正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちは、アトラクションです!

一週間投稿できずにすいませんでした!
もう、超、忙しかったです。それでもちょこちょこ書いてましたが、どうしても投稿に至らなかった。ごめんなさい!

でも頑張って書きました!お願いします!

それではどうぞ!


86・本当の恐怖の意味を理解して

 ホテルに近く、その敷地内の石床が続く噴水の道に、無数の銃撃音が何度も響く。

 

 夜空にこだまする銃撃音に続いて、次に鳴るのは金属が弾丸を弾く音が鳴り続ける。これもまた海の真上の夜空に響きわたり、途絶える事無くこの場に立つ三名の耳に入り込んでくる。

 

 銃を撃つのは、甘白ミドリコ。赤地のタンクトップ姿に、鉄板入りのスニーカーを履いて、銀色の巨大武装ボウガンを構える彼女が、思い切り弾丸を撃ち続けていた。

 

 その背後でミドリコの射線上に入らない様に、攻撃のタイミングを図りながら待機するのは赤鬼。

 

 どちらもヘヴンホワイティネスとして、巨悪であるヘルブラッククロスとの交戦を行っている。

 

 相手は新怪人四天王の武者の怪人。

 

 フェーズ3としての力を開放した、本気の状態を維持する彼の力は、殺意と敵意が明確に感じ取れる最大の悪の波動。

 

 ひと振りの刀が揺れれば、それを追いかけるように残像みたいな刃が5本手元を追いかけている。

 

 甲冑とコートを合わせた様な姿は、怪しく、それでいて地獄から這い出た死神の様な気迫を持ち合わせている。

 

 人を・・・それも女性を斬り殺す事に快感を愉悦を覚えている武者の怪人は、どれだけの遠距離攻撃を浴びせられてもまるで臆していない。それは確実に死を覚悟した怪人の生き様であり、彼なりの武士道。

 

 「クソ!」

 

 ミドリコから悪態が吐露される。それまで構えていたシルバーボウガンの弾丸を撃ちきってしまい、予備のバレットロールを装填しないと次の攻撃が出来ないのだ。

 

 所謂弾切れ。その状態になったミドリコの命を奪おうと、すかさず武者の怪人が飛び出してくる。石床を滑る様にして一瞬でミドリコの接近をしてきた。

 

 「死ね──」

 

 短く一言を言い放ち、残像の様に追いかけてくる刀が振るわれた。

 

 だが・・・今のミドリコはそんな事では驚かないし、怖いと恐怖する事も無い。

 

 「姐さんに触れると思ってんじゃねェ!」

 

 ギャギーン!!

 

 ミドリコの首をめがけた刃が振出された瞬間に、背後に立っていた赤鬼がオリハル金砕棒を突き出した。

 

 二つの金属が擦れて火花が散り、赤鬼の突き出しに咄嗟に防御した武者の怪人が後退させられる。

 

 赤鬼の豪腕と空気を打ち出す力が相まって、その一撃は非常に高いダメージを生み出せそうだった。

 

 「拙者を押すとは、やるな」

 「俺っちとお前とじゃ、馬力が違うぜ」

 「なるほど・・・」

 

 押された勢いを利用した武者の怪人が左足を軸にして、その場で回転して赤鬼に横胴一撃を繰り出す。

 

 あまりにも早い反撃に一瞬反応が遅れて、刀一本を追いかける6連続の斬撃が赤鬼を襲う。

 

 「ッ!」

 

 人とは違う赤く分厚い肌、皮は硬く明らかに人間よりも異質な身体をした赤鬼から出血が舞い上がる。

 

 血しぶきにはならなくとも、赤鬼に傷をつけたのだ。武者の怪人の攻撃は、確実にミドリコには当てさせられない。是が非でも彼女だけは守らないと行けない事を再認識する。

 

 「赤鬼、下がれ!」

 

 次の攻撃にオリハル金砕棒で応戦していると、ミドリコから掛け声が。

 

 予備のバレットロールを装填したミドリコが、次の攻撃準備を整えたのだ。

 

 武者の怪人の攻撃をうまく凌いだ赤鬼が、空気の脚で空中に脱出すると、武者の怪人だけがミドリコの視界に残った。

 

 女性を斬り殺す事に快感、愉悦を覚える怪人など、性的に女性を襲う怪人よりも厄介だ。そしてこんな怪人によって、このホテルや休日を満喫していた女性も何人かは犠牲になったのだろう。

 

 「拙者を相手にまだ豆で勝つ気で居るのか?愚かしいモノだな」

 「当たり前だ!」

 

 ミドリコの言葉には強い思いが乗せられていた。

 

 もし、自分達が敗けてこの怪人が街に解き放たれたら、きっと何十、何百、何万と女性が殺され、世界の均衡すらも破壊されるきっかけになるに違いない。

 

 もし自分だけが死ぬとして、カエデもレンもこの怪人によって無残な姿になってしまったら・・・。

 

 そう、悪い事を少しだけ想像してしまった。

 

 そんな事になったら最早未来を守るも何もあったモノではない。

 

 「お前の様な怪人は・・・絶対にここで倒す!」

 

 ミドリコの覚悟が込められた弾丸、怪人用重装貫弾・改。

 

 いかなる怪人の硬い皮膚でも貫く、対怪人用ライフルに入っていた弾丸を、シルバーボウガン用に改良を加えた、新たな戦術装備。

 

 「喰らえ・・・今度は特別性だ!」

 

 最初からこれを使えばよかったのだ。確実にこの怪人を倒さないと行けないと、そう解っていたのに・・・どこか不殺を決め込んでしまったミドリコの失敗。

 

 次は倒す。コレを逃した次はもう無い。

 

 構えたシルバーボウガン、構えた刀。

 

 ミドリコが細い人差し指で、重たそうな引き金が絞られた。

 

 カチリ、と重たい音を鳴らした次には、再び銃の乱射音が夜空に響き渡る。

 

 「ぬおおおお!!六限!六限!」

 

 振り下ろせば6枚の刀身が立て続けに銃弾を斬る。

 

 手元で回転させれば、武者の怪人が見えなくなる程の高速回転。 

  

 ただの一発も当てさせない、完璧な防御術、刀の腕前。

 

 武者の名前は伊達ではない。

 

 しかし・・・。

 

 「クカカカカ!先程とは違う!殺気の入った銃!」

 

 眼を血走らせて今戦っている女を・・・ミドリコという女を強敵と認める。ヘルブラッククロスに楯突く愚か者から、揺るがない倒すべき強敵だと、認めた。

 

 刀が振り回され、刃は連なり弾丸を斬り弾く。

 

 銃は重たい音を鳴らし続けて、その口から怪人を倒す弾丸が絶えず発射されていく。

 

 無数に広がり、武者の怪人へと迫る豆粒に例えた弾丸の数々。

 

 そのいくつもの弾丸が死線に見えた。触れれば死ぬ、死の一手。

 

 そこから武者の怪人が視界を巡らせる。この弾丸の隙間を抜けて、ミドリコを斬る為の【道】を探していく。

 

 「まさか・・・こっちに来るのか!」

 

 武者の怪人が一歩を踏み出したのを見逃さなかったミドリコは、彼の怪人が接近をしようとしているのが理解出来た。

 

 恐ろしく強い胆力で、弾丸を斬りながら迫る怪人なんて、ヘヴンホワイティネスとして活動していなければ出会う事は無いだろう。

 

 ヘルブラッククロス。これは間違いなくただのテロリスト集団ではない。

 

 揺るぎない信念、欲望に正直な執念、そして確実に排除していく志。

 

 この武者の怪人にはその全てが揃った、底の見えない巨悪そのモノ。

 

 「確実に仕留める!」

 

 身をかがめた武者の怪人が、死線となる弾丸を全て避け始める。勿論自分に当たるモノは斬っていく。

 

 (なんて強い怪人なんだ・・・)

 

 ミドリコは武者の怪人の強さにある種の関心が湧いた。

 

 どれだけ悪に染まっている怪人だろうと、ここまでの実力を見せられたらば、元軍人としての血が騒ぐ気分だ。

 

 だが・・・。

 

 (私はもっと強い怪人を知っている・・・!)

 

 一歩、一歩、一歩。

 

 武者の怪人は刀を振り回しながら、ミドリコに徐々に徐々に接近していく。武者の怪人の刀のリーチに入ったならば、その時こそがミドリコの最期になる。

 

 武者の怪人もそう判断して、ミドリコに刀が届く距離感にまで到達した。

 

 「貰った──」

 「こっちも貰った・・・」

 

 銃の引き金のすぐ近く、右手で握るグリップの親指部分でカバー出来ている部品から、銃口の切り替えのハンドルを回した。

 

 シルバーボウガンの銃口から、傘が開いたかの様なシールドが展開されていく。

 

 「絡め手等──」

 

 そのシールドを展開したのは、ミドリコの作戦。一つの布石。

 

 「──笑止」

 

 武者の怪人が傘の奥に居るミドリコごと斬る勢いで、六限の刀を振り下ろした。一本の刀身が、シルバーボウガンの傘を思い切り切り崩す。遅れて5本の刃も動きをトレースして、連なる斬撃が繰り出された。

 

 セラミックの傘の形をしたシールドが斬られ、武者の怪人は勝利を確信した。これで強敵を倒したと、完全に勝利をした気分になっていた。

 

 「これで勝ったつもりなのか?」

 「!?」

 

 勝利をしたと思っていた武者の怪人に、ミドリコの声が聴こえた。それは確実に斬り捨てたと、完璧に思い込んでいた女の声。

 

 その声がした途端、武者の怪人はもう一つの死線を感じた。

 

 傘の形のシールドの向こう側、シルバーボウガンは確かに斬り崩されて、破壊されている。

 

 しかし、そのすぐ真下。

 

 刃が通らない位置にしゃがみこんでいたミドリコが、腰に携えたウィンチェスターショットガンの銃口を武者の怪人の胸に突き立てた。

 

 「どうせこれでも倒れる事は無いだろう?」

 「試して見るといい・・・」

 

 銃と刀。

 

 二つの意思が、ふたつの敵意と共に、二つ同時に動き出した。

 

 動作を一つ挟まないといけない武者の怪人。

 

 引き金を引くだけで良い甘白ミドリコ。

 

 ミドリコが容赦無く引き金を引いた。

 

 その後すぐに銃声が鳴った。散弾は弾けて散らばる事無く、全弾武者の怪人の胴体に撃ち込まれた。

 

 「がぁ・・・!!」

 

 甲冑は砕け、肉を貫き、止め金が外れて石床に転がっていく。いびつにひしゃげた止め金が宙を舞う。

 

 「卑怯とは言うなよ・・・これが私の戦い方だ!」

 

 想像しているよりも強い衝撃が、武者の怪人の全身を駆け巡る。

 

 「・・・ぬぁ!」

 

 片膝を付きそうな時、武者の怪人がミドリコの胸を目掛けて刀を突いた。空気を引き裂く刃の切っ先が、ミドリコに向かって飛んできた。

 

 「甘い!」

 

 近接戦闘ならば、ミドリコの方が上手。軍人時代の格闘術による、手元を狙撃するかの様な手刀突きにより、武者の怪人の腕を弾く。

 

 その弾かれた勢いはそのままに、今の流れを失う訳には行かない。ミドリコが右足から拳銃を引き抜き、左肩に取り付けられたアーミーナイフを同時に持ち出す。

 

 この近接格闘ならば、ミドリコに軍配が上がる。

 

 砕けた甲冑にナイフを突き立て、肉を裂いて血を上げる。

 

 脚を拳銃で狙撃して、骨を使いモノにさせない。次立たせて距離を取られればミドリコに勝利はない。

 

 「はっ!せいや!ふっ!たぁ!!」

 

 顔を抑えた膝蹴り。上がった頭部に右肘のかち上げ。空いた胴体、ナイフの刺さった胸部に前蹴り。拳銃のガンストックを使った、鎖骨砕き。

 

 「トドメは・・・任せたぞ!」

 

 ミドリコの最後の攻撃は、全身の体重を使ったタックルによる押し出し。

 

 武者の怪人を噴水広場まで押し出すと、ここまで待機していた赤鬼がオリハル金砕棒を高く構えて、フルスイングで吹き飛ばしにかかった。

 

 「──無念!」

 「空打超破壊豪(くうだちょうはかいごう)!!!!」

 

 オリハル金砕棒の圧倒的な一撃により、武者の怪人の全身をバキバキと打ち砕きながら、夜空の果てまで武者の怪人を吹き飛ばした赤鬼。

 

 トドメと言いながら、追い打ちの攻撃が行われようとしていた。

 

 それは・・・。

 

 「ここの引き金を引きゃあ、いいんですね」

 「ああ、そうだ!よく狙うんだ!」  

 

 ミドリコが赤鬼に手渡し、ミドリコも構えている武器。

 

 空に向けて撃つ事が可能で、弾頭がどこかに着弾すれば大爆発を起こして全てを粉々にする、ミドリコの最終兵器。

 

 『ロケットランチャー!!』

 

 ミドリコと赤鬼が2人同時に声を上げて、煙と火を吹き出したロケットそのモノの弾頭が、空に打ち上げられた武者の怪人に向かって飛んで行く。

 

 「──見事なり・・・!」

 

 武者の怪人がそう呟いた。そして眼を閉じて、ヘルブラッククロスの栄光を願い、彼は夜空の爆発に巻き込まれてその意識を無くして行った。

 

 武者の怪人は撃破された。その事でミドリコが安堵すると、赤鬼の背中にもたれる。

 

 「・・・ありがとう、赤鬼」

 

 きゅっと甚兵衛を掴んだら、じわりと白い液体がにじみ出てくる。

 

 「姐さん・・・」

 

 自分の愛する女を守れて安心すると同時に、赤鬼はミドリコに向き直りながら、むき出しの肩を優しく触る。

 

 赤地のタンクトップに包まれたミドリコの胸が、薄い布一枚の中で軽く揺れる。

 

 「・・・」

 

 なぜだか何も喋れなくなって、ミドリコは鼓動が早くなっていく。

 

 ヌルついた自分の手を指でこすりながら、赤鬼に触って貰っている肩がジワジワと暖かくなっていく。

 

 赤鬼の怪人の瞳から、眼を離せない。この状況で自分を助けてくれた赤鬼の事が、ミドリコの頭の中で一杯になっていく。

 

 最早・・・この時点でミドリコと赤鬼の中では、誰も居ない空間となっており、顔が熱くなっていく。

 

 「姐さん、無事で良かった。絶対に姐さんを守ってみせるからよ、今後も一緒に─」

 

 赤地のタンクトップに包まれたミドリコの胸を見て、赤鬼はリビドーが加速する。それと同時に何故かミドリコの呼吸も荒い。

 

 「あ・・・そういや、女王ナメクジの怪人の液体、ついたままだったな。ヌハハ」

 

 軽く笑って見せたが、今赤鬼は自分の身に危険が迫っているなんて知りもしなかった。それはミドリコも同じだ。

 

 分厚くて硬い身体をしている赤鬼が、非常にいやらしく見えてしょうがない。

 

 胸を揺らして、しなやかな脚を見せて、女性にしてははっきりしている割れた腹筋、汗と土煙に汚れた肌。

 

 美しく整った顔に、オトナの気品を溢れさせるミドリコの、乙女の様な顔が。

 

 擦れる牙と雄々しい一本の角と、赤い皮膚、真っ直ぐにミドリコを見つめれば、心を溶かしきった赤鬼の情熱が。

 

 そして・・・女王ナメクジの怪人の能力である、人を快楽に導く粘液の効果。

 

 自分のピンチを救ってくれるのは、いつだって赤鬼。ギンジでは言ってくれない言葉や、愛情を込めたとりとめのない言葉の数々。

 

 今、この瞬間を持って甘白ミドリコの中では、佐久間ギンジは過去の男になった。

 

 「いいんですね?姐さん、今からここで・・・」

 「好きだ」 

 「!!?」

 

 ミドリコに言われた事の無い言葉が一番聴きたくて、今一番言われたかった言葉が赤鬼に届いた。

 

 「・・・赤鬼、お前が・・・好きだ」

 「・・・俺っちも愛してますぜ・・・」

 

 胸板に頭をうずめたミドリコの身体を抱き止めて、赤鬼はその強い腕で甘白ミドリコを抱きしめた。

 

 ミドリコを助けた褒美と、戦いの勝利で得たモノは、ミドリコの愛と恋と好きという気持ちをすべて煮詰めて、心を完璧に溶かしきった赤鬼へのご褒美。

 

 本当はこんな事をしている場合じゃない事は、2人共解っている。

 

 だけど、愛しあえる2人が、快楽と愛情を求める様に、2人は戦場となっているこの場所で・・・。

 

 「私以外に眼を向けたら・・・許さないからな」

 「俺っちは姐さん・・・ミドリコ一筋なんで、心配無用だぜ」

 

 耳元で優しく囁かれて、お互いに真っ直ぐ向き合って、頭の中が爆発しそうで、でも揺るがない愛情がここで育まれて、2人は海岸の音や真夏の暑さに敗けないぐらいに、熱く唇を近づけた。

 

 キス。赤鬼が求めて、無理やりには奪わなかったミドリコのファーストキスを、赤鬼が貰った。

 

 「一生守る。何があっても、俺っちだけが、ミドリコを守る。守らせてくれ・・・」

 

 真夏の夜空に、月夜が浮かび上がり、しかしホテルの中では轟音と戦闘の音が響く。

 

 ミドリコと赤鬼が、再度キスをして、2人の背後では更に爆発が起こったのであった。

 

 

 

新怪人四天王・武者の怪人──撃破!

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 ホテルの地下フロアでは、蜘蛛の巣が至る所に作られ、見えない程細いそれは身体や手に纏わりついて、捉えた者の動きを阻害する。

 

 時として粘着質で、時として脚を斬られるような痛みが走って、時として締め付けられる様な感覚で・・・。

 

 「鬱陶しい」

 

 蒼白い光を放つビーム剣を振り回して、レンは新怪人四天王の蜘蛛の怪人の攻撃を焼き払う。

 

 蒼いラインに、白を基調としたボディラインを強調するレンのスーツに、暗闇の向こう側から太い糸が伸びてくる。

 

 「!」

 

 反応が遅れても見てから対応が可能な、その糸の束。攻撃の速度としては遅くて、走って近づいてくる様な速度に、今のレンであれば普通に斬り落とていく。

 

 「・・・また、見失った」

 

 このホテルの破壊が激しい影響か、ここ地下一階のフロアはほぼ全ての明かりがつかなくなってしまった。そんな状況でレンが今戦う相手は、フェーズ3の能力を開放した、蜘蛛の怪人。

 

 戦っている最中に明かりが消えて、あの怪人を見失ってしまった。

 

 そして暗闇の中、明かりの代わりになるのはこのヘヴンホワイティネスのスーツと、レンの持つビーム剣のみ。

 

 暗闇の中心でこんな明かりをつけていれば、蜘蛛の怪人が遠距離から攻撃しては、そこらじゅうにトラップを仕掛けて回り、レンを逃さない様にいやらしい立ち回りを演じている。

 

 「いい姿だぜ〜ヘヴンホワイティネス!オイラと気持ちよくなる覚悟は出来たか?出来たかって聴いてんだオラ。教示せよ?」

 

 耳にこびりつきそうなドロドロした声音は、レンの耳に聴こえてくるだけで不愉快だった。わざとらしくにちゃにちゃ喋るその声が不快で、どうしても今直ぐにこの怪人を倒したい。

 

 「おやおや〜?黙んまりか〜?ビビってるその顔も可愛いよ」

 

 この蜘蛛の怪人の原動力はたった一つの、性欲だけ。顔の良い女性が居れば、それを自分が満足するまで抱くだけの、シンプルでも下衆でクズの考えでしか無い。それが原動力となっている蜘蛛の怪人は、今なおレンを屈服させる事をまだ諦めていない。

 

 「・・・来るなら、早く来て」

 「抱きしめてやるぜ!!」

 

 そう言ってレンの正面から伸びてくるのは、白い糸の束。

 

 「無理」

 

 ビーム剣は無情に斬り裂いていく。

 

 「急にイクと身体がきついからね」

 

 白い束の糸がレンの右側から伸びてくる。

 

 「五月蝿い」

 

 ビームランスを振り回して、蜘蛛の怪人のラブコールを貫く。

 

 「ポーズだけでいいから好きって言って♡」

 

 今度はレンの背後から糸の束が伸びて来てわざとらしく緩い動きをしている。

 

 「却下」

 

 ドリルで蜘蛛の怪人の言葉ごと削り潰していく。

 

 ドリルから次の形状は、牙。熱を収束させたエネルギー弾を撃つことが出来るレンの唯一の遠距離武器。

 

 それを自分が立つ左側に向けて光熱を、ビームの熱を牙の口内に集めていく。

 

 「・・・そこ」

 

 やはり読んでいた通り、レンの左側から糸が飛んでくる。

 

 「熱光撃(ねっこうげき)!」

 

 光の熱を集めたビームキャノンが、暗闇を突き進みながら辺りを照らしながら奥へと進んでいく。

 

 「オイラ言ったよなぁ!八つ裂きにしてやるって!その前に気持ちよくなろうぜ!」

 

 熱光撃は蜘蛛の怪人には当たらず、壁に当たって風船の様に破裂して眩い光を一瞬照らしていく。

 

 カサリ・・・そんな音を立てながら、蜘蛛の怪人は熱光撃を避けて壁を走り出す。蜘蛛の脚を完璧に揃えた無数の手であり脚であるそれらを、器用に操りながら走っていく蜘蛛の怪人の動きと、場所をある程度は視認出来た。

 

 あとはこの暗闇に視界が遮られない様に、レンがビーム剣の形状を蛇腹剣に変える。

 

 刃を地面に突き刺して、連結している刃を一定距離で外しながら、引っ張る様に、レンも蜘蛛の怪人の向かった場所に近づいていこうと走り出す。

 

 蜘蛛の怪人はレンからの追従を逃れる為、どうにかして撃破の為の決定打を撃ちたい。

 

 だが・・・。

 

 「この姿のオイラを捕まえられるか!」

 

 本物の蜘蛛の様な姿になった蜘蛛の怪人が、人と同じ形の頭部をぐるぐる回してレンを挑発する。暗闇では眼が冴えているのか、レンがどこを走っているのかは良く見えている。

 

 そんなレンは蜘蛛の怪人との距離感を一定に保ちつつ、手元のビーム剣の明かりを頼りに、迷わず進んでいる。

 

 常にお互いに正面を向き合う姿勢が維持されている。

 

 これでは攻撃できてもすぐに場所がバレてしまい、思うようにフェーズ3の攻撃も振るえない。

 

 「捕まえる。絶対に」

 「確実にお前だけは、オイラが八つ裂きにして犯してやるよ」

 「断る。絶対に」

 「遠慮すんなよ。気持ちよくなろうぜ」

 「断る。絶対に」

 「オイラと気持ちよくなればアレよー、しょっぱい汁すすり放題アルヨーシャッチョサン」

 

 暗闇の中で蜘蛛の怪人はレンの姿と位置が解っている以上、いつでもトラップは張り巡らせられる。レンもある程度の気配とわずかな音だけを頼りに、この性欲の権化とも呼べる蜘蛛の怪人に少しずつ近づいていく。

 

 「ッ!?」

 

 走るレンの両足が何かに引っかかり、転びそうになる。

 

 「しまった・・・」

 

 レンの脚に引っかかったのは、蜘蛛の糸。それも粘着性のある、スーツ越しでも不愉快な気持ちになる嫌な質感の糸。

 

 コンクリートから植え込まれる様に伸びた糸は、レンの脚にうまく絡まって、移動を阻害されてしまった。

 

 それと同時に、蜘蛛の怪人の動きも感知出来なくなり、一気にレンに不安が襲ってくる。この暗闇の中でどこから攻撃が来るのだろうか。

 

 後ろか、上か下か、それとも左右どちらかか・・・。

 

 「逆に捕まえられちまったなぁ!」

 

 暗闇の奥から蜘蛛の怪人の下卑た声が聞こえる。

 

 「オイラと気持ちよくなるお時間だぜ!ヘヴンホワイティネス」

 

 蜘蛛の怪人の声が止まると、次の瞬間レンは宙に釣り上げられてしまった。脚の糸がレンの身体を持ち上げて、逆さ釣りになってしまう。

 

 スーツで強調されたボディラインから魅せてくれる、少女の肉付きや骨ばった身体を見て、蜘蛛の怪人がわざとらしく涎を啜る音をレンの耳元で効かせる。

 

 レンが背後に蜘蛛の怪人が居る事を一瞬で理解すると、攻撃の為に身をひねろうとするが、それは呆気なく阻止されてしまった。

 

 蜘蛛の毛の生えた腕を首に回して、身体を抑えて、脚を開かせ、6つの眼球をレンと目線と合わせる。

 

 首をゴギゴギと回しながら顔を近づける蜘蛛の怪人の動きは、最早ホラー映像のそれであり、一般市民が見たら卒倒モノだろう。

 

 「・・・くっ」

 

 残っている人間体の腕でレンの胸を鷲掴みにする蜘蛛の怪人。

 

 「っ!」

 

 荒々しく掴まれ、ヘヴンスーツでの防御があっても、気持ち悪い。

 

 「やめっ・・・ろ」

 「クヒャハハハハ!やめてあげないよ!オラ動くな。制止せよ」

 

 やはりこの怪人には、女性を優しく扱うという事をしない。それは元々レンの予想通りだが、こんな愛を感じられない行為は、ただの暴力だ。

 

 「あーーー久しぶりの女の身体・・・それにあのヘヴンホワイティネス!あーやらけぇ」

 「死ね、最低、くたばれ」

 

 蜘蛛の怪人の下衆な言葉と、身体を触られる不快感からレンは逆さまのまま悪態を付いた。とは言え早くこの状況を脱出しなければ、本当に貞操が危ない。

 

 そもそも自分の身体を触って良いのも、レンと愛し合えるのもケイタしか居ない。

 

 腕は糸で固定されて、脚も開かされて、身体はこんな怪人に良いようにされてしまっていて・・・。

 

 これは屈辱という言葉が一番適切だろう。

 

 「ふおおおおやわらけぇえええ」

 

 開いた脚を下に引っ張って、レンはあられもない姿にされていく。

 

 柔軟性の事を言っているのか、身体を堪能しているのか不明、いやこれは両方だろう。蜘蛛の怪人に調子こかれるとは、レンの中に更なる怒りがこみ上げてくる。

 

 だが、まだ冷静だ。レンはまだ冷静さを失っていない。

 

 「ところで、私のビーム剣、返して」

 「あん?そんなの無いぞ・・・ま、あっても返さないけど」

 

 レンの手元にあったはずのビーム剣は、逆さ釣りにされた辺りで落としたのだろうと、蜘蛛の怪人は余裕ぶっていた。

 

 フェーズ3のヘル・タランチュラとなった蜘蛛の怪人が、涎でにちゃついた口元をレンに見せつけていると、レンはその滑稽な顔を見てクスリと微笑んだ。

 

 「やっぱり、気づかないんだね」

 

 レンは・・・宮寺レンは、今この瞬間、蜘蛛の怪人との戦いに勝利を確信した。

 

 「あ・・・?」

 「ビーム剣術・・・!」

 

 レンが逆さ釣りのまま、全身を覆うスーツを発光させる。

 

 その光は最初にカエデハウスで戦った時と同じで、蜘蛛の怪人に少しだけ調子付かせる事にした。

 

 「もう、勝てないかも知れないから、これで全力・・・」

 「諦めて気持ちよくなれよ!!」

 

 蜘蛛の怪人の蜘蛛の腕が、開脚させている状態から外される。一気にスーツ全体が光熱を帯び初めて、あまりにも速い熱の浸透に、思わず手を離したのだ。

 

 「ぐあ・・・はっ」

 

 光熱を帯びた・・・という事は、レンの拘束も溶けて無くなるという事。火傷で負傷した蜘蛛の怪人の怪人体が、燃えながらもレンを睨んだ瞬間だった。

 

 その剣は、現代科学では到底解明仕切れない、光線の剣。

 

 それはさっきまでレンが持っていたモノとほぼ変わらない形をしていた。隠し持っていたのか、レンは着地と同時にそのビーム剣を、顔の横に構える。

 

 「な、んだ・・・それは・・・!!」

 

 蜘蛛の怪人の視界に入ったのは、ヘヴンホワイティネスとビーム剣。

 

 しかし、その姿が明らかに異質で通常の武器にしてはあまりにも驚愕するモノになっていた。

 

 握られた柄から伸びるのは通常のビーム剣なのだが、手元に何本も同じ様に剣身に重なる様にして、武器が取り付けられていた。

 

 

 ビーム剣に重なるのは、ハーフブレード、ハンマー、ドリル、ランス、牙、デュアル、ダブル、長剣、蛇腹剣、フランベルジュ。

 

 「ビーム剣術・イレヴンソード・・・」

 

 これで決着をつける。レンの覚悟。

 

 それを象徴する未来からの贈り物。

 

 それがこのビーム剣。

 

 フェーズ3を開放して強くなるのは、何も蜘蛛の怪人だけではない。

 

 カエデとミドリコとケイタとギンジと共に、仲間達と一緒に修行して得たレンの未来を守る力。

 

 「・・・八つ裂きどころか、私だったら十一つ裂きにしてあげる」

 「どっちにしても、気持ちよくなる未来は変わんねぇんだよ!」

 

 蜘蛛の怪人がビームウェポンを構えるレンに向かって、思い切り突進して来た。見事にそれは命中してレンは暗闇の奥へと飛ばされる。

 

 「想像以上に、速い・・・」

 

 これでも油断したつもりは無かったのだが、レンは巨体の一撃から複雑な表情を見せる。

 

 「猛毒大蜘蛛糸(セアカゴケグモ)!」

 

 粘着とも斬糸とも違う、毒々しい黒い色の糸がレンに向かって飛ばされた。蜘蛛の臀部から吹き出す糸がまた気持ち悪さを演出している。

 

 「邪魔、しないで」

 

 猛毒糸をイレヴンソードで斬り、振り回すとデュアルが空中を飛び回る。

 

 発光する蒼い剣が、空間を照らしてわずかに部屋が明るくなっていく。それでも蜘蛛の怪人を見つけるには至らないが、これでも十分だ。

 

 「毒は私には効かない。もう戦ったから」

 

 デュアルが空間を駆け回り、蜘蛛の怪人の姿が僅かに見えて、その姿を視界に捉えた。

 

 「今度は逃さない・・・」

 

 もう一度蛇腹剣を地面に突き刺して、レンが走り出す。向かう先は蜘蛛の怪人。

 

 「大斬糸!」

 

 そんなレンを迎え撃つ蜘蛛の怪人の新たな攻撃。触れるだけで斬れる糸の壁を作り出して、レンの脚を止めようとする糸の攻撃。

 

 「ダブル!」

 

 右手でダブルを取り出し、それを投げ飛ばす。走る勢いは止まらずに、レンの投げた武器が斬糸とぶつかりあい、糸の壁を斬り開く。

 

 「『こんなので、勝てる訳ないだろ。』謝っても、許さない」

 

 こんな怪人が居たのでは、トモカを始めこの世の女性が悲惨な目に合うのは明白だ。だからこそ、悪意に満ち溢れたこの怪人はレンが自分の手で確実に始末する。

 

 「気持ちよくなる前に、痛めつけてやるよ!」

 

 大蜘蛛の形のまま、蜘蛛の怪人がレンと真正面からぶつかり合い、ビームの熱と、蜘蛛の糸が幾度も激しくぶつかりあう。

 

 毛の生えた蜘蛛の手足は、レンの武器とぶつかり、斬られ殴られ、幾度も何度も連続でお互いの攻撃を叩き合う。

 

 「ぐぬぬ・・・」

 

 押されているのは蜘蛛の怪人。手数が多かろうと、レンのビーム剣術には勝てる気配が見えなくなってきていた。

 

 「お前を倒さないと、私の未来にも・・・仲間の未来も取り戻せない。ここで倒す」

 

 その言葉の重みがレンの覚悟の全てだった。

 

 「敗けるモノか!オイラは、全ての女を抱く使命があるんじゃ!」

 

 焦りを感じるその言葉と大声に、レンの手が一瞬だけ遅れる。そのチャンスを逃さなかった蜘蛛の怪人が、頭と糸を使ってレンを投げ飛ばした。

 

 暗闇の中に蒼い光が一点、大きく光っている。

 

 「粘着糸!」

 

 空中で身動きの取れないレンへ、追い打ちの粘着糸がまとわりついて、その糸が隙間無くレンを捉える事に成功する。

 

 「取った!気持ちよくなれぇーーっ!」

 

 一本の糸を口から射出して、レンを封じ込めた粘着糸とつなげて、彼女を暗闇の床に叩き落とす。

 

 いくら糸でコーティングされていても、この高さから落とされれば無事では済まない。だが相手はヘヴンホワイティネス。

 

 殺しても構わない相手を目の前にして、蜘蛛の怪人が全力でレンを落としにかかる。

 

 しかし、勢いをつけた糸は、飛び回るビーム剣・デュアルによって斬られた。

 

 「なんだと・・・!?」

 

 二本の剣が糸を斬って、蜘蛛の怪人はその武器を目で追うと、デュアルは暗闇の奥に消えていく。淡く蒼い光をともしたソレが、奥で発光すると、次はむき出しになった背中に刃が突き刺さる。

 

 ざくりと、容赦無く、確実なその攻撃は、蜘蛛の怪人が先に地面に落ちる原因となった。

 

 「がはぁ・・・!!」

 

 首を回して背中に目をやれば、そこに刺さっていたのは真ん中に柄を乗せて左右に刃が伸びた武器。両剣や、双刃剣、双矛、様々な呼び方はあるだろうが、それはレンの投げたダブルと呼ばれる剣。

 

 「ビームハンマー!」

 「!?」

 

 糸を斬り開いて、粘着の地獄から抜け出したレンは、ビームハンマーで蜘蛛の怪人を上空から急降下しながら振り下ろした。

 

 打撃の面となる箇所には、9本の棘がつけられ見た目通りの重さを、見た目以上の破壊力で叩き落された。

 

 背中に突き刺さったダブルを更に深く差し込まれ、さらにハンマーの打撃で背中がぐちゃぐちゃに潰される。

 

 「ぐっぎゃあああ!!!」

 「ビーム剣術!」

 

 地面に着地したレンの手元には、10種のビームウェポン。

 

 「ビーム・ヘヴン──」

 

 牙が熱を収束させ、ハンマーが鋭く光り、デュアルが刃を向けて、ドリルが荒々しく回り、ダブルが輝き、長剣が握られ、ハーフブレードが浮き、ビーム剣が狙いを定め、ランスが飛び出し、フランベルジュを構える。

 

 「乱舞!」

 

 ビーム剣乱舞を超えた、全てのビーム武器での乱舞。それらを手放しても操れる様になったレンの強力な武器乱舞攻撃が、蜘蛛の怪人に一斉に襲いかかった。

 

 「カエデハウスも、ケイタにも・・・」

 

 家の襲撃に、ケイタを襲おうとしたり、トモカの風呂を覗いて、街への被害、そしてカエデの心を傷つける様な今回の事件。

 

 全て・・・全てが許せない。この怪人だけはここで絶対に倒す。

 

 蜘蛛の怪人が抵抗しようとも、もう全てが遅い。その甲殻に覆われた身体や、蜘蛛そのモノの部分も、人間部分も全てビーム武器乱舞。

 

 弾き、抉り、貫き、斬り、砕き、叩き、燃やし、剥がし、刺し、奪う。

 

 「ぐっおおおああああああ!!!!」

 

 天国が見えた。 

 

 断末魔を上げながら蜘蛛の怪人が、レンの怒涛の攻撃により、吹き飛ばされる。

 

 そして吹き飛ばされた先にあるのは・・・。

 

 「ビーム・・・剣・・・!?」

 

 蛇腹剣が・・・まだ残っていた。

 

 「ビーム剣術!クライゼン・ヴィント!」

 

 地面に刺さった蛇腹剣が、星の形に展開されて、蜘蛛の怪人をその形にくり抜いた。

 

 「・・・まだ、だ!」

 

 性欲だけで気を持ち直した蜘蛛の怪人が、血を吐き出しながらもレンを睨む。

 

 「全部で11個・・・だと思った?」

 

 レンの目には敵意がまだ消えていない。

 

 「は・・・?」

 

 ビーム剣はまだ・・・形状があったのだ・・・。

 

 「ビームアックス・・・!」

 

 構えられた巨大な斧が、蒼白い光を大きく照らしながら、蜘蛛の怪人の大上段に構えた。

 

 「う、嘘だああああ!!!」

 

 出力を最大まで上げたレンのビームアックス。

 

 「女は・・・嘘を吐いて、美しくなるの。あの世で反省会でもして」

 

 レンが最後にそれだけ伝えると、両手に構えたビームアックスを振り下ろして、蜘蛛の怪人を頭から突き出た臀部まで、一刀の内に斬伏せた。

 

 その一撃の強さが尋常ではなく、斬られて真っ二つになった蜘蛛の怪人が、斬られた断面図から燃え広がる様にして、その身体が四散していった。

 

 「・・・後は、2人・・・」

 

 暗闇の中で手元で光るビームアックスを携えて、レンは撃破した蜘蛛の怪人をの残った亡骸を踏み潰して上の階に戻ろうとするのであった。

 

 

 宮寺レンvs蜘蛛の怪人

 

 勝者・宮寺レン

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「聞け、ヘヴンホワイティネス」

 

 ホテルのエントランスホールでは、鋼の怪人がカエデを相手に説得しようとしていた。

 

 説くのは勿論ヘルブラッククロスの力による支配の世界の事。

 

 それと同時に日本という国を転覆させて、独立国家を創る事についてだ。

 

 特殊な能力を持ったこの少女を前に、鋼の怪人は一切臆していない。

 

 「我々の持つ思想に協力する気は無いか?」

 「そんなの・・・最初っからお断りよ!」

 

 鋼の怪人が言い出した事には、カエデが即座に否定する。少し助走を付けて身を捻りながら飛び出したカエデは、空中で回し蹴りをお見舞いする。

 

 左足で踏みつける様な蹴りは、鋼の怪人の顔に命中するが、ほとんどダメージになっていない。顔・・・頭部を全て鋼に変えたからだ。

 

 「はああああ!!」

 

 ガントレットのギアをフル回転させて、カエデは鋼の怪人の胸や腹部、胴体全てを殴り続ける。

 

 全身を鋼に変化させた事でその攻撃は、なんの意味を持たないのだが、それでもカエデは諦めずに攻撃を続ける。

 

 「我々が目指すのは、力による支配だけだ。この日本という国を手中におさめて、戦う者だけが、力を持つ者だけが弱者を虐げる世界だ」

 

 それはヘルブラッククロスの力に固執する考え。

 

 身体をどれだけ殴られようと、鋼の怪人の口は止まらない。

 

 「その支配を完成させるためには、先ずこの国を倒す必要がある。真にこの国を指導し、導いて、武力行使による正当性を認めさせなければならない」

 「そんな事、どんな国も世界も認めないわよ!」

 「認めないのであれば、我々ヘルブラッククロスが力を見せつけて、尚も納得しないのであれば、壊しに向かう」

 

 壊す。その言葉の意味は色々あるだろう。特にヘルブラッククロスが言う場合は・・・。

 

 「だいたい日本を転覆って、ふざけすぎよ!」

 

 カエデの拳は止まらない。

 

 「当たり前だ。敵を殺して、その命を奪うのは強者の特権だ。生きる力も無い者は、我々の望む世界には必要無い」

 

 冷徹な言葉はカエデに悪寒を走らせた。

 

 「解るか?力は全てにおいて優先される。やがてこの国だけではなく、この世界、全てをヘルブラッククロスが手に入れる」

 「そんなの、全世界が認める訳ないでしょうが!」

 「認めなくても構わん。我々の目的はただ国を手に入れるだけではないのだから・・・な」

 

 鋼の怪人をずっと殴り続けているカエデが、飛び蹴りで距離を離すと、少し呼吸を整えて再度走り出す。ガントレットのギアは痛い程鋭く回り、スチームが噴出し続けている。

 

 「国を力で支配すれば、今度は世界を手に入れる。破壊し尽くして、生き残れる者だけが生き残るべくして、欲望を発散し続ける世界だ。全世界の支配等、古今例の無い話だろう?」

 

 つまり・・・日本だけの支配だけではなく、世界すら手中に収めようとしているのがヘルブラッククロス。この国を支配するのは、その1段階に過ぎない。

 

 「どれだけ抵抗しようとも構わん。それだけ殺し続けるだけだからな」

 「そんな事したら・・・どれだけの人々が悲しむと思ってるのよ!」

 「弱者は力のある者に守られなければ意味が無いだろう?そういった道具を活かすも殺すも、全ては我々次第だ」

 

 鋼の怪人が悪辣な笑みを浮かべる。

 

 「女を犯し男を喰らい、全てを壊すのも、我々ヘルブラッククロスだと言うことを全世界に教えねばなるまい。そこで我々の力にひれ伏し、守って欲しいと懇願する者も現れるだろう。我々はそこで地獄の暴力を売る事にしている」

 

 世界戦争になりかねない規模の話をしながら、鋼の怪人の言葉はまだ終わらない。

 

 「日本がヘルブラッククロスという国に変わった時、我々は力を売り、戦争をビジネスにして、支配を確実に進める。どうしても殺したくない存在が現れた時は、そうだな・・・洗脳でもしようか」

 

 いやらしい悪の笑顔で、鋼の怪人はカエデの攻撃を受け止め続ける。

 

 まるで動じていないこの鋼の怪人に、それでも諦めずに攻撃し続けるカエデは、呼吸が途切れそうになっていく。

 

 「洗脳し、尊厳を壊す。これもまた力だ。武力を有効に使い、全ての生物を力で屈服させる。ああ、女だけは利用価値があるからな、無闇矢鱈に殺されたりはしないだろうな」

 

 日本だけではなく、この世界の支配。それも暴力一つで世界を統治しようとしているなんて、カエデからしたら耳を疑う話題ばかりだ。

 

 「世界の全てを力で屈服させれば次は、全世界への洗脳だ。それを完遂してなお、ある一定の特殊能力を持った存在を、力と性で支配する。そうして訪れた世界は、破壊からの創造を成し遂げて、より強き命だけが行きられる自由な世界だ。その世界でも争いごとは絶えないだろうが、一つのルールだけが法となり、全てを解決する」

 

 それが・・・。

 

 「力だ」

 「・・・!」

 

 闘争だけが続く世界で、自分勝手な自由の世界で、カエデは生きていけるだろうか。

 

 そんな世界で、人々は幸せを得られるのだろうか。

 

 この日本だけじゃない、軍事力においては最強とも言われたアメリカも、未だ無意味な交戦を続けるロシアも、カエデが大好きな韓国、いつか家族で旅行したいと言っていた、オーストラリアだって・・・。

 

 暴力だけで全てを解決して、気に入らなければ男女問わず性に飲まれれ、挙げ句洗脳で全てを都合よく動かそう等・・・。

 

 もしかしたらそうなってしまった未来が、レンの居た未来の世界なのかも知れない。そう思うと、カエデの悪寒が大きくなる。

 

 そんな理不尽で凶悪な世界・・・誰も望まない。

 

 望んじゃいけない。

 

 そんな世界で・・・。

 

 ミドリコと仲良く出来るだろうか。

 

 ケイタと共に他愛ない話が出来るだろうか。

 

 赤鬼と一緒にふざけた事が出来るだろうか。

 

 ミヤコと些細な言い合いが出来るだろうか。

 

 レンと共に笑って暮らせるだろうか。

 

 ギンジと一緒に、輝かしい未来だと胸を張って言えるだろうか。

 

 家族を、友達を、世界を、未来も。

 

 全て守りたいと願ったから、今のカエデが居るのに・・・。

 

 「考えてもみろ・・・お前たちが持っているその力は、使い方次第では、人を生かしもするし、殺めもする。人には無い特別な力をもっと誇るべきだ。そしてもっと正しい使い方をするべきだ」

 「違うわ!あたし達の力は、あんた達みたいな悪の組織の驚異から、あんた達の言う弱き人々を救う為の力なのよ!」

 

 ガンッ!

 

 強く殴る音を最後にカエデは呼吸を整えながら、鋼の怪人から手を離す。

 

 「さぁ・・・我々ヘルブラッククロスに下れば、素晴らしき世界を共に拝めるぞ。共に来い、ヘヴンホワイティネス」

 「ハァハァ、ハァ・・・ハァハァ・・・」

 

 気がつけばカエデはラッシュを続けた事で疲労困憊になっていた。

 

 「ふざけないでよ・・・そんな世界、人に・・・優しく出来ない、より添えない世界なんてねぇ・・・」

 

 ギンジの顔を思い浮かべながら、カエデは疲れた拳を握りしめた。

 

 「あたしは絶対にごめんだわ!!」

 

 カエデの必殺の拳が鋼の怪人に向けて撃たれるが、それごと鋼の怪人が胸筋で跳ね返す。

 

 鋼となった胸板はとても硬く、今のカエデを倒すには十分だった。

 

 「・・・あんた、本当にその世界で生きていけると思ってるの?」

 「無論だ」

 

 仰向けに倒れたカエデに、重々しい足音を鳴らして鋼の怪人が歩き出す。

 

 「真に支配するのは我々だ。ヘルブラッククロスこそが世界を創るのだ。暴力と、闘争と、破壊と、洗脳と、力による支配で!」

 

 鋼の怪人の力説に、カエデは瞳に輝きを取り戻した。

 

 勝てないかもと少し弱気になったが、それでもこの力説が、カエデに新たに生きる志を、心に火を灯した気分だった。

 

 「やがてヘルブラッククロスは、この日本を完全洗脳する兵器を使う計画もある。愚かな操り人形になりたくなければ、我々と共に来るべきだ」

 

 鋼の怪人が、倒れたカエデに手を差し伸べる。ここまで話を聴いたのだから、お前はこっちに来るだろう?そう言われている気がした。

 

 「お前の望むモノもあれば、この鋼の怪人が力になろう。快楽も破壊も、敵を倒す事も。もちろんお前の幸せもだ」

 

 なんと魅力的な誘い文句だろうか。

 

 カエデは鋼の怪人の志には芯があると理解した。

 

 「・・・それって、生半可な覚悟じゃできない事よね」

 

 カエデは呼吸を整えて、鋼の怪人に声をかける。力強い令嬢の声で、カエデは自分を認めてくれる男の手を眺めた。

 

 「ああ、そうだ」

 「・・・そう、良く解ったわ・・・」

 

 カエデがそう告げた途端に、鋼の怪人が表情を明るくする。ヘルブラッククロスの思想を、今この少女は理解してくれた。

 

 その事に喜びはしゃぐ少年の様に、鋼の怪人がカエデの腕ではなく、肩を掴んで立ち上がらせる。

 

 「そうか、理解してくれたか!」

 

 ヘヴンスーツについた埃や汚れを優しく取り払うと、鋼の怪人が力強く少女の両肩を叩いて、地獄へと歓迎している素振りを見せる。

 

 「さぁ、どんな犠牲を払っても共にこの世界をあるべき姿に変えよう!我々こそが、この世界を創ろう!解ってくれて嬉しいぞ」

 

 鋼の怪人の表情、目線はカエデを真っ直ぐ見つめていた、黒い眼球と赤い瞳が、歪に歪んでいる。本音ではカエデすら喰らおうとしている、そんな目つきだった。

 

 ヘルブラッククロスの思想、理念、これから先の目的、それら全てをちゃんと良く理解したカエデは、いつも仲間達に見せる様な強く、それでいて凛とした笑みを乗せる。

 

 「ええ、ちゃんと理解したわ・・・」

 

 ニッと笑ってみせて、その両手のガントレットには赤いオーラが纏わせて、腕を思い切り後方に伸ばす。肩を開いて、胸を開いて、腕を伸ばして、鋼の怪人へとその両手を突き出そうと構えた。

 

 「あんた達が救いようの無い、クズだって事が!」

 

 笑顔を消して敵を睨む表情に変わったカエデを見て、鋼の怪人が驚愕に飲まれた表情を見せる。

 

 そこにはこの一瞬で裏切られたと勘違いしたり、完全にカエデを信じ切った心を傷つけられた様な、得も言われぬ屈辱。

 

 「必殺!ヘヴンリー・インパクト!!」

 

 その感情が怒りと困惑。二つ合わさって脳内に考えが巡らなくなった鋼の怪人に、カエデの必殺技が炸裂した。

 

 「!!!???」

 

 思い切り胴体に当てられたその一撃は、今日初めて鋼の怪人に通じた強力な攻撃。

 

 重たそうな身体を軽々しく打ち上げて、エントランスホールを突き出て、外のチャペルにまで鋼の怪人を突き飛ばした。

 

 カエデの懇親の一撃が、正義の衝撃が、悪の組織の怪人に想い知らせる時が来た。

 

 外のチャペルには白い煉瓦で構成された、神々しいまでの美しさを誇る。そんな争いごとなんか忘れさせてくれそうな雰囲気が出ている場所に、黒い鋼の胴体に包まれた鋼の怪人が全身を使った大砲となり、チャペルの壁に激突した。

 

 「・・・愚か・・・だっ」

 

 瓦礫を殴り飛ばして、倒壊して来た建物の中で鋼の怪人が立ち上がる。暗闇の中で双眸を赤く輝かせて、人の形をしたシルエットが浮かび上がる。

 

 「愚かはあんたの方よ・・・覚悟しなさいよ」

 

 エントランスホールからここまで、カエデも追いかけてきていた。この怪人を倒す為に、ヘルブラッククロスの計画を知った以上、もう逃げる訳には行かない。

 

 こんな危険思想を持った怪人の行動を、全てここで終わらせてもう何もさせない。

 

 ヘルブラッククロスの思想を聴いて、カエデは決心した。

 

 絶対にあたし達は、こんな奴らの仲間にもならないし、協力する事は無い。

 

 「・・・そんなに死にたいか」

 

 鋼の怪人が全身の筋肉に力を入れて、闘気を放出する。煙と小さな瓦礫を打ち出して、全身を鋼が覆っていく。

 

 下半身の着物まで黒い鋼へと変わっていき、カエデが近寄れなくなるほどの強い闘気を放出し続ける。

 

 「冥土の土産に、見せてやる・・・これが我が怪人の奥義」

 

 丸めた身体を広げて放出が終わると、最後に衝撃のウェーブが発動されて、チャペル全体の壁が崩壊していく。

 

 椅子もステンドグラスも、瓦礫も全て吹き飛ばされて、その長四角のチャペルだった場所で、2人の戦士がここに立った。

 

 全身を黒光りさせる鋼の怪人。

 

 ガントレットとブーツのギアを回して、立ちはだかるのはヘヴンホワイティネス・神宮カエデ。

 

 「フェーズ3・・・黒鋼!」

 「それが奥の手って事ね・・・いいわ、最後まで相手してあげる!」

 

 全身を黒い鋼鉄に変えた鋼の怪人と、神宮カエデの決戦が始まる。2人の間には見えない視線の電流が走り、一瞬の内に間の空間に爆発が起きるイメージが流れる。

 

 その爆発が起こった瞬間、カエデと鋼の怪人が走り出してお互いの右拳が降りあげられた。

 

 「必殺!極・バスターフィスト!」

 「黒鋼・鉄拳(へるめたる・ふぃすと)!」

 

 ガントレットと鋼の拳。この二つがぶつかり合うと、お互いの手の中に響く強い衝撃が走る。

 

 お互い右手を引いて、回る要領で右足を上げて踵と踵がぶつかり、もう一回回る。

 

 「はぁ!」

 「ぬぅん!」

 

 カエデが少し距離を離して、僅かな踏み込みで飛び出すと、膝蹴りをぶちかます。

 

 鋼の怪人はそれを黒い鋼の左肘で撃ち落とす。

 

 姿勢も距離も五分の状況に戻り、カエデは左腕を、鋼の怪人も左腕をぶつけて絡めとる。

 

 「たぁあああ!」

 「敗け・・・んっ!」

 

 空いた右腕でボディブローを、2人同時に打ち合う。

 

 スーツに守られて居ても、中身に届く重たくて強い一撃。

 

 鋼を黒く強化しても、能力を打ち破られそうな、強い衝撃。

 

 続く右ボディブローは、あばら骨を狙う様なカエデの拳を。殴ると見せかけて鋼の怪人は腕を引いて、引いた勢いで絡まった腕を外し、回し蹴りでカエデのこめかみを狙う。

 

 「甘いのよ!」

 

 しかしカエデもその回し蹴りを見てから咄嗟に反応しては、顔面を守る。

 

 勿論ガントレットによる衝撃に脚を押し返し、鋼の怪人とはまたも五分の状況が出来上がる。

 

 「必殺・・・」

 「全身黒鋼鉄(へるめたる)・・・」

 

 ガントレットのギアのフル回転をより高めて、壊れても良いと想いながらカエデは正義の衝撃を乗せる。

 

 鋼の怪人も同じく黒く光る両腕を硬く握り直して、カエデの攻撃に応戦する構えを取る。

 

 「メガトン・レイザー!」

 

 カエデが繰り出したのは、メガトン・インパクトの威力を乗せたままのラッシュパンチ。

 

 「鉄拳連制裁(ろっくふぇす)!」

 

 黒い鋼の両腕を連続して突き出しながら、カエデの拳の雨あられを、黒い彗星の数々で殴り合う。

 

 「はぁああああ!!」

 「ぬおおおおお!!」

 

 右フックが、左ストレートが、フェイントが、アッパーが。

 

 何度もとどまる事の無い強力な拳が、幾度もぶつかり合い、鋼の怪人の顔に、身体に、脚に、カエデの肩に、胸に、腰に、お互いの攻撃が入っていく。

 

 「ぶっ!」

 「がぁ!」  

 

 鋼の怪人の拳が、カエデの顔の真ん中に当たる。

 

 カエデの拳も、鋼の怪人の顔に命中し、お互いにカウンターを打ち込んだ構図になった。

 

 メガトン・インパクトを片手で撃つ威力の高さ、鋼の硬さをそのまま拳に込める鉄拳ストレートに、2人共飛ばされていく。

 

 木製の椅子に頭から突きこまれたカエデ。

 

 神聖なチャペルの礼拝台に吹き飛ばされる鋼の怪人。

 

 騒々しい音を大きく鳴らして、最早ここがチャペルであったとは誰にも分からない、荒れ果てた空間となる。

 

 「・・・」

 「・・・」

 

 静かに立ち上がり、カエデは鋼の怪人を強く睨んだ。

 

 「闘争を知っている眼だな・・・本当に殺すのは惜しい」

 「光栄ね。あんたみたいなクズに、そこまで言われるなんて」

 

 子供も生きていけない様な世界を創ろうとするこんな奴らに、何を言われても嬉しいとは思わない。

 

 故にカエデは、この怪人を一分一秒も、未来に生かしておいて良いとは思わない。

 

 カエデの身体には、赤、青、緑のオーラが現れる。それを出現させたのはカエデの意思でだ。

 

 彼女の強い意思に呼応して、肩から腰にまで伸びた赤いラインが、明滅していく。そのオーラがとぐろを巻くように、カエデのスーツに被さって行くと、白い純白のスーツが徐々に黒く染まっていく。

 

 赤いラインが黒くなるスーツの中で一際強く輝き、ガントレットとブーツのギアが更に大きな音を鳴らして回る。

 

 「奥の手・・・かっ」

 「そうよ。あたしがお前みたいなクズに出す力なんだから、嬉しく想いなさい」

 

 カエデが出した能力はヘヴンスーツの潜在能力を一時的に最大限引き出す、シンクロ率が高い彼女だから出来る領域。

 

 ダークヘヴンスーツ。

 

 黒き天使。それが神宮カエデの、最終形態。

 

 「行くわよ・・・あんたなんかに手こずってたら、この先の未来なんて守れないの。もう誰も泣かないように、あたしが得た力なんだから」

 「色が変わっただけではないか・・・?」

 

 それは鋼の怪人も同じだと、自分で言いながら思って鼻で笑う。

 

 「言ってなさいな。もう、あたしは油断しないわよ・・・」

 

 カエデが思い切り回転させたギアを回して、一息に駆け出すと、眼で追うのがやっと素早さで、鋼の怪人に肉薄する。

 

 (速い・・・!)

 「必殺!」

 

 鋼の怪人の足元で、カエデは自慢の必殺技を解き放つ。

 

 「メガトン・インパクトぉ!」

 「ふごぉぉっ!?」

 

 胴体のど真ん中を正確に狙った一撃は、正義の大衝撃。

 

 チャペルの天井を破壊して突き抜けて、鋼の怪人を上空に打ち上げた。

 

 「・・・効かん・・・なっ!」

 

 実体に届いたが、まだそこまでのダメージは無い。

 

 しかし、チャペルの屋根を蹴ったカエデが、再びインパクトを込めた両の掌を鋼の怪人に向けて飛び出した。

 

 その姿はまさしく、黒い天使。

 

 「ヘヴンリー・インパクト!」

 

 大の字に浮かんだ鋼の怪人を更に打ち上げた。

 

 黒い鋼に守られた腹筋にヒビが入った。これは手応えを感じたと、カエデがもう一度インパクトを込める。

 

 「ごふっ・・・なんだ、この威力は・・・」

 「メテオライザー・インパクト!」

 

 更に正義の隕衝撃。もう一度鋼の怪人に衝撃を打ち込んで、黒い鋼がどんどん剥がれていく。

 

 「うぬぼれる・・・なっ!」

 

 鋼の怪人がこの空中でカエデを捉えようと、黒い腕を伸ばした。その両方向の殺気を感じた黒い天使は、空中で鋼の怪人の肩に脚を引っ掛けて、両腕を首に回して、組技の様に鋼の怪人の身体を拘束する事に成功する。

 

 「せーーーーーっの!」

 

 首に回した腕を思い切り下に引っ張り、鋼の怪人をチャペルに向かって投げ落とす。

 

 「まだ・・・来るのか・・・?」

 

 落ちる速度に追いつくように、カエデが鋼の怪人に落ちる勢い、体重、正義の衝撃を込めた掌を解き放つ。

 

 「テラマグナム・インパクトぉぉぉ!」

 

 次々と強い必殺技を打ち込み、ついに鋼の怪人の腹筋をコーティングする黒い鋼が粉砕された。

 

 「下は、瓦礫だ・・・勝負あった・・・なっ!」

 

 元々チャペルだった瓦礫の山に落ちながら、鋼の怪人は空中戦を開始しようと、攻撃を開始する。

 

 腹筋が壊れていようと、ヘルブラッククロスの意思を通す為に、ヘヴンホワイティネスを倒すと覚悟して、全力で倒しに向かう。

 

 だが、それでも上手になったのは、カエデの方だった。

 

 「超必殺・・・!」

 

 今このホテルや度固化の街が危険に晒されているのは・・・。

 

 否この世界が危険に晒されているのは、全てこんな組織が元凶だ。戦争を良しとして、平気で心や平穏を壊して、レンやケイタもミドリコだって、自分の父親も、苦しみに泣き叫ぶ一般市民だって、ギンジの命も、そしてこれから生まれる子供達の未来も、全てこの組織は奪うつもりだ。

 

 そんな事は絶対にさせない。

 

 力で全てを言い聞かせて、人を支配して、欲望のままに生きる世界なんて、神宮カエデは絶対に生きていきたいとは思えない。

 

 そんな未来で、人々が幸せを担う事なんて出来やしない。

 

 「これで、終わりよ!」

 

 両の掌に乗せた正義の衝撃。

 

 それを思い切り、鋼の怪人に叩き込む。

 

 「デストラクション・インパクト!!!!」

 

 能力が効いていない腹筋へ、その衝撃を打ち込めた。むき出しになった実体へと、カエデの超必殺技が、クリーンヒットした。

 

 「落ちろ──!!」

 「ぐっ・・・おおおああああ!!!」

 

 身体に走る正義の志から送り込まれる善の属性に振られた衝撃が、鋼の怪人の体内の全てに響いて行く。

 

 腹筋以外、全て黒鋼でコーティングされている為か、その衝撃は逃れる事無く、断続的に鋼の怪人のボディを内側から破壊していく。

 

 「・・・ヘルブラッククロスに、栄、光・・・あ、れ」

 

 これを最期と悟ったのか、鋼の怪人はカエデという初めて恋をした、最上級の女に敗れた事を光栄に想いながら、その身体を瓦礫の山に叩き落された。

 

 「地獄に栄光なんて無いわよ!」

 

 カエデのその言葉が耳に入ると、鋼の怪人は仰向けに倒れたままで、静かに瞳を閉じ、その意識と生命に終わりを感じながら、力尽きた。

 

 絶対にカエデは・・・ヘルブラッククロスに敗けないと、敗けたくないと、この世界の未来を守るために、鋼の怪人を打倒した。

 

 もうヘルブラッククロスの悪の魅力なんてたくさんだ。

 

 戦争して、暴力で屈服させて、挙げ句世界まで支配しようとするなんて、馬鹿げている。

 

 レンの居た未来の世界では、きっとそれが当たり前の世界だったのかも知れない。だからこそ、カエデは親友の未来を守りたいと、そして仲間達が生きる為の輝かしい未来を守りたいと、本気で願い始めた。

 

 ヘルブラッククロスならば、あの計画を本気でやりかねない。

 

 ならば・・・。

 

 「あたし達が絶対に止めてみせるわ・・・!」

 

 神宮カエデこと、ヘヴンホワイティネスが絶対にこの未来と世界の平和を守ろうと、志を新たにするのであった。

 

 未来を守るだけじゃない。

 

 未来を、変えるのだ。

 

 その為には、絶対にヘルブラッククロスに勝とう。その意思を宿したカエデは、急ぎ足でホテルに戻るのであった。

 

 仲間を助ける為に、ギンジともう一回未来の話をする為に。

 

 神宮カエデvs鋼の怪人

 

 勝者・神宮カエデ

 

 

続く   

 

 

 

 




お疲れ様です!

今回のお話ではヘルブラッククロスの真の目的が、日本転覆と力による支配、だけではないと言うのが解りましたね。

ヘヴンホワイティネスが居る限り、そんな事させやしない!

キャラネタ書きます

武者の怪人
ロケランもらった由緒正しい、ミドリコの被害者。
実は・・・おっと誰か来たみたいだ

蜘蛛の怪人
こんな怪人、斬られて良かったんだよ。オラ、謝罪しろ。

鋼の怪人
明確にヘルブラッククロスの計画を実現しようとしていた、怪人らしい怪人。太く長く鋼の如く硬い。
だがカエデの壊された。カエデの実力評価していたので、この敗北は納得が行かなくても、良い勝負だったとある意味満足している。はず。

甘白ミドリコ
赤鬼に心を溶かされた。2人っきりの時はデレる。

赤鬼
ミドリコを姐さんとは呼ばなくなった。ミドリコの事本当に大好き赤鬼ちゃん。怪人にしては珍しく、性欲を制御出来ている。ミドリコに嫌われたくないので、しょうがないね。

宮寺レン
蜘蛛の怪人をぶった斬った。
平和に一歩近づいた。

神宮カエデ
ヘルブラッククロスの言う理想の世界について、完璧に理解し、理解した上で壊滅させないと行けないと、理解した。
早くお父上を助けよう

佐久間ギンジ
彼はこの物語の主人公であり、神宮カエデと鈴村ミヤコに恋をしている。口が悪いが、ちゃんと優しい主人公。
でも見た目イカチィ。

・・・
次回、大幹部戦、開幕!
そしてついにギンジとミヤコが再開!
正義連合、オーク怪人、ヘヴンホワイティネス、そして柏木タツヤ。

混戦極まるミヤコ奪還編も佳境!

次回もお楽しみに!無理やりな物語ですが、少しでも皆様の暇つぶしになって、印象になれば幸いです。

では、また次回!
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