正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちは、アトラクションです!

今日も元気に執筆中!遅筆ですみません。許してください、なんでもしますから(なんでもするとは言っていない)

エッチな話しも書きたいが、こっちのお話の方が楽しく・・・

色々構想はありますが、今はヘヴンホワイティネスに集中しましょう。

今回のお話ではキラーエリート・○が終わります。

ですがキラーエリート編はまだ終わりません。もう少しだけ続きます。

ちなみにまだ物語は中盤って覚えておりましたでしょうか・・・。
そう、まだ中盤だったんです。長すぎやろ中盤。

それではどうぞ!


75・キラーエリート・8

 銃の怪人、超性欲の怪人、祝福の怪人が3人集まって研究所に居た。

 

 彼らは皆ヘヴンホワイティネスを抹殺する為に造られ、人という生命に終わりを告げた。変わりに得たモノは、人間を遥かに凌駕する力と、ありったけの生命のエネルギー。

 

 怪人。ヘルブラッククロスが看板として出す、大きな生物兵器。

 

 規模の底が全く見えない地獄の様な組織に、この世界を地獄の色に染め上げる事が出来る怪人。

 

 そんな彼らは、ヘヴンホワイティネスを探さないと行けない中、妨害される強敵に苦戦をしていた。

 

 その相手はムーン・パラディース、退魔警察。

 

 この街で動く正義を自称する組織もしくは個人の存在により、ヘルブラッククロス怪人キラーエリートとして生を授かった怪人達は、風前の灯火に立たされている。

 

 「こうも敗北が立てこむと、総統にも怒られちゃうってよ、馬鹿の毛むくじゃら」

 

 銃の怪人がニヤニヤしながら超性欲の怪人を煽る。銃口を向けながら挑発するその姿は、ふとした瞬間に一触即発にもなりそうな空気感を作り出す。

 

 「己はお前らと違い、オンナと寝る事しか頭に無いのだ。邪魔をするな」

 

 胸毛を逆立てながら警戒する超性欲の怪人は、銃の怪人に対して殺意と敵意と胸囲を見せつけている。

 

 「己を馬鹿にすれば・・・(殺すのサイン)」

 「やってみろよ、穴ボコだらけにしてやるよ・・・!」

 

 研究所の一室で早くも戦闘が開始されようとしたが、そこを祝福の怪人が止めに入った。

 

 「くっふふ、止めとけよ。同じヘルブラッククロスのキラーエリートなんだぜ?争い事なら、女をどれだけ自分のモノに出来るかを考えようや」

 「おう。じゃあお前はその辺の女でも喰ってろ」

 「己はあの退魔警察を貰う」

 「じゃあ俺はムーン・パラディースのルカちゃんだな」

 「くっふふ、お前ら浅いな。時代はパパとママだろ」

 

 3人の怪人の殺気が少し収まると、そこに遅れて女王ナメクジの怪人が部屋に現れる。

 

 通気口からドロリと粘液を滴らせ、固形が人の形を形成する事で、美女がその場に姿を表した。

 

 「はぁーいクソザコナメクジの兄弟達ィ〜♡元気してた♡?」

 「ナメクジはお前だろ変態女。お前も穴ボコだらけにすんぞ」

 「アハッ♡こわ〜い♡」

 

 挑発をしあうのはこの怪人達の一種の挨拶だ。しかしながら簡単に能力を発動し合いそうなその姿は、普通の人間は愚か、戦闘員でさえ近寄りがたいのは明白だった。

 

 「で、なんで私達って呼ばれたの♡?タツヤ様の下に戻りたいんですけど♡?」

 

 女王ナメクジの怪人が粘液の瑞々しい肌を見せつけながら、ソファに腰掛ける。するとしなやかな脚線美がぬるりと糸を引きながら、その脚を組んでいた。

 

 「ドクターパープルが俺たちに命令があるんだとよ。そこの祝福と違って、俺、ふんどし毛むくじゃら馬鹿、ローション女は全員任務失敗してるだろ?」

 

 銃の怪人は襲撃初日に退魔警察とムーン・パラディースに敗れ、超性欲の怪人も人間を逃した挙げ句別日は、退魔警察に敗れた。

 

 女王ナメクジの怪人はと言うと、公安局の襲撃によるフジワラと言う抹殺対象を殺せず、しかも組織から逃亡した怪人達に敗北をした上で帰還したのだ。

 

 敗北を良しとしないヘルブラッククロスは、この敗北、失敗の数々は当然総統の耳に入る事になる。

 

 キラーエリートとしての尊厳を失いつつあり、女王ナメクジの怪人だけは柏木タツヤ大幹部により、なんとか廃棄を免れている具合・・・。

 

 「己達が廃棄になると決まった訳ではないと、思うがな」

 

 超性欲の怪人が赤いふんどしをひらひらと動かしながら、銃の怪人へと毛を飛ばす。

 

 「うげ、汚ねっ!」

 「ふん・・・廃棄はお前だけだろ」

 

 祝福の怪人も銃の怪人を指差して、超性欲の怪人と共に煽りを繰り返す。

 

 「うっせー!そもそも廃棄されるって決まった訳じゃぁないだろうが!いい加減に汁!」

 「もちつきなさいよアホの怪人♡」

 「己は動揺しないぞ。潔くSAYよ」

 「全員動揺してんじゃねーか、なんだこいつら」

 『うるさいぞファミコン野郎!(♡)』

 

 ファミリー大好き祝福の怪人だけは何も動じて居ないが、正直このタイミングでドクターパープルに呼び出されるのは、悪い予感しかしていない。

 

 これが最後となるか、はたまたチャンスとなるか。

 

 「・・・ドクターの準備が整ったら、俺たち、もう終わりか?」

 

 銃の怪人が両腕の機関銃を眺めながら、遠い眼をしている。

 

 「己だけは助かると思うがな」

 

 超性欲の怪人は余裕な態度を取っているが、内心ではかなり怯えている。

 

 「私は色々とあるしー♡こんな能力だから重宝すると思うんだけどなぁ♡」

 

 女王ナメクジの怪人は相変わらず蠱惑な表情を見せながら、いやらしい笑みを浮かべる。

 

 「パパとママに会って・・・この世界を正しく導く為には、まだ死ねないんでな」

 

 祝福の怪人も平静を取り繕いながら、狭い部屋の中でひと呼吸置く事に。

 

 『あー、あー、聴こえるかね』

 

 狭い部屋に設置されているボロいスピーカーが、ノイズ音を出しながら、声が聞こえた。

 

 その声の主聴き間違える筈も無い、ドクターパープルの声。

 

 『待たせて済まないね。こちらの準備が整った・・・部屋を開けておくから、きたまえ』

 

 くぐもった声がそれを最後に、スピーカーからは声は聞こえなくなった。

 

 「・・・行くか」

 

 祝福の怪人が静かに言うと、後の怪人達はただうなずくだけ。

 

 彼らに待ち受けるのは、廃棄の未来か、輝かしき未来か・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ドクターパープルに呼び出せれた部屋は、おおよそ研究所とは思えない広く大きな一室。

 

 近未来を思わせる白い床に、蛍光灯が明るく照らす天井、そして白と対を成すかの様に敷かれた漆黒のカーペット。

 

 その一本道にも思える長いカーペットを挟む様にして、ヘルブラッククロスの戦闘員達が綺麗な列を作っている。

 

 整列されたその戦闘員達は、黒い十字架のマントをつけており、ひと目で解る精鋭達である。

 

 選りすぐりの戦闘員達は、怪人キラーエリートをその眼に入れても、まるで動じていない。

 

 それどころか一人として、迎え入れられたキラーエリート達になんの眼差しも向けていない。

 

 ただそこい居るだけ。総統選りすぐりの精鋭達が。

 

 銃の怪人が先陣を切って歩き、カーペットの先の・・・豪華な装飾の作りをした椅子には、ただの人間とは思えない程の圧を封じ込めて尚、得も言われぬ圧倒的な絶望。

 

 銃、超性欲、祝福、女王ナメクジの怪人が、生物としてこの相手に逆らう事は許さないと言った、生きる絶望がすぐそこに座りながらこちらを値踏みするように見ている。

 

 ヘルブラッククロス総統。この組織における最大の権力者であり、たった一人で様々な悪事をその手で実現してきた、大いなる巨悪の大元。

 

 悪のカリスマ、地獄を創る者、新世界の王・・・様々な異名を持つ悪の組織のリーダー。

 

 「よく来たね」

 

 最初に声を出したのは、ドクターパープル。

 

 良く見れば総統の座る一歩先、一段下に揃うのは大幹部の面々。

 

 ドクターパープル。

 

 柏木タツヤ。

 

 リコニス。

 

 そして他の大幹部も・・・キラーエリートの4名の怪人を見つめている。

 

 「今日は君たちの処遇について、総統閣下がご判断をくださる。心して聴くといい」

 

 ドクターパープルの言葉に、キラーエリート達は硬唾を飲み込む。

 

 普段は強気でイカれているリコニスも、飄々としていて何を考えているのか解らないタツヤも、この時この瞬間ばかりは神妙な面持ちだ。

 

 そしてそんな大幹部達から少し離れた場所には、怪人四天王として今も総統を守ろうと警戒している鏡の怪人の姿も見えた。

 

 彼女もまた険しい顔つきをしている・・・目隠しをしており、その真意は解らないが、総統の判断には逆らわず従う方向性で居ることは間違いない。

 

 それほどまでに・・・ヘルブラッククロスの総統が下す言葉は、重たいモノなのだろう。

 

 「廃棄だ・・・」

 

 総統が静寂の中に緊張感のある言葉を吐き出す。

 

 「なっ・・・え、俺たちが・・・?」

 

 銃の怪人が動揺を隠せずに一歩を踏み出そうと動き出すと、周りに待機する戦闘員達がそれぞれアームバズーカや、厳戒態勢が敷かれていく。

 

 「・・・嘘だろ・・・」

 

 祝福の怪人もこれには予想外であり、戦闘員達の行動に驚きを隠せないでいる。

 

 「この私が・・・嘘を言うと思うかね?」

 

 短期間で度重なる失態、敗北。の数々。流石にドクターパープルもこの成果は残念でしょうがない。

 

 総統の判断であれば従うしかない。

 

 「総統、一つよろしいですか」

 

 心臓の音が聞こえてきそうな程動揺する怪人達へ、助け舟の様なドクターパープルの声。もちろん本心としては助けてはあげたいのだ。

 

 ヘルブラッククロスに所属する怪人である以上、これ以上の敗北は許されないのだ。

 

 「良いだろう。貴様の発言を許可する」

 「では、失礼して・・・」

 

 ドクターパープルの許可が降りた事で、彼は戦闘員と同じマントを翻しながら、通路の真ん中に躍り出る様にしてその身を乗り出す。

 

 「総統閣下、彼らは以前ドクターミヤコの報告にもありました、退魔警察と当たっております」

 

 その言葉を聴くと、肩肘をついてくつろぐ総統の眉が少し動く。

 

 「あの退魔警察です。ヘヴンホワイティネスと共闘関係にある憎き我々の敵の一部でございます」

 

 総統はそこからただ黙っている。ドクターパープルに対して、「続きを話せ」と無言で伝えられている様な気分になった。

 

 恐ろしくも底の見えない凶気的な地獄の雰囲気が、ドクターパープルを押していく。

 

 「もう一つが、最近ヘヴンホワイティネスと協力関係を築き上げたもうひとつの、ヒーロー・・・ムーン・パラディースの存在も確認できております」

 

 ムーン・パラディース。ヘルブラッククロスが敵対していた組織、サン・アンフェールが手こずっていた相手だと、総統は認識している。件の組織もヘヴンホワイティネスの介入により壊滅させられたと聴いているが。

 

 「今すぐ彼らを廃棄するのは、少し勿体ない気がしましてね・・・。簡潔に申し上げれば、彼らが見て、実際に交戦した退魔警察とムーン・パラディースに最後の襲撃をさせてやるのはいかがでしょう」

 「ほう・・・?」

 

 ドクターパープルの提案に、総統は少し興味が湧いて出てくる。

 

 続けてドクターパープルが頭の中に思い描く作戦を、そのまま話し始める。

 

 「このまま廃棄するのでは、情報も何も無いではありませんか。有意義な怪人か不利益な怪人か・・・この後の行動、つまり私の指示の下でちゃんと任務を遂行できる怪人かを見極めてからでも、遅くはないのでは無いのでしょうか」

 「へぇ〜紫ちゃん、ミヤコの腰巾着だった癖に随分と偉そうな事言うじゃない・・・」

 

 ドクターパープルの演説に近いソレを聴いたリコニスが、殺意マシマシの瞳を血走らせながら黄金の刀に手をかける。確実に殺そうとしていた怪人達を庇われた様な気がして、その事が許せない。

 

 「おや・・・ギンジギンジとうるさい小娘が、私にやっかみかね」

 「ギンジちゃんは今はいいのよ。せっかく私が廃棄してやろうとしていたのにさぁ・・・余計な事が最近重なり続けるのよ!」

 

 色々とフラストレーションが溜まりに溜まるリコニスと、殺意を前にしても動じていないドクターパープル。しかしその左腕にはアームバズーカの引き抜く準備が出来ている。

 

 総統の居る場所で大幹部同士の戦闘なんて、まさか冗談でも行わないだろうと、戦闘員と鏡の怪人は一気に緊張感が走るが、総統の前に防衛するように立ったタツヤも、表情は変わっていないがどこか緊張している様に見えた。

 

 「下がれリコニス」

 「・・・チッ」

 

 総統の威圧を感じる命令で、リコニスは総統を睨みながら元の居た場所に戻る。それをタツヤがヒヤヒヤした表情で受け入れると、再びドクターパープルが総統に向き直る。

 

 「今までは個体vs個人で戦っていたからこそ、敗北したかも知れません。しかし、しかしですね」

 

 段々と熱の入った口調に、鏡の怪人と戦闘員がますます興味を示していく。それと同じ様に廃棄を言い渡された怪人キラーエリートも、希望の眼差しでドクターパープルの背中を見つめている。

 

 「ヘルブラッククロスが得意とする戦いをすれば、きっと勝てるのでは無いでしょうか・・・」

 「・・・続けろ」

 「今日ここに集めさせて頂いたのは、総統閣下が贔屓にする精鋭!その名も・・・超級戦闘員!彼ら一人ひとりが、このヘルブラッククロスの力の世界に感心しており、実力も高くある優秀な戦士達なのはご存知でしょう・・・」

 

 ドクターパープルはたたみかける様にして、総統へ自分の造った怪人をアピールする。

 

 人差し指を上に突き出しマントを回しながら、怪人キラーエリートを指差す。

 

 「ヘヴンホワイティネスが見つけられない今、ここに居る精鋭達と、怪人キラーエリートを一致団結させ、退魔警察とムーン・パラディースを倒せるか・・・これを廃棄の基準にするのはいかがでしょうか?」

 

 つまりいつもヘルブラッククロスが得意とする、物量作戦。これで妨害してくる敵を倒そうと言うのだ。

 

 「元より廃棄が決定しているのですから、ここで死なせるより・・・敵陣に投げ込んで不利な状況に運んでやるのも良いのでは無いでしょうか?」

 「・・・いいだろう」

 

 総統の首を縦に降ることで、ドクターパープルは安堵する。

 

 (よかったーもし断られたら、殺すしかなかったじゃん・・・怖いって総統〜)

 

 心の中では余計な軽口を叩いて見せる。正直この世界の行く末等、ドクターパープルにはどうでも良いからだ。

 

 ミヤコが勝つならミヤコに順張りして、ヘルブラッククロスが勝つならヘルブラッククロスに順張りするだけなのだから。逆張りだけは絶対にしない男、それが紫という男である。

 

 (はぁ、これで退魔警察でもお月さまでもなんでも軽く倒してくれればいいん「ただし条件がある」

 「・・・はい?」

 

 総統が心の中での言葉を遮る様にして、一気にドクターパープルを集中させる。

 

 「我が精鋭は連れて行っても良いが、使うのは勝てる時だけだ」

 

 自分の優秀な部下達を得体の知れない自称正義のヒーローによって、倒されてはたまったモノではない。

 

 そこで総統の返した内容は、キラーエリートが勝てる状況になれば、この精鋭達を使って良いと言う。

 

 いずれにしても実験の意味合いの強いこの無理やりな提案。

 

 素体が人間であり、怪人と融合させる事で産まれた怪人キラーエリート。

 

 普通の怪人と違って、彼らには協調性がない。自分がいつだって一番出来ると信じている。

 

 どうすれば、ドクターミヤコを超えられるのだろうか。

 

 「かしこまりました」

 「・・・紫よ」

 「はっ」

 

 総統がドクターパープルの名を呼ぶ。

 

 「期待しているぞ」

 「・・・!」

 

 総統の紅く輝く瞳が、目深にかぶった軍帽によって、より深みを増す。

 

 これで失敗すれば、きっと紫自身の命も危ない。そう言われている様な気がして、命の危機を感じ取った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 8月27日。昼間。今の時間は13時頃を少し超えたぐらいだろうか。

 

 聖カエルム教会の孤児院達の子どもたちが、夏休み最後のキャンプと称して、教会の裏山に向かって皆が元気に出発した。

 

 「ふう・・・」

 

 そんな子ども達がキャンプに出かける少しまえ、裏山に向かう為に身を清めると称して、大浴場に入りこんでいた。

 

 裏山はきれいな身体と、健全な精神でしか入る事を許されて居ない場所の為、子供達はそこへ行く前にお風呂に入る必要があったのだ。

 

 熊沢レイナはそんな行事もあったな、と思い出しつつも大浴場の掃除に入る。

 

 冷水で溜まった垢の水を洗い流し、少しざらついた浴槽に洗剤を流し込んだスポンジ付きのモップで汚れを擦り始める。

 

 「レイナさーん、鏡も拭き取りますか?」

 「こっちも使う?」

 

 レイナと一緒に掃除をするのは、ここに泊まらせて貰っている月島ルカと、山吹イロ。

 

 三名?の女性陣は皆仲良くお風呂掃除を開始している。

 

 真夏の大浴場と言う事もあり、窓を開けていても蒸す様な暑さが女性陣の体力を奪っていく。

 

 顎に垂れる汗をタオルで拭い、ルカは鏡の水滴を綺麗に拭き取る事に集中する。

 

 考える事は、やはり銃の怪人やヘルブラッククロスの襲撃についてだ。

 

 (今度あの怪人が襲撃してきたら・・・今度こそ倒してやる)

 

 アキハも同じ気持ちで居るからか、より心のつながりが強くなって行く気がした。

 

 「なーあのさーなんでおじさんは、ここでぐるぐる巻きにされて目隠しまでされてるの〜?おじさん何かした?どぼじで・・・」

 

 大浴場のすぐ近く、脱衣所にて正座させられながら、退魔の紐で身体を拘束されたおじさん、藤原が待機させられていた。

 

 藤原の真後ろでは、ナルミがいつでも制裁を加えられる様にまでしている完全防御姿勢だ。

 

 ついでに言うとミツキもここで制裁準備をしている。社会的にではなく、物理的に。

 

 藤原が26日の夕方にこの教会に来るなり、ミツキとナルミにセクハラを働いたことで、容赦なくフルボッコされた。

 

 懲りずに本日27日も朝起きるなりいきなりセクハラを働こうというのだから、ミツキによって鉄拳制裁を受けるハメにもなった。

 

 しかし40年以上生きているおじさんは、こんな事ではめげないらしい。

 

 特に磯上ミツキに至っては聖女、教皇とは思えない軽いフットワークから繰り出す驚異的な速度の拳が、藤原の急所を的確に狙っていた。

 

 「おお、神はこう仰られております。不埒で淫靡な人程、迷い苦しむと・・・あなたも神を信じて、今日からはこんな淫らな行為を行わないように・・・」

 「あの、目隠しで見えないから言わせて貰うけど、あんた以外といい身体してるよな。修道服越しでも解るぜ。キレイだと思う。胸は小さいが、おじさんそういうの気にしないからさ・・・あとお尻、お尻大きいよな。安産型だぜ、それ」

 「すごいな・・・ミツキのラッシュを受けた後でもあんな事を言えるのか、藤原さんは」

 

 大浴場を掃除しながら聞き耳を立てていたレイナが、藤原の再度行われたセクハラによる撲殺の音を聴きながら、苦笑する。

 

 「ミツキさん・・・あれやりすぎなんじゃ」

 

 ルカはモザイク処理される藤原を見るや、不安そうな表情をしているがレイナはまったく気にしていない。

 

 「あれで結構楽しんでいるから、大丈夫だよ。あれはミツキなりのツッコミさ」

 「あ、あれでツッコミ・・・」

 「掃除?早くやっちゃいましょう?暑くてたまらん?」

 

 レイナとルカが話し初めて、イロが注意をする事で3人の美女は掃除を再開する。

 

 子供達の大浴場はとても広く、これが男女2つ分もあると思うと、かなり根気のいる作業だとルカは痛感する。

 

 とにかく風呂の掃除に今は集中し、3人の女性は真夏の風呂掃除という大きな戦いを制しに向かうのであった。

 

 (ふー・・・ギンジ達は今頃何をしているかな・・・)

 

 ルカは最近気がつくといつもギンジの事を考えている。恩義ある彼らの為に今出来る事はなんでも変わりに行い、そして最後に皆生きて再開したい。

 

 (これも一個の修行みたいなモノね。頑張りましょう、ルカ)

 (ありがとう。アキハも熱中症には気をつけてほしい)

 

 心の中で親友であるアキハと会話を終えると、ルカ、レイナ、イロの3人が細かく清掃を続け、その大浴場の掃除が終わる頃には、全員汗だくとなり、一番風呂に入ろうとするのであった。

 

 「あの・・・おじさんもお風呂入りたいんですが・・・」

 「ああ、藤原さんはまた後でにしてください。セクハラが感染ります」

 

 レイナが冷たく言い放つと、目隠し拘束されたおじさんがガクリとうなだれる。

 

 5人の女性は一先ず交代しながらお風呂に入る事にし、ヘルブラッククロスよりも醜悪にも思えるセクハラおじさんを監視しながら、最高のリフレッシュを味わうのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 総統との謁見が終わり、怪人キラーエリートを含めた特別編成の部隊が、ヘルブラッククロスのアジトの正門にて、集合を行っていた。

 

 銃の怪人の単独行動によって発見された、退魔警察とムーン・パラディースの居場所を確認しており、南度固化市へと向かう準備を整えている。

 

 コンクリートに整地された大きな正門は、普段誰も通る事のないただの真っ黒な鋪装されたばかりのコンクリートの道が、ただ奥に広がっているだけ。

 

 だけどこの正門を抜けてただ広い道を少し歩けば、繁華街エリアに出る。いつも思うが不思議な場所である。

 

 本来の出入り口である繁華街エリアの光を通さない路地裏とは違い、ここは正真正銘ヘルブラッククロスの正面玄関である。

 

 「俺たち全員で・・・成果を残せなきゃ、パパとママに会えないなんてなぁ・・・」

 

 真夏の青空を仰ぎ見ながら、祝福の怪人は漠然とした想いを胸に抱いている。

 

 まだ会えないパパとママ。その両親に会いたいだけなのに、こんな事になるとは。

 

 「でも俺はムーン・パラディースのルカちゃんとまた戦えるなんてウレシイぜぇ?勝てば結婚だからな!ギャーハッハッハ!」

 

 再び想い人である月島ルカと会えると聴いて、銃の怪人は廃棄の未来が確定するかも知れないこの状況で、かなり呑気に過ごしている。

 

 しゃがみながら両腕の機関銃をコンクリートに擦りつける銃の怪人の横で、赤いふんどしが風に煽られてひらひらと視界に入り込んでくる。

 

 超性欲の怪人が腕毛をなでながら、毛むくじゃらの身体最後の気合を注入していた。

 

 「己達は廃棄の未来を乗り越えないといけんな。銃、祝福。ここは協力して・・・奴らを倒すとしようではないか」

 

 協力を申し出たその顔はとても引きつっている。本心で言えば自分が一番強いと、超性欲の怪人は思っている。ここで戦って強いのは自分、ここに居る誰よりも任務を遂行出来るのは自分だと、そう決め込んでいるのが本心だ。

 

 しかしそれは銃の怪人も、祝福の怪人も同じ事だろう。自分こそが誰よりもこの世界の本質に向いて生きていると・・・。

 

 「ところでビッ○はどうしたぁ?」

 

 銃の怪人が女王ナメクジの怪人の姿が見えない事で、周辺を見渡している。

 

 「そういえば見ていないぞ」

 

 超性欲の怪人もその姿が見えていない様で、辺りを見渡している。

 

 「クソでもしてんじゃねーのか。あの服脱ぐの大変そうだしな、ケツ拭くのにも気を使うんだろ」

 

 祝福の怪人が女王ナメクジの怪人の服装を思い出す。

 

 ボディラインを強調するあのレオタードと、腰まで届く長い髪。さらには豊満なスタイル、素足と香りだけならなんとも言えない心地よさを誇る、あの粘液の粘つく腕。

 

 もし本当にお手洗いに行っているのであれば、色々大変なのだろう。

 

 そんな勘違いを話している三人の怪人をよそに、少し離れた柱に隠れる様にして、女王ナメクジの怪人が背中を柱にくっつけている。

 

 そんな彼女の前には、蛇の様にしたたかな顔で柏木タツヤがニタニタと・・・鎌首をもたげる様にして、女王ナメクジの怪人の顔に近づいていた。

 

 「貴女には生きていてもらわないと行けませんねぇ」

 

 タツヤの笑顔はどこか底の見えない闇の様な感覚があり、人間だとしても侮れない底知れぬ悪の力強さを秘めた顔をしている。

 

 「いいですか、貴女の能力はわたくしに取ってとても必要です。あの三名はどうなっても構いませんが・・・」

 

 タツヤの手が女王ナメクジの怪人の顎に伸び、その指を顎にかける。

 

 そして息がかかる様な距離感で、タツヤが更に女王ナメクジの怪人に言葉を囁いていく。まるで口説き落としの様に、しかしその手がまるで蛇の様に、女王ナメクジの怪人を逃さない雰囲気を作り出す。

 

 「貴女の様な怪人はそうは居ませんから・・・もし負ける様な事があっても、貴女はなんとしても逃げるのですよ。次敗けても、今度はわたくしが口添えをさせて頂きますし、全力を出して来てください。貴女だけは助けてあげますから・・・」

 「はい・・・♡」

 

 優しく、重く、そしてどこまでも飲み込む、そんな蛇の様な声音と絡みついては逃さないタツヤの言葉に、女王ナメクジの怪人がコクリと首を動かす。

 

 「さぁ・・・それでは行ってきてください・・・」

 「はーい、かしこまり〜♡」

 

 柱から身体を動かし、女王ナメクジの怪人が先に集まっていた怪人キラーエリート達の所へと向かっていく。

 

 「・・・彼女は対ギンジに役立ちそうですし、生きていて貰わないと困るんですよねェ・・・」

 

 女王ナメクジの怪人は自分を必要として貰えている、恋する乙女の様だが、タツヤは別の用途で女王ナメクジの怪人を必要としている。

 

 そして柏木タツヤは理解している。再び近い内に・・・ヘヴンホワイティネス・佐久間ギンジとぶつかる事を。

 

 その時にはあの女王ナメクジの怪人が、ギンジ対するある決定打になる事を確信している。

 

 「さて・・・どうなるか、楽しみにさせて頂きますよ・・・」

 

 不穏な空気を纏わせたタツヤが、超級戦闘員達の列を眺めながら、ニタリと笑みを浮かべた。

 

 怪人キラーエリートの出撃が開始され、南度固化市へと進撃を見送るのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

 夜の聖カエルム教会に、足音をテンポ良く鳴らしては、土を踏みつける音がこだまし、レイナは威圧的な空気を察知して外を眺める。

 

 魔の気配を感じなくても解る・・・これは怪人の気配。

 

 奇しくも想い人であるギンジと同じ気配を感じ、嬉しくなったその気持ちは一瞬にして崩れ去り、悪意のある顔を見せる。

 

 教会に整列して向かってくるのは、見覚えのあるヘルブラッククロスのマーク。

 

 大きな1つ目に黒く赤い瞳。その刺繍を見るだけでもギンジを思い出せるのに、今目の前に居るのは四人の怪人。

 

 ルカに執心する銃の怪人、レイナが打倒した筈の超性欲の怪人。

 

 更には信じがたい事だが、ギンジに似ている?謎の怪人と、妖艶な姿をした・・・否、あれは卑猥な姿をした怪人。

 

 その後ろに並ぶのは大小さまざまなパワードスーツを装着した、ヘルブラッククロスの戦闘員達。

 

 「出てこーい!」

 

 銃の怪人が機関銃を一発、夜空に向けて解き放つ。

 

 「我々はヘルブラッククロス!怨敵であるヘヴンホワイティネスに協力する愚か者共を始末しに来たぜぇぇー!ギャーハッハッハ!」

 

 下卑た笑いは相変わらずで、銃の怪人がまだ死んでいない事に嫌気がさす。

 

 「出てこないならば、己達がこの教会を破壊する」

 「本当にここに居るのか?まぁ、出てこなくてもここを襲撃しに来たんだけどよ」

 

 その隣で超性欲の怪人とギンジに似た怪人が、恐ろしい闘気を放出しながらここに向かって来ているのが解る。

 

 卑猥な女の怪人も間違いなく強敵・・・。

 

 「・・・来たようですね」

 

 ルカもこの銃声によってレイナの元へ来た。

 

 「ヘヴンホワイティネスの協力者への、宣戦布告だぜ!出てこいよぉー!」

 

 教会のステンドグラスへ銃弾が撃ちこまれ、その衝撃ではめ込んであるキレイなガラスがすべて割れてしまう。

 

 「・・・月島君、ミツキとナルミを呼んできてくれ。あいつらとは、ここで決着をつけよう」

 「・・・はい」

 

 ルカが力強く頷くと、一先ずは玄関の窓から離れていく。

 

 レイナも銀色の退魔修道服へと変身し、覚悟を決める。

 

 敗ける事への覚悟ではなく、あの怪人達に勝つ覚悟を。

 

 「ギャーハッハッハ!なにもかもを・・・」

 「己達が・・・」

 「真に正しい世界を創る為に・・・」

 「あなた達ぜーんいん♡気持ちよくしてあげる♡」

 

 怪人達が一斉に花壇を突破すると、教会へと侵入を開始する。

 

 超性欲の怪人が鼻毛を伸ばした突剣で教会の壁をくり抜くと、そこへ猛毒を纏わせた触手を伸ばす祝福の怪人。

 

 毒によって溶かされた石壁は、銃の怪人によって粉砕され、そこへ女王ナメクジの怪人による粘液の侵入が繰り出される。

 

 今ここに子どもたちが居なくて良かった。

 

 そうレイナは考える。

 

 何故ならば・・・。

 

 「本気で怒れるからな・・・」

 

 破邪の剣を召喚し、レイナは教会に侵入してきた怪人達と対峙する。

 

 「まさか一人で戦う気か?」

 「だとしたら舐めてるわね♡」

 

 祝福の怪人と女王ナメクジの怪人が、レイナを囲もうとするが薄暗い教会の奥からは、月の光を宿した盾と、退魔の札が飛んでくる。

 

 「一人だと思ったら、大間違いだァ!!」

 

 ルカの攻撃が銃の怪人へ突撃し、思い切り吹き飛ばす事に成功する。

 

 退魔の札はナルミが使ったモノらしく、祝福の怪人の動きを封じ込める事に成功した。

 

 「お待たせしました!」

 

 ルカが深緑色のスーツを輝かせ、ナルミが札を取り出しながらレイナの背後からその姿を表す。

 

 ルカの盾が手元に戻ると、盾を構えて戦闘準備が整う。

 

 「来たなぁ!ムーン・パラディース!!」

 

 礼拝堂まで飛ばされた銃の怪人が、血気盛んに叫ぶと再び玄関まで戻ってくる。今度は欲にまみれた顔ではなく、戦う為にその表情を変えている。

 

 命を背負っているかの様な迫力に、レイナもルカもビリビリとした覇気を感じた。

 

 つまりこの怪人達は全員本気だと言うこと。

 

 「決着をつけようじゃないか・・・ヘルブラッククロス!」

 「来やがれ、退魔警察、ムーン・パラディース!」

 

 両腕の機関銃を鳴らし、開戦と取った両陣営が教会内で交戦を開始した。

 

 怪人キラーエリートとヘヴンホワイティネスに協力する正義連合。

 

 果たして勝つのはどちらか・・・。

 

 雌雄を決する戦いが始まった・・・!

 

 

 

続く

 

 

 




お疲れ様です。

女王ナメクジの怪人って響きがいいですよね。
退魔師と言えば、ナメクジ、ナメクジと言えば退魔師ですよ!これエクセル検定に出ますからね!(え)

キャラネタ書きます

熊沢レイナ
お風呂上がりはアイス食べる派。
怪人キラーエリートの中にギンジっぽい人がいるんだけど何者?

月島ルカ
盾を投げたり突進したり十字盾になったり、こいつ武器はどこのキ○エライトさんだ。

藤原
教会の女性にもセクハラを働く不届き者。

如月ナルミ
相変わらず喋らない。
年齢は27歳だが、見た目は十年若返っている。ギンジかよ。

磯上ミツキ
意外とセクハラされた事を楽しんでいる。だけど神がだめだよーって言うから何故駄目なのかを完璧に理解し、悪い事としている。

柏木タツヤ
蛇さん。しゃー。女王ナメクジに触れたけど能力が効いていない。
あの粘液には利用価値アリと判断しているが、個人としては無用。
理由としては小さくないから。やはりロリコン。

総統
久しぶりに登場したアレな人。最後に登場したのって赤鬼の初登場の時ではなかろうか。番外編は抜きで。

・・・

さて次回は、正義連合と怪人キラーエリートの交戦開始!
熊沢レイナ達はヘルブラッククロスに勝つ事が出来るのか!それとも敗けてお持ち帰りされてしまうのか!
お持ち帰りされろ!されろされろされろ!退魔師はナメクジには勝てないんだよ!そういうモノなんだよ!!!ッルァ!!

失礼しました。興奮して我を忘れました。

それではまた次回!!

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