正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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みなさまこんにちは

この話から物語は大きく動き出します。

かなり長い話になってしまったので、要所で区切るところが多いです。休憩をはさみながら読んでください。


3・俺は未来人じゃないが、未来を知っている

 身体の細胞一つひとつが喜びに震えて、ギンジは自分の手を抑える。

 

 自分の身体は人間のソレではないと、普通の拳銃や刃物、打撃など最早自分にはたいしたダメージにはならない。

 

 日々組織の1怪人として訓練し、実際に犯罪に手も出した。

 

 最早人としての常識等、ギンジには【過去】の物となってしまっていた。

 

 「人を殴るのにも抵抗感が無い?それは君が怪人として成長している証拠だよ。くふふ」

 

 一度の任務を終えると決まって、ドクターミヤコの研究室に呼び出されてメディカルチェックを受けるギンジ。

 

 「怪人としての思考は人の常識なんてものが無いからね」

 

 冷たいのか興味が無いのか、目の前の少女は特に気にしない様な素振りで、椅子にもたれかかる。

 

 「真面目な事はいいことだけど、ギンジ君のやりたいようにしていいからね。くふふ、戦闘員からの評判もいいしね」

 

 でも辛い。悪として認識していたものが、自分自身の行いで音を立てて崩れているのが。

 

 「同じ人間だからよ。戦闘員は殺さないし、できるなら一般市民への攻撃も俺は・・・したくないな」

 

 態度悪く座るギンジの目の前でミヤコは、嬉しそうに微笑む。

 

 「同じ、人間か・・・怪人にしては人の心まで持っている。うん、君はさすがだよ、ギンジ君」

 「別に。これぐらい普通だろ」

 

 どうしてもミヤコの嬉しそうな笑顔を見ると、照れてしまうのかギンジはそっぽを向く。

 

 「じゃあ、俺はもう行くぜ。もういいだろ、ミヤコ」

 

 メディカルチェックを済ませると、ギンジは足早に研究室から出ていく。

 

 悪の組織の怪人だからこそ、彼は裏切ってでもこの組織への謀反を企てていた。本当ならば自分の知っている正義とは、ヘヴンホワイティネスが未来を守る為の戦いを言うのだから。

 

 だけど。どうしても。

 

 ギンジは自分に優しくしてくれる怪人仲間や、自分へ好意を寄せるドクターミヤコと接していると調子が狂う。

 

 時期は3月。そろそろ日本の寒い冬も開けて、春の陽気が日本中を包み込む。どんなところでも出会いと別れが生まれる季節だろう。

 

 だが、一人で抜けてどうなる。ヘヴンホワイティネスと共に戦えると言うのも確定したわけではない。その上、裏切ったとして失敗したらどうなるかは想像に難くない。

 

 「あ、ギンジさん!お疲れ様です」

 「ギンジ様、今日の作戦も大成功ですね」

 「ギンジの兄貴、今度も頼まぁ」

 

 戦闘員達が廊下を歩くギンジを見つけると、それぞれ労いの言葉を送ってくれる。生きた屍であったギンジにはこれが何よりも嬉しかった。

 

 人の心の暖かさはきっと誰でも持っている。それはギンジでもミヤコでも、きっとあの総統とかでもそうだろう。

 

 その基準がヘルブラッククロスにおいては、犯罪行為も真面目に行えばまた違った暖かさがギンジを包む。

 

 でもそんな事は自分の感情だけの話である。

 

 裏切って今直ぐヘヴンホワイティネスに寝返りたい。でも自分を慕う部下達を裏切りたくない。

 

 板挟みの状態が非常にもどかしい。

 

 「は〜誰か味方になってくんねぇかな〜」

 

 ギンジのため息と同時に出た言葉は、アジトの廊下の静寂に飲み込まれていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 翌日。

 

 朝日がまだ眩しい時間に、アジトへ来客が。

 

 大幹部の一人が他県での任務を終えて、ヘルブラッククロスのアジトに帰還するらしい。

 

 初顔合わせだからって、オーク怪人に俺はたたき起こされた。

 

 そんでアジトの正面玄関でお出迎えの為に立たされている。

 

 周りを見渡せば、マントをつけた上級戦闘員や怪人の面々。特に怪人は俺が知るそうそうたるメンツだ。横並びにされてるのは、紐の怪人、コウモリ怪人、タコ怪人。

 

 俺の近くでミヤコを囲む様に待機を命じられてるのは、オーク怪人、触手怪人、犬の怪人。

 

 ミヤコは俺と目が合うと嬉しそうにはにかむ。やめろ・・・俺をそんな初恋の相手みたいに見るな。なまじ顔が可愛いから一瞬本気になりかねん。

 

 でもなんか研究中に事故でも起こしたのか、左目に眼帯のガーゼをつけていた。昨日までそんなもんつけてなかったが・・・。ま、いいか。後で聞いてみよう。

 

 温かいが日差しがガラスを通して俺たちに降り注ぐ。

 

 「まだ眠りたいぜ」

 「ギンジさん、そうは言っても我々は幹部じゃないし、無理ですよ」

 

 俺の隣で大幹部に一人は付いている護衛の部下、紫が伸びをしながら眠そうな声を出す。こいつはミヤコの側近の戦闘員だ。

 

 一瞬寝そうになりながらも、春のポカポカ感がいい感じに俺の身体を温める。これなら布団がなくても外で寝れそうだぜ。

 

 さて、大幹部だが俺が知る限り、このゲームにおける大幹部は設定上は何人かいるが、実際にゲーム内に登場するのは一人だけだ。

 

 鈴村ミヤコはドクターミヤコとして名前だけの登場。だが存在自体は冷酷非道な性格で、シルエットだけでの登場人物としてヘヴンホワイティネスを様々な兵器、怪人、作戦で苦しめた。

 

 結構【お世話】になったが、26周もゲーム攻略をしていると段々、神宮カエデや、宮寺レン、甘白ミドリコが可愛そうにもなってくる。

 

 で、もう一人。こいつは俺の予想が当たっているのなら、堕とす対象のキャラクターのはず。

 

 「なぁ、紫」

 「なんだい、ギンジさん」

 「今日来る大幹部って、もしかして──」

 「ああ、そのまさかだ。情報が速いな」

 「あ、ああ。一応な、情報管理?とか大事だしよ、さっき確認しといたんだ、へへへ」

 

 くっそー話を逸らしちまった。

 

 「やはりギンジさんはすごいな。オークの奴が目にかけてて、ドクターがべた褒めするのも解るような気がするよ」

 「ハハハ、ソリャドーモ」

 

 こういうトコだぞヘルブラッククロス。またそうやって俺の自尊心を高く評価してくれる。おかげでプライドが折れない。イイソシキダナー。

 

 いや違う。そうじゃない。

 

 「あんまりおしゃべりはするなよ、ミヤコ派」

 

 別の大幹部のグループから注意を受ける。はーいさーせんさーせん。

 

 確認は取れなかったが俺の予想しているのが、ゲーム本編に登場するあの大幹部なら、組織を抜けるのがドンドン難しい事になりそうだ。

 

 いっそここで暴れようかとも思うが、一瞬でお陀仏になりそうだからやめとこう。俺はまだ死ぬわけにはいかない。いや一度死んでるんだけど。

 

 (あ〜マジで味方がほしい)

 

 俺の野望を知ったらきっとミヤコは怒るのかな。オークはきっとぶん殴りそうだし、困ったな。あいつ強いって設定だから今の俺が戦っても、きっと勝てないだろうな。

 

 そうこうしてたら、アジトの入り口の大門が開く。

 

 ガレージみたいなシャッターが開くと、温かい陽気が漏れ出ていくのを感じる。

 

 (やっぱりか)

 

 俺の視界に入ったのは、へそ出しのラバースーツの上に黄金のショルダー、黄金のレガース。そして背中には折りたたみできるコレまた黄金の武器、刀。

 

 つまらなさそうな表情に整った容姿。俺の〈大好きな人たち〉の一人・・・。

 

 大幹部リコニス。 

 

 組織への命令違反が多い事で有名で、ゲーム中じゃ腫れ物を触る様な扱いを受けていたのに、ここじゃお出迎えされる程偉いんだな。

 

 「はぁ、わざわざお出迎え、ご苦労さま。暇なの?」

 

 歓迎と言ったムードではないことは俺もわかる。特にミヤコとオークは敵意の視線を向けていた。

 

 「で、私の新しい部下になるっていう怪人はどれ?そこの棒人間?もしかしてそのチワワみたいな奴?」

 『リコニス。先ずは遠征任務ご苦労。ないとは思うが、貴様に暴れられても困るからな、警戒態勢で出迎えさせてもらった』

 

 けだるそうな大幹部様に声をかけたのは、モニターから見ていた総統様。なんかいつも姿見せないなこいつ。

 

 「別に暴れたりなんかしないですー。今はね」

 

 最後の一言に思わず戦闘員達が背筋を伸ばす。それに合わせてオークもミヤコの前に立つように警戒の姿勢を取る。

 

 流石に他の大幹部もいるしここでバトらないよね?ね?

 

 「立ち話なんかしたくないんだよね〜、さっさと会議室行かない?」

 

 リコニスの提案は大幹部達のヘイトを買うのか、どんどん睨みつけが激しくなっていく。

 

 アジトのエントランスの扉が開くと、誰よりも早くリコニスが入っていく。

 

 大丈夫なのか、今の所腫れ物みたいな扱いにはなってるけど・・・。

 

 まだ、この時俺は予想もしていなかった。

 

 この時点でこの先の未来が、ゲームの通りに進んでいないことを、緩やかに未来が変わっていることを。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 リコニスが帰還し、会議室で行われていたのはリコニスを始めとした大幹部達の報告会。そこでは2月に行われた略奪の金額や物資の多さを競う様な無駄な話をしていた。

 

 (退屈)

 

 自分の用意された椅子に態度悪く座りながら、心の中で悪態をつく。

 

 自分が今こんな所で座ってるのがつまんなくてしょうがない。

 

 本当なら今組織の目的を妨害してくる噂の、ヘヴンホワイティネスと戦いたい。すぐに見つけて一生消えないトラウマでも植え付けてやりたい。

 

 加虐心が肌を震わす。怪人でも手に追えないような強敵と戦えるなら、どんな手を使ってでもリコニスは実行に移すだろう。

 

 「くふふ、じゃあ最後はわたしですね」

 

 リコニスの視界に写るのは自分より間違いなく年下の、ドクターミヤコ。裕福そうな家庭で育ったのだろうか、初めて会ったときから彼女の事が気に入らない。

 

 「今回も怪人の発表ですが、報告はふたつあります」

 

 会場の真ん中でミヤコは、左目につけたガーゼを取る。

 

 オーク怪人が手元のカメラを持ちながら撮影し始める。その映像は各大幹部のデスクのモニターに送られる。ミヤコの顔がドアップに映される。

 

 その彼女の左目は眼球は黒く、瞳は赤く染まっていた。

 

 「ご覧ください皆様。わたしは怪人の細胞を人間に定着させる事に成功しました」

 

 この発表には流石にリコニスも驚いた。人間には作用せず、かわりに死をもたらす怪人の細胞。それを自分に打ち込んだのか。それとも細胞を改造させたのだろうか。

 

 いずれにしてもこの怪人化の成功に、周りの怪人達が、大幹部達が、戦闘員も、あの総統でさえミヤコに向けて大きな拍手を送っている。

 

 「生死の境をさまよいましたが、わたしはついに人間をそのまま怪人にできる技術への発展を確立させつつあります」

 

 撮影が終わり、全員の視線がミヤコに向けられる。

 

 「ここにいる改造人間怪人、わたしのおっt・・・」

 

 ・・・。少しの沈黙。慌てたようにミヤコは言い直す。

 

 「わたしの最高傑作、佐久間ギンジに適合の後に、定着した細胞をわたしに打ち込みました。これにより、毎日吐血、頭痛、腹痛などありましたが、こうして怪人化することができました」

 (ふ〜ん。佐久間ギンジ、ね)

 

 リコニスの視線は演説するミヤコよりも、ミヤコ派の席にいるツーブロック金髪の男に視線を合わせる。

 

 (??)

 

 疑問が走る。どうみてもあれはただの人間の様に見えた。だが、あれがミヤコの最高傑作だと言う。

 

 (面白そ・・・少しからかってみようかな)

 

 リコニスの言う、からかうは、戦闘をふっかける、という意味合いも含まれている。もし戦ったとして、リコニスが勝てばミヤコへの大きな嫌がらせにもなるからだ。

 

 危険。自分の中の何かが、ドクターミヤコに対する危険信号を送る。

 

 (えええ〜!もしかして最近のメディカルチェックってその意味合いもあったのか・・・?)

 

 一方のギンジはまさかの展開に驚愕していた。リコニスから見たギンジの表情は特に変わっていないように見えていた。

 

 (あの佇まい、学校にいるヤンキー崩れそのものじゃない。あれのどこが最高傑作なのかしら)

 

 退屈そうな彼女の瞳には、興味の塊となった男だけが釘付けになっていた。

 

 「さて、次のご報告になります。同じ様に、この改良された細胞を使い、健康状態の良かった善良な一般市民を使った実験をしました」

 

 この報告はもはやミヤコの独壇場。サイズの合っていない白衣をパタパタとはためかせ、次々と報告を行う。

 

 「この実験によって産まれたのは新たな次元を超えた怪人です。今までの怪人達は言うなれば、フェーズ1。今から紹介する新たな怪人は、怪人の細胞・改を打ち込んだ新種、フェーズ2です!」

 

 どよめきの中、オークがコンテナを開ける。

 

 そこから現れたのは、赤い髪に、灰色の顔。炎の様なゆらめきを携え、右手にはレールガンを彷彿とさえる砲頭が腕と同化し、パイプに繋がれたシリンダーと肩が融合した、圧倒的な人間感を残しつつも機械的、そして怪人的な印象を思わせる見た目をしていた。

 

 「バーナーの怪人です」

 

 圧倒的な程の狂気を解き放つミヤコの表情と新たな戦力増強により、大幹部達が先程よりも大きな拍手を送る。

 

 『ほほう。素晴らしいものだ。ドクターミヤコ、怪人の細胞の改良を褒め称えよう。早く人間に完全適合する怪人の細胞を作るのだ』

 「もちろんでございます総統閣下。未だこのDNAを量産できるのがわたし、ミヤコとそこのギンジ、そしてこのバーナーの怪人しか居ません。フェーズ2になりえる鍵は佐久間ギンジだとわたしは思っています」

 

 最後の方は最早ミヤコがギンジを自慢したいだけの報告だが、総統はモニターの奥でウムウムとうなずくばかり。

 

 大幹部会が終わりに近づくと、リコニスの姿はもう既になく、ミヤコ派達も撤収にまわる。

 

 「良〜ぃ事思いついちゃった〜」

 

 柄にもなくスキップしながら会場を抜けたリコニス。

 

 あんなに面白そうな物が2つもある。しばらくの退屈しのぎにはもってこいな状況と展開作りに、リコニスは思考を巡らせる。

 

 会場では大幹部達が部下を引き連れ離れて始める中、左目が怪人となったミヤコがギンジに近寄る。

 

 「ね?わたし達相思相愛って言ったでしょ?」

 「どゆことよ。なんで俺の細胞使ってんの!?っていうかメディカルチェックしてたのって・・・」

 「くふふ、君が初めて怪人になった時から既にわたしに打ち込んでたよ」

 「おいおいミヤコよぉ、それじゃあメディカルチェックはなんの為にやってたんだよ」

 

 ギンジの問いかけに少女の顔で頬を赤らめる。

 

 「君の身体に触りたかったから・・・きゃーー言っちゃった」

 「ついに前進しましたね、チワワは感激です」

 

 犬の怪人がギンジとミヤコの会話に、ワンワンと首を縦に振る。

 

 「身体触ったからって前進するかーー!!」

 

 ギンジの今の年齢と精神年齢的にも、未成年との恋愛は一発アウトだ。だがそんな事言った所で、ここは悪の組織。外の常識は一切通用しないだろう。

 

 前途多難な状況に再びギンジはため息を付く。

 

 (誰か・・・助けてくれーーーー)

 

 そんなギンジ達を後ろで見つめるバーナーの怪人。

 

 (俺様も喋りたいぜ)

 

 命令が無いから今は黙っているだけ。撤収しながらも少しだけ、ここのメンバーは楽しそうだと、バーナーの怪人は期待を膨らませていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「そっか〜カエデとレンちゃんはそんな仲良しになるほど遊んでるんだね〜」

 

 昼の繁華街。

 

 カエデ達はいつもの三人ではなく、女子トークをするため、高校からの友達である菊沢トモカをケイタと入れ替え、レンを連れてショッピングモール・アモーレの喫茶店で昼食を取っていた。

 

 今はレンもカエデも正義のヒーローとして活躍しているが、その実態を知る者は角倉ケイタのみ。

 

 スポーティな印象をもたせるトモカの小麦色の肌は、それだけで健康な事を印象つけるのにはピッタリだ。

 

 今日初めて合うものの、レンも会話は得意じゃない。だけどゆっくり喋ってくれるトモカの喋り方と優しい性格は、人見知りしやすいレンには相性が良かった。

 

 カエデの交友関係の広がりの一つにまたもや増えた、宮寺レンという少女が気になってコンタクトえを取ったのだ。

 

 「と、トモカ・・・さんとも、仲良くできるなら、これからも、お昼ごはんを一緒に、食べたいな」

 「トモカでいいよ〜。うち、同学年だから、さん付けじゃなくてね〜いいから」

 「うん。ありがとう」

 「あ、レンちゃんもカエデちゃんもさ〜聞きたい事あるんだけど聞いていい?」

 

 トモカの会話は決まってスポーツの話だと、カエデ聞かされていたレンは、話を合わせられるようにソフトボールと野球の知識は一応勉強してきた。

 

 昨日は野球のゲームでミドリコとずっと遊んでいて、その面白さや野球、スポーツの奥深さに思わず夜ふかししてしまいおかげで今日は寝坊しかけた。

  

 「カエデちゃんとレンちゃんはさ〜ケイタ君の事、恋愛感情に入ってるの?」

 「ケイタ?ないない。付き合いは長いけど、あたしはあんまりかな」

 「れ、レンアイカンジョウって何・・・?」

 

 予想外のトモカの会話にまた新しい過去時代の言葉を覚えたレン。

 

 「レン、恋愛感情ってのはね、人を好きになるってことよ」

 「じゃあ、私から見た、カエデとトモカだね」

 「ケイタ君はいないんだね〜」

 「この場合、外すのが、面白い」

 「さすが、お笑いを解ってきたわね、レン」

 

 本当に他愛ない会話。これで戦いが無ければ彼女達は本当の意味で幸せだろう。

 

 3月に入ってからヘルブラッククロスの犯罪が少し減ってきている。

 

 先月もコウモリの怪人を再起不能にし、タコ怪人は茹でて、触手怪人は二人がかりで捻じ切ってやった。いつも倒し切るまでいかないがおおよその主力級の怪人はなんとか倒せている。ミドリコの援護もあり、三人は今日まで無事である。

 

 ただ一人の怪人との戦闘を除いては。

 

 軍服を身に纏う豚顔の怪人には苦戦させられた。見た目通りのパワー型なのに力押しだけに頼らず、地形、物を使う、はてには車を投げつけてきたり、だまし討ちによる絡め手の多さに、2vs1でもヘヴンホワイティネスは苦戦を毎回強いられる。ミドリコの射撃にも察知できる強敵でもう何度かは出くわしている。

 

 常に次の一手を考えて戦う。怪人ごときがそんな余裕を持っているのがなんとも悔しい。負けはしなくとも辛酸を舐めさせられた気分だ。

 

 そんな気分でも犯罪が減る事は喜ばしい。カエデとレンは春休みを満喫して、次の戦いへの心の栄養を取りに来ていた。

 

 「二人共〜大丈夫?なんかつらそうだけど」

 「え?ああ、別に。ちょっと食べ過ぎちゃったかも」

 「同意。ここのケーキは美味しい」

 

 取ってつけた様な嘘だが、本当の事は絶対に話せない。

 

 偽りでも笑顔で取り繕う。その笑顔は今の所見抜かれては居ない。

 

 (なるほど。嘘をつかなきゃいけないのは辛いわね。こんな事の積み重ねをずっと一人でやってきたなんて、レンはやっぱ強いわ)

 (カエデも直ぐに順応して、対応力を完璧に発揮してる。ヘヴンスーツの適合率が、私より高いのも納得)

 

 ヘヴンスーツとはレンが未来から持ってきた武装。リングをもとにスーツに変身できる。命名は神宮カエデだ。

 

 「そう?うちはもっと食べられるよ〜」

 「くっ・・・うらやましい」

 「私もまだ、食べたい。こーひーぜりーが美味しい」

 「好きなだけ食べなさいな。あたしはもう無理!お腹いっぱい!」

 

 未来にはコンビニはおろか、米もなかったらしい。甘いものも無く、いつも水とパンと野菜だけ。

 

 それ故にミドリコに食べさせて貰った惣菜のコロッケは、レンに食事における歴史を変えさせた。カエデと遊びに行くようになっても、甘い食べ物はレンの欲望を進化させつづけている。

 

 事情を知っているからこそ、レンにそれ以上はやめとけとは言えない。

 

 せめて今だけは親友に幸せな時間を楽しんでいて欲しい。レンの辛さも背負うと決めたからには、これぐらいは令嬢の寛大な心使いで、不安無く食べさせたい。

 

 「あ、じゃあさ〜スポーツでは・・・」

 

 トモカのスポーツ話が始まった。これは長くなると思い、カエデは覚悟を、レンは期待を乗せた瞳で話が盛り上がっていく。

 

 女子トークはまだまだ終わりそうにない。

 

 家族連れや、カップル等で人混みがいつもより多い春休み。

 

 ショッピングモール・アモーレに続く、繁華街では不穏な影が近づきつつあった。

 

 「正義とは・・・なんだ・・・」

 

 バーナーの怪人の表情は死んでいた。

 

 「悪とはなんだ・・・」

 

 右手の砲頭に熱エネルギーを溜め込み、アモーレに向けて構える。

 

 「その答えを、俺様に教えてもらおう・・・佐久間ギンジ、ドクターミヤコ!!」

 

 破壊の一撃とも言える業火球がアモーレに直撃する。一瞬の静寂と大爆発に周りの人間は恐怖と共に、またたく間にパニックとなる。

 

 「・・・俺様は【どちら】だ!」

 

 怪人の出現を一般市民が認知し、さらに恐怖でパニックになる。

 

 さらに砲頭を構え空に向ける。業火球を何発も発射し、雄叫びを挙げる。

 

 「さぁ、来い。何が正義で、何が悪だ・・・!」

  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 時間は朝まで遡る。

 

 ドクターミヤコが用意した戦闘訓練場では、勤務態度の悪い戦闘員を相手に怪人の実践訓練と称した処刑が行われていた。

 

 バーナーの怪人の摂氏1000を超える炎のブレスは、調子に乗った戦闘員を一瞬で消し炭に変える。パワースーツも纏めて焼き尽くす業火を操るその力は、きっとあのヘヴンホワイティネスでも敵わないだろう。

 

 「俺様は合格か?ドクターミヤコ」

 

 防火服を身に着けずその場に立ち尽くすミヤコの表情は、憧れの人を見ているような輝く笑顔であった。

 

 「おいおいマジかよ・・・」

 

 その隣で丁度良い高さの瓦礫に、ギンジが腰掛けながらバーナー怪人の凄さに息を飲む。

 

 「文句なしの1万点だよ、バーナー。くふふ」

 

 この戦闘員達は全てミヤコにセクハラしようとして、オーク怪人に連れてこられた者達だ。かわいいからしょうがない、は通用しない。ここでは大幹部が戦闘員より格下に見られるような行動を発見した場合、容赦なく制裁を与えていいのだ。

 

 それはたとえ命を失う様なことであっても、問題なく行われる。

 

 「じゃあ、フェーズ2同士、少しお話しててよ。ギンジ君は君の先輩だから仲良くしてね」

 

 後処理にでも入るのかその場を去るミヤコ。どことなくうきうき気分なミヤコの背中は、年相応の子供の様なそれとまるでかわらない。

 

 「俺様はこれが訓練とは思えないな」

 「まぁ、そりゃそうだろうな。こんなの一方的な虐殺だぁな」

 

 疑問はあったのかバーナーの怪人の表情は曇りがあった。

 

 「教えてほしい、ギンジ」

 「ん?俺に答えられるならなんでも」

 「俺様の行った事は正しいことなのか・・・?」

 「・・・」

 

 例え処分の対象であっても、同じ組織の部下を手にかけた事は、バーナーの怪人の心に何か引っかかるモノがあった。

 

 右手のレールガンを撫でながら、怪人は悲しいいとも取れる複雑な面持ちだ。

 

 「俺は・・・これは間違っていると思う」

 

 ギンジに残る人間の部分で訴える。それは人間らしさの無い顔からは簡単に出るモノじゃない。

 

 「ならば、どうすれば良かった?俺様は怪人だが、与えられた知識にはこんな事・・・当たり前ではなかった。ここは何かがおかしいのか?」

 「まぁ、悪の組織だしな。ここ」

 

 バーナーの怪人の苦悶にギンジは冷静に答える。もちろん戦闘員は人間だが、失った人間の部分ではそれはそれとして考える事もできてしまう。

 

 「ここが悪の組織・・・?おかしい事を言うんだな。俺様の行いは正義ではなかったのか」

 

 内部でこんな事をやらされれば、ギンジだってきっと同じ事を考えてたかも知れない。元々ヘルブラッククロスに所属するつもりはなかったのだが。

 

 「ここが悪ならば、教えて欲しい。正義とはなんだ」

 

 灰色の皮膚から目立つ赤色の髪。そこから覗かせる怪人特有の赤い瞳が真っ直ぐ真摯にギンジを見据える。

 

 「正義ってのは・・・」

 

 答えが出ない。ギンジが知る全てを話しては、きっと激突が生じる。

 

 「わかんねぇ・・・わかんねぇ、けど、この組織が行っている行為がこの世界において正しいことではない、俺は思ってる」

 

 この答えが今の会話において正解か、それすらも解らない。だけど、認めたくない。自分の中の人間が、増えつつある内側の悪に蝕まれて、いずれなくなってしまうのが。

 

 そしてこのまま行動に移せずにここに残り続けていれば、先ず間違いなくギンジの望む目的も達成できなくなる。

 

 「俺様の・・・記憶にはドクターミヤコを初め、お前らしかいない。居ないはずなのに・・・何かが頭の中で、俺様にうったえて来るんだ」

 

 その言葉を聞くと考え込むギンジ。

 

 (確かこいつのキャラ設定は・・・)

 

 26周したゲームの情報はイベントを初めするする出てくる。

 

 バーナーの怪人は組織の作り出した唯一のフェーズ2。その強さは圧倒的なのは確かだが、開発に回せるリソースが足りず今回限りの登場。

 

 3月9日に繁華街のショッピングモールを襲い、ヘヴンホワイティネスの友人、菊沢トモカを誘拐する。刺し違えてでも助けると誓った神宮カエデと交戦し、激戦の後に敗北。

 

 菊沢トモカを救出することができなかったカエデは、自責の念に苦しむ・・・。

 

 非常に目的や、命令に忠実で、強者と戦う事を自身の生きがいとしている。

 

 (たしか、こんなだったな)

 

 命令に忠実なのは確かだが、目の前の怪人は今ゲームの神宮カエデと同様自責の念、それと疑惑に頭を悩ましている。

 

 

 この時点でもう何かがおかしい。

 

 (・・・何かこいつの関する情報は抜けてないか?)

 

 ゲームのバーナー怪人をよく思い出す。今ギンジの視界に入るこの怪人と同じだが、どうみてもバーナー怪人の様子がおかしい。こんな冷静に物事を考えられる奴じゃない。

 

 ましてや悩んでいるのは、命と正義と悪の違いだ。

 

 ・・・。

 

 (あ・・・こいつ、ゲームの中じゃ、人間を使って造られてないぞ)

 

 少しの沈黙に、ギンジは会議室でミヤコの発言を思い出す。

 

 『さて、次のご報告になります。同じ様に、この改良された細胞を使い、健康状態の良かった【善良な一般市民を使った】実験をしました』

 

 そう、確かにこう言っていた。

 

 (まさか、人間を使った怪人には自我が最初からあるのか・・・?)

 

 そう思うと、フェーズ1と呼ばれる怪人達には、いくつか共通点がある。

 

 1、全てドクターミヤコが開発。

 2、怪人達はミヤコへまるで母親へ接するような態度が多い

 3、会話はできても、命令しか聴かない

 4、ほとんどの場合、【自分】がない。言われたことしかやらない

 

 対してフェーズ2のギンジとバーナーの怪人は最初から考え、悩み、行動にムラがあるのも納得が行く。

 

 ──きっと、それだけじゃない。人の心が俺たちにはあるんだ。

 

 この怪人はきっとこの世界における【素材】で造られたから、不完全体とも言うべきか、心が未完成なのかもしれない。

 

 「教えて欲しい、俺様はなんなんだ」

 「お前は、きっと人間だよ」

 

 佐久間ギンジは、この世界におけるいわゆるレアモノ、とミヤコはかつて言っていた。特別な何かを持っているのではなく、元より【この世界】の人間じゃない。わずかに違う遺伝子配列の資料を過去に見せて貰ったことがあるが、それはきっとそういうことなのだろう。

 

 【素材】が違えば完成品の姿も変わる。ギンジとバーナーの怪人の違いはそこにあった。

 

 その姿は【心】として結果を出したのだろう。

 

 「人間・・・?この姿が、か?」

 「この行動が間違ったことなのかも知れないと悩むならお前は人間だよ。人を殺すのに躊躇うのも人間の証拠だぜ。そうやって悩むのもお前の中の人間が・・・こう、なんだ、胸にあるんだよ。人間が」

 「・・・」

 

 ギンジの言葉はよく理解できなかった。だけど、それは頭の中ではだ。

 

 バーナー怪人の胸の中にある人間とやらが、苦しくなっていく。締め付けるとも、押されるとも違う、見えない何かがギュッと押し寄せる。

 

 きっと心は、その言葉を理解できていたのかも知れない。

 

 「・・・ギンジ、教えて欲しい。俺様は、そんな事を誰からも教えてくれなかった。昨日、目が冷めてからドクターミヤコもそこまでの事を教えてくれなかった」

 

 淡々とした口調で表情は暗いまま、怪人は言葉をつなげていく。

 

 「俺様達が話に聞いている任務は、この狭い世界における悪い事なのか?」

 「・・・悪い、ことだぜ」

 

 ギンジは教えて欲しいと言われた事は自分の知る範囲でなんでも答えた。悪とは?人間とは?心とは?怪人とは?家族とは?食事とは?

 

 そして正義とは?

 

 「正義ってのはな、俺の考えだが例えば、さっき教えた家族ってあるだろ?それには子供がいるんだ。子供は親が居なきゃ何もできねぇ。じゃあ、悪が親を殺したらどうなると思うよ」

 「・・・」

 

 別に殺さなくてもいい。親と子供が離れ離れになるならなんでもいい。

 

 「つまり、話に聞く任務は悪いことなんだな・・・?」

 「おう、そうだ」

 「じゃあ、ギンジはどうしてここにいるんだ?」

 

 ・・・。今なら、上手く答えが出るかも知れない。

 

 「俺は、正義の為に戦いから、ここに居る。本当は、こんな地獄みたいな場所、居たくないんだ」

 

 たとえ決心が鈍る程の喝采を貰っても、ギンジの気持ちは変わらない。命を救ってくれたミヤコには恩義こそあれど、このまま悪に身を委ねることだけは決してしない。

 

 「ブヒ、盛り上がっているな」

 

 二人が話す中、オークの怪人が現れる。

 

 「バーナー怪人。ドクターがお呼びだ。研究室まで行ってくるんだ」

 「了解した・・・」

 

 少し寂しそうな顔をしながらもバーナーの怪人は、ギンジの横を通り抜けて行く。

 

 「今の、内緒にしててくれよ、恥ずかしいからさ」

 「約束しよう」

 

 二人して笑うと、直ぐにその場を去る。

 

 「何を話していたんだ?」

 「なーに、怪人としての教授をしていt」

 

 オークの怪人の表情はいつもみたいに、仲間に向ける優しい表情じゃない。

 

 敵を発見し、今にも攻撃してきそうな顔だ。それを見たからギンジは言葉が出ない。

 

 「お前を目にかけているのは、ドクターミヤコの最高傑作の怪人だからではない。お前のその眼が、不穏な空気を見ているからだ」

 

 言葉に覇気を感じる。裏切りを察知されたのか。

 

 「話は全て聞いている。この組織を裏切っても、ドクターミヤコのご期待だけは裏切るなよ・・・」

 

 不味い。この状況、そしてバレた相手が悪すぎる。

 

 「あ、ああ。肝に命じておくよ」

 「フン。お前を孤立させる為に、バーナーの怪人にはドクターが呼んでいると言ったが、実はお前もドクターに呼ばれている。ついて来い」

 

 つまりはうまいこと状況を利用してきたのだ。

 

 (ん・・・?命令は聞いているが、こんな俺達の会話を盗み聴きする様な真似、オーク怪人はできたのか・・・?)

 

 一つ、新たな仮設がギンジの頭の中に浮かび上がる。

 

 怪人達は造られてから生活をする期間が長いほど、成長していくのではないかと。

 

 もしそうならおそらくオーク怪人は・・・。

 

 (こいつもフェーズ2なのか・・・?)

 

 とことんギンジを追い詰める状況が作られて行き、再びあの言葉をギンジは脳内で叫ぶ。

 

 (誰か助けてくれーーーーーー!!)

 

 先にギンジやオーク怪人よりドクターの研究室に向かう途中、バーナーの怪人は廊下に寄りかかり、腕組みをしつつ、まるでバーナーの怪人を待っていた、といった態度の女性と眼が合う。

 

 へそ出しのラバースーツに豊満なスタイルは、きっとこの組織内部に居る男性戦闘員を虜にすることだろう。

 

 「ハーイ。待ってたよ、フェーズ2の着火マン」

 

 大幹部リコニスが俺様になんの用だろうか。バーナー怪人は特に警戒せずに彼女に近寄る。

 

 「正義と悪の違いは知れた?理解できた?楽しいお勉強ができたね?」

 「・・・リコニス様、貴女も俺様にわからないことを教えてくれるのか?」

 「うんうん、教えてあげるよ〜」

 

 リコニスは中腰の姿勢で見上げる。上目遣いで、きっと人間相手にも欲情するであろう異形の怪人に、妖艶な笑みを浮かべる。

 

 「私が教えてあげるのは、本当の正義、本当の悪・・・に、ついてね」

 「・・・ぜひ知りたいな。ギンジからは教えてもらっていない事だ」

 

 食いついた。リコニスは悪い顔をしているだろう。言うなれば、人の皮をかぶった悪魔・・・その表現が正しい。

 

 「歩きながら話しましょ。ドクターの研究室はこっちよ」

 「こっちを左じゃないのか?」

 「こっちの方が近道なのよ」

 

 ニヤニヤと。三日月が笑う。

 

 「それじゃあ、本当の正義ってね、私達のことなのよ。ヘルブラッククロスの目的は知っている?」

 「この国を転覆させる事・・・と聞いている。だが、それはギンジが悪いことだと」

 

 強気な口調だが、どこか幼子の様な言い分がリコニスの加虐心に、火をつけて大きく燃え広がる。

 

 「そう。でもそれはいわゆるここのお外のお話。アジトの外は危険がいっぱいなのよ。きっとギンジちゃんは、わかりやすい例えで教えてくれたのね」

 「・・・外の世界・・・」

 

 新たな言葉の意味を知りたいが、リコニスはバーナーの怪人の質問をやや大きな声音で遮る。

 

 「でも、その例えを反転させて教えちゃうのはいけないことなのよ」

 

 いけない事。嘘も悪の一つというのは、捉え方かもしれないが、リコニスの話す言葉の一つ一つがギンジよりも、黙って聞いていられる程の簡単でわかりやすい説明。

 

 「本当の正義は、ヘルブラッククロス。悪は、ヘルブラッククロス以外。ヘルブラッククロスは今、世界からイジメられてるのよ。正しいお行いが、正しくない人たちに貶められているの」

 

 リコニスが教えるのは、周りは巨悪の海。自分たちが正義の為に動く船であると。

 

 「・・・わからない。ならばなぜドクターは俺様に仲間を殺させた?」

 「簡単だよ」

 

 リコニスの言葉はバーナー怪人の【心】に影を落とす。

 

 「ミヤコが本当の悪だからだよ」

 「うぐぐ・・・でも、ギンジは・・・そんな事」

 「信じて。私の顔を見て」

 「顔?」

 「そう。私を信じて。ギンジよりも先に、長く、本当の正義の為に戦っていたのは私だよ」

 

 そうこうしてる内に、二人はミヤコの研究室に到着する。

 

 「じゃあ、私はこれで。授業はお・し・ま・い。ミヤコの話を聞いたら、後は好きにしていいよん」

 

 悪魔の笑顔でリコニスは研究室の扉から離れる。

 

 (あ〜これからどうなるかな。せいぜい暴走してくれればいいけど)

 

 引っかき回して、暴走させて、自分は高みの見物。

 

 当初はギンジに向けて行う予定だったが思わぬ邪魔が入った。オーク怪人の登場は誤算だった。

 

 ギンジと共にバーナーの怪人が居ることも誤算だったが、なにやら二人は興味深い事を話していた。正義と悪についての話は、普通なら怪人同士する話じゃない。

 

 (今度はギンジちゃんもからかってみよっと)

 

 佐久間ギンジもなにやら面白そうだった。

 

 ミヤコのお気に入りなら、いっそ壊したり、手元から離してやるのも面白そうだ。

 

 新しい遊びにリコニスの狂気が花咲く瞬間だった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 俺とバーナーの怪人が呼び出されたのは、今日の午後から繁華街を襲って欲しいとの事だった。初めて人だかりのあるところへの任務だな。

 

 バーナーの怪人は慎重な顔をしていた。さっき話した事が、少しでもこいつの心に響いていれば幸いだが。

 

 「くふふ、二人ともフェーズ2だし、今日こそあの憎きヘヴンホワイティネスをやっつけちゃおう。そしてどちらかを捕まえて陵辱だ!」

 

 コラコラ、そんな可愛い顔で陵辱なんて発言しちゃ駄目です。俺みたいに生きた屍が聞いたらどーすんの。大きいお友達が大変な事になるぞ。

 

 「オーライ。もうなんでもやってやるぜ」

 「・・・俺様も了解した」

 

 そういえば俺が来る前、こいつとミヤコは何か喋っていたみたいだが、なんだったろうか。

 

 まぁ、ミヤコが話すことなんて、怪人の褒め言葉ぐらいしか無いような気もするけど。

 

 「今回の任務には別働隊として・・・あまり嬉しくはないけど、リコニス派の上級戦闘員達が手伝ってくれるみたい」

 

 不服なのかミヤコはふくれていた。

 

 ん・・・?バーナー怪人の初任務・・・?だよな、あれ?

 

 何か違和感がある。

 

 「なぁ、今日って何日だっけ・・・?」

 

 不安を感じながらも俺は恐る恐る聞いてみる。

 

 「ん?今日は3月9日だよ。くふふ」

 

 な、なんだって・・・!?

 

 嘘だろ。バーナーの怪人の初任務にリコニスの登場。そして更には、その任務に俺もついていくこと。

 

 予想外・・・と言うか、今日の日付がわかんないとは俺も総統間抜けだな。スマホが欲しい・・・。

 

 イベント通りに事が進むなら、きっと俺にとっても大きなターニングポイントにもなる。ようやくあのヘヴンホワイティネスとの邂逅が見えて来た。

 

 「失礼ながら今回の任務、ギンジを連れて行くのはよろしくないかと」

 

 おいこら豚テメーこのやろう豚コラ。邪魔すんじゃねー!

 

 「くふふ、大丈夫だいじょうぶ。きっとこの二人ならヘヴンホワイティネスに勝てるから心配しないで。いつもありがとうねオーク」

 「ブヒ、もったいないお言葉」

 

 豚野郎マジでミヤコには素直だな。上手く操るならミヤコに頼んだほうがいいな。

 

 ところでバーナーの怪人はさっきからずっと黙ったままだが、ソレほどまでに何か考えることがあるのだろうか。悩みがるなら現地についた時聞いてみよう。

 

 それに俺はもしかしたら、バーナーの怪人が味方になってくれるんじゃないかと、淡い期待を寄せてるんやで。

 

 「それじゃあ、いつもどおりの道順で進んで貰うから、よろしくね。あ、ギンジ君には目隠ししてね」

 

 俺に残る人間の部分を知っているのか、いつも任務に行く時は俺に目隠しをかけている。これじゃあヘヴンホワイティネスに売り込む情報が少ないままだぜ。

 

 研究室を後にし、俺たちは繁華街へ通じる道に連れて行かれる。

 

 上級戦闘員達も続いているのか、足音はたくさん増えている。

 

 「ついたぞ」

 

 早っ!?

 

 まだアジトの中にいる様な気分だったが、気がつけば風が吹き、人々の喧騒、家族連れの会話などが聞こえてくる。

 

 ここが外だと直ぐに解るほどに。

 

 目隠しを外されると、そこは広いワンスペース。光を通さない闇がいくつもある路地裏。

 

 任務が始まる時は決まってここからのスタートだ。

 

 いつも思うけど、こんな路地裏からアジトに繋がってるとは思えない。

 

 「作戦のブリーフィングを始める」

 

 オーク怪人の一声に、その場に居る全員が整列する。

 

 上級戦闘員達はこういうのに慣れてるのか、直ぐにきれいな列を組み直す。

 

 いよいよか。俺の知ってるイベントなら、アモーレの襲撃だろう。

 

 「バーナーの怪人はショッピングモール・アモーレの正面から攻撃。お前の中にある正義を示してやれ」

 

 バーナーの怪人は未だに神妙な顔つきをしている。何か思う所あるだろうが、きっとこいつは正義と悪の間に揺れてる。異を唱えてくれれば「了解した。俺様の攻撃で全てが始まるな」

 

 おいいいい!?ノリノリじゃん!俺の今の思考を返してくんない!?

 

 「その後別働隊のリコニス派の戦闘員達は、アモーレの中にいる女性の拉致を行え。憎きヘヴンホワイティネスが現れたら交戦しても構わない」

 

 どうせ勝てないだろうがな。オークの怪人の最後の一言には嫌味たっぷりだったが、さして戦闘員達は気にしていないそぶりだ。

 

 「そして佐久間ギンジ。貴様はここで少し待機だ」

 「お、俺だけか?」

 「そうだ、貴様だけは数分遅れてから突撃だ。これはドクターミヤコの命令でもある」

 

 一緒に突撃すればその方が楽なんだけどなー。

 

 いや、待てよ?

 

 後から突撃したほうが、なにかと都合がいいんじゃないか?

 

 もしかしたら、ヘヴンホワイティネスの手助けができるはずだ。うん、なんかそっちの方が良い様な気がしてきた。

 

 「ん〜解ったぜ。了解だ」

 

 始まる。ゲームのイベントと同じ内容の作戦が。

 

 果たして俺は、バーナーの怪人の悩みの解決や、ヘヴンホワイティネスとの合流もできるのかな。できればここらへんで謀反を起こすのもありかも知れない。あの、オークさん?そんな敵意丸出しで俺を見ないでよ。

 

 「では、俺様は行く。また、後でな、ギンジ」

 

 この言葉が、怪人として、いや、組織の仲間として交わす最後の言葉になるのも、この先の展開がゲーム通りに行かないことを早く気がつくべきだったと、俺は深く後悔することになる。

 

 光が通らない闇の向こう側へと歩き出し、バーナーの怪人は大きく息を吸い込む。

 

 ショッピングモール・アモーレに続く、繁華街では不穏な影が近づきつつあった。

 

 「正義とは・・・なんだ・・・」

 

 バーナーの怪人の表情は死んでいた。その事を俺は気づいていなかった。

 

 「悪とはなんだ・・・」

 

 右手の砲頭に熱エネルギーを溜め込み、アモーレに向けて構える。

 

 「その答えを、俺様に教えてもらおう・・・佐久間ギンジ、ドクターミヤコ!!」

 

 破壊の一撃とも言える業火球がアモーレに直撃する。一瞬の静寂と大爆発に周りの人間は恐怖と共に、またたく間にパニックとなる。

 

 「・・・俺様は【どちら】だ!」

 

 少し遠くから爆発が聞こえる。

 

 俺も覚悟しなければいけない。例えゲームと同じでも何が起こるのは最早想像がつかない。

 

 イベントが始まった。俺も行こう。

 

 「ギンジ」

 

 呼び止めたのはオークの怪人だ。

 

 「貴様を信じるぞ。行け」

 

 俺の中の考えを聞いていた癖に、まだ俺の事を信用すんのかよ。

 

 それもきっと、オーク怪人の正義なんだろうと、それもまた、心なんだろうと、俺は闇の向こう側へと走り出す。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 あたし達が楽しく会話し、食事したりしている間に何が起こったのか。

 

 急な爆発音。そして吹き飛ぶ人、破片、火の粉。

 

 一瞬であたしとレンはこれがヘルブラッククロスのバカが巻き起こした、無差別な攻撃だと判断できていた。

 

 「レン、これは・・・」

 「解ってる。行こう、カエデ」

 

 あたし達二人はうなずき合うと、パニックになってる喫茶店から出ようと席を立ち上がる。

 

 「カエデ〜、レン〜・・・」

 

 トモカはあまりの衝撃か、腰を抜かしてカーペットにぺたんと座っていた。無理もないわ、あんな大きな音と地響き。

 

 友達の泣きそうな顔を見ると、やっぱりヘルブラッククロスを許せない気持ちがいっぱいになる。

 

 「トモカ、避難しよ」

 「うん・・・」

 

 なんとかトモカを抱えて立ち上がらせると、なだれ込む様に逃げ惑う人の波が喫茶店の前を通り過ぎていく。あまりに現実離れな現状に野次馬なんていない。

 

 (ああやって怯える人を出さないようにって決めてたのに・・・)

 

 でも今は悔しさに歯噛みしてる場合じゃないわ。急いでトモカを逃して、戦わないと。

 

 「歩ける?トモカ」

 「大丈夫〜・・・」

 

 レンが喫茶店の従業員入り口を見つけてくれていた。ナイスだわ。

 

 「こっち、早く行こう・・・!」

 

 友達ってこういう時いるだけで安心できるのよね。トモカはちゃんと直ぐ動けるようになったし、早く逃げようとしてくれている。

 

 (あれって〜・・・)

 

 トモカが一瞬よそ見していたような気がしていた。

 

 次の瞬間、従業員入り口じゃなくて、喫茶店の入り口に向かって走り出した。何をバカな事を・・・!

 

 「君〜大丈夫・・・?お母さんとはぐれちゃった〜?」

 

 あ・・・。バカはあたしだ。

 

 トモカが見つけたのは五歳ぐらいの子供・・・それも親とはぐれた。

 

 もっと周りを見るべきはあたしなのに、それに気が付かないなんて。

 

 戦う事だけしか頭になかった。ううん、もっと言えばそれだけしか考えてなかった。

 

 「カエデ、トモカ」

 「解ってるわよ!トモカ、早くこっちへ」

 「大丈夫だからね〜・・・お、お母さんにすぐ会えるから」

 

 声が震えてる。当然よね。必ずこんな恐怖を抱かない未来を私達がつくるから。

 

 だから・・・。

 

 「ごめん、トモカ!」

 「え?」

 

 今思えばかなりめちゃくちゃな事をしたと思ってる。あたしはトモカと大泣きする子供をはじめ、喫茶店のお客さん達を、従業員入り口へ先に進ませると、扉を閉める。

 

 「もう、ドアは開かない。カエデ?」

 「ごめん・・・平和ボケしてた」

 

 戦う事で誰も傷つかないなら、あたしはいくらでも戦う。レンの想いを背負う時にそう覚悟していたから。

 

 永遠に戦うのがあたしの地獄なら死ぬまで戦う。その気持ちでいたのに。

 

 気が付かなきゃならない重要な事、たくさん見逃してた。

 

 「レン、ごめん。一緒に来てくれる?」

 「大丈夫。自分を責めないで」

 

 あたし達は正義のヒーローヘヴンホワイティネス。

 

 戦うだけじゃ駄目。守るために戦わなきゃ。

 

 『二人とも聞こえているか?』

 

 ヘヴンスーツに変身したあたし達に、ミドリコから通信が入る。

 

 『怪人反応が出たぞ!場所はショッピングモール・アモーレだ!』

 「知ってるわよ。今まさにアモーレに居たからね」

 

 喫茶店から抜け出し、アモーレの外へ向かうために人混みを抜けていく。いつもなら正義にヒーローだなんだとあたち達をもてはやす市民も、今では一目散に逃げていく。

 

 『怪人の反応は強いぞ、以前の豚の怪人と同レベル・・・』

 「問題ない。何が来ても、私達は勝つ」

 

 余裕に言ってくれるわ、この子。けど、そうね、それぐらいの余裕じゃないと意味がないわね。

 

 それにしても人混みがすごすぎる。春休みだからって多すぎじゃない?

 

 (まどろっこしいわ!窓を突破ろう)

 

 レンも同じ事を考えてくれたのか、二人して窓から飛び出す。ここは4階だけど、今のあたし達なら軽く着地できる。

 

 こっちは裏通り側。あの薄気味悪い路地裏の近くだけど、正面玄関に向かうならこっちの方が、速い!

 

 『ん?なんだこの反応・・・』

 

 同様するミドリコの声と同時に、ヘヴンスーツのバイザーから奇妙な反応。

 

 「え?あれは・・・」

 「人間・・・?」

 「え?」

 

 あたし達の地面の着地に合わせて、真下に居た人間?と眼が合う。

 

 「あぶねー!なんで上から人が・・・ってあれ」

 

 眼の前の男は、金髪にツーブロックに七歩袖の黒い洋服。

 

 普通に判断すれば、よくいる喧嘩自慢みたいな格好ね。

 

 「カエデ、離れて」

 

 一瞬で飛のく。普通の人間じゃない。バイザーの反応でも、バイザー越しでも解る。この男は人間じゃない。

 

 「おいおいマジかよ!やったぜ、ヘヴンホワイティネスだ!俺の〈大好きな人たち〉だ!」

 

 変な事を口走るわね、こいつ。バカなのかしら。

 

 『カエデ、レン!おそらく組織の新しい怪人だ!油断するなよ!私も直ぐに行く!』

 

 通信が切れると、あたしたちは眼の前の男に向き直る。

 

 「あんた、ヘルブラッククロスの怪人よね?」

 「げ、なんでバレた・・・あ、眼球か」

 

 そう。バイザーの反応にははっきりと怪人として表示されていた。けどひと目でわかるその眼球。気味が悪い怪人特有の瞳に、今既に嫌悪感が走ってる。

 

 「あんたがこの騒ぎの怪人ね!正義のヒーローが成敗してあげるわ!」

 「油断大敵。どんな能力を持っているか、わからない」

 「ちょちょちょちょーっと待った!」

 

 あら?怪人にしては命乞いなんて早いわね。あ、もしかしてだまし討ちの準備かしら。

 

 「アモーレに菊沢トモカってのいるだろ!」

 「なんで、この怪人トモカの事を」

 「あんたはヘヴン2の宮寺レンだろ?有名だぜ。俺の中では」

 

 なっ・・・。

 

 絶句した。この怪人はあたし達の事を知っている・・・?しかも本名を知られているなんて。

 

 今直ぐ殴り倒そう。一気に踏み込み、ナックルのギアをフル回転させて怪人に殴りかかる。

 

 「うおーーっ!危ねって!あんたヘヴン1の神宮カエデだろ!?」

 「あーらバカの怪人に名前を知られてるなんて光栄だわ!死ね!!」

 「思っていたより、敵の情報収集は、範囲が広い。ここで倒す」

 

 どんな能力か知らないけど、トモカのことまで知ってるなんて・・・。

 

 まさかあたし達にこうやって近づく為に、アモーレを襲撃したのね?そうなのね?

 

 「待てよ!」

 

 怪人はさっきから攻撃してこない。それどころかいつもの怪人らしからぬ、臨戦態勢にすら入っていない。

 

 「この襲撃の主犯は俺じゃない!頼む、話を聞いてくれ」

 

 なんだって・・・?

 

 「俺はお前たちを助けたい、他にも助けたいやつがいるんだ」

 「もういいわ!どうせ怪人なんて嘘しか言わないんだから!」

 「待っ、危ねっ、二人がかりなんてヒキョーだぞ、おい!」

 

 こいつさっきから本当に攻撃してこないわね。避けるか防御するか。何か変ね。

 

 「宮寺レン!あんたは未来から来た未来人だ!そうだろ?凄惨な未来を変える為にこの時代に飛んできたはずだ!」

 「なっ・・・?」

 「そんで格闘のあんたは、神宮カエデ。神宮財閥の娘で、父親は18代目!」

 「はぁあああ!?」

 

 なんでこんなことまで知ってるのよ!

 

 思わず攻撃の手が止まる。

 

 「そんであんたら二人の協力者は公安の一部の人間で、代表者は甘白ミドリコだ。お友達についても俺の知ってる情報を話そうか・・・?」

 

 眼の前の怪人は必死に何かを訴えたいのかも知れない。何か、そう思わせる様な表情をしていた。

 

 「・・・あたし達の協力者が一人来るわ。それまで身柄を拘束させてもらっていいかしら」

 

 一つの提案。これで断るならこいつは黒ね。きっとなんらかしらの否定を出して異を唱えてくるは「おういいぜ、ここに来るのは甘白ミドリコだろ」

 

 えええええ!?なんでこんな即答してくるのこいつ。あたしの思考を返してほしいわ!

 

 しかも嬉しそうにニヤニヤして・・・。なんか調子狂うわね。

 

 それから何分とまたない内に、ミドリコがやってきた。

 

 それまでこの男を挟み撃ちになるように、あたし達は警戒していた。

 

 まだ喧騒が続いてる阿鼻叫喚を聞くと、居ても立ってもいられなくなる気持ちであたしの胸は張り裂けそうになる。

 

 「三人揃ったな?」

 

 金髪男が地面に座りこみ、あたし達三人の顔を見渡す。ニヤニヤしないでくれるかしら?

 

 「まずは始めまして。訳あってヘルブラッククロスに怪人にされた、佐久間ギンジだ」

 「ん?何か特徴を捉えた名ではないのか?」

 

 ミドリコの疑問にあたし達もうなずく。

 

 「怪人特有のネーミングは置いといて、俺のことはギンジでいいぜ」

 

 誰が呼ぶか。

 

 「さて、今起こってる問題だが、お前らが解ってる通り、悪の組織が襲撃中だ」

 「まて、怪人は二体来ているのか?」

 「正確には二人、な。んで、ここにもう一人来ているのはバーナーの怪人。それから、上級戦闘員達が複数名」

 

 なんでこんな情報まで話せるのこいつ・・・佐久間とか言ったわね、後で家の者に身辺調査をさせよう。

 

 「お前らはこのままだと、バーナーの怪人を倒せても、菊沢トモカは救えない」

 「トモカは、必ず助ける。お前が決めるな」

 

 そうよそうよ。レンの言うことは当たり前だわ。

 

 「俺が怪人だからって邪険にするなよ。お前の、お前らの未来の為にも必要な話だ。続けるぞ、バーナーの怪人とお前らは一生懸命戦うんだ。だが、勝てても二人とも満身創痍で動けなくなる」

 

 ははは。そんなことないでしょ、何言ってるの。やっぱりバカね。

 

 「豚顔の怪人とは戦ったか?」

 「・・・君は何を知っているんだ」

 「いいから!戦ったか?」

 

 ミドリコの怖い顔にも臆さずなんてやるじゃない。感心してるわけじゃないんだけど。

 

 「戦った。正直、負けるかと思った」

 「そうだろうな。あいつは強い。それよりもレベルが上なのがバーナーの怪人だ。それをなんとか倒したら二人して動けないし、後方支援の甘白ミドリコは、攫われた女の子に気づかず・・・あとはわかるな?」

 

 そんなこと・・・。無い。あっていいはずがない。あたし達は敗けないし、トモカは助けられる・・・。

 

 なのに・・・。なぜかしら、何か、妙に胸騒ぎがする。

 

 こいつの言うことがまるで真実味を帯びてる様な。

 

 「俺を信じないで行動したら、お前らの心には大きな傷ができる」

 

 胸が痛くなる。守れないときの事を想像しちゃったわ。

 

 「でも、俺を信じて行動すれば必ず皆助けられる。俺はお前らを含めて、今暴れようとしているバーナーの怪人も助けたいんだ」

 「解らないな。それで君達の組織になんのメリットがあるんだ」

 

 言葉が出なかったあたし達に変わって、ミドリコが冷たく言い放つ。こいつ、あたし達の事しか話してないし、悪の組織にいる怪人だよね・・・?

 

 「いや、悪の組織にメリットはない。お前らヘヴンホワイティネスにはメリットがある」

 

 その言葉を聞いた瞬間、この男は信じられない行動に出た。

 

 「お前らの未来が・・・いやこう言い換えるべきだな。お願いします。力を貸してください」

 

 土下座。空っぽそうな頭なのに、頭突きの勢いでコンクリートが砕けてるわ。

 

 「わかった・・・」

 「レン!?」

 「私も賛成だ」

 「ミドリコまで!?」

 

 二人して・・・この流れはあたしも、こいつに力を貸すのを認めないといけないじゃない。

 

 「あーもう、解ったわよ!」

 

 佐久間が頭を上げると直ぐに立ち直る。

 

 「それで、作戦は?」

 「先ずはお前らは、正面玄関から4階まで行ってくれ」

 

 げ。また戻るの?

 

 「そこの従業員連絡通路に菊沢トモカがいるはずだ。逃げ遅れの一般市民様と一緒にな」

 

 うんうん。

 

 「そしたら、シャッターでもなんでもぶち壊してとにかく全員避難させろ。途中にいる上級戦闘員達は、宮寺レン、甘白ミドリコが撃退、ないしはぶっ殺してもいい」

 

 うんうんうん。

 

 「2階まで降りると問題のバーナーの怪人が居る。そいつを止めるのは俺に任せろ」

 

 うんうんうんうん。

 

 「で、神宮カエデだが」

 

 お、ついに来たわねあたしの出番!

 

 「何があってもお前だけは戦闘するな」

 

 え・・・。

 

 「お前の力は、戦うだけのものじゃない。守る為の力なんだ。俺は信じるからな」

 

 なるほど。守る為の力って、怪人の癖に言葉選びいいじゃない。

 

 つまり作戦はの内容はあたしが、一般市民の避難誘導、および障害物の破壊。

 

 レンとミドリコが敵と交戦。

 

 佐久間がバーナーの怪人とやらを止めるのね。

 

 「ここまで、聞いていて、疑問がある」

 

 完全には信用できない様にレンが佐久間に質問をする。

 

 「あなたはなんで、未来の話を知っているの?私達の事まで、情報を持ってるなんて、領域じゃない」

 「同感だ。君は一体何者なんだ。何が目的なんだ」

 

 そうだ。佐久間は怪人で、ヘルブラッククロスの情報を知っている。この先に起こる事を知ってるなんて、未来予知でもしてるようだわ。

 

 「目的は俺個人が・・・ああ、ま、今はいいや

 

 少しバツが悪そうに佐久間が肩をすくめる。 

 

 「今からめっちゃ恥ずかしい事言うけど、笑わないでくれよ」

 

 相変わらずニヤニヤしてるけど、なんか悪くないわね。

 

 「俺は未来人じゃないが、未来を知っている」

 

 納得はいかないけど、あたし達はその言葉を聞くと、どこか信じてもいいかと思えて来た。

 

 「いいわよ、今だけは信じてあげる」

 

 あたしはニッと笑うと、レンもミドリコも、そして佐久間ギンジも一斉に動き出した。

 

 まだ続く阿鼻叫喚の嵐に、あたしは嫌な汗を拭う。

 

 待っててトモカ。今直ぐ行くから。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 「あ〜〜ギンジちゃん、いらない事してるね〜」

 

 アモーレの屋上から会話を盗み聞きしていたリコニスの表情は、悪い事を想像する悪魔の顔をしていなかった。

 

 本来の目的であれば、佐久間ギンジをリコニスが襲撃して力試しをするつもりで居た。だが、予想外にもあの噂のヘヴンホワイティネスの二人が現れたのだ。

 

 もう少しで降りようとしていただけに、流石に肝を冷やした。別に交戦しても負ける筈はないのだが。

 

 「う〜ん。面白そう。あはは、それじゃやっぱり【最後】まで取っとこうかな」

 

 背面に携えた黄金の刀を撫でながら、リコニスは再び、三日月の如く表情を歪ませる。

 

 ──助けられる者が眼の前で守れなかった時、あの気が強そうな少女は泣くのかな?それとも怒るかな?

 

 ──スカイブルーの髪の子はどうかな?

 

 ──怒る?泣く?おかしくなって笑う?

 

 ──スーツを着たうざそうな女はどうかな?

 

 ──怒る?泣く?絶望して放心する?

 

 ──ギンジちゃんはどうかな。

 

 ──きっともの凄いキレそう。

 

 ──ああ、楽しみだ。正義を正義と信じて疑わず、希望を持って生きてる、まだ未来があると、つかめると、本気で信じている者たちの眼の前で、私という悪が本当の正義を教えてやるのが楽しみでしょうがない。

 

 「あ、そういえば、未来人がどうとか言ってたね。じゃあ、ギンジちゃんとスカイブルーの子は死ぬより辛いと思わせる程苦しめてあげよう」

 

 この世はなんて退屈だ。そう昨日まで思っていた。

 

 だけど。

 

 「面白い世界に替えて頂戴!!!ヒャーハッハッハッハッ」

 

 リコニスの悪魔の様な笑い声は、続く爆音に飲み込まれた。

 

 ギンジ達も、バーナーの怪人も、逃げ遅れたパンピー達は全て・・・。

 

 「私の掌の上だよ」

 

 悪魔はきっと笑い続けるだろう。

 

 全てを塗りつぶして、消し潰すだろう。

 

 なによりも深い暗い悪の心が、リコニスをより【本当の正義】へ覚醒させていく。

 

 それでさえただの楽しみ、面白そうと、リコニスは高みの見物を決めるのであった。

 

  

 

 

続く

 

 




お疲れ様です。

長くなってしまいもうしわけありません。

次回はHWの三人がドタバタします。ギンジは燃えます。

キャラネタ書きます

リコニス
ミヤコとは違う意味で狂っている。実は学生。
黄金が好き。お子様ランチの旗も好き。ギンジちゃんも好き。

バーナーの怪人
善良な一般市民を素材に作られた無垢な俺様キャラ。
右手のレールガンは着脱不可。そして右利き。哀れ。
正義と悪の間に揺れている。

佐久間ギンジ
ようやく目的のヘヴンホワイティネスに会えた。

次回はキャラネタではなく、設定とか背景等を入れられればと思います。

熱中症などに気をつけてくださいね。

それでは、アトラクションでした
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