正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちはアトラクションです。

今回のお話は少しだけ前回の最後に言っていた事と違う内容となりました。

あの怪人が魔王軍と〜みたいな事を書いていましたが、少し話が伸びそうだったので、そこをカットして、次の次のお話に回す事にしました。

で、代わりに今回は56話にしてついに角倉ケイタに日の目が・・・!

それではどうぞ!


56・コッツ兄妹

 今日も珍しく魔王軍の襲撃は無く、ジェノべの指示で動く兵士に連れられて帝国領にある遺跡へと向かっていた。

 

 魔法で動く黒鉄の馬車に乗り込み、ギンジ達は遺跡が近づく景色を眺めている。

 

 馬車の中は帝国特別仕様で彩られており、一人の席に小さめのテーブルと、取り外し可能な仕切り板と、土足で踏んでもふかふかする絨毯。

 

 座り心地の良い快適な背もたれに座り込み、ギンジはぼーっと外を眺めている。

 

 平原と岩肌が交互に入り乱れるその光景は、おおよそ日本では見られないし、なにより軽々しく遺跡に入れるという事に、若干テンションがあがる。

 

 (・・・)

 

 心の中では無言を貫いている。今日はめずらしくカエデが隣に座っては居ない。間にはケイタを挟んだその隣にカエデが座っている。

 

 「・・・」

 

 カエデもなにやら無言で居る。緊張でもあるのか、それとも恥ずかしいのか。

 

 「カエデ?」

 「ん?どしたの」

 

 そんなカエデを見かねてレンが声を掛ける。親友がどうにも心あらずでいると、心配になってくる。おそらくこうなっている理由は間違いなく、ギンジ絡みの理由なのは間違いないだろう。

 

 「大丈夫?昨日、ギンジと、何かあったの?」

 

 ヒソリと声を出したレンに、カエデは声を震わせるようにしてレンに返答を出す。

 

 「ううん・・・その、何もないんだけど・・・えーと・・・」

 

 言い淀んでしまうカエデに、レンは再びやれやれと言った態度を見せる。だがいつもの様に本調子で無いことは、これからの戦闘や修行に対して良い結果が出せない事もあるかも知れない。

 

 「ギンジの事、守るって言ったら、逆に守ってやるって言ってくれたから・・・嬉しくって・・・」

 

 ギンジに守られる。いつも正義のヒーローとして、平和と一般市民を守り遠そうとしている。そんな彼女もたまには誰かに守ってもらいたいと考えてしまう事もある。

 

 レンやミドリコに守ってもらう事もあるが、そうでは無く好きな人に守ってもらいたいと・・・。

 

 守るという事を、お互いに出来るのであれば、ソレはとても嬉しいと思える事なのだろう。

 

 ギンジに守って貰える。ならば自分はとにかく敵を倒しに全力を出していい。

 

 「・・・とにかく良かったね」

 

 カエデの嬉しいポイントもたまにズレているが、レンは鼻で笑いながら背もたれによりかかる。

 

 黒鉄の馬車が遺跡を前にその動きを止めると、全員が馬車から降りてくる。

 

 降りる順番はなんでも良いのだが、カエデとギンジは順番で降りる事になっている。カエデが先だ。

 

 先に降りたミドリコとレンとケイタは、青空と新鮮な空気を吸い込み身体を伸ばしていた。

 

 「・・・っ」

 

 少しだけ振り向いて後ろに居るギンジを見ると、何かを言いたくなるのだが、言葉が喉に詰まって何も言えずにカエデがぴょんと降りていく。

 

 ギンジも何か言いたいのだが、今朝からカエデの態度が何かと変だ。いつもみたいに馬鹿にしてこない上に、悪いことも行って来ない。それこそ理不尽な暴力も無いのが、逆に不安になってくる。

 

 「・・・大丈夫か、あいつ・・・」

 

 大丈夫じゃないのはギンジもなのだが、本人はそれに気づいてい居ない様子。

 

 そんな2人を見ていると、レンは余計にニヤニヤしていく。あの2人の距離感を更に埋めてあげたいが、カエデは良くてもギンジにもしかしたら地雷となる行動もあるかも知れない。ソノため、不用意に行動は起こせないのだが。

 

 遺跡は見た目の規模は大きく、ギンジも自分の世界で遊んだ事のあったRPGのジャンルのゲーム、【ドラゴンファンタジア】に出てくる角ばって怪しさ満点、昼夜問わず入り口のろうそくが灯され続ける、お決まりの遺跡のフォルム。

 

 そんな遺跡の前で少しテンションが上がる。

 

 「テーマパークに来たみたいd「ここが遺跡?」

 

 ケイタによって遮られてしまったが、依然としてテンションは高くなる。

 

 「はーいみっなさーん!」

 

 声高らかに空からサクラが現れる。

 

 ここで待っていたのだろうか、相変わらず元気である。

 

 「おはようございます」

 

 遺跡の薄暗い入り口からは、魔女ジェノべが艶のある銀髪を揺らしながら出てくると、ギンジ達に今日一日目の挨拶をしてくる。全員がそれを返すと、遺跡の前に優しくも強い風が吹いてくる。

 

 天気の良さと心地よい風と気温により、戦いの事を忘れて眠りたくもなってくる。

 

 しかしそんな穏やかな雰囲気は一変、ジェノべが大きな魔力を膨れ上げさせて、ギンジ達に臨戦態勢を取らせる。

 

 「皆様、本日の修行は、昨日もお話したように・・・」

 

 ジェノべの話す後ろで、サクラが何やら魔法で小道具を出している。手のひら程度に収まりそうな何かを造り出しているようだったが、ギンジは一度そこからは眼をそらして、ジェノべの方へと向き直る。

 

 「本日は修行の第2段階であり、最後の修行です。その内容は簡単なモノで、一番難しい修行・・・」

 

 淡々として、それでいて強い口調で話していくジェノべに、皆が強張る表情になる。殺気とも敵意とも取れないが、これから戦わないと行けないという強い気配。

 

 「その内容は我が帝国の誇る、地水火風の司祭・コッツ兄妹と戦い、勝利を収めてもらうことです。ああ、先に言っておきますが、彼らはとても手強いです」

 

 そこまで話し終えると、サクラがジェノべに何かを手渡す。先程後ろで作っていた小道具を受け取り、ジェノべは8個あるそれを、扇状に広げてギンジ達に見せた。

 

 「なんだ?これ?」

 「鍵の様にも見えるが・・・」

 

 ギンジがまじまじと見つめたそれは、ミドリコの言う通り鍵の形状をしている。

 

 8個もあるその鍵を、ジェノべが2個だけ取り出すと、ギンジとミドリコに手渡した。

 

 「この鍵をどうするのだ?」

 

 ミドリコとギンジが鍵を手元で見ながら、ジェノべに聴いてみる。

 

 「まず私の手元の6個のうち、2つはコッツ兄妹に渡します。そして残りの4つの鍵は、この遺跡のどこかに隠します」

 

 そこからはサクラがボードを魔法で取り出して、地図と共にジェノべが説明を再開する。

 

 「この遺跡は全部で4階層分ある大きなダンジョン。とはいえモンスターは居ませんが・・・」

 

 遺跡の広大な地図に、ケイタは硬唾を飲み込む。これから戦闘になるかも知れないと、怖気づいた様に顔を青くしている。

 

 しかしながら引くわけには行かないし、レンを守るという覚悟を持っている以上、ケイタは絶対に逃げないと、心にタスキをかけている。

 

 「遺跡の地下3階。そこの中心の部屋にある旗を取った方のチームが勝利となる、鍵の争奪戦です。まぁ、おそらく鍵自体はコッツ兄妹達が先に広い集めているでしょうが・・・」

 

 ギンジ達の手元の鍵は2つ、対する相手チームの鍵も2つだが、すぐに拾うかも知れないということ。

 

 そうなると鍵は敵チームに6つ揃う事になる。

 

 

 「目的としては、鍵を8つ手にし、中央の旗のある部屋へと進む事・・・それが英霊達の修行になります!」

 「つまり・・・あたし達が、鍵を全部手に入れて、旗を奪えばいいのよね?」

 「難しい事じゃなさそうだな。修行って言うのかもわかんねーけど、やってろうぜ!」

 

 ギンジもカエデもいつもの調子に戻り、近い距離感で会話を始める。このまま調子が崩れなければいいのだが。

 

 「さぁ、それでは遺跡へどうぞ!」

 

 ジェノべに促されるまま、ギンジ達は遺跡(ダンジョン)へと入って行く。薄暗い入り口を抜けると、大小さまざまな通路がヒビ割れており、また遠くまで広がる迷路の様な形状の大空洞の中の道々に、息を飲む。

 

 カエデとレンはすぐに変身し、ミドリコも拳銃を引き抜く。ついでに、前日にならった第三の眼を薄く開き、気配の感知を行う。

 

 相変わらずケイタは白い魔導書を胸にしまいながら、レンの少し後ろをついてくる。

 

 「さーて・・・鍵とやらを全部手に入れて、旗をゲットしちゃおうぜ!」

 「足引っ張んないでよ、ギンジ!」

 「へっ!俺がそんなドジ踏まねぇよ!」

 

 カエデとギンジが先に走り出す。

 

 「待つんだギンジ、カエデ!走ると危ないぞ!」

 「いや・・・鍵を持っているのはギンジと、ミドリコだけ。ここは、別々の行動した方が、敗北の条件を、達成させないと思う」

 

 そもそもギンジとカエデが組んで居れば、ほとんどの場合戦闘においては負ける事はないだろう。

 

 レンは2人の後押しすることも考えているが、戦闘においては殊更2人の相性なら問題は無いだろうと信じている。

 

 だから、先行したギンジとカエデはあのままにし、残ったレン、ミドリコ、ケイタは慎重に鍵探しを行う事になる。

 

 「行こう、ケイタ」

 

 レンの掛け声に反応すると、ケイタも魔導書を片手に小走りで近づいていく。

 

 レンの歩く後ろ姿を見ていると、本当に小さな身体をしていると改めて実感する。こんな小さい身体に、あんなに強烈な暴力や攻撃が繰り出されている事を思うと、ケイタはいたたまれなくなる気持ちで一杯だ。

 

 (僕が・・・!僕がレンを守るんだ!守れるように、この魔導書を操れる様に頑張るんだ!)

 

 堅く開かない魔導書を握る手に力が込められ、ケイタはろうそくの灯された薄暗い道を、レンについていくようにして進む。

 

 ミドリコが先頭を歩き、敵の気配感知。

 

 レンは真ん中を歩き、ビーム剣を下手にかまえている。

 

 ケイタは魔導書を携え、一番後方を歩きだす。

 

 不安はありつつも、楽しみも合わせつつ、レン達も突き進むのであった。

 

 一方先行したギンジとカエデは、ただまっすぐ進んでいるだけだったのに、入り口がもう見えない地下まで進んでいた。

 

 「あれぇ?俺たち降りたか?」

 「わかんないけど、少なくとも下った様な感覚は無かったわね」

 「そうだよな・・・ま、何が来ても俺たちなら問題ないだろ!どんどん進んで、鍵ゲットしちゃおうぜ!」

 「当たり前よ!不利な状況なんだから、あんたこそ鍵を取られたりしないでよ!」

 

 勢いをつけたままの2人のダッシュは、遺跡の迷路内に風を造り出す。

 

 やがて道を抜けると、四角く切り取られた様な大部屋にたどり着く。

 

 「敵は・・・居なさそうだな・・・」

 

 周囲の索敵をしつつ、ギンジが安全を確認すると、カエデがいきなりギンジを蹴って突き飛ばした。

 

 「っ!?何すんだ!」

 

 ギンジが叫んだ直後、2人を分断する様に石柱が倒れて来る。

 

 「・・・なるほど、助けてくれたのか。にしてももう少しあるだろ!痛いのよ!あんたの暴力、痛いのよ!」

 「言ってたら間に合う訳ないでしょ!・・・ほら、ごめんね」

 

 石柱を乗り越えたカエデが、眼をそらしながら手を伸ばす。その手を掴み、ギンジも立ち上がると、今度は冷たい風が四角い部屋に染み渡るように吹き、カエデとギンジは2人同人背中を合わせて周囲を警戒する。

 

 見渡してもどこにも敵は居ないが、こんな地下に冷たい風が来る事自体不自然だ。

 

 「・・・敵のおでましか」

 「隠れてる?」

 「いーや。もうすでに出てきてるよ」

 

 ギンジとカエデの少し上、ボロボロになって横倒しになっている石柱に腰かけた緑色のローブを纏った人物がこちらを見下ろしている。

 

 口元が見えるだけの目深にかぶったフードを取り出すと、髪の色も緑色の可憐な顔つきが姿を表す。

 

 「やっほー。はじめまして英霊サマ。私はコッツ兄妹の長女・・・産まれた順番は四番目の、ジン・コッツ。風を司る司祭をやってるんだ〜」

 

 気怠げな声音とは裏腹に、その視線はギンジの持つ鍵に向けられている。

 

 「とーってもめんどくさいんだけどさ、修行に付き合えって魔女に言われててね。殺さない程度ならやってもいいって言うんで、本気で鍵奪っちゃおうかな」

 「お前がコッツ・・・いやっていうか初っ端から女が相手かよ!」

 「あんたとことん女が敵だと無理ね」

 

 戦意を失っては居ないが、ギンジにこのジン・コッツと名乗る相手との戦いは無理だろう。

 

 「ところで鍵を探してる?じゃーっん!鍵ならここに」

 

 ジンの手元に見せびらかしているそれは間違いなく、先程サクラが作った小さい鍵。しかし彼女が持っているのは一つだけ・・・。

 

 「鍵はお前が持ってるデフォルトの一個だけか。じゃあ他の奴らが持ってる可能性は高いな」

 

 ギンジがカエデの後方へと、足を動かして行く。逃げるつもりなのか、その態度が少しだけジンの癇に障る。

 

 「逃げるの?英霊なのに?」

 「戦略的撤退ってやつだよ!」

 「はぁ。あんたってば本当に・・・しょうがないわね、鍵はあたしに任せて、ギンジは他の鍵を探して来て!」

 「・・・もしピンチになったら大声で俺を呼べよ!必ず助けるし、信じてるからな」

 

 ギンジの言う信じると言うのは、カエデが勝つか敗けるかの話しではない。

 

 「カエデが無事に戻ってくるって事をだからな!」

 「・・・うん!任せなさい!」

 

 鍵を握りしめたギンジが遺跡の奥へと進もうとするが、そこへ風の刃が飛んでくる。幾重にも連なり、何本も可視化されたその刃達がギンジをめがけて発射されていく。

 

 「こんなんで終わり?」

 

 ジンが砂煙の舞う地面を高みの見物の如く、静観しているがギンジにはダメージになっていない。

 

 そもそもジンの魔法は命中していなかった。

 

 ギンジが当たる直前でコウモリの羽をはやして、高速で滑空すると、砂煙を超えて彼の姿はもうなくなっている。

 

 「チッ・・・」

 

 地水火風の司祭として、敵を取り逃がすことは基本的には無い彼女だが、ギンジを逃した事でストレスが一気に上がり、顔に血が登っていく。

 

 ・・・。もう一人の女の姿が見当たらない。やたら近未来的な衣装を来た、あの女の英霊。

 

 「・・・まさか、あいつも逃した・・・!?」

 

 その直後にジンの背後から強い敵意を感じ取り、後ろに振り向いた瞬間、想像以上の攻撃力で強い一撃が打ち込まれた。

 

 「ヘヴンリー・インパクト!」

 「・・・!!」

 

 ギンジに気を取られた結果カエデを見失い、そのカエデが自分の背後に回っている。

 

 そして先手を取られて、ジンは部屋の地面へと叩き落されてしまった。

 

 「・・・強いじゃん。めーんど」

 

 地面から身体を引き剥がし、風の魔法を両手に纏わせる。

 

 正面には着地したカエデが立っており、ジンへと指を指した。

 

 「あんたの鍵、あたしが貰うわよ!」

 「余裕ぶっていられるのも今の内だよ・・・」

 

 風の刃を回転させる腕を、カエデのガントレットとぶつかり、砂埃が2つの衝撃と突風により、部屋の壁まで吹き飛んでいく。

 

 「鍵が欲しかったらー私を倒してみなよ、英霊ちゃん!」

 

 なんとなくだが、このジン・コッツと言う女は、リコニスに似ている雰囲気を感じた。カエデはあの憎き強敵を思い出して、顔が怒りに染まっていく。

 

 「怒ったー?」

 「うるっさい!」

 

 交差する腕を上に打ち上げると、ジンがカエデの上に飛ばされる。身を捻りながら回転するジンへと両の拳を構えて、ギアが強く回る。

 

 今までもよりも早く、強く回るギアの回転力を活かして、カエデは連続で拳を打ち出す。

 

 カエデの自慢の必殺技が繰り出される。

 

 修行によって制御、ないしは研鑽を積んだのはスーツだけではない。

 

 「必殺!!」

 

 ジンも空中で風のシールドを作り、防戦の構えを取り始める。

 

 「オーバードライヴ・レイジング!」

 

 高速で打ち込まれる両拳の速度は、かつてのカエデの必殺技である、ドライヴ・レイザーの正当強化技。今まで以上に強い一撃いちげきが、眼の前に塞がる風のシールドを貫いていく。

 

 「ぬー・・・強いなぁ・・・」

 

 ジンは拳が当たる前に、風に乗って移動する。攻撃の範囲内から抜けると、ジンも次なる風の魔法の準備をすると、カエデも同じく次の必殺技を発動しようとその腕と脚に力を込める。

 

 「めんどー。私も暇じゃないからさー・・・さっさと負けろよ!」

 「あらら奇遇ね。私も暇じゃないの!あんたこそ折れて鍵をよこしなさい!」

 

 衝撃の拳と風の拳がぶつかり、再び部屋に強い衝撃と強い風圧が混ざりあった波動が、響き渡った。

 

 「修行の成果なんてどーでもいいよ!」

 「甘く見てると、痛い目に合うわよ!」

 

 カエデは鍵を手に入れて、ジン・コッツに勝たないと行けない。

 

 敗ける事なんて考えていないが、このジン・コッツもそこそこには強く、カエデは決して油断せずに戦おうと意気込む。

 

 自分を信じてくれたギンジの為にも、そして自分の友の為にも、なにより、もう二度と敗けない為に、神宮カエデは修行で得た新しい必殺技を新たに発動する。

 

 「必殺!」

 「マジカル・ウィンドブルマジックス!」

 

 「テラマグナム・インパクト!」「マッハ・スパイラルパイク!」

 

 大衝撃と大烈風。2つの強烈な攻撃が至近距離でぶつかり、2人の少女がお互いの攻撃力に耐えきれずに、遺跡の壁へとぶっ飛んで行く。

 

 「・・・ぐぅ〜、強いなぁ」

 「・・・あんたもね」

 

 心底めんどくさそうにしながら、ジンは立ち上がる。同じくカエデも立ち上がり、再びギアを回す。

 

 「正直、予想外だよ。君一人で魔王軍とか倒せそうだね」

 

 しかしジンも魔女の命令でここに立っている。昨日の修行でカエデ達がどこまで強くなったのかを見ないと行けない。

 

 殺さない程度なら何をしても良いとも言われている以上、どうせなら半殺しぐらいにはしてやりたいと考えていたが・・・あの勇者が逆に頭を下げる者であり、かつ強い。

 

 「なーるほど。地水火風の司祭、ジン・コッツ・・・これより本気の魔法で・・・英霊・カエデを撃破する!」

 

 足元から魔法陣を展開させ、風をイメージさせる緑の魔力が渦を巻き、ジンの全身にさらなる風がまとわりつく。

 

 「この魔法、協力だからー・・・まぁ死なないで」

 「死ぬわけないでしょ!あたしは、あんたから鍵をもらって、ギンジに追いつかないと行けないんだから!」

 「耐えてから言いなって」

 

 やがて風が竜巻となり、その中心でジンが大魔法を唱える。

 

 「マジカルマジックス・ウィンド・ウィンドブル・マジカルス」

 

 竜巻の頭頂部となる所をカエデへ向けて、ジンが突撃してくる。竜巻そのものを、他のモノをすべて斬り崩しては無に還す大魔法そのものとなり、風圧をも操り英霊を撃破する巨大な竜巻・・・。

 

 「終わりだ・・・!!」

 

 しかしカエデは動じない。こんな事で、こんな所で、恐れている場合では無いのだ。

 

 仲間を助ける為の力を手にしたカエデに、ジンという存在の攻撃魔法は何一つとして脅しの材料にはなっていない。

 

 「この天才でパーフェクトのあたしが、一生懸命になってダークヘヴンスーツを制御出来る様にしたのよ。こんな所で躓いてられないっての!」

 

 左右の拳と、両足から白を黒くそめる三色のオーラが溢れ出てくる。

 

 今まではそれが出て、身体に取り憑いて色が混ざり切るまで待たないと行けなかっただろうが、今のカエデは違う。

 

 たった一日とは言え、あの力を自分の意思で操れるようにしたカエデには大きな自信を持って、この魔法界の危機を救おうとしている。

 

 「力を貸して!ダークヘヴンスーツ!」

 

 右の拳を地面に打ち付けると、三色のオーラが一瞬にして身体に取り付いていき、その純白のスーツを黒く染め上げた。

 

 「竜巻だろうと、魔王軍だろうと・・・」

 

 両腕を後ろへと伸ばして、迫りくる大竜巻のジンを正面に捉えた。

 

 「玉砕覚悟・・・?」

 「あたし達が戦ってるのは地獄だって言ってるのよ!あんたらも魔王軍も・・・平気で人々の平穏を脅かすあいつらに比べたら・・・」

 

 正義の志が強く震える。カエデの平和のイメージが流れ込み、ダークスーツはより力を増している。持ち主であるカエデの意思を汲み取る様に、赤いラインがより輝きを増して、ガントレットのギアが超速回転を放つ!

 

 「吹き飛びなさい!超必殺!」

 

 両腕を前方へ、飛ぶ勢いで腕を突き出す。両の手のひらに集う黒と白の光を纏めた衝撃波が、竜巻と正面からぶつかる。

 

 「デストラクション・インパクト!!」

 

 テラマグナム・インパクトよりも更に強い、超衝撃。刃同然の風を打ち破り、中心で回るジンを捉えた。カエデの掌へと到達したジンはミシミシと骨を鳴らして、気がついた時には、遺跡の壁へと突き飛ばされていた。

 

 石柱を破壊し、壁を貫き、道を抜けて、その華奢な身体をいたる所にぶつけていく。

 

 勢いが止まると風すら纏えなくなっており、死にはしないがジンはダルそうにしていた。

 

 何本もの入り組んだ迷路を横断する一本道の先に、ジンが倒れカエデが近づいて来る。

 

 「はーだるい。結局勇者にも勝てないし、その英霊にも勝てない。おまけに魔女には永久に従うし・・・」

 

 カエデのスーツは元の白いカラーに戻っていた。ジンを見下ろす様に立っているカエデは、まだ動けそうなジンへと手を伸ばす。

 

 「大丈夫でしょ?」

 「・・・あーめんどいな」

 

 カエデの手を掴んでジンはゆっくりと立ち上がらせてもらう。

 

 「鍵、渡してよ」

 

 まだ戦う気なら容赦しないと言ったカエデの気迫に、ジンはたじろいでしまう。最後まで戦わなくとも、あれだけの力を出されれば、ジンも認めるしかない。

 

 「はーぁ・・・お兄ちゃん達に怒られちゃうな。はいこれ鍵」

 「いくら魔女の命令でも嫌なら断ればいいじゃない」

 「まぁーそうなんだけどね。ま、とにかく鍵は渡したから。私は少し休憩したら、外に出るよ。ああ、それと」

 

 ジンが説明口調で話しながら、最後にひとつだけ重要な事を話す。

 

 「この遺跡、一応この魔法界の世界遺産だから、あんまり怖さんで。それじゃ修行達成、お祈りしてるよ、英霊サマ」

 

 ジンの言葉を聞き入れ、カエデは元気に頷くと、スーツの力を利用したパワープレイで壁を破壊しながら、遺跡の奥へと進んで行った。

 

 「だから破壊するなよー・・・」

 

 思えば勇者もこの遺跡を破壊していた様な。

 

 「はーま、いっか。後でお兄ちゃん達に怒られよーっと」

 

 ダウナーの様な気だるい姿で、ジン・コッツという少女はこの場にて休息を取るのであった。後で兄に怒られる事を予想し、少し現実逃避もしておきたいのもあるのだが。

 

 「ヘヴンホワイティネス、か・・・めんどうだけど、覚えとくよ」

 

 ジンの心に忘れられない人たちが居付き、地下1階?の戦いはカエデの勝利で幕を下ろした。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

現在の鍵数

 

ギンジチーム

3つ

ギンジ、1

カエデ、1

ミドリコ、1

 

コッツチーム

?つ

──・コッツ、?

───・コッツ、?

──・コッツ、1

ジン・コッツ、1→0

 

未取得の鍵、不明!

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 遺跡内部で早くも交戦が始まったのか、崩落の危険性もありそうな地響きが鳴り続け、ケイタは本を傘変わりになんとかレンの後ろについていた。

 

 「・・・むむむ」

 

 ミドリコは両目を閉じて、早速修行の成果を見せている。額の真ん中にあるような、ミドリコにしかわからない瞳。第三の眼と呼ばれるその能力は、銃で後方支援を行うミドリコに取って、気配が見えると言う能力は最大限活用出来る、相性の良い能力だろう。

 

 そしてその第三の眼で見渡す限り、近くに敵の気配は見えない。あるとすれば、一人でどんどん地下に向かっている黒い点はギンジ、上を見上げれば白い点。これはカエデだろう。その少し離れた所に居る黄色の点は敵か味方かがわからないモノとして判別。

 

 レーダーとして脳内で色々設定が可能で、まるで機械でも埋め込んだかの様な能力に、魔法の素晴らしさを理解する。

 

 (使いすぎるのは良くないが、便利だな・・・昨日の開眼までの事を考えれば私も慣れた、という事か)

 

 魔法の基礎と自分の使う能力に対する理解。それを学んだ上で、魔法使いの初歩の初歩を学ばせてもらったのだが、これがなかなかスパルタで、軍人時代を思い出しながらやっていたら、非常に疲れてしまった。

 

 脳内がザワザワするのもあるが、使いすぎると神経が焼けて鼻血が出るらしい。

 

 3人が進みながら辺りを見渡すが、敵も見つからなければ、気配すら無い。下の方にはそれらしい気配はあるのだが。

 

 (・・・これは鍵の気配までは見れないみたいだな。ならば敵を全滅させるのが先決か?)

 

 ミドリコの考えは敵を倒せば修行完遂において、大きなアドバンテージを得られると言うモノ。

 

 しかしヘルブラッククロスとの戦いでもそうなのだが、それが上手く行った事はあまりない。

 

 今回は敵がおそらく四人。

 

 「地・水・火・風・・・だしな」

 

 今回の相手は地水火風の司祭・コッツ兄妹。名前からして兄弟であり、家族という存在にミドリコは少し羨ましさも感じる。

 

 (家族で行動しているとは、なんだか微笑ましいな)

 

 ミドリコにも姉がいるが、海外に嫁いだ為最近は会って居ない。

 

 ふと、普通の眼を開き、後ろを確認する。

 

 自分についていくるレンとケイタと眼が合う。仲間がちゃんと後ろに来ていて、安心する。いくら怖いモノなしのミドリコでも、これには安堵する。

 

 「あ、水だ・・・」

 

 ちょろちょろと流れる遺跡の流水を見て、ケイタが小走りで近づいていく。敵は居ない為、ミドリコもレンも何も警戒せずに、ケイタを追いかけた。

 

 「この水、飲めるかな・・・緊張で喉乾いちゃって・・・」

 「多分大丈夫。私も、実は喉が乾いてて」

 

 薄暗くてもはっきりと底が視認できるぐらいに澄んでいて、水面には顔まで映る。

 

 鼻にピアスをつけ、白と黒の斑模様が浮き上がるその顔、そして少しだけ上顎と下顎が人間より前に伸びた・・・顔・・・。

 

 「ぬぼぉおおお・・・溺れるかと思った・・・」

 「うわわわああああ!!」

 

 ケイタが流水に手を伸ばそうとした時、牛みたいな顔をした男と眼が合い、そして身体が飛び出てくる。

 

 「モー・・・水は苦手・・・し、死ぬかと思った」

 「何者だ!」 

 「ケイタ、離れて」

 

 早くもミドリコの気配感知から逃れて、接近してくる敵が現れるとは思わなかった。

 

 「わ、我が名は地水火風の司祭・水を司るギュウ・コッツ・・・!ウッシッシッシ・・・モー溺れるかと思った・・・」

 

 水を司るのに水が苦手とは難儀な存在である。

 

 「いや失礼した。モー我慢出来なくてな。実はそこの少年に用があってね」

 「ぼ、僕?」

 

 ギュウが我慢できずに両手を握りしめている。そんな彼が水滴を飛ばすと、ケイタを指を向けている。

 

 「ああ、君だ。人間にも見えて実は英霊の君に用だ」

 「ケイタに何を、するつもり?」 

 

 ギュウの怪しい態度に、レンがビーム剣を引き抜きながら構える。

 

 「ウッシッシッシ・・・何もしないさ。ちょっと向こうでお話がしたい。ああ、それだとモー怪しいな。それではここでお話をしよう」

 

 イカツイ顔をしていても紳士然としていると言うか、物腰は柔らかい様で、ケイタは少し緊張感が抜ける。

 

 「お話、ですか。でも、僕はこの魔法界の人間じゃないから、対した情報は持っていないですけど・・・」

 「構わないさ。モーそこじゃないんだ」

 

 ミドリコもレンも警戒しながら、ギュウを挟む様にして臨戦態勢だけは解除はしない。

 

 「先ず・・・名前は?」

 「えっと、角倉ケイタです」

 「ケイタきゅんと呼ぼう」

 

 その呼び方は初対面にしては慣れなれしい上に、レンはチクリとその顔にほんの少しの怒りが宿る。

 

 「兄弟は?」

 「い、居ません。一人っ子です」

 「ちょうど良いな・・・ウシッ、ウシシシッウッシッシ」

 「えーと・・・」

 「では君に最後の質問だ。女か男なら、男、だよね?」

 

 性別の事を聴かれているのか、ケイタは「男です」と答えた。

 

 それを聞いたギュウはうんうんと喜んだ顔を見せる。

 

 「つまり、ケイタきゅんは・・・男の方が好みということだな」

 「はい?」

 「実はこのギュウ・コッツもだ!君の様になよっとした少年は実に好みでな!一目惚れというやつだよ!」

 

 そんな事を大声で話すこのギュウ・コッツは、レンとミドリコが直感で感じなくても解る、ヤバいやつだという事が。

 

 「男同士で愛を育モーじゃないか!何、気にしなくてモー、男同士妊娠は可能だ!ギュウ・コッツの子を産んでくれぇぇ!!」

 

 眼が血走っているこの牛さんを、ミドリコが拳銃を引き抜き、レンがビーム剣を首元へとその刃を向ける。

 

 「なんだね・・・愛を育むのも英霊達の修行の一環。モーたまらんのだ、こんなかわいい少年、我慢すると言うのが難しいのだ。もう一人の男は勇ましくてとても好みだが、どちらかと言えばこの少年の方が・・・」

 

 迷わず首を撥ねようとしたレンの手元に力が入らない。正確に言えば、力が入らないのでは無く、腕そのものが動かない。

 

 「何・・・!?」

 

 ギュウの首元に粘度の高い水が巻き付いており、レンのビーム剣を飲み込んでいる。

 

 ミドリコにも粘度の高い水が迫り、ナイフを取り出し応戦の準備を整えている。

 

 しかしそんな中でケイタは何もされず、ただギュウによって寵愛を一方的にぶつけられようとしていた。

 

 「・・・!ここで戦わなきゃ!」

 

 白い魔導書を構えるが、本は開かない。

 

 「・・・ケイタ、逃げて!」

 

 レンの声に、ケイタは顔を青くしてすぐに逃げる。今のままでは戦えない。本が開かなければ。

 

 (どうして・・・!本、開いてよ!)

 

 ここまで来たのに逃げの一手しか無いのは、本当に情けなくなってくる。

 

 「くっ、このっ・・・脚にも!」

 

 ミドリコとレンの脚にも粘度の高い水がまとわりつき、彼女達は動けなくなる。

 

 「ウッシッシッシ・・・このギュウ・コッツ、好きなのは男なのだ!故に女に手をあげることもないがね・・・それが次男であるギュウ・コッツ!っというわけで、英霊殿よ。あの少年は美味しく頂いてくるよ・・・モーたまらぁああん!!!」

 

 闘牛の如く脚を地面の擦りつけると、思い切りケイタの走った方角へと突進していく。

 

 「・・・っ行かせるかぁ!」

 

 ミドリコがどこからとも無く取り出したソレは、お決まりの最終兵器・ロケットランチャー。おおよそこの世界には似合わない無骨なフォルムは、レンから見ても時たまにかっこいいと思う。

 

 容赦無く撃たれ、発射した弾頭は炎を吹き上げながら、ギュウをめがけて飛んでいく。追尾式なのか、弾頭は正確にギュウの背後を狙っている。

 

 「ンゲーッゲッゲ・・・兄貴に手は出せないヨ」

 

 そんなロケットランチャーの弾頭の真上にて、燃える羽根の様なモノが複数枚飛び出し、弾頭が途中で爆発していく。

 

 その爆発によって燃え広がる炎を、吸い取る様にして、まともや新たな敵勢存在が現れる。

 

 白い髪を左右に分けて、真ん中は真っ赤な髪に染め上げている、いうなれば鶏の鶏冠みたいな髪型。

 

 くちばしの中には人の様な唇に、人とは思えない歯並びの前歯をむき出しにして笑う男。

 

 「いヨーお嬢さん!いいや英霊サマ!おれは地水火風の司祭・火を司るトリ・コッツ!!なんと、三男坊なんだぜ!」

 「と、トリ・・・?」

 

 またもや新たな珍客の登場で、ミドリコは困惑してしまう。レンも困惑しているが、そんなことよりケイタの方が心配で居る。

 

 「レン、急いでケイタを追いかけるんだ!」

 「解ってる。ミドリコは、一人で平気?」

 「なんとかするさ!」

 

 粘度の高い水の魔法を二人して突破すると、レンがすぐにビーム剣を振り回して、トリ・コッツの横をすり抜ける。あわよくば攻撃を当てようとした勢いの良さに、トリはおどけてみせる。

 

 「ンゲーッゲッゲ!おー怖いわ!」

 「よそ見を・・・するな!」

 

 次にミドリコがナイフを投げ飛ばす。お手製の投げナイフはトリの顔面の前に到達した瞬間に火の障壁によって、何も残さずに溶解させられていく。

 

 「行け!」

 

 次は拳銃を撃ち、トリを確実に狙う。しかし狙う場所は急所ではなく、確実に動きを止められる関節等に弾丸が撃たれるが、それすらも溶解していく。

 

 レンはミドリコの掛け声を聞き入れ、急いでギュウ・コッツを追いかける。もはや炎の制止が届かない所まで行ってしまい、トリ・コッツはミドリコにターゲットを変更した。

 

 「魔法の武器でもない、その不思議な武器で、このおれに勝つつもりか?」

 「修行だと言うのに、随分なおもてなしだな。魔法界の住人は誰でもそんな風に血の気が多いのか?」

 「おれはギュウの兄貴と違って、女が好きなんでな・・・あんたに手を出すと赤鬼さんに殺されそうだから、手足のやけどだけにしとこうかな・・・!」

 

 遺跡の流水のあるエリアにて、ミドリコとトリ・コッツが対峙し、レンはギュウ・コッツを追いかけ、ギュウ・コッツはケイタを追いかける。

 

 「ンゲーッゲッゲ!じゃあ、始めようか!!」

 「来い・・・!」

 

 火を操るこの鶏冠ヘッドの司祭は、かなり血の気の多い強敵。怪人とはまた違う好戦的な性格をした強敵であるとミドリコは確信したのだが・・・。

 

 「メガトン・インパクトぉぉ!!」

 「ンゲェ!?」

 

 頭上からカエデが急に現れては、自慢の必殺技を解き放ち、トリ・コッツを一撃で地面に叩き落とした。

 

 「か、カエデ!?無事か!?それとギンジはどうしたのだ!」

 「はぐれたけどギンジなら大丈夫よ!それより、こいつは!?」

 

 地下に進んでいたカエデは道に迷って、気がついたらここまで来ていただけなのだが、たまたま敵とミドリコを見つけたから加勢に現れた次第なのだが、この司祭は完璧に油断していたのか、カエデの一撃で頭を打ち倒れてしまった。

 

 「ンゲーッゲッゲ・・・強い・・・無念」

 

 それだけ伝えるとパタリと腕を落とし、意識を失った。

 

 「と、とりあえず大丈夫そうね。あ、鍵持ってないかしら・・・」

 

 カエデがトドメにその辺に転がる手頃な石で、トリ・コッツにとどめを刺してから、鍵を探し始める。残念ながら鍵は無いようで、ミドリコとカエデは一息付いた。

 

 「ミドリコはここで何してたのよ」

 「私達も2人の司祭に襲撃されてな。ケイタがピンチだ・・・色々な意味で」

 「・・・?」

 

 ミドリコの遠い目をしながらの伝え方に、カエデは首をかしげるのだが、とにかくピンチだと言うケイタを追いかける為、カエデとミドリコはレンが向かった小道へと走り出すのであった。

 

 「つ、つよい・・・女は・・・すきだぜ・・・ザ・グッバイ」

 

 実力としては自信のあったトリ・コッツであったが故に、ミドリコに勝つ気ではいたのだが、ああも恐ろしい威力の攻撃を不意打ちでぶつけられれば、司祭でも厳しかった。

 

 気絶したトリ・コッツは後に魔女に回収されるのだが、その後は地獄の様な恐怖の時間を過ごす事になることを、彼はまだ知らない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「はっ、はっ・・・」

 

 命を失うかもしれない覚悟。それだけはケイタの心に強く残り、そうなってしまってもしょうがないと、どこか頭の片隅にはそう考えていた所もあったかも知れない。

    

 しかし、死ぬの前には、痛みや苦悶と言った身体や精神に来るダメージがある事を、まだケイタは完璧には理解出来て居なかった。

 

 そう・・・同性から求愛されるという恐怖もまた、精神に来るダメージであろう。

 

 「待って〜!ケイタきゅーん!!」

 

 今追いかけているのが、ヘルブラッククロスの怪人なら立ち向かえたかも知れない。だが、追いかけているのはガチムチの筋肉質な身体に、闘牛の如く力強い脚による踏み込み、ケイタの首ぐらい簡単に折りそうな太い腕、見た目だけでも強靭な肉体。

 

 そしてその者は、本当に性に飢えているのか、レンと2人きりの時に見る、恋する瞳を血走らせて追いかけている。

 

 「何もしないから!ただケイタきゅんの○○○を○○して、後ろから○○○○するだけだから!ウシーーーっ!」

 

 聴くだけで嫌だし、気持ち悪い事を言われている。まともな男子高校生でも効かない様な単語を聴き、内容がわからないと余計に怖くなってくる。

 

 「モー後ろの○○を○して○○○○○・・・」

 「うわあああ!捕まったらなんかされるぅぅ!助けてーー!」

 「一緒に気持ちよくなろう!モーたまらないぞ!男同士と言うのは!!」

 「いやいや男同士は勘弁!!吐いちゃう!僕には恋人が居るんだぁ〜!」

 

 ギュウ・コッツがケイタをいよいよ追い詰め、両腕で壁ドンをする。鼻息の荒いその顔は最早司祭とか修行とかはどうでも良いと言った面持ちである。

 

 「男同士はいいぞ」

 「きゃあああああ!!!!」

 

 命の危機より男の危機を感じ取り、ケイタは涙目で拒否反応を見せる。

 

 ケイタの抱える白い魔導書から、わずかな光の文字が浮かび上がるが、ケイタもギュウもそれには気づいていない。

 

 「ビーム剣術・・・!」

 

 ようやく追いついたレンが形状を蛇腹剣に変える。唯一強化の無かった武器の形状だが、このままでも良いとレンが強化しなかった武器だ。

 

 「クリュソーレ・ヴィント!」

 

 蛇の様に連結部が蠢き、ギュウの分厚い背中へとその刃が連続で斬り込んでくる。

 

 「モー追いついたのか。速いな!」

 「その人は私の恋人。お前には渡さない。ケイタから離れて」

 

 ギュウ・コッツの背中に刃は通らず、再び粘度の高い水の魔法を、背中からレンへと浴びせてくる。

 

 「邪魔・・・」

 

 鬱陶しいその粘液を斬り払うと、レンはさらにギュウ・コッツへと突き進む。ビーム剣の形状はハーフブレードへ変えて、突きが出しやすい姿勢で一気に突進する。

 

 「モーしつこいな。マジカルマジカル・・・」

 

 魔法の詠唱と共に、先程の背中には水色の魔法陣が浮かび上がる。

 

 「アクオス・ダイブ!」

 「わぷっ!」

 

 勢いのある水の噴射。それが激流の光線となり、レンを後方へと押し流して行き、再び距離が離されてしまう。

 

 「レン・・・うわっ」

 「邪魔する者はモー居ないよぉケイタッきゅっ〜んっ!」

 「ゴボゴボ、ケイタ、ガボッ・・・逃げ・・・」

 

 レンは激流によって泳げず、ピンチ。

 

 ケイタも貞操がピンチ。

 

 白い魔導書の文字は少し強く光る。

 

 「え・・・魔導書が・・・」

 

 白い魔導書。それはケイタがサクラとの修行で探し当てた魔法の本。魔を導く書であり、文字通り魔導書。

 

 白く分厚く、しかしそれでいて軽いその本は、汚れ一つ無くその純白さを残し続けている。

 

 (ビーム剣術・・・!)

 

 水中の中でレンはビーム剣を別の形状に変える。柄を真ん中にした左右両方向に刃が伸びた剣、ダブルセイバー。

 

 (スパイラル!)

 

 激流に負けじとスーツの出力、ビームの出力を上げて回転させる。両刃の回転は水の中で切れ味を増していき、激流を四散させていく。

 

 「水牛(すいぎゅう)・一直線!」

 「!」

 

 水から出てくるのは把握していたのか、ギュウ・コッツも身体を水そのものへと変えて、レンへとその巨体を突撃させる。

 

 「闘牛(とうぎゅう)・次郎撃!」

 「ぐっ・・・うう!」

 

 次は水しぶきを拳と同等の威力で打ち込み、空中で身動きの取れないレンを集中砲火していく。

 

 「レン・・・この、魔法よ、撃て!動け!放たれろ!」

 

 ケイタが再び自分の恋人がピンチなのを見て、白く輝く魔導書を振ったり、叩いたりするが魔法は出ない。ただ輝くだけ。

 

 「ケイタ・・・私は、大丈夫だから・・・うあっ」

 

 連続攻撃の中でも、レンはケイタに優しく言葉を投げる。

 

 彼は戦えない。戦う力が無い。それでも危険だと解っていても、自分の為に出来る事を沢山してきてくれたのだ。そんな大切な恋人にこれから戦おうとしなくても、レンは一緒に居てくれるだけでいい。

 

 でもケイタは違う。例えそれで良くても、自分は宮寺レンの恋人だ。

 

 彼女を好きになったのも、守ってあげたいという動機があったからだ。戦いに赴かないと行けない彼女を、自分も守りたいと本気で思ったから。

 

 もうこの先の戦いは、心を守るだけではダメなのだ。

 

 それこそがケイタの決めた覚悟だ。

 

 ギンジの様に強くなくても。

 

 ミドリコの様に銃を使えなくても。

 

 カエデの様に身体能力が高くなくても。

 

 赤鬼の様に撃たれ強くなくても。

 

 そしてレンの様に心や精神が強くなくても。

 

 「僕は・・・ここで戦わなくちゃいけないんだ!自分の好きな人を守る為に、レンの未来を守る為に・・・!さっさと動いてよ!力を出せ!白の魔導書!!」

 

 ガン!!

 

 白い魔導書に右手を思い切り叩きつけた。

 

 その一瞬の中で、ケイタの右手を通して白い魔力が脳へと入り込んでくる。

 

 「うっ・・・!?」

 

 頭痛。吐き気。倦怠感。

 

 体調不良の様な感覚がケイタを襲う。顔色も悪くなり、汗もだらだらと流れ出てくる。

 

 それらと同時に、ケイタの脳内へ何かが入り込んできている。

 

 『よ。痛かったぞ』

 

 可愛らしい女の子の声・・・それはたどたどしさも感じるし、威圧的な感じもある。

 

 『わたしを選んだ上に、勝手に叩きまくって・・・でも、久しぶりにガッツを感じた』

 

 ケイタが頭痛に苦しむ中、レンはギュウ・コッツによって力押しされている。

 

 蹴られ殴られ、水で吹き飛ばされ・・・苦戦している。

 

 『・・・戦う力が欲しい・・・か。いいよ、魔法の力、貸してあげる。せっかく見つけた君の正義・・・見届けさせてもらうよ。我が名はエンジェラ・・・君が選ぶ魔法は破滅の力かい?守る力かい?好きな方を選びなよ。全てはこの魔導書と君の心思う通りさ』

 

 ケイタの中でページがぐるぐると回り続ける。白い魔導書がやがて一つの本に戻ると、それらが再びケイタの目の前に現れる。

 

 『さぁ取りなよ。これが君の思う力さ』

 「ああ・・・僕に戦う力を・・・守る力を・・・エンジェラ!」

 

 手を取る様に、握手する様に、ケイタが開いた魔導書を取る。

 

 その瞬間に白く優しい光が弾け飛び、ケイタの身体に白い魔法使いの装束が纏わりつく。

 

 ローブの様に見えているその魔法の衣が、ケイタの守る為の力。

 

 「・・・!」

 

 もう、頭痛がしない。体調も悪くないし、晴れやかな体調になる。

 

 身体に染み渡る何かの力。コレが魔力だと知り、ケイタはレンを見つめる。決意を宿したその瞳はまさしく正義の為の色を宿しており、2人が頷き合う。

 

 「ケイタ・・・」

 「・・・これはモー驚いた。ケイタきゅんも英霊だったのか・・・」

 

 白く光るページしか表示されていない本を右手に開き、左手は人差し指と中指を伸ばしてケイタはギュウ・コッツへとその指を構える。

 

 「僕の彼女をこれ以上・・・攻撃するな!第一の魔法!」

 

 ギュウ・コッツをめがけた魔法が解き放たれる。

 

 「エンジェラ・アーマ!」

 

 強い光を宿した光弾を打ち出し、ギュウ・コッツへと突き進んでいくが、それをギュウ・コッツは避ける。

 

 避けた先にはレンが居るが、その光がレンに命中する。自分の恋人似魔法を当てた事で、ギュウ・コッツは困惑する。

 

 「な、何を・・・自分の恋人なのでは・・・!?」

 「いいや・・・これが僕の魔法の使い方・・・戦う力であっても、守る為っていうのが、僕の魔法の前提さ!」

 

 ケイタの魔法はおそらく光の属性。無類の強さを発揮することで有名な属性だが、ギュウ・コッツから見たケイタという英霊には魔力が無いように見えた。

 

 故に、この一回でおそらく死にかけると思われるのだが、角倉ケイタは勇ましい表情でここに立っている。

 

 「ビーム剣術・ホーリーレーザー!」

 

 青白い光線が飛び出し、光を反射しながらギュウ・コッツへと当たる。

 

 熱く焼ける様な温度で斬る・・・まさしくビームという存在に、ギュウ・コッツは混乱する。見たことの無い魔法と見たことのない技術が合わさった攻撃に、身悶えする。

 

 「ありがとう、ケイタ・・・」

 「君を守るって約束したからね・・・」

 「うん・・・ケイタ」

 

 レンのスーツには白い翼が生えている。ケイタの魔法により取り付けられた、天使の精鋭・戦乙女のような出で立ちになる時間制の強化型魔法。

 

 そんな美しい姿になり、レンはケイタの方を向いて、言葉の続きを伝える。

 

 「好きだよ・・・」

 「ありがとう・・・僕もだよ、レン!」

 

 レンが先に一歩踏み出し、ケイタはその後に続く。

 

 目の前には立ち上がった修行の相手である、ギュウ・コッツ。

 

 「・・・その衣装を着たまま、○○を〇〇したいな・・・いいかねケイタきゅん。その代わりに鍵をあげるが・・・」

 「いらないよ。僕たちが・・・」

 

 きっとこんな時ギンジなら強気に、こう言うだろう。それをケイタも真似したくなった。

 

 「その鍵は、僕たちが奪い取る!」

 

 力強く、恐れを無くしたケイタが強気に言うと、水の魔法と、レンの突撃が同時に繰り出され、遺跡の戦いは激化していくのであった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

現在の鍵数

 

ギンジチーム

3つ

ギンジ、1

カエデ、1

ミドリコ、1

 

コッツチーム

?つ

──・コッツ、?

ギュウ・コッツ、1

トリ・コッツ、0

ジン・コッツ、1→0

 

未取得の鍵、不明!

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

  

  

続く

 

 




お疲れ様です。

今回のお話はケイタの覚醒がメインとなるお話にしたく、そして骨の怪人も出そうとしていましたが、尺と話の都合上、次々回へと繰越にしました。話が本筋から離れてる?ははは、魔法界編が始まってからずっと以下略

キャラネタ書きます

神宮カエデ
ダークスーツもある程度パワーの制御が可能になった。
通常スーツでも最高峰の威力である、テラマグナム・インパクトを習得。
ダークスーツでもデストラクション・インパクトを習得。
ギンジとは今のままでもいいが、この先進展もしたいとも想っている。

宮寺レン
武器の出力をどの形状でも上げられる様になった。強い。
ケイタがいっちゃん好いとーよ系女子

甘白ミドリコ
第三の眼は現代に帰還したら役立ちそうと思っている。遺跡の中でもハイヒールだけどいいんですか?

角倉ケイタ
おまたせしすぎてついに覚醒。
守る力を求めた結果、第一の魔法は他人に天使の衣の鎧を与える能力になった。
RPGで言うなら補助魔法を主体とするバッファーとかそんな役割。

エンジェラ
白い魔導書の中に住んでた本の精。姿は見えず、どちらかと言うと本そのものが彼女の姿に近い。

コッツ兄妹
ジン、トリ、ギュウ、──・コッツの4兄妹。
地水火風を司る司祭である。オレキエッテ帝国を守る四大元素の大きな力を持っているが、今回は魔女の命令で英霊達の修行に入っている。

地水火風から左からの順番で、長兄、次男、三男、長女。

母親は同じで父親がそれぞれ違う。
昔は野盗として動いていたが、魔女にボコられてから50年以上手下・・・もとい部下として司祭をしている。個人の詳細のキャラネタは次回にて

・・・

さて次回は、ケイタ、レンvsギュウ・コッツ第2ラウンド!
そしてギンジはカエデ、ミドリコと合流し!鍵探しへ!

そして最後のコッツ兄妹、長兄も登場し・・・!
な話です。本当です、もうずれ込んだりしないです!
それでは、また次回!
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