が散開し、捜索を開始する。

 

 直ぐに学校中からガラスの割れる音や、悲鳴が聞こえ始め、ケイタは絶望する。

 

 ただ一人の戦闘員を除いては、戦闘員達はすぐに作戦に取り掛かったのだろう。

 

 「おっと貴方は駄目です」

 「ひ、紐の怪人様、ど、どうして私はだめなのでしょうか」

 

 首に紐をかけられ、後ろ向きに、引きずられる戦闘員はついさっきケイタを殴った戦闘員だ。

 

 「わたくしは、貴方にこの男を殺せと命じました。でも貴方、躊躇いましたね?」

 「お、お許しを・・・」

 「次は無いですよ。貴方が攫った女性は必ず私の前に差し出しなさい。そしてその人は私の前で殺しなさい」

 (ぐううっ・・・めちゃくちゃだ・・・)

 

 首を締められながら、ケイタは紐の怪人の発言に恐怖する。

 

 「殺しを躊躇する者はこの組織にいらないんですよ。命令に忠実じゃないから貴方達下っ端は捨て駒なんですよ。ですが、わたくしも鬼ではありません、先程も言った様に、貴方の攫った女性が一人でもいれば、その一人をわたくしの前で殺しなさい。そうすれば貴方は、我々の組織に重宝されるでしょう」

 

 非道な提案に戦闘員は動かない。腕はだらんと脱力しており、首はちぎれた綿人形みたいにひしゃ曲がっていた。

 

 (ひいいい、人殺しだああ)

 「返事は・・・ああ、もう絞め殺してしまいましたね。これだから人間は・・・。さぁ、次は貴方の番ですよ」

 (い、嫌だ、死にたくない!)

 

 もはや呼吸はできないぐらい、身体が固まっている。こんな意味不明な死に方なんて。まだ、まともな恋愛も出来ていないのに。良い大学に入って、家族に自慢もしたい。友達と遊んだり、カエデと遊びに言ったり、宮寺さんのお友達の話も聞きたい。

 

 ・・・。まだ、学校にはカエデと宮寺さんがいることを思い出した。

 

 (まだ・・・死にたくない。男だろ。角倉ケイタ!痛くても、苦しくても、彼女達を守れる人間にならなきゃ駄目だろ、動け、僕の身体)

 

 薄れ逝く意識に、最後の気力を振り絞って、この紐みたいな腕を掴む。

 

 「おや、命乞いですか?」

 

 その腕は引っ張ればメジャーみたいに内側に巻いて収納されてるような感覚があった。引っ張ってたるんでも、首を締める力は弱まらない。

 

 できることは、たるんでゆとりが出来た、紐を口に運び、思いっきり噛み付く。

 

 「あだだだだだだだ!」

 

 力が弱まり、拘束が解ける。その一瞬の隙に、自分の鞄をこの紐の怪物に目玉をめがけて力任せにぶん投げる。

 

 「くぎょおおおおおお!!この、人間風情がァ!目が!目が痛い!」

 「やった・・・」

 

 一安心からか腰を抜かしてぺたりと座り込む。もう動けないかもしれない。

 

 「このクソガキ!クソ人間!やはり人間はドクター以外には信用できない!」

 

 暴れ悶える紐の怪物を前にもう呆然とするしかない。

 

 「ちょっとなんの騒ぎよ!」

 

 慌てながらも下駄箱に到着したカエデは校門前で、暴れる・・・棒人間みたいな存在に困惑しながらも、そこに座り込み、呆然としているケイタを見るや、カエデの怒りのボルテージがマックスになった。

 

 「そいつに・・・触るなァあ!!」

 

 腰を深く落とし、ストレートを打ち込む。見たこと無い常識を超えた様な存在に、見事拳を叩き込む。

 

 「あぐっ」

 

 カエデの四肢に紐が絡みつく。

 

 「許さんぞ、絶対に許さんぞクソ人間共!なぶり殺しは辞めだ!先ずは、貴様ら二人を締め殺す!!」

 

 「くっ・・・ああああ」

 「カエデ・・・うわああ」

 

 二人同時に紐で吊るしあげ、首に紐が巻き付く。

 

 だが、そこに大きな破裂音が響く。

 

 一瞬、なんの音かわからなかったが、紐の怪人の目の前で、二人を吊るしてた紐が千切れていた。

 

 「かっ!?何が起こった!?おい、戦闘員!」

 「お探しの人達は、これ?」

 

 凛とした声。そこには明らかに怒りの感情が混ざっていた。

 

 天使が舞い降りる様に現れたレンはぴっちりとしたボディラインが強調されるような、青と白を基準としたスーツに身を包みゆっくりと降下する。戦闘員を纏めた一つの球体を紐怪人の目の前に落とす。落ちた8人の戦闘員は人の形は保っているが、鋭利な物で斬られたり刺された後がある。

 

 学校内で起こった騒ぎを聞きつけて、レンは忘れ物を探すのを中断して来てみれば、見慣れた因縁のある戦闘服、そして女性をさらおうとする悪行、学校の備品の破壊。

 

 ──ゆるさ、ない。

 

 学校中の戦闘員を直ぐに殲滅して回る中、最後の一人の発言、「紐怪人様には勝てないぜ」、を聞いたレンは嫌な予感がしていた。

 

 「あなたに聞くわ。あなたは、ヘルブラッククロスの怪人?」

 「ええ、そうですよ。かわいいおじょうさん。死ね」

 「なっ」

 

 速い。遠距離からミドリコの援護射撃があったのに、もう腕は再生している。その再生した腕に、先程のカエデと同じ様に全身を絡め取られる。

 

 「・・・っ、え、宮寺さん!?」

 「え・・・?」

 

 スーツを着ていれば顔はわからない筈。だが、頭を抑えながらカエデは、今紐怪人によって締められる少女をはっきりとレンであることを確認していた。

 

 「み、宮寺さん・・・?どこに?」

 

 ケイタには目の前の少女が居るのは解っていても、それが宮寺レンであることを見抜けていない。

 

 『レン、抵抗はしないでくれ。上手く狙えない』

 「わかった、から、はやく」

 

 再び空気の弾ける様な音が響く。またもや腕を千切られる。二度目のミドリコの援護射撃だ。

 

 「くぅぅぅ、【紐】は無限じゃないんだぞ・・・!」

 「コレで、終わりよ」

 

 レンはビーム剣を引き抜き、紐怪人の胴体を横に薙ぎ、順番に足、腰、身体と切り刻んで行く。

 

 「くおおおお舐めるなぁぁ!!」

 

 直ぐに再生した紐怪人は再び腕を伸ばす。その伸びた先は、レンではない。

 

 「カエデ!この!カエデを離せ!」

 

 次はカエデが囚われた。ケイタは紐を外そうと、必死に鞄をぶつけるが上手く当たらない。

 

 「ホッホッホッ。最初からこうすればよかったですね・・・」

 「卑怯よ、離して。私のと、友達を・・・離しなさい、ヘルブラッククロス」

 

 捉えたカエデを弄ぶように、レンとケイタに見せびらかす。

 

 適当に振り回しておけば、狙撃されることも無いだろう。

 

 「さぁ!余裕ぶっていられるのもここまでですよおバカさん。今からこの小娘を絞め殺してやりますからね。覚悟なさい」

 

 (また、私は、何も守れないの・・・?)

 

 ゆさゆさと上下に振られ拘束を振り解けない。このままではカエデが殺される。

 

 (くそ、これじゃ上手く狙えない。怪人なんて初めて見たが、本当だったんだな、レン)

 

 ミドリコは学校の隣にある体育館の屋上からスナイプしていた。あんなに揺らされてば、狙える的も狙えない。それどころか、一か八かを試そうにも、すでに怒りの頂点を迎えているあの怪人が、もったいぶるとも思えない。

 

 「くっ、この、離せ!離しっなさいっよ!このバカ!」

 「離すわけ無いでしょう。あとおバカさんは貴女ですよ金髪娘!」

 

 その時、カエデは揺らされながらもある違和感を覚えていた。

 

 (宮寺さんの格好、かっこいいわね。っていうか、なんでこんな揺らされてるのに、あたしってば酔ったりしないのかしら。あ、もしかしてこれは隠された正義のヒーローのソシツってのがあるからなのね?)

 

 なんとなくの違和感を前向きに解釈していたが、それは次の瞬間違うという事がわかった。

 

 ブレザーのポケットからまばゆい閃光が迸る。

 

 (へ、な、何・・・)

 「ぐおおお、またもや目が痛い!」

 「神宮さん・・・?」

 

 「これって・・・あのリング・・・?」

 

 空き教室で拾ったリング。騒ぎが始まったから、預かり所に届けられていなかったリングが、カエデを守るように光を発する。

 

 そして、解かれた拘束から着地すると、ポケットに手を入れる。

  

 「カエデ・・・?」

 

 眩しいはずだが、直視できるリングの光に、カエデは右腕を通す。なんとなくだが、そうしてくれとリングから言われてる様な気がした。

 

 本能でそれを理解したら後は実行に移すだけ。腕に回ったリングは直ぐにカエデの細い手首に、ハマる大きさへと縮小していき、まばゆ閃光はカエデの全身を包み込んでいく。

 

 「まさか、これは・・・神宮さんが・・・適合したの?」

 

 本来であればこの時代に適合できる人間は居なかったはずだ。

 

 そしてあのリングはレンの忘れ物であり、どういうわけかカエデが持っており、そしてリングが適合した。

 

 (よろこんでも、いられない。彼女を戦いに、巻き込んでしまう・・・角倉君も・・・)

 

 閃光が弱まり、徐々にカエデが姿をあらわす。

 

 その姿はレンと同じ様に、ボディラインを強調させ、ヒールのあるブーツに、拳や腕を守るガントレット。白を基準に赤いラインの引かれた戦闘スーツであった。

 

 「あら、何よこの格好・・・悪くないわね」

 「カエデ、君は一体・・・」

 

 意外とあっけらかんとするカエデに、すり寄るケイタ。

 

 「ケイタ、大丈夫よ。あたしがついてるから、宮寺さんと一緒に、あいつ、やっつけちゃうね」

 

 ニシシ、と笑い、ケイタへ背を向ける。向いた方向には紐の怪人。

 

 そのカエデの隣に、レンも並び立つ。

 

 「ごめんなさい。巻き込んじゃって」

 「いーわよ、なんのこっちゃわかんないけど、終わったら話、聞かせてね!」

 

 拳を握ると、ガントレットがスチームを放出し、ギアが回る。

 

 カエデの怒りが、スーツと共に呼応して、赤いラインが色めき立つ。

 

 「あたし達、友達でしょ!」

 

 言うが速いか、行動も速いか、一気に距離をつめるカエデに驚く紐の怪人。

 

 「なっ」

 「よくも学校を、よくもケイタを!そして、よくもあたしの友達を!!!」

 

 顔面を容赦なく殴り飛ばす。いつもの神宮式格闘術では絶対に出ないような力が、出てきてビックリする。吹き飛ばされた紐怪人に追い打ちを掛けるように、一瞬で追いつく。足を掴み大回転を加え、投げ飛ばす。

 

 投げ飛ばした先は、レンが立つ場所。わざとそこに向かって投げ飛ばした。

 

 「ありがとう、神宮さん」

 

 ビームの剣を最大出力に。そして大上段に構え・・・。

 

 「やめ、やめろおおおお」

 「無理。お前は、許さない」

 

 振り下ろす。紐怪人の身体が斜めに斬り裂かれる。眼球だけになってしまい、再生が不可能となった紐怪人。

 

 「クソおおおおお!!」

 

 紐怪人は敗けた。負けること自体はなんでも良い。だが、このまま成果が出ないのでは、自分を作ったドクターミヤコに申し訳が立たない。

 

 「ゲッチュ〜」

 

 羽を生やした、コウモリの様な新手が現れる。そのまま、頭部だけとなった紐の怪人を連れて行く。

 

 「あっこらコラ〜!待ちなさーい!」

 「神宮さん、大丈夫、追いかけなくていい」

 

 怒るカエデを抑えて、レンは上空の新手を睨みつける。

 

 「キキキ・・・仲間が世話になったねぇ。次はこうはいかないよ、このメスガキ」

 

 捨て台詞を吐くと飛び立つ怪人。

 

 「覚えておくのですよ!次こそは、このわたくしが貴女達を恐怖のどんぞこへ送ってやりますからね〜〜〜〜・・・」

 

 紐怪人がまだわめき散らかしているが、その言葉や罵詈雑言はほとんど距離が離れて何も聞こえなかった。

 

 「カエデ・・・」

 

 ケイタが変わり果てたカエデの姿を見て、まじまじと見つめる。特に胸を。

 

 「見るな、バカ」

 

 これから、この二人にはなんと話そうか。レンには隠し事が多すぎる。記憶を消去する道具もあるが・・・。

 

 「一先ず、一件落着だな」

 

 ミドリコがいつの間にか、降りてきていた。

 

 今日は仕事で遅くなるって言っていたはずなのに。どうしてここに来れたのか。

 

 「先ずは、君は神宮財閥のご令嬢、神宮カエデ君だね?私は甘白ミドリコ。彼女の、宮寺レンの親戚・・・ということになっている」

 

 ライフルをケースにしまいながら、ミドリコが更に口を開く。

 

 「先ずは、変身をときたまえ。その姿、結構めだつらしいぞ」

 「解除って願えば、変身は解ける」

 

 レンも続いて言葉を発する。その表情はケイタとカエデを二人、戦いに巻き込んでしまった事に対する大きな罪悪感が色濃く表情に出てきていた。

 

 「もうすぐ、公安が来る。学校には私から説明するから、三人とも、ウラに回っていなさい。私もすぐに行くよ」

 

 ミドリコに促されるまま、カエデは変身を解除する。

 

 「うわ、元のブレザーだ!」

 「驚く所、そこ〜?」

 

 カエデの反応もさっきまでなら面白いと思えていただろう。

 

 「宮寺さん」

 

 戦いに巻き込まれた少女は、今にも押しつぶされそうなレンの手を握る。

 

 「ちょっと話を聞かせて。ゆっくりでいいから」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 学校のウラでは、ミドリコの車が置いてあった。その車に乗せてもらい、三人は重たい空気の中話をしていた。

 

 本当はレンが未来人である事。未来では、紐の怪人を初め多種多様な怪人が存在している事。

 

 そしてその怪人達を仕切る悪の組織・ヘルブラッククロスの事。

 

 その組織は今この街で悪事を働いていること。

 

 ミドリコと一緒に居る理由、話せることは全て。

 

 「え、と、それじゃあ宮寺さんはずっと今日まで一人だったってこと?」

 

 素頓狂な声に驚くが何よりも驚いているのはカエデとケイタの二人だ。

 

 「ごめんなさい、こうなるとは、思ってなかったから・・・」

 「ん、謝らないで宮寺さん。僕たちも死んでたかもしれないし」

 「そうね、正直あたしも、こんな事経験するとは思ってなかったし、最初は生きた心地がしなかったわ」

 「・・・怒らない、の?」

 『なんで?』

 

 また同じタイミングで二人の声が重なる。

 

 「戦いに巻き込まれた〜なんて思わなくていいわよ。怖いとは思ったけど、あたし正直楽しかったし」

 

 あっけらかんとした態度でレンを見つめる。レンは申し訳無さからか、俯いたままだ。

 

 「一人で戦う辛さはあたしにはわかんないわ。だけど、一人で居る事の辛さはあたしは知ってるつもり」

 「僕も、一人でいる怖さは解るよ。家に一人の時って少しこわいよね」

 「ちょっと待ってね、宮寺さん」

 「痛った!なんで殴るの!?」

 

 ズレた回答をしたのはケイタなりの優しさだろうか。それともただの天然ボケなのか。でもなんかムカついたからとりあえず鉄拳制裁だ。

 

 「えーとね。つまりね、あたしにも手伝わせてくれない?」

 「え?」

 

 カエデやケイタから絶交されるのではないかと思っていた。あまりに予想外の提案に顔を上げて、固まるレン。

 

 「あなたのいう最悪な未来、一緒に変えましょ!」

 「で、でも・・・きっと痛いよ、たくさん怪我もしちゃうし、わ、私は、友達が怪我するのなんて、嫌だよ」

 

 声が震える。嬉しい申し出だが、相手は規模が未知数の犯罪組織。普通ならここで退くのが懸命だろう。

 

 だが、神宮カエデは違った。

 

 「怪我?戦うなら当然よ」

 

 カエデの言葉の一つひとつはもう既に覚悟を背負った重みがあった。

 

 一人の戦士としての、決意の言葉だった。

 

 「痛み?そんなの・・・みやでr・・・レンの辛さに比べたら、どうってことないわ」

 「うわ、ちょっと僕泣きそう」

 「なんでよあんたが泣かないでよ」

 

 狭い社内でカエデは隣に座るレンを優しく抱きしめる。

 

 「・・・っ、死んじゃうかもしれないよ・・・」

 「その時は死なないように守ってね。レンの事はあたしが守ってあげるから」

 

 その日、孤独を背負い戦い続けた戦士は一人の少女となる。

 

 もう泣かないと決めていた。だけど、今日だけは。

 

 「うわあ・・・ああああ・・・」

 「辛かったね。今日まで犯罪組織を抑えてくれてありがとう、レン」

 

 車内の空気に耐えられないわけじゃないけど、ケイタは車から出る。

 

 「聞いてたんですか。甘白さん」

 

 車から出て直ぐ、車には見えない位置から背を向けて、上ずった声でミドリコは答える。

 

 「全部聞こえてるさ。あの子の悲痛な叫びは出会ってからずっと。そして、感情がちゃんとある子でよかったなって、思ってるのさ」

 「・・・そうですね」

 「これからも友人で居てやって欲しい」

 「もちろんですよ」

 (もう、年かな。涙腺が緩んでしょうがないや)

 

 三人の女達は戦う事を決意した。冬の夕日はまもなく完全に沈み、夜となる。今日は空気が澄んでいて、きっときれいな夜空がみえるだろう。

 

 「カエデ・・・かえでえええ・・・」

 「ひどい顔してるわよ。あたしたち、今日から親友だね」

 

 孤独の少女は孤独で無くなり、新たに友情を手に入れた。

 

 夜、車に乗りながら、四人はそれぞれの家へと、帰宅していく。その道すがら、カエデはまた新しい提案をする。

 

 「ヘヴンホワイティネス」

 「な、何?それは」

 

 レンの疑問に、カエデはニッと笑う。

 

 「あたし達のチーム名よ。奴らがヘルブラッククロスなら、あたし達は、ヘヴンホワイティネス。これにはいつか白黒つけてやるって意味合いもあるし、レンもミドリコも今まで大変だったんでしょ。あたしが資金面は援助してあげるから、ドーンとやるわよ、どーんと」

 「うん。頼りにしてる、カエデ、ミドリコ」

 「ようやく名前を呼んでくれたな、レン。私は嬉しいよ」

 「僕は?」

 「あんたはなんでもいいわよ。あ、鞄ぶつける係でどう?」

 「あはははは」

 

 かくして。三人の女達は、覚悟が決まった。

 

 宮寺レンは未来からの想いを背負うため。

 神宮カエデは親友の想いを背負うため。

 甘白ミドリコは二人の正義を背負うため。

 

 ヘヴンホワイティネスは新たなる未来へと戦うのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 2022年、2月上旬。

 

 度固化市の住宅街エリアにて、怪人発生を確認したレンとカエデは急ぎ現場へ向かう。

 

 「キキキ・・・ここには若い女がいっぱいだ」

 「ホッホッホッ、存分に暴れるとしましょう」

 

 コウモリの怪人と、紐の怪人が現れ、住宅街はパニックだった。

 

 だが、そこへ。

 

 『そこの怪人止まりなさい!』

 

 かけつけた警察の機動隊からメガホンを借りてパトカーの上でヘヴン1となったカエデが、二体の怪人に指を指す。

 

 『善良な市民とコウモリを代表して、言うけど、あんたらやっぱ流行らないよ。今直ぐ帰ったら?』

 「ふざけた事を抜かしますね・・・」

 

 紐の怪人が怒りでプルプルと震える。

 

 『それじゃあ、干物怪人、今直ぐ、帰りなさい』

 

 もう一人、ヘヴン2となったレンが怪人めがけて辛辣な言葉を発する。

 

 『誰が干物か!』

 

 紐の怪人とコウモリの怪人は相性がよいのかもしれない。

 

 「頼んだぞ、ヘヴンホワイティネス!」

 

 警察がその場を離れる。

 

 レンが左手に構えるビーム剣に合わせて、カエデは右手の拳を剣と同じ方向に、標的の怪人へ向ける。

 

 『油断するなよ、二人とも』

 

 無線からミドリコの声も飛んでくる。

 

 「はっ、誰が油断なんかするかっての!」

 「同意。ミドリコは心配性」

 

 二人して笑い合う。

 

 今日も彼女達は、街の平和を守るヒーローとして、ヘヴンホワイティネスとして戦う。

 

 悪が滅びるその日まで。

 

 彼女達の未来を変える戦いは、こうして幕が開いた。

 

続く




頑張りました。着想があるから構成するのは楽だけど、結構書ききるまでが大変。やっぱこういう投稿をコンスタントにできる人ってすごいなあああ・・・

キャラネタ書きます

宮寺レン
最愛の親友を手に入れた人。実は左利き。
好きな食べ物は、コンビニのパン、コロッケ

神宮カエデ
お転婆さん。格闘技は結構なんでもできる。
得意なのは合気道。好きな食べ物は甘いもの全般。逆に嫌いな者はエビとかカニとか。ちなみに両利き


角倉ケイタ
やや天然タイプ。実はムッツリすけべ。でも勇気とかは土壇場で出せるタイプ。右利き。

甘白ミドリコ
大人の余裕を見せたいが、上手く発動しない為、彼氏ができない。あと最近涙腺がゆるい。右利き(銃は左利きの扱い方)

紐の怪人
当初のコンセプトでは女性タイプだったけど、なんか気がついたらフ○ーザ様みたいになってた。
ちなみに詳しい容姿は棒人間を想像してください。頭には猫耳みたいな角が二本。頭の部分に怪人の瞳

次の投稿もなるべくはやく出せるように頑張ります。
アトラクションでした
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