正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

52 / 128
こんにちはアトラクションです。

今回のお話で、ついに赤い勇者と魔法界編という物語の本筋に近づきます。

前置きなげーよとは思ったけど、書いて良かったかもしれない。

それではどうぞ


51・「ギンジ君、あのね──」

 

 夏の夜が近づくにつれてやや冷たい空気感と、まだまだ肌にまとわりつく様な膜の様な空気が気温と共にギンジとミヤコに張り付いていく。

 

 カエデハウスから程近い高台の公園まで向かう道すがらで、2人はこれからの事や、戦いについての思いを話していた。

 

 「なぁ、ミヤコ・・・」

 

 ギンジは自分が何者かを話そうと思う。

 

 今までの事を考えれば、これからも仲間として共に行動をするし、本当の自分を知っておいてもらうのも悪くは無いだろう。

 

 もちろん全てを話すわけではないが、知っておいて欲しい事はちゃんと伝えようとギンジは少し先を歩くミヤコを呼び止めた。

 

 「どうしたのー?」

 「ああ。ミヤコにもちゃんと話しておこうと思ってさ」

 「もしかしてわたしが好きって事?くふふ」

 「ああ、それも間違いではないな・・・」

 

 異性として意識しやすいのも事実だが、この場合は〈大好きな人達〉の意味合いが強い。

 

 「俺さ・・・実はこの世界の人間じゃないんだ」

 

 この入り方はいつも説明が難しく感じるし、どう切り出していいのかもわからないが、とにかくこう言うしかない。

 

 そこからギンジはかつてカエデにも話した様に、自分の居た世界とそこでどう生きていたのか、そして生きた屍であった事や、ミヤコの様な女の子に評価してもらえる様な大きな人間ではなかった事・・・。

 

 この世界が実は物語によって作られた世界であり、そこへギンジが転生した事をつらつらと話す。

 

 何も悪い事はしていないが、どうにも罰が悪いような表情で話すギンジを見て、ミヤコは心が苦しくなってくる。

 

 「俺ははっきり言ってまともなちゃんとした大人じゃなかったし、誰からも居ない者として扱われていたし・・・」

 「くふふ・・・なるほど、だからか・・・」

 

 ミヤコの納得は今ここで繋がった。同じ人間なのに怪人の細胞の全量投与により死なずに定着した事や、人間としての心を持ったままの最高傑作が完成した事に全て納得する。

 

 「でもどんな人であっても、今ここに居るギンジ君は【ギンジ君】でしょ?本来の進化の怪人でさえも、乗り越えた最強の怪人でしょ?」

 「人間だよ・・・人間でありたいんだ。もちろん怪人の力も使うけどさ・・・うまく言えないけど」

 

 命の恩人である彼女には自分を知っておいて欲しい。それだけの思いでギンジはミヤコに話すが、ミヤコは笑みを崩さずにギンジ歩み寄る。

 

 次の瞬間にはミヤコはギンジの身体を抱きしめていた。弱々しいとか力強くとかではなく、全てをさらけ出したギンジを信用するように抱きしめる。

 

 「ギンジ君がどんな人でも、わたしの怪人には変わりないんだよ。くふふ、そうじゃなかったらここまでわたしの事も考えてないでしょ?」

 

 ギンジの硬い胸のおでこをくっつける。鼓動を感じ取り、体温を感じギンジの心を感じる。

 

 はじめは怪人としてしか見ていなかったが、今はミヤコにしてみてもとても大切な人、そういう感情でギンジの身体に自分の身体をくっつけている。

 

 「過去がとかじゃなくて、今を一緒に生きられる事の方が大切だよ。だから悲しそうな顔をしないでいいよ。どんな結末であってもギンジ君が正しいと信じた今を生きて」

 

 怪人達がどうしてミヤコを崇拝し、忠誠を重んじているのか、ギンジは今それを知った様な気がする。

 

 「あとわたしの事だけを愛して」

 「それは今は却下だ」

 「【今】って言ったね!いずれは・・・!」

 「別に嫌いじゃないけど、いずれどうなるかもわからんだろ!」

 

 都合良く解釈してミヤコは嬉しそうな顔でなおもギンジの顔を見つめる。愛おしく見やるその瞳は、ただ1人の女としての色が強い。

 

 今・・・今こそ言うしか無い。

 

 愛情しか無いミヤコは他の怪人よりも大切だと思える彼に、想いを告げる時が今だと判断してミヤコはギンジに声をかける。

 

 「ギンジ君、あのね──」

 

 そこまで言ってミヤコの表情が強ばる、ぐぎりと背中を逸らして、空を見上げる。

 

 それは恐怖を宿した瞳で、あのミヤコが震える程の畏怖の姿勢。

 

 ギンジを突き飛ばして、ミヤコは再び来たあの異質な雰囲気を感じ取る。

 

 「お、おいミヤコ?どうした」

 「・・・ダメ・・・来ないで・・・いや、嫌・・・」

 

 ミヤコとあろう者がここまで怯えるとは何事なのか。

 

 しかしギンジにも解る、謎の威圧。おおよそ人や怪人の出せるソレではないことを知り、それと同時に高台から見下ろせる位置にあるカエデハウスが崩壊していくのが見て取れた。

 

 「なんだ!?」

 

 急な自宅の崩壊。見覚えのあるピンク色の猫と、耳をすませば確かに聞こえる衝突音。

 

 あそこで誰かが戦っている。

 

 今すぐそれを確認しに行きたいが、今はミヤコだ。こんなに怯えるなんて異常だ。

 

 「ミヤコ・・・だいじょう」

 

 そこまで言ってギンジの背後に何者かが現れる。

 

 すぐに振り向き、後方に飛び下がるとミヤコの盾になるようにして、ギンジの視界に現れた存在を睨む。

 

 その存在は炎の様なゆらめきを体内に宿して人の型をなした謎の怪物。顔の部分と思わしきところには、怪人の瞳を大きく宿した1つ目でいて、身長は2mジャストぐらいの敵勢存在。この怪人とも見える怪物から、威圧の正体がこれだと確信したギンジは、なおもこの怪物を睨む。

 

 「我らは、善であり、悪であり、有であり、無である」

 「何もんだテメェ・・・!」

 

 腹の中にも響く様な声で話しかけた怪物の声に、ギンジもミヤコも本能的にこの怪物に適わないと感じてしまう。

 

 ミヤコはかつて夏休みが始まったすぐの日、夢の怪人によっていざなわれた夢の世界で、この怪物と出会った事がある。

 

 過去に遭遇したこの怪物が、再びミヤコの前に現れたのだ。

 

 「我らは、死であり、命である」

 「話が通じる様な相手じゃなさそうだな・・・!」

 

 ギンジが炎をその手に構えて突撃しようとするも、ミヤコが再びギンジを抱きしめた。

 

 抱き止める、その方が正しいその抑え方は、がちがちと歯を鳴らして恐怖に染まった顔であった。

 

 「だめ・・・あ、あれは・・・勝てない・・・勝てないよぉ」

 「ミヤコ・・・?」

 

 普段は余裕で自分を中心として動くミヤコがここまで怯えるとは、一体アレは何者なのだろうか。頭部の瞳を見る限り間違いなくヘルブラッククロス絡みの怪人の類だとは思うのだが・・・。

 

 とにかくこんなに怯えるミヤコを放ってはおけない。彼女を守るのであれば一先ずここは・・・。

 

 「逃げるぞ!」

 

 コウモリの羽根を展開させてミヤコを抱きかかえて飛び立とうとするギンジ。

 

 「おやおや・・・逃げるんですか?」

 

 またもやこの場所に誰かが現れ、馬鹿にしきって侮辱する様な声に、ギンジは思わずその動きが止まる。

 

 夏という季節に似合わない三つ揃いの姿、高級そうな革靴に、清潔感のあるスーツ、そして真っ黒な手袋を身に着け、真ん中分けの整った髪型。

 

 蛇の様な印象を持たせる顔は、ギンジの嫌いなタイプだと直感で理解した。

 

 「柏木・・・」

 「知り合いか?」

 

 ギンジの腕にしがみつくミヤコがその名前を呼ぶと、柏木・・・そう呼ばれた男が少し離れたところからギンジを値踏みするように見つめている。

 

 「はじめまして・・・ですねぇ、進化の怪人・・・」

 

 その呼ばれ方は何度目だろうか。

 

 「いえ・・・佐久間ギンジ、そう呼ぶべきですかね?」

 

 柏木と呼ばれたキャラクターは居ただろうか。ギンジの知識の中でそのキャラクターを必死に思い出そうとするが、そのようなキャラクターは出てこない。間違いなく存在しない者。

 

 つまりはイレギュラー存在になる。

 

 そしてギンジとミヤコに近寄ろうとしている、この異質な怪物も同じくイレギュラー。

 

 「いやーお久しぶりですね、ドクターミヤコ」

 

 ゾクリ、と。

 

 声がするだけで今までとは違う謎の威圧と恐怖心が、ミヤコの心臓を鷲掴みにするような気分になり、寒気と鳥肌がサイズの合っていない白衣の下からでも理解できるぐらいには出てきている。

 

 「何者かしらねぇけど、邪魔しないでくんないかな?ミヤコが怯えてるだろ」

 「貴方こそ・・・わたくしのおもちゃになるその人を手放してくれませんかねぇ?」

 

 人を・・・ミヤコをおもちゃ呼ばわりした事で、ギンジの顔がはっきりと怒るのが見て取れるが、タツヤはそれを見てニタリニタリと笑みを浮かべた。

 

 「・・・ミヤコ、ちゃんと捕まって、絶対手を離すなよ」

 

 柏木と呼んだ男の方は、おそらく問題なく対処は可能だ。問題はミヤコが怯える異質な怪物。そちらが足音一つ立たさずに、ギンジ達に迫ってきている。

 

 「飛んで逃げるなんて無粋な事しないでくださいよぉ、ギンジさん」

 「テメェに名前を呼ばれる筋合いなんかねぇよ!」

 

 とにかく今はカエデハウスも心配だが、もし戦っているのであれば敗ける心配はしていない。ただの襲撃の可能性もあるからと、ギンジがミヤコを逃がす事に集中する。

 

 風圧をお越し、それを利用するように空へと飛ぼうとしたギンジは、すぐにコンクリートへと叩き落される。

 

 「・・・っ!?」

 

 何が起こった?確かに今は飛んだ筈なのに、頭を殴られて気がついたらコンクリートに落下していた。

 

 それと同時にギンジの視界の端には、あの柏木と言う男が着地している様に見えていた。

 

 「ギンジ君!」

 

 今までのどんな状況よりも焦ったミヤコの声。ギンジが起き上がると、眼の前には異質な怪物。

 

 その後ろには柏木タツヤがミヤコを持ち上げて、その身に抱きしめている。

 

 「はーようやく手に入れましたよ。わたくしのミヤコ」

 「ひぃ、嫌、やめて!」

 

 あのミヤコがこうも嫌悪感を出すとは、相当あの柏木という男が苦手なのか。それともギンジ以外の男にはああいう反応なのか。

 

 顔を近づければ、怯えたミヤコは本気で嫌がっている。

 

 「残念でしたねぇ?ギンジさん。飛んで逃げることは想定内でしたよ。ああ、安心してください、ドクターミヤコはわたくしがちゃんとおもちゃとして遊んであげますので」

 

 またもやおもちゃと呼ばれギンジが本気で怒り、突撃しようと走り出すが、異質の怪物がその進行を妨害してギンジを後方へと投げ飛ばす。

 

 首にまとわりついた様な腕は、言う慣ればラリアットの要領でギンジを坂道へと転がしたのだ。

 

 「くっそが!」

 

 先程の飛行の妨害も何が起きたのかわからないし、この怪物の妨害も想定外。今こうしている間にもミヤコは柏木タツヤの手の中でもがいている。

 

 「暴れないでくださいよ、つい思わずわざとじゃないけど・・・」

 

 コキリ。白衣の中にある右の指を握られ、折られた。小気味良い音を聴くと、ミヤコは痛みで悶絶する。

 

 「〜〜〜ッ!!」

 「ああ、すいませんわざとです。暴れないでくださいね?」

 

 タツヤの何一つとして悪びれない言動に、ミヤコは恐れるしかない。

 

 幸せなこのくうかんを一瞬の内に破壊しつくしたタツヤと、ミヤコが恐れるこの異質な怪物の登場で、一気に熱が冷める。

 

 「ミヤコに触んなぁぁああ!」

 

 ギンジの雄叫びには、誰も動じない。異質な怪物が肩や脇、背中から触手の様に腕を生やしては、全てをギンジの妨害に費やす。

 

 「うおおおテメェも邪魔すんなぁぁ!!」

 

 この状況を打開するために、あらゆる行動を想像する。腕を全て避ける想像も、金棒で粉砕する想像も、あらゆる想像がすべからず妨害されて後ろに下がる想像になってしまう。

 

 (クソ!なんでだ!イメージが全部マイナスな状況になりやがる!)

 

 今までこんな事は無かったし、すくなからず自分にメリットのある行動が取れるギンジの能力は、今は何一つとして有効な手段を導き出さなかった。

 

 それどころか普段と違い冷静さを持っていないギンジは、異質な怪物の増える腕によって身体を止められてしまう。

 

 そのまま腹に重い一撃が叩き込まれ、次は顔に平手打ち。

 

 両手両足を引きちぎらんばかりに引っ張り、伸び切った身体には強い勢いの拳や攻撃が無慈悲に飛んでくる。

 

 「壊さないでくださいね〜」

 「やめて、ギンジ君が・・・ギンジくんが・・・」

 

 これ以上自分の好きな人が、傷つくのは見たくない。その一心でミヤコが叫ぶがタツヤは何も聞き入れない。

 

 「あー新しいおもちゃが欲しかったんですよね〜?」

 

 どういう訳かタツヤはミヤコを求めている。それをなんとなくだが理解したミヤコは、折れた指を抑えながらもタツヤの顔を見上げる。

 

 「がっ・・・ぐはっ・・・ぶほ」

 

 顔に身体に関節に、異質な怪物の攻撃はひたすらに叩き込まれる。

 

 もうギンジはまともに喋れず、殴られる度に血液が吹き出てくる。コンクリートにびちゃりと飛び散る血液を見て、ミヤコはいよいよ気が気じゃなくなる。

 

 「ドクターミヤコがわたくしのおもちゃになってくれれば、すぐにでも止めてあげますけど・・・どうしますか?」

 

 タツヤの交換条件はだいたい理解した。

 

 (わたしが柏木についていけばギンジ君が助かる・・・?)

 

 頭の中で必死にギンジが助かる道標を模索する。タツヤが言った通りにすれば、自分はタツヤと共に行き、ギンジは多分助かる。

 

 「わ、わたしをどうするの・・・?」

 

 泣きそうになりながらミヤコは震える声を絞り出す。

 

 「もちろん、わたくしのおもちゃになってもらいます。少しきつめのタイツを履かせて上からもみほぐしてあげたり、フリフリのドレスを何着も着せ変えしてあげたり、ああ、一緒にお風呂に入りましょう?手足を焼いて動かせなくしたら、ご飯を食べさせてあげますよ。それからおやすみの前に歯磨き粉を口移ししたり、おはようの水を2人で頭からひっかぶったり、わたくしの性欲にも付き合ってもらいましょうか、それから・・・」

 

 タツヤの話す内容はとてつもなく独りよがりでかつ、怖気と吐き気が2つ同時に迫って来ては後頭部がクラっとするような内容だった。

 

 嗚咽をしたくなるほどの引く内容に、ミヤコはますますこの男をこわいと感じる。

 

 「ま、とにかく・・・ギンジさんを助けてあげたいなら、今すぐ降伏してください。そうしたらギンジさんは開放してあげます。代わりに・・・リコニスさんが貰っちゃうんですけどねぇ!」

 

 その言葉で絶望が頭の中で逆巻く。あのリコニスが、ギンジを貰う。それを想像しただけでミヤコは大粒の涙がボロボロと流れてしまう。

 

 小さな少女が受け入れられる恐怖と屈辱の許容の限界を、あっさりと軽く飛び越えた。

 

 「あはっ・・・泣いてる〜ザマァみろミヤコ」

 

 そして遅れてもう1人女性の声がする。小馬鹿にしたこの声音は、ミヤコの嫌うあの女、リコニス。

 

 「大遅刻ですよリコニスさん。おや、なんでそんなにボロボロなんですか?」

 

 遅れてやって来たリコニスは、ギンジを一方的に痛めつける異質の怪物を尻目に、その姿は鎧がかけて空いた臍の部分には痣を作り、ところどころ土汚れがめだつ。

 

 「ここに来るまでにまた妨害されちゃってさ〜遅れちゃった〜」

 

 相変わらずおどけたリコニスに、タツヤはやれやれと言った態度である。

 

 「でもさ・・・異質な怪物(あんなの)引っ張り出して、ギンジちゃんボコボコのボコにしてるけど・・・」 

 

 リコニスから強い殺気が放出される。それがミヤコや怪物に向けたモノではなく、タツヤに向けてドス黒い闘気が漏れ出る。

 

 「壊さないでって言ったよね?私に喧嘩売ってるの?」

 

 これでは約束が違う。ギンジとは命のやりとりをしに来たのに、当の佐久間ギンジは異質な怪物によってまだ殴られ続けている。

 

 「遅れた罰ですよ。遅刻なんて社会人も学生も許されませんよ?最初の連絡は納得しましたが・・・2時間も遅れるなんて、流石に協調性無さすぎませんかね?」

 「・・・殺すわよ」

 「出来ますかねぇ?」

 

 ギンジとは本気で戦いたかった。そのはずだったのに、来てみれば約束は守られていないわ、ボコボコにされているわ、さらに言えば自分の知らないところでギンジが傷つけられているのがたまらなく気に入らない。

 

 自分が傷つけるのはOKなのだが、他人が傷つけるのはとてつもなく気に入らない。これでは安心感が得られない。

 

 今日一日のイライラは、ミヤコを使って憂さ晴らしでもしてやろうかと、リコニスは考える。

 

 「貸しなさい」

 

 タツヤの有無を言わさず、うめき泣くミヤコを、異質な怪物の近くまで持っていく。

 

 「もういいわよ!離れなさい、ポンコツ」

 「我らは、力であり、強者であり、弱者でもある」

 

 異質な怪物がギンジをコンクリートに落とすと、今度はリコニスがギンジの上に立ち、ミヤコを前に出す。

 

 「っ・・・ハァ・・・ムゥ・・・アア、コ・・・」

 

 まともな呼吸が出来ないぐらいまで追い込まれたのに、出てきた言葉はミヤコ。その名前が最初に出た事で、リコニスの怒りが爆発する。

 

 「ボロボロのゴミ雑巾ちゃん!よく見ておきなさいよ、君を愛そうと慕っていた女の子はねぇ!」

 

 泣きじゃくり、もう何も言い返せないミヤコの黒いセーラー服の前部を、捻じり切る様に引き裂いた。

 

 「ひゃあ、やめっ・・・」

 

 ギンジのぼやけた視界に差し出されたミヤコのお腹は、綺麗なモノではなかった。複数の刺し傷と、縫い合わせた様な陥没した肌、やけどの跡もあるのか、やや変色した箇所、脇腹から背中に回る様な傷跡も確認出来る。

 

 「ミヤコはねぇ、こんなに傷だらけの身体の癖に、ギンジちゃんと愛し合えると思ってたのよ!ありえないでしょ?馬鹿よね〜貧相な癖に、傷物でさ〜?あーミヤコまた泣いちゃった〜ヒャハハハ!」

 

 ギンジには知られたくなかったミヤコの悲しい家族の記憶が、さらけ出されたことで、ミヤコは再び涙に顔を汚す。

 

 恥ずかしさだけじゃない、大きな屈辱が沢山混ざり合いながら、ミヤコは得も言われぬ憤りを感じている。

 

 それを見てリコニスが悪魔のような高笑いを上げる。

 

 「いつか言ったでしょ?泣かしてやるって!!ヒャッハハハハ」

 「悪趣味ですねぇ〜」

 

 タツヤも同じ様に笑いながらギンジの前でしゃがむ。

 

 「恨むなら、弱い自分を恨んでくださいね?ドクターミヤコはわたくしが幸せ(おもちゃ)にしますので・・・!」

 

 タツヤとリコニスの声に、ギンジは血で汚れた顔をなんとか上げると、激痛が駆け巡る全身に踏ん張って力を込める。

 

 「ミィ・・・ヤコを・・・おぉ、離せ」

 「驚きましたね・・・まさか立ち上がるとは」

 「ギンジ君!!」

 

 立ち上がったギンジへ、ミヤコが大きな声で叫ぶ。泣きながら、涙を流しながらミヤコは大切で大好きな人の名前を呼んだ。

 

 「もういいよ!立たないで!傷ついた姿なんてみてられないよぉ」

 「・・・きずは、いい・・・お前は、どこにもいかせ、ない」

 

 かすれてまともに喋れない声で、ギンジはミヤコの身体に指を指す。

 

 「ひんそう、なんかじゃない。綺麗な・・・からだだろうが」

 

 リコニスの見せつけた事に、ギンジは全否定する。ミヤコはそれだけでも嬉しくなり、折られた指の痛みなんてなくなってしまった。

 

 それでも心が大きく痛む。ミヤコの大好きな人が、こんなにボロボロになっているのは、正直に見るに耐えない。可愛そうになってしまう。

 

 こんなにボロボロになっているのに、無理をしないで欲しい。

 

 でもギンジは立ち上がる。自分の命の恩人を助ける為に。

 

 〈大好きな人達〉を守る為に・・・。

 

 「最後の別れ、ですね。それじゃあ、わたくし達はこれで。リコニスさんに後始末をお願いしますね」

 「・・・つまんない事してくれるわね」

 「痛っ・・・やめ、ギンジ君!ギンジ君!!嫌ぁぁ」

 

 ミヤコの髪を引っ張り、タツヤと異質な怪物はギンジたちから離れて行ってしまった。追いかけようとしてもその脚は、身体は一切動かせず、踏み出そうとすれば身体が倒れそうになる。

 

 「・・・ゴォ・・・ミやろ・・・う」

 

 そこへ立ちはだかる様にリコニスが居るのだが、こんな状況になったギンジとは戦いたくない。弱ったギンジを殺すのでは、これではただの漁夫の利になってしまう。

 

 「次会うときまで生きてたら、今度は殺し合いましょう?私もそんなつまんないギンジちゃんとは戦いたくないんで〜」

 

 またも気分を言い訳にしたかの様な態度のリコニスに、ギンジはもう何も喋れない。

 

 「それじゃ、ばいばーい」

 

 リコニスもボロボロの黄金の鎧を汚しながら、少しだけ心が晴れやかになったのか、タツヤの後を追うようにして、その場から離れていく。

 

 ただジッと見つめる事しか出来ずに、ギンジの意識は薄れて行き前に倒れてしまう。

 

 倒れる直前で、力強い豪腕がギンジを後ろから引っぱり、そのまま肩に担ぐ。

 

 「ブヒ・・・世話が焼ける・・・しかし、間に合わなかったか」

 

 軍服は脱ぎ捨ててその身体は切り傷を沢山残している。

 

 生々しい傷はオーク怪人も一緒ではあるが、ギンジの比じゃないぐらいだ。

 

 「おのれ・・・柏木め・・・」

 

 怒りに震える声で、遠くを歩くタツヤとリコニス、そしてあの異質な怪物を眺める。今すぐにでも追いかけたいが、このままの状態で再び交戦すれば間違いなく2人とも殺される。

 

 それを避ける為には、ギンジを一度連れ帰らないといけない。

 

 「・・・待っていろ、ギンジ。ドクターをお救いするには、貴様の力が必ず必要なのだ」

 

 激しい戦闘の跡を残す身体に鞭を打つようにして、オーク怪人はとある協力者の下へと歩き進むのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 傷ついたギンジを回収する前。時間は程よく1時間前。

 

 最悪の確定未来を見た。

 

 ギンジがドクターミヤコと共に歩き、幸せな時間を共有する最中、異質な怪物がギンジを追い込み、タツヤがミヤコを攫う。

 

 その映像が色濃く頭の中に残り続け、オーク怪人は焦りと怒りがふたつ出てきてしまう。

 

 そんな事には絶対にさせない。紫とも約束したばかりだ。必ずドクターミヤコをお守護りすると。

 

 紫の関与しないところでこんな事になるとは、誰も想像出来なかった。この確定未来というフェーズ2の能力が無ければ、今も気づかずにオーク怪人はあの路地裏に帰っていたかもしれない。

 

 (理由は不明だが、あの柏木がドクターミヤコを連れ攫うとは・・・何事なんだ!)

 

 あまりにも理解の及ばない確定未来の映像に、オーク怪人は唾を吐き出したくなる。重苦しい鉄板入りの軍靴を力強く打ち鳴らしながら、確定未来の映像にあたる公園を片っ端から駆け巡る。 

 

 次に向かう公園は中央度固化市の高台にある、小さめの公園。

 

 そこへ向かう為に住宅街を突き進む。

 

 Yの字になる別れ道まで走ると、真ん中の分かれ道で黄金の鎧を身に着けた女性を発見する。

 

 誰がどうみても日常に似合わないその姿は、明らかに不自然な佇まいをしており、それはヘルブラッククロスに所属していた者であれば、ほとんどが知るあの女。

 

 単身で大幹部にまで登り詰めた、退屈が天敵でドクターミヤコを貶めようとする最大最悪最強の狂人・リコニス。

 

 「あ、オークじゃ〜ん。久しぶり、何してんの?」

 

 後ろから荒い息使い大男が近づいた事で、リコニスがオーク怪人の接近に気づく。

 

 その声は相変わらず人を小馬鹿にした甘い声なのだが、いつもと違うのは腹部に痣を作り、眼は血走っている。

 

 「何故貴様がここに居るのだ?」

 

 呼吸を落ち着かせてリコニスに訪ねた。彼女は手を額に軽く当てておどけて見せる。

 

 「たはーっいい質問するね〜」

 

 それでも眼は血走っている。邪魔するのがたとえオーク怪人であっても確実に殺す、そう言っているのが良くわかる目つきだった。

 

 「私ね、私の居る場所に後からやってきた奴らが、どうして居るの?って聞いてくる事にいい加減イラついててさ」

 

 言いながらも黄金の刀を引き抜く。すらりとした動作は殺しのプロだと言うのをオーク怪人が見ても解る。

 

 「ホントにうんざりするよね・・・この後ギンジちゃんと殺し合いをするんだけどさ、一旦柏木が抑えててくれるって話になってるの」

 

 黄金の刀の切っ先をオーク怪人に向けて、リコニスが牙を見せる。

 

 殺意を込めた瞳に黄金の刃。オーク怪人がよく知る大幹部リコニスの姿を見て、この先もしかしたらギンジの救援が遅れる事を考えてしまう。

 

 「だから今ギンジちゃんに会えないならさ〜・・・オーク怪人、あんたでもいいよ」

 

 とにかく今日一日のフラストレーションを発散したい。気分だけではどうにもならないこの溜まりに溜まった欲望を、オーク怪人へと向ける事にする。

 

 ついでに言えばミヤコを泣かす材料になるかもしれないと踏んだリコニスは、ここでオーク怪人を殺すと、今決めた。

 

 「べらべらと良く解らん事ばかり話すやつだな、貴様は。ドクターが危険な状態かも知れんのだ。邪魔はしないでもらおうか」

 「そーはいかないのよ!!!」

 

 おどけた態度から一変し、激怒をぶつける。強烈な殺意を肌で感じたと思えば、もうすでにリコニスの刃がオーク怪人へと振り下ろされた。

 

 (速い!)

 

 巨体に似合わない素早さで初手の攻撃を回避すると、次はオーク怪人が左肩からタックルを決める。真正面からぶつかったと言うのにリコニスは刀一本で、オーク怪人とまさかの力の押し合いを始める。

 

 胆力だとか腕力だとかの違いではなく、単純にオーク怪人とリコニスは互角。それを証明するかの様に、ぶつかった直後には他を圧倒できる衝撃と風圧が2人を中心にして、Yの字の道路で吹き上がる。

 

 風が止まると左腕を上へと振り上げて、刀を弾くと手刀を用いてはリコニスの身体をめがけた突き出し。返す刀でそれを手首ごと弾かれた。

 

 続いては右手を平手打ちの要領で振り出したが、黄金のショルダーにより防がれ、オーク怪人の右手は自分の力によってその痛みが跳ね返ってくる。

 

 「ぬぅ、流石はドクターの作った装備だ・・・!」

 「はい、胴体がら空き〜!」

 

 文字通りの手段を潰されたオーク怪人の身体を狙い、リコニスの黄金の刀の乱舞攻撃が繰り出される。

 

 1振りで3本の太刀筋が光り、2振りで6本、3振りで9本、どんどん増える光る太刀筋は次第にリコニスを包む球体となり、オーク怪人の身体を斬りつけていく。

 

 人間であっても練り上げた戦闘技術は、一流の戦士を自称するオーク怪人をもうならせる。確実に命を奪う手段を知っているリコニスの攻撃は、その一つひとつが丁寧かつ本気の熱情が籠もっている。

 

 (貴様程の者・・・敵でなければ!)

 

 ここまでの力を持ち、怪人である自分をも押し返す実力。

 

 ドクターミヤコの敵でなければ、この力は間違いなくヘルブラッククロスに貢献し、行く行くは総統の下で動ける最高幹部にもなれただろうに。

 

 もう戻る事の無いオーク怪人が考えても仕方ない事だが、どうにもそう考えてしまっていた。

 

 リコニスもまた力を持つ者。それがどうしても勿体ないと感じた。

 

 軍服を裂かれ、顕になった身体を斬られ、それでもリコニスの連続攻撃が止まらない。

 

 オーク怪人が油断していたわけではないが、今のリコニスは異常に思える力でオーク怪人の巨体を斬り飛ばした。

 

 飛ぶ斬撃にその身を飛ばされてブロックの壁に叩きつけられる。あまりの衝撃に全身が痛む。

 

 「ぐぅ・・・!?」

 「平和な世の中に潜伏して弱くなったんじゃないの?あんたホントにミヤコの最強の盾なのかなぁ??」

 「ほざくな・・・!」

 

 壁を破壊してオーク怪人が再び突進しようとするが、リコニスが後ろに下がり、それと同じタイミングで真っ黒な鎧を身に着けた怪人が上から落ちてくる。

 

 新たな参戦者の登場にオーク怪人も驚くが、これが暗黒騎士型の鎧の怪人であると知ると、継戦の構えを取る。

 

 そういている間にもリコニスは刀を収めて、背中を見せる。あとはこの怪人にまかせて、自分はギンジと会いに行くつもりだ。

 

 「そろそろ遅刻から、大遅刻になっちゃうからさ〜・・・またね」

 

 次は殺す、絶対殺す。確実に。そう秘めた瞳をオーク怪人に向けて、リコニスは高台へと歩いていく。

 

 今はとにかくギンジに会わないと、この心が爆発してしまいそうだからだ。

 

 「ブヒ・・・足止めか」

 

 オーク怪人でも見上げる様な高さのこの怪人に、舌打ちを決めるとオーク怪人は眼の前の敵と戦う事になってしまった。

 

 確定未来に見える映像では、ドクターミヤコが柏木タツヤに寄って捉えられてしまっている。

 

 その映像通りにさせない為にも急がないといけないのだが、おそらくこの暗黒騎士型鎧の怪人も強敵だろう。そう簡単に突破はさせてくれなさそうだ。

 

 「・・・邪魔をするなぁ!!」

 

 怒号をあげてオーク怪人は己の戦いに突入していくのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「──ジ!─ンジ!」

 

 誰かが自分を呼んでいる。

 

 暗闇の中で意識を徐々に取り戻しつつあったギンジへ、女の子の声がとても心配するように呼びかけている。

 

 「ギンジ!!」

 

 眼を覚ましたギンジへと抱きついたのは、カエデ。

 

 今の状況が理解が出来ないが、ここはどこだろうか。

 

 ボロボロで血だらけになってしまっているギンジを、自分が汚れるのも厭わずにカエデは傷ついたギンジを抱きしめた。

 

 「フン・・・眼を覚ましたか」 

 

 すぐ隣にいたのはオーク怪人。

 

 鉄板とコンクリートを打ちっぱなしにした様なこの部屋では、視界を広げればそこにはギンジの仲間達が無事に揃っていた。

 

 レン、ケイタ、ミドリコ、レイナ、サクラ、ルカ、オーク怪人。

 

 そして今まで眠っていたギンジ。

 

 どうやらここにはオーク怪人が運んだ様で、ギンジのスマホを使いカエデ達と連絡を取り合いここに合流した。

 

 「ギンジ、大丈夫か?」

 

 ミドリコが心からの心配な声で、ギンジが今自分がどうなったかを思い出す。

 

 「ミヤコは!?」

 「え?み、ミヤコ?」

 

 カエデを押しのけて、ギンジは部屋の中で叫んだ。

 

 「残念なお知らせだ、ギンジ。ドクターは連れ攫われた。お前の尽力が足りなかったおかげでな」

 

 嫌味な言い方をするオーク怪人も、生々しい傷跡をたくさん残して疲労の色が強い難色を示した顔をしている。

 

 「・・・ッ」

 「え?ちょ、ギンジ!?」

 

 傷だらけ、ボロボロの身体で立ち上がろうとするギンジに、ケイタが止めにはいる。

 

 「ギンジくん、待って!」

 

 サクラも魔法でギンジの身体に鎖を巻きつけて、安静にさせる。

 

 「離せ!ミヤコがやべぇんだ!あいつ、絶対に殺されるぞ!」

 「今のその身体で行ける訳無いでしょ!このバカ!オークが運んできれなかったら、あんた死んでたかもしれないのよ!!」

 

 死。再びその言葉を聴いて、少し落ち着きを取り戻す。

 

 「ギンジ、どうか冷静で居て欲しい。今の状況について説明をするから聴いてはくれないかな」

 

 仲間の事を想うギンジの事を大切に接する。レイナはわかりやすい資料を手書きで作り、それをギンジに見せる。

 

 「現在我々は各個襲撃を受けた。神宮君と私は犬の怪人に、宮寺君は鋼の怪人、蜘蛛の怪人。そこにはサクラと月島君が加勢に入り、なんとか撃退。代償はカエデハウスの全損。甘白さんは逮捕状を出され、逃走した先、つまりここで武者の怪人と交戦・・・」

 

 ミドリコは今のところ無傷のようだが、心底参った表情をしている。

 

 「そしてギンジとミヤコも襲撃を受け、ミヤコは攫われた・・・と」

 

 レイナの説明にどんどん血の気が引いていく面々。

 

 「ミヤコを助けに行くぞ」

 「あたし達皆、新しい怪人に苦戦してたのよ。あんたもそんな身体で、どうやって助けるのよ」

 

 カエデが未だ収まらないギンジをたしなめる。

 

 「第一、柏木がどこに向かったのか、ギンジは解るのか?」

 

 オーク怪人の言葉には、ギンジではなくミドリコが反応する。

 

 「柏木さん?どうして彼の名前が・・・」

 

 ミドリコの記憶では柏木タツヤと言う男は、組織犯罪第一対策課の公安警察の1人だ。

 

 ミドリコに正規の裏ルートでカスタムパーツをくれていた人だが・・・。

 

 「まさか柏木に裏切られるとはね?思わなかったよ?」

 

 聞き覚えのある疑問系の話し方をする人物の登場に、その場にいる面々が声のした方へと振り向く。

 

 「山吹さん!」

 

 奥の部屋から出てきたのは山吹イロ。公安警察の上位に立ち、ヘヴンホワイティネス結成の援助をしてくれているヘヴンホワイティネス代表者。

 

 しかし今までの余裕が無いのか、彼女の左腕は肘から先の途中のとこでなくなっていた。

 

 「いやー魔法とはすごいね。信じて居なかったけど、まさかこんな事まで出来るとはね?」

 

 サクラの方へ向きながら、イロは無くなった左腕をプラプラと動かしている。

 

 武者の怪人の襲撃により、イロは大きな負傷を追ってしまった。

 

 「柏木さんが・・・?」

 

 ミドリコは一つある事を思いつく。もしかして彼はヘルブラッククロス側の人間なのではないかと。雪の怪人に襲われた時も、気がついたら公安局からその姿を消したと聴いている。

 

 元々怪しいとは思っていたが、まさか本当に・・・?

 

 そんなミドリコをよそに、ギンジが回りを見渡して言葉を絞り出す。

 

 「なんで皆ここに集まってるんだ?そもそもここはどこだ?」

 

 ギンジの疑問へ、今度はカエデが答える。

 

 「先ず、ここは工場エリア。あたし達は、全員襲撃を受けてその後ミドリコを中心に合流したってところね」

 「ギンジの、戦った相手も、強かった?」

 「・・・ありゃ勝ち敗けでどうにかなる相手じゃなさそうだったぜ」

 

 カエデの説明には理解し、レンの質問には素直に思った事を考える。

 

 怖いとかではないが、異質な怪物の特徴をしっかり覚えておく。

 

 (次会ったら・・・必ずぶっ飛ばす!)

 「この後は全員どうするんだい?僕は正直、どうして良いかわからないよ」

 (なかなか無い襲撃だったしね。困ったわ)

 

 ルカの言葉にアキハも続く。その声を聞こえるのはギンジだけなのだが。

 

 「オーク、柏木がミヤコを連れて行きそうな場所に心当たりはないか?」

 

 オーク怪人もその質問には首を横に振る。まったく持って所在を確認できない男、柏木タツヤ。ミドリコが調べられるモノをすべて使っても、知恵比べには勝てた事が無かったと言うあたり、雲の様な存在になってきている。

 

 こんな事で、こんな所で躓ている場合ではないのに、ギンジには焦りの色が強く出てきている。

 

 「ブヒ。一先ずヘヴンホワイティネスはうかつに出歩かない方が良い。外はヘルブラッククロスに囲まれ、いつでも襲撃出来る機会を伺っている。おまけにそこの公安の女は指名手配・・・どうやって助けに行くのだ」

 「じゃあテメェは何もしないつもりかよ!」

 「ちょっとギンジ・・・」

 

 オーク怪人の言葉にますますギンジが怒鳴り散らす。そんなギンジを諌めようとカエデが止めるが、鎖が巻き付いているギンジはぐねぐねと身体を動かして抵抗する。

 

 ミヤコは仲間だ。なんとしても助けなければならない。

 

 かつてギンジがカエデ達にそうしてもらった様に、ギンジもなんとかして今すぐ飛び出したい気持ちが強いのだ。

 

 「ねね、ギンジくん・・・こんな時になんだけど」

 

 サクラが杖を手元で回しながら、ギンジとカエデの側に近づいてくる。

 

 「このままじゃヘルブラッククロスに勝てないよ。もちろん敗ける可能性があるって言うんじゃなくて、今敵の策にどハマリしてるのに、無計画に動いても絶対に無謀だよ」

 

 サクラの心配にはカエデもレンもうなずいている。

 

 「同意。それに、新しい怪人は、どれも強敵揃いだった。今の私達じゃ、また戦ったら返り討ちにあう」

 

 レンにしてみれば強敵となるその怪人を、2人同時に相手したのだ。途中でルカとサクラの加勢が無ければ、正直危なかった。

 

 「僕もそう思う。見た感じでしかないけど、ギンジとカエデとミドリコとレン、四人揃わないとあの2人の怪人には勝てない・・・そう見える」

 

 もう怪人の襲撃には慣れたからか、ケイタも冷静に分析する。間違いなくフルメンバーで戦わないと勝つのは厳しいと思えるぐらいには、鋼の怪人と蜘蛛の怪人は強敵だと言うのがわかった。

 

 そしてここに合流するときに暴れていた武者の怪人も、カエデとレイナの加勢でなんとか撃退が出来た。

 

 悪の組織を壊滅させた経験のあるレイナとサクラであっても、非常に辛い戦いにならざるを得ない、まさしく強敵。それを目の当たりにしたのだ。

 

 「じゃあなんだ。強くなりましょうってか?今から修行してる時間なんかあるか!?」

 「よくぞ聴いてくれました!実はあるんですよ」

 

 ギンジの怒号が止まらないが、サクラは満面の笑みでギンジを押し返した。

 

 「実は・・・話すと長いけど、赤鬼さんって覚えてる?」

 

 一般的な認知ではヘヴン4として活躍していた、ヘヴンホワイティネスの仲間。ギンジ達からすれば命を失った貴重な仲間。

 

 彼がどうしたと言うのだろうか。

 

 「私の産まれた故郷・・・魔法界に赤鬼さんが居てね・・・」

 

 サクラの口から出てきた言葉に、ミドリコが反応を示す。

 

 「赤鬼が・・・?嘘つくなあいつは、俺の眼の前で・・・」

 「死んだ・・・でしょ?でも、生きてたんだよ」

 「そ、それは本当か!?」

 

 今度はミドリコが会話に入ってくる。

 

 「それと俺たちが強くなるのに、なんの関係があんだよ。いや赤鬼とはまた会いたいけどよ」

 

 ギンジもカエデもレンもミドリコもケイタもその事実には驚いている。大切な仲間がまだ生きているというのは、にわかには信じがたいが、これが事実なら本当に嬉しい事だ。ミドリコには特に。

 

 「魔法界・・・ここだったら、ギンジくん達ヘヴンホワイティネスが強くなれるんじゃないかな?赤鬼さんも会いたいって言ってたし・・・」

 「だーかーらー!そうしている時間が無いって・・・」

 「時間ならある!あるんだよギンジくん!」

 

 サクラの笑顔で、ギンジは少し冷静になる。一体どういう事なのだろうか。

 

 「もしギンジ達が、魔法界とやらに行くのであれば、私は甘白さんの逮捕状の取り消しを行う為にも動こうと思うよ」

 

 レイナはミドリコと区別は違うモノの、同じ警察。法の中枢へと乗り込み、ヘルブラッククロスの情報操作を覆すつもりでいる。そうでもしないと、ミドリコは家から出られない。

 

 「ブヒ。であれば私はドクターがどこに連れて行かれたのかを調べるとしよう」

 「待て待て、勝手に話進めんな!」

 「それじゃあ、僕とアキハはこの街での襲撃を止めようかな。ぜひヘヴンホワイティネスの力にならせて欲しい」

 (アタシ達ムーン・パラディースが敵を抑えるわ)

 

 次々と協力者たちが自分勝手に口出しを行い続ける。

 

 「落ち着いて聴いて、ギンジくん。魔法界はなんと!時間のながれがこっちの世界とは違うのよ。魔法界の1週間はこっちの3日と半日。それまでに、強くなろう」

 

 異世界転生しているギンジからすると、もはや何も驚かないが今度の舞台は魔法界・・・いよいよヘヴンホワイティネスとも関係ない領域にまで飛んできてしまうのか。

 

 「あ、言っとくけどあたし達はもう賛成してるからね」

 

 カエデがさも当然と言った態度で話すと、ギンジは驚きに首を痛める。 

 

 「同意した。私達も強くならなければ、もう誰にも勝てなくなる」

 

 さらにレンが同じ意思表示をギンジに聴かせると、これでも首を痛める。 

 

 「私もそこには賛成した。特殊能力なんて無いが、何か役立つ事を模に付けないといけないしな」

 

 続くミドリコの言葉ににも驚き、首を痛める。

 

 「ぼ、僕も一緒に行くよ。ギンジ1人じゃ心細いでしょ」

 

 ケイタも言葉をつないだ。4連続コンボによって首を痛める。

 

 そもそもケイタは自分が戦える力が、少しでも手に入ればいいな、という思いだけでついていこうとしているのだが。

 

 「首が弾け飛ぶかと思ったぞ!っていうか何俺抜きでそんな事話してんだー!」

 「あんたがさっきまで寝てたからでしょ!」

 「もちろん、ミヤコを助けないわけじゃない」

 「同意。ミヤコが居なくなったら、ヘヴンリングのメンテナンスが、出来なくなる。ギンジが思ってる以上に、私達も彼女を仲間だと思ってる」

 「お前ら・・・」

 

 ミヤコを助ける為には力をつけないと行けない。ヘルブラッククロスの望む闘争のための力ではなく、仲間を取り戻す力をつけないといけない。

 

 その為には、現実世界における3日と半日、魔法界で修行まがいの何かをするのだろう。

 

 それに力をつけると言う事は、ギンジからしても悪い話ではない。今日の自分はたとえ怪人としての力を持っていても、弱かったと言うことを痛感してしまった。

 

 ──恨むんなら、弱い自分を恨んでくださいね?

 

 タツヤに言われた屈辱の煽り文句を思い出す。

 

 きっと自分もそうだったかもしれない。自分を犠牲にしたのと、最後までギンジを呼び続けたミヤコとでは違うが、攫われたのは同じだ。

 

 必ずミヤコを助ける。力をつけてあの男と異質な怪物に必ずリベンジマッチを叩きつけてやる。

 

 「わかったよ・・・行ってやろうじゃねーか、魔法界とやらに!」

 「やったー!実はですね・・・魔法界に魔王軍の進撃が始まってて・・・」

 

 サクラの真相としては、魔王軍の大進撃が進み自分の国がピンチであると言う。それを止める為に、ヘヴンホワイティネスの力を借りに来たというのであった。

 

 それと同じく、赤鬼にも再開させたいと言うモノであり、結果としては魔法界の危機、赤鬼との再開、ミヤコ救出のための力をつける。

 

 この3つがギンジ達の未来を守る最大の近道である事を、ヘヴンホワイティネス達は知りもしなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・

現在の状況

 

 ヘヴンホワイティネス、魔法少女サクラ

 魔法界へ!

 

 退魔警察

 ミドリコ逮捕の情報操作を覆しに行く。

 

 ムーン・パラディース

 この3日と半日は、ヘルブラッククロスの襲撃を阻止しに回る。

 

 オーク怪人

 ドクターミヤコがどこに連れて行かれたのかを探す。必要であれば雪の怪人を呼び戻す。

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 (待ってろミヤコ・・・必ず、お前を助けてやるからな!)

 

 

続く 

 

  

 

 




お疲れ様です。

今回のお話ではミヤコは攫われました。きっと今頃少しキツめのタイツを履かされて上からもみほぐされてます。

キャラネタ書きます

佐久間ギンジ
ミヤコが攫われた事に責任を感じている。
紫とオーク怪人とも約束した側からこれか・・・

神宮カエデ
眼をさましたギンジに抱きついてしまったが、当のギンジはミヤコミヤコと叫んでいる。ふざけるな
一応ミヤコの事は仲間と思ってはいるので、助けてはあげたい

宮寺レン
骨は大丈夫なのか。
ミヤコをちゃんと助けたいとは思っている。
カエデの恋を応援はしているが、ミヤコとカエデの言い合いは見ていて飽きない。

甘白ミドリコ
山吹イロと共に工場エリアに逃げていた。ギンジも心配でミヤコも心配だが、赤鬼が生きているという話を聴いて、そっちの方の喜びが大きくなった。

角倉ケイタ
魔法界とか初めていくなー。みんな初めてである。
果たしてケイタは魔法界で戦う力が身に付くのか!

月島ルカ/天体アキハ
彼女達は決して弱くないです。精神も落ち着いたので、本来の実力を持ち直してきています。

熊沢レイナ
ギンジの復活に誰よりも飛び出したかったが、今回は神宮君にゆずってあげた。ミドリコの逮捕状を取り消す為に、退魔教会出動!

小町サクラ
一日おきに魔法界と人間界を行ったり来たりしてた。
赤鬼の再開とミヤコ救出の力と魔法界の危機を3つ背負い始めた。

オーク怪人
「もしもし、雪の怪人か?」

柏木タツヤ
ロリコン変態野郎。紳士みたいな設定どこいった!!!
なかなかアブノーマル。戦闘能力は不明。

リコニス
ギンジを今回は見逃してあげた。本当はボロボロになったギンジを見て、胸が苦しくなったのだが、本人はそれを気づいていない。

異質な怪物
夢の世界にも現れた謎の怪物。ミヤコが怯え、ギンジを一方的に攻撃できる強敵。ギンジいわくあれは人類の敵。
怪人とは思われるが、一切の情報が開示されていない謎の怪物。
好きな食べ物はシャインマスカット。

次回はちょろっとギンジ達の出番があり、本来の花形はなんと!
赤鬼です!!
赤鬼主役回!!
命をなげうった彼がいかにして生き延びたのか、そして魔法界で何をしていたのかお楽しみに!!

それではまた次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。