正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちはアトラクションです。

すいません、少し間が空きましたが、実はポケ○ンやってました。

購入してから全然進めてなかったので、有給も使いマッハで楽しんでました。投稿が遅れてすいません。

今回のお話では、タイトルにある通り、ギンジに大きな問題が降りかかります。物語も着実に中盤のど真ん中の章まで進んでおりますし、色々と動き始めております。

でもまだまだ物語は続きますので、そこはご心配無く・・・!

それでは、どうぞ!!!


55・魔法界の修行と、ギンジの大きな問題

 

 あれから体感数日。魔王軍を退けた赤鬼と、その英霊として帝国の民達にもてはやされるギンジ達は、サクラに呼ばれて帝国の王・シシリーの待つ謁見の間に招集を貰っていた。

 

 「王様に会うなんて初めてだぜ」

 「あたしもよ。まともで居てよ、ギンジ」

 

 カエデとギンジは隣同士に並び、その隣にはレン、ミドリコ、ケイタ、サクラが並んでいた。

 

 魔王軍の撤退後は、ギンジの怪我の治療、赤鬼の英霊として皆贅沢な休暇気分を味わっていた。

 

 しかし今日になってギンジの怪我の治療も終わったので、こうして王様に呼ばれたらしい。

 

 「赤鬼はどこに居るんだ?」

 

 せっかく仲間と合流出来たというのに、ギンジ達はサクラの別荘・・・と言うよりはサクラの母親の別荘なのだが、そこで治療する事となり、一度巨城からは離れてしまっていた。

 

 「赤鬼さんなら、多分の謁見の間にいるよ。あれでも一応王様を守る勇者だからね」

 

 勇者赤鬼。元々はヘルブラッククロスの怪人四天王で、そこを退職してヘヴンホワイティネスへと席を移動した怪人。

 

 そんな彼は夏休みの途中、8月上旬辺りに、ミドリコを助けるために自爆特攻でギンジを空に飛ばしたことで、死んだと思われていたのだが・・・。

 

 何故か彼は生きており、しかもこの魔法界に召喚と言う名目でここで生活をしていた。

 

 付いた異名は勇者。荒々しく、暴力的な赤鬼だが何故かここでは勇者と呼ばれている。

 

 「勇者っていうか暴君が似合いそうだけどな、へへへ」

 

 ギンジの冗談が、カエデを笑わせる。

 

 「確かに。どっちかって言うと、そっちの方だわ」

 「同意。赤鬼は、勇者では無い」 

 

 レンの言葉もなかなか辛辣であるが、ケイタはそんな事ないと否定の意思が出てくる。

 

 「赤鬼さんって確かに荒いかもだけど、そんな暴君って程ではないとおもうなぁ。ホラ、ミドリコに優しいし」

 

 ケイタの言葉にミドリコの顔が赤くなる。

 

 いつもと反応の違うミドリコに、レンが何かに気づく。

 

 「・・・カエデ、良かったね」

 「何が?」

 

 やれやれと言わんばかりに、レンはため息を付いた。

 

 「皆、準備が出来たって。姿勢を正して!」

 

 どうやら王の謁見の準備が整った様で、サクラがすぐに全員に声をかける。

 

 「なんか緊張してきたぜ。大丈夫かな、サングラスつけとこうかな」

 

 ギンジが言うと、全員がサングラスを外して居た事に気がつく。

 

 「あんた、外してたの?眼は大丈夫なの?」

 

 カエデがすぐに肘を入れるが、ギンジには効いていない。

 

 「ああ、ここの世界の奴ら、それぞれ瞳の色違うだろ?金色だったり、赤かったり。それだったら俺もこの怪人の瞳でもいいかなーって思ってさ」

 

 悪びれもせずにギンジが言うと、確かにカエデも納得が行く。メガネをかけている人も居て、瞳の色がそれぞれ人に寄って違うのだ。それならばサングラスは外しても良いだろう。

 

 「ふーん・・・ま、サングラス無い方が・・・かっこいいけど」

 

 いつものカエデならばこんな事はすぐに言える言葉なのだが、皆が居るとなかなかどうして恥ずかしく、少し小声になってしまっていた。

 

 「そうだろそうだろ、俺はいつでもかっこいいんだよ」

 

 すぐに調子に乗るのもギンジの魅力なのだが、この瞬間では少しイラっとしてしまう。

 

 「あーほらほら、もう入るよ。いつまでもそんな事してないの!あ、ギンジくんサングラスつけない方が似合ってるよ」

 

 何故サクラはこんな事を軽々しく言えるのだろうか。

 

 羨ましいと思う反面、もう少し素直に言えればいいのにな、と悔やむカエデ。そんなカエデを見て微笑を浮かべるレン。

 

 「それじゃ、怖い人だからしっかりしてね!」

 

 サクラが全員に声をかけると、いよいよ王と対面を果たす緊張感が走り、姿勢がつい良くなってしまう。特にケイタはそれが露骨だった。

 

 「英霊様のお通りだ!」

 

 近衛兵が扉を開けた瞬間、左右のメイドや騎士達から喝采が上がる。クラッカーも飛び、魔法による小規模な花火が打ち上がる。

 

 思っていた以上の歓迎ムードで、ギンジ達は嬉しくなる。

 

 「よくぞ来てくれた、英霊達よ!」

 

 威厳のある顔つきと風格を持たせる王、シシリーが喜びながら口を開くと、隣に座る麗しい王女・ポモドロもギンジ達を迎え入れる。

 

 そして・・・。

 

 「兄貴ーーー!ご無沙汰してやす!」

 

 赤鬼が両膝に腕を付いて、深々とお辞儀する。

 

 あの勇者が頭を下げている、と騎士達は驚愕する。本来英霊とは、勇者の呼び出す従者であり、その英霊に頭を下げる勇者は居ないのだ。

 

 何もかもが今までの常識と違う勇者の行動には驚かされるばかりだが、その赤鬼の前にクリムパスの同じお辞儀の姿勢を取る。

 

 「英霊殿、そなたがギンジだな?そして美しいお嬢様方は、カエデ、レン、ミドリコ、そしてケイタに・・・サクラ・・・サクラ様ぁ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げたクリムパスを見てジェノベもすぐに目の前に現れる。

 

 「これはサクラ様・・・お久しぶりでございます。姉上はお元気でございますか?」

 

 ジェノベが礼装に着替えていたのか、いつもより妖艶さを醸し出しているが、サクラは何も気にしていなかった。

 

 ジェノベの姉・・・つまりはサクラの母親の事だろうか。

 

 「うん。ママは相変わらずだよ〜」

 「サクラの母親もこの魔法界の出生なのか?名前がなんか・・・あれだけど」

 

 サクラとジェノベの会話にはギンジが割り込んでくる。突っ込むと言うか、どうしても気になってしまった。

 

 「私のママは先代北度固化市の魔法少女でね、この魔法界出身なんだよ。で、この人はママの妹で、本名はウメって言うの!」

 「ウメです。ですが、今は魔女の席を継いだ身でありますので、名を捨て、ジェノベと名乗らせております」

 

 ジェノベとサクラの関係に少し興味のあるギンジだった。

 

 サクラの母親は魔法少女であり、しかもこの帝国ではかなり上位の立ち位置に居る最強の魔法少女との事。クリムパスが驚いたのにも納得が行く。

 

 「ところで、集まってもらった所で申し訳ないのだが・・・ああ、食事をしながらでいい。聴いてくれ、勇者も英霊達も」

 

 シシリー王が威厳のある態度で言うと、メイド達が食事を運んでくる。その用意された食事の前の席にギンジ達が座ると、サクラだけはシシリー王の前に立ち、着席したギンジ達の方へと振り向いた。

 

 「先ずは・・・私からお話させていただきます」

 

 サクラが魔法で自分の口元に小さな翼がついてマイクを召喚し、次に声を出す。その顔はどこか神妙な面持ちと、恐れを抱いた瞳をしている。

 

 「ギンジくん達にまともな説明をしてなかったから、改めて。先ず、この魔法界、というよりは、オレキエッテ帝国に国の歴史上最大の危機が迫っています」

 

 危機。その言葉はここに来る前にも聞かされたが、詳しい内容は魔王軍が迫っている・・・それしか知らなかったギンジ達は内容を詳しく知りたいとは思っていた。

 

 「前に少し話しただけだけど・・・魔王軍がとても強くて、正直この国は疲弊しきっているの。魔王の目的も、自分を神にするとかふざけてるし、でもそれでも奴らは正直この世界においては最上位の魔法を操る者も多い・・・」

 

 赤鬼から見たこの国の兵士は一人ひとりは決して弱くないが、人数の有利不利で考えれば、毎日戦い続けられるモノではないと見ていた。

 

 自分の治療の時も魔王軍の襲撃は繰り返されており、なんとか撃退していると言った状態。

 

 おまけに勇者の召喚も間に合わず、戦況は悪化するばかり。

 

 だからサクラが魔法界に帰って来た時の現状を見て、これは友の力を借りたいと思って急いで戻ってきたのだ。

 

 「急な事ばかりで本当に大変だし、困惑も正直してると思う。だけど、ヘヴンホワイティネスの力を借りたいの。ママが産まれて、育ったこの世界を守りたいから・・・」

 

 シシリー王もポモドロ王女も想いは同じだ。ジェノベもクリムパスも、この国の兵士達は皆同じ気持ちでいるが、どうにも勝利が見えてこないこの状況下において、赤鬼の召喚、更には英霊達の出現。

 

 そこへサクラの帰還。

 

 「ミヤコちゃんを助けるのもちゃんと協力するからっ・・・。そのために力をつける事にも協力する!だから、お願い!力を貸して、ヘヴンホワイティネス!」

 

 魔王軍を倒して、この魔法界の平和を取り戻す。しかしそれはサクラ一人の力ではどうにもならない。だから・・・。

 

 「・・・ミヤコを助けられなかった時、俺は本気で悔しい想いをしたぜ。あいつを助けるためならどんな力でも吸収して、必ず強くならないと行けないんだ・・・」

 

 ギンジが苦い顔でそう告げると隣で座るカエデも、目をふせながらも同じ決意を持って答える。

 

 「あたしも同じ!ミヤコ(仲間)を助けるなら、ここで強くなるわ!でもその変わりに魔王軍っていう悪を倒せばいいのよね?」

 

 カエデも正義の志を持つ戦士の一人。ならば、友達の為、断る理由は無い。

 

 「いいわ!今更魔王だと聞いても怖くないし、そもそもあたし達が戦っている相手は地獄そのものよ!」

 

 レンもミドリコもケイタも頷き、ギンジと赤鬼はカエデを見つめている。

 

 「魔法界の平和・・・ヘヴンホワイティネスが取り戻してあげるわ!」

 

 勢いの良いカエデの発言に、ギンジも続く。

 

 「サクラ!ミヤコを助ける時にお前の力も必要だからな!必ず手を貸してくれよ!俺も魔王軍をぶっ飛ばすのには全力でやってやるからよ!」

 「カエデ、ギンジくん・・・ありがとう!」

 「おう!全部俺がぶっ飛ばしてやる!」

 「兄貴が行くなら俺っちもやってやらぁな!」

 

 それぞれ仲間達が騒ぎ始めると、サクラは本当にギンジ達ヘヴンホワイティネスに頼んで良かったと思い始める。

 

 「良い友を持ったな・・・サクラ」

 

 声をかけたのはシシリー王だった。

 

 「はい・・・彼らは本当に強い志を持っている人たちです。倒すって言ったら絶対にやり遂げそうな、私の自慢のお友達です!」

 「・・・そうか」

 

 サクラの想いに溢れた言葉を聴いて、シシリー王もクリムパスも強くうなずいた。

 

 「さ、食事の後は、魔王軍が次の襲撃をしてくるまでは訓練だよ!言い換えるなら修行!ふぁいっ!」

 

 声たからかとしたサクラの発言に、ヘヴンホワイティネスはいよいよ活気にも勢いが限界を超えて居る。

 

 このやる気ならばきっと、本当に魔王軍なんか一捻りにできてしまいそうだ・・・。

 

 本当ならば今すぐでもミヤコを助けに行きたいのは、きっとヘヴンホワイティネスの面々は同じ想いを持っている。だからここに来るのだって辛い決断でもあった。

 

 2つ返事で引き受けた様で、その実かなり苦渋の選択であったことは想像に堅くないのだから。

 

 「あのー兄貴」

 

 おずおずとギンジの隣に来た赤鬼が、ギンジに声をかけてきた。

 

 「ミヤコ姉さんは一体何があったんです?」

 「ああ、話してなかったな・・・」

 

 ミヤコがここに居ない事、そしてミヤコを助けるという話しの内容に、赤鬼は何がなんだか・・・そういった表情で居た。

 

 ミヤコが今どうなっているのか、そしてここにギンジ達が来る前に起こった経緯を聴いて、赤鬼も同じ様に苦い顔をしている。

 

 「あの大幹部さんがねぇ・・・意外とロリコンだったんか・・・にしても許せねぇな。ミヤコ姉さんはギンジの兄貴と一緒にならないとダメだろっ」

 

 そこまで話すと一気にギンジが角を掴んで、赤鬼をテーブルにたたきつける。

 

 「や・め・ろ!ソレ以上は言うなよ!色々怖ぇーんだよ!」

 「へい。配慮が足りずすいやせん。こう言うべきでしたね」

 

 赤鬼はほっぺについたマカロニみたいな食材を剥がすと、ゴホンと咳払いを一つ。

 

 「お嫁さんを守れなかったなんて辛かったぐはぁ」

 「お前いい加減にしろよ・・・」

 

 もし隣に座るカエデが聴いていたらと思うと、また理不尽な暴力に見舞われる可能性がある。

 

 身の危険を感じたギンジは赤鬼をひっぱたくと、何事も無かった様に食事を再開する。

 

 「と、とにかくミヤコ姉さんを助けるためにも、ここで強くなりやしょう!兄貴!」

 「当たり前だぜ!所でもう俺たちは一週間以上居る様な気がするんだけど、大丈夫なのか?」

 

 美味しいマカロニグラタンみたいな料理を食べながら、ギンジが言うと食事のおかわりを運んできたメイドが慌てながらやってくる。

 

 「魔法界では30日で一週間です。人間の感覚とは違うのでご安心を。あわわわ、ご飯運ぶの大変ですぅー」

 

 あのメイドはペンネーと言うらしい。いつも慌てては、銀のトレイを乗せた台車を人にぶつけているとの事。

 

 「まだ一週間も立ってないって事だな!そんじゃあ、さっさと飯を食って魔王軍に備える&修行開始だぁぁ!!」

 

 ギンジの雄叫びにも近い宣言に、ヘヴンホワイティネスとオレキエッテ帝国の兵士達の面々が意気揚々とそれに応えるのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 食事を終えて、カエデとレンとミドリコは大きく開けた訓練場へ。

 

 3人の女性陣が行う修行は、制御しきれない力を上手く操れる様になるために、精神的なモノを鍛えると言う事。

 

 ケイタはサクラと共に魔法の基礎を学びに、王立図書館へ。

 

 ケイタには正直戦う為のステータスが無い・・・しかしながらそれでも戦わないと行けないと覚悟しているケイタは、サクラと共に潜在能力を開放しに行くという。

 

 赤鬼はクリムパスとシシリー王と次の軍事会議へ。

 

 皆それぞれで各々修行を開始すると、ギンジも敗けては居られないという気持ちでいっぱいになる。

 

 そうしてギンジが魔女ジェノベによって連れて行かれた場所では、作業着に着替え、畑にクワを刺して土を耕し、種を蒔いて、水をやり・・・。

 

 「なんで農作業だ!!!」

 

 魔法界では一人だけ帝国に落とされたり、今度は農作業をしたりと、踏んだり蹴ったりである。

 

 農作業を途中まで開始するまで何も気が付かずに、言われるがままにやっていたギンジもギンジなのだが、これは明らかに修行とは関係ない様な気がする。

 

 「おかしいだろ!なんで俺だけ農作業なんだ!!!」

 「しかし英霊様、貴方には勇者様と同様に、体内に魔力がありません・・・内面ではなく、フィジカルを鍛えようと」

 「思ってた修行と違う!しかも地味!!」

 

 滝に打たれたり、正拳突きをしてお祈りを捧げるとか、そういうのでは無いのだろうか。

 

 「『ギンジは皆を置き去りにした・・・』みたいなぐらい強くなるかと思ったのによぉ!」

 「英霊様のそんなお話に、私が置き去りにされています。あ、そこトマトを植えてください」

 「辛辣な事言うな!悲しくなってくるだろ!ここは指示書だとレタスだぞ!」

 

 ジェノベと言い合いをしたい訳ではないのだが、どうしてもこれはなっとくが行かない。

 

 そもそも農作業が悪い訳ではないが、流石にこれで戦闘力が上がるとは到底思えない。

 

 「あら本当・・・じゃあレタスを植えてください」

 「っていうかそんなん魔法でやれやぁ!!」

 

 納得のいかない状況でもギンジはレタスの種を植える。意外とマメな男である。

 

 「では、次はあの丸太を切ってください。害獣から守るために柵を作りましょう」

 「はいはい。次は丸太ね。ムーン・フォ・・・」

 

 ギンジが何かを斬るとすれば、斬撃を使えるムーン・フォースなのだが、それをジェノべが制止する。

 

 変身しようとしたギンジの腕を掴んで止めたのだ。

 

 「変身は使わず、能力も使用しないでください」

 「・・・?」

 

 ジェノベはニコニコと微笑みを浮かべて、ギンジの腕を優しくさする。

 

 「貴方の修行は身体を鍛える・・・英霊ギンジ様の能力は使用せず、この畑を作ってください」

 「能力を使わず・・・?いや、出来るか?このデカさで・・・」

 

 おおよそ一人でやるには何ヶ月もかかりそうな広さだが、ジェノベは余裕な笑みを浮かべたままである。

 

 「勇者様は半日で出来ましたよ。英霊様でも半日で出来る筈です」

 

 ジェノベの笑みはなんとなくサクラに似ているが、逆にその笑みが少し怖いとも思えた。

 

 「道具はノコギリ、ハンマー、他にも必要な道具があれば言ってください・・・この畑を作るのがギンジ様の修行・・・っていう事で!」

 「・・・ふざけてるだろ・・・」

 

 こんな事をする為にミヤコよりも優先度を上げた訳ではないが、もう魔法界に来てしまったのでやる事はしっかりやろうと思うギンジなのであった。

 

 〜ギンジの修行・畑作り〜

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 帝国所有の王立図書館。

 

 ケイタのお願いを聞き入れたサクラは、ここに彼を連れて来て居た。

 

 「ありがとう」

 

 魔法で明かりを灯しているとはいえ、窓から入り込む日差しだけでは薄暗い、巨大な本棚が並ぶ通路でケイタがお礼を述べる。

 

 「ケイタくんは本当にレンちゃんが好きなんだね」

 「もちろん!・・・でもあの娘にだけ辛い思いをさせてばかりだし、僕もなにか出来る様にならないと行けないかなって思ってね」

 

 男だとか女だとかではなく、ただ純粋に自分も役にたつ事を選んだ。今までの情報収集でも十分かもしれないが、それだけではケイタは納得していない。いつも傷つくのはレンの方なのだ。

 

 しかし自分も傷つく覚悟で挑んでいるケイタに、無情な言葉が告げられていく。

 

 「でもね、本当に申し訳ないけど、ケイタくんは純粋な人間であって・・・その、わかりやすく言うと・・・はっきり言って才能が無い。戦いの才能が」

 「・・・っ」

 

 何かを言い返したいが、魔法という特殊能力を持つサクラにそう言われると、上手く言葉が出てこない。

 

 言葉に詰まってしまうが、サクラはまだケイタに追い打ちではないが、言葉をなげる。

 

 「私の主観でもそうだけど、本来人間に備わっている少量の魔力も無いに等しい、ただ身体を鍛えているだけでもない・・・そしてなにより敵の一撃に絶耐えられるかもわからない」

 

 かつて紐の怪人やリコニスに襲われた時は、遊ばれていたからこそ殺されずに済んだだけであって、敵が本気ならすでに他界していた可能性さえあるのだ。

 

 「敵に挑む、好きな人を守る・・・その勇気はとても大事なモノだけど、それだけじゃ戦えないよね」

 「で、でも僕は・・・」

 

 いつもの優しいサクラの印象とは打って変わって、厳しい現実を見せる言葉だった。それでもケイタは諦めきれない想いがある。

 

 カエデが力に覚醒し、ギンジは怪人で、ミドリコは人間であっても銃を扱うことで、怪人にも真っ向勝負が出来ている。

 

 ヘルブラッククロスに支配された未来という、悲しい世界からやってきたレンを守りたいと思い、彼女は未来を変える為に戦う覚悟を幾度も持ち直している。

 

 そんな彼女が傷ついて、でも心を守るだけでは限界を感じているからこそ、ケイタはレンの力になりたい。

 

 「ただ言われて、その通りにやるだけじゃダメだって解ってるんだ」

 

 ケイタはまっすぐとサクラを見つめて、握り拳を作る。こんな自分でも一人ぐらいは守りたい。

 

 戦う力を持つと言うのは、ソレ相応の覚悟が必要になっていく。

 

 自分が傷つかなくていい、ではなく、自分も一緒に傷つきながら守る。これしか無いというのがケイタの覚悟。その覚悟の中にはいつもどおり彼女の心を守るという大きな約束も入っている。

 

 「今のままの覚悟じゃダメなんだ。もう仲間もレンも傷つくのは本当に嫌なんだ。じゃあ戦いをやめてっていうのも言えない。僕が一緒に戦う、これで彼女を守る」

 「それじゃあもし仮に君が死んじゃったとして、そうなったらレンちゃんはどうなると思う?絶対に死なないと言い切れるかな?」

 「・・・っ!!」

 

 またもや厳しい言葉。例え話と解っていても、もしそうなったら大きな穴を、レンの心に作ることになるだろう。

 

 「・・・それでもっ、それでも僕は・・・」

 

 守る。不安を抱えながらも、ケイタの覚悟がゆるいでいない。サクラの前でケイタは大きな覚悟を出していく。

 

 「それでも僕は・・・レンを守れるヒーローになりたいんだ!」

 「ふ〜ん・・・?」

 

 ヘヴンホワイティネスの様なヒーローになれなくても、とにかくレンを守りたい。そしてレンを守るために、自分をヒーローにたとえて、その覚悟を伝えた。

 

 「いいわね!」

 「えっ?」

 

 サクラがすぐに笑顔に切り替わる。見慣れた笑顔に、ケイタは一気に緊張感が抜けていく。

 

 「もしここでやっぱりやめる〜って言おうモノなら私が魔法で空の彼方に飛ばしてたところだよ!」

 「えっ?えっ?」

 

 どうやらサクラなりにケイタの覚悟の大きさを知りたかったみたいだ。

 

 「いいよ、戦う才能が無いのも、それを鍛えることも正直難しい領域だけど、努力は裏切らないのも事実。ケイタくんの覚悟も知れたし、魔法の使い方、教えてあげる」

 「いいの?よかった〜・・・」

 

 安堵するケイタにサクラが魔法の杖を、一瞬で向ける。その先端には刃が取り付けられており、喉元まで迫っている。

 

 「でも・・・死んだらどうしよう、の答えは聴いてないよ」

 

 サクラは笑顔ではあるが、まだそこの答えを聴いていない。ここでへこたれるようなら、この先の戦いも、レンを任せるのも正直頼りなく感じる。

 

 答えは簡単な一言でいいのだ。それをサクラは知っているからこそ、ケイタからそれを聞き出したい。

 

 「・・・僕は死なない。何があっても!どんな敵が来ても!必ず最後までレンを守ってみせる!!」

 「・・・よしよしよし、とてもよし!いいよ、それじゃあケイタくんの修行を開始しよう!」

 

 サクラが聴きたかった答えを聴いて、笑顔が戻る。

 

 次にサクラが杖を振り回して、自分の背後に杖を向ける。広大なこの図書館を見渡さんばかりに広げた見せ方に、ケイタは目を見開く。

 

 「この大量の本の中に、君の魔力に適応する魔導書があります。それを探してみて」

 「え、この中から?」

 「そう。この中から。見つけるのが第一段階。見つけてからが第2段階!時間もヒントもありません!さぁ、もう始まってるよ!はよはよ!」

 

 手を叩いて催促するサクラに、ケイタは急ぎ顔になりながら、一気に本の山へと立ち向かうのであった。

 

 「・・・素敵な恋人だね、レンちゃん」

 

 ニヤニヤとしながら、尊い2人の間には確かな絆と恋がある事を知り、サクラはケイタの修行に付き合うのであった。

 

 〜ケイタの修行・魔導書探し〜

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 オレキエッテ帝国の訓練場。ここでは帝国の兵士達に混ざり、カエデ、レン、ミドリコの三名が訓練に入っていた。

 

 「私がここの訓練を任されている帝国兵長アラビアだ。よろしく頼むぞ、英霊殿」

 

 いかにも軍人気質と言った態度をした女性が、ヘヴンホワイティネスに声をかける。

 

 「あらかた人を見ただけで、何で伸び悩んでいるかはだいたい解る。そこの金髪のお嬢さん」

 「あ、あたし?」

 

 金髪なのはカエデしか居ないのだが、少し高圧的かつ、迫力のあるアラビアの声に背筋が伸びる。

 

 「君は自分の力の使い方・・・それも特に制御のしかたがわからないとみた。どうかね?」

 「あ、当たってます・・・」

 

 あのカエデが敬語になってしまう程なのか、アラビアの口調はそこそこに怖いと感じてしまう。もしくは萎縮か。

 

 「そして青空みたいな髪色の君は、武器の扱い方に粗があると見た。特殊な力をもっと体力の消耗無しに使えたら・・・そう思っていないか?」

 

 アラビアの指摘はレンにも当てはまり、レンも背筋が伸びる。

 

 「確かに、最近の新しい形状は、扱えてても消耗が激しい・・・」

 「そうであろう。護りたい人が居るのは良いことだが、その戦い方では、おそらくこの先は厳しいモノだろうな。まぁ、魔王軍を相手取る分には問題はなさそうだが・・・」

 

 次に兵士長であるアラビアが、ミドリコを見つめる。人の中の潜在意識を見通したアラビアは、彼女だけは特殊な力を持っている様には見えなかった。

 

 「そこの黒髪の英霊殿は・・・言葉を選ばずに言えば、悪いが戦う力が無いようにも見える。しかしながら、悠然と戦いに挑む力強さを感じるな」

 「はっ!」

 「更に言えば、東方の武器を操る事には長けていそうだ。でるならば、ためらい無く敵を撃つ力でも身につけるべきだろうか」

 

 ミドリコはどちらかと言うと、敵に情けをかけてしまうタイプだ。今までの戦いもどちからかと言うと不殺を繰り返した来た。

 

 ソレ故にあまり敵に銃を撃っても、あえて急所にならない所を狙う傾向がある。

 

 「いいかね、君達英霊殿を鍛えるのは構わないが、それぞれやるべき事は変わらない。魔王軍にも英霊殿の戦いにも、同じ事しかしない」

 

 アラビアの言葉は激が強い。

 

 後ろ手にまわして話す彼女の姿勢は、とても強い意思の様なモノを感じた。

 

 これから控える魔王軍との戦いにも、魔王軍の襲撃にも動じない強い精神力を持っているのかも知れない。

 

 「昨今の魔王軍の襲撃にも部下が何人かやられてしまってな。悔しいが、我々ではどうにもならない事がある。ソノため悔いの残る戦いをしない様に気をつけてもらいたい」

 

 それぞれに与えられた修行の内容は簡単だが、どうにも難しくも感じる。

 

 カエデはダークヘヴンスーツの制御を。限界まで出力を上げつつ、それを制御出来る様にする事。

 

 レンはビーム剣の形状を早く切り替えて、かつどんな形状でも同じ威力で扱えるように成長を促す事。

 

 「そして黒髪の貴女だが・・・」

 

 ミドリコを指差したアラビアの口調に、ミドリコはしっかりとした目線と、きれいに伸ばした背筋で大きい声で返事を返す。

 

 「貴女には、その遠距離武器の扱い方とか、自分よりも大きい男を張り倒すぐらいの実力はありそうだ。ならば、魔力を使った訓練・・・第三の眼を使った、どこに居ても攻撃が当てられる様にする訓練を開始しよう」

 「・・・つまりは?」

 

 ミドリコのきょとんとした態度に、アラビアは口角を少し釣り上げて、訓練内容を課す。

 

 「第三の眼を開眼せよ。それがあればどんな武器でも、相手の気配を【見る】事が出来る。貴女に足りないのはそれだけだ」

 

 ミドリコはその訓練として、不殺でも構わないので必ず敵を見つける事が出来る、気配の感知能力を高める事。

 

 元々ミドリコは後方支援者。銃撃による援護と、敵勢存在のいち早い確認、報告が主な戦闘方法だ。よって彼女に与えられたそれは、壁越しに隠れる敵の気配が見える様になるための、魔力訓練。

 

 それぞれが内容を確認すると、すぐに行動に取り掛かる。修行を開始して、すぐにでもミヤコを救出できるように、そしてサクラの正義のお願いを達成出来る様に。

 

 自分達の未来を守る為に力をつけないと行けない。

 

 〜ヘヴンホワイティネスの修行・各自自分の能力の向上〜

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 彼らの修行は日が暮れるまで続いていた。

 

 各々空が一望出来る訓練場の休憩室にて、集まりつつ軽い食事を取っていた。

 

 カエデは自分の限界を超える為に、ダークヘヴンスーツに変身したまま、あの別次元の力を自分の意思でなんとか操れる所までは来ていた。

 

 レンもビームフォームを始め、長剣、両刃剣(ダブル)二刀流(デュアル)削岩回転機(ドリル)(ファング)大砲(キャノン)(ハーフブレード)鈍器(ハンマー)・・・。

 

 様々な武器を操りつつも、その形状をそれぞれ早く換装させ、かつ強度を高く練度を正確にしたビーム剣の真骨頂を引き出していた。

 

 「シルヴァが、使ってた時みたい・・・」

 

 ビーム剣の本来の持ち主である、未来の恩人シルヴァが使っていた時の様に、レンが一人では出すことの出来なかった領域まで進化させる事が出来たのだ。

 

 後はこのビーム剣を更に強く操る為にも、鍛錬は怠らないようにしようと、青白い輝きを前にしてレンはそう誓った。

 

 ケイタはと言うと、サクラの下で埃まみれになりながらも、自分の魔力に合った魔導書を発見し、開かない魔導書を大事そうに胸にしまっている。

 

 「ふぅ・・・皆大丈夫だったか?」

 

 若者3人の下に疲れた顔でやってきたのはミドリコだった。相変わらずこの世界に似合わないスーツ姿なのだが、そのくたびれた姿と、ハイヒールが地面にめり込む姿勢の悪い歩き方は、社会の荒波に揉まれて荒んでしまった様なOLにも見えた。

 

 どうやらミドリコもアラビアと共に色々学んできたらしい。

 

 帝国の基礎的な格闘術、及び魔法の感知の取り方や、第三の眼というモノの掴みは出来た模様。

 

 ただしその代償はかなり疲れ果てている。よほど大変であったのだろう。

 

 「皆よく頑張ったね!」

 

 サクラの元気な声は、皆が空返事をするぐらいの返事しか帰ってこない。 

 

 「姉御達〜!」

 

 そこへ更に元気な大声で赤鬼とクリムパスがやってくる。もはや赤鬼が兄貴分で、クリムパスがしずしずとついてくるその姿は、従者の様にも見えていた。

 

 「お疲れ様ですっ!!!」

 

 温かく蒸したタオルを、ミドリコにだけ丁寧渡しながら赤鬼が一礼する。それぞれカエデたちにはクリムパスが渡していた。

 

 「ミドリコの姐さんもチョーノーリョクの覚醒ですかね?」

 「いや、そんなたいしたモノは無いし、あっても私には扱えないな。なんとなく気配が見えるというか・・・不思議な感覚だな・・・」

 

 一息ついたミドリコは今も少し離れた所にいる2人の反応と、城内に居る兵士達の反応を脳裏で感じ取りつつも、頭の中が痒くなるようなザワザワするむず痒い感覚に見回れる。

 

 どうにも使い慣れない感じがして、額を抑える。

 

 人の反応は赤い点で確認が出来、怪人は黒い点、モンスターと呼ばれる存在は緑、サクラだけは桃色でそれぞれ反応が見えるからこそ、どうにも気持ちが悪い。

 

 壁越しに人のシルエットと、そのシルエットの胸の真ん中にそんな点が浮かび上がる、そんな映像故にいつもは遮断していても良いだろう。とにかく気持ち悪く見えてきてしまう。

 

 今後のヘルブラッククロスとの戦いにおいては、きっと役に立ってくれるだろうが、使い勝手は良くない。そんな印象。

 

 「姐さん、顔色が優れやせんね。俺っちと混浴したらなおりま」

 「・・・」

 

 無言で睨まれ、しかも拳銃を引き抜いている。その銃口が向けられて、赤鬼はソレ以上は何も喋らない。これ以上ふざけていたら嫌われるかも知れない。

 

 「ところでギンジはどこに居るのかしら?」

 

 修行に疲れて皆色々と動きたくないのだが、カエデは身体を動かしていく。

 

 肝心な男がここに居ないと、カエデも少し寂しく感じてしまっていたからだ。

 

 「そういえば、ギンジが居なかった。私は動きたくない、カエデ、行ってきて」

 「ごめん、僕も疲れちゃったから・・・」

 「いいわよ。気にしないでそこで休んでなさいな。あたしは行ってくるわ!」

 

 レンもケイタも疲れているし、わざわざギンジを一緒に探さなくてもいいとも思う。ミドリコも行こうとしたが、流石に疲労には勝てなかった。

 

 「多分兄貴なら、訓練場裏の畑に居ると思いやすぜ!」

 「カエデ殿、行くなら足元が暗いから気をつけて!」

 

 赤鬼とクリムパスの忠告に、カエデは後ろに手を振るうと、休憩室から離れていく。

 

 少しだけカエデの表情は明るいモノとなっていた。ギンジと会える事の喜びもあるが、自分も強くなった事をギンジに報告出来る楽しみもある。

 

 カエデもまだ完全では無いとは言え、ダークヘヴンスーツの制御が出来る様になってきた。ギンジのフェーズ3みたいな馬鹿力は出ないにしても、あの力は壮絶なモノであり、カエデの切り札にもなっていく。

 

 「確か裏の畑って言ってたわね・・・畑?」

 

 何故畑にギンジが居るのだろうか。そこはわからないが、ギンジはいつも勢いだけで動いている男だから、まぁ不思議ではないなとカエデは考える。

 

 休憩室の螺旋階段を降りて、すぐ眼の前は兵士達の訓練場。そこを石壁の建物つたいに回り込んで行くと、確かに畑が見えてきた。

 

 柵に囲まれて木造の小さな小屋まで出来上がっているその場所に、カエデは脚を踏み入れる。

 

 「ん・・・ギンジ〜?」

 

 軽く呼んで見る。が、返事はない。

 

 もう一度呼ぶ前にカエデは髪型がずれていないかを確認して、制服も汚れていないかをしっかり確認する。

 

 身だしなみを整えると木造の小屋の近くまで行き、再度ギンジの名前を呼んで見る。

 

 人の気配と言うか、いつものギンジの気配がこの木造の小屋の中から感じ取れては居る。

 

 いつもの距離感故か、それだけはなんとなく解る様になって来ている。尤も、近くに居れば解る・・・ぐらいの感覚でしか無いのだが。

 

 そう思うと急にギンジがここに居るという意識をしてしまい、少しだけだが鼓動が早まる感じがする。

 

 「ギン・・・」

 「カエデか?」

 

 再び呼ぼうとしたが、扉が先に開きギンジが出てくる。その顔を伸ばしたドア越しから温かい空気と、鍋を煮込む様なお腹のすく香りが、畑に漂い、カエデの空腹感を促進する。

 

 「ちょうど呼びに行こうと思っててよ。あ、入れよ」

 「あ、ええ、うん・・・」

 

 何か思っていたのと違うが、とりあえず今日はギンジと話したい事もある。

 

 言われるがまま、カエデはギンジの居た小屋に入ると、ジェノベが出迎えてくれる。

 

 決してギンジに限っていかがわしい事をしていると言う事はないだろうが、なんとなくギンジが女性と2人で居る事が気に喰わない。

 

 「何してんのよ・・・」

 「ああ、鍋作ってた!俺の野菜鍋美味いぞ〜」

 

 実際食にうるさいカエデから嗅いでも、かなり美味しい香りなのだが、そこではない。

 

 「英霊ギンジ様の鍋料理は美味しそうです・・・ニホンが懐かしいですね」

 

 サクラの母親と共に度固化市で暮らして居た事を思い出し、ジェノベはやや涙目になっている。懐かしい事を思い出すと涙をながす性格のようだ。

 

 「あんたちゃんと修行してたんでしょうね?」

 「もちろん・・・って言いたいんだけど、ずっと農作業やらされててよ・・・なんで俺だけ農作業なんだ〜つてずっとキレてやってたぜ」

 

 ぐつぐつと煮えたぎる鍋をお玉で混ぜながらギンジが言うと、カエデがキッと強い視線で睨みつけてくるが、それには訳があるとジェノベが間に入ってくる。

 

 「ギンジ様にもちゃんとギンジ様なりの修行をしていたのですよ」

 「どんな修行なの?」

 「ええ・・・農作業です」

 「それ修行じゃぁないじゃない!」

 

 カエデも同じ事を叫ぶ。当たり前だ。農作業は誰でも出来る上に、直接戦闘とは関係が無いような気がする。

 

 それこそ農作業と小屋の組み立てで、ギンジが強くなっているとは思えない。 

  

 農作業と小屋の組み立てで、本当にミヤコを救える気で居るのだろうか。

 

 「それではギンジ様、また明日お会いしましょう」

 

 ジェノべが何も食べずに席を立ち、ギンジとカエデに一礼するとそのまま背を向けて小屋から出ようとする。

 

 「あれ?何も食べないのか?」

 「ええ。明日いただきます。ああ、そうそう」

 

 何か思い出したかの様にジェノべが指を上げる。

 

 魔法使いらしい仕草と、魔女としての動作は2つ合わさって怪しさと共に儚い美しさを醸し出す。

 

 「本日は英霊様達が全員修行の第一段階を完璧に終える事が出来ました・・・次は我が地水火風の司祭を混じえて、修行を開始します。内容はとても簡単・・・彼らに勝ってください」

 

 背は向けたまま銀髪を揺らして話すジェノべに、ギンジとカエデは小首をかしげた。その地水火風の司祭に勝つだけでいいのだろうか?

 

 「なんだ、要は殴り合いか。簡単だろそれなら」

 

 ギンジの余裕な表情を見て、カエデも苦笑混じりにそれにうなずいたが、ジェノべは硬い顔をする。

 

 そこからすぐに微笑を浮かべて、ギンジとカエデに忠告を促す。

 

 「彼らはとても手強いですよ。その余裕が崩れない事を祈っております」 

 

 それだけ告げるとジェノべは魔法で自分の姿を消した。城内へと戻る様な光の球となり、魔女はその場を離れていった。

 

 2人きりになった小屋の中で、カエデはギンジの隣にやってくる。火にかけられた野菜鍋を見て、次にギンジの横顔を眺める。

 

 「ねぇ、ギンジ」

 「ん?どうした」

 

 小さな器にそれをよそいながら、ギンジはカエデの声に耳を傾ける。

 

 「ギンジはミヤコを助けたい?」

 「当たり前だろ、俺の命の恩人だし。仮にお前がミヤコと同じでも俺は助けに行くぜ。お前も・・・カエデも俺の命の恩人みたいなモンだしな」

 

 正直以外だった。ギンジにそう思われているなんて。

 

 「まだ俺が・・・今もそうかも知れないけど、怪人だからって信用無かったってのに、助けに来てくれたろ?」

 

 6月にギンジが連れ攫われた時に、カエデ達は音楽堂まで突撃してきてくれたのだ。アレを本当にありがたいと今でもギンジは思っている。

 

 「そうね・・・でも、今は信用してるわよ。うん、正直に言えばあたしは、あんたが居ないとここまで戦えて来れなかったかもだし」

 

 少しも気恥ずかしさを感じさせないで、カエデが言うとギンジもニヤリと笑う。

 

 「レンが相棒なのも変わらないけど、ギンジもあたしの相棒で居て欲しいからさ・・・だから一個だけ約束してくれない?」

 「俺が相棒?へへ、光栄だね」

 

 相変わらずの軽口だが、ギンジがカエデ達ヘヴンホワイティネスのサポートをするという気持ちは今でもずっと変わっていない。

 

 カエデがいつもみたいな気の強い表情ではなく、正義のヒーローとしてでもなく、ただ一人の女の子としての表情で微笑んでくれている。

 

 「約束って?」

 「簡単な約束。もう何があってもあたし達を置いて、勝手に死にそうな事しないでちょうだい。あんたはあたしの下僕であり、最強の相棒なんだから・・・」

 

 かつてギンジが一人で敵に立ち向かった事は、今でもカエデの心に深い傷跡を残している。取り戻せたから良かったものの、次同じ事になったらどうなるかもわからない。

 

 そう思うまでにギンジという【人間】が大切だと、カエデは想っている。それは恋としても、憧れとしても仲間としても。

 

 「あ、あんたが大切って意味もあるからね!ギンジがあたし達を大切にしてくれるのと、同じで・・・皆気持ちは同じって事よ!変な勘違いしないでよ!!」

 「・・・」

 

 カエデの表情を見ていると、カエデハウスでの朝食を作る顔を思い出す。今までの朝食を作ってもらっていた時、ギンジはカエデにおそらく気になる相手が居ると思い込んでいたのだが・・・。

 

 (・・・まさかとは思うけど、カエデの気になる相手って・・・)

 

 彼女の表情は、ただの仲間に向けるモノではないと言うことだけは解った・・・解ってしまった。

 

 ミヤコとはまた違う一つの形だが、きっと想いは同じ事であろう。

 

 「絶対に自分を犠牲にしないで・・・あたしは、あんたまで居なくなるのは嫌よ・・・」

 「あ、ああ・・・」

 

 前髪に隠れてしまっているが、陰りのある瞳はおそらくわざと隠しているのかも知れないなとギンジからはそう見えた。

 

 カエデにしてみても、今だけはどうしてもギンジの顔をまっすぐに見れない。眼をあわせたら、よくわからない感情が一気に胸にこみ上げて泣いてしまうかも知れない。

 

 「・・・改めて悪かったよ。もう二度とあんな気持ちにはさせないし、今度からは俺たちが勝てるように、困ったらお前を頼ることにするよ。だからミヤコを助ける時も、力を貸してくれ。俺にもお前が必要だからさ」

 

 自分でも少し言い回しが変になったとは思う。

 

 今のギンジにしてもカエデにしても、お互い大切な仲間だ。

 

 「ヘルブラッククロスを倒して、未来を守る事も必ず最後まで手伝う!もちろんお前がピンチになったら絶対に俺が助け出す!怪人人間佐久間ギンジに全部任せとけ!」

 

 カエデが抱く感情が【きっとそんな事ではない】と思い込むのと同時に、意識してしまった気恥ずかしさを隠す為に、少しふざけてみる。

 

 だけどそれをしてもカエデは顔を上げてくれない。

 

 「悪い。少しふざけた・・・」

 「うん・・・」

 

 落ち着きを取り戻して、カエデはゆっくりと顔を上げた。陰りの無い顔は、まっすぐとギンジを見つめている。それはいつもの睨みを効かせた表情ではなく、もっと違う形を見せている。

 

 ミヤコがギンジに見せるのと同じで、カエデも揺れている瞳と、ほんのり赤い頬、緊張にこわばった顎・・・。

 

 「っ」

 

 そこで見えたカエデの顔から眼が離せなくなる。湾岸エリアでの戦闘前や夕日の輝く有姪海岸で眼を合わせていた時の様に、ギンジの鼓動が早くなる。

 

 こくりと、喉が動く音がする。それはカエデの喉から聞こえた。

 

 自分の〈大好きな人達〉の気になる相手・・・否、その領域を超えた所・・・恋愛の感情だと言うことが理解出来てしまう。

 

 (いやいやいやいや!嘘だろ!!カエデが気になる相手って言うか、コレ・・・マジか!?マジなのか!?)

 

 いつもミヤコにその愛をぶつけられていたからこそ、ギンジは気づいて居なかった。

 

 距離感が近いのも、息の合う行動も、考えが良く似る事もあるとは思っていたが・・・。

 

 声が上手く出なく感じる。ゲームでも、この世界でも好きだと思う事は変わらない、神宮カエデという人物だが、こうなるとは思っても居なかった。

 

 ただ自分の境遇がこんな状況だからこそ、カエデやレンやミドリコ、それにレイナにも、そういう感情を持ち合わせるのは間違っていると思っていた。

 

 カエデに慕われる、好意を持たれるのはかなり嬉しい。これは正直にそういう風に思える。

 

 (でも・・・今じゃないな・・・)

 

 今・・・恋と言う感情を出すのは違うと思う。

 

 「・・・絶対にあたしを守りなさいよ。ギンジの事は・・・あたしが絶対に守るから」

 

 恋する瞳にギンジを映しながら、カエデが低く告げると席を立ち上がる。

 

 「あ、ああ、あれ、あれだ!鍋食べないか?」

 

 何を焦ったのか、ギンジはカエデに変な事を口走る。小屋の中は野菜鍋の香りが広がり続け、空腹感がより強くなる。

 

 「皆を呼んでくるわ・・・」

 

 カチコチ動きながら話すカエデが、ゆっくりと小屋を出ていく。

 

 「み、みんな、でご飯たべましょ・・・?」

 「あ、ああ、そうだな・・・」

 

 小屋の扉が閉まる。

 

 そしてカエデが居なくなった事を確認すると、一気に緊張感が抜ける。

 

 「〜〜っふぅーっ・・・」

 

 もしかしたら修行より疲れたかも知れない。

 

 「・・・ミヤコみたいな感じじゃなくて良かったけど、まさかカエデが俺を・・・」

 

 カエデの気になる相手、というより恋する相手がまさかの自分である事を知り、ギンジは途方にくれる。本当なら嬉しい事だが、今はなんだか素直に喜べない。

 

 別にカエデが嫌いだとかではない。

 

 戦う事や、ミヤコからの求愛も・・・。

 

 「・・・あれ」

 

 今ギンジの心に一つの問題点が生じる。絶対に合ってはいけないと、普通ならそうなっては行けない事。

 

 ギンジの持つ強い心の中に、2人の女の子が形を成して現れている。

 

 恋というモノに当たり、今まで封じ込めていたモノが、そのドアを開けて飛び出て来たかの様な感覚。

 

 神宮カエデと鈴村ミヤコ。

 

 癖の強い彼女達が、ギンジの心に居着いた様な感覚だ。

 

 隠していても、想ってしまう事もある。

 

 「・・・あれ、俺もしかして・・・」

 

 今のミヤコの状況でずっと彼女を想う事。

 

 相棒として心強いカエデを大切に想う事。

 

 そして2人共守りたいと、願う事。

 

 ずっと自分でも気づいて居なかった事、感情、想い。

 

 佐久間ギンジは今それに気づいてしまった。

 

 (俺もしかして・・・2人を好きになった、のか?)

 

 佐久間ギンジの異世界転生ライフは、またもや大きな問題を抱える事になるのであった・・・。

 

 この直後どこかギクシャクしながら話すカエデとギンジを見ながら、レンはほくそ笑み、赤鬼もギンジの心境の変化に気づいてわいわい騒ぎ倒すのだが、そこはまたもや別のお話・・・。

 

 

 

続く  

 

 

 




お疲れ様です。

物語においての目的はヘルブラッククロスを倒す事ですが、そこに恋愛も混ぜたら魔法界編で入れるべきと思い、今回のお話でギンジのぶつかる問題を大きくしました。自称誠実なギンジはどちらを選ぶのか、そこはお楽しみに・・・。

キャラネタ書きます

佐久間ギンジ
農作業の他、小屋の組み立てをやらされた。
カエデとミヤコ、2人の少女に恋をしている事に気づいたのだが・・・

神宮カエデ
ギンジに恋をしているのは明らかな事なのだが、ここまで来てようやくそれがギンジに伝わった(伝わってしまった)。
仲間から相棒という所まで来た。レンの事はいいのか。

宮寺レン
ケイタと誠実な恋愛をしている。カエデの恋は応援しているけど、おやつ感覚で見ているととても面白い。

角倉ケイタ
自分の魔導書を発見出来た。明確な修行の成果は次話にて。
果たして戦闘に出れるのか出れないのか!

甘白ミドリコ
ギンジの野菜鍋で元気を取り戻した。西度固化に居るお母さんに会いたくなる味だったとの事。

赤鬼
野菜鍋を食べて元気が爆発しそうになっている。
今晩こそミドリコを抱くつもりか、嫌がることはしないと諦めるのか。

小町サクラ
恋愛っていいな〜

アラビア
オレキエッテ帝国の兵長。
名前の由来はアラビアータから。
それぞれヘヴンホワイティネス達の修行を手伝った。英霊にしておくには勿体ない、ぜひ帝国の為に戦って欲しい。
実は昼間のクリムパスに勝てた事が無い。

クリムパス
アラビアにはいつか幸せになって欲しいと想っている。妹みたいなモノらしい。

さて次回は、いよいよ地水火風の司祭であるコッツ兄妹の登場。

修行の成果を更にあげる修行第2ラウンド!一方、魔王軍はあの怪人を取り入れ新たな戦力拡大を図り・・・?

まて、次回!!!
感想や応援いただけましたら幸いです!
ではでは、また次のお話で!
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