正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちは、アトラクションです。

最近更新頻度遅くてすみません、ほんとに仕事が多くて・・・

相変わらずめちゃくちゃな物語ですが、この物語もついにトータル90話超えていましたよ!

これからも命続く限り、ヘヴンホワイティネスの執筆を頑張ります!応援よろしくね!

それでは本編どうぞ!


87・こんなにも助かりたいと願った

 

 「待てー!」

 

 ホテルのVIPフロアに、少年の掛け声が響き渡っていた。

 

 いつもの学生服に、いつもの革靴。ホテルを走るその少年の姿は、それは異質に見える。その右手にかかえているモノも、純白の分厚い本であり、綺麗なホテルのカーペットを蹴りながら駆け出す少年。

 

 その少年の名は角倉ケイタ。

 

 ヘヴンホワイティネスの協力者だった彼は、今や正真正銘ヘヴンホワイティネスとしての活躍が、仲間たちから期待されている仲間の一人である。

 

 「闇雲に追っても駄目だ!」

 

 その隣を走るのは、スーツ姿に長いポニーテールを揺らす、長い刀を持ちながら、ケイタと同じくホテルのVIPフロアを走っていた。

 

 名は十五夜ヒトシ。神宮財閥御庭番衆の隊長であり、仕えるお嬢様である神宮カエデの執事でもあり、財閥長の神宮ソウジロウ、カエデの父親を守る絶対防衛の番人である。

 

 2人が追いかけるのは・・・。

 

 「しつこいですねぇ〜・・・虫けらにしては、少々小癪の様ですし、困りましたねぇ」

 

 ケイタとヒトシが追いかけているのは、公安警察に身を置いておきながら、ヘルブラッククロスに加担して、あろうことかその悪の組織の大幹部という席についた、邪悪を固めた蛇の様な男。

 

 名を柏木タツヤ。

 

 本来ならば真に正しい正義の為に尽力し、人々の平和の為にその力を振るわないと行けない、信念を持たないと働けない大きな正義の組織、警察に所属していた男である。

 

 高級感溢れる三つ揃いを着ているその男には、礼儀や気品は感じられるのだが、いかんせん周りやカエデ達を馬鹿にしたような態度と、そこ知れぬ悪意を感じ取れる喋り方、蛇の様にひょうひょうとした雰囲気がにじみ出ている。

 

 おまけに長時間走り続けても全く衰えないどころか、汗ひとつかかない無尽蔵の体力を持っている。

 

 ただの人間であるケイタやヒトシでは、走る勢いがどんどん落ちていき、追いつく事が出来なくなってくる。

 

 ケイタが魔法でヒトシを強化すれば、追いつけるであろうが、そうなればケイタは脱落する。

 

 故に2人で走りながら、なんとかしてあの柏木タツヤを捕まえないと行けない。

 

 2人が追いかけながら走っていると、タツヤは次のT字路を左に曲がる。それを見逃さなかったケイタとヒトシは、とにかく急いで悪の大幹部を追いかけていく。

 

 「・・・おや」

 

 タツヤが走り抜けようとしたその道の先は、階段だった。その階段の線の手前で、タツヤは脚が止まる。

 

 階段の手前には、非常事態用の鉄格子のシャッターが降ろされていた。

 

 これを破壊して突破するのは簡単だが、そうなればきっと後ろの愚か者2人に追いつかれてしまうだろう。

 

 殺す事も出来るのだが、それだと結婚式を挙げる前に手を汚す事になってしまう。

 

 ミヤコの心を壊す為には、こいつらにも生きておいてもらわないと、タツヤの結婚式が盛り上がらない。

 

 行き止まりにおいてタツヤが後ろを振り返る。背筋を伸ばして疲れを感じさせないその動きは、落ち着いた大人の仕草を雰囲気を見せて、影を背にしたままの怪しく恐ろしい殺気をまとわせる。

 

 「・・・ま、そろそろ頃合いでしょうかね」

 

 暗闇の中に羊が迷い込んで来た、と・・・。

 

 影の中に舌先を伸ばして、獲物の動きを探知するように、羊にとっては地獄になるこの薄暗い階段という洞窟の前で、鎌首をあげた蛇がその牙を開く。

 

 「もう、逃さないぞ」

 「覚悟しろ・・・神宮財閥にこれ以上の手出しはさせん」

 

 ケイタとヒトシが、肩で呼吸をしながらタツヤを追い詰めた気で居る。本当に自分に勝てると思っているのか。

 

 愚かしい。小賢しい。ゴミ虫が、勝てると調子に乗るな。

 

 そういった気迫は隠しながら、タツヤは口を大きく曲げて歪に笑う。

 

 その笑みと、未だ揺るがない悪の波動と思わしき、異質な雰囲気がケイタとヒトシに暑さを忘れさせる程に、冷ややかな瞳を見せつける。

 

 怒っているとも、楽しんでいるとも分からない、本当に異質。

 

 ケイタの眼に映るその男は、同じ人間なのに、人間には見えない。

 

 例えるならばまるで・・・そう、怪人の様に見えた。

 

 「では、まぁ・・・眠っていてください」

 

 その声が聴こえた途端に、タツヤが素早く動いた。

 

 素早く動いたその瞬間にケイタは瞬きをし、ヒトシは殴り飛ばされ、驚愕する間も無く、ケイタも腹部を殴られる。

 

 「あ・・・ぐ・・・っ」

 

 鈍い痛みと苦しみがケイタを襲い、意識が遠のいていく。

 

 今、僕たちは何をされたんだ?そんな考えが脳内に回り切るまでに、ケイタの視界は暗くなって行った。

 

 「・・・なんだ、その動きは・・・!」

 

 苦悶の表情を浮かべながら、ヒトシが手放してしまった刀に腕を伸ばす。

 

 刀を取ればまだ希望があると信じているヒトシに、タツヤはゴール直前で意地悪にシャッターを下ろす様に、脚で思い切り踏みつける。

 

 「ああ、まだ起きていましたか。本当は手を汚すのも、こうやって運動するのも面倒なんですよ・・・」

 

 ヒトシの伸ばした左腕を踏みながら、ニタニタとタツヤが笑う。

 

 「・・・面白い事が起きますよ。それでは、おやすみなさい」

 「何を・・・ぐあっ」

 

 タツヤがヒトシの胸を踏んで、次こそは気絶させる。もう一度念の為に肺を潰そうとする勢いで踏みつけると、蛇の様な顔でひと呼吸。

 

 「・・・」

 

 自分の能力を使うなんて、あのヘヴンホワイティネスや、ギンジに使うならまだしも、こんなザコに使う事になるとは。

 

 その行動に残念な気持ちを乗せながら、タツヤは端末を使って戦闘員を呼び寄せる。この二つの虫けらを運ばせるためにだ。

 

 「さて・・・」

 

 三つ揃いの服を軽く形を整えて、襟首を揃えると、タツヤは下で広がっている戦闘の跡を見て満足そうに鼻を鳴らす。

 

 そしてぺろりと、舌先も出して唇を舐める。

 

 もうすぐミヤコの心を壊す最終段階にまで来る。

 

 あの佐久間ギンジも、ヘヴンホワイティネスも、怪人四天王に任せれば全て問題は無いだろう。

 

 他にも梟の怪人も霊鳥の怪人も、対ギンジ用に用意した女王ナメクジの怪人だって居るのだ。

 

 「ククク・・・」

 

 思わず約束された勝ちに、タツヤからくぐもった笑い声が出てくる。

 

 「・・・楽しみですね、結婚式・・・」

 

 蛇がまた嗤う。確実に勝利に近づいていると、この世界を支配出来ると本気で信じて、嗤う。

 

 そうしてタツヤは戦闘員がここに来るのと、結婚式を楽しみにしながら、窓から覗ける真夜中の海面を見て、心を踊らせるのであった。

 

 その考えもヘルブラッククロスの勝利も、結婚式も・・・。

 

 全て壊されれる直前であるとは、彼はまだ知らない・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 どこを飛べども、どこを走ろうとも入り口は見つからねぇ。しょうがないから結局屋上のヘリポートから、俺はミヤコとカエデのオトーサンを探す為にようやく侵入できたぜ。

 

 ・・・ぶっ壊した屋上は、多分財閥パワーでなんとかしてくれんだろうな。

 

 そこからホテルの内部に侵入した俺は、どっかんどっかん壁をぶっ壊して突き進んで見る事にした。どうせ何があっても全部ヘルブラッククロスのせいに出来るしね〜。

 

 あとどれだけ壊しても財閥パワーでどうにか出来る。はず。

 

 楽観視しながらも、ミヤコとオトーサンを見つけたい俺は、右に左に、前へ下へ、上へと、色々な道を駆け回って行く。

 

 まじでこのホテルって迷路みたいになってるな。本当に観光客とか利用客居るのか?

 

 「うわ、ギンジが居たぞ!」

 「裏切り者を始末しろ!」

 

 そうこうしてホテル内部を駆け回っていると、俺を見つけた戦闘員達が仮面を輝かせながらこっちに向かって来た。俺とやろうってのかい。

 

 しかし戦闘員の数って多いよな。下にあれだけ送らせても、まだこんなに居るのかよ。

 

 「さっさとミヤコを助けないといけないんだ!どけ!」

 

 ここは素早く倒して先に進まないと行けないし、あまり暴れて力尽きても意味が無いな。

 

 「ムーン・フォース改!」

 

 通路を埋め尽くさんと迫り来る戦闘員達を蹴散らす為に、俺はアキハの持っていたムーン・フォースを開放する。月の力を媒体とした地球上に存在しうる特殊能力の中でも極めて異質な能力だ。

 

 ルカと同じ様な深緑色のラインがところどころに張り巡らせて、黒いマントがついた騎士みたいなパワードスーツに変身する事に成功する。

 

 このパワードスーツかっこいいよな、コテコテのお面ライダーマンみたいで。あ、お面ライダーマンって言うのは、この世界でメジャーなニチアサのキャラらしい。ルカが教えてくれた。

 

 俺が使えるこの能力は、元々はムーン・パラディースの天体アキハの持っていた能力で、月面と呼ばれる足場を空中に作り出す事が出来る。

 

 それともう一つの追加能力・・・っというかメインとなる武器が、鍔の無い柄の部分が刀身とそのままくっついたみたいな刀。

 

 長ドスとか言うやつ。これがこのムーン・フォース改の能力。

 

 心に反応して月の力が綺麗で美しいなんかアレ(語彙力)を打ち出す武器。

 

 限りなく善の力によるモノなんだけど、これはミヤコの改造で俺にも装備出来る様になっている・・・。

 

 長ドスを振り回して、戦闘員を一人斬り倒す。

 

 「オラオラ、邪魔すんな!」

 

 正面に立つ戦闘員も斬り、その奥で待ち構えている戦闘員も月の斬撃が飛び出す事で同時に2人撃破。

 

 炎とか雷、それと重力も使えればもっと汎用性高いんだろうけど、このムーン・フォース改はそれが出来ない。

 

 ミヤコの改造も完璧じゃない、と言ったらあいつは怒りそうだな。

ぷりぷり怒ると可愛いと思うけど。

 

 (・・・ミヤコ)

 

 眼の前の戦闘員を倒しながら通路の奥の進んで行き、俺はミヤコの事をもう一度思い出す。

 

 俺たちが襲撃を受けて孤立させられたあの日、8月25日にミヤコは俺に何を言おうとして居たのか。

 

 俺はミヤコに俺と言う人間のすべてを話した。自分が本当は誰かに期待されるような人間じゃない事や、実は社会の底辺に居た生きた屍だった事とか。

 

 それをあいつは、ちゃんと受け入れてくれた。その事が本当に嬉しくも思ったし、気を使わせたんじゃないかとも思った。

 

 (なぁ、ミヤコ。俺のすべてを知って、お前は俺に何を伝えようとしてくれたんだ?)

 

 あの時のミヤコの気恥しそうな、それでいて嬉しそうな、いつもの奈落みたいな顔じゃなくて、少女らしい顔をしていたミヤコの事が忘れられない。

 

 その答えを知るために、敗けて倒れる訳には行かない俺はまた一人戦闘員を倒す。どんどん数が減るけど、敵の勢いは止まらない。

 

 ならばこのムーン・フォース改と併用出来るもう一つの能力を使うか!

 

 「行くぜ・・・金棒!」

 

 俺は左手の自分の胸に当てて、そこから金棒を引きずり出す様にして、心の中にしまわれた赤鬼の金棒を降り出した。

 

 空気すら押し潰しそうな勢いでホテルの床に先端が落ちる。

 

 長ドスと金棒。この二つを持ち出した俺を止められるやつは、そうそう居ないぜ。自分で言うのもなんだけど、この組み合わせ好きなんだよね。

 

 なんかかっこいいじゃん?

 

 気を取り直して俺は黒い壁みたくなった戦闘員を前に、二つの武器を振り上げた。

 

 必ずミヤコを助けたい。

 

 この戦いに勝って、ミヤコをもう二度と俺たちと離れ離れにはさせたくない。

 

 そんな想いは身勝手かもしれないけど、そんな考えしか持ち合わせてない俺は、一心不乱に襲いかかってくる戦闘員を倒しながら、ミヤコとオトーサンとの再開、仲間達との合流を心待ちにしながら大暴れを開始する為に、振り上げた二つの武器を敵陣めがけて思っくそ打ち下ろした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 神宮リゾートホテルを逃げ回るミヤコとソウジロウ。

 

 彼女達もタツヤの指示により徘徊していた戦闘員達に捕まり、先に捉えられたケイタとヒトシと同じく、黒い十字架に貼り付けにされてしまっていた。

 

 ミヤコの意識はしっかりしているのだが、腕を引っ張りあげられて体重は下に落ちるからか、非常に肩が痛くなってくる。

 

 ウェディングドレスのままのミヤコを、真下から見上げてニタニタ眺めるタツヤの姿も確認出来ており、ソウジロウもミヤコも彼の顔を見ているだけで嫌になってくる。

 

 「まさか、ホテルの裏側にこんな所があるなんて驚きましたよ」

 

 ホテルの裏側にあるのは、人工的に削り取られた石の広場。そこに何個もテーブルや椅子を置いた、海を一望出来るこにのリゾートホテルの有名な場所らしい。

 

 タツヤはそこに戦闘員達の車や、黒い十字架を突き立てて、捉えた四人をここに貼り付けにした。そうする事でヘヴンホワイティネスへの交渉材料にもする事が出来るからだ。

 

 「しかし・・・やってくれましたねぇ」

 

 ここまでやっておいて、柏木タツヤには残念な思いで胸が一杯になっていた。

 

 結婚式を開こうと、このホテルにあったチャペルは倒壊。

 

 タツヤが信頼を置いていた怪人達は全員ロスト。

 

 新怪人四天王でさえも、武者の怪人を除き、鋼、蜘蛛は消滅を確認。

 

 対・ギンジ用の女王ナメクジの怪人もロストしてしまい、梟と霊鳥の怪人もここにやってきたヘヴンホワイティネスのお仲間に駆逐された。

 

 「・・・」

 

 夏の潮風が全身を煽りながら、タツヤは貼り付けにした四人を見上げる。

 

 こうなれば計画は変更するしかない。タツヤが手にしているモノは、打ち上げ花火。これを使ってここにヘヴンホワイティネスを呼び寄せるつもりでいるのだ。

 

 「そこで見ていてください。今すぐ貴女の心を壊してあげますから」

 

 タツヤが冷たく言い放つが、ミヤコは見下ろしながらタツヤの言葉に返事を返した。

 

 「くふふ、わたしの心なんて、君には壊せないよ。触る事も、見る事も、柏木大幹部には不可能だよ」

 

 絶対にそんな事はこの柏木タツヤには不可能だ。なぜならば、ミヤコの心も、身体も、全てを触れるのは佐久間ギンジしか居ないからだ。

 

 彼だけがミヤコと逢瀬する事を許されている、ミヤコの造る怪人の最高傑作の一つだ。

 

 「貴様、いい加減こんな事をやめろ!」

 

 ミヤコの隣で貼り付けにされているソウジロウが、タツヤに怒鳴った。

 

 「こんな事?はて、どんな事でしょうかね?」

 「下衆め!開放しろ!」

 

 ヒトシもタツヤに怒鳴るが、柏木タツヤにその言葉は届いて居ない様子だった。

 

 ケイタはまだ気絶したままである。

 

 「大人しくして居てください。どちらにせよ、もう全員生かしたまま返す訳には行かないので・・・」

 

 総統の目的の為に用意された新怪人四天王のロストは、柏木タツヤには予想外の出来事になっていた。このまま逃げ帰ったのでは、確実に自分がロストさせられる。

 

 (困りましたねぇ・・・あとに戦えるのは、このわたくしだけとは)

 

 蛇の様に口を横に広げて、タツヤは再びミヤコを見上げる。

 

 (・・・考えても仕方ありませんね・・・)

 

 ミヤコの方を向いたのは、ウェディングドレスを翻している事で、長い黒髪と共に風に煽られるミヤコを見ていたかったからだ。

 

 タツヤもタツヤなりに、ミヤコとの結婚を楽しみにはしていた。それを阻止しようとするヘヴンホワイティネスの結束力の高さも、四天王を破った事で理解した。

 

 ヘルブラッククロスとして生きる事を選んだ男は、もう後には退けない。

 

 ミヤコから目線を離したタツヤは、広場の中心にまで歩いて行き、手にした打ち上げ花火の筒口を上空に向ける。

 

 「ヘヴンホワイティネスを呼び出して、抹殺・・・くふふ、本当に出来るかな〜?」

 

 ミヤコは誰に聞こえるでも無く、タツヤの後ろ姿を見て煽ってみる。これは挑発しているのではなく、例えタツヤがヘヴンホワイティネスを殲滅出来ても、ギンジには絶対に勝てないと信じているからだ。

 

 バカ同士で潰し合ってくれれば、最期に残るのはギンジとわたしだけ・・・なんて事も想像してみるも、それはギンジが許さないだろう。

 

 そのままタツヤが打ち上げ花火を夜空に打ち上げた。

 

 ひまわりの様な模様にが赤と緑色で構成された花火が、夜空に打ち上がる。

 

 色とりどりの綺麗な花火は、好きな人と一緒に見ていればさぞ美しい花火になった事だろう。

 

 今ミヤコ共にその花火を見ているのは、神宮カエデの父親と、謎の男・・・神宮ソウジロウを様つけで呼ぶ男。

 

 それと未だ気絶したままのケイタ。

 

 「さて・・・ヘヴンホワイティネスと愚か者を呼び寄せる準備が整いました。確実に貴女の心を壊してあげます・・・」

 

 結婚式によって心を壊すのは、もう不可能だ。だからこそ、ここでミヤコの仲間を全員倒して、勝利を収める事でミヤコの心を壊す。

 

 もうその事しか頭に無いタツヤは、ここまで自分達を追い詰めた強敵の登場を待つ事にする。

 

 本当は自分の能力を使うのも憚れるのだが、仕方ないとタツヤは深呼吸する。

 

 来るならいつでも・・・。

 

 「さあ・・・待っていますよ、ヘヴンホワイティネス」

 

 蛇が夜空の下で革靴を鳴らして、怨敵の襲来に備えて待機を開始した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ホテル内部を捜索していたカエデ達は、後から合流したオーク怪人、そして正義連合と共に一般市民の退路確保や、避難誘導等も行いつつ、ソウジロウとミヤコを探していた。

 

 一向にギンジが見つかる気配はなく、ミヤコもソウジロウもまだ見つかっていない。

 

 代わりに見つかるのは戦闘員達だけ。

 

 パワードスーツを装備した、黒い怪人の瞳を模した仮面をつけた、あの戦闘員達だけ。

 

 「邪魔よ!」 

 「同意」

 

 カエデとレンの息の合ったコンビネーションが炸裂する度に、戦闘員が蹴散らされる。

 

 「ブヒ、貴様も退いてもらおうか」

 「俺っち達の邪魔ァすんじゃねぇ!」

 

 続くオーク怪人の砕き割る手刀と、赤鬼のオリハル金砕棒による怪人の破壊の一撃が二つ同時に繰り出された。

 

 「なんという攻撃だ・・・!」

 「って言うかなんであいつら息ピッタリなのよ・・・」

 

 カエデとミドリコがそれを見ていると、赤鬼の空気の打ち出しに、オーク怪人の筋力を合わせた攻撃が重なり、2倍の威力ではなく、2人を重ねた事による二重の一撃になっていた。

 

 ボウリングピンの様に戦闘員たちが吹き飛ばされる。

 

 「数だけは・・・本当に居るな」

 

 虹色に輝く破邪の剣を構えたレイナが、修道服に隠された胸を揺らす。

 

 「本当にしつこいね!」

 

 サクラも魔法の杖を構えて、桃色の魔法を展開し始めていた。

 

 「みんなの防御は僕が請け負います!」

 

 3人で背中合わせにしながら、ルカも大盾を構えて援護の姿勢に入る。

 

 「破邪の・・・!」

 「マジカルマジカル〜!」

 「僕が支える!」

 

 大きいカジノルームに群がる戦闘員達に、レイナ、サクラの合体攻撃が命中していく。あまりに強い勢いをルカが支えて、2人の技の威力を落とさないように援護をしていた。

 

 「よし、私も・・・」

 

 次に攻撃をしようとしたのはミドリコだったが、構えた武器がロケットランチャーである事を確認したカエデがそれを制止する。

 

 「ここでそんなの撃たないでよ!」

 「同意。巻き添えに、なる」

 「済まない・・・私も何かしなきゃとおもってな」

 

 ミドリコのロケットランチャーを抑えて、ミドリコの行動も無かった事にされるが、それでも仲間が戦っているのに何も出来ない自分が少し悔しく感じる。

 

 「早く、ミヤコを連れ戻して、装備を造ってもらわないと、ね」

 

 ミドリコに迫ろうとしていた戦闘員をレンが倒すと、赤鬼もミドリコの背後を守ろうと、オリハル金砕棒を携え始めた。

 

 「ん・・・?」

 

 立ちふさがる戦闘員を容赦なく殴り倒すオーク怪人が、ルカと共に窓の外に浮かんだ光が視界に入ってきた。

 

 「あれは・・・」

 「ブヒ、花火、か?」

 

 ホテルの外に打ち上げられた花火を見て、カエデもレンも不思議な表情でひまわりの花火に困惑する。

 

 あの花火は神宮財閥がお気に入りとしている、ひまわりの花火。

 

 それをこのタイミングで発射するのは、一体何事なのだろうか。

 

 「ねぇ、花火を打ち上げたのって・・・」

 

 カエデは少しだけ恐ろしいモノを見るかの様な顔で、レンとミドリコに顔を向ける。あの花火が何を意味しているのかは不明だが、とにかく不安になる様なモノである事は間違いなかった。

 

 「気になるなら行ってみますかい?」

 

 赤鬼が最後の一人になった戦闘員を蹴散らすと、カエデに頭を軽くさげながら声をかけてくれる。レンもカエデの表情を察して、彼女の行く所について行こうとしてくれている。

 

 「・・・あのタイミングで花火を出したなら、ギンジの可能性もあるのではないか?ま、そこまで考えは回らないか。ヘヴンホワイティネスには、な」

 

 オーク怪人がカエデに挑発と嫌味たっぷりに声をかけると、レンもミドリコもオーク怪人を嫌な眼で見る。

 

 「ブヒ、所詮頭の悪いヘヴンホワイティネスだ。ギンジもまぁまぁ馬鹿だが、それ以下だな、貴様らは」

 「うるっさいわよこの豚!さっきまで鶏のスープ飲んでた癖に!」

 「私に豚と呼ぶのははっきり言って褒め言葉だぞ。そういうのが分からないから貴様は馬鹿なのだ」

 「よーし良いわよ、そこまで言うならあたしとあんたで勝負しましょうよ!」

 「望む所だ。いずれ貴様らとは決着をつけねばならないのだからな」

 

 等と言い合いをしているカエデとオーク怪人の少し離れた所で、レイナ達もなんだか懐かしい雰囲気を思い出す。

 

 「なんだかあの2人は、仲が良いのだな」

 『良くない!』

 

 2人して当然の様なハモりに、レンもレイナも少し微笑ましく思える。

 

 「ええい、もういいから花火の場所まで行くわよ!」

 

 カエデが先導すると、そこについてくる者達は全員、花火の場所とやらに向かうのであった。

 

 そこに待ち構えるのはギンジではないと誰も知らずに・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ホテルの裏側にある石の広場に繋がる道に、複数人の足音が聞こえる。

 

 タツヤが真夏の海と、四人の十字架を背に、待ちわびた怨敵の出現についに鎌首をもたげる。現れたのは、本当に憎き怨敵。

 

 「・・・オーク!」

 

 声を出したのはミヤコだった。待ち望んでいた男の姿は無いのだが、それでもオーク怪人が現れた事で、ミヤコに安心感が少しだけ出てくる。

 

 「ドクター!もうしばらくお待ちを!」

 

 オーク怪人もミヤコの姿を見て、一刻も早く救出せねばという気持ちで一杯になった。

 

 「ついに来ましたね・・・ヘヴンホワイティネス」

 

 カエデ、レン、ミドリコ、赤鬼、オーク怪人、レイナ、サクラ、ルカ、8人の戦士が広場に集い、タツヤの目の前に現れた。

 

 先程エントランスホールで見たあのいやらしい笑みが、カエデの後頭部にゾワリと悪寒を走らせた。

 

 それと同時にここにギンジが居ないと知り、余計にそれが悲しくなってくる。

 

 しかしそれよりもカエデの目に入ったのは、自分の父親であるソウジロウが十字架に貼り付けにされている事だった。

 

 「お父様!」

 

 カエデの言葉に反応して、更にレンも反応が大きくなる。カエデの父親が吊るされている場所の近くに、ケイタも居たからだ。

 

 気絶しているのか意識が無い様に見えるケイタの姿を見て、レンも顔色を悪くしながら思い切り十字架に向かって、カエデと共に行動を開始する。

 

 「神宮君!」

 

 レイナがその動きを止めようと、腕を伸ばしたがもう遅かった。

 

 「おっと、お二人共・・・わたくしを無視して、お仲間を助けるのは不可能ではありませんかねぇ?」

 「かはっ」

 「あうっ」

 

 十字架に向かって走り出したカエデとレンの頭上に急に現れたタツヤが、2人を蹴り飛ばして、一行の列に戻されてしまった。

 

 「この・・・!」

 

 自分を蹴っ飛ばしたタツヤをにらみ、カエデが立ち上がる。

 

 早くお父様とケイタを開放して、安心して戦える時間を作らないといけない。それが出来ないと、あの男を倒すまでに余計に時間がかかりそうだと判断したからだ。

 

 「わたくしの計画の為にわざわざここに来てくれてありがとうございます。あそこに貼り付けにされているドクターミヤコの為に死んでください」

 

 いきなり声を出したかと思えば、タツヤからの言葉は死亡宣言。

 

 「ふざけた事を抜かすな!」

 「テメェはさっさと砕けろやぁ!」

 

 カエデとレンが起き上がるのを確認してから、ミドリコと赤鬼が同時に走り出す。ミドリコはロケットランチャーを振り回して、赤鬼は空気を打ち出す攻撃を繰り出した。

 

 ミドリコの振り回したロケットランチャーの上に立ち、赤鬼の攻撃でさえも軽く弾いてみせる。タツヤの異質な行動にミドリコは冷や汗を流す様な感覚があった。

 

 人を乗せた重みでランチャーが落ちると、すかさずタツヤからの攻撃がミドリコに突きこまれて、体制を崩す。

 

 「きゃっ」

 「嫁に手ェ出すなァ!」 

 

 可愛らしい声で倒れたミドリコを抱えながら、赤鬼が鬼の形相でタツヤを睨んだ。

 

 「うるさいですねぇ」

 「危ねぇ!」

 

 タツヤが一瞬で赤鬼の顔に近づくと、人間となんら変わらない細い腕で、思い切り赤鬼の顔面を殴り抜いた。

 

 巨体がありえない速度で飛んでいき、一本の十字架を折ってしまった。

 

 「だ、大丈夫か、赤鬼」

 「おおぉ〜痛ぇ・・・ミドリコも無事か?」

 

 赤鬼の硬くて分厚い筋肉に守られたミドリコの肌の柔らかさを、全身で感じながらも、赤鬼はミドリコをちゃんと守り抜いた。

 

 「まだ生きているのですか?しぶといですねぇ」

 

 落ちて来た十字架の破片を避けながら、タツヤが歩いてくる。大幹部としての実力は伊達では無く、強力である事を伺いながらも、赤鬼を殴り飛ばすだけの力はあると言うことに、正直に言えば驚いている。

 

 「ブヒ、いい加減、ドクターミヤコを開放しろ!」

 「おや、オークさん。まだ生きていたんですねぇ?」

 

 十字架の破片を避けながら、タツヤの背後を取ったのはオーク怪人。左拳を強く握り、タツヤの頭を跳ね飛ばすつもりで拳を振るう。

 

 「何!?」

 

 殴ろうとした瞬間に、オーク怪人の眼の前からタツヤの姿が消えた。

 

 「どうしました?わたくしはこっちですよ」

 

 言い終わるよりも早く、タツヤがオーク怪人の背面から攻撃を与えると、オーク怪人も同様に吹き飛ばされる。

 

 「いい加減に!」

 「諦めろ!」

 

 次は左右からルカとレイナが攻撃を繰り出す。盾による薙ぎ払いを身体を捻りながら飛びつつ、レイナの破邪の剣も避けられる。

 

 脚と頭を狙った薙ぐ攻撃に、まるでアイススケートのトリプルアクセルをそのまま真横にした様な動きで、身を回転しながらタツヤが着地する。

 

 「マジカルマジカル〜ピンクミサイル!」

 

 タツヤが着地したタイミングを見計らっていたサクラが、自慢の魔法でタツヤに向けた攻撃を解き放つ。

 

 「甘いんですよねぇ・・・」

 

 また気がついたら三名の美女の眼の前から姿を消したタツヤは、今度はサクラの背後に姿を表していた。

 

 「魔法というのは便利ですよねぇ・・・でもまぁ、こっち(・・・)には敵わないでしょうね」

 

 気がつけばミサイルは、全てサクラの方に向きを変えており、それらはすべて撃った本人に跳ね返ってきていた。

 

 「まずっ・・・あれ、動け・・・」

 

 逃げようとしたサクラの身体は固まったまま動けず、ミサイルが直撃しては桃色の爆発が起こった。

 

 「サクラぁ!」

 

 レイナがサクラの安否を確認しようとするが、ふわりと身体が浮いてしまう。

 

 ルカも同じ様子で身体が浮かされている。

 

 「な、なんだ・・・」

 「レイナさん、何かおかしい・・・警戒を!」

 

 浮かんだ2人はそのまま地面に落とされて、顔をうちつけられる。

 

 そのまま倒れた2人の間に立っているのは、柏木タツヤの姿。

 

 「な、なんだこの力は・・・」

 

 魔法とも怪人の能力とも思えない様な不可思議な力に、レイナは身体を起こそうとするが、背中を踏みつけられて地面に倒れ付す。

 

 「ふざけんじゃないわよ!」

 

 続いてカエデが攻撃を開始する。自慢の格闘術による飛び蹴りは、タツヤに防御させる事に成功したが、そのままタツヤによる攻撃が的確にカエデを突き飛ばす。

 

 「ビーム剣術!」

 

 蛇腹剣に形状を変えたレンのビーム剣が、蒼く光るったままタツヤの動きを止める。巻きつける様なその剣に反応が遅れたのか、刃が高級なスーツに食い込んでいく。

 

 「クリュソーレ・ヴィント!」

 

 蛇腹剣による連続攻撃は当たらず、全てがタツヤの瞬間移動じみた動きに、全てが避けられる。

 

 「邪魔ですよ。そうやって死ぬまで無駄な事をしているつもりですか?」

 

 音も無く風もなく、タツヤは一瞬でレンの攻撃を避けきり、レンの正面に立ちはだかった。

 

 希望は失っていない、しかし相手にしている男はとても大きな壁に感じた。

 

 「はい、王手です」

 

 ニタリと笑った顔で、タツヤはレンの顎を蹴り上げて、上空に飛ばす。そのまま頭から綺麗に落ちて、レンもカエデも石の上に倒れた形になる。

 

 「ブッヒ!」

 

 タックルの要領でオーク怪人がタツヤに襲いかかり、赤鬼も空気を拳にまとわせて大技の準備をしている。

 

 「やれ!」

 「おやおや・・・冷静さが足りませんねぇ」

 「空砕・・・!」

 

 オーク怪人の腕をすり抜けたタツヤが、赤鬼の肩の上に立ちながら飛び降りる様にして、赤鬼を押し出す。

 

 「烈拳!」

 「ふごぉ・・・!!」

 

 もろに命中したオーク怪人は鼻血を吹き出し、赤鬼はと言うとタツヤに足元を掬われて、転んでしまう。

 

 そのまま顔を踏みつけられる。

 

 だが、このままオーク怪人が倒れる事も無く、勝ち誇ったタツヤに向かって攻撃を繰り出す。

 

 そこから少し離れた場所では、誰も貼り付けられていない十字架の上に登ったミドリコが、ロケットランチャーを構えている。

 

 オーク怪人が離れたタイミングで打ち込もうとしているのだが・・・。

 

 オーク怪人の拳を軽々しく避けつつ、タツヤは回し蹴りをオーク怪人の身体に叩き込み、即座に殴るとオーク怪人が海の方向へと転がされていく。

 

 それをスコープ越しで確認していたミドリコに、ロケットランチャーを発射するタイミングが来た。

 

 「いや、撃たないのですか?公安に居る時から、教えてあげたでしょう。撃つ時は、相手を人ではないと思えって」

 「貴様・・・!」

 

 スコープに写っていたタツヤは消えて、ミドリコが乗った十字架にタツヤが姿を表して、ランチャーのスコープに手をかぶせる事で、一時的にミドリコの視界を遮る事に成功する。

 

 そして近くに声がした事で、タツヤの姿を見るのだが、元同僚の顔はとてつもなく悪意に満ちていて、非常に恐ろしく感じた。

 

 先程戦った武者の怪人とは比べモノにならない程の、強力な悪の姿に、甘白ミドリコは戦意を失いそうになった。

 

 「では・・・死んでみますか?甘白さん」

 

 タツヤの声は、同じ人間としての熱量を一切感じない恐ろしく冷たい声。彼はもう公安に所属する同じ志を持った警察ではない。

 

 正義の為に戦う彼の姿はもうそこには無く、完璧に悪の為に猛進する姿しか無いのだ。

 

 蛇の様な鋭く広げられた口から、歯を見せるようにして嗤うタツヤの顔が浮かぶだけでミドリコは意思が折られそうになる。

 

 「必殺!」

 「マジカルマジカル〜!」

 

 十字架を走って登ってきたカエデと、魔法の杖で同じ高さにまで飛んできたサクラが、2人でタツヤを挟んで攻撃を開始する。

 

 「離れて!ミドリコ!」

 

 カエデの指示を聞き入れて、ミドリコはワイヤーを使って十字架から飛び降りる様にして離れていく。

 

 地面に着地したミドリコを抱きかかえるようにして、赤鬼が彼女を守り、更にルカが防御する為に盾を地面に突き刺した。

 

 一方十字架の上では、サクラの魔法がカエデのガントレットに魔力を送り込み、タツヤの動きを止めるために、オーク怪人とレイナも同時に飛び出していた。

 

 「おやおや・・・速度なんて関係ありませんが、そんなモノじゃぁ、わたくしを捕まえる事なんて不可能ですよ」

 

 レイナの腹部に蹴りを入れて、思い切り地面に叩き落とす。

 

 オーク怪人の突き出し蹴りでさえも、瞬時に反応しては背後に回り、軽くオーク怪人の巨体を片手で持ち上げる。

 

 「ブヒぃ!?」

 「地面がお似合いですよ!」

 

 そのままオーク怪人を十字架から投げ落とすと、タツヤの真正面に立つのは、カエデとサクラ。

 

 だが、カエデはタツヤへ攻撃するのではなく、タツヤの頭上へと飛び出していく。

 

 見当違いな行動に一瞬困惑するタツヤに、サクラが魔法を発動する。

 

 「マジカルマジカル〜!」

 

 魔法の杖をタツヤに向けて、攻撃魔法を発動する。その魔法が発動されると、杖の先端からまばゆい光がほとばしり、タツヤは眼を腕で覆う事で事なきを得る。

 

 「流石にめくらましは予想外でしたね。して、次はどんな行動ですか?」

 

 サクラの魔法の杖に接近したタツヤが、サクラの次の魔法を打たせないように手を振り上げる。

 

 「次は・・・魔法と未来の複合奥義だよ!」

 「・・・?」

 

 ここまでされても諦めていないサクラの言葉に、タツヤが怪訝な表情を見せる。どうしてこれだけの手数があるのに、彼女たちは諦めないでいるのか。

 

 「私を見ていても、意味無いよ。悪の組織の大幹部さん・・・」

 

 サクラの言葉にハッとするタツヤ。

 

 先程のヘヴンホワイティネスがまだ攻撃してきていない事を思い出すと、背後を振り返る。

 

 急ぎ背後を振り返った関係なのか、それとも同様が少しあったのか、黒いバトルスーツに身を包んだ少女が、白と桃色のオーラをまとったガントレットを輝かせて、タツヤに必殺技を叩きこもうとしている最中であった。

 

 「マジカルマジカル〜!」

 

 続く聞こえるのは背後からのサクラの声。魔法による撹乱攻撃を再びされるわけには行かないと、タツヤが瞬間移動を開始しようとするが、次は・・・地上に降りたミドリコが移動の先を読んだ。

 

 「カエデ!サクラの後ろだ!」

 「解ったわ!」

 

 ミドリコの第三の眼による気配を読む能力が、ここに来てカエデに一手決めるチャンスとなった。

 

 ミドリコの言った通りに、サクラの背後に現れたタツヤ。その姿をめがけて、カエデの必殺技が見事に命中する。

 

 「マジカル・インパクト!」

 「ぐっはぁ!!」

 

 三つ揃いの男に、サクラの魔力で強化されたカエデの攻撃が深く命中して、大幹部柏木タツヤにようやくまともな一撃を与える事に成功した。

 

 「やりますね・・・」

 「さっさと倒れなさいよ!」

 

 十字架から飛び出したタツヤを追いかけようとするが、今度はカエデが背後を取られて、蹴り落とされる。

 

 「カエデ!」

 

 サクラが落とされたカエデを追いかけようと空を飛ぶが、魔法少女の正面にはタツヤが現れる。飛んでいる勢いのまま首に腕をかけられて、サクラは思い切りラリアットみたくタツヤに撃墜された。

 

 「少し・・・甘く見ていましたよ・・・」

 

 落ちたカエデとサクラの前に、タツヤが瞬間移動で地面に現れる。

 

 「今だ!」

 

 響くミドリコの声で、今まで地上で隠れていた赤鬼がルカの背後から姿を表す。

 

 鬼気迫る表情と鬼迫で空気ごとタツヤの粉砕を目論むが、やはり柏木タツヤを捕まえるには至らず、返り討ちにあう。

 

 「無駄ですよ、そんな攻撃・・・」

 

 赤鬼の胴体に身体を浮かばせる不可思議な能力を発動し、浮いた胴体にタツヤの連続した攻撃が叩き込まれれていく。

 

 「ムーン・ドライバー!」

 

 ルカもタツヤに盾による突進を繰り出すが、それすらも瞬間移動で避けられてしまい、ルカを蹴っ飛ばして、赤鬼も殴り飛ばす。

 

 全身を使った無理矢理に見えて強力な攻撃は、2人を地面に転がすには十分で、ルカはこの攻撃でうつ伏せのまま起き上がらなくなってしまった。

 

 「先ずは一人、ですね」

 

 ルカが戦闘不能になった事を確認したタツヤは、そう言いながらミドリコの背後に回り、彼女の後頭部を片手で掴む。

 

 「ミドリコに・・・触んなァ!」

 

 自分の嫁であるミドリコが触られて激昂する赤鬼の前で、タツヤとミドリコが姿を消す。

 

 赤鬼が地面に八つ当たり気味に踏み砕くと、少し離れた場所では物音が聞こえる。その音に反応して、赤鬼が眼をやると・・・。

 

 「さっきはよくもやってくれましたね。決めた、次の脱落者は」

 「がっ・・・!」

 

 ホテルの強化ガラスを割る勢いで、タツヤがミドリコの顔面を叩きつけていた。

 

 そのまま瞬間移動。

 

 「貴女にしてあげますよ、甘白さん・・・!」

 「ふぐっう・・・!」

 

 今度の移動先は黒い十字架。それはミヤコが貼り付けにされている場所の根本であった。

 

 更に瞬間移動。

 

 今度は高い上空。十字架を見下ろせるぐらいの位置まで飛んで来たミドリコとタツヤ。

 

 先程、自分の行く先がこの女にはバレていた。早めに殺しておいて損はないし、また同じ行動がバレるのだけは阻止しておきたい。

 

 「この高さならば、確実に死ねますね」

 「・・・」

 

 ミドリコは容赦の無いタツヤの言葉に、絶句する。こんな男が元同僚なのかと思うと、怖気が止まらないからだ。

 

 「では、死んでください」

 「死ぬのは・・・」

 「貴様だ!」

 

 ミドリコを掴んでいた手を離した瞬間、落ちるミドリコと入れ替わる様にして、サクラとオーク怪人が2人一緒に飛んできた。

 

 「・・・邪魔ですね、虫以下の癖に。そうまでして死にたいのですか」

 「ドクターをお救いしないと行けないのでな!」

 「ギンジくんとの約束だからね!」

 

 だが無情にもサクラは殴り落とされて、オーク怪人もサクラよりも速く石の床に叩き落される。その衝撃が強かったのか、サクラはここで倒れたまま、もう動けなくなってしまった。

 

 一方ミドリコはと言うと、赤鬼に抱き止められており、ミドリコを抱きかかえたまましゃがんだ肩に、カエデとレンが一気に飛び出した。

 

 カエデはタツヤに、レンは逆の方向に。

 

 このままではタツヤに勝てない、そう判断したレンは、ビーム剣を片手にケイタとヒトシが貼り付けにされている十字架に向かってビーム剣を振り回す。

 

 貼り付けにされている鎖を斬る事に成功して、落ちた衝撃でついにケイタは目覚めた。

 

 「あいたっ」

 

 倒れたルカとサクラの姿が眼に入り、一瞬で顔を青ざめさせるケイタだが、そんなケイタにレンが顔を覗かせる。

 

 「ケイタ、君のちからが必要。あの大幹部を、一緒に倒そう」

 

 レンの言葉の重みを感じ取ってケイタは、ゆっくり立ち上がる。

 

 今のこの瞬間まで寝ていた自分を恥じる様な気分だ。よく見れば自分の恋人であるレンも、ひどく傷ついている様に見える。

 

 「うん・・・ごめん!僕も今から戦うよ」

 「ありがと、期待してる・・・」

 「ちょっと〜レンちゃーん、わたしは開放してくれないの?」

 

 十字架に貼り付けにされたままのミヤコとソウジロウはヘヴンホワイティネスのレンに悪態をついている。

 

 「あなたと、カエデのお父様には、もっと適切な人が、居る」

 

 ミヤコを助けるのはギンジ、ソウジロウを助けるのはカエデ。レンがそう言うと、ソウジロウもミヤコもまんざらではない顔で微笑んで見せる。

 

 「済まない、私は刀が無い・・・」

 

 ヒトシが申し訳無さそうな苦い顔で言うと、レンがあさっての方向に指を指す。

 

 「多分あっちに、武器がある。速く探してきて」

 「こういう時は女性の勘に頼らせてもらうよ。では、お嬢様を頼んだぞ」

 

 ヒトシがレンの指差した方向に走り出して、レンとケイタは再び撃墜されたカエデを受け止める。

 

 「ケイタ!あんた復活が遅いのよ!」

 「あわわわごめん!でも、ここから反撃!そうでしょ」

 「ケイタも、言う様に、なった」

 

 元々の学生人組でのこの三人が笑い合う。自分たちは正義のヒーローなのだから、悪の組織の大幹部に敗ける訳にはいかないのだ。

 

 「あたし達の未来を、お前なんかに変えさせないわよ!」

 「ククク・・・未来、未来、未来、ねぇ・・・」

 

 タツヤが再び地面に降り立つ。あの瞬間移動だけはどうにかしないと、まともに攻撃出来る手段が思い浮かばないと、カエデはなんとかして反撃の手段を考えていた。

 

 だと言うのに、この男はいつまでも余裕で居て、いつまでも決定打を与えられない。

 

 早く・・・。早くヒーローは登場しないだろうか。

 

 (何してんのよ・・・ギンジ!)

 

 心の中でカエデはギンジの事を呼んで見る。だけど彼はまだ姿を表さない。姿を見せないギンジに苛立ちを見せながらも、カエデがガントレットのギアを回す。

 

 「姉御ォ、俺っちも最後まで力貸すぜ」

 

 赤鬼とミドリコもカエデとレンとケイタを守るようにして、身体を起こしてここまでやってきた。

 

 「仲間の無念、はらさせて貰うぞ」

 

 レイナもオーク怪人と一緒に立ち上がり、タツヤと対峙する。

 

 「メガトン・インパクト!」

 「空砕烈拳!」

 「ヘヴントランプル!」

 「破邪の剣!」

 

 それぞれ一斉に攻撃を仕掛けて、大幹部を倒そうと真夜中の決戦が続いた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「いや〜良い運動になりましたよ」

 

 ニタニタと蛇の様に嗤う声で、タツヤがレンにトドメを刺す。

 

 これでもう倒れていないのは、カエデだけ。

 

 赤鬼も、ミドリコも、オーク怪人も、レイナも、ケイタも、そして今レンも倒された。

 

 「ぶ、ブヒぃ・・・」

 

 うつ伏せに倒れながらも、オーク怪人はまだ意識があるようだが、それでも戦うのは難しい。

 

 「貴女達がどれだけ未来を守ろうとほざいた所で、わたくしには勝てないんですよ。未来を変える事も、未来を守ろうと、今を足掻いても。全部無駄だと言うことが分からないようですね・・・」

 

 完全に勝ち誇った顔でタツヤが、腕を抑えるカエデに歩み寄る。

 

 近くで見れば良い綺麗な顔をしており、タツヤは加虐心を大きくさせる。

 

 「ぶひ・・・果たして本当にそうかな?」

 

 オーク怪人が倒れながらも這いずりながら、タツヤの方に向かってくる。顔は既に血で赤く染まっていて、全身ボロボロになっているが、まだ闘志は沈みきっていない。

 

 「まだ・・・お前は知らないはずだ・・・」

 

 オーク怪人の言葉には耳も貸さずに、タツヤはカエデの方へと歩いていく。

 

 「お前は確かに強いは、お前より強い男を私は知っている。そして、その男がもうすぐ現れるぞ・・・」

 「はぁ・・・負け犬の遠吠えはもう沢山ですよ。だいたい、その男が現れないではありませんか」

 「必ず、現れるわよ・・・」

 

 カエデとオーク怪人の言葉に、タツヤがどんどん憤る顔になっていく。どうしてここまで絶望的な状況で、この人達は自分に勝つ気で居るのか。

 

 「ぶひ・・・その男は、必ず現れて、必ずドクターをお救いする」

 「必ずあたし達を助けて、必ずあんたをぶっ飛ばしてくれる」

 

 なぜならその男は、確実に柏木タツヤを倒しうる実力を秘めており、いつも何かの戦いにおいて進化する男だからだ。

 

 「世迷言ですね。では、精一杯苦しんで死んでください・・・」

 

 タツヤが右手を上げてカエデにその手を叩きつけようとしていた瞬間だった。

 

 ソウジロウもカエデのピンチに声を出せず、ミヤコも正直に言えばカエデ達がここまで苦戦する相手だとはおもっていなかった。

 

 故に心配していて、それで仲間達が倒れていくのを、見て必死に声を押し殺している。あのミヤコがカエデに涙を流しながら・・・。

 

 だが・・・オーク怪人だけは、ちゃんと信じていた。この場に居る誰よりも。

 

 ギンジが来る事を、ちゃんと信じていた。

 

 確定未来の能力を使うまでも無い。彼はここに必ず来ると信じていた。

 

 ソウジロウの横を飛び抜ける黒い羽が、視界を横切った。

 

 ミヤコの目の前に、一番会いたかった人が、飛んできた。

 

 その瞳に、ミヤコが信じる人が現れたのだ。

 

 ようやく、どれだけ待ち望んだ事か。

 

 夜空を飛ぶ者の姿が何か解った事で、カエデは勝利を確信する。

 

 「・・・ぎ、ギンジ君!!」

 

 貼り付けにされたまま、ミヤコが愛する人の名前を大きく叫んだ。

 

 空を飛び回るギンジが、ついにここまで来た。一番遅れて、仲間達の最大のピンチに、ようやく現れた。

 

 最初に目につたのは、仲間たちが倒れている姿。次にミヤコが貼り付けにされている姿。

 

 最後にカエデが超絶ピンチな姿。

 

 そのどれもが、ギンジにとっては許せない事だった。

 

 仲間が敗けそうになっているのが許せないのではない。

 

 自分がここまで遅れている事と、敵である柏木タツヤが許せない。

 

 「オッラァァァーーー!!!」

 

 コウモリの羽で飛びながら、ギンジはミヤコを繋いでいる十字架に向かって飛び出した。

 

 金棒で鎖を砕いて、十字架から外れたミヤコを抱きかかえて、ついに彼女の救出を成功させた。

 

 ずっと会いたかった2人が、今こうやって再開出来た。

 

 「遅いよぉ・・・ギンジ君・・・」

 「悪い、まじで遅れた。ごめんな」

 

 そのまま転回しながら、ギンジが地上に降りると、ヒトシもやってきた様で、ソウジロウの鎖を斬って、財閥長の救出を成功させた。本来ならばカエデに任せたかった事だが、それは出来そうにない。

 

 「ギンジ・・・遅れすぎよ」

 

 カエデもよろよろと歩きながら、ギンジの肩を叩く。

 

 「まじで悪い。本当に遅れすぎたな。ヒーローは遅れて来るからさ」

 『おそすぎ!』

 

 カエデとミヤコが、一筋の涙を流しながら、ギンジに怒鳴りつける。

 

 ギンジもそれは本当に申し訳ないと思いつつも、2人がまだ無事でb良かった事に安心する。

 

 「でも、俺が来るって信じてくれてたんだろ。ありがとうな」

 

 ギンジが優しく言うと、カエデもミヤコももう何も言い返せない。

 

 「ミヤコの事、頼むぜカエデ」

 

 ミヤコをおろしてあげると、ギンジはタツヤに向き直る。

 

 サングラスを外して、傷ついて倒れた仲間達を一人ひとり見ていく。

 

 赤鬼も、ケイタも、レンも、サクラも、レイナも、ミドリコも、ルカも。彼女達が・・・頼れる仲間達がこんなに手酷くやられているのを初めて見た。

 

 だけどもう安心して良い。

 

 「お前だけは絶対にぶっ飛ばしてやるよ・・・」

 「出来るのですかねぇ?少なくともわたくしには、そんな未来は来ないと思いますが・・・」

 

 挑発しながらタツヤがギンジに歩み寄り、ギンジも同じ様に歩いていく。

 

 「いいや、俺がお前をぶっ飛ばす未来が来る」

 「何故、そう言い切れるのですか?」

 

 カエデもオーク怪人もミヤコ・・・ギンジがそう断言する事で、にやりと口を開く。彼が来るだけで、こんなにも安心感が大きくなる事に、そしてギンジが言おうとしている事に、喜びが隠せない。

 

 「何故かって?決まってるだろ」

 

 ギンジが右拳を作って、思い切り握る。力強く、何よりも硬い拳が出来上がると、それをタツヤの顔をめがけて殴り出す。

 

 (・・・速い!?)

 

 正確に捉えたギンジの拳が、タツヤの顔をかすめる。ギリギリ当たらないでいたが、タツヤに能力を使わせる事なく、攻撃が当たりそうだった。

 

 「必ず、お前を俺がぶっ飛ばす未来が来るぜ・・・」

 

 何故なら・・・。

 

 

 「俺は未来人じゃないが、未来を知っている、からな!」

 「では見せてもらいましょうか・・・わたくしが倒れるという未来を!」

 

 ヘルブラッククロス・大幹部戦

 

 ヘヴンホワイティネス・佐久間ギンジ

 

          vs

 

 ヘルブラッククロス大幹部・柏木タツヤ

 

 

 

続く

 

 




お疲れ様です。話が無駄に長くて、なんじゃコレ感強かったと思います。読みづらかったらごめんなさい。

今回のお話では、ついにミヤコとギンジが再開出来ましたね。いやーまさか新年またいで、5月末近くに再開できるとは思いませんでした。

でも再開にしてはちょっと軽くない?って思われた方も居るかとは思いますが、その答えはもう少し先のお話で解ります。

でもミヤコもギンジも再開出来てうれしーーーうっひょおおお♡♡な気分です。

今回忙しい中ちょこちょこ書いていたので、キャラネタは省略させていただきます。

次回はついに主人公復活!大幹部柏木タツヤ戦開始〜決着となります!

お楽しみに!
感想、応援等いただけましたら幸いです。それではまた次回!
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