正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちは、アトラクションです!
相変わらず遅筆ですが、なんとか仕事の方は片付けてきた!

これからも頑張りますわですわ!

それではどうぞ!


74・キラーエリート・7

 8月27日の朝。

 

 人の声とは思えない・・・例えるならば獣の声。

 

 獰猛で恐ろしいと聴こえる、牙を擦りながら唸る声。

 

 そんな音に囲まれながらオーク怪人は眼を覚ました。ゆっくりと瞳を開き、電球の明かるさに瞳を何度も閉じては開きを繰り返す。

 

 身体を動かそうとするが、軍服を脱がされた上に包帯を巻かれて、ベッドに鎖で拘束されている事に気がつく。

 

 こんな状況ではほっぺを掻く事さえ出来やしない。

 

 簡素で小さな部屋、汚らしくやや埃臭い畳の香り。

 

 「・・・ここは、どこだ」

 

 夏の暑さにやられて、自分の身体に水分が無くなっているのが、今のこの発言で理解出来た。暑いとは言うモノの、この部屋自体はどことなくひんやりしている。

 

 ただそれでも暑い事に変わりは無いのだが。

 

 「──ッ!そうだ、あの怪人!」

 

 ここでオーク怪人は思い出す。ギンジに似た顔であり、ミヤコにも似た顔のあの怪人の事を。

 

 この世界をあるべき方向へと導くと謳っていた、あの怪人。

 

 ミヤコの子息だと勝手に思い込んでいたが、そんな訳ない。あれは・・・あの怪人はただのまがい物に過ぎない。

 

 油断していたとは言え、オーク怪人は初めて外で敗けた。その事に憤りを覚える。自分はあのギンジ程では無いにしろ、ドクターミヤコに最高傑作の一人と言われた程の怪人なのだ。

 

 そんな自信と、自分が強者であると言う自負、安っぽいプライド。

 

 これらがあの紫の造った怪人によって折られてしまう等、オーク怪人からすればありえない事だった。

 

 今すぐあの怪人を撃破せねば・・・そう思って身体を動かすも、身体を封じ込める鎖は一切動かない。たまに重苦しい金属の音が、ガシャン、ガシャン、ガシャンと揺れるだけ。

 

 「起きたか・・・」

 

 獰猛な声が一つ耳元で聴こえる。

 

 「ぬぅ・・・なんだ貴様は」

  

 首すら動かせないオーク怪人は、耳元の声に対して威圧的な声音で返答する。

 

 「なんだ貴様、か。これでも命の恩人なのだがね」

 

 仰向けに拘束されたオーク怪人へ、耳元の声の主が、その視界に姿を表す。

 

 灰色の毛並みが全身を覆い、ふさふさの身体はとても大きい。ともすれば自分よりも大きく見えてしまう。

 

 電球を背に隠すようにした灰色の何かが、オーク怪人の顔の眼の前で自己紹介を行う。

 

 「申し遅れたな。俺ァ、グリズリーの魔人。お前、知ってるぜ、オークの怪人だろう」

 

 魔人・・・そう名乗る彼はおそらくは、かの組織ゲヘナミレニアムの怪人と同等の存在。

 

 ヘルブラッククロスもその存在を無視は出来ない存在であり、過去には残党の魔人がヘルブラッククロスに加入を申し出た事もあった。

 

 「オーク“の”はいらん。私はオーク怪人だ」

 「これァ失礼。オーク怪人。眼を覚ましてくれて良かった。歓迎するぜ」

 

 渋い声音のグリズリーの魔人は、オーク怪人の鎖を外し始める。

 

 「ブヒ。ここはどこなのだ」

 

 素朴な疑問だが、オーク怪人は体感数時間前は、中央度固化市の繁華街エリアにて、あの憎きまがい物に敗北した事は覚えているのだが・・・。

 

 グリズリーの魔人が鎖をすべて外すと、オーク怪人の肩を担ぐ様にして身体を起こしてあげる。そのまま座る姿勢になったオーク怪人へ、手頃なコップにお茶を注ぐと、それを飲ませてもらう。

 

 お世辞にも美味しいとは言えないぬるいお茶だが、今はこんなお茶でも身体が喜んで居る。

 

 「あんたァ、その様子じゃァ・・・」

 

 顔色の悪いオーク怪人の表情を見て、グリズリーの怪人が口元を曲げる。その表情はどこかオーク怪人を滑稽に見ているのか、それとも単純に面白がっているのかは不明だが、とにかく不愉快に思える顔をしていた。

 

 「毒に、やられたようだなァ」

 

 毒。その単語を聴いてから、身体の中にある何かがゾワリと動き出した様な感覚がオーク怪人を襲い、くらりと硬いベッドに倒れる。

 

 「事の経緯を全部話してやる」

 

 グリズリーの魔人がオーク怪人の眼の前でタバコを吸い始める。ゆらゆらと動く煙を眼で追いながら、オーク怪人は再び天井の電球へと視線を動かした。

 

 「いいか、先ずはァ──」

 「ブヒ。その前に、ここがどこなのかを教えろ」

 

 そもそも何故こんな所に居るのか。その質問には何もアンサーが無い事に、苛立ちも覚える。

 

 「あァ、そうだったな。ここは東度固化市・・・」

 

 グリズリーの魔人がタバコの灰を落とすと、オーク怪人へ熱く燃えるタバコの先端を向けてこう告げた。

 

 「怪人、魔人、闇人、そして人間が集う町。異人町──」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 時刻は少し遡る。

 

 26日、午前0時。

 

 オフィスビルエリアの公安局の襲撃、そして女王ナメクジの怪人を撃破した雪の怪人と暴力の怪人は、再び繁華街エリア・クアッドタワー前まで戻って来ていた。

 

 「なんでこんな所で寝てるのかしらね」

 

 ミヤコのピンチだと騒ぐオーク怪人からの救援要請。それを聞き入れてここまで来て、望まぬ戦いまで行って来たというのに、戻る途中のごみ捨て場で、オーク怪人はボロボロの姿になりながらも気絶しているのだ。

 

 「豚顔・・・なんでこんな事に」

 

 そんなオーク怪人の異常な見た目に反応した暴力の怪人が、彼を起こそうと身体を持ち上げようとする。

 

 この怪人はかなり強く、ヘルブラッククロスにおいても初の怪人大幹部にまで上り詰めた男。そんな男をヘヴンホワイティネス以外でここまで追い詰める存在が居ると言うのだろうか。

 

 その不安を隠すようにして、暴力の怪人はゴミを蹴りながらオーク怪人の身体に触れて見る。

 

 「放おっておきなさいな。そんな生臭怪人」

 

 どんな事を言っても雪の怪人の言葉は本心には思えなかった。

 

 扇子で顔を隠しているのは、ごみ捨て場の強烈な匂いを遮る様にしている姿に見えるのだが・・・。

 

 「早くそんな臭い豚肉、捨ておきなさい。私達だけでミヤコ様を見つければ・・・」

 「そんな憎まれ口ばかり言ってていいのか?」

 

 暴力の怪人からはこんな事を本心で言っている様には思えず、雪の怪人へせせら笑う。その仕草がどことなく人間じゃないクセに、人間臭さを出している様に見えて、雪の怪人も暴力の怪人も顔を見せあって微笑む。

 

 「・・・そうね、ごめんなさい」

 「いや、でもま、臭いのは同感するぜ。それにしたって、なんでこいつここで寝てるんだろうな。しかもこの怪我・・・」

 

 オーク怪人は壁にもたれる形で、ごみ捨て場にて気絶している。ありえない程の大怪我をして。

 

 一体どれほどの強敵なのだろうか。このオーク怪人をここまで追い詰めるのは。

 

 「とりあえず・・・異人町につれて帰るか」

 「・・・そうね。でもどうやって持ち上げ・・・」

 

 雪の怪人の眼の前では、もうすでにオーク怪人の血の滴る身体を持ち上げる暴力の怪人の姿。軽々しく持ち上げるその姿には、最早ゴミとかを気にしていない様に見える。

 

 「汚らしいわ・・・」

 

 これは流石に本心だ。

 

 だがそれでも気にせずに暴力の怪人は異人町へと歩き出す。オーク怪人を担ぎ上げながら。

 

 「・・・ま、いいわ。そいつが起きたら、ミヤコ様について詳しく教えてもらおうかしら」

 「お前ってあのドクターミヤコの事になると、色々変わるんだな。なんか、その方が感情豊かで可愛らしいと思うぜ」

 「ん、そう言われると悪い気はしないわ」

 

 着物の袖で口元を隠しながら笑うと、少し強気になる雪の怪人へ、暴力の怪人が少しイラッとした表情を見せる。 

 

 「うっせー、そういう所は可愛げがないんだよ!」

 「んぎえぇえええ!暴力の怪人がぶったーうえーん」

 

 そして少しでも強く言返せば、こうやって泣きわめく。レジスタンスに加入して来た時を思い出し、暴力の怪人は血なまぐさいオーク怪人を担ぎ上げたまま、異人町へと帰るのであった。

 

 (しかしまぁ、本当に何者なんだろうな。オーク怪人をここまでやるやつ)

 

 本当はこのオーク怪人を餌として、自分達を影で狙っているのかも知れない。そう警戒しながらも暴力の怪人と雪の怪人は真夜中に騒がしくしつつも、オーク怪人を異人町へと連れて帰るのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「それがァ、お前がここに連れて来られた経緯よ」

 「ブヒ。まったく解らんが、とにかく命を拾われたとい言う事か」

 「まァそういう事だ」

 

 グリズリーの魔人が細かく話したてくれたが、あまり意味はよく分からなかった。

 

 「・・・この治療はお前が?」

 「ああ。俺と、小栗鼠山(こりすやま)だな。そいつはリスの魔人だぜ」

 「ふん、お礼は言わんぞ」

 

 そもそも敵組織に所属する者同士なのだ。いちいちお礼なんて言っていられない。

 

 「構やしねェさ。ここじゃそういう事も良くあるからな」

 

 タバコを灰皿に擦りつけて鎮火させると、グリズリーの魔人がオーク怪人を見つめる。

 

 「ま、ここではやり合わないのがルールだからな。無闇に女を襲うなよ」

 「怪人だからと言って誰彼構わずそんな事はせん」

 「そうかァ。ああ、そうだ。お前が起きたって連絡したら、ここに来てくれるってよ」

 

 グリズリーの魔人がもう一本新しいタバコに火をつける。その煙と苦い空気がこの部屋に充満すると、また一つ嫌な空気感になる。

 

 「起きたのね。相変わらず愚鈍な顔」

 

 オーク怪人の背後で、凛として冷たい女性の声がした。やや甲高く上ずった声音は、透き通る様に耳に入る。

 

 そして高圧的であり嫌な言い方をするこの声の正体は・・・。

 

 「ブヒ。雪の怪人か」

 「あら、意外と元気そうね。猛毒に侵されてる割に」

 

 雪の怪人の姿はいつもの着物姿ではなく、動きやすいキャミソールに黒いデニムのジャケットを袖まくりし、同じくデニムのパンツを履いたアクティブな印象を思わせる姿をしていた。

 

 白い肌が黒いデニム生地を相まって、余計に雪の怪人の存在感を際立たせる。

 

 「あら、そんなに見つめても抱かせてあげないわよ」

 「要らぬお世話だ。そもそも怪人はどうも身体の相性が悪い」

 「私を抱いて良いのはミヤコ様だけよ。触らないで、汚らわしい」

 

 どうしてこんな憎まれ口を叩くのか、雪の怪人本人にもまったくわかっていないが、それでもこういう嫌な事を言わないと気がすまない。

 

 そんなことより、本題を思い出していく。雪の怪人が右手の指先を張ると、そこから氷が手の形に形成され、刃の様に鋭く尖らせてオーク怪人に向ける。

 

 鼻先数センチの距離感の凶器に、オーク怪人はまったく動じていない。そのまま睨み返してもいるが、雪の怪人も負けじと氷の手刀を降ろさずに居る。

 

 「ミヤコ様を守れなかったのはどうしてなのかしら?」

 

 事と次第によっては許すつもりはない。そんな気迫すら感じさせる冷たい威圧に、オーク怪人は鼻を鳴らす。

 

 「ついこの前も話しただろう。柏木タツヤにより・・・」

 「それはもう聴いたわ」

 

 雪の怪人が聞きたいのはそこではない。

 

 「どうして・・・愚鈍であっても、ミヤコ様から絶対の信頼を置かれているあなたが、ミヤコ様をお守り出来なかったのか、それを聴いているのよ。耳だけじゃなく頭も悪いのかしら?」

 

 高圧そのモノの言葉を突きつけて、オーク怪人に氷の手刀を近づける。氷の表面はとても冷たく、わずかに濡れている。小さな水滴がオーク怪人の豚鼻につくだけでも、一気にそこから熱を奪われる様な感覚が顔中に広がっていく。

 

 クリアになる思考と確実に迫る氷の凍てつきが、雪の怪人の本気を感じ取れる力となっていた。それが顔に向かってくる異質な光景は、見る人が見れば間違いなく通報案件だろう。

 

 埃っぽい畳の部屋にひんやりした空気が流れていたが、一瞬の内に凍てつく空間となっていき、部屋そのモノがまるで氷の世界に飲み込まれたかの様に氷結が侵食していく。

 

 「雪のお嬢、あんまりやるとまた結界のおじさんがうるさいぜ。その辺でいいだろ」

 「私はこいつが許せないのよ。毒にやられてるって事も、ミヤコ様の側近を自称しておきながら、この体たらく」

 

 挙げ句の果ては、敗北までしてごみ捨て場に入れられていた。

 

 「どうして敗けたのよ!」

 

 ミヤコを想えば想う程、雪の怪人の怒りは大きくなり、その能力に見合わないヒートアップを見せる。

 

 怪我をしているオーク怪人に、普段の表情からは想像も出来ない程の雪の怪人の怒り。

 

 氷の刃が鼻先をつつき始める。

 

 「いい加減な事言ったら許さないわよ」

 「ブヒ・・・敗けた事は確かだ。それは認める・・・」

 

 オーク怪人も少しバツが悪い。そもそもあんな怪人を紫が造っていた事自体が想像の範囲外であったのだ。

 

 「・・・私が敗けた事のすべてを話そう」

 

 そう言うとオーク怪人は痛む身体を動かしながら、雪の怪人の瞳を合わせる。

 

 「よく聞け、私を打ち負かしたあの怪人は・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 暴力、雪の怪人と合流を成功させたのに、いきなり繁華街に現れたあの怪人。

 

 ドクターミヤコに似ていて、ギンジに似た声をしているあの怪人。

 

 オーク怪人は怪しく輝く月の光が、影と闇夜をどこまでも伸ばし、それと同じ形にどこまでも伸びる無数の触手。

 

 ドリルの様に鋭く尖った触手の先端には、毒。濃い紫色の猛毒が塗られた、無数の触手による攻撃が何度もオーク怪人にめがけて飛んできていた。

 

 空中で垂れた毒液が、蒸発する泡の様に溶けながら落ちていき、真夏のコンクリートに焦げる匂いが広がっていく。

 

 触れれば焼ける様な毒と、その毒を宿した触手。

 

 (なんという怪人だ・・・!)

 

 驚くべき所はそれだけじゃない。普通の怪人ならばありえない数の能力を保有しているのだ。

 

 「オラオラ!避けてばっかか!」

 

 いつの間にか怪人は目の前に立ち、右足を振り上げようとしていた。

 

 確定未来で見えているからこそ、そうさせない動きを出していたのだが、右膝を踏みつけたオーク怪人に、眼の前の怪人の左腕から砂が噴出された。

 

 それも見えていたのだが、反応が追いつかない。

 

 右腕と口の触手、猛毒と炎、そして砂による目潰し、追い打ちをかけてくるのが、雷による遠距離攻撃も完備されている所。

 

 まともな攻撃手段として繰り出せる手刀でさえ、龍の鱗により防がれる。それこそ強力な一撃がそのまま手首に跳ね返ってくる様なモノで、衝撃が裏打ちされてオーク怪人が攻撃できなくなって来ていた。

 

 砂による目潰しは軍帽で払う事で回避を成功させるが、次の死角から飛び込んでくるのが、腰から生えて来た龍の尻撃。

 

 太く大きな丸太で殴られた感覚が、身体の中でミシミシと骨をきしませる。

 

 (くうっ!なんという手数だ!)

 

 こちらの腕は届かず、しかし相手の攻撃はほぼ届く。

 

 上手く躱し続けるのも限界が来ている。

 

 「お前も怪人で、組織の外に居て、裏切ってるアホだろ!?オラ、なんとか言え・・・よ!」

 

 右腕の触手を巻きつけた束の拳が、オーク怪人の身体に深くめり込んだかと思えば、次は巨体が浮かされる。

 

 「ぐっ・・・!」

 

 それほどの腕力。ギンジに似ている顔のこの怪人の攻撃は、オーク怪人に更に連続して攻撃を続ける。

 

 口を開いて、奥から見えるのはヌラついた液体が滴る触手。

 

 浮いた状態では防御するしか無く、何をされるかをわかっていても、オーク怪人には防ぐ手段が何一つ無いのだ。

 

 「オラァ!何モンなんだぁ、お前はよぉ!」

 

 鋭く素早く伸びた舌は、先端に針を仕込んで居る様な形をしており、とても生物的に見えない見た目をしている。

 

 ヘルブラッククロスの怪人として、こんな魅力的な怪人と共に戦線に立てないのは残念だと同時に、今回ばかりは油断ならない強敵だと判断する。

 

 そんなオーク怪人の軍服を簡単に貫き、肉体を突き刺す針と猛毒。

 

 体内に侵入してきた毒は、またたく間にオーク怪人の神経を鈍らせる。

 

 「ぬぅ・・・!」

 「さっきまでのイセーはどうしたんだ、おい!」

 

 今度は爆炎を発動して、オーク怪人がわずかに浮いた空中で爆発させられる。

 

 煙と炎を纏いながらも、衝撃と爆風を利用してコンクリートを転がりながら脱出する。

 

 しかし距離を取った所で、状況は変わらない。

 

 「ドクターの子息とは言え、容赦はせんぞ!教育してやろう」

 

 最早なりふりかまっていられない。ドクターミヤコの子息なのであれば、母親である彼女に恥じない怪人として教育も必要だ。そう言い聞かせて反撃を開始する。

 

 判断が鈍りつつあるこの毒状態において、とにかく勝たねばならない。勝って危機を脱出しないと行けない。

 

 ならば・・・実力は上だと自負している今こそ、この怪人を打倒し、正体を知る良いチャンスだ。

 

 後はどれだけ早く倒せるか、だ。

 

 「力を示す者同士、どちらが上かを決めさせて貰うぞ」

 

 オーク怪人の言葉に、眼の前の怪人は難色を示している。

 

 本当に力を望んでいるのであれば、何故この豚顔の怪人は地獄を抜け出して独りで居るのだろうか。

 

 「本当にお前って力を望んでいるのか?力の世界が正しいと思っているのか?」

 

 ヘルブラッククロスが目指す暴力的な世界思想は、ドクターミヤコが居たからだと、オーク怪人はその事に気がつく。

 

 ドクターミヤコが言うから、それだけを信じて生きていたオーク怪人にとって、今の自分はその世界を本気で望んでいるのであろうか。

 

 もし・・・もしもドクターミヤコがまだヘルブラッククロスに所属していて、総統の世界思想に賛同しているのであれば、きっとオーク怪人もそのままで居たかも知れない。

 

 しかし今言われた通りに、オーク怪人の中でヘルブラッククロスに肩入れする気持ちと、ヘヴンホワイティネスに味方している自分と2つの思想が入り混じっている。

 

 「あ、当たり前だ!私はヘルブラッククロスの怪人大幹部にまでなった怪人だ!ドクターミヤコの顔をして何を言うかと思えば、貴様は・・・」

 「んー本当にそうか?くっふふふ、じゃあ聞くがお前」

 

 舌舐めずりでもするかの様に触手を動かし、オーク怪人を見つめる。敵意と嘲笑を2つ混ぜた目線は、オーク怪人に得も言われぬ恐怖感を抱かせた。

 

 まるで奈落の様な深い闇を宿したその瞳は、まさしくドクターミヤコが魅せたあの瞳なのだから。

 

 「本当はもう戻れない事を理解していながら、ヘルブラッククロスに味方するなんて変じゃないか?ドクターの事しか言うことを聴かないでいるから、そんな中途半端になるのではないか?」

 「・・・ッ!?そんな事・・・」

 

 今のオーク怪人はまさしく中途半端。怪人としても、心をもった存在としても。

 

 現に人を襲わず、力に固執せず、そしてまともな戦いも出来ていない。

 

 それではまるでヘヴンホワイティネスと同じなのではないだろうか。

 

 「ほい隙あり」

 

 怪人の触手から炎が巻き上がり、オーク怪人を頭上から殴打してくる。燃え盛る鞭の様に伸び縮みする爆炎の触手は、オーク怪人の葛藤ごと叩き潰してくる。

 

 圧倒的な力。あまりにも太刀打ち出来なくなるような、より強力な地獄からの使者により、オーク怪人は容赦なく叩きのめされる。

 

 パワーだけならば、明らかな実力差をここではっきりさせられてしまい、オーク怪人が痛みの中で苦悶の表情を見せる。

 

 ギンジに似ていて、そしてミヤコにも似ているこの怪人。それは間違いなくあの二人が混ざった顔なのだが、これではまるで・・・。

 

 「まがい物がぁ・・・!」

 「俺こそがヘルブラッククロスだ!」

 

 ギンジの声で、ミヤコの顔で、そして全てオーク怪人の知る怪人で、地獄から多種多様な怪人が集まって出来た混沌が、一つの命としてここに顕現していた。

 

 「俺のもってる力は強いだろう?怪人として、そしてヘルブラッククロスとして、この力をより正しい使い方をしたいんだ」

 「なんだと?」

 「例えばこういう風になァ!」

 

 再び猛毒を纏った触手による攻撃が飛んでくる。まさしく命を奪う、必殺の一撃とも言うべき攻撃が、オーク怪人の視界一杯に広がる。

 

 「ただ弱い奴が生きられない世界じゃ駄目だ。この世界は、真に強き存在だけが生きられる世界にしないと行けないんだ」

 

 猛毒の触手がオーク怪人の身体に巻き付き、そして身動きの取れなくなった所に、炎、雷、龍、毒の触手が様々な形状で、オーク怪人の急所となる顔面に叩き込まれていく。

 

 「ぐっぅぅおおおッ!!!」

 

 どれだけ叫んでも痛みには耐えられない。

 

 「俺がお前を本当の地獄に導いてやる。その変わり、ママやパパは真に正しい力の世界において王になってもらう、その為にヘルブラッククロスに仇なす奴はみーんな、みーんなぶっ殺してやる!!」

 

 めちゃくちゃな言い分で、めちゃくちゃな攻撃を繰り出す怪人。

 

 「この世界に足りないのは祝福だ!この世界を俺が導いて、全てを変えてやる!俺のこの力で!」

 「己・・・!貴様みたいのが子息とは、ドクターミヤコも、ギンジにも失礼だ・・・」

 「この夜こそが祝砲の第一発!」

 

 持ち上げられたオーク怪人をめがけて、口から業火の球体を発射する。

 

 その炎が間違いなく強力な大技である事を確信したオーク怪人は、なんとかして抵抗して逃げようとするも、もう間に合わない。

 

 それどころか視界がおぼつかない。

 

 毒が体内を周り始めている事に、オーク怪人は気づけて居なかったのだ。

 

 業火がその身を包み込み、地獄の如き灼熱がオーク怪人を焼いていく。

 

 「我が名を呼べ!俺こそが真なる正義の使者!」

 

 翼の様に触手を開き、大きく空を仰ぐ。

 

 炎の十字架が月の被さる様に象られ、その中心にはオーク怪人。

 

 その十字架の根本には・・・。

 

 「俺こそが・・・祝福の怪人!パパとママを王として、この世界を導く者!!ハハハハハハ!!!!!」

 

 ギンジでも言わない様な言葉を、ギンジに似た声で高笑いする。

 

 炎と触手を無理やり引きちぎって、オーク怪人は全力で一撃を決めにかかる。十字架から飛び出して、思い切り燃える拳を与えようと真下で笑う祝福の怪人へと突撃が果たされた。

 

 「俺は未来なんか知らなくても、未来を知っている」

 

 無数の触手が、燃え盛るオーク怪人の腹部へと突きこまれ、突撃が阻止される。

 

 「なんせ俺は、この世界にありったけの祝福を贈る、最強の怪人だぜ。くっふふふ」

 (ドクター、申し訳・・・)

 

 燃え、殴られ、毒を盛られ、動けなくなってしまった。

 

 もう勝ち目が見いだせない。確定未来も、振動するあの不思議な力も、もうオーク怪人には出す事は出来なくなっていた。

 

 「俺が導いてあげるからね、ママ、パパ・・・」

 

 月光の通り道、繁華街の激戦はこうして幕を閉じ、オーク怪人の意識もここで潰えた。

 

 ただ一つ覚えている事と、理解出来ている事は、こんな祝福の怪人と名乗る存在が、絶対にミヤコとギンジの間に産まれた命では無いと言うことだけ。

 

 それだけを握りしめる様にしたオーク怪人は、今度こそ意識を失うのであった。 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 六畳の部屋でオーク怪人が、敗けた事の真相と、例の怪人について一通り説明し終える。毒に侵されていたとは言え、まる一日以上も寝ていた事を考えると、祝福の怪人が今どこで何をしているのかを考えると、吐き気がしてくる。

 

 雪の怪人も怪訝な表情をしており、氷の手刀を収めてまでいる。

 

 「ミヤコ様があの男と結婚していたなんて・・・アリやな」

 「無しだ。そもそもギンジは無理やりドクターと・・・そういう事をしない男だ。それに仮に二人の子供としてあの怪人が産まれているなら、何故ヘルブラッククロスに所属しているのだ。どちらかと言えばヘヴンホワイティネスに所属すべきだろう」

 

 とは言え祝福の怪人は確実に、ギンジもミヤコも嫌いそうな性格をしている。あの暴力的な行動と、誰彼かまわず自分の意思でのみ生かそうとする言動、そしてなにより他人を傷つける事への容赦の無さ。

 

 同じ怪人として見てもどこか近寄りがたい、悪意の塊の様な所が見え隠れしている。

 

 考えたくはないが、ヘヴンホワイティネスの面々もきっと嫌いなタイプだろうか。

 

 「ブヒ、ところで・・・ドクターミヤコの居所は特定は出来たのか?」

 

 オーク怪人がベッドを軋ませながら、雪の怪人に聴いてみる。

 

 グリズリーの魔人も咥えタバコで二人の話しを興味津々で聴いている。

 

 「残念ながら調べられていないわ。この26日、つまり昨日は・・・貴方は寝ていたから知らないでしょうけど、この東にもヘルブラッククロスが襲撃に来ていたし、ギンジ達も相変わらず行方不明よ。まったく、自称正義のヒーローのヘヴンホワイティネスはどこに行ったのかしらね・・・」

 

 一息でそこまで喋ると、部屋の氷結がだんだん解凍されていく。雪の怪人の足元に吸い込まれる様にして、氷と雫は吸収されて行く。

 

 「ギンジ達が戻るまで、我々はなんとしてもドクターミヤコを見つける、良くて救出しないと行けない」

 「貴方動けないでしょ?豚ポンコツ」

 

 冷ややかな視線を贈り辛辣な言葉まで言われるが、オーク怪人は特段気にしていない。なぜならオーク怪人にとって豚と罵られるのは褒め言葉でしか無いのだから。

 

 「さて・・・動けないとなればどうするか・・・」

 

 近くにあったぬるいお茶を再度飲み干し、オーク怪人は天井を見上げる。

 

 「とりあえずお前ァ、毒の治療が先だ。そんな身体であちこち動き回られればァ、コロっと死んじまうぜ」

 「ぬぅ・・・」

 

 本当は今すぐにでもドクターミヤコの捜索に出たい所だが、言うとおりにこんな状況では死んでしまう。

 

 あの猛毒は非常に厄介だ。

 

 「・・・ブヒ」

 「気持ちは分からなくも無いけどな。そうだ、この異人町ではよ、女の質が良いんだ。抱けるやつも居るが、どうだい?」

 「・・・Dカップの女は居るか?」

 「あんた達ねぇ・・・」

 

 グリズリーの魔人とオーク怪人の下衆な会話に、雪の怪人は心底うんざりする事になる。本当にこの怪人はドクターミヤコを助けられるのだろうか。

 

 (ああ、無理かもね)

 

 雪の怪人の脳内で結論が出される。

 

 (あの男じゃないと、ミヤコ様は助けられないのかも・・・)

 

 ヘルブラッククロスの怪人として産まれ、ヘヴンホワイティネスとしてこの世界の未来とやらの為に戦う事を選んだあの男。

 

 ─佐久間ギンジ。

 

 彼にしかミヤコを助けられないのでは無いだろうか。

 

 雪の怪人は女の話で盛り上がる男二人を背に、窓を開けて異人町を眺める。

 

 この町は大きく変わり果てた。それは良い意味で。

 

 「早く戻ってきなさい」

 

 静かに青空に向けて言葉を放つと、雪の怪人はまだ帰還しないギンジへと、憎しみと怒りと、ミヤコに向けるぐらいの大きな信頼を乗せて言葉を発したのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 怪人の球。

 

 それは私が造りあげた、ドクターミヤコの研究を引き継いだ、誰でも怪人になれるをコンセプトにした兵器の一つ。

 

 本来人間を怪人にするには、相当時間がかかる。

 

 このドクターパープルと、我が師であるドクターミヤコであれば対した事では無いが、はじめは相応に苦戦を強いられたモノだよ。

 

 怪人の細胞なんて代物は人間には有害だし、僅かな量の摂取で確実に死に至らしめる。

 

 あと何故かこの細胞体は処女の血に過敏に反応している。

 

 それと混ざり合うことで命を形成し、あと一つ何かを足し算してやれば、怪人という存在が産まれる。

 

 しかし・・・我が師であるドクターミヤコは、怪人の細胞に改良を重ねた結果、人間に適応する事が可能な細胞を造る事に成功した!

 

 その名も怪人の細胞・改。素晴らしい響きだ。

 

 人間の中でもレア中のレアである、佐久間ギンジと言う素体に怪人の細胞を全量投与という偉業を達成させ、しかもギンジに定着した細胞はそれまで不可能だった人間の身体を維持したままの怪人を造るにまで至ったのだ。

 

 「本当に・・・彼女は天才だ」

 

 ギンジを造った時の資料には何度も眼を通しているが、私はこれを見る度に、ドクターミヤコが天才だと言うことを痛感する。最早感激の領域にまで居るさ。

 

 そんなギンジの身体に定着した細胞は、闘争によって進化を続ける細胞となり人間にも定着可となり、更にフェーズ2と呼ばれる怪人を造れる様にまでなった、最強の細胞である。

 

 ドクターミヤコは本当に進化の怪人となったギンジを愛していあたからね、彼と血と心を一つにしたいと望んだ我が師は、ギンジの細胞を身体に投与し、半分怪人、半分人間と言う前人未到の場所にまで歩みを進めた。

 

 そんな怪人造りのプロフェッショナルの細胞は、今は私の手元にある。

 

 ギンジとドクターミヤコの細胞が混ざりあった、怪人の細胞・改・・・これを怪人の珠に投与する事で、ある怪人が産まれた。

 

 名実共に最強の怪人であるギンジ、怪人造りのプロフェッショナルであり、我が師・ドクターミヤコ、二人のDNAが入った細胞は、あろう事か二人によく似た怪人を産み出すに至った。

 

 ドクターの怪人と名付けては居るが、今は自分で祝福の怪人とか名乗っている。

 

 「・・・私の怪人造りも、なかなかサマになって来たのではないかね」

 

 仮面をつけて誰にも見えない顔で、私は静かに笑って見せた。心の底にある信頼と尊敬は失っては居ないが、それでも我が師に言われた最後の命令を通す為に、私はドクターミヤコを超えて見せる。

 

 必ず、ヘルブラッククロスとしてすべてに勝つ。

 

 私はもうヘヴンホワイティネスを小バエとは侮らないし、確実に勝ってみせる。

 

 私の怪人と、私の技術で、ドクターミヤコの・・・。

 

 「最高傑作(佐久間ギンジ)に勝ってみせる・・・!」

 

 これもまた一つの祝福。私はそう願って、必ず悪の組織として彼女に勝つと決意した。

 

 超えてみせる。ドクターミヤコも、ギンジも、ヘヴンホワイティネスも・・・。

 

 

続く 

 

 

 




お疲れ様です。

プライベートが忙しく、投稿が役2週間も遅れてすみませんでした!

会社の中にあるエクセル検定や、新卒に向けた資料作成、中途採用の方への仕事の作り等、色々忙しく・・・泣

ああ100年ぐらい休みがほしい。

キャラネタ書きます

オーク怪人
Dカップの女性がお好み。女性はオーク怪人に抱かれると、虜になる。オーク怪人に取っては食事と同じ感覚。ドクターミヤコは理想の女性であるが、親みたいなモノなので性的には見れない。変わりに命を捧げる程の忠誠心を掲げている。

雪の怪人
ミヤコ様一筋・・・のはず。
お風呂上がりに牛乳飲むと腹壊すタイプ。
好きな食べ物はカルボナーラ、ピザ、コーラ、アイスクリーム。
ミヤコ様ふ○○りの妄想で、5年は食べなくても生きていけると語るのは、雪の怪人その人である。
「くふふふ・・・怒るよ・・・?」
ミヤコには気に入られない妄想らしいです。

グリズリーの魔人
出た!異人町の新キャラ。
ゲヘナミレニアム所属時、レイナにボコられてから現実を見始めた。
組織脱退後は、異人町にたどり着くまで闇医者をやっていた。
タバコが大好きで、この作品唯一のタバコキャラ。
ヘヴィチェーンハイレベルスモーカー。
好みの女性は人間なら年齢、見た目問わず全員美人と豪語する。

祝福の怪人
めちゃくちゃな言い分と、持ち前の怪人能力の多さですべてをカバーする。紫の事はあまり好ましく思っていない。
ママであるドクターミヤコとは将来毛布を肩にかけて
「ママ、今夜は冷えるからゆっくりしていてね」と親孝行したいらしい
パパであるギンジには将来
「王よ!」と呼びたいらしい。
ギンジにもミヤコにも似た顔をしており、声質はギンジに似た。
体格もギンジ似たが、指の形はミヤコ似。

佐久間ギンジ
今どこで何をしているのか?遺跡でトンと交戦を開始した

・・・

さて次回ですが、いよいよキラーエリート編佳境!
祝福、銃、超性欲の怪人が集結!
一度は敗れてしまったが、退魔警察とムーン・パラディースに宣戦布告を開始する!

それではまた次回!
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