正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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毎日熱いですが、熱中症には気をつけてな!

今回の話も長いので、休憩をはさみながらお楽しみください。




5・仲間

 あの戦いから5日ほど経っただろうか。

 

 あれから病院での入院を終えると、俺とミドリコは退院の手続きを済ませて、迎えの車を待っていた。

 

 「君は怪我はもういいのか?」

 

 ミドリコが俺に訪ねてくる。気まずいのか、不機嫌なのか、神妙な面持ちだ。

 

 顔は美人なんだけど、仕事において生真面目だし、公安の人間だから年齢=彼氏居ないんだよな、この人。

 

 「あんたこそ、腹、刺されてるだろ。5日ちょっとで復活できるのか?」

 「元々は私の自己責任だ。この怪我も、あんな無茶さえしなければ・・・」

 

 俺たちが入院している間、ヘルブラッククロスは活動をしていなかった様だ。神宮も宮寺もお見舞いには来ていた様だが、俺には会いに来てくれなかった。泣きそう。

 

 「佐久間、君は私達に協力するということだが、信じていいのか?」

 「その話何度目だよ。俺はお前らに協力するし、またあんたが無茶しないように見ていないといけないしな」

 「ふっ、君に守られるほど、私は弱いつもりはないよ」

 

 お、ようやく俺との会話で笑ってくれたな。そうだよ、やっぱ美人は笑顔がいいよな。

 

 「ん、あんまり顔を見るな。照れるだろう・・・」

 

 免疫ないからな、この人。なんでも自分に気があると思わせたら、コロっと堕ちそうなんだよな。俺はそこが心配。

 

 そうこうしてると、赤い車がこちらに向かってくる。ミドリコの上司が迎えに来るらしいんだが。

 

 「佐久間、一応サングラスを掛けとくんだ」

 「もう準備は万全だぜ」

 

 入院中はサングラスかけるな〜とか言われまくったけど、眼球の件で特に問題はなかったけど、今後外に出るなら、こういうカモフラージュは必要だな。

 

 さてと、サングラスも掛けたし、車に乗らせてもらうか。

 

 「やっほーミドリコちゃん」

 「どうも藤原さん。この度はご迷惑を」

 「いーよいーよ、そのかわり、またお尻さわらsいでででで」

 

 なるほどこいつが藤原か。いやらしそうな目つきしてるが、顔はマジのヤクザだな。怖い。

 

 「ちぇ、プライベートだし、よかれと思ったんだけどな」

 「いえ、セクハラです。やめてください。癌が感染ります」

 「なってねーよ!っていうか、癌ってうつるもんなのか!?」

 

 なんだかんだ調子の良いコンビなのかもな。俺からすれば、ヘヴンホワイティネスとして行動しているミドリコしか知らないから、この反応は新鮮だ。

 

 「で、そこのグラサンは・・・」

 

 藤原が俺に視線を合わせる。というかメンチみたいな顔つきになる。

 

 「あ、彼は佐久間ギンジだ。私が保護する二人目の協力者だ。今はな」

 「ほー。こいつが」

 

 この人の声音はなんというか腹の底に響くような威圧感がある。あの総統に比べるとかわいいモンだけど。

 

 「いいか、甘白はな、おじさんの優秀な部下なんだ・・・」

 

 俺の部下に手を出すなよ、とでも言うつもりか・・・?喧嘩ふっかけられるのは嫌なんだけどな。

 

 「お尻が弱点だ。いつでも触れるように手を鍛えておけよ」

 「ふ〜じ〜わ〜ら〜さ〜ん〜?」

 「優秀な部下さん、マジギレ寸前だけど大丈夫そ?」

 

 セクハラ上司、セクハラ男は成敗されるのが世の常だ。合唱しとこう。

 

 「嫌になっちゃうね〜〜〜」

 

 昭和みたいな吹っ飛び方だな。

 

 さ、車に乗せてもらおー。

 

 車を運転しているのは藤原。助手席にはミドリコ。後部座席を優雅に座れるのは気分がいいぜ。

 

 この街で起こっている犯罪や、先のアモーレ、ヘルブラッククロスの情報を洗いざらい全部探しているんだと。公安の人とつながりができるのはいいけど、この藤原って男、相当な曲者だったことを俺は知っている。

 

 5月半ばには連絡が取れなくなって、6月頭には、ヘルブラッククロスの1構成員としてスパイになる。その後ミドリコを自分の良い様に、奴隷として働かせる・・・そんなキャラだったはずだが、今はどういう訳かセクハラで済んでいる。

 

 いや、まだ3月だしな、こいつが正義を裏切るのは時間の問題か。

 

 「あ、えーと藤原さんだっけ?」

 「おう、便所か?」

 「いや、トイレは大丈夫だ。で、あなたに聴きたいことがあるんだけど」

 

 少し情報収集と行こう。

 

 「あんたはヘルブラッククロスについてどこまで知ってる?」

 「いや〜一般市民には教えられないな〜おじさん、これでも守秘義務を守る人間なもんで。ね、ミドリコちゃん」

 「触らないでください。性病が感染ります」

 「性病になんかなってねーやい」

 

 やっぱり公安の人間だしな。そう簡単には教えてくれないか。なら、こんなのはどうだろう。

 

 「俺はヘルブラッククロスの情報の一部を持ってる。取引しないか?」

 「・・・ぜひお聞かせ願いたいね」

 「藤原さん、彼は私の協力者です。ある程度の事情は知ってます。話すのは・・・」

 

 ミドリコの助力も得られると思ったが、車に急ブレーキがかかる。

 

 「いてっ」

 

 シートベルトをつけていなかったから、俺は前の座席にぶつかってしまう。

 

 「あのなぁ、おじさん達は第4(組織対策課第4班)なのよ。いくらお前らが、あのヒーローごっこやってるからって、情報を知ってるってだけで、俺の知ってる事は教えらんないの。ったく、嫌になっちゃうな」

 

 ヒーローごっことかいう事に憤りを感じるけど、まぁ、今はそこはいいや。

 

 このおじさんは要注意人物だな。

 

 「・・・失礼しました」

 「いいよ。おい、グラサン坊主」

 

 なんだよグラサン坊主って。

 

 「甘白はおじさんの優秀な部下だ」

 

 またかよ。

 

 「協力するってんなら、しっかり守ってくれよ。俺ァ、女が傷つくのはみてらんねーよ」

 

 ・・・。なんだ、正しい考えを持っているじゃん、このおじさん。またセクハラしようとして、指を曲げられてるけど。

 

 一先ず、今は心配いらないのかな。

 

 「ほら、ついたぞ」

 

 車から降りると、そこにはコンクリート造りの簡素なマンション。甘白ミドリコの今の住居だ。

 

 「お前まだこんな所住んでるのかよ」

 「住めば都と言うでしょう。それより、マンションの敷地内には入らないでください」

 「なんで?おじさんもせっかくだからお邪魔しようと思ったのに」

 「いえ・・・それはまぁ」

 

 ミドリコは何か言いにくいのか、顔を手で隠す。

 

 「痔がうつるので・・・」

 「本当に失礼なやつだな!うつんねーよ!」

 「あーでも痔を持ってそうな顔してるわ」

 「グラサン坊主お前!」

 

 藤原さんが涙目で車に乗り込む。

 

 「バーカ、バーカ!お前らなんてもう2、3日風邪引いて休んじまえばいいんだ!」

 

 捨て台詞まで吐いて車を走らせ、高速で去っていく。よほど悔しいんだろうな。30超えたおじさんが泣くなんて。

 

 いやそれとも、恩を仇で返されたのが嫌だったのかな。

 

 「佐久間、こっちだ」

 「ほいよ」

 

 言われるがまま俺はミドリコについていく。エレベーターに乗ると、直ぐ。4階にミドリコの部屋があるらしい。

 

 「言っておくが、私やレンの洋服に触れたら、君を逮捕するからな」

 「別に触ったりしねーよ。あんたに女性としての魅力を感じないからな」

 

 冗談で言ってみたつもりだが、ミドリコはショックで、この世の終わりみたいな顔で膝から崩れ落ちる。

 

 「ううっ、わかっていたさ・・・私には魅力なんてないことを・・・でも、いいじゃないか、部屋に男性を入れることなんて無かったんだ。言ってみたかったんだ・・・」

 「あー悪かったよ!泣くなよ!冗談だよ」

 「よし、では行こう」

 

 何事もなかったように、立ち直り、涙すら綺麗に無くなってる。

 

 女ってコエー。

 

 部屋にいれてもらうと、想像していた女性の部屋というキレイなモノではなく、リビングは洋服、化粧品、新聞、紙袋、無造作に置かれたペットボトル、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ・・・。

 

 「汚なすぎんだろ!これが生活のスペースか!?オイ」

  

 多分、男の独り暮らしでもここまでゴミ袋やら、私物の片付けをしていない等ないだろう。俺でもここまではひどくなかった。

 

 キッチンに眼をやれば、食器は洗われず、惣菜のパックが纏められたシンク。虫が湧くぞ。

 

 「マジ女性だろ!?もっとこう、ちゃんとあんだろ!ひどすぎる!」

 「しょうがないだろう!私は基本仕事が忙しくてできないのだから」

 「じゃ、宮寺にやらせとけよ!」

 「レンはやり方がわからなくて、教えてあげられてないんだ」

 「・・・」

 

 ちょっと怒鳴りすぎたか、ミドリコは申し訳無さそうに、遠くを見つめる。っていうか、この人生真面目な性格ってキャラだったはずだが・・・。もしかして彼氏できないのってこういう生活のガサツ感が見えてるんじゃないか・・・?

 

 「と、とにかく、今日の夜前にはレンも帰ってくる。君には、このキッチンの掃除を任せたい」

 「おいおい嘘だろ」

  

 力になるとは言ったが、こんなん聞いてないぞ。

 

 「じゃあ、頼む!」

 

 ドーン、と背中を押されて、ゴミキッチンvs俺という構図が完成した。

 

 長期戦になりそうだが、俺も独り暮らしは長い方だったし、いっそ気合いれてやってやるか。もし無理だと悟れば、その時は。

 

 バーナーの力で全て焼き尽くそうか。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 神宮家の敷地はかなり大きく、一つ一つの部屋が広い。

 

 ミドリコが入院から退院までの間、宮寺レンは神宮カエデの厚意で、しばらく宿泊させて貰っていた。

 

 「おはよう、カエデ、レンちゃん」

 

 声の主は春休み中、暇を満喫していた角倉ケイタ。

 

 彼は家も近いため、こうしてほぼ毎日遊びに来ている。アモーレの襲撃の日は、流石に来なかったが。

 

 「おはよう、ケイタ君」

 「おはよ、あんたまた来て、スマ○ラは今日はやんないわよ」

 「ゲームしに来たんじゃないよ」

 「じゃあ、ケイタ君は、今日はどうしたの?」

 

 カエデの豪華な自室の椅子に、ケイタがレンの向かいわせになるように座る。

 

 まだまだ春休みだが、休みはそう長くない。もうすぐ終わる。

 

 「どこか、三人で遊びに行ってみない?クアッドタワーとか、有姪(ゆうめい)海岸とかさー」

 

 繁華街最大規模の超大手の企業が軒並み揃う、クアッドタワー。度固化市第2の繁華街とも言われる商業施設だ。光の反射で真っ黒に見える事で話題になり続けてる。お買い物だけではなくホテルや、アミューズメント、映画館、企業エリア等、観光スポットとしても。

 

 もうひとつの有姪海岸は一年中出店が展開されているキレイな海。毎日、人の出入りが激しい場所でもある。

 

 「そうね〜、最近ずっと外に出てなかったし、どこか出かけるのはアリね」

 「私も、賛成。そろそろヘルブラッククロスが出てこないか、心配」

 

 カエデの家の人間は誰一人として、ヘヴンホワイティネスの正体は知らないが、ケイタは彼女らの正体を知っている。

 

 戦えない自分が、女の子に戦ってもらっている。

 

 (僕も、戦えればな・・・)

 

 少年は苦悩していた。自分の友人たちが、つい最近、炎を発射する怪人と、例の悪の組織の大幹部とやらと交戦したという。

 

 カエデもレンも幸い大きな怪我はなかったようだが、ケイタはそれを聞いた時、ニュースに映るヘヴンホワイティネスを見て気が気じゃなかった。

 

 「ケイタ君?」

 

 落ち着いた声が角倉ケイタを現実に引き戻す。

 

 「あ、ああごめんよ。ちょっと考え事してた」

 

 自分の友人へ悪事への対処を、全て任せきりなのがどうにももどかしい。

 

 しかもケイタはそこらの一般市民とは違い、事情を知っている。

 

 年明けして直ぐぐらいの通学で、宮寺レンと仲良くなった。そしてその日は、一日中青春を満喫していた。

 

 興味ないふりしてたけど、ケイタは次第にレンとの会話が楽しくて、不思議な印象の彼女を気になっていた。

 

 しかし、当たり前の平和が訪れることはなく、その日の放課後はケイタもカエデもレンも、この場にいる三人が忘れられない、怪人との初遭遇。

 

 そして、記念すべきヘヴンホワイティネスの結成の日でもあった。

 

 春休みが始まるまでは、しばらく三人で一緒に居たと記憶している。

 

 「どっちにする?」

 「私は、どちらでも。皆といれば、きっと楽しいから」

 「そうだね、学校始まると勉強とかも忙しくなりそうだし、僕は海の方がいいかな。思い出に写真とか取りたいし」

 

 趣味のデジカメを持ってきてるんだ〜、とほんわかした表情でケイタの顔を見るレン。

 

 (いいな、趣味か・・・)

 

 未来からやってきたレンには、おおよそ趣味と呼べるものはない。

 

 カエデも生花、ケイタはカメラ、ミドリコは“ねっとさーふぃん”とやら。

 

 二人はともかく、ミドリコは捜査の一環とも言っていたが本当だろうか。

 

 「じゃあ、今から行こう!」

 「い、今?」

 

 カエデの良い所は即断即決の行動力。

 

 決めたらもうなかなか変わらない。

 

 と、そこへレンのスマートフォンに電話が。

 

 「ごめん、また後で」

 「はーい、ごゆっくり」

 「・・・僕たちは準備してるね」

 

 レンの電話相手は一人しか居ない。もちろん、甘白ミドリコだ。

 

 チャットアプリでは、カエデ、レン、ケイタ、トモカ、ミドリコは居る。

 

 『おはよう、レン』

 「おはよう、ミドリコ。怪我は大丈夫?」

 

 携帯の声は落ち着いていた、いつものミドリコの声だった。それを聞くと安心したのか、思わず笑顔になれる。

 

 「退院の日に、行かなくて大丈夫、だった?」

 『ああ、カエデ達と一緒に居るほうが楽しいだろうと思ってな。あとで、迎えに行くよ。神宮家の方にご挨拶とお礼もしたいしな』

 『おーい、ミドリコ!なんだよこのゴミ箱!お前、こんなん、虫が湧くって!!』

 

 聞き覚えのある男性の声。

 

 『ああ、済まないレン。今、佐久間も来ていてな』

 「佐久間・・・ギンジが家にいるの?」

 

 その明らかな男性の名前の登場にケイタがそわそわし始める。

 

 「ねね、カエデ、今のなんとかギンジって、誰?」

 「あー・・・なんというかバカ一直線って感じの変なやつよ」

 

 もしかして、ニュースに写っていた、ヘヴンホワイティネスと一緒に協力していたあの金髪の喧嘩自慢みたいな人が、ギンジという男だろう。

 

 『おいいいいこのパンカビ生えてんぞ!捨てろすてろ!』

 『ま、待て、色々捨てるな!』

 『食えないだろ、これ!』

 「ミドリコ、掃除まかせて、ごめんなさい。今度は、機会があれば教えて欲しい」

 『もちろんだ、ああ、佐久間!洋服には触らないでくれ!』

 『っせーバカ!全部ほこりっぽいぞ!全部洗濯だ!』

 

 怪人なのに洗濯もできるのか。きっと佐久間ギンジは私より生活能力が高い。

 

 『と、とにかく、後で迎えに行くよ。何時頃がいい?』

 「ミドリコ、ごめん。私達、これから海に、行こうと」

 

 せっかくのお迎えに、久しぶりにミドリコに会える楽しみと、海に行く楽しみで、板挟みになる。

 

 『そうか、海か。あの海はいいぞ、昼間から輝いてとても綺麗なんだ。存分に遊びに行ってくるといい』

 「いいの?」

 『構わない。君には遊ぶのも必要だよ。あ、こら、佐久間!私の部屋にはいるな!』

 『リビングでこんなんだからお前の自室は・・・うわっ』

 『うわっとか言うなああーーー』

 

 よほど慌てていたのか、恥辱の悲鳴と共に通話が切れる。

 

 確かに、ミドリコの部屋のあの有様を見たらうわっ、となるのは全人類共通だろう。

 

 「まさか、佐久間がミドリコの部屋に入ったの?」

 「なにか、掃除を、していたみたい」

 

 あの汚いリビングを二人で掃除しているのも驚きだが、ギンジの生活能力の高さを帰宅したら見れるのは、少しだけ楽しみでもある。

 

 「カエデもその佐久間さんを知っているんだね」

 

 ミドリコの家にいるということは、アモーレの一件から仲間にでもなった新たな協力者なのだろう。

 

 (もしかしたら・・・)

 

 ケイタの脳内にある想いがよぎる。もし、自分も生身で戦えるようになるには、その佐久間ギンジに戦いの仕方でも学べば、友人達への役に立てるはずだ。

 

 「今度あわせてよ。もし悪い人なら、僕がやっつけて・・・」

 

 飲み物を飲み干すと、ケイタの言葉にあわせてレンが首を横に振る。

 

 「アレは、多分、普通の人間じゃ勝てない」

 「そうね、耐久も人間以上だし、化け物よ、アレ」

 「そ、そうなんだ・・・」

 

 謎の男の介入に、ケイタは何か焦りを感じる。

 

 ミドリコとレンの暮らす家に、その人は入れてもらえてる。

 

 (僕は一度も入れてもらえてないのになぁ・・・)

 

 少し、ほんの少しだけ悲しい。

 

 きっと協力者って言うからには、悪い人ではないようだが・・・。

 

 「さって、そうと決まれば海にいくわよ!」

 「あ、水着は・・・」

 

 レンも楽しみを隠しきれない興奮気味な感情で、海へのイメージと希望を言葉にするが。

 

 「え?3月じゃ、海入れないわよ」

 「・・・っ!?」

 

 雷が落ちるような衝撃。

 

 「いくら暖かくなるからって、まだまだ海に入ったら、凍えちゃうよ」

 「そ、そんな・・・ッ!?」

 

 海を初めて見るレンには泳げると思っていたのか、それが叶わないと知った絶望の表情は、カエデが爆笑するまでそう時間はかからなかった。

 

 「また暑くなったらいくらでも泳げるわよ。さ、ご飯食べたら出発よ」

 

 時刻は11時30分が過ぎようとしていた。お昼には丁度いい時間帯だ。

 

 昼食は神宮家のおかかえシェフの作る、豪勢な料理だろうか。それとも海で食べる用のお弁当にしてくれるだろうか。

 

 家ではお嬢様のカエデもやはり素のわがままな所も、出てくるかも知れない。

 

 ケイタは楽しみにするレンの横顔を見て、自分も楽しみな気持ちになる。

 

 無垢だからか、彼女の反応がすべて面白い。そしてその反応によって嬉しそうな彼女が、かわいいと思えている。

 

 嬉しそうな表情だけに限らず、戦いに向かうレンや、美味しいものを食べるレンや、本を読んで勉強するレンを見て興味が尽きない。 

 

 いつかケイタはこの感情を恋と知るが、それはまた別のお話。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「佐久間、掃除、ありがとう。さぁ、君も海に行き給え」

 「なんで俺も海に行くんだよ」

 

 部屋全体の掃除を終えて、お茶を飲み下しながら、昼ごはんはどうしようか、と考えている所に手を洗いながらミドリコは息切れしている。

 

 聞けば、カエデとレンがお友達と海へ行くらしい。

 

 こんな寒いとも温かいとも知れない季節で海に行くなんて、どうにかしている。寒中水泳でも行おうとしているのか。

 

 「私は、少し、つかれた。うう、君に部屋をみられるなんて、もうお嫁にいけない」

 「いや、悪かった。流石に冷静じゃなかったし、デリカシーがなさすぎた」

 

 ミドリコの部屋はリビングやキッチンに比べると、綺麗目ではあった。あったのだが・・・。

 

 (黒とか、赤とか、紫、多かったな・・・)

 

 何がとは言わないが、過激なモノが非常に多く、しかもそれのセットをベッドの横に吊るしてあったのだ。ちょうど部屋を開ければ直ぐに見える様な位置にあった為、インパクトが強い。

 

 「嫁の貰い手がないなら、あの藤原さんとなんてどうよ」

 「次そんな事言ったら、銃を撃つぞ」

 「・・・ナンデモゴザイマセン」

 

 どこからか拳銃を取り出し、ギンジに向けている。迷いなく引き抜かれたソレを見ると、ギンジは思わず敬語になる。

 

 「いや、俺も悪かった」

 「入院する日から片付けてなかった私も悪いさ。でもなー・・・見られた・・・乙女のプライドが・・・ああ・・・」

 「頭抱えるなよ。今度買い物でもなんでも手伝ってやるから」

 「いや・・・まぁ・・・そうか、そうだな」

 

 ソファに座りながらミドリコは髪をワシャワシャしている。

 

 「ところで、君は屋内でもサングラスを掛けたままにしてるんだな」

 「まぁな。この黒い眼球じゃ、怪人の特徴を知ってる人にバレたら大騒ぎになるしな。なるべく要らん混乱は招きたくない」

 

 ギンジとてどんなところでも怪人だなんだと、騒ぎを立てられたのでは面倒でしょうがない。

 

 それにギンジは怪人であっても心は人間だ。自分を怪人と呼ばれるのはあまり良い気分ではない。

 

 「バーナーの怪人は残念だったな」

 「俺がもっとイレギュラーに気を配ってればこんな事にはならなかったしな」

 

 そんな怪人人間の表情は悲しみと悔しさが入り混じった複雑なモノになっている。

 

 「この世界で、俺にとって初めての友達だったんだ」

 

 付き合いはわずか半日と、友達になったというにはあまりにも短すぎる時間。だけど、間違いなくそれは彼にとって正真正銘の友を得たという、何者にも覆せない友情があった。

 

 もう二度と自分の守りたい存在の命や心を、奪わせやしないと、ギンジの目に潤いが溢れる。

 

 「そうか、君は、人間なんだろうな」

 「当たり前だ・・・」

 

 ミドリコには見えないように瞳を拭うギンジの後ろ姿を見て、今までぶつかってきたどんな怪人よりも、人間味を見たような気分になる。

 

 「きっと、その涙が君の人間たらしめる理由だろうな」

 

 怪人は涙を流さない。ましてやそれが、【友】の為の涙を流せるなんて、今までのミドリコの常識なら、そんな怪人は存在しないと決めつけていた。

 

 故に、彼は間違いなく人間。その心まで。

 

 「で、俺はどうやって海に行けばいいんだ?」

 

 話が元に戻る。

 

 「ああ、ここから有姪海岸だと、電車に乗って・・・」

 「俺、お金ないんだけど」

 「・・・私も入院費用に使ってしまってな・・・」

 

 いつも生活はどうしてるんだと、一気に不信感が募る。

 

 「じゃあ、どうやって海に行くんだよ」

 「・・・車しかないか」

 「ミドリコも行くのか?怪我は大丈夫にしても、泳げないだろ」

 「いや、3月だしな、泳げないだろう」

 「それもそうか。なんだってこの季節に海へ?」

 

 そもそもの海に行く理由を聞いてないギンジの言葉に、少しほほえみながら答えを返す。あの二人が海に行くっていう理由だけでは特に行きたいとは思えない。

 

 「さっきも話したが、カエデ達が海に行くと言うんだ。本当はカエデのご実家にお礼と挨拶を兼ねて行くつもりだったんだけどな」

 

 そこにギンジが行く意味はあるのだろうか。

 

 「あいつらだけで遊ばせてやりゃいいんじゃないか?」

 「まぁ、それもそうなのだが、私は今はあまり戦えない。もし、ヘルブラッククロスが襲撃をしてきたら、君にしか迎撃を頼めない場合もあるかもしれない」

 

 なるほどと彼女の言うことも理解できる。一理ある考えだ。

 

 「海に襲撃してくるかな・・・?」

 

 イベントが何かあったか・・・と考えるもこの時期には特に大きなイベントは無かったはずだ。

 

 とはいえ、アモーレの一件もあるので絶対何もないとは確定できない。

 

 そもそもゲームの中では描写されていないだけで、ヘヴンホワイティネスはプレイヤーであるギンジが見えないところでも戦っている事もあるだろう。

 

 「実際に海に奴らが来るかは不明だが、行くだけ行くか」

 「そうか。それでは、車を用意してくるよ」

 

 言うと、ミドリコは可愛らしくない私服から、スーツに着替える。

 

 「なんで仕事に行くような格好なんだ」

 「人様の親御さんに会うんだぞ。適切な格好で行かねば失礼にあたる」

 

 宮寺レンは親戚である甘白ミドリコの下に親の仕事の都合で・・・っという理由を思い出して、ギンジは納得する。

 

 「それじゃあ、行こう、ギンジ」

 「あれ、名前・・・」

 「ギンジ、と呼んでいいのだろう?」

 

 今まで名字呼びだったが、少しだけ距離感が縮まった様な気持ちに、少し嬉しくなる。

 

 「よーし、運転は任せるぜ」

 「もしかして免許ないのか?」

 「前の世界なら持ってた」

 「そ、その話詳しく!!」

 

 部屋を出て、鍵を閉める。そのまま駐車場にて車に乗ると、ゆっくりと進み始める。

 

 二人を乗せた車は海へ向かっていく。明るく蒼い空が、ギンジには心地よい眩しさだった。

 

 「なぁ、ギンジ」

 

 運転しながらミドリコは、助手席に座るギンジへ声をかける。

 

 「いつか、サングラスを外して、生活できるといいな」

 

 その日が来るのはいつになるのか。

 

 でも、それができるなら、いつかその日が来るなら、ギンジはいよいよその時こそ人間と認められた未来でだけであろう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 有姪海岸は春休みシーズンと、まだ少し肌寒い季節感という事もあり、そこまで人は多くなかった。

 

 だけど、見渡せば、公園には小さな子供を連れた親子、犬と散歩する老人、出店に並ぶ高校生、車にもたれる佐久間ギンジ・・・。

 

 「なんであんたがここにいるのよ!」

 

 カエデ達が連絡を貰うと、海岸沿いの駐車場の道で、見覚えのある金髪ツーブロック、サングラスのいかにも見た目のガラの悪い男がミドリコの車にもたれていた。

 

 「よ、無事に退院してきたぜ」

 「よ、じゃないわよ!何平然とあたし達の前に現れてんのよ!」

 「まぁ、そんな連れない事を言うなよ。一応俺たち共闘した中なんだし」

 

 憤るカエデをいさめる様に、ギンジは笑顔に対応する。

 

 「この前は、ありがとう。でもそれだけ。お礼はこれっきり」

 

 警戒の色は強いが、レンなりの礼儀だろうか、お礼だけはしっかり伝えてくれた。

 

 今後も協力する姿勢は救急車の中でしっかり伝えた筈なのだが。

 

 「あ、あのはじめまして!」

 

 元気よく話しかけてくるのは、角倉ケイタ。

 

 少し怯えてるのか、声が震えている。

 

 「僕は、角倉ケイタです」

 「始めまして、今日からヘヴンホワイティネスの一人で活動することになった、佐久間ギンジだ。親しみを込めて、ギンジでいいぜ」

 「待てーい!勝手に話をすすめるんじゃないわよ!」

 

 角倉ケイタもギンジの情報では、事情を知っている一般市民としての扱いで良いはずだ。

 

 「あの、なんで、僕にそんな事を・・・?」

 「気にしなくていいぜ、俺は未来を知っているからよ」

 

 まただ。未来を知っているなんて言葉、普通なら信用できない。

 

 だけど、言ってる事に妙な人間臭さと、何か真実味を帯びた喋り方が、あの日、カエデの心に迷いを生じさせた。

 

 こいつは怪人。それだけで、協力者であってもなるべく仲良くはならないようにしていこうとしている。

 

 「私は、その言葉を、確実には信用できない」

 「宮寺。まぁ、普通ならそうだよな。けど、いいぜ、これからの行動で全部決まると思うからよ」

 「あーら、怪人様にあたし達の信用なんか得られるのかしらねぇ」

 

 明らかな嫌味と嘲笑たっぷりの物言いに、まだ溝は深そうと、肩を落とすギンジだった。

 

 「皆、なんで海に行こうとしていたんだい」

 

 ミドリコがいつものスーツ姿のまま、飲み物を人数分用意してくれていた。

 

 「あら、ありがとうミドリコ」

 「ありがとうございます」

 「感謝」

 「サンキュー」

 

 海に来た理由はなんでもないただの思い出作りだ。

 

 それぞれの春休みを満喫するだけの、本当に簡単な理由だった。

 

 「もう、海は見たのかい?」

 「まだ。どうせミドリコ達も来たなら、一緒に見たい」

 

 やや強い潮風がレンの髪をあおっていく。

 

 「なら、一緒に行こう」

 「海なんて、何十年ぶりだ・・・?」

 

 ギンジの言葉が気になるが、とりあえず聴かないことにする。

 

 カエデは一度だけの協力だと思っていたし、今後も仲良くするとまでは言っていない。

 

 怪人は結局怪人でしかない。

 

 きっと、いつか裏切る。元いた組織も裏切ってきてるし、なによりギンジのあの見た目が気に入らない。

 

 「ミドリコは上手く丸め込んだみたいだけど、あたしは信用しないわよ」

 「ご期待に応えてみせるよ」

 「期待なんてしてないわよ。バカ」

 

 まるっきり信用されてないまま、カエデは足早に少し先に進むレン達の下へ寄る。

 

 「口の悪いご令嬢だ」

 

 だが、カエデの言う事も理解できる。だから、信用を得るまではしょうがない。

 

 サングラスを掛け直し、別に行きたくもない海を眺めようと、ギンジも皆に続く。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 海中では全く人の泳いでいない冷たい世界。

 

 そこの浅瀬に触手の怪人は冷たさを身体にまとわせるように漂っていた。

 

 「あっしら、なんでこんな海に配属されたんですかね」

 「・・・」

 

 同じ場所で同じ様にふわふわと漂うのはタコ怪人。

 

 いつも無口で何もしゃべらない謎多き怪人だ。

 

 「あ、タコさん、あっし必殺技新しくできたんですよ」

 

 嬉しそうな声音で触手を海の中で振り回す。

 

 「その名もデーモンエクスペリメンス・エクスペンダブル・テンタクル・インフィニティストライドってんです。水陸両用の必殺技なんすよ」

 「・・・」

 

 うなずくばかりでタコの怪人は喋らない。だが、その表情は心なしか喜んでいるようにも見える。

 

 目の前に魚が通れば一瞬でかじりつくタコの機敏性に、会話よりも食事が優先されているのがわかる。

 

 つまり、触手の怪人の必殺技の話題より、食欲に負けている。

 

 「あ、この前チワワを実験体に・・・」

 

 それでも触手の怪人の無駄話は止まらない。

 

 「それにしても、人、居ないッスね」

 「・・・」

 

 ドクターミヤコの命令では、海岸に人がいれば襲え、というザックリしたもの。

 

 もし怪人二人が暴れて騒ぎを聞きつけて、ヘヴンホワイティネスが来たなら、迎撃、ないしは佐久間ギンジ奪還を、命令として受けている。

 

 「あのギンジが裏切るなんてね〜信じられませんわ」

 「・・・ッ」

 

 タコ怪人からしてもあのギンジの裏切りは予想だにしていなかった。

 

 裏切る、言葉の意味は知っていても、ドクターミヤコに造られている以上、そんな感情を持つこと自体、タコにしてみても、触手にしてみてもありえない事だった。

 

 (・・・、ギンジ)

 

 タコ怪人はそれでも喋らない。心の中では、今でも仲良くしてくれたあのギンジの優しい表情が頭に浮かぶ。たった一度の略奪任務でしか行動していないが、彼の怪人基準での優しさにタコ怪人は嬉しかったのを思い出していた。

 

 今は敵になったかも知れないが、ヘヴンホワイティネスさえ倒せば、きっとギンジはこちらに戻って来てくれる。

 

 自分の感情や言葉はいらない。ドクターミヤコの為に、全てを捧げればそれでいい。

 

 「あ、あれギンジじゃないですか?」

 「・・・!」

 

 真っ先に眼を海面から出す。

 

 海を眺めに来ている集団から半歩離れて、ギンジは歩いてる。

 

 「あっしのレーダーすごいでしょ?これがあれば眼の代わりを果たしてくれるすぐれものでして」

 「・・・(ありがとうのサイン)」

 「これぐらいなんでもござーせんよ」

 

 触手話で、お礼を告げると、タコ怪人は急いで砂浜まで泳ぎだす。

 

 同じ触手を持つモノ同士、怪人言語みたいな特殊な会話が可能としている。

 

 同じ事ができるのは、同じ四足歩行の動物が素となった、オーク怪人と犬の怪人。

 

 ドクターミヤコにも、部下の戦闘員にも通じるあたり、タコ怪人のその技術は喋れない者にとっての、革新的な技だろう。

 

 ひょっとしたら、これがミヤコの言うフェーズ2なのかもしれないが。

 

 「・・・!!!」

 

 思いっきり高速で全身の筋肉を動かし、浅瀬に到着する。

 

 「あ・・・タコ怪人」

 

 存在に気がついたのはギンジではなく、レン。

 

 「・・・(こんにちはのサイン)」

 「こ、こんにちは」

 

 人みたいな礼儀の正しさに、思わず返事をするもタコ怪人の表情は一気に臨戦態勢に入る。

 

 「あれ、タコちゃんじゃん」

 「あんたまさか、ここにも怪人連れて来たの!?」

 「いや、俺じゃねーって」

 

 いきなり現れたタコ怪人に、カエデはギンジを疑うが、それにあわせてタコ怪人は砂浜に何か書く。

 

 砂浜を見るカエデ、レン、ケイタ、ミドリコ、ギンジの五人。

 

 “くたばれヘヴンホワイティネス”

 

 「よーし決戦ね」

 「手加減、しない」

 「今日も茹でてやろう」

 「・・・(かかってこいのサイン)」

 

 一気に空気の悪くなる海岸。

 

 「え、ここで戦うの・・・?」

 

 ケイタの困惑もさることながら、美少女二人は正義のヒーローヘヴンホワイティネスへ変身する。

 

 海岸はまだ寒いから人は居ない。わざわざ隠れなくていいならこっちの方が好都合だ。

  

 「きゃぁッ!」

 

 声の方に振り向けば、ミドリコが触手に絡め取られている。

 

 伏兵とも言うべき立場で、触手の怪人が砂浜を突き破りながら現れる。

 

 「ヒョヒョヒョ。あっし達テンタクルブラザーズコンビにかかれば、こんな人質とるぐらい訳ないんすわ」

 「卑怯よ!ミドリコを離しなさい!」

 「そりはできませんねぇ〜」

 (コンビなのかブラザーズなのかはっきりしねぇなぁ、お前)

 

 言わないでおくがギンジはそう心の中で呟く。

 

 人質取って余裕そうな表情が気に入らない。

 

 本来ならここでカエデもレンもミドリコの命の為に、武装を解除するだろう。

 

 だけど今は、ギンジがいる。

 

 「悪いな、触手!」

 「ギンジさん?まさかあっしの事殴らないよね?」

 「だから、【悪いな】、触手」

 

 ニヤリと顔を変えると、思い切り触手怪人の頭を殴り飛ばす。砂浜に叩きつけられ、放りあげられたミドリコをお姫様抱っこの要領でキャッチするギンジ。

 

 「あんた意外と軽いな」

 「ほわぁ・・・あ、意外とは余計だ!」

 「はいはい」

 

 初めての男性からのお姫様抱っこに、恋するお姫様の心情になるが、一瞬で冷静になる。

 

 「・・・(かかってこいのサイン)」

 「あたし達もやろう、レン!ケイタは離れてて」

 「今度も、勝つ。ケイタ君がいたら、戦えない」

 

 レンの言うとおり、カエデの言うとおり、ケイタは正直足手まといだ。だから砂浜を走って逃げる。こうするしかないのだが、また男として悔しい気持ちになる。

 

 チラりと後ろに視線をやれば、あの佐久間ギンジは生身で非常識的な存在と戦っているのに、どうして僕には力が無いのだろう。それを考え、悔やむばかりだ。

 

 (でも、今の僕じゃたしかに戦えない。ごめんよ、カエデ、レンちゃん、ミドリコさん!)

 

 少年の悔しさは砂浜を蹴る力を強くした。

 

 「敵になったってのは本当なんだな・・・あっしは、ギンジの事尊敬してたのに!」

 

 触手の先端から神経毒を撒き散らす。女性なら必ず効く毒だが、ギンジも何故か避ける。

 

 「ミドリコ、当たるなよ」

 「問題ない、霧状の攻撃は避け方を心得ている」

 

 少し離れた所からサイレンサーをつけた拳銃を構えて、いつでも撃てる姿勢を整えている。

 

 しかし。

 

 「むぐっ」

 

 ギンジの顔に吸盤のついた触手が死角から飛んで来る。

 

 「しまった、ギンジ!」

 「余所見してたら、あっしが食べちゃうぞ〜ヒョヒョヒョ」

 「くっ」

 

 見れば、カエデもレンもタコ怪人の吸盤に吸い付かれて、まともに動けていない。

 

 「くうう・・・触るなァ・・・!」

 

 左手が拘束されていない以上、レンにはビーム剣がある。

 

 それを綺麗に操り、的確に吸盤とタコの腕を切り落とす。

 

 「・・・!?」

 

 痛い。マジで痛い。そういった顔つきになるタコ怪人は、ギンジとカエデをレンの前に差し出し、一瞬、レンの追撃を止める。

 

 「ッ?」

 

 一瞬、カエデを斬りそうになった。手が止まるのを確認したら、タコ怪人が触手を広げて、口のある部分をグパァ、と開く。

 

 その穴は黒く、何か液体めいたものが浮かんでいることが確認できた。

 

 レンが警戒しているのを確認すると・・・。

 

 ブシュ。

 

 何か水気の音が混じった弾ける音。

 

 墨を吹き出す。

 

 「ぐうう・・・」

 

 墨をモロに食らうレン。その正面半分は真っ黒になってしまう。

 

 墨を拭おうと顔に手を当てるが、それと同時に背中に掴まれるような感覚。

 

 タコ怪人が背後に周り、レンを捕まえて居た。

 

 「こらぁー!このバカタコ!レンを離しなさい!」

 「むぐぐぐーむーぐぐーむぐむぐむっぐ!」

 

 顔面を吸い付かれて居るため、何を喋っているのかわからないが、おそらくタコへの罵詈雑言だろうか。

 

 「なっ・・・何を」

 

 背中を引っ張られる様な変な感触がレンに不快感を抱かせる。

 

 まるで片手で小さな少女を持ち上げる様なポージングで、触手の怪人の方角を向く。

 

 ミドリコが距離感を保ちながら、触手の怪人と戦っている。

 

 完治していない為か、ときおり腹部を抑えながら、触手の攻撃を避けている。

 

 

 それを確認したのか、タコ怪人はレンを持ち上げる腕を、思い切り振り下ろす。

 

 レンをそのまんま投げ飛ばした。

 

 「うわああーーー」

 

 明らかに人には出せない力での豪速球・・・いや豪速レンだが、触手の怪人の触手に絡め取られ、見事なキャッチにレンは事なきを得る。

 

 「レン!?大丈夫か」

 「あっしの触手キャッチ・インザヘヴンホワイティネスを見ましたか!これもあっしの」

 「お前は、話が長い・・・!」

 

 普通なら傷ひとつつかない触手の怪人の腕を、何本か纏めてビーム剣で斬り払う。

 

 「痛ってーーー!何すんだ!」

 「ミドリコ、ごめん。私が、こいつと戦う」

 「了解した。サポートは任せろ」

 

 タコ怪人はと言うと、吸盤の中身を予想していない高熱、炎によってギンジを離してしまい、それにより拘束の緩んだカエデが踏みつけにも等しい蹴り技で、タコの胴体を海へ吹き飛ばした。

 

 「炎使うと体が焼けるンだな・・・」

 

 腕を払うと炎が消える。

 

 バーナーの怪人の力を得たギンジの新たな能力だが、あまりの諸刃の剣っぷりに、ピンチになったら使おうと考える。

 

 再び海面から墨を吐き出しながら空中を舞う。空を飛ぶ様に、ギンジとカエデの上空へ浮遊し、ユラユラと二人の正面に降り立つ。

 

 「神宮、手を貸すぜ」

 「いらないわよ!こいつはあたしがやっつけるんだから」

 「・・・(両方かかってこいのサイン)」

 

 砂浜のあまりの騒ぎに野次馬が現れ、怪人を見て撮影するもの達が現れる。

 

 「・・・」

 

 タコ怪人の目線がそちらの野次馬達に向けられる。

 

 「あれの中に、いい人質になるのはいるかな〜」

 

 触手怪人も同じく野次馬に狙いを定める。

 

 「余所見、してたら、また捻じ切る」

 「これは失敬・・・」

 

 タコ怪人も野次馬に向けて、墨を吐こうと構えるが・・・。

 

 「タコちゃん、お前にも悪いが・・・」

 

 跳躍してからタコ怪人の目線が合うように、ギンジが太陽を背にする。

 

 「今日は俺達の相手をしてもらうぜ」

 

 落下に合わせて踵落とし。その威力と動きは人間の出せる限界を超えたモノ。圧倒的な破壊力は墨を凝縮した塊により、相殺される。

 

 「早く逃げて!ここは怪人達が暴れてるから!」

 

 カエデの叫びによって現実に引き戻された野次馬たちは、この前のアモーレの一件を思い出し、直ぐにその場を離れていく。

 

 「これで集中できるなァ」

 「うるさい!」

 

 カエデに横並びになるようにギンジが冗談めかした様に笑う。

 

 ギンジ、カエデvsタコ怪人。

 

 レン、ミドリコvs触手の怪人。  

 

 かくして砂浜の交戦が始まった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 触手の怪人には目標と言うべき人物がいた。

 

 造られたその日からドクターミヤコに愛を向けられ、オーク怪人に目をかけてもらい、下等と侮る戦闘員達から慕われる男、佐久間ギンジ。

 

 自分と同じ時間帯に造られたにも関わらず、組織のトップである総統にも期待を寄せられた男。

 

 居るだけでその存在が周りから認められる男。

 

 己の正義と志を持っていた佐久間ギンジは、任務においても己の美学、徹底力を維持し続ける。おまけに怪人同士の戦闘においてもほぼ負けなしの強さ。

 

 そんなギンジの凄さを、同じ怪人として尊敬していた。

 

 怪人の視点で言うのもおかしな話だが、本心から尊敬していた。

 

 なのに、あの尊敬の対象は、あまりにも簡単にドクターミヤコという大いなる存在を裏切ったのだ。

 

 不可解でしかない。組織に就いていれば、女にも、暴力にも困らないのに。

 

 おまけにギンジには将来を約束された様な物なのに。

 

 もしかしたらヘヴンホワイティネスという女が欲しいのか?

 

 だったら両方とも捕獲してやらねばなるまい。それが、ギンジの為にもなるし、ドクターミヤコの為にもなる。

 

 (あっしの目的は佐久間ギンジを取り戻し、ドクターミヤコに本当の意味で仕える事。その為なら、目的は問わない。美味そうな女も、貧弱な吠えるだけの人間も、必要になったら自分勝手に取りに行けばいいだけ)

 

 言われるがままでしかないが、それが怪人の役目。そう、それだけでいい。

 

 今回の任務も、ギンジを見つければ、捕まえる。簡単な任務だ。

 

 その際邪魔が入るなら、適当にあしらう。

 

 (でもな〜ヘヴンホワイティネスが目の前にいるしな〜。ついでに倒せば、良い女がもらえたりするかね)

 

 ほんの少しの欲望が、触手の怪人のやる気を大きくさせる。

 

 それが今回の任務の動機。ギンジが見つからない日も続いたが、今日はなんという僥倖か。

 

 「あっしの邪魔をしないでもらおう!」

 「お前が邪魔だ!」

 

 ミドリコのニードルガンが硬い触手を貫く。対怪人用の専用弾丸の入った特別性だ。

 

 「お前は、ここで倒す、抵抗するな」

 

 レンの冷酷な言葉と共に振るわれるビーム剣が、無慈悲とも言えるだろうか、触手の怪人にどんどん大きなダメージを与えて行く。

 

 「このっ・・・!」

 

 隠していた触手をバラっと広げると、扇状に神経毒を撒き散らす。

 

 この神経毒は女性の神経にのみその効力を発揮する、特殊な毒。

 

 特別死に至る様なモノではないが、長時間吸い続ければ廃人になれる。

 

 そんな毒を簡単に出し、この怪人は一体何を考えているのだろうか。

 

 もしこれで大量の被害者が出ることだけは阻止しないとならない。

 

 「お前達ヘヴンホワイティネスが、あっし達の仲間を、ギンジをたぶらかしたんだ」

 「違う、彼は自分の意思で私達の味方になると言ったんだ!」

 「それこそありえない話だ。奴には己の正義も、志もあったんだ。我々の正義の為に働くと・・・」

 

 かつてギンジは正義の為に戦いたいと、本気で言っていたことを思い出す。

 

 自由が約束されるこの組織で、なんでわざわざ裏切る必要性があるのか。

 

 「納得がいかなくても、関係ない。彼は、ヘヴンホワイティネスへ、味方になると言った。まだ、信用は、できないけど」

 

 レンを捉えようとする触手の波を斬りつけながら、怪人に接近する。

 

 「あっし達はギンジにしか用事がないのでな、邪魔をしないでもらおうか!」

 

 接近する少女の背後に、ドリル状の触手を何本か纏めて突きつけようと、貫こうとする。どうせ特殊なスーツで守られているのだ、簡単には本体にダメージはそこまで通るまい。

 

 「させるものか」

 

 ニードルガンを構えたミドリコから低く、落ち着いた声の後、針が発射される。その銃の先にはレンの背中ごと射抜く様な姿勢に見えていた。

 

 「もうその銃は止めてもらおう」

 

 手の形をした触手が針をキャッチする。それと同時に、レンの背中に迫っていたドリル触手が動きがとまる。

 

 「やはりな。お前は、目線の先に集中すると、他の触手の動きが止まる。いいのか、私を見ていて?」

 

 ミドリコに注視した結果、触手の根本・・・つまり触手の怪人の弱点であり、胴体の手前まで到達するレンがビーム剣を構えて、斬ろうとした瞬間にまで迫っていた。

 

 「取り返したいなら、今度はもっと本気で来ること。そうじゃなければ、あなたじゃ、私達は、倒せない」

 「うぐ・・・た、タコさん!助けてくれ!」

 

 もはや打つ手なし。今の任務の相棒に助けを求めるも、タコ怪人の方も戦闘は大詰めの様だ。もちろんギンジとカエデが勝利をおさめようとしている。

 

 「さよなら、触手さん」

 

 ビーム剣を最大出力にして、無数の触手をばっさり斬り落とす。

 

 そのまま大回転斬りによる小規模な竜巻が、触手の怪人の胴体を上空へ巻き上げる。

 

 「終わりだ!」

 

 上空の触手怪人へ、構えるはロケットランチャー。

 

 撃つのは甘白ミドリコ。容赦なく爆発する大火力の兵器をキレイなフォームで撃つと、触手の怪人は竜巻共に大爆発に巻き込まれた。

 

 「私達の勝利だ・・・流石に傷が痛むがな」

 「ありがとう、ミドリコ。ナイスサポート」

 「任せ給え」

 

 二人の戦士はハイタッチを終えると、ギンジとカエデの方に振り向く。

 

 二人は言い合いをしながらもうまくタコ怪人を追い込んでいた様だ。

 

 もうひとつの戦いも決着が近い。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 タコ。文字通り海で泳ぐ、よくみるアレだ。

 

 軟体動物などと呼ばれ、墨を吐き、その吸盤で獲物を捉え、まる齧りする、実は凶暴な生物。

 

 海に引込めば、人間だって喰らう恐ろしい生物。

 

 まさか自分が人に食べられるとは思わなかった。

 

 イケヅクリと言う、人間の料理の一種。生きたまま食べられるなんて、屈辱だ。

 

 『あー!!』

 

 まだ子供だろうか。思い出の中のその人物は、嬉しそうに、はたまた何か思い付きがあったのか、タコを見るや、ピョンピョン撥ねている。

 

 『どうしたんですか』

 『いい事思いついたのさ』

 

 人の言ういい事、なんてどうでもいい。殺すなら殺せ。

 

 もう神経も針の様な物で刺されて体が動かない。

 

 『いい事?それは一体・・・?』

 

 目の前の人間はタコの頭を持ち上げると、恐ろしい、深海よりも深い瞳で変な事を口走る。

 

 『コレを怪人にするんだよ。くふふふ』

 

 食卓に並べられたタコと、ドクターミヤコの出会いだった。

 

 ある意味では命を救われた。ただそれだけの理由で、タコはタコの怪人へと進化し、絶対的な忠誠を彼女に誓う。

 

 かつてブルーフィッシュが言っていた、人を相手に愛着が湧く時があると。

 

 これがそうなのかも知れない。

 

 ドクターミヤコへの恩義に報いる。それだけでいい。

 

 それが自分の存在意義でしかない。

 

 ドクターミヤコが悲しんで、苦しんでいるなら、その原因を排さないといけない。

 

 その原因であるヘヴンホワイティネスが今目の前にいる。

 

 なのに、あの佐久間ギンジは、そのヘヴンホワイティネスと共にタコ怪人に襲いかかってきている。

 

 これが人間という生き物。己の理のためにしか動かない生き物。

 

 ならば佐久間ギンジは人間であるという事を忘れさせてやらないと行けない。

 

 怪人である事を思い出させてやり、ドクターミヤコとの将来を誓わせないといけない。

 

 でも。

 

 かつての仲間に、この触手を、武器をちゃんと振るえるのか。それをいつも考えていた。

 

 戦うイメージはできていても、戦う覚悟はタコ怪人には出来ていなかった。

 

 「考えこんでていいのかー!」

 

 吸盤の吸い付きにも慣れたのか、絡め取られながらもギンジはくつろぐ様にタコ怪人へ激を飛ばす。

 

 「動かないなら好都合よ!余計な事させないで!」

 「いやまぁ、そうなんだけど、こいつ考え始めるとあんまり動かないからなぁ・・・」

 「あんたなんなのよ!」

 

 カエデの怒りも最もだが、ギンジからしても無抵抗になりつつあるタコ怪人を、殴る蹴る燃やす等攻撃するのは気が引ける。

 

 「なんなのかって言われたら、そりゃー正義の味方の味方よ」

 「そうじゃないわ!このバカ!」

 

 タコ怪人の動きが再度始まる。標的はカエデに決まったようだ。

 

 無数の触手がカエデを目掛けた攻撃だが、その殆どは避けられ砂浜に叩きつけられる。

 

 当たったかと思えば、衝撃波による拳や脚の強化で弾く。

 

 もう吸盤に悩まされることはない。

 

 「ほら、動きなさいよあんたも!」

 「お、悪いね」

 

 太いタコの触手ごとギンジを殴ったつもりが、ギンジにさしてダメージはない。

 

 「やっぱ、噂のご令嬢はお優しいね」

 「はぁ!?何言ってんのよあんた!」

 「いやだから、優しいねって。だらけて捕まってたのに、助けてくれるなんて。ありがとうよ」

 

 その気になればいつでも脱出できると考えていたが、カエデのフォローが嬉しかったから、皮肉は交えたがお礼を述べただけだ。

 

 何か嬉しそうな顔をしているが、余計にやる気を出したのか、衝撃波が強くなっている。

 

 (あ、そういえば、神宮カエデは正義のヒーローになってから、お礼を言われるのが嬉しいみたいな設定があったな)

 

 平和の為のお礼の言葉は、神宮カエデには言われない。神宮カエデ扮するヘヴン1にお手紙やら感謝の言葉が来るのがたまにもどかしい気持ちになる。

 

 (そんな設定もあったなー)

 

 タコ怪人の連続攻撃は、カエデだけじゃなく、ギンジにも向けられる。

 

 戦う相手と定めたのだ。

 

 「タコちゃんも、覚悟決めな。俺はとっくに決めたぜ。俺は俺の正義の為に戦う」

 

 ギンジの言葉を聴くとタコがうなずく。

 

 怪人としての覚悟を持ちながら、お互い相容れない立場になってしまったのだ。もう引けないところまで来てしまった。

 

 「行くぜ!」

 

 攻撃を避け、カエデと即興のコンビネーションを上手く決めながら、攻撃が命中していく。

 

 想像通りに動ける戦闘思考が、どんどん進化していっている。

 

 カエデの動きが予測できれば、それに合わせた動き。

 

 タコ怪人の動きが予測できれば、あとはどうやって接近するか、映像の様なイメージとして頭に想像できれば、その行動が思い通りに行く。

 

 身体能力はもう人間ではないし、怪人としての能力をフル活用しながら、拳はタコに命中していく。

 

 合わせて、カエデの追い打ち。さらにギンジの飛び蹴り。

 

 必殺技も打ち込み、いよいよカエデの攻撃に耐えられなくなってきたタコ怪人は、墨を吐き出し、目くらましを行う。

 

 「うわ、また墨!もう、煩わしい!」

 

 その墨の向こう側から、吸盤をむき出しにした触手が、カエデを捉えようと伸ばしてくる。

 

 「今、油断、したろ」

 「うるっさい!」

 

 掴まれる瞬間、ギンジがカエデの横から、抱きかかえ、距離を離す。

 

 しかし、触手に捕まっていれば、逆にピンチだったかも知れない。

 

 「・・・ありがと」

 「何?」

 「ありがとって言ったのよ!このバカ」

 

 気恥ずかしさもあり、ギンジの頭を叩く。

 

 「お礼言いながら、殴るなんてどーゆー神経なんだ」

 「うるさいわね!さっさと離れてよ!」

 

 まだ抱きかかえたまま、タコの猛攻を避けていた。

 

 「いいか、離したら、右に行けよ。俺は左に行く」

 「・・・私が左よ」

 「わかった、なんでもいいから、挟み撃ちにすんぞ」

 

 上段に振り下ろされた吸盤に対して左右に分かれるように離脱する。

 

 「決めるわよ!」

 「おう!初手は任せろ」

 

 思わずレンと戦っているときみたいな、いつもの口調が出てきてしまった。

 

 レンと言葉を通わせながら戦う事はできても、完璧ではない。

 

 でも、この男は、佐久間ギンジはまるで意思を通わせながら共に戦っているような、シンクロしているような感覚で動けた。

 

 本来ならダメージになるような攻撃を、ギンジは事前に抑える。

 

 そして、攻撃の為の有効打になりえる展開、状況作りを行ってくれる。

 

 カエデにとって非常にタイミングを合わせやすい。

 

 もし・・・。

 

 もし本当にこの佐久間ギンジの言う協力が、今後の戦いにおいて役立つなら、少しは、本当に少しは信用してもいいかもしれない。

 

 「オラ!」

 

 ギンジのタックルがタコ怪人のバランスを崩す。

 

 「任せたぜ、カエデ!」

 「任されたわ!」

 

 せっかく任せてくれたのだ。盛大に決めたい。だから、任せてくれた彼の名前を呼ぶ。

 

 「ギンジ!」

 

 ナックルのギアをフル回転させる。スチームを放出し、両手が熱くなる。

 

 カエデの必殺技が、タコ怪人に命中する。

 

 「必殺!メガトン・インパクト!!」

 

 奥義とも呼ぶべきか。溜めた衝撃波は小規模な爆発を起こす。腕が爆発するそのジェット噴射とも言うべきスチームの勢いを利用して、両手の掌底を突きこむ。

 

 「・・・!!?」

 

 タコ怪人が海の向こう側まで吹き飛び、ボシャーンと大きな飛沫を上げて、沈んでいく。

 

 「やったな、カエデ」

 「・・・」

 

 名前呼びは不味かったか、彼女は睨みが強い。

 

 「ギンジ」

 

 小さく、弱気な声。

 

 ヘヴンホワイティネスとは言え、その正体はただの女子高生。

 

 カエデはギンジを見つめる。

 

 「あんたを・・・信じていいのね?あ、まだ少しよ!少し!ほ〜んの少し!」

 

 少し。それでも信用。大きく信用してもらえるなら、今後も彼女達の為に尽力しなければいけない。

 

 「おう!佐久間ギンジの今後に乞うご期待・・・ってな」

 「なによソレ」

 

 安心から来る笑み。

 

 そうだ、神宮カエデだってただの女の子。本当は戦いだって怖いはず。

 

 それを決して表に出さないのは、ひとえにカエデの精神力の強さだろう。

 

 「向こうも勝ったな」

 

 ギンジの視線の先には、レンとミドリコが手を降っている。気がつけば、ケイタもレン達に合流したようだ。

 

 「ほんっっっとうに、少しだけど・・・」

 

 溜めた言葉を、ギンジに伝えようとするが、その言葉は出ない。

 

 「なんでもない。これからもガンバ」

 「なんだよ、ソレ」

 

 同じ様なやり取りの繰り返しに、二人は笑顔になる。

 

 さっきまでの嫌味な視線、口調は収まった様に見える。

 

 (まだ、仲間にはなれないか)

 

 溝は少しだけだが、底が見えてきた。

 

 距離は少しだけ縮まった。

 

 (一瞬・・・こいつが、ギンジが仲間になってくれたらな・・・なんて考えちゃった)

 

 この瞬間まで、嫌味な態度を取り続けた事を申し訳なくなりつつも、カエデはその感情を押し殺す。

 

 今は、まだ。

 

 でもいつかきっと。自分の気持ちが、レンとミドリコも認めたら、その時は。

 

 (その時は、仲間ってちゃんと言ってあげようかな・・・)

 「おいおいカエデ聞いたか」

 

 一人で考え込むカエデを尻目に、ギンジはなにやらケイタと面白そうな談笑をはじめていた。

 

 「ケイタがうまそうな出店みつけたんだとよ。行こうぜ!戦ったら腹減ったよ」

 「同意。これはギンジの言うとおり」

 

 いつの間にかレンもギンジ呼び。

 

 「あ、もしかしてダイエット中?」

 

 ケイタのデリカシーの無い発言が、カエデの血管をピクピクと動く。

 

 「おいおい、ケイタ、そんな事言ったら駄目だぜ。きっと、お腹空いたーって、言うのが恥ずかしい年代なんだよ。それか便秘だな」

 「あーなるほど。さすが佐久間さん」

 「ギンジでいいぜ」

 「ギンジ、君も大概だな・・・」

 「ミドリコ、ベンピとは、何か知りたい」

 「あ、えーと・・・レンちゃんは知らないほうがいいよ」

 

 ギンジのありもしない冗談か、はたまた大真面目か、その言葉が面々を盛り上げる。

 

 乙女のプライドに怒りの剣を振りかざす。

 

 「やっぱり認めるかーーー!!!」

 

 有姪海岸にヘヴンホワイティネスの悲鳴アリ。3月中はその噂が、街で広まるのであった。

 

続く

  

 




お疲れ様です。戦闘の描写って難しい。むりくり感あるかもしれませんが、それでも楽しんでいただければ幸いです。

キャラネタ書きます

佐久間ギンジ
必殺技はまだない

神宮カエデ
必殺技は何個かある。触手の怪人みたいに長い必殺技は無い。
たまにネーミングを触手の怪人から拝借したいらしい

宮寺レン
必殺技は、大回転斬り、ビーム剣超乱舞。いずれもカエデが命名

甘白ミドリコ
必殺技を持っている様な人ではない。が、何故か色々な重火器を持っている。生活はズボラ。

角倉ケイタ
必殺技は天然デリカシー皆無爆弾。
戦う力が欲しい

今後もがんばってかくぞおおおおお
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