正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちは、アトラクションです。

敵が恋に落ちてるけど、裏切らない、組織の為に。

そんなお話になっています。

それでは、どうぞ!


80・初めは愛を知らずに孤独だった

 中央度固化市、繁華街エリア。

 

 季節は夏休みシーズンの終盤という事もあってか、最後の夏休みを堪能しようと、家族や学生、若者も大人もごった返している。

 

 そのはずだった。

 

 この街を守り続けていたヘヴンホワイティネスと呼ばれるヒーロー達が、3日ほど姿を消した事が災いの前触れとなり、今ではヘルブラッククロスの戦闘員が闊歩し、堂々と悪事を働く治安の悪い街になりつつあった。

 

 8月30日。夏の終わりを緩やかに告げるこの日に、悪の警笛が大きく鳴り響いている。

 

 それでも商魂たくましい店は意地でも営業を続け、またある店は悪に屈して逃げ出してしまっていたり・・・。

 

 道の真ん中に噴水のある目立つエリアは、その噴水を囲む様にして様々なお店が複数立ち並んでいる。円がたになった繁華街エリアの一箇所には、今まさに家族連れを襲おうと、突如として暴れまわる黒い地獄から呼び出された者達が、その悪の手を伸ばそうと襲撃を開始した。

 

 ヘルブラッククロス。ついに公にその姿を表した彼らは、怪人という人の手に負えない超常的な怪物を使ってまで、この中央度固化市に絞って積極的な活動を開始している。

 

 理由はただ一つ。

 

 「良い女を捕まえれば、一人10万だ!」

 「金銀財宝を献上すれば、一人5万!ついでに略奪品の分前もあるぞ」

 

 戦闘員達がそれぞれ武器を片手に、繁華街エリアを走り出す。

 

 黒い川の様に勢いついた悪は、一般市民にまでその手を出そうと迫っているのだ。平和で美しく、人の集まるこの場所に・・・戦闘員の魔の手が恐ろしく大きく伸びていた。

 

 だが・・・。

 

 「バッター・背番号4番。赤鬼選手、入ります」

 「ヌハハ、思い切りかっ飛ばすぞい」

 

 2人の正義の光が、悪の闇を殴り飛ばそうとここに正義の鉄槌のひと振りを降ろしに来た。

 

 くすんだ金髪にツーブロックのヘアスタイル。さらには見た目の悪さを大きくさせるオールバック。

 

 シルバーフレームのサングラスもいかつい見た目に拍車をかける。

 

 黒い七歩袖のシャツを着て、その表情はサングラス越しでも解る程に、怒りにあふれている。

 

 その怒りに同調する様にしている、隣の赤い肌の大男は雄々しい一本角に黒い甚兵衛を着て、身長はゆうに2mは超えていそうな大柄。

 

 太く強い赤い身体に見た目以上の重さを積まれた、ギラギラ輝く獲物はオリハル金砕棒。

 

 「家族の幸せを奪うんじゃねぇよ、このポンコツがァ!」

 「やっちまえ赤鬼!」

 

 ここに現れたのは元ヘルブラッククロス、佐久間ギンジと赤鬼。

 

 ヘヴンホワイティネスとして活動する彼らは、この街に舞い戻ってきた。これ以上ヘルブラッククロスの悪事によって人々が、涙を流さなくても良い様にする為に、正義のヒーローが現れた。

 

 ただしその登場は誰もが想像する華やかなモノでは一切無く、とてつもなく暴力的な登場だった。

 

 赤鬼が誰にも眼もくれず走り出す戦闘員の仮面を、思い切りフルスイングで叩き抜くと、店を貫いて破壊を見せつける。

 

 その事でようやく元・ヘルブラッククロスの2人を見つけた戦闘員が、相変わらずお決まりの言葉を言い放つ。

 

 「ギンジが居たぞ!殺せ!」

 「人気者ですね、兄貴」

 「嫌な人気だけどな!」

 

 一般市民や略奪を一度止めて、一斉に戦闘員達がギンジと赤鬼に振り向いて攻撃を開始する。

 

 うんざりする程の数の多さだが、それでも戦闘員ごときでは最早ギンジを止めることは出来ない。

 

 「ウラァァーー!!」

 

 爆炎と電撃。そして金棒に、月光。

 

 果ては怪人としてありえない動きと、反応の速さに加えて戦闘員を見えない何かで浮かばせたり、空に【落とす】様な能力までをも駆使している。

 

 「オラオラ、ヘヴンホワイティネスの登場じゃい!邪魔ァすんな!」

 

 赤鬼も空気ごと戦闘員を叩き砕き、一般市民を助け出している。

 

 「くっ!我々では止められないか。行け!鎧の怪人!」

 

 戦闘員のリーダー格である男が指示を出すと、暗黒騎士型鎧の怪人がギンジに向かって飛んでくる。

 

 長斧を振り回して噴水を斬り崩し、辺りは水道管斬烈により雨の様に水が降り出す。

 

 漆黒の西洋鎧に身を包んだ鎧の怪人は、ギンジにもう一本の長斧を構えて、突き出す様にして狙いを定める。

 

 まるでその姿をしてギンジにかかってこいと、挑発している様にも見える。

 

 「兄貴、戦闘員はサクっとぶっ叩いておきやす。そちらは任せやすぜ」

 

 赤鬼が逃げ遅れの一般市民達を、繁華街エリアの向こう側に追い出すと、戦闘員達がソレ以上先に行かない様に壁になる。

 

 後ろは赤鬼に任せておけば安心だろう。彼はヘヴンホワイティネス屈指の武闘派であり、ヘヴンホワイティネス最大の壁の役割も同時に果たせる心強い仲間だ。

 

 斬られた噴水の管を踏み潰した鎧の怪人が、再びギンジに刃を向ける。噴水の雨はこれにより完全に止まり、後に残るのはギンジと鎧の怪人の間の熱気だけだ。

 

 両手に握られた長斧をギンジの前で交差させて、ギンジも金棒を取り出す。確実に命を狙いに来ている鎧の怪人にたいして、ギンジはかなり余裕な態度を見せている。

 

 今更鎧の怪人ごときに、遅れを取る事等そもそもの話しでありえない事なのだから。 

 

 「よし、さっさとぶっ飛ばして、ヘヴンホワイティネスの旗を建てるぞ」

 

 金棒を強く握り、ギンジと鎧の怪人は同時に駆け出した。

 

 お互いの正義を貫く為に、2つの勢力が激突を開始した。

 

 長斧がギンジの顔を捉え、その刃が突き出された。確実に肉と骨を叩き割る様な音が、広場に響くと戦闘員や店に隠れる一般市民達が驚愕する。

 

 ただ一人赤鬼だけは、牙を見せつける様にしてニヤリを笑みを見せている。

 

 骨も肉も砕けたのは、暗黒騎士型鎧の怪人。

 

 ギンジの顔の鼻先わずか数センチに刃は届かず、変わりにギンジの手から伸びた金棒が鎧の怪人の腹部を貫通している。

 

 「中身にお肉詰まってたんだな」

 

 ギンジが伸ばした金棒を捻る事で、暗黒騎士型鎧の怪人の腹部からドボドボと血液と思わしき液体と、肉と思わしき臓物が出てくる。

 

 「まさかとは思うが材料は・・・戦闘員か?」

 「多分そうでしょうね。まぁ、どっちにしても悪なんですから、ぶっ叩いて終めぇですわ」

 

 赤鬼もギンジの立つ姿の裏で、最後の戦闘員をしばき倒しながらそんな事を言う。ギンジもそれを聴くとどこか納得した様な表情で、鎧の怪人から金棒を完全に引き抜く。

 

 ガラガラと音を立てて溶ける様に崩れた鎧の怪人の亡骸を踏み潰して、ヘヴンホワイティネスは2人同時にリーダー格の戦闘員に突撃する。

 

 「最後はテメェだ!」

 「覚悟しやがれェ!」

 「クソ!来るな!来、来るな!うわぁぁーー」

 

 最早どっちが悪だか解らない大攻撃は、民衆でさえも震え上がるばかり。

 

 けれど・・・確実に正義の味方が現れた事で、一般市民はギンジ達に静かに声援を送り続けていたのは、誰が聴いても明らかであった。

 

 ヘヴンホワイティネスを名乗り、ヘルブラッククロスという無法者達を蹴散らせるのは彼らしか居ないのだから。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「ふー終わったな」

 

 あらかた戦闘員を蹴散らし、繁華街エリアの壊れた噴水に、ヘヴンホワイティネスの旗を建てる。

 

 ギンジがそうする事で、一応の平和と治安を取り戻す事に成功する。

 

 「にしてもどいつもこいつも、ミヤコ姉さんの居場所を知っている奴は居ませんなぁ」

 

 赤鬼がため息混じりに言うと、ギンジも表情を暗くしてしまう。せっかくミヤコを助けるだけの力を手に入れて魔法界から帰還したのに、未だに彼女の情報を一つも見つけられないでいる。

 

 今頃ミヤコはどうしているのだろうか。

 

 寂しい思いや、苦しい状況、辛い事をされているに違いない。

 

 ギンジが次に思い出すのは、あの大幹部柏木タツヤの顔。蛇の様に悪辣で、狡猾でいるあの顔。

 

 あの顔を思い出すだけで怒りがこみ上げてくる。出し抜いただけであの勝ち誇る顔を思い出して、止まらない怒りがギンジの心を蝕んでいく。

 

 あの異質な怪物もそうだ。あのミヤコがあそこまで怯えるあの怪物を、もう二度とミヤコには近づけさせたくない。

 

 ヘヴンホワイティネスとなって二度目の敗北。

 

 一度目はミヤコの作戦で、二度目は柏木タツヤに。

 

 もう敗けないと、もっと強くなると決めたギンジに、三度目の敗北は無いと誓っている。

 

 「赤鬼」

 

 ギンジが真夏の空を見上げながら赤鬼を呼ぶ。子分であり兄弟であり、大切な仲間である赤鬼もギンジの声に反応して隣に立つ。

 

 「必ずミヤコを助けるぞ」

 「へい・・・!」

 

 助けると言った以上、どんどん悪を見つけて潰さないと行けない。

 

 ヘヴンホワイティネスに、後ろを振り返っている時間なんて無いのだから。

 

 「ところで兄貴」

 

 子供みたいな表情で居る赤鬼が、ギンジの肩を軽く叩く。

 

 赤鬼が少し鼻息荒くギンジの顔を覗く。

 

 2人の後ろでは、ヘヴンホワイティネスの旗が風によってはためている。

 

 「結局兄貴って、カエデの姉御とミヤコ姉さん、どっちが好きなんですかい?」

 「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

 あまりに突拍子の無い発言に、ギンジは思わず咳き込んだ。

 

 「あーその反応は、兄貴もしかして」

 「な、なんだよ!」

 

 赤鬼がギンジの両肩に手を乗せると、ギンジはそこから何も抵抗しない。

 

 「両方、好きなんですね・・・」

 「〜〜!な、なんだよ悪いかこのやろう!」

 「ヌハハ、動揺が隠せてませんぜ兄貴」

 

 どうして赤鬼は人の恋愛に鋭いのか。なんとなく言い返せなくなったギンジは赤鬼をぶっ飛ばして、さっさと南度固化市に戻ろうとした。

 

 本来ならば住宅街エリアを少し離れた場所にある本拠地、カエデハウスに戻りたいのだが、今現在は全壊させられている。

 

 しかも再改築をお願いしたいのだが、カエデの父親であるソウジロウと連絡が取れない事でカエデは今現状は、レンとミドリコを連れて実家に帰還している。

 

 ケイタは実家に戻り、ギンジと赤鬼は聖カエルム教会を拠点として、中央度固化市の治安回復に努めている、と言った現状。

 

 それと同時にミヤコを探しているのだが、結局帰還してからも見つけられないままでいる。

 

 「クソ・・・」

 

 真夏の日差しをうっとおしく思いながら、今の自分の不甲斐なさが悔しさを加速させていく。命の恩人を助けられないままでい居る自分が情けなくなってくる。

 

 「・・・戻ろうぜ、赤鬼」

 

 本当はもう少しだけこの繁華街エリアだけでもいいから、一人でミヤコを探したい気分だった。だけど今はレイナ達の居る教会だって確実に安全とは言い難い。

 

 負傷している彼女達を守る為にも、今は襲撃を終わらせて戻る。これの繰り返しだ。

 

 繁華街エリアを東に抜けていくつかの信号を抜ければ、そこは駅前エリア。

 

 「・・・超豪華で、豪勢なお出迎えだな」

 「まーったくですな。どら、軽く蹴散らしましょうや」

 

 駅前エリアのバスロータリーに足を踏み入れた瞬間、ギンジと赤鬼2人の目の前に現れたのは、複数人の戦闘員達。

 

 確実にギンジ達を取囲もうとしており、略奪や襲撃と言った態度では無い。

 

 ヘヴンホワイティネスである2人を倒そうと息巻いている連中が、ヘルブラッククロスの信念の為に、最早状況、手段は問わないと言った状態であると推測できた。

 

 「ヘヴンホワイティネスを殺せ!かかれー!」

 

 黒い絨毯が波を打つ様にしてギンジと赤鬼に一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 

 だがその黒い絨毯の中心は、見えない空気砲により戦闘員達が吹き飛んでいく。

 

 次はギンジの爆炎の火柱が戦闘員を焼き滅ぼして行くと、再び戦闘が行われた。

 

 「クソ!やはりヘヴンホワイティネスは以前より強くなっているぞ!」

 「大幹部様をお呼びしろ!」

 

 ギンジと赤鬼の恐ろしいまでの強さを誇示していた。戦闘員達が大幹部という単語言い放つ事で、ギンジと赤鬼は当たりを引いた気分になる。

 

 「兄貴、もしかしたら」

 「俺も同じ事考えたぜ」

 

 大幹部がここに居て、そしてここで戦うとすれば、きっとミヤコの情報を何か持っているかも知れない。

 

 「ボコって逆に捕まえて見るか」

 

 ギンジがサングラスを直すと、コウモリの羽を使って飛び出そうとする。空からの雷撃はほとんどの戦闘員が対処出来ない。

 

 こうして後に出てくる大幹部を2vs1に持ち込めれば、ギンジ達が大幹部を捉えるのも容易になる筈だ。

 

 「へぇ〜?ギンジちゃんが私をボコれるのかなぁ〜?」

 

 少し高い女性の声が、バスロータリーに聴こえると、戦闘員達が戦闘態勢を解き始める。

 

 大幹部が口を開いた時に、余計な事をすれば殺されてしまう。

 

 次に大幹部が通る道を開ける為に、戦闘員達がキレイな隊列を組んで左右に分かれていく。

 

 黒が別れた道の奥から現れたのは、黄金の鎧を光らせてへそを出した、ギンジが最も忌むべき相手であり、〈大好きな人達〉の一人。

 

 「やぁ、ギンジちゃん・・・久しぶり〜」

 「リコニス・・・」

 

 黄金のが煌めく刀身が目立つ刀を肩に担ぎながら、リコニスはほぼ5日ぶりの再開を果たした佐久間ギンジを見るなり、瞳を輝かせている。

 

 対するギンジはまたとない絶好のチャンスに立った。

 

 お互いに口の端を歪に上げると、2人同時に大衝撃が走る程の激突を開始した。

 

 「え!?リコニス様!?」

 「ちょ、兄貴!?」

 

 金棒と黄金の刀が鋭い音を響かせながら、戦闘員と一般市民、それから赤鬼までを風圧で押してよろめかせる衝突がこの一瞬にして行われた。

 

 「とうとう私とヤる気になった!?」

 「お前とはごめんだぜ!」

 

 万全な状態でギンジと殺し合いをしたいリコニス。

 

 ミヤコを侮辱された事で笑っていても内心マグマよりも熱く怒りを秘めたギンジ。

 

 「ヒィーャーハハハハ!」

 

 リコニスの刀が1振り2振りされるだけで、まるでギンジの金棒を斬り崩そうとする金属の衝突音が、ついさっきまで平和だったバスロータリーに何度鳴り続ける。

 

 強い音が幾度もぶつかる。

 

 その音の正体は怪人と人間の戦いの音。

 

 甲高い悪魔の笑い声はギンジからしても耳障りで、とてつもなくうるさい。

 

 「耳元で騒ぎやがって!うるせぇ!」

 

 金棒のフルスイング。そこから火炎の打撃がワンテンポ遅れてリコニスのガードを打ち砕く。

 

 「そんな事まで出来る様になったの〜?素敵・・・」

 

 今のリコニスはギンジと再開出来て殺し合いが出来ている事が、本当に楽しくて嬉しくてたまらない。

 

 それどころか、ギンジが無事にここに来たと言う事実を取ってみても、なぜだか感じた事の無い高揚感が心を支配していく。

 

 「アーッヒャハハハ!」

 

 三日月に歪んだ悪魔の顔は、ギンジの人間的な本能から恐怖を煽る。だけどギンジも自分の中に今か今かとその姿を出すのを待っている怪人が居る。

 

 リコニスでさえ恐怖してしまった事もある、ギンジの中に居る進化の怪人そのモノの怒りを。

 

 2つの恐れの象徴が大激突を何度も繰り返し、歩道橋は粉砕され、バスターミナルは斬り崩され、それに巻き込まれる戦闘員。

 

 「アブねぇ!」

 

 近くに居た子供は赤鬼が抱きかかえて、そばの歩道まで飛び出すことで事なきを得た。

 

 「どら、さっさと逃げな!」

 

 子供を恫喝するような声で言うと、女の子と思わしき子供は赤鬼にお礼を言ってからさっさと走って離れていく。

 

 「あの大幹部と兄貴は一体どんな関係なんじゃ・・・?」

 

 飛翔しながら電撃を纏いながらリコニスを叩き、黄金の刀を一回振り下ろすだけで、5本の斬撃の閃が出てくる攻撃とが、お互いを吹き飛ばす。

 

 「はぁーはぁー・・・あ、待って・・・んぐぅう・・・ッ!」

 

 仰向けになったリコニスは身体を仰け反らせて、嬌声を上げた。足をピーンと伸ばして、腹筋がひくひくと痙攣して、顔はそれでも恍惚としている。

 

 「はぁ〜・・・それじゃあ再開しよ〜ギ〜ンジちゃ〜ん!」

 

 子鹿みたく全身を震わせながらリコニスが立ち上がると、ギンジも本気に行くと決めたのか、フェーズ3を発動し初めた。

 

 「もっと気持ちよく殺ろうよ!さっきの電撃とかさ〜クるモノがあったのよ」

 「何を意味分からねぇ事言ってるんだ!テメェだけは絶対に倒す!」

 

 最早本来の目的を忘れているのか、ギンジは問答無用でリコニスに攻撃を開始している。黒い炎と紫電による連携、黄金の刀と我流の体術。

 

 「兄貴ィ!やりすぎですって!カエデの姉御に殺されちまう!」

 

 流石に正義と悪の戦いの範疇を超えるぐらいの激突と、バスロータリーの惨状を見て赤鬼に焦りが見え始める。

 

 いつものギンジじゃない。それだけは間違い無い。

 

 あの大幹部リコニスとギンジの間には確実に、大きな何かがあるのだろう。普段女性に手を挙げないギンジが、ああまでして戦うとは穏やかでは無い。

 

 「オッラァ!!」

 

 紫電を纏った蹴りは確実にリコニスを突き飛ばし、攻撃を貰う度にリコニスが恍惚な表情を血で汚していく。

 

 ギンジも黄金の刃が当たる度に鮮血を流し、フェーズ3の灰色の肌に斬り口をたくさん作っていく。

 

 「あ・・・待ってまた・・・」

 

 途端に動きを止めたリコニスが、全身を再び痙攣させて内股で青空を仰ぐ。まるで快楽に悶え狂おしくなる様な姿勢で、リコニスは息を絞る様にして吐き出す。

 

 「か〜〜ッはぁ・・・!」

 

 それでもギンジは止まらず、黒い爆炎の金棒が今度こそ無防備になったリコニスに突きこまれる。

 

 「意外とテクニシャンだねぇ〜ギンジちゃん」

 

 眼を爛々と輝かせているリコニスの表情は、敵意ではなく好意を寄せている。佐久間ギンジという存在に恋をして、しかし本気で殺し合いをしたい。

 

 命の輝きを実感し、生きているという素晴らしい感情を、全て闘争に費やしたリコニスは、自分の退屈を全て払拭してくれるギンジに恋い焦がれていた。

 

 リコニスの全身を包む真っ黒な炎は、そんな命を確実に燃やし尽くして、退屈の無い人生・・・本当の意味での絶頂に導いてくれそうだ。

 

 「ごめんだけど〜まだ死にたくないの」

 

 黒い炎の中で三日月のシルエットが、ギンジを見据える。地獄で燃える黒い炎から、地獄に済む悪魔の顔がそこにはあった。

 

 黄金の刀を握って、思い切り振り下ろす。バーナーの怪人にもした袈裟斬りが、ギンジにも向けられていた。

 

 「がぁ!!」

 

 幸い傷は浅くギンジの肩から腹部の表面を斬りつけただけだった。

 

 「ヒャーハハハハ!」

 「テメェこのクソ・・・!」

 

 お互いに距離は離れるが、黒い炎を纏ったままのリコニスはボロボロの身体で黄金の刀を構える。

 

 ギンジもフェーズ3の黒炎を最大出力にして金棒を構える。

 

 「アハッ、その顔かわいい〜・・・殺したいわ」

 「やってみろよ・・・!」

 

 火事になったバスロータリーに人影は無く、2人が狂って戦っているだけ。

 

 リコニスの暇つぶしに上手く付き合わされているとも知らずに、ギンジとリコニスはここまでの命のやり取りをずっと繰り返している。

 

 ジリジリとした緊張感が貼り詰める中、先に駆け出したのはギンジ。

 

 ブーストの黒炎を噴射しながら、金棒をリコニスの頭をめがけて、命を奪おうとする魔王の如き迫力。

 

 少し遅れて黄金の鎧と黄金の刀をコンクリートに擦らせながら、低姿勢で走り出す。

 

 火花を散らすコンクリートから刀が離れると、ギンジの金棒と再び鍔迫り合いが起きる・・・筈だった。

 

 「空砕烈撃断(くうさいれつげきだん)!!」

 『!?』

 

 オリハル金砕棒を思い切り振り回して、空気の壁による断圧の一撃が、ギンジとリコニスをまとめて駅前の柱に押し留める。

 

 硬いのに見えず重たい空気の一撃は、2人が冷静さを取り戻すのには十分な威力で、ここに来てようやく赤鬼がこの戦闘を終わらせた。

 

 「いい加減にしやがれ!兄貴、いつまでやってんだ!」

 「い、いやでもよ・・・」

 

 柱にめり込んだギンジの首を掴んで、赤鬼は鬼の形相でギンジをぶん殴る。

 

 「でもじゃねぇ!俺っち達の目的を忘れてんじゃねぇやい!」

 

 ギンジが殴られた事で、柱は崩れてしまい瓦礫と共に殴り飛ばされた。

 

 奥のコンビニや券売機の並ぶ改札までギンジが飛んでいき、リコニスは自力で柱から脱出していた。

 

 「3回目、もう少しだったのに、何邪魔してるのよ。殺すわよ」

 

 黄金の刀を赤鬼に向けるその表情は、いきなり水を刺された事でキレている。

 

 「あとちょっとでイケそうだったのに・・・」

 

 急激なフラストレーションがリコニスの心に再び重くのしかかり、欲求不満ないつもの彼女に逆戻りしてしまった。

 

 「リコニスの姉御よォ、俺っち達ぁ、ミヤコ姉さんを探さないといかんのですわ・・・あんたこそ邪魔しないでくんねぇかな」

 「へぇ〜まだミヤコを見つけられて無いんだ・・・?」

 

 飄々とした態度で取り繕っているが、赤鬼の右腕は筋肉が膨張しており、オリハル金砕棒をいつでも振り回せる警戒だけはしていた。

 

 いくらパワードスーツで身体能力を強化しているとは言えど、人間の身体でありながら怪人をさくっと殺せる様な奴が目の前に居るのであれば、赤鬼でも油断は出来ない。

 

 「ああ、クソ!」

 

 そんな警戒の色が強い空気感のある場所では、ギンジが戦闘態勢を解除して赤鬼とリコニスの前に歩いてくる。

 

 「あら〜もうシてくれないの?つまんなくてリコニスちゃん泣いちゃうかも〜・・・で、どっちから死にたいのかしら?」

 「どっちも死なねぇよ」

 

 リコニスは相変わらず狂っているが、そんな事は100も承知で戦ってしまっていた。

 

 ギンジは少し反省しつつも、赤鬼に殴られた顔が痛む事でかなり冷静さを取り戻している。

 

 「リコニス、俺たちはお前の言うとおりでミヤコを見つけられていないんだ・・・お前、何か知ってるだろ?」

 

 こんな事を言ってもきっと彼女は喋らない。何も有用な情報は話さない筈だ。

 

 しかしリコニスもフラストレーションは溜まっているとは言えど、少しだけしおらしい表情になりながらギンジと赤鬼に指を向ける。

 

 「教えてあげてもいいけど〜条件があるかな〜」

 「そうだよな、無理だよな・・・は?」

 「兄貴ワンチャンありますぞ!」

 

 リコニスの言葉がギンジには信じられなかった。

 

 ギンジはぽかーんと口を開けるが、赤鬼はヌハヌハ笑っている。

 

 とは言えミヤコを助けないと行けないギンジ達からすれば、例え罠だとしてもリコニスの話を聴かないといけなさそうな雰囲気になっていた。

 

 「・・・なんだよ条件って。言っとくがしばらくお前と戦うのは嫌だからな!」

 

 自分が自分じゃなくなってしまいそうな、狂っていく感覚に飲まれそうになりながらリコニスを倒す。その感情だけで動いてしまいそうで、実際赤鬼が止めてくれるまでは本来の目的を忘れてしまっていた。

 

 「ん〜流石に今からはもういいわ」

 

 リコニスも刀を鞘に収め、強い殺気を一旦は収める。

 

 「リコニスの姉御、そろそろ条件とやらを教えてくだせーな」

 

 赤鬼もミヤコを助けたい。だから・・・怪しいとは疑いつつも、リコニスの話に耳を傾ける。

 

 「か〜んたんよ。ねね、ギンジちゃん」

 

 急に可愛らしい女の子の顔になりながら、傷ついたギンジの腕に自らの腕を絡ませるリコニス。

 

 彼女の言う条件とは、腕を絡まさればそれで良いのだろうか?

 

 ギンジの腕の感触を堪能しながら、リコニスは悪魔の顔でギンジに顔を近づける。どことなくミヤコがギンジに、カエデがギンジにしているようなあの感じの顔だ。

 

 この世で一番恐ろしい顔をしている事だけが、彼女達とは違う。

 

 「私とデートして?」

 「おお、兄貴ぷれいぼぉいですな。敵にさえ好意を持たれるたぁ、やっぱ俺っちはあんたを尊敬するぜ、兄貴」

 

 少しの沈黙の後、ギンジは思い切りリコニスの頭をひっぱたいた。

 

 「いいよ〜デートしなくても。その時はミヤコは助からないしね」

 「うう、クソ、卑怯だぞ!ずるいぞ畜生!」

 「おう、うちの兄貴は童貞だからな、そんな風に言い寄られたら断れんぜ」

 「お前ぶっ殺すぞ赤鬼」

 

 ある意味ではこの世界に来てからそういう状況にはならない為、ギンジが童貞と言われれば確かにその通りなのだが。

 

 「っていうか、そんな時間ねーよ。なんでデートなんだ?」

 「・・・殺したい人に最後に素晴らしい景色を見せたいじゃん?具体的に言うとしたら〜鮮血にまみれた青空とかさ〜」

 「結局殺す気じゃねーか!」

 「えーそれとも私とデートするのは嫌なのかな〜?そんなんじゃミヤコの情報を教えてあげられないかな〜?」

 「ううっ・・・ぐぅう〜〜ッ」

 

 そもそも気分で動くリコニスの事だ。このままぐずついて居る様だと、いつか気まぐれでまた戦いが勃発するかも知れない。

 

 「さ〜て、どうする?ギンジちゃん」

 「・・・分かったよ」

 

 この決断はギンジの良しとする所では無いが、受け入れないとならないみたいだ。

 

 「あのさ、なんで俺とデートなんだ?他にも俺たちが不利になりそうな条件だってあったろ?」

 

 このデートだって本当は気まぐれだ。ギンジはそう思い込んでいるが、未だにギンジの腕から離れないリコニスは悪魔の微笑みを乗せている。

 

 「それじゃあ行こうよギンジちゃん。あ、赤鬼は帰っていいよ」

 

 リコニスが興味無さそうに赤鬼に指を指す。そんな赤鬼の背後からは、大きな影が赤鬼とギンジを驚かせる。

 

 「そいつ失敗作なんだって。せっかくだから処分しといて貰える?」

 

 ギンジと赤鬼の目の前に現れたのは、身長が3mはありそうな鎧の怪人。

 

 「おうおうウチの兄貴のデートを邪魔すんじゃねぇやい!」

 

 赤鬼もノリノリで破壊に周り、駅前エリアの改札では赤鬼と鎧の怪人の交戦が始まる。

 

 「おい!また街を襲うつもりかよ!」

 「ミ・ヤ・コ」

 「・・・」

 

 ミヤコというカードを持っているリコニスと、ここで再開したのはもしかしたら悪い事だったのかも知れない。

 

 ギンジはリコニスに連れられて駅前エリアを抜けて行き、繁華街エリア近くの遊園地に連行されてしまうのであった。

 

 (今日は厄日だぜ・・・大幹部に会えるなんてラッキー!とか思ってマジで後悔した!)

 

 脳内で吐き捨てる様にして、ギンジとリコニスの足取りはお互いバラバラの歩幅になっていた。

 

 「うおおお俺っちもミドリコの姐さんとラブラブ妊娠デートしたいぜ!!」

 

 改札では砕けた金属と空気が舞い散り、破壊と激戦がここでも続いていく事になっていたが、もうその場所にギンジとリコニスの姿は無くなっていた。

 

・・・・・・・・・・・

 

 リコニスに連れられて神宮財閥所有の遊園地にやってきたギンジ。

 

 ジェットコースターや、コーヒーカップ、メリーゴーラウンドにお化け屋敷占い屋敷・・・。

 

 目玉はなんと言っても天国行きと題された、40台のボックスのある観覧車。

 

 治安が悪くなったとは言えど、今のシーズンではそれなりに人の多いこのスポットでは、流石にヘルブラッククロスは居ない様子。

 

 それも大幹部リコニスが、ヘヴンホワイティネスのギンジを連れているのであれば、余計な手出しはするまい。

 

 リコニスの機嫌を損ねれば、どうなるかなんて組織内では分かりきった事である。問答無用で殺されかねない。

 

 ギンジはいつも通りにしていればサングラスのおかげで正体もバレない、ただの人間として認知される。

 

 そして隣を歩くリコニスは素性を隠す為の姿をしていた。いつもの黄金の鎧は気がついたら着脱しており、所謂陰キャ女子の様な姿をしている。

 

 瓶底眼鏡をかけて、短い髪をヘアクリップで纏めて、西度固化市の学生服。

 

 一見すればスタイルの良い女の子が、わざと姿を変えて目立たないようにしている、そう思える姿をしている。

 

 「ギンジちゃん、今の私は畑中(はたなか)リコだから、間違っても本名で呼ばないでね」

 「リコニスが本名なのかよ」

 「ん〜まぁ、真名ってところかな〜どうでもいいけど」

 

 人混みを抜けながら遊園地の橋を抜けた2人が、名前について話す。

 

 (そういえばこいつってゲームの中じゃ、なんでヘルブラッククロスに居るのか解らないまま行動しているんだよな)

 

 ギンジが転生してくる前のスマホゲームのヘヴンホワイティネスでは、リコニスは大幹部で色々狂っているキャラクターというのはそのままだが、学生の姿は出てこなかった。

 

 一応ギンジの〈大好きな人達〉の一人であるから、今こうして学生服姿を見れたのは、眼福ではある。

 

 チラチラと見ていると、リコニス・・・今はリコと眼が合う。サングラス越しでもしっかりと瞳を見られていると解り、姿勢が少しばかり反る形になる。

 

 一瞬命を狙われたのかと思い、ギンジの背筋がピキリと痛くなる。

 

 「も〜そんなに警戒しないでよ〜・・・殺すわよ」

 「そんなすぐに殺すとか言うなよ。かわいい顔が台無しだぜ」

 

 実際リコニスを〈大好きな人達〉に入れたのは、彼女のストーリーが好みであり、最後に大声で命乞いをするゲームのストーリーがギンジの好みだったからだ。あと顔もかわいい。

 

 実際この世界に転生してからと言うモノの、リアルな動きをするようになったカエデもレンもミドリコも、そしてリコニスも、絵が用意されていた彼女達は、人間の様に動いていても可愛いのだ。

 

 ギンジからすればリコも含めて守ってあげたいと、もし許されるならばこの娘も守りたいと・・・自分の手に力を込める。

 

 「ギンジちゃん、アレ、アレ乗ろうよ」

 「・・・観覧車?」

 

 リコが指指した場所は、長蛇の列で順番待ちをしている観覧車。

 

 本来遊園地デートとかで乗るのであれば、これは最後に乗るモノでは無いだろうか?

 

 「いきなりフィナーレに乗るのか?」

 

 ギンジが苦笑混じりにリコに言うと、リコは瓶底眼鏡を直してギンジに身体を擦寄らせて行く。

 

 「ノリたいんだ〜!高いところ好きだし」

 

 瓶底眼鏡をかけていても、悪魔の三日月の瞳が見えそうになる。ギンジの背筋を震わせる様な冷たい雰囲気も持ち合わせている。

 

 「分かったよ・・・」

 

 ギンジが了承した瞬間にリコは可愛らしい笑顔を見せる。だけど忘れては行けない。

 

 彼女はギンジの友であったバーナーの怪人を殺害し、ミヤコ誘拐の手助けをした張本人である事を。

 

 いつかはリコニスでもある彼女と・・・決着を付けないと行けないと言う事も。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 まだ日差しの強い遊園地。時刻は12時を超える頃合い。

 

 お昼時になってから長蛇の列はすぐに減っていき、遊園地を利用している客は全員食事に行った様だ。

 

 神宮財閥所有のレストランもここにはあって、イタリアンや和食、ドーナツなんかも選り取り見取りな状態だ。

 

 それほど待たずに観覧車に乗る事が出来たギンジとリコは、ゆっくりと動き出す観覧車の中で向かい合わせで座る。

 

 次第に遊園地が下に広がっていき、高くなればなるほど中央度固化市の街も2人の視界一杯に広がっていく。

 

 「はーいギンジちゃ〜ん・・・」

 

 リコがいつもの口調でギンジに煽りを入れてくる。

 

 「ミヤコを助けたいけど、情報が一切無くてお困りのギンジちゃんに〜〜だーい好きなミヤコの情報のヒントをあげま〜す」

 「な、ま、別に好きとかじゃねーし!やめろそういう事言うの!」

 

 本当のところはどうなのだろうか。そこは解らない。恋をしているのは事実なのだが。

 

 「あっちの北側の方のどこかに・・・ミヤコが居るかもね」

 「北・・・?」

 

 観覧車から見える街の北側は、いつもと変わらない町並みしか見えない。

 

 せいぜい有姪海岸が見えていて、その近くには神宮リゾートホテルがあるぐらいだ。

 

 良く眼を凝らして何かヒントを探そうとしているギンジの横で、リコがイタズラな笑みを見せつける様に、悪魔の顔を見せている。

 

 「私は答えは言わないでおいてあげる。でも、出来れば答えを出してほしくないな〜?このままデートしてたいし〜ミヤコなんか忘れて、ヘヴンホワイティネスも捨てて、私と永遠に殺し合わない?」

 「なんて殺伐としたプロポーズなんだ・・・答えはNOだ」

 「そう〜?ギンジちゃんとなら、退屈しないと思うんだけどな〜」

 

 リコが頭に手を回してギンジの横顔を見てみる。

 

 サングラスが弾く光の裏に見え隠れする、黒い眼球に赤い瞳孔、怪人の瞳を見ているとあともう少しだけ、全てを忘れて退屈しない日々をこの人と過ごしていたいと思ってしまう。

 

 お互い万全な状況で、次の戦いこそ決着をつける。

 

 リコニスが退屈を感じず、ギンジという人物をと一緒に居れば、確実な殺し合いが出来る。

 

 リコニスは自分で気づいて居ない。ギンジと共に居る時だけが、一番心が安らぐ瞬間であると言うことを。

 

 これが恋をしている事だとはリコニスは知らないし、この先理解する事も無い。

 

 佐久間ギンジとリコニス。この2人はお互い敵同士。どうしても戦わないと行けない運命の下でこうして生きている。

 

 「答えは分かった〜?ギンジちゃん」

 

 観覧車がどんどん高く上がり、気がついたら2人の乗る観覧車は最高の高さまで来ていた。

 

 一番高くまで上がった小さな箱の中に居るのは、宿敵同士。

 

 ギンジは未だ有姪海岸が陽を弾く果てなき広さを大海をずっと見ている。リコニスの言うヒントは中央の北側にミヤコが居るとの事。

 

 「・・・まさか北度固化ってわけじゃ?」

 「ギンジちゃん意外と馬鹿なんだね」

 「なっ!?馬鹿じゃねーし!馬鹿にすんな!」

 

 必死になって言い訳するギンジがどこか可愛くて、少し馬鹿っぽくて、胸の中にある何かが晴れやかな気分になる。

 

 そのギンジを見るのが楽しいのだが、今こうしているのはギンジがミヤコを助けようとしているからだ。

 

 それを知っているとますます意地悪したくなってくる。

 

 「・・・」

 

 何か言いたげなリコが口を開いたが、再び北方面の景色へ顔を動かしたギンジの動きを見て、リコは口を閉じた。

 

 どうしてかこの横顔を見ていると、胸の奥が潰されそうな押される様な不思議な感覚が強くなってしまって、上手く喋れなくなる。

 

 「ぐむむ・・・どこをどう見てもカエデの所のホテルと、海しか見えねぇ」

 

 もう少し手前側にあるビルの並ぶ所の事だろうか、それとも海の底なのだろうか。

 

 ヘルブラッククロスの技術力ならば、海の底に基地を作る事も可能に思えるが、実際の所はどうなのか分かったモノではない。

 

 「ギンジちゃん、ミヤコの場所が分かったらすぐに行っちゃうの?」

 

 ニヤニヤと顔を固定したまま、リコはギンジに訊ねる。本心ではこんな事を聴いたら、何故か苦しい想いをすると解りきっているのに、どうしてか聞かずに居られなかった。

 

 「ん、まぁ仲間と合流してからだな。まだ答えは解らないけど」

 

 窓にへばりついたまま、ギンジがそう答える。

 

 仲間と合流してから・・・それだったらもう少し時間はあるのだろうか。

 

 もう少しだけ・・・この人と一緒に居たい。なんでそう思うのかも自分では解らないけど、ギンジと共に居ればそれだけでも退屈しなさそうだから・・・。

 

 そもそもなんでデートを交換条件にしたのか、リコ自身も良く分かっていない。よくわかんないけど、一緒に居たかっただけなのだ。 

 

 「ギンジちゃん、答え知りたい?」

 「素直に教える条件でこのデートをしていたと思うんだが?」

 「あ〜そうだったっけ?ま、いいよ。十分退屈しのぎにはなった訳だし?」

 

 観覧車を少し揺らすぐらいに勢い良く立ち上がると、リコはギンジの顔に指を向ける。

 

 「今度こそは邪魔の入らない所で殺し合おうよ〜ギンジちゃん」

 「次がありゃいいけどな・・・俺はあまりお前とは戦いたくはねぇよ」

 「ふ〜ん?馬鹿だけど、やっぱり優しんだね〜」

 「うるせぇ」

 

 結局答えが出ないまま、ギンジとリコを乗せる観覧車が降り始める。

 

 「だー!どこなんだ・・・」

 「・・・じゃあ、次は降りたら教えてあげる。それまでは・・・」

 

 瓶底眼鏡をかけた女の子とは思えない様な、艶めかしい舌を動かして唇を潤わせるリコ。

 

 観覧車が降りるまでの間、ひときわ楽しい時間を堪能しようとリコは、黄金の鎧を再び装備し始める。

 

 制服の上から黄金の鎧が装備され、サマーニットのカーディガンが鎧に吸い込まれる様にして、いつものリコニスが完成された。

 

 「・・・何をするつもりだ?」

 「何って、降りるまで殺し合いしよ〜よ」

 「おいふざけ・・・」

 

 ドッガァァァン!!

 

 黄金の刀を引き抜いたリコニスから、閃光がほとばしると遊園地の一番高い所で、数秒の空中戦が繰り広げられた。

 

 今回の戦いにおける勝敗は引き分け。

 

 お互いの一撃が入る直前で地面に着地した事で、ヘヴンホワイティネスの声援が溢れ、変わりにリコニスが悪者と呼ばれてしまい、さながらヒーローショーの如く状況が変わってしまった。

 

 リコニスはまたもフラストレーションを溜めるが、ギンジと共に遊園地を飛び出して一度この場が収まるのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 「もう少し楽しみたかったのになぁ〜」

 「もういいだろ!いい加減にしろよ!」

 「アハハハ、ギンジちゃんってツッコミ入れる時が一番良い顔するね」

 

 サングラスの無いギンジの顔が見れたらとても楽しい事だろう。

 

 まだまだ明るい時間帯だが、名残惜しさを残しているリコニス。

 

 「ああ、答えだけどね、北にある有姪海岸、そこにある神宮財閥のあのホテル・・・」

 「リゾートホテル・・・?あの場所ってヘルブラッククロスとつながりでもあったか?」

 

 リコニスの言葉、答えに対してギンジが首をかしげる。

 

 神宮財閥とヘルブラッククロスが内通しているのかと、ギンジは思考力を働かせるがそれは大きな間違い。

 

 「アッヒャハハハハ!」

 

 誰かに聞こえそうな程の大声でリコニスが笑う。本気で笑うとやはり悪魔そのモノだった。

 

 「なんだよ!笑うなよ!」

 「いやいや、結構馬鹿だったんだなって」

 「馬鹿にすんなよ!煽んな!」

 

 今だけならばギンジとリコニスは気の良い友達に見えるかも知れない。

 

 人通りの少ない遊園地の裏道には、悪魔の笑い声が途絶えずに上がっている。

 

 「ヘルブラッククロスのやりそうな事なんて、ギンジちゃんなら一番良く知っているんじゃない?」

 

 ヘヴンホワイティネスを挑発する様なリコニスの声に、ギンジは自分が元いた組織のやりそうな事を思い出す。

 

 「襲撃、か・・・?」

 「そう!大正解〜」

 

 リコニスの言った事が正しいならば、今神宮リゾートホテルは襲撃を受けているということになる。更にそこにはミヤコも一緒に居る。

 

 「あ〜ひとしきり笑ったから、大分楽になったかな〜」

 「そうかよ・・・じゃあもう殺し合いなんてしなくていいんじゃねーか?だいたい、あんな怖い顔しているよりも、今みたいな顔の方が可愛いと思うぜ、お前」

 

 これは本心で言っている。

 

 リコニスの顔はやっぱり笑っている方が美人に思える。

 

 「そう?ギンジちゃんに言われると、なんだか嬉しいな〜・・・」

 

 今リコニスは別の意味で顔がニヤけている。

 

 悪魔だとか、ヘルブラッククロスだとかそんな雰囲気を一切感じさせない、悪の大幹部のニヤけ顔。

 

 「リゾートホテルに行けば、本当にミヤコが居るんだな?」

 「本当に居るわよ〜。今頃、柏木の奴と結婚式の準備でも進めてるんじゃないかしらね〜?」

 

 ニヤけ顔のままリコニスが一番嫌なエンディングの情報を、ギンジに伝えた。

 

 あの蛇男とミヤコが結婚するなんて、説明出来ないがとてつもなく嫌な気持ちになる。

 

 ミヤコに恋をしていても、まだ結婚とまでは考えていないし、カエデの事もある。

 

 どちらにせよ、ギンジはとにかくミヤコを助けたい。

 

 今はそれだけの気持ちである。

 

 「おい、その結婚式っていつ開くんだ!?」

 「あ、もしかして参加したい?」

 「ふざけんなよ!いつ開くんだ!」

 「必死だね〜ギンジちゃん。9月1日だよ。まぁ、あと2日とか?」

 「実質残り1日だ!リミットが短けぇ」

 

 リコニスからの情報をどこまで信じて良いか解らないが、今はこれしか信じるすべがない。

 

 「行くんなら気をつけてね・・・ギンジちゃんだけは、五体満足で帰ってきてくれないと、殺し合い出来ないんだからさ〜」

 「行くなら、じゃなくて行くんだよ。ミヤコは俺たちにとって大切な仲間だしな!」

 

 2人が歩く道の先には、左右の分かれ道。このまま右を進めば遊園地の入り口に戻る。

 

 左に進めば繁華街エリアの中腹に戻れる。

 

 リコニスが左の通路に立ち、日差しが当たる道を背にしてギンジを見つめる。

 

 「それじゃ、せいぜい頑張ってね、ギンジちゃん」

 「・・・お前は邪魔しないよな?」

 「もうしないかな〜。少なくとも、柏木の手伝いはもう、ね」

 

 ここまでの手引をしてあげたのにも関わらず、柏木タツヤはリコニスに嘘をつき続けた。

 

 異質な怪物(あんなモノ)まで持ち出して・・・。

 

 「私は次の任務があるし、中央度固化市の掌握は無理そう・・・って上に言っとくわ。ま、ギンジちゃんも悪あがきだけはほどほどにね。どうせ最後に勝つのは、私達ヘルブラッククロスなんだからさ〜」

 「自信たっぷりだな・・・言ってろよ。俺達が、俺達こそ最後に勝つ!」

 

 最後にお互いが目線の火花を散らす様な雰囲気の中で、リコニスは悪魔の顔で微笑んでギンジに一瞥すると、そのまま振り向いて繁華街エリアへの道を進んでいく。

 

 「・・・ありがとな、リコニス」

 「お礼言われるの嫌いなの。次言ったら殺しにいくわよ、ギンジちゃん」

 

 リコニスなりの気遣いだったのか、それとも彼女の気まぐれなのか、それは解らないが、情報をちゃんと貰えた事にはお礼を言ったギンジ。

 

 だが宿敵であるリコニスは片手を上げたまま、ギンジに殺意を押し付けると、そのまま無言で歩き去って行った。

 

 「よし!情報が正しいかわかんねーけど、カエデ達を連れてリゾートホテルに行くとするか!」

 

 次の目的が決まった。

 

 ミヤコを助けると言う大枠の中で、今度はミヤコの結婚式の阻止、妨害。

 

 そして・・・。

 

 「次はあいつをぶっ飛ばす・・・!」

 

 大幹部柏木タツヤ。

 

 次に会うことあれば、今度は修行の力であの悪の大幹部を倒す。

 

 それこそがギンジにとっても、ミヤコにとっても最高にスッキリする事だろう。

 

 「あ、そういや何か忘れてる気がするが・・・ま、いいか」

 

 ギンジはやがて夕方の空になりつつあるこの道を、一人で歩き、次第に走り、次はコウモリの羽で飛翔する。

 

 一刻も早く聖カエルム教会に帰還し、カエデ達に連絡をしよう。

 

 その後はオーク怪人も連れて作戦を組み立てよう。

 

 いよいよミヤコを助ける直前まで来たという期待と、半分信じがたい疑心暗鬼みたいな複雑な気持ちの中、佐久間ギンジは大空を舞った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 駅前エリア。

 

 失敗作鎧の怪人を複数体破壊し終えた赤鬼は、駅長や一般市民達から沢山の感謝とお礼の言葉を述べられていた。

 

 ギンジも評価こそされているが、おそらく正義のヒーローとしての評価は赤鬼が一番高いのかも知れない。ヘヴンホワイティネスの中でもダントツだろうか。

 

 「いやー俺っちそんなたいした事してねぇよ、街を守っただけだしよーヌハハハ」

 

 豪快に笑ってみせると、ニュースや記者がこぞって集まり、赤鬼に素性を聴いてくる者達が押し寄せている。

 

 「お仲間にお伝えしたい事はありますか?」

 「あ、そうだなァ」

 

 赤鬼は調子付いたのか、顎に手を回して牙を擦る。雄々しい一本角を目立たせて、テレビのカメラマンに顔を近づける。

 

 いくらサングラスで人間に化けているとは言えど、その迫力のある身長と顔つきはカメラマンが驚いてしまう程だ。

 

 漢。その言葉が似合う赤鬼は、カメラに向かってとびきりの愛を叫ぶ。

 

 「姐さーーん!俺っちと結婚してくれぇあああ!!!」

 

 大きな愛を一方的に伝えると、ヘヴンホワイティネスをインタビューしに来た記者達が一斉にどよめく。

 

 しかし余計な言及をされる前に、赤鬼は空気を操って駅の屋根にまで飛び出していく。

 

 柵を飛び越えて、屋根に着地した赤鬼はインタビュアーや、一般市民に向かってオリハル金砕棒を上空に掲げた。夕日に当てられた漆黒の八角棒が光を反射しては、市民達に優しい光が降り注いだ。

 

 そうする事で市民達に平和を取り戻したと言う事を、伝えられるからだ。

 

 赤鬼が遠くまでその視線を動かすと、バスロータリーやタクシー乗り場にまで人だかりが出来ている事に気がついた。

 

 最後の一体を倒すまでは、ほとんど居なかったのに。

 

 今はヘヴンホワイティネスの復活と合わせて、正義のヒーローを一目見ようと遠くまで人だかりが出来ていたのだ。

 

 「ヌハハ、また会おうぜ野郎共!」

 

 赤鬼は一言叫ぶと、そのまま自分を応援する皆に背を向けて東度固化市・聖カエルム教会へと帰還しに行く。

 

 そこで赤鬼は首をかしげる。

 

 「あり、そういやァ、俺っち何かを忘れているよーな・・・」

 

 何か重要な事、重要な兄貴を忘れている様な気がしたのだが、赤鬼は「ま、いっか・・・」と、駅前エリアを抜けてどんどん東方面へと戻って行くのであった。

 

 そんな赤鬼の帰路は、おおよそ人間には真似できない方法だが、次々と家屋の屋根を踏みつけては、ビルや車を空気圧で踏んで何度も飛んでいく。

 

 赤い肌に似合う夕日の朱が、復活した正義のヒーローを輝かせていた。

 

 

続く

 

 




お疲れ様です。

今回、リコニスも出張ってきたお話になりましたが、ミヤコがどこに居るという情報も解るお話になってきました。

キャラネタ書きます

リコニス/畑中リコ
ギンジちゃんと戦いながらも、2回イッた。実は隠れドM
ただしギンジ以外と戦うならば、そんな事は無い。
ギンジに恋い焦がれて再開だけでも嬉しかった。
いつも通り殺し合いが大好き。イカれた女の子。

佐久間ギンジ
リコニスとマジバトルしていて少し楽しんじゃった。
本来の目的を忘れてバトルして、更にはミヤコを助ける為とは言えどデートしてしまった。
ただリコニスも〈大好きな人達〉の一人なので、本当に殺し合いをしないといけないのか悩み所。

赤鬼
ヘヴンホワイティネス・通称ヘヴン4。
彼だけは除名扱いになっていたので、再び度固化市で悪と戦っている姿を発見されて、復活したヘヴンホワイティネスと呼ばれる様になった。

死を乗り越えた勇者だとか噂までされているが、実際勇者なのである。
その事を市民達は知らない。

・・・

次回はいよいよミヤコ救出の為の大きな一手が動きます!
ギンジとオーク怪人もペアを組んでいたり?
カエデとオーク怪人が喧嘩したり?
レンとオーク怪人がぶつかったり?

はい、ここまで話しておわかりの通り、オーク怪人がメインになる回です。彼はドクターミヤコと色々深い繋がりがありますのでね・・・

それではまた次回!感想、応援、怪人の細胞!お待ちしております!
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