正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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今回の話は長くなってしまったので二話構成でわけております。

最後の所は違和感あるような終わり方(いつも違和感あるかも)かもしれませんが、是非お楽しみいただければと思います!
で、ついでに後編になる方のお話も今書き直しております。
重要な所を抜いてたり、登場させるはずだったミヤコがいなかったり。。。やっちまったー!感で書いております。
それではお待たせしました7話です!
お楽しみください


7・魔法少女と退魔警察と怪人と

 佐久間ギンジ。

 

 東京某所で働く30歳、独身。

 

 コレと言った任せてもらえる仕事、無し。

 

 家族、友達、恋人、役職、情熱、全て無し。

 

 生活能力、有り。

 

 やる気も出せず、ただ会社に居るだけのサラリーマン。

 

 底辺。その言葉が似合う生きた屍。

 

 そんな彼の最近のマイブームは、スマホでもできるゲーム。

 

 【正義のヒーロー・ヘヴンホワイティネス】

 

 そのゲームだけが彼にまだ生きる気力を残していた。

 

 『くうう、やめろおお』

 

 スマフォの画面内で、神宮カエデという綺麗な顔つきの少女のキャラクターが、様々な凌辱により望まぬ快楽を与えられている。

 

 その様を見て、佐久間ギンジは性的興奮を抑えられない。

 

 でも、たかがゲームだ。

 

 物語が終われば、一気に虚無感と脱力感が、中年の身体に襲いかかってくる。

 

 「俺、まじでなにしてんだろ」

 

 6畳の小さな部屋での天井を眺め、ギンジは死人の様な顔で一人呟く。

 

 今日はあまりにもやる気が出せず、会社を無断欠勤した。

 

 そうすれば誰かしら連絡をくれるからだ。

 

 普通であれば、だが。

 

 「マジで連絡こねぇ・・・もう俺居る意味ないじゃん・・・」

 

 普通の企業であれば、無断欠勤等ゆるされる筈ではない。しかし、ギンジの携帯には会社は疎か、直属の上司でさえ連絡をくれなかった。

 

 寂しいとか、悔しいとか、そういう感情ではない、無が、ギンジの心を蝕んでいく。でも、明日も何食わぬ顔で出勤すれば、誰も彼も佐久間ギンジを居ない者としての扱いをする。

 

 「一体俺が何をしたってんだぁ?」

 

 小さな部屋、小さい布団の上で、得も言われぬ孤独に涙すら出ない。

 

 もう何をしたらいいのか。

 

 「あーあ、俺も正義のヒーローだったらなぁ」

 

 視界の先はスマフォ。その画面はヘヴンホワイティネス。

 

 ホーム画面は神宮カエデ、ロック画面は宮寺レン。

 

 オタクの痛スマフォみたいな状態になった、カバー。

 

 「俺にはもうこれしかないな・・・」

 

 ヘヴンホワイティネス。最早それだけがギンジの生きる糧。

 

 「あ、そういえば」

 

 時間は13時。

 

 昼時に丁度いいその時間帯、ギンジはセーブすると、手慣れた捜査で動画投稿サイトへと移動する。

 

 あのヘヴンホワイティネスを作り、販売した同人グループが待望のラストアップデートを宣言したのだ。

 

 その情報を見逃しては行けないと、社会人にあるまじき行動、無断欠勤に打って出た。

 

 本当は誰かに心配してもらいたかっただけだが、今はもうどうでもいい。

 

 『どうもー!同人グループの・・・』

 「自己紹介なんてどうでもいい!早く内容を!今度こそ、カエデやレンやミドリコとか、リコニスのハッピーエンドだよな!?そうだよな!」

 

 声が反響するぐらい叫ぶ。

 

 『今回はゲストに、神宮カエデ役のこのお方をお迎えします!』

 

 声優とはゲームを彩る素敵なスパイスだが、それすらもどうでもいい。

 

 重要な所だが、そうじゃない。

 

 『さて!今回のラストアップデートですが!こちらをご覧ください!』

 

 同人グループのリーダー核らしき男が、テロップを画面上に露わにする。

 

 【魔法少女サクラと退魔警察レイナが、ゲームヘヴンホワイティネスに登場!?最強コラボレーション!!】

 

 内容に唖然とした。

 

 「なんだ、よ、これ・・・」

 

 ガクーンと肩を落とす様な気分で、ギンジは更に映像を確認する。

 

 魔法少女サクラも退魔警察レイナも、ヘヴンホワイティネスの制作した同人グループの送る力作だ。

 

 絵も可愛いし、内容は陵辱にまみれたよくあるその手のゲームなのだが、ギンジもそのゲームの存在は知っていた。

 

 「いや、別にやらんし」

 

 でも、ヘヴンホワイティネスが良作だからと言って、そこと同じ製作元の出すゲームだからとやる気には、何故かなれなかった。

 

 『今回のアップデートはなんと!無料です!』

 

 無料。ギンジの様な永久貧乏社会人にはありがたい。

 

 「ま、無料ならいいか・・・」

 

 内容としては、サクラとレイナがヘヴンホワイティネスと協力するも、ヘルブラッククロスに捕まって・・・。

 

 「つまりはバッドエンドなんだろ。はーつまんね」

 

 でも内容を知った以上、しかも無料ならやるのだが。

 

 「飯でもたべるか」

 

 やる気を出さなくても、腹は減る。

 

 のそのそと立ち上がり、スマフォをスリープにし、小さなテレビをつけると昼間だがニュースが流れる。

 

 『続いてのニュースです。相次ぐ交通事故で死者多数・・・』

 

 まただ。最近東京都内では交通事故が多い。

 

 「信号守ってたら普通、事故らないだろ。間抜けだなー」

 

 テレビをぼんやり眺め、ギンジは鼻で笑う。

 

 「さて、まともに食える飯が無いし、コンビニでも行くか・・・」

 

 帰宅したら例のアップデートも試そう。

 

 もしかしたら、生きる為の新たな気力が湧き出るかもしれない。

 

 足取り軽く生きた屍は、今日の食事を手に入れる為に、自宅を出る。

 

 (あんな間抜け共みたいな、死に方、俺はやだな)

 

 その一週間後。佐久間ギンジはその間抜け共の仲間入りを果たす。

 

 ただし、旅立つ場所は天国でも地獄でもなく、新たな世界へとなるが、未来に希望を見いだせない男・佐久間ギンジは、今はまだその事を知らない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 レンとミドリコが風邪を引いてしまった。

 

 しかたなくヘルブラッククロスのアジトを探すパトロールは、カエデとギンジだけでおこない、なるべく戦闘は避ける様に行動しなければならない。

 

 「あんた、風邪もらってないでしょうね」

 「感染るもんかよ。俺がどうやって寝てるか知ってるか?ベランダだぞ、ベランダ。嫌でも免疫力高まるわ!」

 

 流石に女性が二人いるマンションに、こんなヤンキーみたいな男が一つ屋根の下、共に寝るのはまずいというミドリコの判断で、ギンジはベランダで寝ている。ただし、簡易ベッドとブルーシートでの屋根代わりはつけさせて貰っている。

 

 「ベランダ・・・ベランダかー・・・」

 「なんだよ・・・」 

 「ん、別に」

 

 何か確信めいた表情でカエデが考え込むが、ギンジの一声でまた目の前に集中し始める。

 

 「あんたの話じゃ、この繁華街のどこかにアジトの入り口があるのよね?」

 「そうなんだけど、あの路地裏が見つかんねーんだよ」

 

 ヘルブラッククロスの戦闘員や怪人達は、光を通さない闇のワンスペース、通称・入り口と呼ばれるあの空間を持っている。

 

 アモーレの跡地の近くにあった路地裏から行けた筈なのだが、どこにもその路地裏への道が無いのだ。

 

 「こんなラーメン屋あったっけか?」

 「あったかもね。もーなんでもいいわ。小腹が空いたから、甘いもの食べたいわ」

 「いや、この豚骨の香り嗅いだら、ラーメンの口になるだろ」

 「あたしラーメンとか苦手なのよ!」

 

 急に怒りながらギンジの頭を叩くカエデ。

 

 もはややられ慣れたその光景は、顔の良い彼女と、明らかなチンピラのカップルの様にも見える。

 

 「なんで?ラーメンうまいじゃん」

 「すすれないから嫌いなの!」

 「あーそういう人いるよな」

 

 それ以上はラーメンの話題を出さない。

 

 (いやーでも、昼時の豚骨の香りはやばいな。今度ミドリコに頼むか)

 

 お金のないギンジは、まともに外食は出来ない。

 

 故に、ミドリコに頼むしかない。

 

 「おっと」

 

 ラーメン屋を尻目に、先に進むカエデを追いかけようと、小走りになると、女性にぶつかり、転ばせてしまう。

 

 「あいたた・・・」

 「悪い、ちゃんと前見てなかった。立てるかい?」

 

 グレーのスーツを着たリクルート姿の女性に、手を差し伸べる。

 

 「ちょっとなにやってんのよギンジ!ごめんなさい、お姉さん。こいつのせいで、転ばせちゃって」

 「いえ、大丈夫ですよ。すいません、急ぎますので」

 「あ、ああ。ごめんなー」

 

 女性はギンジの手を掴んで立ち上がると、砂埃を払いながらもあるき出す。

 

 向かう先はあのラーメン屋。

 

 「気をつけなさいよ。あんた、眼、バレたらめんどくさいんでしょ」

 「いやぁ、今のは完全に俺が悪いや」

 

 カエデは違和感を覚える。

 

 これまでもギンジは同じ様な見た目をしたヤンキー崩れや、本物みたいな人達には意地でも道を譲らなかったり、妙に喧嘩腰な態度が多いのに、相手が女性となると素直になる。

 

 (そういえば初めてあたし達と戦った時も、手は出してこなかったわね。でもリコニスとは手を出してたし、何かしら、あたしの気のせいかしら??)

 

 ま、いいか。今は考えてもしょうがないと、カエデはパトロールに戻る。

 

 でもその前に。

 

 「ギンジ、甘いもの食べたい」

 「俺お金ないんだけど・・・」

 「あたしが出してあげる。行くわよ、バカギンジ」

 

 有姪海岸での戦いから、カエデとギンジはよくパトロールに出向いている。

 

 とは言え、仲良くなっている訳ではないが、誰が見てもデコボコカップルみたいなやり取りに繁華街の住人達は、何か尊い者を見るような視線を送る者も居た。

 

 まだギンジは仲間として認めてもらえていないが、この距離感ならばきっとそれはすぐだろう。

 

 先程ギンジ達がぶつかった女性がラーメン屋から出てくる。

 

 「・・・あの人の手・・・」

 

 左手の感触を思い出す。

 

 明らかに人ではない、【何か】の力を感じた。

 

 「もしかしたら、あの子が言ってた、狐の・・・なんとかみたいね」

 

 女性はニヤリと笑うと、腰まで届きそうな長いポニーテールを、手で撫でるように払う。

 

 スタイリッシュな八頭身に肉付きの良い身体。スラリと伸びた脚は、パンツルックのスーツ姿をより綺麗に際立たせる。

 

 女性はギンジ達が向かった先を見る。

 

 「逃げた魔人も厄介だが、あの子の為だ。悪く思わないでよ」

 

 明確な敵意を持ち、彼女はギンジ達のいるであろう方角へと進む。

 

 「でさー、ケイタがね」

 「へぇ、あのおぼっちゃんが。勇気だしたんだな」

 

 テラス席のある喫茶店でパフェを食べながら、ギンジとカエデが談笑している。話の話題としては、あの角倉ケイタが宮寺レンへ告白したとか。やがてケイタとレンが交際することを知っているが、その経緯までは知らなかった為、ギンジは内容に興味津々だ。

 

 そんな話をする二人の真横を、ローヒールを打ちながら、それでいて静かな、歩き慣れた音で通り過ぎていく。

 

 顔とかの特徴も覚えた女性は見落とすはずは無かったが、喫茶店の店員の配慮で用意されたパラソルによって、うまいこと見えない様に隠れてしまった。

 

 (あまり覗いて、もし人違いなら申し訳ないしな)

 

 声までは覚えていない。だから顔で認識するしかない。

 

 女性は繁華街を歩く。とある協力者の為に、狐のなんとかを見つける為に。

 

 (そうだ、名前があったな・・・確か、ギンジ)

 

 連れの女の子がいた事を考えると、先ずほとんどの場合、白だ。

 

 なぜならあいつらは、女性を自分の道具としか思っていない。

 

 しかし、女性はギンジと呼ばれた男の手の違和感をしっかり覚えている。

 

 (あれは、人間の手じゃない)

 

 その確信だけが彼女を、熊沢レイナを正しい事へと動かす動機となる。

 

 (必ず見つけるぞ・・・!)

 

 闘志を燃やす思いで、レイナはその歩みを強めて行く。

 

 彼女は退魔警察。人知れず、魔を退ける正義の使者。

 

 昼間の繁華街は誘惑が多い。

 

 食事やお買い物ではない。【悪】の誘惑だ。そこかしこに人を惑わす誘惑が多い。

 

 それを根絶やしにするために、レイナは戦っている。

 

 それだけが彼女の戦う理由。

 

 レイナは再度先程の喫茶店を振り返る。しかしそこにさっきまで座っていたであろう、あの人物達はもうその席には居らず、パラソルも店員によってしまわれようとしていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 繁華街の外れにある国道沿いを抜けると、駅前エリア。

 

 その駅前エリアから北方面に行くと北度固化市。中心地となる度固化市程活気のある街ではないが、海を一望できる立地の多い素敵な場所。

 

 自宅から見える海を眺めながら、小町サクラは最後の戦いを終えた安心感と、これからやってくる望んだ人生に胸をときめかせる。

 

 「マージ・ジゴックは壊滅したし、私達も暇になったし、やっとまともな高校生になれる〜」

 

 暇と言っても学業や友人付き合いはまだまだ続く。

 

 退屈だけどこの退屈という時間を守る為に、サクラは人知れず悪の組織、マージ・ジゴックと戦ってきた。

 

 まともな協力者が居ない孤独な戦いだったが、二年近くにも及ぶ激戦を繰り広げ、ついに魔法少女サクラは、この強大な悪を仕留める事に成功した。

 

 今は手に入れた平和とその平和から来る、充実感に身を委ねている。

 

 「でもなぁ・・・狐が逃げたのが不安なんだよなぁ」

 

 自分の学習机で勉強をするが、1ページも進んでいない。

 

 集中できないのには理由があった。マージ・ジゴックの中でも飛び抜けて凶悪かつ強敵であった狐の闇人の存在。

 

 その狐の闇人がサクラの前から姿を消したのだ。

 

 奴はまだ北度固化市に潜伏している筈。

 

 たまたま発見した際に、今度こそ決着をつけようとしたものの、奇妙な反応の狐への助太刀に妨害されて逃してしまう。

 

 銀狼の魔人。それが狐の闇人の助太刀にやってきた、マージ・ジゴックとはまた違う悪の組織から現れた強敵。

 

 魔法少女サクラとしての戦いは終わりを告げた。

 

 だが、まだ本当の意味での悪との戦いは終わりではなかった。

 

 銀狼の魔人に妨害された時、2vs1の構図になり、苦戦を強いられた。

 

 「強かったな・・・」

 

 魔法少女として研鑽したサクラの力は、悪の組織の幹部達を次々と倒し、自分の実力に自信を付けていた。ついには一人で、手薄になったマージ・ジゴックの本拠地を破壊したのだ。

 

 今更狐の闇人ぐらい・・・と思っていたが、それでも悪の幹部。そしてあの銀狼の魔人の登場。

 

 これはもう自分一人だけの戦いではない。それを確信したサクラは、同じ覚悟を持つ一人の協力者と出会う。

 

 熊沢レイナ。南度固化市で警察として、そして退魔の使命を背負った女性。

 

 強く、美しく、優しく。

 

 ポジティブな三拍子が綺麗に揃うレイナにサクラは大きな憧れを抱いた。

 

 「レイナさん、大丈夫かな」

 

 再び海を遠く見つめ、また勉強に戻る。それを繰り返しながら、やはり頭の中は、新たな悪の誕生の危惧。

 

 「やっぱり、こうしちゃいられない。私もドーンとやろう!」

 

 思い立ったら即行動。それがサクラの良い所でもあり、悪い所でもある。

 

 日曜日。高校三年生の貴重な休日。

 

 大学受験や、将来の事を本気で考えるべきだが、それどころじゃない。不安があるなら取り除かなければならない。

 

 それが普通の人間に対処できない悪であるならば、正義の魔法少女の出番というもの。

 

 「やるしかないでしょ!」

 

 自宅を出るや、いきなり魔法少女に変身し、サクラは空を飛ぶ。

 

 レイナがいるのは中心の度固化市。先ずは合流だ。

 

 自分なりの正しさと、正義を胸に、魔法少女サクラはマジカルステッキに跨り、飛び出す。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「ごめん、なんか体調悪いかも・・・」

 

 時間は夕方、正確には16時を回る頃だろうか。

 

 あれから諦めず俺とカエデは、ヘルブラッククロスのアジト捜索をしていたが、カエデの顔色が悪くなる。

 

 「おいおい、風邪か?最近春風邪流行ってるからな・・・」

 

 正義のヒーローとて、やはり人間だし、風邪ぐらい引いても当然だ。

 

 冬が開ける前からずっと戦ってたらしいし、少しは休んでほしいな。

 

 「でも、大丈夫よ。あたしは風邪には敗けないし、悪にもイッキシ」

 「風邪は引きはじめがどうとか言うしな。今日はもう帰れよ」

 「何よ、別に大丈夫よ」

 

 だから帰れよ。もしこれで戦闘になるなら、マジ庇えないぞ。

 

 「大丈夫よ。少し喉と鼻と頭が痛いだけなんだから、これぐらい」

 「いやもう帰れって。俺ももう帰りたいし」

 「へん、アンタはいいわよね、この季節でベランダで寝てても風邪ひかないし」

 「怪人の免疫力、強いからな」

 

 そうじゃないが。

 

 「あのな、ここでもしお前が倒れたら家まで運ぶの結構大変だぞ。無理すんなって。戦闘でもそうだけど、今はヘヴンホワイティネスを休業するべきだと俺は思うぜ」

 「それもそうだけど」

 

 食い下がらないのはカエデの正義感が強いからだろうな。その気持ちはいつまでも忘れないで居て欲しいけど、風邪は悪化すると辛い。

 

 「だーかーらー、心配になるような事すんなって。お前ら昨日も一緒に居たんだろ?レンから風邪貰ったんだよ」

 

 間違いなく土曜日にレンとカエデがでかけた時点で、レンの風邪が感染ったに違いない。

 

 ついでに、ミドリコも。

 

 いやー風邪引かないっていいなー。俺は怪人だからインフルとかがギリ流行る3月でも、ベランダで寝てても問題ないし。え?ベランダで寝る方がおかしい?ハハハ、怪人なら普通ですよ、奥さん。

 

 怪人じゃねーよ、人間だよ。

 

 「うう、アンタに心配されるなんて・・・」

 「これはもう勝ち負けとかの問題じゃないし、しょうがねーさ。また回復したら活動再開しようぜ」

 

 本心から俺は言う。本当に無理しないでほしいし、なんだかんだ一緒に居れないと俺が寂しいからな。

 

 それに、ヘヴンホワイティネスに未だ俺の居場所は無いに等しいしな。

 

 「俺一人でも、戦闘になったら無理はしないし、うまく逃げるからさ。今日はもう休もうぜ」

 「別にギンジの事は心配してないわよ」

 

 あーそうですか。顔は可愛いのに、平気でこういう事言うから、たまにイラッと来るぜ。

 

 (何よこいつ・・・心配してるような素振りで、仲間にでもなったつもり・・・?あーだめだ、ぼーっとする・・・)

 

 何やら視線も強いが、まだ信用は得られないか・・・。

 

 ならば、これはどうだろう。怪人人間ギンジのジョークで笑わせてやるぜ!皆これを聞いたら抱腹絶倒!

 

 全然関係ないけど、報復絶刀って武器かっこいいな。リコニスの刀なんだけどね。

 

 「しょーがないなー神宮さん、俺がご自宅までお送りしてさしあげ・・・」

 

 カエデの様子が変だ。明後日の方向を見上げて、フラフラしてる。

 

 「ご、めん・・・家まで送ってくれるかしら」

 「冗談抜きでやばそうだな。解ったよ、任せろ」

 

 カエデのおぶると、体温の高さが伝わってくる。

 

 っていうかこいつの家知らねーわ俺。

 

 「終わった・・・」

 

 マジで家の住所わかんないな。カエデのスマフォ触ると何言われるかわかんないし、しょうがない。

 

 「ミドリコの家まで連れてくか」

 

 呼吸も荒いし、熱もあるし、声も変。

 

 もっと早く気付けていれば、こんな事にはならなかったかもな。俺ももっとちゃんとしよう。

 

 (こいつら遊びの、正義のヒーローごっこをやってる訳じゃないしな)

 

 繁華街を抜けて住宅街エリアに行くと、空は暗くなりつつあった。

 

 その間もカエデは荒い呼吸で、完全にダウンしている。

 

 「・・・あれは」

 

 ずり落ちていくカエデを背中に背負い直し、少し空を見上げれば、ある影を視認できた。サングラス越しでも解る明らかな異様な存在。

 

 「怪人か・・・」

 

 ミヤコが造った空を飛べる怪人はコウモリの怪人だけの筈だ。と、すると奴はコウモリの怪人。

 

 ここにいるとバレると不味いから、俺はカエデを刺激しない様に急ぎ目にミドリコのマンションに帰る。

 

 「入るぞ」

 

 静かに扉を開けてからリビングに入ると、机にミドリコが。まだレンは寝てるのだろう。熱もあるだろうし寝といてくれ。

 

 「コホ・・・ギンジ、おかえり」

 「おう、ただいま。悪いんだけど、カエデを頼みたい」

 「あ、ああ、それはいいが」

   

 おぶるカエデをソファに寝かせると、毛布をかぶせて俺はリビングを出ようとする。

 

 「ギンジ、どこへ行くんだ?もうすぐ夜だが」

 「悪い、近くでコウモリの怪人が飛んでるんだ。ここがバレると色々まずいからよ、追っ払っとく」

 

 それに、おそらくだがコウモリの怪人の目当てと言うか、目的は俺だろうしな。

 

 それだったら戦闘にならなくとも、わざと俺だけバラして、あとは適当に逃げ回ってても問題無さそうだし、少し住宅街エリアから離れよう。

 

 (こいつらにあまり不安な気持ちにさせるのも悪いしな)

 

 ミドリコに後のことを任せると、俺は部屋を飛び出す。

 

 「ふむ・・・ここの近くにも怪人か。そろそろ場所を変えないと、駄目かも知れないな」

 

 痛む喉と戦いながらも、カエデに冷えピタを貼り付けるのを見てたら、余計にこいつらを守りたくなった。

 

 大事にはしないから少しだけ待ってろよ。

 

 外に出ると外は暗く、本格的に夜になっていく。

 

 怪人も本腰入れて活動する時間帯で、俺は嫌な事を想像する。まるで、3月9日の様な、何かの違和感。

 

 そう、ゲームの通りに行かないイベントの事を、思い出していく。

 

 4月20日。この日のイベントは何かあったかと、頭の中で記憶をさぐるもあまり思い浮かばない。

 

 「これはもしかしたら、家から離れたのも正解かわかんねーな」

 

 でも今はコウモリの怪人。あいつをミドリコ達の自宅から、遠ざけないといけない。

 

 何かしらの嫌な事への覚悟をしとかないといけないかもな。

 

 まだ何が起こるのかわかっちゃいないけど、とにかく俺はコウモリの怪人が飛んでる近くまで走っていくことにした。

 

 仮に戦闘に持ち込んでしまったとしても、戦うのは住宅街エリアじゃ絶対に駄目だ。

 

 (騒ぎを聞きつけたら、カエデもレンもきっと正義感で動くに違いないし、これで無理されてあいつらのどちらかが攫われて、孤立するような真似だけは阻止したいしな)

 

 コウモリの怪人がどこに向かって飛んでるのか解らんが、俺の存在をバラしてやらないとな。

 

 そんで、このエリアから離す!これしかないな。

 

 俺は走る力を強めてコウモリの怪人をめがけて、突き進み一つの戦いへと挑む所だった。

 

 この住宅街エリアを飛んでるのには、きっと何かしらの命令と、俺の捜索の可能性が非常に高い。

 

 コウモリの怪人はまだフェーズ1のままのはずだ。

 

 だとすれば、ミヤコの命令なくコウモリ野郎が勝手に外に出られるわけない。

 

 ま、正直な事言えば戦わないに越したことないんだけどさー。

 

 ヘルブラッククロスがまた悪事を働くなら、正義のヒーローヘヴンホワイティネスの出番だ。

 

 夜の住宅街を走り続け、俺はコウモリの怪人を追いかけるのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 住宅街エリアを抜けて、工場エリア。様々な工事現場があり、土地の改装や、企業の工場、工場などが並ぶ人気のない暗い場所。

 

 満月の光が鉄骨で組み立てられ、内装がむき出しになった部屋を怪しく照らす。ボロボロになった建物、廃工場には3つの人影が揃う。間違いなくそれは人間ではなく、怪人。

 

 「キキキ、今夜は力が溢れそうだ」

 

 コウモリの怪人が薄暗いむき出しの部屋にて、もう2つの影に向かって口を開く。

 

 「ええ、まったくもってその通りですね。わたくしも力が溢れそうですよ」

 

 続いて狐の闇人が壁を背にして、芝居の様な態度でおどけてみせる。

 

 「オレも今日ばかりは、存分に暴れられそうだぜ」

 

 更に銀狼の魔人が腕組みしながら、鉄骨の上でギラリと牙を見せる。

 

 その口元は血で濡れている。

 

 「銀狼さん、また何か食べたんですか?」

 「いんや?捕まえようと思った女が、こう、無駄に抵抗するから、首にかぶりついてやっただけだぜ。そしたら、動かなくなっちまったんだぜ」

 

 好き放題に嬲ると満足するのが、ここにいる異人三人。

 

 どんな目的でも、女でも男でも自分の何かしらの欲求を見たせれば、後はなんでもいい。

 

 そうすればゴミの様に人間を捨てる。

 

 女ならばまだもう少しだけ利用価値はあるのだが、それも壊れるまで満足するまで扱う。

 

 口元の血を拭うと銀狼の魔人の視線は、上空へ向けられる。その視線の先には雲がかった満月。

 

 「ひとつ吠えたい気分だぜ」

 

 牙を鳴らしてそれに呼応するように、コウモリも狐も羽や尻尾を反応させる。

 

 悪の心を持った三人がそれぞれの思惑の中、いやらしい笑みを浮かべる。

 

 彼ら三人が集まって行動しているのには訳がある。

 

 「ところでよォ、あのドクターって女の子やけに顔がいいな。この作戦が完了したら、オレが食ってもいいのか?」

 

 銀狼の魔人の失礼な物言いに、コウモリの怪人の眼が見開き怒りに飲まれる。

 

 「キキキ、ぶち殺すぞ狼。あのお方には将来を約束している怪人がいる、お前ごときがおこがましい」

 「おや、是非その怪人の事をお聞かせ願いたいですね。ミヤコ様へのいい交渉材料になりそうだ」

 

 相変わらず演技じみた喋り方に、芝居の様な動作で狐の闇人が二人の間に割って入る。

 

 「でも、その話は後にしましょう。今は余計な事を喋っている場合でもないですしね」

 

 銀狼の魔人とコウモリの怪人は放っておくと、直ぐに喧嘩じみた言い合いを始める。

 

 ヘヴンホワイティネスを倒すためのお目付け役とはいえ、狐からしてみればコウモリよりもドクターミヤコの側近であるオーク怪人や、それと同じ実力を持つフェーズ2と呼ばれる怪人の方が良かったのは事実だ。

 

 言葉にも表にも基本出さないが、コウモリでは役不足。そう思っていた。

 

 「それでコウモリさん」

 

 狐が銀狼をいさめるとコウモリに向き直る。

 

 「件のヘヴンホワイティネスとやらはいつ現れるんですか?」

 

 今日はドクターミヤコの命令どおり、コウモリが日中飛び回り存在のアピールをしていた。戦わずともおびき寄せればそれでいいからだ。

 

 「今日は方方で飛んだが、姿が現れなくてな」

 

 首をかしげながらコウモリは羽で身体を包む。

 

 「あんな女の子の命令通りじゃなくてもいいと思うぜ。姿を出したなら、大暴れしちまえばいいんだよ」

 

 銀狼の不遜な言葉遣いがいよいよ、コウモリの堪忍袋の尾を破壊する。

 

 「キキキ、いい加減言葉使いを改めるんだな。ヘヴンホワイティネスを倒すのに、お前の力は元々いらないのだ」

 「へぇ、それじゃあどうすんだ?ええ?」

 

 二人が再び言い争いを始める。その光景を今日何度も見ていた狐の闇人はもう止めるのも面倒といった素振りを見せている。

 

 「こうしてやる!」

 

 コウモリが跳躍し銀狼の肩を掴むと、高い位置から飛び立つ。

 

 「死ぃいねぇ!!」

 

 滑空の勢いでコンクリートの道に、銀狼を叩きつける。

 

 砕けたアスファルトが塵となり、煙が舞うがその中から銀狼の魔人が眼を光らせてコウモリへと噛みつこうと、大きく飛ぶ。

 

 「決めたぜ!例のヘヴンホワイティネスより、まず先にお前をぶっ殺す!!」

 

 異人同士の喧嘩など犬も食わない。

 

 狐から見える二人の実力はおそらく同じレベル。戦闘における能力の違いで言うならば、地上で銀狼が有利、空中でコウモリが有利と言った所。

 

 「ま、暴れれば出てくるかもしれないっていうのは、我も同じなんですけどね・・・」

 

 ヘルブラッククロスに席を置く以上は、言うことを聞こうと思っていたが、暴れずに存在感だけアピールせよ、という命令の内容には首をかしげざるを得なかった。

 

 ドクターミヤコはついでに手に入れたい【ある人物】が居るとか言っていたが、もしかして女性同士が好みなのだろうか。

 

 (うーん、あの人の事はよくわかりませんね)

 

 その【ある人物】を手に入れる時に怪我されたは困る・・・とのことだからなのか、それとも手荒につかまえてもいいのか解らないが、気になるところだ。

 

 建物の外で暴れる二人を見やると、そろそろ決着・・・というか、喧嘩が終わろうとしていた。

 

 「ハァハァ、お前なかなかやるじゃないか」

 「キキキ、貴様こそ・・・ヘヴンホワイティネス以外で苦戦させられたのは、ギ・・・いや、お前が初めてだ」

 (ギ・・・?変ですねぇ、今なにか言いかけた様な・・・?銀狼?いや、違いますね。何か匂う)

 

 狐の勘が何かを伝える。

 

 前から思っていたが、ヘルブラッククロスは何かを隠している。

 

 それは目的とか、物とか、作戦とか、切り札とかそういうものではない。

 

 何か、ソレ以外の何かを狐と銀狼に隠している。

 

 「マジカルマジカル〜・・・」

 

 何かの聞き覚えのある声が聞こえる。

 

 「この声は!!」

 

 忌々しい少女の声。汚らわしいのにマージ・ジゴックを紙くずの様に蹴散らしたあの声・・・。

 

 「魔法少女サクラか!」

 「ピンクミサイル!」

 

 狐の驚愕の声に合わせて、魔法少女の必殺技が飛んでくる。命中したのはコウモリと銀狼にだが。

 

 (まだ隠れていて正解だな・・・すまない、銀狼、コウモリさん)

 

 影に隠れるように、狐の闇人は気配を消す。

 

 「お前が狐の闇人だな?今度は間違えない」

 「何!?」

 

 狐の真後ろから、低く落ち着いた女性の声。

 

 気が付かない内に背後を取られ、呆気に取られる。

 

 「破邪の剣!!」

 

 虹色の鞭の様な剣を振り回し、狐へ容赦なく攻撃を繰り出す。

 

 前転するようにその攻撃を避けると、逆さまになった視界から見えたのは、白い修道服によく似たコートを着た、髪の長い女性の姿。

 

 「なるほど、退魔警察というのは、貴女ですか」

 

 壁のない建物を飛び出ると、コウモリと銀狼の居る場所まで降り立つ。

 

 「大丈夫ですか、お二人とも」

 「キキキ、いったい何が。これはヘヴンホワイティネスの攻撃ではないねぇ」

 

 コウモリの怪人が頭を抑えながら、煙を振り払う。

 

 「オイオイ、どこのおバカさんだ?」

 

 続いて銀狼の魔人も撃ってきた相手を見据える。

 

 目に入ったのは桃色の魔女装束に身を包んだ少女。魔法少女サクラが勝ち誇った様な笑みで三人の異人達を見ていた。

 

 「おい、狐、あれが魔法少女とかいう女の子か?」

 「ええ、そうですよ。忌々しい・・・ここまで追いかけてくるとは」

 「へへ、美味そうじゃねぇーか。どれ、剥いてやるか」

 

 言うと、全身の筋肉を膨張させて四足体制で、サクラの方に突進する。

 

 サクラが身構えるよりも早く、その横を通り過ぎて行く、もう一つの影。

 

 銀狼の魔人が大牙を開けて、突進してくるもサクラを守るように現れたその影は、銀狼の魔人の眉間に踵落としを綺麗に命中させる。

 

 「グルゥルォ!?」

 「オイワンちゃん!伏せ!」

 

 見ればその影は間違いなく姿は人間、脚力は人間以上。

 

 「お前ら二人とも早いなぁ。せっかく勘違いを解決できたんだから、もっと浸ろうぜ」

 「ナハハ、ごめんねギンジくん。でも、私達、悪は見逃せないの」

 「そうだね。でも、佐久間さんが敵じゃなくてよかったよ」

 

 レイナもサクラとギンジの前に降り立ち、ギンジは銀狼の魔人を蹴り飛ばす。

 

 「貴方を止めるとは、相当強そうな相手ですね」

 「おう、あの男は強そうだ。オレが闘りてぇ」

 「キキキ、ドクターの目的がここに・・・これは好都合だ」

 

 三人の異人達が、サクラ、レイナ、ギンジを見据え、臨戦態勢に入る。

 

 「で、どれが俺の相手になるんだ?」

 「私は狐と戦うわ。今度こそ決着つけるんだから」

 「では、私もゲヘナミレニアムと決着をつけよう。忌々しい悪を滅ぼさないといけないからね」

 

 正義の志を持つ三人が、コウモリ、狐、銀狼を見据え臨戦態勢に入る。

 

 満月の夜の決戦が始まろうとしていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 くっそーコウモリの怪人どこまで飛ぶんだ?

 

 俺は走りながらあいつが降りるところまで、追いかけようとしていた。もしかしたらアジトの場所も解るかも知れないし、それと同時にミドリコのマンションから遠ざける事もできるかも知れないし。

 

 ついでに戦うことになるかも知れないし。

 

 「っというかコレだんだん工場エリアまで行ってないか?」

 

 おとなしく帰ろうかな。住宅街エリアもそろそろ抜けそうだし、なにより面倒ごとが起きないならそれでいいやな。うん。

 

 コウモリの奴は未だに飛んでるし、これ以上追いかけても意味はなさそうだし。

 

 そう思ったらもう帰りたくなってきた。何もならないなら、カエデ達が心配だし、もう帰ろう。

 

 「よっしゃ、帰ろう・・・」

 「居たぞ、あの男だ」

 「オッケーレイナさん。マジカルマジカル〜・・・」

 

 え?何?俺何か狙い撃ちされようとしてる?

 

 (まさか、待ち伏せ!?)

 

 しまった、だとしたらコウモリは最初からわざと俺に気づいて、俺をここまでおびき寄せられたのか?

 

 「ピンクフィール・スナイプ!」

 「あぶねぇ!!」

 

 ピンク色の弾丸が俺の頭を目掛けて発射されてきた。

 

 避けてなかったら死んでたかもしれない。コンクリートに綺麗な穴あいてるもん。

 

 「え、嘘・・・今避けたよ」

 「今度は私が出る。狐の闇人とやらを止めるぞ」

 「ちょ、ちょっと待て!!」

 

 白い修道服?シスターみたいな女性が、俺に向かって突っ込んでくる。

 

 「あんた、多分だけど昼間にぶつかった人だよな?」

 「破邪の剣!」

 

 白い鞭の様な、でも鋭利な刃物みたいな物で俺を攻撃してくる。

 

 防御は・・・できそうにないな。

 

 俺が後退しながらも、脚の付く場所を目掛けてその刃を飛ばしてくる。

 

 上手く転ばせてダウンを取る戦法か、強いなこの人。

 

 おまけにもう一人隠れながら、俺に目掛けて遠距離攻撃を連発してくる。 

 

 「お前が狐なんだろう!姿を表わせ!」

 「狐!?俺は人間だ!っていうか、攻撃すんなあぶねーって!」

 

 ピンク色の弾丸が絶え間なく飛んでくるし、それが止んだかと思えば、再び光の刃で攻撃してくる。

 

 お互いのクールタイムに俺を近づけさせない様に、交代しながら攻めてくる。

 

 いい連携だけど、カエデやレンとミドリコには遠くおよばないかなー。うわあああ。弾丸かすった!怖ぇえ。

 

 「この!いい加減にしな!」

 

 このままじゃラチが開かない。足元のコンクリート片を蹴り上げて、さらに地面を踏みつける。

 

 想像通りなら、1mちょっとのコンクリートが持ち上がるはずだが。

 

 「な、なにあれ!?」

 「飛び道具とはこざかしい」

 

 二人の目の前にはコンクリートの破片と1m少しの壁。

 

 「悪いな、攻撃する気はないけど、おりゃ」

 

 シスターへ向かって壁を蹴り飛ばすと、直ぐに横転。そのまま、隠れてるもう一人へ向かって突き進む。こういうのは後衛を叩くのが先決だ。

 

 壁は思っていた通りシスターにぶつからず、寸前でバラバラにされている。

 

 だけど、壁を気にした時点で。

 

 「お前らの敗けだ」

 

 尖ったコンクリート片を持ち上げ、もう一人の方へ近づき頭に構える。

 

 何されても俺はこいつらに攻撃はしないが、逆上されたら嫌だな。

 

 「ご、ごめ〜ん。後ろ取られた・・・」

 「っ!?サクラ!」

 

 なるほどこの子はサクラって言うのか。ん?サクラ?どこかで聞いた様な。

 

 そんなサクラとか言う女の子はいかにも魔法少女、という言葉が似合う服装をしていた。

 

 「卑怯物!か弱い女性にそんな事して恥ずかしくないのか!?恥を知れ!」

 「問答無用でいきなり攻撃してきたのはそっちだろ、オネーサン」

 

 二人の警戒はそのままだが、俺はとにかく今直ぐ攻撃をやめてもらいたい。

 

 「とりあえず、攻撃しないなら俺は話を聞けるぜ?何がなんだかいきなりだったから、わかんないけども」

 「・・・サクラ、どうする?」

 「レイナさん、この人、違う・・・」

 

 違う?なんのことだろうか。

 

 「この人、狐の闇人じゃない・・・」

 「え・・・じゃぁ、君は・・・」

 

 ポカーンと目を丸くする、レイナとかいうこの綺麗な女性。レイナって名前もどこかで・・・。 

  

 うーん・・・思い出せない。

 

 「君は・・・狐じゃないなら」

 「多分、人違い?」

 

 この二人からの戦意が収まるのを確認すると、俺もブロック石を近くに転がすと見目麗しい女性達の話を聴くことにする。

 

 「私は熊沢レイナ。さっきも繁華街であったね」

 「あんた宣教師かなにかか?」

 「いや、申し訳ありませんでした。人違いとは言え攻撃するとは」

 

 いやーいいんだけどさ。

 

 でもなんで攻撃されたのか気になるな。

 

 「本当にごめんなさい。あ、私は小町サクラ。そしてこの人が熊沢レイナさん。あなたは」

 「俺は佐久間ギンジだ。で、なんで俺を攻撃してきたんだ?」

 

 丁度いい高さの廃材に座りながら、俺は二人を見る。

 

 「で、見た感じ、ヘルブラッククロスとかじゃあ無さそうだし、おそらく正義の味方ってとこじゃないか?何者なんだ」

 「あの組織について知っているのか・・・」

 

 レイナが険しい顔つきになる。彼女も廃材に持たれる。

 

 「ヘルブラッククロスって、この街に潜む悪の組織だよね?」

 「なんだ、あんたも知ってたのか。ヘヴ・・・いや、なんでもない。二人はヘルブラッククロスでも追いかけてたのかな?」

 

 この二人の目的がわからない以上、俺が怪人と睨んで襲ってきた可能性もあるからな、聞いとくに越したことはない。狐っていうのが気になるが。

 

 「私達、実は・・・」

 

 サクラが口を開く。話を聞いたら俺はまったく信じられない気持ちになった。

 

 先ず、この度固化市はもっと大きな街だったという事実。

 

 そして北と南にはヘルブラッククロスに並ぶ、悪の組織の存在。

 

 マージ・ジゴックとゲヘナミレニアム。さらにその2つの組織と戦う正義のヒーローポジションがあと二人も居た。

 

 魔法少女サクラと、退魔警察レイナ。

 

 サクラの方は表向きは今月で高校三年生になった、普通の一般市民。

 

 熊沢レイナの方は表向きは南度固化警察署で勤務する刑事。

 

 その2つの組織は既に壊滅させられたとの事だが、どうやら残党が逃げたとの事。

 

 そして熊沢レイナの話では、今までその2つの悪の組織は、ヘルブラッククロスとも事あるごとに協力体制にはあったとのこと。

 

 それぞれの組織では闇人、魔人と呼ばれる存在も居るとの事。

 

 ヘルブラッククロスで言う所の怪人かな?と、するとドクターミヤコみたいのが本来は三人もいた事になるのだろうか?

 

 俺の知ってる情報とは全く異なる展開に、俺の頭の中ではハテナマークが脳みそを半分こにして、踊っている様な気分だ。

 

 残党にしたって狐?銀狼?闇人?魔人?なんだそりゃ。

 

 「私からも聴きたいのだが、君は何者なんだ?魔人の様な力も感じるし」

 「闇人の様な魔力も感じるよ・・・」

 「俺は・・・」

 

 俺の事情も話すべきだろうか。

 

 (あーもうめんどくせーな。これ話してまた敵視されるのも嫌だしな・・・)

 

 あ、いいこと思いついた。

 

 「俺は、正義のヒーロー・ヘヴンホワイティネスの協力者だ」

 『協力者?』

 

 二人がポカンとする。それはそうかもしれないが、もし俺がヘヴンホワイティネスです、と言えば何かしらカエデやレンやミドリコに迷惑がかかるかも知れない。

 

 でも協力者と言っておけば、常に行動しているとかは解らないだろうと、浅知恵かも知れないけどこう言っとけばまぁ大丈夫だろう。

 

 「それでは、あの正義のヒーローの味方なのかね!」

 「わぁ〜いいなぁ!私達も正義の為に戦ってたから、こういう親近感湧くのは嬉しいな」

 

 でも俺協力者だから。仲間とは認められてないから、声を大にしてヘヴンホワイティネスです!とは言いづらい。

 

 「ならば昼間の疑問は拭いされたよ」

 

 レイナが納得といった表情で俺にうなずく。

 

 「私達、さっき説明した狐の闇人を倒すためにここまで追いかけてたの」

 「丁度探していた所に、ギンジが曲がり角から出てきてな。サクラと合流の後に、勘違いとは言え攻撃してしまった」

 

 それで俺を追いかけてわざわざ隠れてまで、不意打ちしたのか。

 

 「それで、ギンジくんはこんなところまで走って何をしていたのかな?」

 「ああ。コウモリの怪人・・・っていうのが居てな、そいつを追いかけてた。俺の今住回せてもらってる人の家の近くまで飛んでたからよ、追っ払っとこうと思ってな。そんで追いかけてたら、サクラとレイナに襲われたって事だ」

 

 あ、呼び捨ては不味かったかな・・・?ま、いいか。向こうも俺をギンジって呼んでくれてるし。もっと親しみ込めていいのよ?

 

 「そのコウモリの怪人というのはどこに向かったのか?」

 「多分、私の推測だがこの先の工場エリアじゃないかな」

 

 サクラの質問は俺に向けられた物だが、すぐにレイナが入ってくる。

 

 表向きは警察とか言ってたから、こういう推理力みたいのを働かせては、直ぐに行動できる様な能力が常にあるのだろう。

 

 うちの甘白ミドリコという公安警察とは偉い違いだな。

 

 まぁ、あっちは戦えないからゆえの、慎重な言動が多いのかもしれないが。

 

 「それじゃあ、さっきのコウモリの闇人が向かったかもっていう、工場エリア言ってみようよレイナさん、ギンジくん」

 「無論そのつもりでいるよ。ギンジはどうする?」

 「あー・・・ま、そうだな。俺もついていくよ」

 

 この展開は予想していなかったし、なにより銀狼だの狐だのとまた違う敵がいるなら、これを放っておくのも何か違う気がするしな。

 

 それにこの人達、サクラもレイナも正義を信じて戦ってるんだ。

 

 コウモリの怪人の向かった先に、狐とか銀狼とかがもし居たとして、そのまま交戦になるんなら、人数的にも不利になるしな。

 

 今回の件も、やっぱり戦闘になるかなー。痛いの嫌なんだよな。

 

 泣き言も言ってられないし、しょうがない、付き合おう。

 

 「それでは、やることは決まったな?行こうか」

 

 レイナが仕切り始める。

 

 なんというか大人の余裕だよな。このシスター。

 

 俺とサクラとレイナ。普段のカエデやレンとはまた違うメンツ。不思議な正義の志を持った三人で俺たちはコウモリの怪人が向かったであろう工場エリアに進むのであった。

 

 「今夜は満月か」

 

 ふと空を見上げると夜空は満月。

 

 (変な感じだが、なるようにしかならないな)

 

 覚悟を決めて、ヘヴンホワイティネス本編には無い展開に俺は挑もうとしていた。

 

 誰も死なせない。これだけを一先ずのミッションとして、俺はこの二人を無事に帰らせよう。

 

 (よーし、気合も入った。行くか)

 

 心の中で俺は気合を入れると、工場エリアへと三人で進むのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 頭痛がする。恐ろしく痛い。

 

 その痛みでカエデは目を覚ますと、そこは見慣れない天井の色と、なんだか寝心地の悪いベッド。それと寝汗。

 

 首にまとわりつく気持ち悪い水滴を手で拭うと、カエデは身体を起こす。

 

 「いや・・・これ、ソファじゃない」

 

 喉の痛みも鼻の痛みもあるが一人起きる。

 

 「ミドリコ、カエデが起きた」

 

 すぐ真後ろで顔色の悪いレンが、同じく顔色悪くキッチンにいるミドリコに声をかける。

 

 「おはようカエデ。と言ってももう夜だけど」

 

 苦笑しながら、生姜湯を淹れる。

 

 「あれ?ギンジは?」

 「ギンジなら近くで怪人がいるとかで、さっき飛び出したよ」

 

 ここまで運んできたのはギンジ。と言う説明を聴くとカエデが申し訳無さそうな表情をする。

 

 「あいつはどこに居るの?」

 「わからない。けど、ミドリコは知ってる?」

 

 レンとカエデの視線はミドリコに向けられる。

 

 「このマンションの近くで、コウモリの怪人が飛んでいたらしくてな、一人で迎撃しに行った・・・が、果たして一人で行かせてよかったのか」

 

 ミドリコの体調の悪さの顔が、不安な気持ちになる。

 

 「これで、彼が怪人を連れて来たら、と思うとな」

 

 もしギンジが実は裏切ってませんでした、となっていたらここが襲われる。

 

 襲われたらきっと今の状態ではまともに戦えないだろう。

 

 「でも、ギンジはカエデを、ここに連れて来た。もうそろそろ、信用してもいいのかも知れない」

 

 もしもカエデが体調悪いのを知っていて、怪人と鉢合わせになるなら、そのままカエデを引渡せばいいはずだ。それをしないで、カエデを預けるとギンジは一人で飛び出していた。

 

 (バカね・・・あいつ)

 

 少しだけ嬉しくも、少しだけ悔しい。複雑な感情がカエデの心を揺らす。

 

 カエデをここに置いていったのも、怪人に一人で向かったのも、ギンジなりの優しさだろうか。

 

 「ミドリコ。ゴホッ、私決めたわ」

 

 ソファから立ち上がり、テーブルに出された生姜湯を取る。

 

 「か、カエデ、それは私のだ」

 「もう一回淹れてもろて」

 「もろて」

 

 カエデが生姜湯を飲むと、ミドリコは新たにやかんにお湯を沸かし始める。

 

 レンも熱いそれをちびちび飲みながら、カエデを見やる。

 

 「決めた、って何を?」

 「よくぞ聞いてくれたわレン。あたしは少し考えたのよ。ヘヴンホワイティネスにはアジトが無いって」

 

 カエデの顔は体調は悪いままだが、新たな提案をミドリコとレンに突きつける。

 

 「我が家の財力を使って、アジトを作るわよ!」

 「じ、神宮家の財力を・・・?そんな事して良いのか?」

 「あたしがわがまま何度言ってきたと思ってるのよ。これぐらい家の人間なら、簡単に言うこと聴くわよ」

 

 胸を張りながら誇らしげに生姜湯を飲み干すと、再びソファへ。

 

 「なぜ急にアジトを?」

 「ここがバレて色々大変になりそうなら、怪人達がなかなか捜索範囲に入らない場所に家を立てればいいのよ。それに、あいつの寝る場所だって、ちゃんとしてあげたいじゃない」

 

 ベランダ。今はそこがギンジの寝る場所だ。

 

 今日家に送ってくれた事もそうだが、それ以前でも戦闘や、パトロールにて色々ギンジは助けてくれた。

 

 その恩がある、とまでは行かないにしてもカエデなりの考えでは、ギンジを信用してもいいと考えていた所でもあった。

 

 「でも、お金とかの問題も」

 「引っ越す時に色々相談すればいいわ。なんだったらあたしが出せる分は協力したげるしね」

 「カエデはたまに、こういう時頼れる」

 「たまに、は余計よ」

 

 三人は気楽に笑うと、そのままアジトの内装やら、部屋の数やらで相談し始める。

 

 一方のギンジは今まさに戦いに入ろうとしているのを、ここの正義の為に戦う三人はまだ知らない。

 

 「ところで、時間は大丈夫なのか?」

 「あとで家の者が迎えに来るわ。心配しないで」

 

 ミドリコの問いかけにカエデがさも当然と言った様に答える。

 

 (あ、っていうか完璧にダウンする前に、携帯で家に連絡すればよかったわね)

 

 うっかりしていたが、あの時冷静じゃなかったし、しょうがない、と頭の中でうなずく。

 

 (それと・・・)

 

 後でギンジにもお礼を言っておこう。

 

 机の上では三人分の生姜湯が湯気を出し、部屋の中に温かい優しい香りが漂っていた。

 

 「それより、ギンジはまだ帰ってこないの?」

 「同意。私が起きてから、1時間は立っている。連絡は?」

 「そういえばギンジは携帯とか持っていたかな?」

 「あいつ・・・お金も無かったんじゃない?」

 

 三人の中で沈黙。

 

 「これはまずい事になったかも知れないな・・・」

 

 ミドリコが絶望の表情をする。

 

 「ハァ。解ったわよ、あたしがあいつのスマートフォンとかも用意するわ・・・」

 

 とりあえずは今ギンジが、無事に帰ってきてくれればそれでいい。  

 

 深呼吸して今後の事を考え始める。

 

 窓の奥は暗い。様々な家で明かりが付き、夜であることを確認できる。

 

 「さて、そうと決まれば先ずはヘヴンホワイティネスを休業するわよ」

 

 先程ギンジに言われた事を思い出し、カエデはレンとミドリコに言う。

 

 「了解。体調が悪いと、まともに戦えない」

 「カエデの言うとおりだな。私も本業に戻るためにはちゃんと休まないとな」

 

 カエデの真意を汲み取り、二人はうなずく。

 

 ギンジのいない所でヘヴンホワイティネスが、新たな計画を実行する。

 

 休業。彼女らもまた人間なのだ。体調が悪いなら休むべきだろう。

 

 今までは体調不良を押してでも戦う事もあったが、ギンジの加入で今の所は無理しないで戦えていた。しかし、いま新たに頼れる人がいるからこそ、カエデ達はちゃんと休むことができる。

 

 後はギンジを仲間として迎え入れるだけだが、まだそれはいいだろう。

 

 「アジトができたら・・・言ってあげようかな」

 

 二人には聞こえない様に呟く。その表情は体調不良とはいえ、優しい普段の神宮カエデの笑顔だった。

 

 

続く

 

 

 




お疲れ様です。アトラクションです。
同じぐらいのボリュームで次回も入ります。

今回のお話を書くにあたり、後付設定になってしまったわい。思い付きで書いてるとこうなるからアレほど構想練る時はしっかりしろって言ったのに!って過去の自分に言いたいですね。

キャラネタ書きます
小町サクラ
ゲーム・魔法少女サクラに登場する主人公。高校三年生にしてはスタイルが弱い。貧相とか言ったらマジカルされる。
好きな食べ物はアズキアイス
この世界においてはマージ・ジゴックとの戦いに勝利した。

熊沢レイナ
ゲーム・退魔警察レイナに登場する主人公。
修道服は彼女の趣味。
好きな食べ物は豚骨ラーメン、ハンバーグ、焼き肉、餃子、パスタ、男
この世界においてはゲヘナミレニアムとの戦いに勝利した。

次回も頑張って投稿するぞえ!
アトラクションでした!
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