正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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それでは始まります!


4・それぞれの持つ正義

 ギンジを見送ってから自分の研究室に戻ったミヤコは白衣を脱ぎ捨て、散らかった机になげつける。

 

 「早起きだったし、怪人化のデータも、睡眠中どうなるか見たいからわたしは少し寝るね」

 

 リコニスの帰還のせいでまともに眠れていない。眠れないとイライラする。たくさんの嫌なことを思い出す。

 

 この数時間で怪人の細胞によって死にかけて体力も限界だった。

 

 だが、全てギンジのDNAと自分のDNAが混ざりあった事で、本当の意味で一つになれた事だけで、ミヤコは気合いという不可思議な力で乗り切った。

 

 「御意。それまで誰も研究室には入れません」

 「ありがとう」

 

 フラフラとセーラー服のままで研究室の奥、さらにミヤコの自室がある。

 

 完全防音で換気しかできない小さな部屋だが、寝心地の良いベッドが置いてありいつもそこに寝ている。あと部屋についているのは、トイレとお風呂、洗面台。

 

 ベッドだけはダブルサイズ。

 

 妙なこだわりがあるのか枕は蕎麦殻。

 

 「くふふ〜・・・ギンジ君、だいすき〜・・・」

 

 最近のミヤコの眠りに付く時の、日課はギンジへの愛を吐き出し眠ること。

 

 灰色の世界が、ミヤコを奥へおくへといざなっていく。

 

 まただ・・・。またこの夢。

 

 ミヤコの夢は、ミヤコを苦しめる。

 

 首輪をつけられて暴力によってボロボロになった女の子が、ミヤコと眼が合う。

 

 「助けて」

 

 大泣きしながら少女は助けを懇願していた。でもミヤコにはどうすることもできない。

 

 (こんな悪夢・・・見たくないから、皆が幸せな夢がみたいよぅ)

 

 自分にしては弱気な口調だ。いや、年相応なのはこれぐらいだろうか。

 

 いずれにしてもミヤコは眠りに付く。

 

 悪夢にうなされ、起きる時はきっと涙で枕カバーが濡れていることだろう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「カエデ!急げ!」

 

 ミドリコが拳銃で上級戦闘員を撃ちながら、火事や瓦礫で荒れる戦場となったアモーレで、四人はそれぞれの行動を、できる最善で行っていた。

 

 既に守れなかった人たちも多い。うめき声や既に絶命してる人たちを尻目に、カエデは悔しさと焦りの混じった声で叫ぶ。

 

 「ほら、はやく逃げて!」

 

 逃げ遅れた一般市民を助けながら、避難誘導。きっと二人だったら出来なかった事だろう。一般市民の犠牲者を増やさないと言いながら、結果助けた人数より、犠牲者の方が多かったかもしれない。

 

 これを見越していたのか、ギンジの先程の発言を思い出し、カエデとレンは感心する。

 

 おまけにこの男は上級戦闘員をもなぎ倒す。

 

 「お、お前、裏切りだぶえぁ」

 「ごちゃごちゃうるせー!邪魔すんな」

 

 上級戦闘員をアッパーカットで黙らせる。 

 

 「大幹部様にいいつけるぞ!」

 「好きにしろバカが。邪魔すんな」

 

 今度は頭突き。そのあと膝から崩れ落ちた、戦闘員の頭を掴んで顎に膝蹴り。

 

 「酷い」

 「まぁ、しょうがねーな」

 

 言いながらもレンは、ビーム剣を突き刺したり、切り上げで戦闘員を打ち上げたり、押し倒した戦闘員をギンジに踏みつけて貰ったり。

 

 「刺し穿つ・・・っ!」

 「レン、佐久間、そっちに行ったぞ。カエデを守ってくれ」

 

 少し離れた位置からミドリコが援護射撃しながら、二人に情報を送る。

 

 「神宮カエデはお前が守れ。打ち漏らしは頼む」

 「わかった。カエデ」

 「市民はあたしが守るわ!」

 

 今まではカエデとレンが同時に前線に出ていた。それをミドリコが補佐するという形で複数体と戦う時には、不意打ちへの反応によく遅れた。

 

 だが、今はギンジとレンが前線、カエデは護衛対象を守れる位置での防衛、ミドリコがつかず離れず銃撃による支援、状況報告により、完璧のフォーメーション、抜群のコンビネーションが発揮されていた。

 

 (この男、今は敵じゃなくて良かった)

 

 レンの心の中では、佐久間ギンジという男の戦い方は、見たこと無い程の暴力的なものだった。力も見た目以上にあるのだろう。

 

 「おう、そろそろ二階だ」

 

 正面玄関から二階にあがれば、様々な店が立ち並ぶフロアに出る。

 

 どこかしこも破壊の跡、火事によってここにも上級戦闘員が立ちはだかる。

 

 「クソ」

 

 ギンジが苛立ちながら吐き捨てる。

 

 四人の眼の前に現れたのは、バーナーの怪人。

 

 予測していたよりも早い登場に、ヘヴンホワイティネスの警戒度が高まる。

 

 「どうするの?」

 「神宮カエデ、言ったとおりだ。俺があいつを止める。こんな暴走、あいつだって苦しんでるはずなんだ」

 

 どうしてこの怪人男は他人のことばかり考えられるのだ。

 

 カエデから見ても見た目は人間なのに、怪人。相容れないはずの存在が放つ、言葉の一つ一つが人間味を感じる。

 

 「ギンジ・・・」

 

 レールガンをこちらに向けて、炎のエネルギーが砲頭に収束していく。

 

 このまま撃ってくる。

 

 「クソ、皆離れろ!」

 

 ギンジの言葉に三人は離れる。

 

 放たれた業火球は、ギンジをめがけて撃たれ、直撃。

 

 爆発があたりを包む中、レンはギンジを見る。

 

 「・・・死んでない」

 

 普通ならこの怪人も死んでいてもおかしくない程の、熱量を感じていた。レンもミドリコもカエデも間違いなくギンジは燃え尽きたと、誰もが見ても、そう判断できるものだった。

 

 「熱っちーな・・・」

 

 爆炎に身を焦がしながらも、業火球を割るように振り払い、ギンジは何事もなかった様な素振りで、火の粉を払う。

 

 「行け!こっちの問題は俺がなんとかする!お友達を救ってこい!」

 「おっと、行かせるか」

 

 上級戦闘員がカエデ達三人の妨害をしようとするが、波の様に流れる爆炎が渦を巻き、戦闘員を焼き滅ぼす。

 

 「俺様はギンジと話がしたい。お前たちは上に行け」

 

 左手が指差す方向は動かないエスカレーター。

 

 「佐久間、本当に任せていいんだな」

 「早く行け。あいつの気がかわらないうちにな」

 

 ミドリコはそれ以上何も言わない。カエデとレンを追いかけ、上の階へと走り出す。

 

 「さて、お前ともう一度対話しないと行けないな」

 「俺様の知る正義には2つ意味があったぞ。何が正解で、間違いか、教えてくれ」

  

  言いながらも不意打ちに近い形で、炎を炸裂させる。

 

 「何やってんだお前はーー!」

 

 その炎を上手く避けて、バーナーの怪人の顔面にドロップキックが炸裂する。

 

 あまりの強さに吹き飛ばされ、奥の炭になった店舗へ激突していく。

 

 「先ずさっきの炎の分だ。立てよ、お前の知りたい事全部教えてやる!」

 

 手でかかってこい、と言わんばかりの挑発をした次の瞬間、炭の向こう側から炎の光線が飛んでくる。

 

 「正しいのはお前じゃない、ギンジ!」

 

 光線に胸を焼かれ、その衝撃でギンジも吹き飛ぶ。

 

 「何が正しいのかは俺が教えてやる。オラ、もっと来てみろ」

 

 二人の怪人が再度激突する。

 

 組み合ったままの姿勢で、にらみ合う。

 

 「俺様は正義と悪を聞いた。リコニスもドクターミヤコも、そしてお前も、全部言うことが違うじゃないか」

 「正義も悪も捉え方だ。リコニスもミヤコの言う正義も、俺には解らないが、少なくとも・・・」

 

 体制を落とし、崩れたバランスに頭突き。しかし、バーナーの怪人の右手のレールガンに阻止される。

 

 「少なくとも、お前が好き勝手に暴れるコレは正義じゃねぇ!」

 「こうすることが正義だ!ドクターもリコニスもこう教えた」

 「最初に言葉も、正義と悪の意味も俺が教えただろうが!」

 

 レールガンを蹴り飛ばすと、真上に腕があがる。おそらく攻撃手段はこの炎の砲頭。これを封じればバーナーの怪人は、まともな攻撃できない筈、とギンジは考える。

 

 一瞬の隙もつかの間、右手のレールガンを勢い強く振り下ろす。ギンジの頭に命中し、今度はギンジがバランスを崩す。

 

 「このっ・・・」

 

 バーナーの怪人の左手がギンジの首を握りしめる。その手は高熱を帯びた、触れるだけでも焼けそうな熱さに、何も喋れなくなる。

 

 まるで喉の中身を焼かれるような地獄の時間。

 

 「・・・お前は【悪】なのか・・・」

 

 レールガンの砲頭を藻掻くギンジの顔面に構え、バーナーの怪人はお別れを告げる。

 

 「・・・さよならだ」

 (クソぉ、やべぇ、死ぬ・・・)

 

 何も達成できず、何も抗えず、ギンジは何か対抗できないかと、辺りを見渡す。

 

 (クソ、駄目だ。何も無ぇ・・・)

 

 呼吸もできず、抵抗もできず。意識が遠のいて行く。

 

 炎が眼の前で集束していく。もう駄目だ。間違いなく死んだ。

 

 (あーしくじったな)

 

 ギンジの首から上を爆炎が、通る。

 

 本当に佐久間ギンジの人生は終わった。

 

 ここで何も残せず、生きた屍だった男の魂は、燃え尽きる。

 

 筈だった。

 

 (!?)

 

 急に身体が落ちる。一瞬何が起こったのかと思えば、バーナーの怪人は動きが止まる。

 

 「かはっ・・・ゴホッ・・・」

 

 熱を吐き出し、苦しみから開放されるが、数秒は動けそうにない。

 

 「ギンジ・・・」

 「?」

 

 バーナーの怪人はレールガンの左腕も下ろす。

 

 「おれさまは・・・人間か・・・?怪人か・・・?」

 

 バーナーの怪人は再び困惑していた。

 

 「頭のなかで・・・何か・・・訴えて・・・ううっ」

 「バーナー!?」

 

 崩れ落ちるバーナーの怪人に、寄り添うギンジ。

 

 「もういい、正義だ悪だなんだと考えるな。お前が今日一日で知る知識には限度がある」

 

 背中を軽く叩きながら、それでも悩む怪人に再びギンジは優しさを見せる。

 

 「俺が悪かったよ。これから教える事は本当の正義だ。悪の心に蝕まれるな、意識を強く持て」

 「なにが本当で、何が間違いなんだ・・・」

 

 泣きそうな程に苦しみ、罪悪感に憔悴していく。

 

 「いいかよく聞けよ、正義ってのはなぁ」

 

 握り拳を作る。固く、強く、戦闘員や他の怪人達が、痛いと絶賛するギンジのお手製拳骨。

 

 「こういう事するやつだ」

 

 その拳はバーナー怪人の胸に当たる。だが、それに一切の勢いはない。攻撃の意図で殴ったものではないのだ。

 

 「こうやって、人に攻撃するやつが悪だ。今本気で殴られてたら、の場合だけどな」

 

 乱れた金髪の髪をオールバックにしなおす。

 

 「そんで、そこは身体が痛くなるとかじゃない、殺されたとかじゃない、家族と離れ離れにさせるとかじゃない」

 

 うつむくバーナーの怪人の眼を見る。

 

 お互い眼球は真っ黒でも、ちゃんと見える。

 

 お互いの顔が、表情が、眼が見えているのではない。

 

 この場にいる二人の怪人の心が、お互い見えている。

 

 「悪ってのはなぁ、人の心を笑いながら平気で踏みにじり、傷つけ、壊す奴らの事だ」

 

 ハッとした表情で、バーナーの怪人は思い出す。

 

 リコニスは常に嘲笑う様な表情だった。ギンジとは真反対の事を教えてくれた。ミヤコは悪だと。

 

 ドクターミヤコも同じだ。笑っているが、瞳の奥は笑っていない。ギンジともリコニスとも違う独自の正義と悪を教えてくれた。リコニスが悪だと。

 

 ギンジは良い悪いの区別で片付けられない事を悪だと教えてくれた。この、バーナーの怪人が生まれた場所こそ悪だと。

 

 「心ってのは、誰にとっても大切なモノなんだ」

 

 まるで大人の様に、はたまた親の様に。

 

 ギンジは真摯にバーナーの怪人に向き合った。

 

 「平気で人の大切なモノを傷つける奴らの言葉に負けるな!俺はお前の心を傷つけたやつが、もしいるなら許さねぇ」

 

 理解ができた。新たな知識に、新たな言葉。そして心。

 

 今、バーナーの怪人は【心】を手に入れた。

 

 「そんな奴らから心を守るのが俺の正義だ」

 

 ヘルブラッククロスは主に女性を狙った犯罪が非常に多い。

 

 ゲームの中ではそれが当たり前に行われているが、あくまでフィクションの範疇だ。

 

 それが、例え転生先でも起こってるなら、なんとかして阻止しないと行けない。それで自分が傷つくならなんでもいい。

 

 悲しみや苦しみで涙を流す人が居なくなるなら、なんでもいい。

 

 神宮カエデや、宮寺レン。甘白ミドリコも、菊沢トモカも、角倉ケイタも、鈴村ミヤコも、リコニスも。

 

 俺の〈大好きな人たち〉が、凄惨な未来から開放されるなら俺はなんでもやってやる。

 

 その気持ちが今は全部自分の力だと思ってギンジは改めて決意する。

 

 地獄を抜けてやる。天国の様な優しい、誰も泣かない世界を、輝かしい未来を手に入れると。

 

 「・・・気持ちが晴れやかだ」

 「そうかい。それは良かったぜ」

 

 正義も悪も、結局は人の捉え方だ。でも、その捉え方が、時に人の一生を左右することがある。

 

 二人の怪人は、人間として、友を得た。

 

 今はその嬉しさに、二人は笑らい合うのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 もう一人、怪人ではない何か強大な悪の波動を感じた。

 

 今まで戦ってきた怪人や戦闘員とは違う、底知れぬ悪意の出現に、ヘヴンホワイティネスの二人はあっけに取られた。 

 

 先に一般市民を逃がす為に、手を出したのはカエデ。

 

 菊沢トモカをはじめ、逃げ遅れた一般市民の安全を優先するため、この聞かされていなかった悪意にむかって、走り出した。

 

 「ぜーんぜん駄目。ダメダメだね、君」

 「はぁ、はぁ、駄目かどうか、やってみないとわかんないじゃない」

 

 ギンジの言いつけを守らず、戦闘に出たのは、彼の言うことが信用出来なかったのもある。だけども、それを一瞬で忘れ去り正義として戦わないといけない使命が、カエデを突き動かした。

 

 「さっきから、二人で向かって来るけど、アハハ、そんなんで勝てるの??」

 

 レンも共にビーム剣を振るうが、目前に迫る悪意になかなか当たらない。

 

 「あたし達は・・・敗けないっ!敗けないんだからっ!」

 

 突如現れたリコニスの黄金の鎧に向かって攻撃するものの、カエデの格闘も防がれるか、ほとんど避けられる。

 

 カエデとレンの連携の間を縫って、撃たれるミドリコの銃撃でさえ、刀か黄金のショルダーで弾かれる。

 

 「クッ、なんなんだ、こいつは!」

 

 ミドリコが救出目前の市民達が逃げられる道を背後に、拳銃を構えて最後の砦と言わんばかりにリコニスをにらみつける。

 

 誰一人として生き残りへの被害を出さないように、避難させてからの戦闘になったが、それにしても唐突すぎる。

 

 この新たな敵は強い。

 

 「邪魔を、するな」

 「てやあーー」

 

 レンとカエデの連携攻撃が次々と迫るのに余裕な表情で、攻撃を弾き、避ける。ある時はアクビをしながら、あるときは眼を閉じながら。

 

 甘く見ている。何一つとして有効打が打てないのに、リコニスの攻撃は二人に命中し続ける。

 

 「アハハハ、悔しそうな顔!もう諦めれば?あ、この場合退屈だからはやく死んでって意味ね〜」

 「ぐぬぬ・・・」

 「バカにしてくれるわね・・・」

 

 まだ諦めない。最後まで。戦い続けると決めたのだ。守るために、レンの未来を守る為に。

 

 なのに、この悪意に何一つ通用しない。もう意地だけで戦ってるような状況に、カエデはどんどん悔しくなっていく。

 

 「ここで諦めたら、世界が終わるのよっ!」

 「終わっちゃえば〜?」

 「ここで終わったら、もう何も残らない。私たちは、お前たちの様な悪に敗けない、敗けたくない」

 「その通りだ!私達が守らなければ、誰がこの街の平和を守るんだ!」

 

 ミドリコもアーミーナイフ片手に突っ込む。もうこれ以上、若い二人が傷つくのは見ていられない。

 

 「っ!駄目!」

 「はーい、1取った〜」

 

 悪魔の様な表情は底を見せない程の、悪そのものに満ちていた。

 

 「ぐううう〜・・・ぅぅ」

 

 覚悟していたが、想像以上の痛みに苦悶する。せめて斬られるなら良かったかも知れないが、その時は一瞬で死にかけたかもしれない。

 

 腹部に黄金の刀が貫通する。スッ、と音もなくミドリコのスーツとワイシャツが赤く滲んでいく。

 

 けど、ここで引いては意味がない。ナイフを落とし、変わりに拳銃を構える。

 

 「元・自衛隊を舐めないでも、らお・・・う」

 「あら、西部のガンマンみたいに3・2・1で決めて見る〜?」

 

 リコニスの眉間には拳銃、ミドリコの腹部には黄金の刀。

 

 「あ、ああ・・・」

 「なんて無茶を・・・」

 

 レンもこの状況には絶望していた。自分の恩人が今殺されかけてる。

 

 カエデもおびただしい血液の量に顔が青ざめる。

 

 「ガフッ・・・」

 

 刀をねじ込まれ、吐血する。

 

 「あ〜ほらほらぁ、血なんか吐いたら、美人が台無しだよ〜?」

 

 何も悪びれずリコニスが微笑む。

 

 「撃ってみなよ。ほらほら、引き金をポン、ってすればいいだけだよ」

 

 撃てない。ミドリコから見えるこの悪意は、ただの少女が大人を煽っているようにしか見えない。ただの人間にしか見えない。ミドリコの中にある善意が邪魔して、撃つことができない。

 

 「あれ〜撃てないのかな〜??撃ちなよ〜ほらぁ」

 

 撃てないとわかりきっているのに、撃てと、撃ってみろとせがむリコニスの表情は弱いものをじわじわ追い詰める悪魔を通り越して、死神に見えるほどひどい。  

 

 「がっ・・・あっ・・・」

 

 ミドリコの身体が脱力する。重みに耐えられなくなり、リコニスの手元からするりと落ちる。

 

 「で、どうする?殺していいなら殺すけど」

 「ま、待って・・・お願い、ころさないで」

 

 カエデが力なく横たわる、ミドリコを守る様に前に出る。

 

 「うぐぐ・・・駄目だカエデ」

 「あっ・・・ああ・・・」

 

 倒れるミドリコに駆け寄るレンの表情にもはや戦意は残ってなかった。

 

 「こ、ここで・・・あたし達が敗けたら・・・未来だけじゃない、今が、終わる。恐怖におびえて、みんなが涙すんのよ・・・あんたに、敗けてたら・・・」

 「ボソボソ何喋ってるの〜?」

 

 初めての敗北。それも、一撃必殺に等しい、死。

 

 大切な人が傷つき、死にかけた事で、カエデにももはや戦意は無くなっていた。

 

 「その正義の心オオォォ」

 「俺様達が、受け持ったアアア!!」

 

 下の階から炎の渦が床を破壊して、灰色の肌の怪人が現れる。

 

 それと同時に、ツーブロック金髪の男も現れる。

 

 「正義のヒーロー、参上ってなァ!」

 

 驚いた。信用していなかった者が、現れた。

 

 きっとこの状況もこの男が作ったものだとカエデは、心を燃やしていた。

 

 だが、佐久間ギンジと名乗った怪人は、自分たちの専売特許、正義のヒーローを名乗って、現れたのだ。

 

 「テメェリコニスウウウウ!ミドリコに何してくれてんだああ!」

 「え?」

 

 ギンジが走り出したと思った瞬間、身構えた。しかし、男は一瞬にも等しい速度で、リコニスに肉薄する。

 

 「来るの早かったね〜もしかして、喧嘩は終わったの?」

 「おうよ、バッチリ仲乗りだ、俺たちダチだからな」

 「ふーんそう」

 

 こんなのは予想していない。リコニスの頭の中では、どっちかが勝って、心を壊せていたはずなのに。

 

 つまんない状況。つまんない結果。

 

 より怪人として高みに立つことで、その代償として心が壊れているはずなのに。

 

 「いったい何をしたのかしら」

 「話を聞いた!お前、よくもいけシャアシャアとバーナーに変なこと教えてくれたなぁ!」

 

 怒り狂っているものの、攻撃はしてこない。

 

 不思議なものだが、その後ろでバーナー怪人が突撃してくる。

 

 「俺様は、正義の為に戦う!もう、戻らない。俺様も、ギンジも!」

 

 バーナーの怪人の言葉にいらだちが大きく見えるリコニス。

 

 「神宮!宮寺!こいつはヘルブラッククロスの大幹部の一人、リコニスだ!本来ここに居るやつじゃない!」

 「な、何を言ってるのあんた・・・」

 「言っただろ、未来を知ってるって。ここにこいつは本来居るべき存在じゃない!イレギュラーだ!」

 

 ギンジにとっても予測していなかったリコニスの介入だったが、裏切るならここが最後のチャンスだろう。

 

 反旗を翻す為に、バーナーの怪人と共にヘヴンホワイティネスへの合流をしようとした。

 

 「つまんない事しないでくんないかなぁ〜?ギーンジちゃ〜ん?」

 

 黄金に彩られた鎧から殺気が溢れ出てくる。

 

 リコニスの悪意と殺意と敵意と、色々な感情が混ざり合い、ドス黒い霧のようなオーラを纏う。

 

 「退屈にさせないでちょうだい!!」

 「ギンジに手を出すな」

 

 まさしくバーナーと言うべき炎の壁が、リコニスを遮る。

 

 「・・・着火マン、君には色々教えてあげたのに、どうして私の邪魔をするのかしら」

 

 苛立ちはやがて怒りに直結する。

 

 「今、リコニスがした事は、悪の行為だ。俺様は、お前やドクターよりも、ギンジを信じる」

 「あ、そ。じゃあ壊れな・・・ッ!」

 

 黄金の刀を突き刺すように飛び出し、バーナーの怪人とリコニスがぶつかる。

 

 ミドリコを二人して安全圏まで運ぶカエデとレン。

 

 出血が激しいものの、破ったスーツで包帯代わりとして、なんとか痛みに負けず意識はしっかりしている。

 

 「何があったの・・・」

 

 ヘヴンホワイティネスの三人の視線の先には、炎を吹き出す怪人の姿。そしてあんな危険な威力の炎をものともせずに、悪意の塊が戦っている。

 

 正直、ミドリコが刺された時にカエデは心が、正義としてのプライドが折れかけた。

 

 「・・・すまない」

 「ミドリコ、喋らないで、大丈夫だから」

 

 レンにしてみても自分を保護してくれた恩人だからこそ、傷ついたこの事実を受け入れられない。

 

 「よう、ヘヴンホワイティネス」

 「・・・何よ」

 

 ギンジがさっきより真面目な表情で、カエデに近寄ってくる。

 

 「こ、これもあんたが仕組んだことでしょ・・・どうせあんただって怪人・・・」

 「悪かった」

 

 怪人ギンジの手がカエデの肩に置かれる。その手はどんな怪人よりも優しく、強く、そして人間らしさがあった。

 

 「来るのが遅れたな。でも恨み事言わないでくれな」

 

 ギンジの視線は三人の女性を見据える。

 

 「正義のヒーローは遅れて登場するからよ。メリット云々の話したが、こんな事になるのを阻止できなくて、悪い」

 

 その謝り方も、人間らしさがあった。

 

 「ぐう、私は大丈夫だ。佐久間、あいつは、大幹部のリコニスとか言っていたな、あいつはなんだ・・・」

 「その話は後だ。神宮、宮寺、お前らまだ動けるか?」

 

 二人はうなずく。先程のギンジよりも人間らしさを見たおかげか、怪人という事実はあれど、共闘する立場を確立させていく。

 

 「作戦は?」

 

 カエデが耳元で囁く。

 

 「無い!突っ込むしかない」

 

 ああ、やはりこの男はバカだ、とレンもカエデもミドリコも思った。だけどこのバカさ加減もある意味では人間だろうか。

 

 「邪魔なのよおおー!」

 

 炎を斬り払い、リコニスの怒号が辺りに響き渡る。

 

 「そちらに行くぞ、ギンジ」

 

 ギンジ達に向かって、黄金の刃が振り下ろされる。が、レンのビーム剣がそれを阻止する。

 

 余裕が無くなったのか、それとも冷静さを失ったのか、カエデのフル回転ナックルがリコニスの腹部に命中し、天井へ向けて殴り飛ばされる。

 

 「いい加減にしなさい!」

 「グハッ」

 

 あまりの衝撃と予想以上のダメージに、リコニスの表情に苦悶が走る。

 

 続けざまに、バーナーの怪人が業火球を発射し、リコニスのめり込む天井が爆発する。

 

 「フーザーケールーナーァァァァアアアアア」

 

 ムカつくにも程がある。こんな寄せ集めみたいな奴らにダメージを負わされるなど、リコニスの大幹部としてのプライドも、【本当の正義】としての自尊心も大きく傷つく。

 

 こんなのあってはならない。

 

 再び向かうも先程と同じく、突き刺すように突進するだけ。

 

 ギンジの勝利を確信した微笑みがたまらなく悔しい。リコニスにとって思い描いていた、余裕の勝利は程遠いモノとなっている今の現状が、どんどんリコニスの冷静さを失わせる。

 

 「もうあいつは自分の怒りだけで戦ってるぜ。これは勝負あったな」

 

 まだ戦えるし、まだ動ける。先程から攻撃すらしてこないギンジにムカついてしょうがない。

 

 かくなる上は。

 

 「その負傷者を・・・殺す、絶対に!」

 「させない」

 

 リコニスの怒り狂った表情は死神ではなく、悪魔でもなく、罪から言い逃れできない容疑者が自分勝手に怒っているだけの顔つき。

 

 ビーム剣で攻撃を弾き、回し蹴り、さらに回転を加えた剣術により、リコニスが押し返される。

 

 膝を付き、後退させられ、自分のやられたことだけが鮮明に、そして確実にリコニスを狂わせる。

 

 「全部、全部全部全部ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ許さない!!!!!!!!!!」

 

 退屈。それが彼女の悪の動機。自分が面白くない事は、すべてが悪として生きてきたリコニスはもはやわがままを言う子供の様な勢いで、わめき散らす。

 

 「終わりだ。大幹部リコニス。俺様達が、お前の言う正義に勝った」

 「これでチェックメイトってやつだぜ、リコニス様よぉ」

 

 リコニスの後頭部には、バーナーの怪人のレールガンが構えられる。

 

 「っ・・・」

 「観念しなさい」

 「もう、貴女は、ここで終わり。ヘルブラッククロスなら、許せない」

 

 レンの顔にも怒りがある。カエデにも同じ様に。

 

 「まだだ・・・」

 

 苦し紛れか、それとも新たな妙案を思い出したのか、リコニスは不敵な笑みを浮かべる。

 

 そこでギンジはある事を思い出す。

 

 (バーナーの怪人って一度切りの出撃・・・そして理由はヘヴンホワイティネスに破れたから・・・だが、なんだ?なんかまた妙な違和感が)

 

 バーナーの怪人の心を助けた。ヘヴンホワイティネスは菊沢トモカを助けた。

 

 イレギュラーは佐久間ギンジと大幹部リコニスの登場。

 

 「これでおあいこよ」

 

 次の瞬間に起こったことは、ギンジにとって一生忘れられない事になる。

 

 立ち上がり様に後方へ振り向き、袈裟斬り。バーナーの怪人の右腕が綺麗に斬り落とされる。

 

 「なっ・・・なんだと」

 

 全員が驚いた。そして動けなかった。

 

 次にリコニスの行動は、バーナーの怪人に刀を突き刺す。

 

 刺された場所は・・・左胸。

 

 それまで攻撃しなかったギンジの中で何かが切れた。

 

 「テメェエエエ!!!」

 

 何が起こったのか、理解が追いつかず、バーナーの怪人は倒れる。

 

 そして刺された事を確認したギンジは怒りが身を包む。

 

 「さっきの私と同じだね〜ギンジちゃ・・・ん」

 

 なんだこれは。

 

 今リコニスもカエデもレンも、誰よりも強い意思の力を感じ取った。

 

 (・・・今、何を思ったの私は)

 

 リコニスの顔がひきつる。

 

 ギンジを怒らせたかった。それは間違いない。けど、それよりも自分が敗けそうな事が許せなかった。

 

 だからギンジの心を壊してやりたかった。そうすれば逃げられると思ったから。なのに、なぜ。

 

 (なんで・・・)

 

 なんで、怖いなんて、思っているのだろう。

 

 一先ず、動かなくなったバーナーの怪人を飛び越え逃げ出す。

 

 (まずい、まずい、なんでこんな事に)

 

 ギンジがキレる事は予想できていた。なのに、いざ怒らせたら、悪戯がバレて逃げる子供の様に逃げ始めていた。

 

 情けないとか、悔しいとか言うよりも、本能が逃げろと言っている。

 

 今のギンジは・・・怪人を通り越した【何か】だ。

 

 「やっと本性を表したね〜ギンジちゃん」

 「があああああ!!」

 

 何か言葉を紡いで時間稼ぎをしないと、この怒り狂った【何か】の威圧に押しつぶされそうになる。

 

 「うるせえええ!!」

 

 ギンジの後ろに倒れ付すバーナーの怪人から炎が逆巻く。

 

 その炎はギンジの両腕にまとわりついて行く。

 

 蛇の様に絡み合う炎の腕が、リコニス目掛けて振り回され始める。

 

 「何が起こってるの・・・」

 「解らない、だけど、敵同士潰し合ってくれれば、好都合。ミドリコを運ぼう、カエデ、手伝って」

 

 ギンジとリコニスがぶつかり合うその背景ではカエデとレンが負傷したミドリコを担ぐ。

 

 「あ〜やっぱり、気が変わってきたな〜。やっぱギンジちゃんも殺しちゃお」

 「やってみろコラ!」

 

 恐怖は拭えたのか、それとも怒り狂うギンジが滑稽に思えたのか、リコニスは再びあの悪魔のような顔となる。

 

 黄金の刀と炎の腕がぶつかり合う。

 

 金属が衝突する様な音を響かせながら、刃が擦れ、炎が弾け、命を散らしていく。

 

 「クソ!クソ!クソおおお!!」

 「そんなんで、勝てるの〜・・・?」

 

 友達が刺された。それだけでギンジにとって戦うのには十分な理由だった。それに、このリコニスというキャラクター。

 

 自分が好きなキャラだった故に、こんな猟奇的で、自分勝手に他人をかき回すキャラだとは思ってなかった。

 

 だけど、これだけは許せない。笑いながら命を奪うなんて、簡単にそんな事をするような奴は、ギンジの正義の基準で考えれば、絶対に許しては行けない。

 

 怒りと、バーナー怪人の炎がギンジの身を焼いていく。怒りでそんな事は気にならないが、徐々にそれは身体を蝕んでいく。

 

 「ぐっ・・・」

 

 身体に痛みが走る。

 

 それでも怒りは収まらない、動きは止まらない。

 

 「ウラアアーー」

 

 爆炎の右手がリコニスの肩をめがけて、叩きこもうと腕を伸ばす。

 

 「どうしてそんな所殴るのかしら」

 

 あっけなく刀で手が弾かれる。

 

 「もしかしてギンジちゃん、私が女の子だからって怪我させない様に戦ってる?意外と紳士なんだね〜」

 「そんな事は・・・」

 

 一瞬の隙をついて、黄金の刃がひと振り、ふた振り、3、4、5、と連続で斬りつけられる。

 

 「きっちり痛めつけてやるわ!」

 

 ギンジも出血が大きくなる。血に濡れても、両腕の炎は消えない。

 

 消えたのはギンジの戦意だ。

 

 「もう抵抗もできない?痛い?ミヤコにそのボロボロの姿見せたら、あの子どうなっちゃうのかなぁ〜!」

 

 嬉しそうに無抵抗のギンジを斬り続ける。

 

 「なにやってんのあいつ・・・」

 

 ミドリコを担ぎ上げ、ギンジを見たカエデの視界にはただただ攻撃をもらい続けるギンジの後ろ姿。

 

 「ほらほら、正義のヒーローなんでしょ!?ヘルブラッククロスを裏切ったんでしょ?真面目に戦わないと、ギンジちゃんの首をミヤコに届けちゃうよ?そして絶望したミヤコも殺しちゃうよ?ねぇ?その後、聞いてた以上に弱かったヘヴンホワイティネスも殺しちゃおっかな〜?キャハハハ」

 

 好き放題言ってなおもその刃は止まらない。その言葉の一つ一つが今までのヘルブラッククロスとは違う、明確な殺意を感じ取ったカエデは、大きく怒りの感情がこみ上げてくる。

 

 (なんで、動かないのよ、あいつ・・・)

 

 もどかしい。ミドリコをレンに任せると、カエデはギンジの方へ走り出す。

 

 「動かないの?」

 

 目線は怒っている者の、その身体は動かないギンジ。

 

 そうだ、こんなのに恐れる事はないんだ。だって私の方が強いのだから。リコニスは自分の強さに裏打ちされた自身で、ギンジを痛めつける。

 

 「そう、動かないんだ?じゃあ、壊れろ」

 

 最後は冷たく言い放ち、首をめがけて、黄金の刀が横薙ぎに振るう。

 

 「俺の命の恩人まで・・・手にかけようとするんじゃねええぇーー」

 

 鮮血にまみれた燃える左手で、リコニスを殴りつけるギンジ。

 

 「なっ・・・はっ?」

 

 あまりにも予想外な一撃の重さに、困惑する。

 

 「この最低最悪の・・・悪魔ァァ!!」

 

 さらにギンジの後ろからカエデが、全力の助走をつけて飛び込み蹴り。

 

 「必殺!オーバーチュア!」

 

 カエデの必殺の拳が技名と共に、正義の光の如く、閃光を纏う。

 

 「吹き飛べーー!」

 

 まさかの二撃に窓の外へと、飛ばされる。

 

 しかし、パワードスーツのブーストで落下は防ぎ、空中を舞う。

 

 「へぇ〜・・・ミヤコが弱点なんだね、ギンジちゃん」

 「テメェ!ミヤコに手を出したら・・・」

 「組織を裏切ったギンジちゃんが、またドクターミヤコの所に戻るの?」

 

 その言葉にギンジは我に返る。隣には、神宮カエデ。彼女の瞳を見ると、もう二度と、寝返るチャンスは来ないかも知れない。

 

 「ヘルブラッククロスに戻れるなら、ミヤコを守れるかもね〜」

 

 もう決めた事なのに、また決心が鈍る。

 

 いや、まだだ。まだ、リコニスに対して切り札がある。

 

 「俺は組織には絶対戻らないけど、ミヤコには最強のガードがいるぜ」

 「・・・」

 

 それを聞いた途端、リコニスの表情に陰りが見える。

 

 「オーク怪人はお前の天敵だ。さらに言えば、あいつは俺たちと同じフェーズ2の怪人だぜ。解ったらミヤコに手は出すなよ」

 「チッ・・・」

 

 舌打ち。別に天敵同士なんて設定はない。ギンジの信用する、オーク怪人の忠誠の深さに信じて賭けるしかない。

 

 ドクターミヤコもおそらく弱くない。組織から離れてしまう以上、もうミヤコにはしばらく会えなくなる。

 

 ならば後はオーク怪人に守ってもらうしか無い。

 

 ギンジがミヤコを守った事等一度もないのだが。

 

 「は〜白けた。謀反でもなんでもおこしなよ。好きにしなよギンジちゃん。私が興味あるのは、楽しいことだけだし」

 「おう、そうさせてもらうぜ」

 

 やはりこの怪人は、佐久間ギンジは無害なのか、そう考えながらカエデはギンジの横顔を見る。

 

 「じゃあね〜今度は絶対殺してあげる」

 

 ほんの少しだけ、早口気味に言うと、降下していき、アモーレから離れていく大幹部を見下ろすとギンジもカエデも、一つの答えが、目標が決まる。

 

 (いつかあいつとは決着をつける)

 

 一先ずの驚異が去ったことで、ギンジの腕から炎が消えていく。

 

 振り返れば、レンもミドリコも青い顔をしている。

 

 「神宮、先に下に行っててくれ」

 「え?あんたは・・・?」

 「甘白、やばそうだぞ。治療も必要だろうし、一旦救急車にでもなんでも乗らせとけ。手遅れになる前に」

 「解った・・・レン、待たせてごめん、行こう」

 

 ヘヴンホワイティネスを見送ると、ギンジは未だ倒れたままのバーナーの怪人に歩み寄る。

 

 正義を知り、生き生きしていた灰色の肌に生気はない。

 

 瞳は空いているが、赤い瞳にも、もう光が通っていない。

 

 だがそれでも怪人故に、まだ少しだけ、わずかに呼吸が聞こえる。

 

 「大丈夫か」

 「ああ・・・ギンジ・・・」

 

 先程とは違う、か細い声。死ぬ事を身近に捉えた者の声。

 

 「俺様は・・・全部、思い出した」

 

 バーナーの怪人の瞳が閉じる。

 

 「娘に、あいたい・・・」

 

 善良な一般市民。それがバーナーの怪人の素材。

 

 つまりは【彼】もヘルブラッククロスに踊らされた人形に過ぎない。

 

 「名前を・・・教えてくれるか」

 「─中、──」

 「・・・聞こえねぇよ・・・」

 「たのんだ・・・、おれ─まの、ちか─を・・・」

 

 声が出ない。かすれて、生きる力を失って、変わりにギンジへ想いを託す。

 

 「最後に、人の部分がちゃんと出てきてよかったな・・・」

 「ああ・・・ありが─う─ギ、ン・・・ジ・・・」

 

 晴れやかな気持ちのまま、悔いは残るが優しく笑顔で、バーナーの怪人は炎となって霧散していった。

 

 胸の部分が消える時、真っ赤な炎を秘めた塊が、ギンジの胸に入り込む。

 

 バーナー怪人の無念や、これからどんな人生を歩むのか、もし生きていたら、【彼】の家族に会えたのか。沢山の感情がギンジの胸の中にしまわれていく感覚が、余計に悲しくなってくる。

 

 「クソ」

 

 無人となったモールで、ギンジはありあったけの力で叫ぶ。

 

 「クソおおおおおおお!!!!!!」

 

 死。それは誰にでもぶつかる問題。

 

 命を簡単に奪われては、誰も浮かばれないだろう。

 

 ギンジはまだ、弱かった。バーナーの怪人にもリコニスにも殺されかけた。

 

 友の無念を背負ったからには、もう負けられない。死ぬわけにはいかない。

 

 自分がこの世界で生きる目標を手にし、怪人佐久間ギンジはショッピングモールを後にする。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 薄暗い道を通り抜けて、オーク怪人の待つ場所へ戻る。

 

 伝えなければいけない事がたくさんある。

 

 「リコニス様・・・?」

 

 訝しむ表情と声に、リコニスは一瞬不快になりながらも今はその感情を押し殺す。今の自分は、裏切りを伝えに来た伝令兵。

 

 「豚ちゃん、ミヤコと総統にお伝えしないといけない事があるわ」

 

 オークの怪人がその内容を聞くと、瞳孔が開き、驚きに鼻息を荒くする。

 

 「ブッヒ、その話は本当か、事実なのか?」

 「まさか、あのヘヴンホワイティネスと手を組むなんてどうかしてるわ。ミヤコの事、疑うわけじゃないけど、あれ本当に最高傑作なの?」

 「いや、しかし、ドクターミヤコに限ってそんな事・・・」

 「生きてる以上、絶対失敗しないなんてありえないわ。怪人でも人でもね」

 

 リコニスが伝えたのは一つ嘘を交えた事だった。

 

 佐久間ギンジが謀反を起こし、バーナーの怪人と交戦、そして彼の怪人をその手にかけたと。

 

 ドクターミヤコの傑作同士、潰し会いをさせたかったのは事実だが、本当の理由なんてなんでもいい。ただ、ミヤコが気に入らないからここでも事実になりえる嘘を付く。

 

 「さ、アジトに戻りましょ。私がたまたま部下の救助の為に、現場に居てよかったわね」

 

 オークの怪人が背を向けて暗闇にあるき出す。その表情はどこか信じられないのと焦りを感じる

 

 その背中を見たリコニスの顔は特に変わらず、でも内心はかなりほくそ笑んでいる。

 

 (せいぜい、無駄に暴れて皆壊れちゃえ)

 

 オーク怪人の後を追うように彼女もまたヘルブラッククロスだけが通れる道を進んで行く。

 

 無人となった路地裏では、虚しく風が吹く。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ミドリコの応急処置を終えて、救急車の中でカエデとレンが二人手をつなぎ合っている。

 

 あれからトモカとも連絡がとれて、皆無事である事が確認できて、一安心だ。

 

 カエデが閉めてしまった扉については、焦って間違えたということにした。

 

 何をしているか、事実は話せない以上こう伝えるしかない。

 

 「で、なんであんたも乗ってるのよ」

 

 不安な表情になりつつもカエデは向かいに座るギンジに声をかける。

 

 ショッピングモールから抜ける時に、眼球隠しの為にサングラスまでちょろまかして、ギンジは三人の元へと戻って来ていた。

 

 「いや、俺もけが人よ?」

 

 見ればところどころ傷口があり、まだ出血も止まっていないのか、生々しい程にギンジの身体は傷だらけだった。

 

 「他に、行く所もないしな、さっき言ったろ、俺はお前らの力になりたい。きっと役に立てるぜ」

 「信用は、できない。私達は、ヘルブラッククロスが嫌い。きっと扱いは、ひどいよ。いいの?」

 

 レンなりの気遣いだろうか、初めて人間らしい怪人を見た時に、嘘は言っていないように見えた。その言葉の真意としては、ギンジが人間であるなら戦いに巻き込みたくはない。

 

 「構いやしねーよ。俺は、お前らの正義の為の行いを見てきた」

 

 何を言っているのか。まだヘヴンホワイティネスは活動を開始して、二ヶ月も無い。全部見てきたのか?

 

 「そんな不思議そうな顔すんなよ、言っただろ、俺は未来を知ってるって。お前らの身に今年何が起こるのかを俺は知ってる。全部な」

 

 疲れ気味にギンジはもたれる。

 

 「いずれ、なんで知ってるのかは信用を得られた時に話すよ。今言っても余計な混乱を招くだけだからな」

 

 二人の少女は確かにギンジが守りたいと固く誓った女の子達だ。菊沢トモカの無事を聞いたときも、感嘆のため息を漏らしていた。

 

 ミドリコが一命を取り留めたときは三人揃って安心していた。

 

 「君が信用を得るまでに、何をしてくれるんだ」

 

 ミドリコの意識ははっきりしている。

 

 ギンジへの問いかけはこの三人全員が聴きたい事だった。

 

 「お前らを守り続ける。人の未来を奪ってヘラヘラ笑っている奴らを放っておくのは駄目だ」

 「・・・そうか」

 

 その言葉の重さをギンジは強く受け止めた。

 

 ゲームの通りの日時でイベントが進んでも、ゲームの通りに行かないこともある。

 

 3月9日。この日はギンジに取って絶対に忘れてはいけない日になった。

 

 ヘヴンホワイティネスを助けて、菊沢トモカも助けられた。

 

 だが、この世界ではじめての友達は助けられなかった。

 

 度固化病院に向かう道すがら、四人を乗せた救急車は、夕方の繁華街を超えて行く。寂しさ、覚悟、痛み、悲しみを乗せて。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 無造作に散らかった机に八つ当たりをしていく。

 

 書類が舞い飛び、ペンやハサミ、パソコンなどがどんどん破壊されていく。

 

 「あーもう!なんで!なんで!」

 「ど、ドクターミヤコ、お気を確かに」

 

 護衛の紫が珍しく憤慨する彼女を止めようにも、ハサミやカッターが飛んでくる為手に追えない。

 

 睡眠を邪魔され、総統に呼び出しを貰ったかと思えば、自分の愛する者が裏切り?謀反?傑作同士が殺し合い?

 

 全てがミヤコにとってありえない事だった。なぜならドクターミヤコにとっては完璧かソレ以外しか無いのだから。

 

 「おまけに、フェーズ2の量産を限られた数しか作れなくなるなんて・・・」

 

 今までのドクターミヤコの功績を考えれば、これぐらいの処遇が適切と捉えた総統の判断。それに逆らわないとしても、怪人開発が今後はスムーズにできなくなる。そのリソースを逆に兵器開発に回して欲しいというのだ。

 

 「あーら、ドクター、そんなに怒ってたらかわいい顔が台無しだよ〜」

 「フーッ、フーッ、リコニス・・・」

 

 怒りで髪は逆立ち、ツヤのいい黒髪はボサボサになっていた。

 

 「ねぇ、あの裏切り者、私に追わせてよ」

 「ッ、駄目だよそれは」

 

 リコニスが何を考えているか解っている。それはきっと佐久間ギンジの殺害だろう。

 

 「あ、もし殺される、なんて思うならそれは勘違いだよ。私は、ギンジちゃんに興味が湧いたんだ〜。無傷は無理でも、捕まえる許可をくれれば、すぐにでも行ってきてあげるよ」

 「わたしの部下の責任はわたしが取る・・・お前の手は借りない」

 「へぇ〜じゃあ、私が勝手な事をしたらどうする・・・?」

 

 リコニスとミヤコが激しく火花を散らし合う。

 

 「お言葉がすぎますね。貴女がドクターミヤコのお役に立てるとでも?」

 

 間に入ったのは静かな怒りを灯す棒人間、紐の怪人。

 

 「あっし達の領域に入らないでくれませんかね、リコニスさん」

 

 続いて、リコニスの背後には触手の怪人。

 

 「チワワ、お前嫌い。なんか臭そう」

 

 ただの悪口を言いに来た犬の怪人。

 

 「キキキ、ドクターに装備を作ってもらった分際で、あまり偉そうにはしないことだ」

 

 その面々が揃う天井では、コウモリの怪人。

 

 「・・・」

 

 ふわふわと浮いているだけかと思いきや、その目線はしっかりとリコニスを警戒するタコ怪人。

 

 「あらら、嫌われたモノね〜。えーんリコニスちゃん泣いちゃう〜」

 「泣きたいのはドクターミヤコだ。リコニス、今これ以上おちゃらけた事を話すつもりなら・・・ミヤコ派とリコニス派で戦争が起きるぞ」

 

 オーク怪人は全てを察していた。おそらくこの女が、ギンジを戻れなくした何らかの原因があると。

 

 それがたとえ自分の勘違いならそれでいい。ギンジの意思でもう戻らないと決めたのならそれもよし。どちらにせよ怪人達は組織に、いや、ドクターミヤコという【母】についていくだけなのだから。

 

 「あら、怪人をこちらに差し向けるの?」

 

 今この場で叩くなら間違いなく、リコニスは敗けるだろう。

 

 ソレほどまでに怪人達の憤りと敵意を感じる視線は、リコニスを部屋から追い出すのには十分だった。

 

 「あんた達ぃ、それぐらいにしときなさいよ。その子、かわいそうぢゃん」

 

 美しい妖艶な声。狭い研究室なのに、次々と怪人が現れる。

 

 キャットスーツに身を包み、黒い羽と黒い尻尾。茶色の髪と香水、化粧の香りが、女性であることを意識させられるような見た目。

 

 「はじめまして、皆様。あーし、サキュバスの怪人。しくよろ」

 

 軽めの挨拶を済ませると、サキュバスもリコニスを敵意丸出しの態度で挑発する。

 

 「女性に対して無礼ですよ、皆さん」

 

 もう一人甲高い女性の声。

 

 サキュバスほどではないがこちらも露出の多い、大事な部分だけを隠したビキニアーマー、腰巻きの鎧、腰にぶらさげた長剣、左手の盾、ラウンドシールド。そして漆黒のマント。

 

 「お初にお目にかかります。私の名前は、剣士の怪人。以後、お見知りおきを」

 

 新たなフェーズ2の開発は完了していた。その為、本日を以て、この場に姿を表したドクターミヤコの新たな部下。

 

 「ふーん・・・つまんな」

 「なら早く出ていってくれるかしら。わたしは今、も、ものすごく虫の居所が悪いの」

 

 お互いににらみ合いながら、リコニスは部屋を抜けていく。

 

 振り向きざまに、ミヤコを見ようとしたが、怪人達が壁になってもう見えなくなっていた。

 

 「いつか泣かしてやる」

 

 捨て台詞を吐くと、リコニスはアジトの廊下を苛立ちながら歩き去る。

 

 「さぁ、ドクターミヤコ、我々に指示を」

 

 オークの怪人をはじめ、護衛の紫、紐、触手、タコ、犬、コウモリ、サキュバス、剣士、それぞれの怪人がミヤコのデスクの前にひれ伏す。

 

 彼ら彼女らの目的はドクターミヤコの成功の為に尽力し、己の命を燃やすこと。

 

 その為なら組織などどうでもいい。全てミヤコの為に生きているのだ。

 

 「取り乱してごめんなさい」

 

 ミヤコの謝罪に、怪人達は何も言わない。我々がもっと配慮できていれば、とそれぞれの思惑が飛び交う。

 

 自分を造ってくれた大いなる存在に、頭を下げさせるなんてあってはならないのだ。

 

 「はじめましょう、作戦会議を」

 

 静かに言うと、ドクターミヤコは計画を練り直す。

 

 何をしても許してくれる組織にミヤコなりの忠誠があっても、自分の愛する怪人を二人失うのは、許せない。

 

 ヘヴンホワイティネスを倒す。陵辱などどうでもいい、佐久間ギンジを奪ったあいつらを倒す。一般市民も邪魔するなら殺す。

 

 警察も公安も正義も悪も。すべて邪魔になるなら倒す。

 

 「わたしの正義の為に。くふふ」

 

 またひとつ。大きな闇が動き出そうとしていた。

 

 未来への歯車が、また動きつつあった。

 

続く

 

 

 

 




お疲れ様です、アトラクションです。

バーナーの怪人ってうちこみすぎて、キーボード見なくても打てるようになりました。

会社のレポートでバーナーの怪人とか打ち込んじゃって黒歴史作る所でした(滝汗)

今回は設定等を書きます。

ヘヴンホワイティネス
言わずと知れた正義のヒーロー。ギンジが転生するまえの世界にて26周もあそんだエ○ゲー。本作の色々な鍵であり、神宮カエデ、宮寺レン、甘白ミドリコが所属する正義のヒーロー。
本来の未来であれば、彼女達は快楽に堕とされるはずだった。

ヘルブラッククロス
言わずと知れた悪の組織。目的は日本を転覆させ、独立国家を構成すること。ヘヴンホワイティネスに苦しめられた為、取り込もうとするがドクターミヤコが復讐に燃えた為、陵辱計画は無きモノに。

怪人
戦闘員より強力な戦力。総統が手に入れた怪人の細胞をミヤコが改良し、処女の生き血+怪人の細胞+なにかで生まれる存在。
生き血に関しては今まではミヤコの血で代用してきたが、現段階では彼女にも怪人の細胞・改が入っているため、どうしてもフェーズ2の怪人が生まれる。

怪人の細胞、細胞・改
総統が手に入れた闇そのもの。無機物と血液や、人間以外の動物に作用し、変容を繰り返す細胞。
佐久間ギンジは善良投与された事により、彼の定着した細胞とミヤコの細胞が混ぜられることとなった。これにより容易にフェーズ2の怪人の研究が簡単になった。ゲームには登場しない。

公安
甘白ミドリコ、藤原が所属する公安警察。
国家全体に対する驚異の集団に対して専門的に立ち回る組織。機密性が高い為、一般的に甘白ミドリコはただの警察としての扱いになる。

なおこの世界では給料が低いと(ミドリコの意見)不満がある。

神宮財閥
神宮カエデの実家。普段は強気なカエデだが、家ではちゃんとお嬢様してる。父親は18代目

さてさて、今の所紹介できる設定はこんなところでしょうか。
ちょっと展開に無理やり感もあるかとは思いますが、ぜひ楽しんでいただければと思います。
感想等くれればもう歓喜の怪人になります。
それでは、また次回で!
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