正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちはアトラクションです。

今回のお話は長くなりましたので、適度に休憩を挟みながらごらんください

そしてなにより、この物語が50話ですよ!7月に始まった時、絶対ここまで行かずにエターするかとも思ってたのに、なんだかんだ続いてますよ!!やったー!続けられてる!物語書くのたのしー!

それではどうぞ


50・残った者、外された者

 

 西の高校の校舎からグラウンドまで移動するぐらいの勢いで、カエデとリコニスの激しい戦いが続いていた。

 

 金属がぶつかりながら擦れる衝突音が、鳴り響き火花が散らしながらもお互い一歩も譲らない。

 

 リコニスの刀の操り方は我流らしい荒々しい攻撃だが、なんの特殊な能力を一つも持っていない彼女のタフネスと、荒くとも的確な人間の弱点を狙う攻撃は、カエデを次第に恐怖に追い込んでいく。

 

 (くっ!やっぱりこいつ強い!)

 

 まかり間違ってもリコニスはヘルブラッククロスの大幹部。単身でここまで登り詰めている実力は伊達ではない。

 

 「ほらほら!ヘヴンホワイティネスのカエデちゃ〜ん!避けてばかりじゃ勝てないよ〜!!?」

 

 お互い接近しないと攻撃が出来ないが、武器がある分リーチはリコニスが勝る。

 

 対するカエデは格闘術を習っていた身分であり、隙きあらばリコニスの胴体や関節に重い打撃を叩き込んでいるが、リコニスにはあまり決定打にはなっていない。

 

 黄金の鎧による防御力もさながら黄金の刀による猛攻も、カエデにとってはかなり危ない武器と判断している。

 

 「ヒャハハハ!やっぱり相棒が居ないと辛いんじゃなーい!?」

 

 甲高い笑い声はまさしく悪魔そのもの。それに加えて人として恐怖を感じやすい、悪意の気迫はカエデの背中にゾクゾクと鳥肌を立たせる。

 

 「うるっさいわね!あんたなんかあたし1人で!」

 

 右脚を砂の地面に踏み込ませる。

 

 「ギンジもレンもミドリコも居なくても!」

 

 左手を腰の下に落とし、深く構える。

 

 「絶対に倒すんだから!」

 

 思い切りギアを回して、構えた左の拳が正面に立つリコニスの腹部・・・守られていない臍の部分をめがけて突き出す。

 

 「にゅお!??」

 

 地面を滑るように全身を突出させた突き出す拳は、身体全体で繰り出す大砲。それも攻城砲とでも言うべき回転力と破壊力を秘めたカエデの新しい必殺技が打ち出された。

 

 キャノン・ストライク。そう名付けたカエデの悪を懲らしめる大破壊拳は、リコニスに避けられてしまっているが、流石にこの迫力にはリコニスも避ける事が正解と判断したのか、表情には焦りを見せている。

 

 口笛を吹いて煽っているのか、避けて正解だったと思っているのかは不明だが、リコニスはがら空きになったカエデの首をめがけて黄金の刀を振り下ろす。

 

 「必殺!!」

 「・・・!」

 

 隙を晒したのは、あくまでも布石。油断を誘おうとしたのはカエデの方だった。

 

 使わなかった右手の方は赤いオーラをまとわせている。カエデから見た左側に立つリコニスをめがけて更に必殺技を叩き込む準備を、キャノン・ストライクと同時に用意していた。

 

 「これで倒れろ!チャージング・バスターフィスト!!」

 

 右のガントレットを早く回して、身体をひねる様な姿勢で解き放つ必殺の拳は、リコニスの身体に深く命中する。今度こそ捉えたむき出しの腹へと、カエデの必殺技が叩き込まれた。

 

 「ぬっ・・・ああああ!」

 

 体重をものともせずに、刺さった拳のままリコニスを持ち上げて、投げ飛ばす。

 

 おおよそ常人ならば死んでいる筈の攻撃だが、リコニスは地面に身体をぶつけた勢いで転がり、脚と刀で地面に線を作りながら体制を整える。

 

 「へぇ〜・・・やるようになったんだね。前より強くなっててリコニスちゃん関心しちゃう〜・・・その方がぶっ殺しがいがあるわ!」

 「まだ倒れないなんて・・・」

 

 力はまだ使い果たしていないが、それでも倒せるだけの自信はあった。まだまだ余裕に立ち上がるリコニスを前に、カエデは自分のプライドが少しずつ崩れて行く感覚に敗けそうになる。

 

 やっぱり1人では勝てないのか。

 

 「あれれ〜?この私を倒せると、本気で思ってるの〜?ヒャハハ、かわいい〜」

 「・・・ッ!」

 

 いつの間にかリコニスがカエデの前に肉薄していた。間違いなく今度はリコニスの番。黄金の刃による突き刺し攻撃が、スーツに飛んでくる。

 

 防御が一瞬遅れるが、なんとか直撃だけは免れた。おそらくリコニスの攻撃は実体にまで届きうる攻撃力。

 

 そんなモノをモロに貰う訳には行かない。

 

 必死に間に合わせた防御により、腕が弾かれる。

 

 「は〜い♡がら空き〜!」

 「しまっ・・・」

 

 腕が上に弾かれ身体がまる空きになったら、次はその全身にリコニスの黄金の刃による連続攻撃。

 

 スーツが防いでくれるとは言っても、そのダメージはほとんどの場合本人の身体にも入ってきてしまう。実体に届くというのはその身体に傷を与える攻撃になる。

 

 今までの強敵達もカエデの実体に届く攻撃は行われて来たが、リコニスの容赦の無さだとか確実に命を狙う様な攻撃の数々は、今まで戦ってきた敵の比ではない。

 

 袈裟斬り、突き刺し、上段打ち下ろし、蹴り、横胴、突き上げ。

 

 「がっ・・・ごほっ・・・〜〜ッ調子にっ・・・乗るな!」

 

 一瞬の隙も見せない攻撃に、無理やり割り込みながら両の拳を叩き下ろすが、リコニスの黄金の鎧によって対したダメージにはなっていない。

 

 顔を狙うべきだったと後悔するが、両腕の間にリコニスの顔が入り込んでくる。

 

 普通であれば可愛らしい顔は、他人を小馬鹿にして、しかし殺意を秘めた瞳は同じ人間とは到底思えない。

 

 死神。それも無邪気さを残していながら、確実に命を刈り取る残忍な死神。

 

 鎌の変わりに持つのは黄金に煌めく刀。

 

 「はい・・・それじゃあもう死んでよ」

 「・・・っ!!!」

 

 リコニスが黄金の刀を自身の顔と同じ高さに構えて、その切っ先はカエデの目線と同じぐらいの所まで来ている。

 

 このまま突き刺される!

 

 (あ・・・死ん・・・)

 「破邪の剣!!」

 

 声がしたと思った瞬間、リコニスとカエデの間には虹色に輝く剣が飛び込んでくる。

 

 それはリコニスをめがけて真上から飛んできたが、一瞬で攻撃を察知したリコニスは背後に飛び退きながら、虹色の剣を見つめる。

 

 見開いた眼は怒りと驚きに充血している。

 

 「な〜に〜よ〜・・・まーだ何か居るの〜??殺すわよ?」

  

 犬のように四つん這いに近い体制で、唸る様な声音でリコニスが睨むと、カエデの背後からは銀色の修道服を身に着けた女性が、ヘヴンホワイティネスの庇うように現れた。

 

 「何者・・・?死にたがり?」

 「なに・・・友人がピンチなのでな。急いで来たのだが、まさか神宮君が押されているとは思わなくて、助太刀させて貰ったよ」

 

 現れたのはかつてゲヘナミレニアムを壊滅させた、ヘルブラッククロスの警戒する危険人物。

 

 「ふーん?」

 

 つまらなさそうな態度のリコニス。

 

 「ヘヴンホワイティネスの味方・・・退魔警察・出動だ!」

 

 熊沢レイナ。退魔警察がカエデのピンチに加勢に現れた。

 

 「れ、レイナさん・・・どうして?」

 「甘白さんに頼まれてね」

 

 長めの髪を束ねた修道服は、レイナの美しさをより際立たせている。虹色に光輝く剣、破邪の剣を地面から引き抜くとレイナはリコニスに切っ先を向けた。

 

 「覚悟・・・してもらおうか」

 「・・・は〜〜〜、つまんな」

 

 せっかくヘヴンホワイティネスの殺す直前まで来たと言うのに、ヘルブラッククロスの同盟組織を壊滅させた女が現れるなんて・・・これ以上つまらない事に身を投じていると、メインイベントに遅れる事になる。

 

 「ちょっとさ〜・・・ミヤコを泣かす事が出来なくなっちゃうじゃん。ギンジちゃんも差し出してもらわないといけないんだからさーー」

 「どうしてミヤコを狙ってるのか知らないけど、あんたはここで倒すわ!絶対に!」

 「ヘルブラッククロスが相手ならば、私も容赦する気はない。加勢しよう」

 

 カエデとレイナが構え始めるが、リコニスはさもつまらなさそうに、刀をしまう。

 

 こういう気分で動く所が組織内で協調性が無いと言われる所以だが、特に本人は気にしていない。

 

 「殺せないのは残念だけど、お誂え向きなのあげるよ」

 

 指を鳴らすと、カエデとレイナの背後に、真っ黒な鎧に身を包んだ大きい身体の怪人が上空から落ちてきた。

 

 それと同時に校舎の方からもう一体飛び出てくる。

 

 背後の方は大盾を2つ携え、前方の方は血のついた長斧を二本携えている。

 

 「逃げる気!?」

 「逃げないよ〜・・・ミヤコを泣かしに行くの♡」

 

 カエデの叫びにリコニスは心底馬鹿にした声音と喋り方で、カエデとレイナを見下す。

 

 「行かせない!絶対に!」

 

 大きな鎧の怪人の横を抜けようと、カエデが走り出したがその進行方向を、長斧が塞いでしまう。

 

 「その暗黒騎士型鎧の怪人は、手強いよ〜・・・」

 

 学校のグラウンドを歩き去ろうとするリコニスの背にカエデが必死に叫ぶ。

 

 「リコニス!!」

 「も〜うるさいな〜!大丈夫だよ、ギンジちゃんもすぐ追わせてあげるから・・・」

 

 その言葉の意味はおそらく地獄で会わせる・・・つまりギンジをも殺すつもりなのだ。

 

 ミヤコを泣かす・・・ギンジを殺す・・・そして・・・レイナの登場、友人がピンチ・・・。

 

 この一瞬で色々と考える。頭の中をフル回転させて答えを導きだす。

 

 ヘルブラッククロスの今日の目的は、ミヤコを泣かす事との事だが、そこにはギンジも絡んでいる。

 

 (・・・何かしら、嫌な予感がするわ)

 

 こういう時の嫌な予感はかなり的中しやすい。

 

 「神宮君!あの娘を追うのは後だ!この怪人を片付けるぞ!」

 「・・・ッそうね!」

 

 レイナの声にカエデが我を取り戻し、眼の前の鎧の怪人との戦いに集中する事になる。

 

 そうしている間にもリコニスは呑気な表情で、グラウンドを歩いて離れていく。小さくなっていく黄金の鎧を悔しく眺めて、眼の前の敵の撃破に挑む。

 

 カエデとレイナがこの暗黒騎士型鎧の怪人を倒すのには、裕に30分以上もかかってしまい、その頃にはリコニスの姿も気配もそこには既になくなっていた・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 暗黒騎士型鎧の怪人を撃破したカエデとレイナは、パトカーに乗りながら中央度固化市に戻ろうと急いで走らせていた。

 

 「済まない・・・」

 

 余計な事をしたとは思いつつも、ギンジの仲間であるカエデをあのまま見守る事は出来なかった。

 

 レイナは運転に集中しつつも、傷ついて何やら考え込んでいるカエデに目線を送る。

 

 「ううん、大丈夫。それより、レイナはどうしてここへ?」

 「ああ、これだ」

 

 運転しながらレイナはポケットからミドリコの端末を取り出した。

 

 怪人反応や、変身している味方を見つける事が出来る万能なセンサー。掌におさまるぐらいのスマホにも近い機能をそなえたマシンを、カエデに手渡した。 

 

 これがあった事で西度固化市にいるカエデを見つけて、場所まで割り出して合流したとの事。

 

 「まずい事になってな・・・」

 

 運転しながらレイナの表情は非常に焦燥感が強く出ている。

 

 「先ず・・・落ち着いて聴いて欲しいのだが、甘白さんに逮捕状が発行された」

 「ええ!??」

 

 耳を疑う衝撃的な内容に、カエデはとにかく驚愕してしまう。

 

 「もちろん甘白さんは何も罪を犯していない。逮捕状が公安警察に出されるとしたら、待っているのは社会的な抹消と、物理的な抹消・・・それから」

 「いいわよ!そんな話しは!それよりミドリコは今なにしてるのよ!」

 「・・・山吹さんと共に逃走している、が」

 

 レイナの声は、最早どうして良いのかわからないと言った声音をしている。冷静に見えてかなりソワソワしている。

 

 「ミドリコ・・・」

 「甘白さんの逮捕状はなにかの間違いだ。たまたま一緒に行動している最中、取り囲まれてな・・・正直初めての事だから恐れたよ」

 

 車は赤い残光を残して、どんどん速度を上げていく。

 

 ミドリコと後に落ち合う連絡をしているレイナは、中央に入るやいなや、工場エリアへとパトカーを走らせる。

 

 「とにかく情報が少ない。先ずは皆で合流する事からだろう。宮寺君とは連絡は取れるかい?」

 「あ・・・レン、そうだ、連絡しなくちゃ!」

 

 よほど慌てているのと、ミヤコを泣かそうとしているリコニスの顔が頭から離れず、カエデも冷静では居られなかった。

 

 「レン・・・電話に出ない・・・ギ、ギンジも・・・」

 

 冷静になれないカエデは一気にいつもの余裕を失っている。

 

 ギンジをも殺そうとしているリコニスの発言を、全部信じているわけではないし、ギンジが敗けるとも思っていない・・・。

 

 しかしそれは普段のギンジであれば、の話しだ。佐久間ギンジは女性が弱点だ。

 

 もし仮にギンジの前に女性戦闘員や、リコニスが迫ってきているのであれば間違いなく捉えられるだろう。

 

 しかしレンもギンジも電話に出ない。と、するとケイタもおそらく・・・。

 

 ピローン!

 

 カエデのスマホにチャットアプリの通知音が鳴る。

 

 差出人は角倉ケイタ。

 

 「!」

 

 このチャットアプリの内容は、何事も無く無事で居てくれる様な内容であればいいと、カエデは心臓を大きく動かしながら、アプリを開く。

 

 「嘘・・・」

 

 今日はもしかしたら厄日なのかも知れない。

 

 内容はとにかく嫌な予感が的中する、残念な内容だった。

 

 「神宮君・・・済まないが、戦闘の準備だ」

 

 レイナのかけた声にカエデは車の正面を見やる。

 

 「なんだってのよ・・・!」

 

 レイナの運転する車の前には、見覚えのあるブーメランパンツと逞しすぎる筋肉とチワワの顔をした見るだけでも嫌悪感を懐きやすい、犬の怪人の姿があった。

 

 車道のど真ん中を闊歩し、その周りには戦闘員達が道を塞いでいる。

 

 「・・・これは、不味いな・・・私達はもしかしたら・・・」

 

 苦い顔をしながらハンドルから手を離したレイナ。それに合わせてカエデもヘヴンリングを構え、変身の準備を始める。

 

 「私達は孤立させられたのかも知れん・・・!」

 

 敵にここまでされるとは思っても居なかったカエデとレイナは、ミドリコと合流する為にも、決死の突破戦が開始されるのであった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ・カエデ!まずいよ!カエデハウスに怪人がおそっtききった!

 ギンジもミヤコも家に居ないし、連絡もとっrrるない!たすけて!

 レン ひとりひゃ 

 

 そこまで入力してから間違えて送信を押してしまった。

 

 あまりに焦っていてかなり文章が崩壊しているが、もう打ち直している様な時間的余裕が無い。

 

 もう上の階にはヘルブラッククロスの怪人が迫って来ている。

 

 ここはカエデハウスの地下の防空壕。怪人の急な襲撃にそなえてミヤコの開発指揮を取り作りだされた、新たな地下空間。

 

 ここに入れば電波を通さなくなる為、次の連絡は送れない。

 

 どうしてこうなったのだろうか・・・。

 

 思い返せばちょうど10分前・・・。

 

 一週間早く始まった2学期を終えたケイタとレンとカエデ達。

 

 しかしカエデは何も言わずに学校を飛び出してしまっていた。

 

 しょうがないからいつもの2人で、恋人同士で歩いて帰宅したのだが、カエデハウスの前には見慣れない人物が玄関門の前で立ち尽くしていた。

 

 「・・・あの、何か?」

 

 その人物は普通のスーツ、三つ揃いという紳士スーツを揃えた、この季節感に似合わない男が立っていたのだ。

 

 レンが話しかけると重たい鎌首を擡げるように、蛇の様な雰囲気を纏わせながらレンとケイタを視界に入れる。

 

 「ああ、これは失礼致しました・・・」

 

 男は礼儀正しくレンとケイタに一礼すると、懐から警察手帳を取り出して2人に見せる。

 

 よくドラマとかで見る様な見せつけ方に、ケイタはミドリコの同業者の訪問かと安心するのだが、レンは何かこの男に怪しさを感じている。

 

 「ああ、失礼。申し遅れました、わたくし・・・甘白さんの同僚の柏木タツヤと申します」

 

 柏木。レンがミドリコから聞いた事のある名前で、うろ覚えだった故にかしわもちさんと呼んでいた存在だ。

 

 ミドリコに武器を渡している味方だと認識している。

 

 「・・・公安警察?」

 

 レンの疑問にタツヤは普通に答えてくれる。

 

 「はい。貴女は甘白さんのご親戚の宮寺さんですよね・・・」

 

 そこまで言ってレンはタツヤの怪しさにカマをかけてみる事にする。

 

 「・・・公安の人は、同じ公安の方の家には、来ない・・・そう、ミドリコが言ってた・・・」

 「ええ、実はそのとおりなんですけど・・・」

 

 蛇のようにのらりくらりするような声音で、タツヤはおどけて見せる。

 

 「甘白さんに逮捕状が出てきてしまいましてね」

 「なっ・・・?」

 

 流石にレンにも困惑が走る。

 

 逮捕状?逮捕されるアレの事だ。それがミドリコに? 

 

 「あー面倒なので正直に言いますね。実は甘白さんには、かの犯罪組織、ヘルブラッククロスというモノに関与している疑いをかけられましてね・・・ホラ、ヘヴンホワイティネスっていうの居るじゃないですか。何かの間違いで捕虜としているのであれば、捕まえないと。本来その義務は我々警察にありますからねぇ」

 

 驚愕するレンとケイタの前で、タツヤはなおもおどけた口調で、しかし畳み掛ける様に話す。

 

 「ここにはそのヘルブラッククロスの研究者・・・ドクターミヤコが居る、そう警察の調査で出ているのです」

 

 正義の警察、いかにもそう見える様な姿勢で話すが、レンはなにかの間違いを正そうと必死に考えがめぐる。

 

 「ミヤコを・・・捕まえる?」

 「おやぁ?何かご存知のようですね」

 

 ケイタの表情一つ見ただけで、タツヤがその手を伸ばしてくるが、レンがタツヤの手を払う。

 

 「触らないで・・・ここにミヤコは居ない。貴方は、もしかしてとは思うけど・・・」

 

 ミドリコから聞いていた話しでは、公安警察同士住んでいる場所には干渉しないのが鉄則だと言うこと。

 

 しかしこの柏木タツヤはそれを破り、そしてどういう訳かこのカエデハウスにまで脚を運んできた。

 

 ヘルブラッククロスの事も知っていて、そしてヘヴンホワイティネスの事も。おまけにミドリコの逮捕状。

 

 極めつけはミヤコを逮捕しようとしているのか・・・?

 

 「ああ、そういえば・・・」

 

 タツヤは半歩後ろに下がりながら、左手を上げる。

 

 夏の夜空が見え始める蒼と黒の分かれ目が見え始めている、この不思議に不気味な空の下で、タツヤはニヤニヤとほくそ笑む。

 

 「ここには・・・佐久間ギンジなる人も居るんでしたかね?」

 「っ!」

 

 ケイタの心臓がドキリと跳ねる。この人は何か知っているという領域ではない。全て知っていてここまで来ている。

 

 そしておそらくは警察の正義のためではない。

 

 ここへ来た目的の一つであるミヤコが居ないのであれば、タツヤは次なる手段に打って出る。

 

 「ケイタ、すぐに地下へ、行って」

 「・・・うん!」

 

 レンもいよいよ不味いと判断し、ケイタをカエデハウスの玄関まで向かわせる。

 

 そしてレンはタツヤの方へと向き直るが、もう彼の姿はそこには無い。その変わり同じ場所に立っていたのは、着物の上半分を脱いで見事な筋肉の身体を見せつける様に佇む、スキンヘッドの大男。

 

 レンの背後には眼球が額部分に6つもついた奇妙でグロテスクな形をした顔の男。腕は六本もあり、眼球は黒く赤い、怪人の瞳。

 

 執事の様な燕尾服に身を包んだ6本腕の男と、半裸男がレンを挟む様に現れた。

 

 「いつからここに・・・?」

 「語るに及ばず」

 

 半裸の男の瞳が開く。やはりこのこの男も怪人だった。

 

 「はじめまして・・・だよね、ヘヴンホワイティネス。オイラ達はヘルブラッククロスの総統直属の怪人になる予定の蜘蛛の怪人っ!」

 「・・・同じく鋼の怪人」

 「そう・・・さっきの、男はどこに?」

 

 半裸の大男は鋼の怪人、もう片方の燕尾服の方は蜘蛛の怪人。新たに現れたこの両名の怪人は、カエデハウスに逃げたケイタに目もくれずにレンに狙いを定めている。

 

 「ドクターミヤコがここには居ない・・・それを聞いたから、ここを我々に任せた」

 「そーゆーこっと!お嬢さんには恨みはないけど、ここで気持ちよくなってってね!」

 

 どうやらタツヤはここでは無い別の場所に向かった様子。ミヤコを探しに行ったり、ギンジを探しているのであれば彼らも危ないかもしれない。

 

 しかしここでレンが変身して離れれば、カエデハウスのに逃げたケイタが狙われるかもしれない。

 

 (・・・)

 

 無言のままレンは変身すると、カエデハウスの玄関を背に2人の怪人へと、ビーム剣を構える。

 

 「あの男の子はバラバラにするっぜ!お嬢さんは気持ちよ〜くしてあげっ」

 「シィッ!!」

 

 蜘蛛の怪人のふざけた態度には苛つきが勝り、首をめがけてビーム剣が振り出せれた。

 

 しかしながらなんの問題なくこの蜘蛛の怪人は、後方へと飛びながら攻撃を避ける。

 

 燕尾服を翻したその瞬間に、もう1人半裸の男・・・鋼の怪人が腕を黒く硬化させてレンを頭上から殴りかかる。

 

 レンはその腕をビーム剣で防ぎ、鋼の怪人を睨む。

 

 「覚悟・・・」

 「覚悟なら、とっくにしてる・・・!」

 

 ビームハンマーに形状を変えて力の押し合いを、一度は制するが今度はレンの身体が動かなくなる。

 

 「なに・・・!?」 

 「美味しくしてあげるっぜ!」

 

 蜘蛛の怪人の上から四本の腕の指先が、わきわきと動きつつその指先からは光の反射によってわずかに見える線・・・糸がレンの手足身体に巻き付いていた。

 

 「ぬぅん!」

 

 身動きがとれないレンのボディへ、鋼の怪人の右腕が向かってくる。ただの腕かと思ったが、それは再び黒く硬化して想像を絶する一撃となりレンを殴り飛ばす。

 

 玄関の門を破壊し、ガラスを叩き割りながら皆の食卓へと転がりながらダイニングテーブルを破壊する。

 

 光を背にしながら蜘蛛の怪人と鋼の怪人が、土足のまま入り込んでくる。

 

 怪人の襲撃だけではなく、屋内への侵入までも許してしまった。

 

 「ビーム剣術・・・!」

 

 形状は牙。アギトを開いたその口からは熱を集束させた光の線を吐き出して、一筋の光線となりながら鋼の怪人の左胸の当たる。

 

 半裸の上からのその光線が当たると同時に、左胸から首、腹まで黒い硬化が広がっていく。

 

 「・・・熱いな」

 「へぇ〜まだ反撃出来るなんてやるぅー!ますます気持ちよくしてあげたいねぇ」

 

 怪人としてのサガ故に、性的欲望が大きい蜘蛛の怪人。咎めるつもりも無いのか、鋼の怪人もうなずいている。

 

 その表情は無、そのものであるが。

 

 「・・・今すぐ、この家から出て行って」

 

 この家にヘヴンホワイティネスが居ると知っていて、しかもミヤコもここに居てギンジの事も知っている。

 

 間違いなくあの柏木タツヤと言うのは、ヘルブラッククロスの一員とみなして良いだろう。   

  

 なにより怪人2人を隠しておいた事と、ミヤコかギンジを探しに来ていた理由がここに無いと知った以上、ここを怪人に任せたのだろう。

 

 すぐに怪人をけしかける以上、元々見逃すつもりも無いという意思表示。

 

 「蜘蛛、ここは任せてもらおうか。あの少年を探せ」

 「あいよー。でも壊すなよ兄弟(ブラザー)

 「もちろんだ兄弟(ぶらざー)

 

 蜘蛛の怪人がリビングから別の部屋へと向かおうとするのを、レンが妨害しに向かう。次の形状はハーフブレードにし、眼の前を斬り込みに行くが、それを鋼の怪人が前に出る形で防がれる。

 

 またもや硬化させたのは頭部。ハーフブレードを容易に弾き、レンをリビングの中心へと押し戻す。

 

 「おーこわっ!」

 「させん」

 「邪魔、しないで」

 

 形状をドリルに変えると、レンの目線は蜘蛛の怪人しか見えていない。必ずケイタの下には到達させない。

 

 「行かせない・・・!」

 「さんと言ったはず・・・だっ!」

 

 前に立ちはだかる鋼の怪人へその突撃するが、また黒い硬化で妨害される前にドリルから長剣へと形状を変える。

 

 勢いを殺さず武器を軽くした事で、鋼の怪人の足元をすり抜け、蜘蛛の怪人へと肉薄することに成功する。

 

 「ビーム剣術・・・ビーム乱舞!」

 「おほっ!」

 

 振り下ろし、突き、回転斬り、叩き下ろし、叩き、弾き・・・。眼にも止まらない速さでどんどん攻撃するが、レンの攻撃は一向に当たる気配がない。

 

 「せい・・・やっ!」

 

 レンの左隣からは右足を硬化させた、鋼の怪人の突き出し蹴りがレンの身体を飛ばして、何もない筈の空間にべちゃりと張り付く。

 

 何も無いのではなく、ここに糸・・・それも粘着性の高い糸を張り巡らせ、レンを捕獲した。

 

 「うぐっ・・・」

 「あははは無様〜!」

 「ふざ、けるな・・・ぁ!」

 

 まだ戦えるのにこの粘着性の糸によって、身体が剥がれず身動きが取れない。

 

 「ハァハァ・・・やっば、我慢できないかも。先に気持ちよくなろ?」

 「お前とは、お断り・・・」

 

 悔しいがこの怪人達のコンビネーションは厄介だ。そして個人でもかなり強い。

 

 悔しいが認めるしかない。この2人はおそらく本当に強い。

 

 だけど・・・認めたからなんだと言うのか。レンは自分の未来の為に戦って居る。シルヴァが託した願いの為、もう二度と諦める訳にはいかない。

 

 「ビーム・フォーム!」

 

 ビーム剣の形状をスーツへと変える。光熱を帯びたその光が全身を包むと、粘着性の糸を溶かしてレンの強力な戦闘形態を顕にする。

 

 青白いビームを全身に纏い、本気の力を出し惜しみせずに立ち向かう。

 

 格段な素早さの向上により、蜘蛛の怪人の顔面を殴り飛ばす。

 

 段違いな反撃力に蜘蛛の怪人が何も喋れないでいると、鋼の怪人にもその格闘術を叩き込む。

 

 最初の一撃は肌を殴り、身体を後ろに退かせた。二撃目は全く通用せず、ガン、と言う音が鳴る。ビーム・フォームによる防御能力があるのに、拳に跳ね返る音と痛みを我慢しながら、連続で拳を当てて行く。

 

 呼吸を止めてとにかく連続で殴打するが、鋼の怪人はドッシリと構えてその拳をひたすら身体で受け止め続ける。

 

 「〜〜〜ッッつ!!!!!」

 

 とにかく攻撃が通るまで殴り続ける。ビーム・フォームの出力を最大まで引き上げ、身体に限界が来てもこの怪人か蜘蛛の怪人どちらかを撃破せなばならない。

 

 「おあちゃー・・・全く痛てぇですぜ。絶対に気持ちよくなろうぜ」

 

 蜘蛛の怪人は相変わらずだが、レンにその声は聞こえていない。

 

 「・・・〜〜!」

 

 だがしかしなんとなく気配で立ち上がった事を理解したのか、ラッシュしたまま真後ろに立つ蜘蛛の怪人へと振り返り、レンの猛攻が蜘蛛の怪人へと標的が変わる。

 

 「ぐっへぇあほぉん!?」

 

 やはりダメージの通りは蜘蛛の怪人の方が大きい。鋼の怪人は聞いているのかさえわからない。

 

 再び蜘蛛の怪人を殴り倒すと、そこで息が上がってしまう。呼吸の為に動けなくなり、身体が酸素を求め焼ける様な感覚にレンはもどかしさと同時に、痛みを覚悟する。

 

 何故なら、まだ鋼の怪人は全然余裕を出しているからだ。

 

 「甘い・・・なっ!」

 

 防御も間に合わず避けるのも適わず攻める事も通じず。

 

 振り返ってなんとか反撃に転じようとしたレンの胴体へと、鋼の豪腕を打ち込まれる。

 

 全身をうち震わせる様な強烈な衝撃音と、何かが身体の中でちぎれては、ボギリと聴きたくない音が鳴る。

 

 「かはっ・・・!?ごほっ・・・ううぐっ」

 

 折れてはいないが、それに準ずる程のダメージ。実体に到達するなんてレベルではない。

 

 呼吸もまともに出来ずに、頭が痛くなってくる。視界もボヤけ初めて黒いモヤモヤが視界の端に回ってきている。

 

 (嫌だ・・・諦めちゃ、ダメ・・・ダメなのに・・・)

 

 悔しくて泣きそうになるのに、頭の中ではそう考えられるのに、身体が悲鳴を上げて再びレンに絶望が迫ってきていた。

 

 カエデはまだ来ない。ケイタは戦えない。ギンジはどこにいるのか。

 

 ミドリコは逮捕?された。

 

 (ああ・・・ごめん、ごめんなさい、皆ぁ・・・)

 

 意識が薄れる。もうダメだと思ってしまった。

 

 もしかしたら仲間達は一人ひとり襲撃を受けているのかもしれない。

 

 「ムーン・ドライバー!!」

 

 気高い女性にとも男性ともつかない勇ましい声が、ぶっ壊れたカエデハウスのリビングに響き渡る。

 

 「なにやつ・・・ってまたオイラ!?」

 

 大きな満月のシールドが蜘蛛の怪人に命中して、鋼の怪人のところまで吹き飛ばす。撥ねたとも言えるその突撃に、鋼の怪人も蜘蛛の怪人も憤りの目線を送る。

 

 緑をメインカラーとした満月のマント、満月の模様が描かれた戦闘スーツ。

 

 白く尖ったブーツをフローリングに突き刺し、月の光を宿す大盾を構える。

 

 「僕の友達を・・・恩人を・・・許さないぞ!」

 (角倉君!はやく助けなさい!)

 

 ここに来て救援にかけつけたのは、ムーン・パラディース。

 

 月島ルカが加勢に現れた。

 

 「れーーん!」

 

 泣きそうな声で叫びながら、ケイタはレンを抱きかかえてその場を離れようとする。

 

 「どう・・・して、ルカが?」

 「角倉君が連絡をくれたんだ!カエデと佐久、ギンジ君も連絡が取れないって言うので、僕が駆けつけたのさ!」

 

 「逃がすと思うかい?女の子が増えただけだろ!?一緒に気持ちよくしてやるよ!イケ!」

 「敵が増えただけだ。問題は無い」

 

 蜘蛛の怪人も鋼の怪人も、ムーン・パラディースを相手に全く臆していない。

 

 「マジカルマジカル〜!!!」

 

 次なる声はカエデハウスの上空、天井を超えた先から聞こえて来た。

 

 「エモーショナル・にゃんこハンマー!!」 

 

 天井破壊して現れたのは、巨大な鉄球に猫を焼印が入ったハンマー。

 

 この危機に乗じて、サクラも加勢に来てくれた。タイミングは最高であり、ルカがケイタとレンを抱きかかえて、ハンマーの範囲から離れる

 

 「またオイラかよ!くっそ!!!!」

 「今度は受け止めてやる」

 

 ものすごい破壊の一撃をも、この鋼の怪人は抑え込む。蜘蛛の怪人は攻撃の準備として鉄の様な色をした糸を束ね始める。

 

 「ケイタ君が必死に連絡するからね・・・私も来たよ!」

 「サクラ、ルカ・・・ありがとう、ケイタも」

 「礼には及ばないさ。サクラ、行こう!」

 「もちろん!」

 

 サクラはまた別件でヘヴンホワイティネスに用事があったようだが、今はケイタの緊急の連絡を受け入れて戦いに来てくれた。

 

 ボロボロになってしまったレンが3人にお礼を言うと、ケイタは泣きながらレンを見つめる。こんなに可愛い娘が、自分の恋人が、どうしてこんな辛い目に合っているのだ。彼氏としてこんなひどい事をするあいつらが許せない。

 

 (・・・僕にも戦う力があれば・・・!!!)

 

 この状況において戦えない事が、悔やまれる。本当に悔しく、そして情けなくとも思う。

 

 今の自分が出来る最大の援護は、ルカとサクラを呼んで、後は任せるだけ。

 

 男としては違う。本当は彼女を誰よりも守りたいと思っているのは、ケイタ自身だ。だからこそ戦う力が無いのが本当に情けなくなる。

 

 しかし今はとにかく戦闘に巻き込まれない様に、この場から離れる事に集中する。

 

 (ああ、ギンジ、カエデ、ミドリコ・・・早く来てくれ!!)

 

 角倉ケイタの悲痛な叫びは、恋人であるレンを担ぎながら、脳内でひたすら連呼されるのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 【鋼の怪人も蜘蛛の怪人も襲撃には成功。イレギュラーはあったものの、魔法少女やムーン・パラディースを相手に互角以上の成果を確認】

 

 小型に飛行型監視カメラにより送られる映像を見て、ドクターハルネは、未だ街に出歩いてはドクターミヤコを探している柏木タツヤにその報告文を送る。

 

 今ハルネが立つ場所は度固化市の工場エリア。

 

 配下として用意された武者の怪人を1名連れて、逃げた公安を追いかけるという命令で彼女がここまで来ている。

 

 「まさかこの広い工場エリアで籠城でもしようというのかしらね」

 「・・・ハルネ殿、貴女は拙者の後ろへ。拙者がお守りいたします故、どうか前には出ないように」

 

 武者の怪人はその名前に違わず、文字通りの武者だ。

 

 蒼い甲冑と腰から広がるフレアスカートに、鱗の様な止め金を合わせた装備をしている。

 

 顔は見せないのか、ヘルブラッククロスの戦闘員と同じ仮面を装着し、左右の腰、腰後ろ、さらには背中にクロスさせた刀をそれぞれ携行している。

 

 大小長短様々な刀を携えたその姿は、どことなく武神としての雰囲気を持たせ、忠義に熱い好漢にも見える。

 

 しかし怪人故か、その視線は仮面の奥からでも解る様に、ハルネの胸ばかり凝視している。

 

 しかしながら任務もある為、しっかりとハルネを守る事には心血を注いでいる模様。

 

 「犬の怪人達は突破されたそうね。今報告があったわ」

 「なんと・・・それでは犬殿が不憫だ。拙者が仇を討ってまいりましょうか・・・?」

 「目的を忘れちゃだめよ。貴方はワタシの護衛・・・そうでしょ?」

 「拙者の集中力の無さがいたす所、この罪は切腹を持って」

 「怪人四天王の座につける実力を持った貴方が、そう簡単に死のうとしないでちょうだい」

 

 そう言うハルネのミニスカートから見える脚を凝視して、武者の怪人は男の欲求が膨れ上がる。

 

 怪人として、男として、女性に対して持つ感情・・・。

 

 「斬っていいですか?」

 「・・・ふざけてるの?」

 

 武者の怪人。ヘルブラッククロスの怪人四天王(予定)となり、同時期に造られた蜘蛛、鋼と同様の総統直属の怪人になれる可能性を孕んだ、おそろしく強い怪人。

 

 しかし・・・怪人としての欲求は基本的には、性と破壊衝動なのだが、彼は破壊衝動と辻斬りが衝動としてふくれあがっている。

 

 誰彼かまわず斬り捨てたいのだが、そこを制御出来る事から強さとポテンシャルも相まって、武者の怪人は怪人四天王の座につくチャンスを与えられている。

 

 「公安の女がどこに居るのかわかりませんが、全て斬りますか?」

 「ええ、構わないわ。ワタシに被害が及ばないように斬り崩しなさい」

 

 ハルネが口角を上げて微笑ましく告げると、武者の怪人は左右の腰から刀を抜き、ジャグリングでもするかの様に手元でぐるぐると回し始める。

 

 空気を斬り裂く音を打ち出して、さらにはその音が綺麗に【斬れる】ような流れる動作を持って、工場エリアを正面にして腰を構える。

 

 全てを斬り払うその刀は、ハルネがデータを構築し造り上げたドクターミヤコを超えるための武器。

 

 聞けばリコニスの装備はあのドクターミヤコが造ったと。

 

 であれば怪人ではまだ無理でも、怪人が操れる武器だけは超えねばならない。そうしないと、ドクターパープルに認めて貰えない。

 

 アノ人に全てを認めさせて、共に力のある世界を歩んで行きたい。それだけを持ってハルネはこの作戦に協力を申し出た。

 

 「始めなさい!」

 「御意ッ!」

 

 刀を振り回す大破壊が始まった・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「ええ、それでは・・・お願いしますね」

 

 日が暮れ始める住宅街を歩きながら、タツヤはリコニスと通話を終える。

 

 どうやら彼女はヘヴンホワイティネスの1と名乗る方とぶつかっていたらしい。それの影響で、作戦の時間に遅れるようだが、合流する時に邪魔たてする者が現れるのであれば、それらの進行の妨害、及び殺害を命じる。

 

 変わりにミヤコもギンジもタツヤが1人で抑え込み、ギンジは差し出すと言う条件に変えた。

 

 ミヤコは自分が貰い、後は彼女の心も肉体も壊すつもりでいる。

 

 「しかし困りましたね〜・・・どこにも居ませんよ」

 

 居場所が解らなくとも、事前情報があればどんな悪い条件でも警察としての力を操れば、人探しなんてどうと言う事はない。

 

 今回の甘白ミドリコ、藤原、山吹イロの逮捕状にしたって、タツヤからすれば内部事情からの攻撃は容易い事。

 

 都合が悪いから怪人に任せたが、彼ら彼女らでは一筋縄では行かなかった。しかたがないから面倒だが、タツヤ自身が表に出歩いて行動を開始させる。

 

 それでも重要な事は全て怪人や戦闘員に任せて、自分は目的達成の為にしか動かないのだが。あくまで最小限の一手を心がけ、不都合が来ない様にする。

 

 それが二重スパイである柏木タツヤの戦い方。この力だけで彼は大幹部にまで登り詰めた実績を持っている。

 

 「とにかく現場をひっかき回していれば、すぐに解決すると思ったのですがねぇ・・・」

 

 ミヤコを探すのもそうそう一筋縄では行かなそうであり、少し途方にくれるタツヤなのであった。

 

 しかしながらその表情はまだ諦めては居らず、むしろ楽しくなってきたと言う感じだ。

 

 「鬼ごっこは楽しいですからね・・・この後の楽しみも増えますね」

 

 ミヤコを捕まえたらどうしようか。

 

 心が壊れるまで苦痛を与えようか。 

 

 それとも彼女の造った怪人達に陵辱させようか。

 

 ギンジの眼の前であの小さな顔を舐め回してやろうか。

 

 身体を徹底的に改造でもするのが良いか。

 

 なんにせよ今の状況はチェスで言うなら、チェックまで来ている。

 

 柏木タツヤ1人の工作や襲撃や命令。これらの事が混ざり合い、ヘヴンホワイティネスはおそらく各個足止めをされている筈。

 

 「ん〜早くチェックメイト、取りたいですねぇ」

 

 再び革靴を鳴らしてタツヤは住宅街エリアの向こう側へと、ゆっくり歩いていく。

 

 その背中には、どんな生物でも近寄れないだろう、異質な雰囲気を纏わせていた・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 時間は少し遡る。

 

 8月26日の朝。今日はいよいよカエデ達の2学期が始まる日。

 

 雪は溶け夏の熱気によって、今の度固化市は地獄の様な蒸し暑さを吐き出している。

 

 「ギンジ〜?早く起きなさいよ」

 「ぇあ?ああ、もう朝か」

 

 相変わらず寝坊しがちなギンジ、そしてギンジの部屋のベッド・・・ではなく、ベッドのすぐ横に布団を敷いたミヤコが眠っている。

 

 雪の怪人の猛吹雪によって彼女は高熱を出したのだが、どうしてもギンジと寝たいと泣き出すのでしょうがないと妥協した提案がこれだった。

 

 カエデの声で起こされたギンジは、ミヤコを起こさないように布団から出る。寝顔は本当に普通の少女。だからこそ可愛いとも思えるのだが、普段の暴走が無くて言い寄られるのであれば、もしかしたら今頃は堕とされていたかもしれない。

 

 (いやまぁ実際堕とされかけたっていうか、堕とされたしな)

 

 6月には洗脳された事を思い出してしまう。あんなに顔を近づけられれば、どうしても意識はしてしまうだろう。

 

 別に好きだとかでは無いが。

 

 「おはようギンジ」

 「おっはーさん!お、今日の朝ごはんは・・・」

 

 食パンの香り際立つトーストに、コンソメ香る卵スープ、さらには食パンに合わせられる色とりどりのジャムとクリームチーズ。

 

 付け合せにはハムと、ボイルチキン、トマトソースも完備している。

 

 用意された飲み物は真夏の朝には最高なオレンジジュースと麦茶、牛乳と豪華でご機嫌な朝食が用意されていた。

 

 「すごいな・・・」

 

 圧巻の光景に2学期からへの気合を入れているらしい。レンとミドリコは先に食事を始めており、それぞれギンジにおはようの挨拶。

 

 「ミヤコはまだ寝てるのか?」

 

 ミドリコはいつもの薄い化粧をしており、その上で朝食を取っている。レンは相変わらず意思のある一本毛が、頭頂部から生えている。

 

 「まぁ昨日色々あったしな。寝かしとこうぜ」

 

 カエデはいつもの様にプラチナブロンドを綺麗に整えており、眠そうとか気怠そうと言った雰囲気は微塵も感じられない。

 

 ギンジに取っての〈大好きな人達〉の面々は、今日も皆元気であった。

 

 「ほら、ギンジも食べなさいよ」

 「おう。ありがたくいただくぜ」

 

 カエデに言われるままに、ギンジも席につく。カエデの今の姿は学生シャツにエプロンをつけたいかにも朝の定番の姿。

 

 こんなに元気可愛いのにヒーローとかでなければ、普通にお近づきになりたいぐらいのポイントの高い女の子なのだが、ギンジはカエデを見ると微笑ましくも感じる。

 

 誰でもそうかもしれないが、生活能力があって誰とでも分け隔てなく接する女の子と一つ屋根の下で共に暮らしている事を考えたら、世の男性たちはどれだけの人数が好意を持たないでいられるのだろうか。

 

 「・・・」

 

 むぐむぐと小麦色のトースターを食べながら、少しだけ胸に形の無い何かが刺さる感覚が出来てくる。

 

 確かにここに居る人達は皆ギンジの〈大好きな人達〉だ。好意と呼べるモノではないが、自分でもわからないが、何故かカエデの事だけはワンランク上に置いておきたい様な、最も大切にしたい宝物みたく感じてしまっている。

 

 とはいえ多分好意があるとはギンジ自身も思っていない。ドキンと胸が動いた気がするが、それを寝起きのせいにして何も無かった事にする。この体熱も冷たいオレンジジュースで流すと、あとには何ものこらない。

 

 (ま、そもそも俺はただのファンみたいなもんだしな)

 

 転生してくる前の自分の生きてた世界にあったムフフなゲーム、ヘヴンホワイティネスを熱心にやり込んでいただけのただの成人男性に過ぎなかった。

 

 このゲームをやってる時だけは、嫌な世界、現実を忘れてただ本当に楽しく生きていける瞬間だった。

 

 中でもギンジは神宮カエデというキャラクター、彼女のエピソードが一番好きでどんなルートでもカエデから攻略していた。

 

 だからなのだろうか。転生してきてからはずっと無意識にカエデと共に行動する事も多かった。

 

 (・・・別に好きだとかは、多分ないな。そもそもカエデが朝飯作ってくれるのって、学校に気になる男が居るからだもんな)

 

 そう思うとさらに胸にトゲが刺さる気分になる。

 

 でも気のせいだと思うことにする。

 

 そう思いながら無心を決めこもうと食事をしていると、カエデ、レン、ミドリコはもう食事を終えて、通学、そして出勤を始めようとしていた。

 

 「くあぁ〜」

 

 玄関に向かう傍らで、ミヤコが上の階から大あくびで降りてくる。

 

 「そんな大口開けないほうがいいわよバカミヤコ。おはよ」

 「くふふ・・・ギンジが居ないから、すぐに眼が覚めたよ」

 

 玄関にてカエデとミヤコが眼を合わせた瞬間、何かの火花をちらし始める。

 

 「早くご飯、食べなよ。ギンジなら、そこに居るよ」

 

 時間が少し押しているからと、レンがカエデとミヤコの衝突を防ぐためにも、一旦はそうやぅって促す。ミヤコに塩を送る様な感じになってしまったが、2学期始まってすぐに遅刻する訳には行かない。

 

 ミドリコも当たり前だが、社会人として遅刻する訳にはいかない。

 

 と、なるとどうしてもミヤコとギンジだけになってしまうのが、カエデからすると許せない。本当はカエデもギンジの布団に・・・いや入るということまでは思っていないが、同じ部屋でお昼寝ぐらいはしたいと思っている。

 

 「ギンジに変な事しないでよ!」

 「くふふ、しないよ〜・・・むしろしてほしいもん」

 

 言いながらもミヤコは3人を見送ってから、鍵をかける。

 

 「やっはーギンジ君おはよう♡」

  

 朝の寝ぼけた声だが、熱っぽさはもう無くいつものミヤコの姿でギンジに声をかける。そして当たり前の様にギンジの隣に座り、一緒に食事を取り始める。

 

 「くふふ、カエデ・・・モンキーのご飯は美味しいね」

 「お、今一瞬モンキー呼び忘れただろ」

 「・・・美味しいね〜朝ごはん」

 「おいおいシカトかよ」

 

 カエデの料理の腕は確かなモノらしく、ミヤコはそれだけは素直に言うと、もぐもぐと小さな顔を全部使ってご飯を食べる。

 

 「あーそうだ・・・ギンジ君って今日はお暇?」

 「ん?怪人反応とか、襲撃がなきゃ毎日暇だぜ」

 

 オレンジジュースを飲み干したギンジは、ミヤコに笑みを見せながらそう言うと、ミヤコはギンジの笑顔が眩しく感じる。これだけでもトキメイてしまう。

 

 (好きだなぁ・・・本当に・・・)

 

 一瞬で顔をうつむかせると、頭の全てが熱くなるのを感じる。

 

 「あ、ああそうだ。暇なら、少しだけわたしに付き合ってくれないかな?」

 

 真面目な雰囲気で場を持ち直す。そうすることでミヤコは気恥ずかしさを和らげる事が出来るからだ。

 

 「何か買い物か?俺あんまりお金ないけど・・・」

 「んーん。くふふ、お買い物じゃないよ」

 

 ニコニコとしながらミヤコはギンジの脚へと手を伸ばす。スリスリと小さな手でギンジの脚のやわらかい所を撫でた。

 

 「くふふ・・・人に会ってほしいんだよね。くふふ、くふふふ」

 「人?まぁいいんだけどよ、脚をそうやって触るのやめなさい」

 「そんなー〜」

 「そんなーじゃありません!」

 

 いつしか繰り返した様なやりとりに、ギンジとミヤコはクスりと笑う。こうした会話を日常として楽しむ分には、2人とも大好物だ。

 

 とくにミヤコはこのやりとりの中で出来る一時を、本当に愛おしく思っている。

 

 こうしてギンジとミヤコは朝食を終えると、身支度を済ませてすぐに出かける。

 

 「まだ暑いな・・・ムシムシするぜ。水分、気をつけろよ」

 「うーん、まったく嫌になるね・・・過ごしやすい季節とかは無いのかなぁ〜・・・くふ、くふふふ」

 

 うだる様な熱気と、溶けきっていない雪の残りから蒸すような空間に2人は苦悶を感じる。

 

 「ところで・・・どこかで待ち合わせでもしてるのか?」

 「くふふふ・・・よくぞ聞いてくれました。向かう先は、わたし達の運命の場所だよ・・・」

 

 運命の場所。それはおそらく、イレギュラーとして戦うことになったあの場所・・・運命の日の運命の戦いを切り抜けたあの場所。

 

 度固化市音楽堂。

 

 今からミヤコはそこである人物と会う約束があるという。それに向かうためには、ギンジはミヤコには付いてきて欲しいのだ。こうして外を一緒に歩くだけでも、まるでデートをしているみたいで心が踊る。

 

 「それじゃあいこう!ギンジ君っ♡」

 

 ミヤコの心底楽しそうな声でテンションが少しだけ上がる。やっぱりなんと言ってもミヤコは可愛いのだ。

 

 こんな風に言い寄られれば悪い気がしないのもまた事実・・・。

 

 ギンジはミヤコと同じ様に少しだけ気恥しそうにしては、何度かはミヤコのボケにツッコミを入れるというのを繰り返しながらも、目的である音楽堂へと向かうのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 音楽堂。かつてはギンジを捉えて、洗脳するための施設として買収してはドクターミヤコの為に機材の運搬を行ったりした、ミヤコ派の専用ルームみたいな扱いをしていた施設。

 

 そんな場所にオーク怪人は来ていた。無用であれば決して立ち入る事の無いこの場所に来たのは、ドクターミヤコからのメッセージを受け取って、彼女が呼んでくれたからだ。

 

 そうでなければ基本的には、こんな場所には来ない。

 

 「人に会わせたいとの事だが・・・」

 

 いつもの軍服と軍帽、軍靴を揃えてオーク怪人は音楽堂入り口前の広間にてその人物とミヤコの到着を待つ。

 

 夏の熱気にに負ける事は無く、強い気合と尋常じゃないタフネスで耐える。そうして待つ姿は仁王像の様な迫力もある。

 

 誰か他に人が居るわけでも無ければ、不法侵入している人物が居るわけでもないので見たらそう思えるぐらいではあるが。

 

 「おや・・・君が一番乗り、か」

 

 声がした。くぐもった様な声音と、低い男性の声。落ち着いていて、しかしオーク怪人には懐かしいその声。

 

 振り返る先に居たのは、ヘルブラッククロスの戦闘員のスーツを全て紫色に変色させて、肩から小さなマントを垂らした特別なパワードスーツを装備している。

 

 その男はドクターミヤコの大幹部の席につき、今はドクターパープルと名乗らせている・・・ミヤコの意思を裏切っている愚か者。

 

 「何故貴様がここに居るのだ・・・紫」

 

 当然ここに彼が現れれば、オーク怪人は敵意も殺意もむき出しにしては、彼を睨みつける。眼が合った者は必ず萎縮させる様なするどい気迫は、眼で見て取れる程の威圧。

 

 「何故って・・・君と同じ理由じゃないかね、オーク」

 

 腕をゆらゆらとさせながら、紫とオーク怪人はお互い拳が届きそうな距離に立つ。

 

 この場で戦うつもりなのか?それともこの場に居る元ミヤコの部下、現ミヤコの部下2人に激突でもしかけようとするミヤコの作戦なのか。

 

 「くふふふ・・・2人とも早いね。到着には少し遅れても良いって言ったのに」

 

 溢れ出る敵意と殺意の渦の中で、第三の到着を果たしたミヤコとギンジが現れる。

 

 「おや・・・ギンジさんも居たのか」

 「紫・・・ッ!」

 

 工場エリアにて赤鬼の死を思い出す。あの襲撃は紫の判断での事であった事を思い出したギンジは、ミヤコの前に立つようにして、攻撃的な姿勢を取る。

 

 「オーク、ギンジさんも私をそう敵視しないでほしいな」

 

 そうは言いながらも紫は腕に取り付けた兵器を構える。

 

 「紫・・・ここで始めるつもりなら、ドクターの為にもここで討つぞ」

 

 オーク怪人も憤りにまみれた表情で戦闘の体制に入る。

 

 「どっちにしても紫は先にぶっ飛ばす」

 

 金棒を構えたギンジは、オーク怪人と紫を視界に入れる様にして立つ。

 

 しかし3人がそう敵意をむき出しにしている中で、中心に向かうようにしてミヤコが不敵な笑みを浮かべている。

 

 「くふふふ・・・3人とも、かっかしないで。今日ここに来た3人はちゃーんと全員味方なんだから、さ」

 

 何を言っているのか良く解らなかった。紫はその言葉で腕の兵器による武装を解除する。

 

 オーク怪人はいまだ警戒の色は強いが、一応は拳を収める。

 

 ギンジはと言うとポカンとした表情をしている。

 

 この場に居る3人が味方?どういう事なのだろうか。

 

 「どういう事だ?」

 「くふふふ・・・もうそろそろ話しても良いかなって思ってね」

 

 ミヤコが久しぶりに奈落の様な暗い瞳を見せる。これこそが彼女がヘルブラッククロスの元大幹部たるおおきな強みの一つ、それを3人に見せつける。

 

 「ギンジ君とオークに先ずは説明をするね」

 

 ミヤコは紫の隣に立つ。

 

 「わたしが6月にヘヴンホワイティネスに攫われる前日・・・ギンジ君を攫ってすぐの日、わたしは先ずは紫に相談はしていたの」

 

 ミヤコの言葉に紫が頷く。

 

 「もしわたしが敗ける様な事があれば、わたしとオークは組織から切り離される事になるから、裏で内通しましょうって。

 その代わりに、情報の横流しが出来る様に、紫は大幹部を自主的に立候補してね・・・ってね。それまでは、わたし達への襲撃も攻撃も本気で行って良しとする・・・」

 

 そんなだいそれた事をあっけらかんとした態度で、ミヤコはなおも話し続ける。

 

 「お互い情報の横流しをしあえば、どうなるかわかるよね。

 わたしの行く先に紫が位置情報を取りやすくなるし、もし何かがあればとっさの判断で動く事も可能になるということ。組織に準じていながらも、遠くでわたしのサポートをしてくれていたって事」

 

 ミヤコは更に続ける。

 

 捕虜になって最初の戦いは砂の怪人。あの時はヘルブラッククロスからの妨害が来ないように、最初に妨害工作をしてきたのはミヤコの方だが、その妨害工作を行った手段として紫にも情報を送る。

 

 故にオーク怪人との衝突を引き起こさせた。

 

 次の紫からの襲撃も同様で、組織から逃げ出した怪人達を仕留めるのもメインの目的ではあるが、同じ様にヘヴンホワイティネスが来る事も読んでいたミヤコは、紫にギンジの行動の妨害、ないしは組織へ戻る気持ちがあるかどうかの確認。

 

 結果的にミヤコの手中において、ギンジはヘルブラッククロスには絶対に戻らない事を理解した彼女は、もう妨害は終了し、組織に戻らない事を決意した・・・その話しを聞かされる。

 

 「ついでに毎日ギンジ君の体調のデータも送っては、メディカルチェック出来る様に、薬とかも設備を用意したのは彼なんだよ」

 「毎日大怪我するから薬の調合が大変だったよ・・・ギンジさん」

 

 紫はやれやれと言わんばかりに頭を振る。

 

 組織に残った者である紫が今度は話し始める。

 

 「私がこういうサポートをする事を選んだのは、たった一つの理由からだ。私もドクターミヤコの為に力になりたい、これだけの理由だ」

 

 マントを翻しながら、紫が話しを続ける。

 

 「最初はドクターが敗ける事を話すなんて、そんなバカな・・・

 そう思っていたけどね。しかしドクターミヤコならば

 いずれはこの世界すら変えるお力を持つお方。で、あればヘルブラッククロスなんかよりもドクターに付いていた方が楽しめるとは思わないかね」

 

 流石に裏切ったフリをしているのには心を痛めたが、それでもミヤコの指示で紫は必死に言いつけを守り続けた。

 

 自分の【師匠】であるミヤコの為に、ただ1人の恩人の為に。

 

 「んん?それってなんだかお前の意思では無いような気がするんだが」

 

 ギンジの疑問にはオーク怪人も同じ意見であり、腕組みをしながら鼻を鳴らす。

 

 「私の意思なんてモノは関係ないさ。ドクターミヤコが言うなら、私は人類の敵にだってなる。元より、ヘルブラッククロスの世界思想なんてどうでも良いモノだからね」

 

 紫はそうすることがさも当たり前と言わんばかりの態度だ。

 

 「例えこの先、ドクターミヤコと正面からぶつかるとしても、私はドクターミヤコの嘘を守り通すために、これからも敵でありつづける。それがこの音楽堂での戦いの前日で話した事だ」

 

 ミヤコの為に、ミヤコの都合の良い展開を作る為に紫は己の持っている覚悟を話した。

 

 「ブヒ・・・それではいつかはドクターを殺してしまうという話にならないか?」

 「流石の着眼点だね。でもこうは考えられないかい?」

 

 紫はくぐもった声をギンジとオーク怪人に向ける。

 

 「ドクターミヤコの最高傑作が共に居れば、敗けることはありえないと」

 

 最高傑作と称してオーク怪人とギンジへ、それぞれに指を向ける。

 

 「くふふ。あなた達2人が、それぞれでわたしを守りながら戦えば、驚異なんて無いよ。紫は常にわたしを攻撃し、オークはわたしを守り、ギンジ君はわたしと結婚を・・・」

 「いやそれは置いといて」

 

 ミヤコの企む事への合点が行かないギンジは、ミヤコと紫を睨んで見る。

 

 「わたしが離反する事はしなかったけど、ギンジ君と共にいる為には・・・そう考えたときに、紫の鶴の一声っていうやつだね。愛する人と一緒にいる作戦を考えたら、こうしてくれた〜って事」

 

 つまりはミヤコがギンジと共に居る事を、誰よりも本気で考えたのは紫。彼が敵であり続ける事を選び、ヘヴンホワイティネスと戦う道を選んだ。

 

 紫もまたミヤコを慕う1人の部下であり、彼女の幸せの為にここまでの計画を考えたのだ。

 

 ミヤコにしてみても、ギンジであればヘルブラッククロスを撃破しうる可能性を秘めていると思っている。

 

 何故ならば、どんなに辛い状況でも常に進化を行える彼は、最強の力をいつかは開放するだろうからだ。そう信じていれば、ヘルブラッククロスの未来よりも、ミヤコの未来を生きる事を望む方が賢いとも言う。

 

 「私が色々裏で根回ししなければ、今頃ドクターミヤコもヘヴンホワイティネスももっと大変な事になっているんだよ。感謝してほしいね」

 「なんか・・・お前って意外と影の功労者なんだな・・・」

 「お褒めにあずかり光栄だよ、ギンジさん」

 

 オーク怪人もミヤコと紫の共謀には感嘆のため息を漏らす。

 

 「それで・・・私が呼ばれた理由はなんなのでしょうか、ドクター」

 

 組織から外された者、オーク怪人がミヤコを見つめる。

 

 「うん・・・多分だけどわたしもオークもギンジ君も、もしかしたらもう二度と紫には会えないかもしれないからね。最後の密会をしたかぅったんだ」

 

 本当はまだ残っている犬、触手、紐の怪人も連れてきてほしかったが、それは叶わない願いだ。

 

 せめて自分の責務を引き継いだ、紫だけにはあっておきたい。

 

 そしてギンジにもオーク怪人にも、彼は意味があってドクターミヤコの敵になるということを伝えたかった。

 

 全てはミヤコとギンジの2人の未来の為に。

 

 その為には自分がドロをかぶり続ける、それが紫の覚悟。覚悟を受け取ってもらう為に、ミヤコは3人を呼び出した。

 

 「この秘密の集合ももう出来ないからね。わたしは永遠に捕虜であり、紫は裏切り者を消す為に動き、オーク怪人はわたしを影で守り、ギンジ君はわたしとけっ」

 「それはさっき聞いた」

 「くふふふ、恥ずかしがらないで・・・大丈夫、痛くしないから」

 「え、おい・・・やめ、おい、にじり寄るな!おい!やめっ」

 

 眼を光らせてにじり寄り飛びつくミヤコに、ギンジは女の子みたいに怯えてしまう。

 

 わーわー叫びながら突撃してきたミヤコへ、再びギンジは餌食になってしまう。

 

 「ブヒ・・・何を考えているんだ?紫」

 「何も。理屈なんて無いことに、心血注ぐのも私がドクターに学んだ大きな事だからね」

 

 オーク怪人と紫が横並びになり、ギンジとミヤコのぶつかり合いを眺める。

 

 「それに・・・恩人の恋は応援してあげたいじゃないか。私利私欲にまみれた野望、企みであっても、ドクターミヤコは十分頑張ってきた。彼女の為に、私は敵になるよ」

 「・・・恩人の為の応援ならば、私も同じだ。しかしながらまさかお前とドクターが繋がっていたとはな・・・」

 

 もうこうして話すことは出来ないのだろう。今後は紫はミヤコのための都合の良い悪役に徹し、ヘヴンホワイティネスを本気で倒しに行くのだろう。

 

 「いつか戦わないといけなくなったとき、私は覚悟を決めている。オークも手を抜かない様に」

 「ほざくなよ人間。誰が貴様に手を抜くか。ドクターだけは傷つけるなよ」

 「なるべくそうならない様に、守り通せ、豚野郎」

 「ブヒ。それは褒め言葉だ」

 

 こういったやり取りももうこれで最後。

 

 「ドクターミヤコはギンジと幸せになるべき・・・君はそう思うかい?」

 「無論だ。ギンジでしかあの方を幸せに出来ないからな」

 「フッ・・・そうかい」

 

 紫とオーク怪人はこれでも付き合いの長いミヤコの部下達。肩肘張り合う事も多かったが、こうして話せば意外と相性は良かったのかもしれない。

 

 残った者、外された者達が望む幸せの為に、地獄が分断された。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ミヤコの裏切りを懸念していたが、結局の所、裏切るんじゃなくて本当の意味で組織と離反するって事だったのねー俺関心したよ。

 

 しかもその為に紫も使ってまでして・・・紫もミヤコと戦う事にノリノリだし、科学者同士で何か張り合ってんのかこいつら。

 

 「いやー悲しいなー」

 

 音楽堂での秘密の密会を終えて、俺とミヤコは帰路についていた。自分達が考えた事とは言え、紫と完全に袂を分かつのは苦しいモノがあるのだろう。

 

 自分に尽くしてくれた部下に、幸せになりたいから敵になれって、普通に考えれば頭おかしいよな。ヘルブラッククロスってキ○ガイの集まりか?あ、そうなると俺もキ○ガイか?

 

 「ねーギンジ君はさ・・・」

 「ん?」

 

 ミヤコが歩く脚を止めて俺に向き直る。くるっとした動作に回る髪は可愛く揺れて、左の怪人の眼と右の人間の綺麗な瞳が両方俺を見つめる。

 

 悲しい様な、でも可愛らしい小顔で俺を見つめてくるなって。可愛いんだから、本気にしちゃうぞ?

 

 いや違う、そうじゃない。

 

 「ギンジ君はさ、好きって事の意味、知ってる?」

 「いきなり難しいな・・・」

 

 正直そんな事の意味なんてわかんないよぉ。

 

 「一緒に居るだけで安心したり、楽しかったり、嬉しかったり、幸せになれる人が、好きって事なんだと思うんだ。それらが全部混ざり合って愛・・・そうわたしは解釈してる」

 

 愛・・・難しいな。

 

 「公園に寄って帰ろうよ。くふふ、公園デートっぽくてよくない?」

 「行きたいところがあるなら、どこでもついてってやるよ」

 

 裏切り者になるんじゃないかと勝手に疑ってたバツを自分に課して、俺はミヤコの公園デートとやらに付き合ってやる事にした。

 

 たまにはわがままにも付き合ってやらないとな。なんだかんだミヤコの事悪いやつとは思ってないしな。

 

 「くふふふ、やったーギンジ君大好き・・・ここで欲情してもいいよ?」

 「しねぇよ!」

 

 まったく・・・なんでこいつは本当にこんななんだ。いやまぁ、可愛いから許すけど。同じ事をカエデに言われても許すな。可愛いから。

 

 「さっきまで昼だったのに、もう夕方か・・・夏も終わっちゃうね」

 「安心しろよ、俺たちの日常はまだまだ続くぜ」

 「くふふふ、そうだね。明日も起きたらギンジ君の顔が見れるなんて幸せだなぁ」

 

 とろとろした顔すんなって。でもここまで言われた事もないから、不思議と嫌じゃない!むしろ言っていい!いいけどモラル考えて!

 

 「そんじゃあ公園、行くか」

 「くふふ。手、繋ぐ?」

 「ばーか。繋がねぇよ。つないだらまた薬指喰われそうだからな」

 「もー勘が鋭いなぁ」

 

 まさか本当にまた口に入れるつもりだったのか!?勘弁しろよ。

 

 でも・・・ミヤコを守るって決めた矢先、ヘヴンホワイティネス最大のピンチに陥る事になるなんて俺はまだ知る由しも無く、ただ呑気にミヤコと公園に向かう事になっていた。

 

 悪という地獄が、ミヤコのすぐ近くまで迫っている事を、俺もミヤコはまだ想像すらしていなかった。

 

 

 

続く

 

 

 




お疲れ様です。

ミヤコの裏切りの懸念、それは無かった!

しかしながらミヤコのやってる事はなにげにすさまじい事ですね。やや無理やりだったかな・・・実は紫とミヤコは裏で内通、そういう内容がネタメモにあったのですが、いつ使おうかなーせや、運命の戦いで〜

なんてやってたら気がついたら50話まで引っ張ってました。すいません

キャラネタ書きます

佐久間ギンジ
ミヤコもカエデも可愛いとおもってます。
好きの意味は難しいな、と考えている。

神宮カエデ
実はリコニスよりレベルが10低い領域。レンがいればなんとか勝てるぐらい。

宮寺レン
ボギリとからだの中で鳴った。大丈夫か?

角倉ケイタ
戦う力がやっぱり欲しい。恋人を守るための力が・・・

甘白ミドリコ
逮捕状出された。裏でタツヤの妨害によって現在工場エリアにて籠城中

熊沢レイナ
退魔警察。ミドリコの端末を借りて、カエデのピンチにかけつけた。

小町サクラ
魔法界でなにやら一大事。ギンジ達に協力を仰ぎに来たが、HWのピンチだったのでケイタの連絡を受け取り加勢に来た。

月島ルカ
自分の恩人達の為に、協力に来た。

鋼の怪人
着物の上だけを脱いだスキンヘッドさん。
身体を向けた先が全て硬化し、防御にも使える鋼化の能力。
まさしく鋼の肉体。怪人四天王の席は欲しい。

蜘蛛の怪人
糸を操れる六本腕の怪人。眼が6つある。きもい。
糸の性質はなんでも作れる様で、粘着、硬めの糸、切り裂く鉄糸など。
気持ちよくすれば誰でもコロっと堕ちるとおもってる。
怪人四天王の席は欲しい。めっちゃ欲しい。

武者の怪人
大小さまざまな刀を合計6本携えている。怪人のサガとしては斬る事だけが生きがいらしく、怪人四天王の席も正直いらない。斬り捨てができればそれでいい。ちなみにアレも六本ある。


ミヤコの為に敵になる事を選び、彼女の幸せだけを願っている。
彼もまたHBの世界思想には興味が無い。
早い話、都合良くして欲しいから死んでくれと言われているのだが、それを快く受け入れている。

オーク怪人
紫とはそこそこ長い付き合い。

鈴村ミヤコ
部下にめちゃくちゃな事を言っているが、紫は受け入れた。そんな彼も自分の部下として全力で挑んで欲しいと思っている。たとえわたしを殺すことになっても。

ま、殺されませんけどー!って感じ。次回大変な目にあいます。

さて次回は、ミヤコの身に迫る危機!オーク怪人に立ちはだかる○○○○!正義のヒーロー達、大ピンチ!
その時ケイタに力が・・・出ません。

なるべくコンスタントに出せる様に、次回も頑張ります!

それではまた次回!

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