正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちはアトラクションです!

すみません、更新が遅れました!

遅れた理由としましては、お仕事もあるのですが・・・

単純に疲れて寝ちまったんだ!!睡魔には勝てないよ。毎日残業だもの。
寝たっていいじゃない、人間だもの。あとお

っという開き直りはやめて、更新遅れてすみませんでした!
遅れる事はこの先いくらでもあるかと想いますが、エターしないので!
頑張りますので!それではどうぞ!


88・そして彼女に救いの手が差し伸べられた

 明日から、君たちは正式に警察官の仲間入りだ。

 

 その言葉を聴いた時、柏木タツヤの心は間違いなく、本当の意味での正義に動いていた。警察という、なろうと思ってもなれないような職業に、自分は誰よりも優秀な成績を収めて、誰よりも強い正義の志で、ここに立った。

 

 人々の正義と治安を護り、暮らしの安全に寄り添う、誰もが頼りにする、警察という職業に。

 

 柏木タツヤは、自分を待っているのは華やかな生活と、凶悪な犯罪者を何人もその手で捕まえて、危険も厭わないヒーローの様な未来の自分を思い描いていた。

 

 しかし・・・現実は違っていた。

 

 この警察という職業は、基本面倒な事は何もしない。正確にはその面倒事は本当に真面目な機械になりさがった奴隷達が行うモノ。

 

 警察という肩書を持った、自分を捨てた存在だけが凶悪犯罪者を捕まえる権利を得られるという事実。

 

 自分はと言うと書類を与えられて、それをただただひたすら捺印を押したり、軽いパトロールをしたり、いわれの無い事に上司や街に居る人達に押し付けられ、理不尽に怒られ、罵倒されて・・・。

 

 同じ境遇に立つ者は数知れず、しかしお金だけではない素敵な仕事に、柏木タツヤは志ひとつでなんとか正気を保っていた。

 

 「僕にもっと力があれば・・・」

 

 ある日の夜。肌寒くなる季節の時期。この時柏木タツヤは22歳。

 

 自分が勤務する警察署からの帰り道。時間的にも人なんて居よう筈の無い公園のベンチで、コンビニで勝ってきた安酒を口に運びながら、警察になった記念で母親が買ってくれた高い革靴を砂利に擦りつける。

 

 本来やりたかった仕事とは違う現実に揉まれて、背中を丸めた疲れ切った青年の姿が、夜の公園のベンチに哀愁を漂わせている。

 

 今日もただの書類仕事と、理不尽に暴言を聞かされる毎日。

 

 犯罪の情報はいくらでも転がってくるのに、自分はそれに参加も出来ず、指を咥えて見ているだけ。

 

 自分はもっと出来るはずだし、自分こそが警察を扇動して真っ先に動く立場となり、今の警察署でも中心人物となるはずだったのに。

 

 優秀だった男は、今ここではなんの実績も手に出来ず、仕事も書類だけ。

 

 「こんなの・・・!」

 

 悔しそうな顔でタツヤは空き缶を公園に投げつける。

 

 正義も何も無く、ただ世間の目を気にして面倒な事は決してやらない。行動力だけでは何も変わらないこの環境が、タツヤの心を確実にすり減らしている。

 

 「・・・」

 

 深く息を吐けば、アルコールの匂いが白い息となって、公園に抜けていく。

 

 自分は警察なのだ。もっと正しく、もっと強く、もっと力のある行動をこの世の中に示さないと行けない。

 

 「なぁなぁ聴いたか?なんとかクロスって奴らが、繁華街で人員募集が──」

 

 公園のすぐ近くを歩く若者二人が、なにやら話している。その会話の内容の非現実的な組織?と思わしき名前がタツヤの耳に入ってくる。

 

 「なんでも日本を転覆するとかなんとかで」

 「アホくさ!そんなのあるわけないって!神宮財閥じゃ無いんだし」

 

 二人の若者の言葉に出てきたなんとかクロス。若者特有のありもしないふざけた内容だが、日本を転覆するという言葉に、タツヤは自分の正義心によって、次の行動を決めていた。

 

 「君たち!」

 

 今にして思えばタツヤはこの時から既に、自分の運命を変える行動をしていたのかも知れない。

 

 酔っていたのもある。今の自分を変えたかったのもある。

 

 自分でもまともな考えをしていたとは思えない。けれど・・・。

 

 この日本に悪がはびこっているのであれば、柏木タツヤは居ても立っても居られない。行動を起こして、自分が日本の警察中心に立つのだ。

 

 「その話しを詳しく聞かせてくれないか?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ヘルブラッククロスという組織を調べる為に、捜査出来ることはなんでもした。書類仕事は溜まるが、そんなモノはやりたい奴に任せればいいだけ。

 

 山吹イロという、情報を交換出来る仲間を手に入れたタツヤは、まだこの時は正義に心が傾いている存在であっただろう。

 

 あの日若者達から聴いた情報から2年。柏木タツヤ24歳。

 

 山吹イロと交流を交わして、ヘルブラッククロスという組織がいよいよ明るみに出るまで捜査が出来て来ていた。

 

 街で多発するテロ行為、女性、子供の誘拐に、警察を公開処刑に等しいやり方で攻め立てたり、大手銀行への襲撃。

 

 奴らの科学力や軍事力、そして戦闘力は並大抵の領域ではなく、ヤクザ・・・反社に所属する者達がそれぞれその組織には絶対に近寄らない様な、ドス黒い波動が逆巻く悪。

 

 それもとてつもなく強大な悪。

 

 ヘルブラッククロスに所属する1構成員でさえ捕まえる事が出来ず、簡素な造りの仮面をつけた者達に、イロもタツヤも捕まえられず、尻尾もつかめないでいた。

 

 そんな中でも諦めないでいたタツヤは、イロにその姿を認められて、ついに中央度固化市の公安警察局への転属を認められ、より一層組織を調べる環境が整った。

 

 これで・・・国を脅かす驚異を持ったヘルブラッククロスを完璧に追いかける準備が整い始めた。

 

 規模は未知数、敵の行動と目的も日本の転覆を謳った犯罪行為を繰り返すだけ。

 

 数の多さだけは本当に驚異だが、それだけでは国一つをひっくり返す事は出来ない。彼らが言う力の世界と言うモノ・・・それがタツヤには引っかかり続けていた。

 

 どこか、頭の中でモヤがかかるぐらいに、柏木タツヤが求めている正義の力と彼らの謳う力と、同じモノでもあるのだろうか。

 

 (そもそも力の世界ってなんなんだ・・・?)

 

 彼らの行う暴力がそれなのだろうか。それとも暴力の先に人々の心を屈服させる事が、新しい世界の姿なのだろうか。

 

 (ま、考えた所で・・・意味はないですかね)

 

 公安のオフィスでタツヤは次のパトロールの場所が記された、中央度固化市の地図に目を通す。

 

 赤いマーカーで丸を描いた粗雑な重要ポイントの場所は、繁華街エリア。

 

 中央度固化市の中心地とも呼ばれる繁華街。そこを次の調査地点として、公安としての成果を挙げるチャンスが来た。

 

 行かない手は無い。自分いはもっと力がある。それを今の公安局で幅を効かせている小鳥遊アキラにも認めさせれば、きっと・・・。

 

 きっと・・・。

 

 (あれ?)

 

 心の中で柏木タツヤは一つの疑問が走り出す。今彼の心は真水の入ったバケツの様なモノが広がっており、底まで見える透き通った綺麗な水。

 

 (僕の・・・警察としての目的って・・・)

 

 本来ならば人々の安息の為・・・その答えが直ぐに出なくなっていた。

 

 ポタリと、バケツの水の中に一滴の黒い水が落とされた。

 

 それは綺麗な水と溶け合うも、しっかりと色を主張して、煙のように形なき形を広げていく。水の中に、黒い水が残り続けている。そんな感覚がタツヤの心の中に広がっていった。

 

 (いや・・・出世なんかじゃない。僕の、力を・・・周囲に認めさせるんだ・・・そうすれば、僕にも力が・・・)

 

 入れ替えない限りバケツの水には、黒いモヤが残り続けている。だけど、タツヤにはその心の水を入れ替える余裕なんてモノは無かった。

 

 黒い水を入れたままのバケツを抱える気分で、タツヤは繁華街エリアへと脚を運んだのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 公安警察とは本来その素性を人に知らせず、国家を脅かす凶悪な犯罪者を捕まえ、悪を倒す。そういった組織だ。

 

 場所は繁華街エリア。もっと細かく言えば人通りの少ない路地裏の様な場所。

 

 不気味な目撃証言が相次ぐこの場所は、普段の警察のパトロール地域にもなっているのだが、ここ最近では女性警官の事故や、行方不明が何度も起きているとの事。

 

 表通りの華やかさとは裏腹に、一本道を曲がれば薄暗く汚くて臭い、そんな建物と建物を挟んだ人工の迷路の様な道を、高そうな三つ揃いを着た男が歩いている。

 

 革靴がタバコの吸い殻を踏み潰して、おそらく吐瀉物が溶けた様なアスファルトも踏んでいく。

 

 「・・・」

 

 警察としての勘でも働いているのか、歩いているタツヤの背後から数メートル離れた場所で、誰かが追けている。

 

 足音はしないが、それでもなんとなく気配が働いている。

 

 「・・・!」

 

 腰に携えた拳銃と警棒のロックを外して、タツヤは武器をいつでも振り抜ける体制を整えた。

 

 そうして背後を振り向けば、光を通さない路地裏がずっと向こうまで伸びていた。

 

 屋根の変わりになっているトタン板がちぐはぐに取り付けられていて、左右はシャッターを閉められた建物だったり、何かの店の背中。

 

 でも、明らかに何か、奥に誰かが居る。

 

 「人探しかね」

 「ッ!?」

 

 タツヤの耳元で威圧そのモノを体現した様な野太い声がした。それに反応した瞬間に、タツヤはシャッターに投げ飛ばされる。

 

 「・・・貴様の事は知っているぞ。公安警察に所属する第一(組織犯罪対策課第一班)の捜査官。ここに何か用事でもあるかね」

 (なんだ、この男は)

 

 いつからタツヤの背後に居たのか。いつからタツヤの事を知っているのか。

 

 公安警察という機密事項の塊の網を抜けて、タツヤの事を調べたのだろうか。

 

 それとも・・・。

 

 「ハハハハ・・・あのスパイ、役に立つではないか」

 

 威厳に満ち溢れた大きな体格の男が、タツヤの眼の前で大声で笑う。

 

 スパイ?なんの事だろうか。それも自分を知っている?

 

 「柏木よ」

 「ぐっ・・・なぜ、わたくしの名前を」

 

 人と話す時、自分でも何故かこう言った丁寧な敬語を使いがちではある。

 

 「貴様の知っている警察と呼ばれるモノは、本当に正義の為に行動出来ているかね」

 

 男の言っている事は良く分からなかった。

 

 軍服の様な姿、出で立ちに真っ黒なマント。

 

 まるで本当に悪の組織の大ボスにでも出てきそうな男の姿に、タツヤは身の危険を今になって感じた。

 

 もう一つ、気配もある。

 

 光を通さない路地裏から、人とは思えない凶悪な殺気を放つ、何かの存在。

 

 「貴方がたはいったい・・・」

 「ほう・・・貴様にはコレが見えるのか」

 

 むき出しにした犬歯を強く見せつけるように、その男は微笑む。狂気的な雰囲気を見せ続けるこの男は、今は隙きだらけ。公務執行妨害、暴行罪などで、今だったら逮捕も出来そうだったが、それは薄く見える炎の様な何かがタツヤと男の目の前に割って入る事で、出来なくなってしまった。

 

 「・・・!」

 

 無言のままその炎を揺らめきを陽炎に似た感覚で、人形のシルエットが浮かび上がる。

 

 頭部と思わしき場所からは、顔全部を埋め尽くしそうな巨大な眼球が開き、思わず異質な雰囲気と恐怖感で飲まれそうになる。

 

 「最近ここでウワサになっている、女性警官の相次ぐ失踪は知っているだろう?アレは我々の仕業だ」

 「なんて事を・・・」

 

 どうしてこんな事をするのだろうか。それを聴きたかったが、男と異質な怪物は、タツヤの口を紡いで再び喋り始める。

 

 「我々はいつでも人手不足でな。警察や軍隊に止められるとは思っていないが、力が必要でな。毎回目撃されては意味も為さない上、大規模の精鋭達に邪魔されかねない。で、あれば我々が力を誇示する良い機会だが・・・物事には順序があるだろう?」

 

 何を言っているのだろうか。

 

 「女性警官達には、我々の力による支配が相当効いた様子でな。喜んで我々の味方になってくれたよ」

 

 ある者は望まぬ妊娠をさせられ、ある者は死ぬまで殴られ続け、またある者は家族に徹底的な攻撃をしたり、文字通りの虐殺を見せつけたらしい。

 

 それがこの男の喋る内容。その上でこの男に付いていくと決めた者達は、正義の関心をかなぐり捨てて、組織が動きやすい様に至る所に潜伏しているらしい。

 

 それが・・・公安にも居る。

 

 「我々の目的はたった一つだ。力によるこの国の転覆、及び支配。そしていずれはこの国そのモノを、我々が住みやすい暴力ですべてを支配した最強の独立国家を形成する事」

 

 異質な怪物が喜んでいるのか、身体に透けて見える炎の揺らめきが、大きくなった気がした。

 

 「君にもその力を求める権利がある。どうだ、柏木タツヤよ。我々とともに真に美しい世界を創らないか・・・?」

 

 いつの間にか僅かに差し込んでいた陽の光が、何もはいらなくなっており、ズシリと重たく暗い雰囲気がタツヤを押し潰そうとする様な雰囲気が漂っていた。

 

 (こいつらは、間違いなくヘルブラッククロスだ・・・テロリストめ・・・!)

 

 そうは思っていても、内心こんな状況では勝ち目はない。

 

 未だ激しく続く鈍痛もあり、立ち上がれないからだ。

 

 「君は・・・力を求めているな」

 

 読んで字の如し、力。

 

 仕事、警察、生活、金、権限。

 

 それらではなく、力。

 

 圧倒的な、何者にも縛られない、最大の力。

 

 それが欲しくてタツヤは警察になったのだ。

 

 本心なんてなんでも良い。自分を周囲に認めさせる力がほしかったのだ。

 

 「・・・我々と共に来い。お前程の情報管理や、情報の捜査に長けた男ならば、きっと我々の都合の良い世界の為に躍進出来る筈だ」

 「犯罪者ごときに・・・」

 「考えても見るがいい。お前には力があるのに、それを性格や、実績だけで踏みにじられ、挙げ句護ろうと意気込んでいる者達に、罵詈雑言を浴びせられ、そして無力を実感してしまう。実にもったいないと思わないかね」

 

 男の言う事一つひとつが柏木タツヤの過去に当てはまっていく。感覚が一つに同調していく様な気分に、いっそ怖気すら覚える。

 

 「この国の正義が、本当に正しいと思うかね?」

 

 警察は正義だ。それは公安でも軍隊でも変わらない。

 

 だけど・・・この理不尽な世界で、彼らは公安警察に所属する自分以外にも、多数の警察官を狙って確実な行動を開始している。

 

 「この腐った国を守る価値なんて、もう本当は無いことを貴様は知っている筈だ。真に守るべきは・・・いや、創るべきは新人類が生きられるベースとなる世界だ」

 「そ、それが・・・力だけで生きる世界だと言うのですか?」

 「無論だ。この国を支配し、真に力のある者だけが優位に立ち続けて、弱者を侍らせ、国を奪う。正しいのはいつだって力を持つ者だと言う事を、脳まで腐った政治家連中と、同じく心根まで腐ったこの世界中に教えてやらねばなるまい」

 

 早い話が世界征服。それもとびきり最悪な方法での。

 

 「我々と共に来い。真の世界の景色を共に見よう」

 

 そう差し伸べられた男の・・・ヘルブラッククロス総統の手は、タツヤにとってとても大きく、とてつもなく立ち向かえない、巨大な壁に見えた。

 

 「・・・わたくしは何をすれば」

 「お前の力を・・・この世界に認めさせろ」

 

 それからは時の流れが早くなった気がする。

 

 数々の行動をすべてヘルブラッククロスの為に動き、この世の治安なんてモノをすべて破壊しつくさんばかりの勢いで、タツヤはその手を汚し続けた。

 

 壊し、犯し、操作し、泣かし、潰し、自分の行動をあたかも正義に見せかけて、この公安から徐々に支配を開始していき始めた。

 

 最初は半信半疑のスパイ活動だったが、望めば手に入る女の数々、自分を褒め称える悪の組織。

 

 そしてなにより二足のわらじを履いていても、上手いように事が運ぶ、すごく楽しい毎日。充実した自分の表の姿と裏の姿を両立した事で、柏木タツヤはその心に入った水をすべて黒くした。

 

 地獄の底に流れる毒の水のように、地獄の中の毒水をすすって生きる蛇のように。

 

 こうして、地獄に蛇が産まれた。

 

 所詮、この世界は力だけなのだ。力だけがモノを言う世界なのに、不都合になるルールばかりを人に押し付けて行くだけの嫌な世界。

 

 そんな理不尽と不都合だらけの世界は、壊してしまおう。

 

 それが柏木タツヤの心の中の本音。正義だなんだと言っても結局は自分の為の世界。

 

 それをヘルブラッククロスは指し示してくれた。

 

 だからこそ・・・力による支配を手にしようと、タツヤは魂まで地獄に明け渡したのだ。 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

  

 「以上がわたくしの身の上話になります」

 「へーまったく興味がわかねぇな」

 

 神宮リゾートホテルの広場は、最早究極的な戦場になっていた。

 

 十字架を突き立てた広場は、燃えてしまってかつての美しさを失ってしまっている。

 

 そんな中で柏木タツヤの話す力の世界の魅力と、柏木タツヤの身の上話を聞かされていたギンジは、タツヤの攻撃を軽々しく受け止めながら、交戦が始まっていた。

 

 「何故です?貴方も怪人として生まれたならば、力を求める本質があるはずですよ」

 

 タツヤの瞬間移動には毎度驚かされるも、ギンジは見て判断してから攻撃を受け止めている。

 

 受け止めれば次はギンジターン。金棒を振り回して頭を狙い、燃える拳でタツヤを殴り飛ばそうと奮戦している。

 

 「ギンジ君!頑張ってーーー!」

 

 その観戦をしているミヤコは、最早上機嫌になりながらギンジを応援している。その傍らで傷ついたカエデも、ギンジを信じて見つめている。

 

 「ギンジ!絶対勝ちなさいよ!」

 

 ミヤコもカエデもギンジの戦いに手を出さないのは、足手まといになるからではない。

 

 自分の好きな人の勝利が絶対だと、心の底から信じているから。

 

 「うるさいですねぇ・・・」

 

 タツヤにはそれが気に入らないのか、瞬間移動でミヤコとカエデの眼の前に現れる。

 

 糸目のように細い眼差しからは、ミヤコとカエデの首筋を狙った的確な殺意。

 

 だがカエデとミヤコはそんなモノに動じず、逃げようとも思わない。

 

 「お前の相手は・・・俺だろうがぁ!」

 

 電撃で強化された左腕が、より大きな手をなり、鍵爪の様な指をギンジが振り出す。

 

 ミヤコとカエデの顔の眼の前すれすれを斬り裂き、タツヤは捕まえられない。

 

 ギンジがミヤコとカエデの顔に眼を合わせてから、軽く微笑むと再び背後に振り返る。

 

 ここまで遅れた埋め合わせをする為に、大幹部柏木タツヤを倒して、彼女達と一緒に帰らないといけない。倒れた仲間達の仇も取らないと行けないからだ。

 

 振り返ったギンジの目の前に立つのは、柏木タツヤ。

 

 飄々としながら暗闇に立つ姿は、まさしく髑髏に蛇が這う様な死神の姿。リコニスにもオーク怪人にも似た、怪しくて禍々しい気迫と殺意が混ざりあった空気がギンジの肌にからみついてくる。

 

 ただの人と侮れない特殊能力や、ギンジの攻撃さえ避け続ける事の出来る特殊な能力まで持っている。

 

 「お前避ける事ばっかりしててキメーんだよ。それしか芸が無いのか?ああ?」

 

 サングラスを着けて金棒を担ぐギンジの姿は、最早輩である。

 

 「貴方こそ・・・直情的な攻撃しか出来ないから。わたくしに攻撃が当たらないんですよ」

 

 挑発には挑発を返してくる言葉に、ギンジは血管が浮かび上がる。

 

 「ああ、直情的な攻撃はなぁ・・・準備運動だよコノヤロー」

 「ああ、ならばわたくしも準備運動をしている真っ最中ですね」

 「言うじゃねぇかこのロリコン野郎。俺の仲間をさんざんボコっておいて、準備運動もクソも無いだろ」

 「あんなのボコった訳ではないですよ。ヘルブラッククロスの力の真理において、秩序を教えてあげ・・・」

 

 ボンッ。空気の弾ける音を鳴らして、タツヤの顔の横をすれすれに飛んでいく。

 

 ギンジの金棒から空気が殴り飛ばされたのだ。

 

 「人様が喋っている時には・・・攻撃してはいけませんって習ってきませんでしたか?」

 

 タツヤの煽る様な口ぶりから、ギンジはさらに攻撃を続けていく。

 

 「そんな事、習わなくても十分な事だったんでなぁ!」

 

 金棒を頭上一杯に振り上げて、雷を纏いながらの痛烈な一撃。それらが当てようと繰り出しても、当たらない事はギンジには解っていた。

 

 「そうやって無駄に体力を使う戦い方ばかりだから、皆さんすぐに倒れてしまうんですよ・・・」

 

 思い切り振り落とした金棒に体制を引っ張られる様なギンジの肩と頭に、タツヤの革靴が乗せられる。体重を乗せたその立ち方は、波止場の様に膝を曲げて、ギンジの背後を取ると同時に勝ちを確信したマウント取り。

 

 「乗るんじゃねぇ!」

 

 全身通電を果たす事でさえ、タツヤには当たらずに避けられる。

 

 (クソ、あの瞬間移動厄介だな。いちい後ろに回ろうとするのも気に食わねぇ)

 

 多少の苛立ちが仇となり、ギンジの真正面に現れる三つ揃いの男。

 

 苛立ちが仇となるのは、この出現に反応が遅れるからだった。

 

 「貴方の様な不気味な怪人だって!」

 

 タツヤの蹴り上げがギンジの顎をかちあげて、身体が上に反れてしまう。

 

 「女を手にし、自分の思うがままの暴力を!自由を!」

 

 浮いた身体に掌底、回し蹴りでギンジをジワリジワリと追い詰める。確実に骨に届き、中身だって壊していくつもりでタツヤは攻撃を続ける。

 

 「力による支配によって、この世界に生きられる人々の優劣がより浮き彫りになるのですよ!」

 

 手刀による突き込み、膝蹴りによるギンジへの的確な急所狙い。

 

 「わたくしだって同じですよ。貴方の様に、最強と言われている様な怪人にだってこうやって追い込む事が出来る!居るんですよ!わたくしの様に、人も怪人も超越出来る“力”を持った超人類が!」

 

 ボディを的確に、かつより確実な方法で拳を突き出す。握られた正拳が腹部にねじ込まれ、ギンジの脚が地面から離れて、全身を浮かせる。

 

 背中にまで届いているのが解る強力な打撃に、カエデは気が気じゃなかった。

 

 オーク怪人も自分を打ち負かした男が・・・もしかしたら敗北するのではないかと、思えてしまう程の一方的な攻撃の数々。

 

 それでもミヤコだけはギンジが倒れずに、自分を助ける為にここまで来てくれたヒーローだけは、敗ける事がないと信じていた。

 

 「これで・・・終わりです!」

 

 瞬間移動を繰り返して、ギンジの背後から裏膝を蹴落とし、正面からのドロップキック、そして真下からのサマーソルトキック。

 

 「ヘルブラッククロスに楯突く愚か者は・・・死ね!」

 

 手刀を構えてから最後に狙うのは、ギンジの頭部。いくら強い怪人でも頭と身体を切離せば、確実に死ぬ。人型の怪人ならば決定打になる。

 

 多少タイミングはズレたが、ミヤコの心も壊せて、ギンジも殺せて、ヘヴンホワイティネスにも勝利する。

 

 ここまではタツヤの思い描いたとおりだ。

 

 だが・・・確定未来を観ていないギンジが、未来を確定させる言葉があったのを、オーク怪人も、カエデも、ミヤコも、忘れては居なかった。

 

 手刀による攻撃は・・・黒い炎が意思を持ったかのように防いだ。

 

 「何・・・!?」

 

 トドメとなる攻撃を防がれて、勝ちを急いだタツヤがまたも姿を消す。瞬間移動だ。

 

 移動先は・・・。

 

 「後ろ!」

 

 紫電を纏った左足が大きく回り、背後に現れたタツヤが今度は攻撃を防いだ。

 

 「・・・ッ」

 

 一瞬、読まれたのかと焦ったタツヤが、顔色を一気に変える。

 

 そうして大幹部の取る行動は、やはり瞬間移動。

 

 背後は取れない、そして正面もおそらくギンジは反応してくる。

 

 さっきまで反応が遅れていたのに、一度行動を読む冷静さを取り戻してしまえば、ギンジはきっとどこに現れても反応するに違いない。

 

 「ですが、地上だけのお話ですね!」

 

 空いているのか分からない様な糸目が、細く開かれる。

 

 タツヤの次の移動先は・・・ギンジの頭上。

 

 「上空からの攻撃だったら・・・どうです!」

 「来ると思ったぜ!」

 

 金棒をしまい、黒い炎も紫電も、全てが無くなる。

 

 変わりに取り出したのは、ムーン・フォース改。

 

 ギンジだけのバトルスーツが眩い光と共に現れて、長ドスが展開される。

 

 僅かに思えるこの数秒の中、タツヤの攻撃が届くのが先か、ギンジの攻撃が間に合うのか先かの勝負となった。

 

 1秒。─タツヤが革靴をギンジに振り下ろした。

 

 2秒。─ギンジが長ドスを真上に振り上げた。

 

 3秒。─二人の攻撃がぶつかり合い、斬撃と打撃が重なる衝撃が生まれる。

 

 反応が出来たのは流石だと、タツヤは心からの称賛を贈るも、勝利をするのはやはりわたくし。

 

 ギンジの長ドスを体重と落ちる力を合わせて、押し潰すようにギンジに迫る。

 

 これで勝ったとタツヤは大きく歪んだ笑みをこぼす。

 

 これで敗けたとカエデとオーク怪人は絶望に飲まれた表情を見せる。

 

 4秒。「まだ行けるよ!ギンジ君!」

 

 長ドスが無くなったとしても、月の力も炎も雷も飛行も金棒も使えなくても、まだギンジにはもう一つだけ能力がある。

 

 5秒。─タツヤの攻撃はギンジに命中する事なく、空中でフワフワと浮いているだけ。

 

 「なん、だと・・・」 

 「どうだい、無重力をこんな地上の近くで体験する気分は」

 

 6秒。

 

 ギンジの黒いバトルスーツの右手には、重力を発生させる漆黒の球体が出来上がっていた。

 

 月と重力による、ギンジがこの土壇場で編み出した、怪人以外の能力の組み合わせ。

 

 「・・・このっ!」

 

 無重力状態のまま身体を瞬間移動させたタツヤ。その移動先は、忌々しいヘヴンホワイティネスのヘヴン1が立っている場所。

 

 移動したのはこのままでは攻撃が通らないのも理由としてはあった。だがソレ以上に、今のギンジは何かヤバい。

 

 人質でもなんでも取って、ヘヴンホワイティネスに勝たないと行けない。カエデの背後に移動したタツヤだったが、そこにはギンジも一緒に来ていた。

 

 「頭下げろ!」

 

 ギンジの指示でオーク怪人が、ミヤコとカエデを掴んでその場から退避する。身をかがめた移動により、ギンジの攻撃の邪魔にもならなくなった事で、本気でギンジの右拳に握られた重力の拳が、構えられた、

 

 ギンジが遅れた事も悪いが、ギンジ自身、この状況が何よりも許せなかった。

 

 レンもミドリコもケイタも赤鬼もサクラもレイナもルカも。

 

 ミヤコをここまで追い詰めて、きっとひどいことをして来たのだろう。

 

 カエデも傷つけられて、オーク怪人もここまでやられて。

 

 仲間と自分の恋した少女達が、こんな悪の組織の大幹部にここまでやられた事に怒りを隠せなかった。

 

 「貴方のそんな攻撃、わたくしには通用・・・」

 「逃げられるなら逃げてみろよ・・・逃げられるならなぁ!」

 

 ミヤコとカエデが立っていた場所には、既に追い込む事(・・・・・)は成功していた。

 

 「兄貴のォ・・・攻撃を黙って受けやがれやァ・・・」

 

 そこには倒れた仲間達を集めてくれていたカエデの砦。

 

 意識を取り戻した赤鬼が、タツヤの脚を掴んだ。

 

 「事前に余地出来ていない攻撃なら、そいつに触る事が出来るぞ・・・」

 

 次に声を出したのはミドリコ。

 

 そして他人に触られている時、柏木タツヤは瞬間移動が出来ない。

 

 「ええい鬱陶しい!死になさい!」

 

 赤鬼の首根本から踏みつけて、再び赤鬼の意識を落とさせて、ミドリコのナイフ攻撃にも手元の反撃を華麗に決めてから、腹部に正拳を叩き込む。

 

 ミドリコと赤鬼はもう一度再起不能に陥るが、まだギンジが居た。

 

 黒い重力の拳による攻撃の準備が整った事で、タツヤの顔面に狙いを定める。

 

 「無駄ですよ!貴方の攻撃はわたくしには・・・」

 「テメェの瞬間移動も無駄だぜ!」

 

 左手の人差し指を真上から下に振り下ろすと、タツヤの身体に重たい感覚が強くのしかかる。

 

 ギンジは実際に手を触れていないが、確実にタツヤに触っている。

 

 重力。それが進化の怪人が得た魔法の力。

 

 月。それが進化の怪人が得た悪でも使える善行の力。

 

 たとえ怪人を倒せるだけの能力を持っている大幹部が相手で、怪人の能力では太刀打ちできないのであれば、正義のヒーローとして・・・正義を信じた悪として、使える能力の一部でも限界の一歩先を目指して思い切り叩き込む。

 

 重力で動けなくなった柏木タツヤは無防備。身体が鈍く、上手く動かせないままでいる。

 

 仲間の無念、仲間の想い、仲間の辛さ、仲間のすべて。

 

 これを背負ったギンジによる、重力を全身全霊でかけた鉄拳制裁が柏木タツヤの顔面に叩き込まれた。

 

 「ぐっ・・・ぼぉ・・・!???」

 「おっ・・・ッルァ〜〜〜ッ!!!」

 

 右手にかかる重力が強い為か、動きはかなり遅いが、それでも当てる事さえ出来てしまえば、見た目以上に強い一撃が、タツヤの顔面の真ん中を撃ち抜いた。

 

 「もう二度と・・・」

 

 この大幹部と戦うまでに色々な事を思い出す。今日までこうやって戦うまでに、柏木タツヤという蛇の様な男の顔を忘れた事は無かった。

 

 ミヤコを攫い、ミヤコを怖がらせ、カエデハウスを襲撃し、ミドリコに逮捕状まで叩きつけ、街への襲撃を命令して、挙げ句ギンジの仲間達を瀕死に追い込んだ。

 

 だけど一番は・・・ミヤコの身体に触った事だ。

 

 狂っていても、どれだけ底なしに悪の側面があろうとも、ミヤコはギンジにとって命の恩人であり、この世界で好きになった大切な人。

 

 ゲームの時とは違い、増えた〈大好きな人達〉の一人。

 

 自分が怪人になった原因とは言え、恩人でもあり、守らないと行けない、本当に大切な仲間。

 

 「ぐっ、ギィィ・・・」

 

 顔にのしかかる重力に、頭蓋骨が悲鳴をあげている。タツヤの鼻は潰れて、前歯が折れていく。

 

 「もう二度と!ミヤコに近づくなぁぁぁ!!!」

 

 振り下ろした右拳が、そのままタツヤの顔面にめり込むと、思い切り殴り飛ばす。

 

 不可となる重力をたくさんねじ込まれて、ホテルの壁面に向かって飛ぶその姿は、まるでその方向に落ちていく感覚だ。

 

 「これで砕けやがれぇ!!」

 

 まだギンジの追撃は終わらない。これだけの巨悪をここで、これだけで終わらせる訳にはいかないのだ。

 

 自分にも重力をかけて、そのままタツヤを追いかける様にして落ちていく。

 

 「ウラァァァ!!」

 

 ムーン・パラディースとしての姿を消して、元に戻りながらギンジはフェーズ3を発動した。黒い炎を六枚のコウモリの羽が飛び出して、全身に紫電をまとわせながら、錐揉み回転していく。

 

 重力の魔法と共に、だ。

 

 リゾートホテルの壁に向かって落ちていくタツヤの胴体に、ギンジの燃える頭がぶつかりながら、二人して錐揉み回転しながら、直立する神宮リゾートホテルへと落下していく。

 

 「お前に言ったよな・・・俺がお前をぶっ飛ばした未来を見せてやるって!」

 「がふっ・・・まだやると言うのですか・・・!」

 

 悪の組織の大幹部を放っておくわけには行かない。殺しはしないが、それでもギンジに宿る怒りはまだ収まらない。

 

 「これで最後だ!付き合えよ」

 「まったく・・・悪あがきだけでもさせてくださいよ」

 「それは断るぜ!」

 (悪魔ですか・・・)

 

 タツヤをも超える圧倒的な力。それを発動しているギンジの錐揉み回転が、重力を失って一瞬ふわりと二人の身体が浮かび上がる。

 

 ギンジの左手には黒い炎、右手には紫電。

 

 進化の怪人としての力を象徴する灰色の肌が、より一層ヘルブラッククロスが望む力を持っている事をひと目で解る様な実力。

 

 壁にギリギリ到達しないこの距離感で、ギンジの両拳がタツヤの全身を叩き砕いていく。

 

 (ああ・・・)

 

 ホテルの外壁に押し込まれる様にして、後頭部を強くぶつけた。一瞬意識が飛びそうになるが、跳ね返った頭部を目掛けたギンジの黒く燃える拳が襲いかかってくる。

 

 獰猛な獣の様に、しかしそれは獣と呼ぶにはあまりにも凶暴過ぎて、誰もが恐怖を覚える迫力で雄叫びをあげるギンジ。

 

 その猛攻の数々は、ギンジがミヤコを守れなかった悔しさと、タツヤにやられた悔しさを乗せて、倍返しにしていく。

 

 タツヤは悪の組織の大幹部として、力による支配の世界の実現に、心血注いで生きてきた。

 

 だが、今自分を打ち倒そうとしている怪物は・・・一撃いちげきが本当に容赦の無い威力であり、タツヤの感情、思想、思惑、野望、全てを文字通り砕き潰していく。

 

 とどまる事の無い強力なラッシュが、タツヤに当たり続けて、ギンジの雄叫びと共に、リゾートホテルの壁に叩きつけられる。

 

 僅かに感じる潮風と、どう言っていいか分からない黒い炎の熱と、紫電の熱と、進化の怪人の熱。

 

 まだ終わらない怒りのラッシュが、壁を突き破り、タツヤの身体と瓦礫を屋内へと押し込んだ。

 

 (そうか・・・力と言うのは・・・)

 

 最後に意識が薄れる瞬間、柏木タツヤの視界に入ったこの男は、誰よりも力の本質を理解している様に見えた。

 

 そしてその怪物、佐久間ギンジの最後の一撃が、柏木タツヤの身体を通して、ホテルの外壁を殴り壊す。

 

 身体と壁が打ち砕かれる感覚を、全身で味わったタツヤは、薄れゆく意識の中でギンジの顔を最後に見やる。

 

 (・・・素晴らしい、怪人だ・・・)

 

 怪人。それはこの世界のすべての生物の頂点に立つ、地獄から産まれた超常的な存在。

 

 人の身であり、人の心を持つという不思議なこの男を見て、対峙して、そして戦ってみて、タツヤは満足そうに笑みをこぼす。

 

 ホテルの屋内の通路に押し込まれ、全身の大火傷と、大怪我と共にタツヤはその意識を落として行った。

 

 「ハァハァ・・・」

 

 大幹部戦。勝ったのは、ヘヴンホワイティネス・佐久間ギンジ。

 

 「ブヒ・・・まったく侮れん男だ・・・」

 

 ギンジの勝利を見届けたオーク怪人が、ミヤコを肩から降ろしてあげると、ミヤコは急いでギンジに走り出していく。

 

 ウェディングドレスのブーケを投げ落として、純白のヒールも脱ぎ捨てて、ギンジに向かって走っていく。

 

 「・・・俺たちの勝利ドゥハァ!?」

 「やった〜〜!」

 「ちょっとバカミヤコ!何してんのよ!」

 

 思い切りギンジの首に抱きついたミヤコは、嬉しくて嬉しくて、溜まりにたまった想いを全部ギンジにぶつける。

 

 倒れたギンジにまたがるようにして、ミヤコは大好きなギンジの顔を見つめる。

 

 「ごめんな・・・遅くなって」

 「うん・・・本当に、遅いよ・・・おそい・・・」

 

 ミヤコがギンジに小さな手を何度もポコポコぶつけながら、それと同時に涙もギンジの胸に落としていく。

 

 そんなミヤコの後ろでは、オーク怪人がカエデの壁となって、立ちふさがる様にして軍帽を深くかぶり直していた。

 

 「ブヒ、済まぬ・・・今だけは、ドクターミヤコに譲ってくれないか?」

 「何言って・・・」

 「頼む」

 「・・・〜〜ッああもう、解ったわよ・・・」

 

 あまりにも誠実な態度をあのオーク怪人が取っている事に驚いたカエデは、変身を解きながらオーク怪人の願いに応えた。

 

 本当はこの勝利を一緒にギンジと分かち合いたいが、それはミヤコの方が大きいのだろう。かなり悔しいが、今だけはオーク怪人の言うとおり、ミヤコに譲ってあげるとしよう。

 

 「色々遅くなったけどさ・・・俺、またお前に会えて良かったって思ってる」

 「うん、うん、わたしも・・・」

 

 大泣きしながらミヤコは顔を赤くして、ギンジの言葉に頷いていく。

 

 これだけ泣いてくれるなんて、もうミヤコの気持ちは解っている。今までも解っている気でいたが、それまでは理解が及んでいなかったのだ。

 

 それほどまでに、ギンジと再開出来た事が嬉しくて、溢れる想いと共に、愛しいギンジから離れたくない。

 

 「・・・あの時の言葉、公園でさ、全部話せなかっただろ?」

 

 涙で汚れるミヤコの顔に張り付いた髪を取ってあげながら、ミヤコの顔にまだ流れ続ける涙のしずくを指で取り払っていく。

 

 痛くしないように、傷つけないように、丁寧に。

 

 「また・・・聞かせてくれよ。俺達、ああいや」

 

 俺達、ではない。今のギンジにとって、もっと適切な言葉がある。

 

 だって、ギンジはミヤコの事も好きになっているのだから。

 

 だから・・・。

 

 「俺には、お前が必要なんだ。一緒に帰ろうぜ、ミヤコ」

 「・・・!うん!う゛ん゛・・・!」

 

 そのまま泣きながらミヤコは押し倒される様な体制のギンジに身体を擦り寄せる。

 

 思い切りギンジの身体を力一杯抱きしめる様にして、ミヤコの精一杯の力が伝わってくる。

 

 「じばらぐ、スン、こうさせで・・・ひっく・・・離れだくな゛い」

 「・・・ああ、いいぜ。本当、遅くなってごめんな」

 

 申し訳なさと、少しの愛おしさを孕んだ手が、ミヤコの黒髪を優しく撫でる。手触りの良い艶のある黒髪が、ギンジの手に馴染むようにしてするりと抜けていく。

 

 「あのー、ひょっとして僕達おじゃまだったかな?」

 「ケイタ、空気読んで。デリカシーが、無い」

 「おう、旦那、レンの姉御。今だけは兄貴の邪魔ァ、しないで離れようや」

 

 気絶から復活した赤鬼達が、まだ気絶している仲間達を担いで、少し離れたカエデの待つ場所に進んでいく。

 

 泣きじゃくるミヤコの頭をなでながら、ギンジは海岸の方に視線を動かす。

 

 「・・・朝か」

 

 気がつけば闇夜は晴れ、海の向こう側から日が出始めていた。暖かな日差しは、優しく照らし始めて、まるでギンジ達ヘヴンホワイティネスの勝利を祝ってくれている様な強い夏の日差しだった。

 

 「朝でも離れないっ」

 「いやいや、流石に明るくなって来てるんだから離れろよ!」

 「やーだーやだやだやだ!エッチしてくれないと、離れません」

 「いいぞギンジ!ドクター!そのままお世継ぎを」

 

 泣き止んだミヤコが顔を伏せながらふざけるが、そこへの悪ノリをしたオーク怪人の言葉によって、カエデが飛び蹴りをぶちかましてきた。

 

 「あんたらいつまでそうしているつもりよ!いい加減にしなさいよ!」

 「ブヒ、そうだぞギンジ。ふざけるな」

 「くふふふ、あ、カエデモンキーだ。まだ居たの?おうち帰ったのかと思ってたよ」

 「へぇ〜助けて貰った割に随分生意気じゃない・・・?」

 

 ギンジの身体を堪能したミヤコが、ゆっくり立ち上がるとカエデの目の前に立ち、二人して目線の火花を散らし始める。

 

 「・・・でも、今回はいい。カエデにも迷惑かけちゃったみたいだし。アリガト・・・」

 

 立ち上がったギンジの腕にくっつきながら、ミヤコが最後に小声でお礼を告げると、カエデも珍しくミヤコに対して顔を赤くする。

 

 少しだけ照れながら、腕組みをして目を逸したカエデが、珍しくミヤコを相手に気恥ずかしさがある様子だった。 

 

 「・・・あたしも、あんたを、ミヤコを助けるのに、結構体力使ったから、また明日でいいわ」

 

 結局の所、この二人も同じ類の仲なのかも知れない。

 

 「ま、わたしの方がギンジ君の事好きですけどね」

 「はぁ〜?ふざけないでよ!あたしの方が絶対好きだもん」 

 「ブヒ・・・」

 「あ・・・」

 

 ここでカエデの爆弾発言があったが、それは一番聞かれちゃまずい人の耳に届き、朝陽の差し込む中、カエデのシャウトが響き渡るのであった。

 

 「・・・俺、死ぬのかなぁ・・・?」

 

 一方、佐久間ギンジは、心臓が痛くなるほど鼓動が早くなり、緊張の糸が解けない様な強張った表情で海の向こうに顔を覗かせる太陽へと、視線を逃がしていくのであった。

 

 鈴村ミヤコと神宮カエデ。

 

 二人の少女の気持ちをしっかりとぶつけられたギンジは、前途多難だと、心の中では少し嘆いた。

 

 だけど・・・仲間を取り返した事で、これでようやくヘヴンホワイティネスは全員揃った。

 

 佐久間ギンジ

 

 神宮カエデ 

 

 宮寺レン

 

 甘白ミドリコ

 

 赤鬼

 

 角倉ケイタ

 

 鈴村ミヤコ

 

 未来を繋ぐ7人が、未来を変える為に、ここにこうして集まってきた。

 

 彼らの戦いは、まだ終わらない・・・。

 

 命を賭けた戦いも、ギンジ達の恋の戦いも・・・。 

 

続く

  

 

 




お疲れ様です。

今回のお話でミヤコ奪還編もあと一話で終わりになります。

そして次回のお話で長かった中盤も終わりになります。

そう、物語はいよいよ終盤に向かっていきます!とは言っても・・・
終盤も長いのよなぁ・・・

残ってるお話としては、そんなに長い様な事も無い気がするけど、やっぱり長いです。なっげぇですわ!

キャラネタ書きます

佐久間ギンジ
ミヤコの想いは伝えられなくても、さらわれるあの瞬間で何を言おうとしていたのかは理解した模様。
それと同時にカエデの想いもギンジの耳に入った様で、実は一番気まずい環境に立たされた男。

鈴村ミヤコ
ギンジ君と再開できて、今度こそギンジにめちゃめちゃ身体をこすりつけた。やめなさい。カエデの事をまぁ信用はしていいかなとは思ってる
止める人が居なければここでお世継ぎルートが確定していた。

神宮カエデ
ギンジが遅れてきた事には後でしばくとして、さっきの自分の言動を全部消し飛ばしたいと、カエデ氏は嘆いておられます
ミヤコの事をまぁ信用しても良いかなとは思っている。

柏木タツヤ
ギンジに手酷くやられた大幹部(笑)
ギンジの強さが今のヘルブラッククロスに必要とも思いつつ、この力はなによりも素晴らしいとギンジを褒め称える方向も併せ持ち始めた。
でも忘れないでください、この人ロリコンです。
・・・

次回はミヤコ奪還編最終話!そして中盤も最後!
その次からはなんとなんと終盤!物語も終わりに向かって動き出し始めます。

それと同時にですね、近日中にヘヴホワとは違う物語を書いてみようかと、模索している最中です。そちらについては後日活動報告にでも。

ヘヴンホワイティネスももうすぐ一周年になりますね、なんだかヤル気が湧いてきたが、ヤル気に追いつかない身体・・・これが年齢か・・・。

次回はミヤコがギンジに・・・な回です。小鳥遊アキラとか磯上ミツキとセクハラおじさんも十五夜ヒトシも神宮ソウジロウも出るよ!

それではまた次回!!
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