最近コバエが飛んでくる季節になりましたね。暑い。
今回のお話でいよいよ中盤が終わります。でもまだまだ物語は続きます。
それではどうぞ!!!!!!
神宮リゾートホテルは、かつての清潔感や豪華な装飾は最早なくなってしまい、いたる所に破壊の跡や、大切にしたいモノがたくさん蹂躙されていた。
その燦燦たる場所に、温かい日差しが差し込んできている。
天使達が悪魔を返り討ちにして、今また平和が取り戻された。
だけどその手に残ったのは、平和から炙れてしまった、カエデの悔しい想い。
父親は救出出来た。仲間も取り戻せた。一般市民も助けられる事は出来た。
ほんの一部・・・助けられない人たちが居た。
子供や大人も女性も男性も関係ない。
この街を守りたいと、守ろうと頑張っているカエデにとって、勝利の後の現実、その光景は非常に心を強くえぐる。
何人の死者が出てしまったのか、それは正確な人数は分からないし、知りたいとは思えない。
自分の腕をめい一杯広げて、自分の抱きしめられる人が何人居るのか、この悔しさの中でカエデは考えてみる。
レンも、ミドリコも、ギリギリ頑張ってギンジも入れられるだろうか。
(もっと沢山守れる様に強くなったのに・・・)
魔法界で得た修行の力は単純に自分が強くなるだけの力じゃない。自分が強くなって、ヘルブラッククロスの様な巨悪から守ってあげる力なのに。
その力を上手く振るうことが出来ていない。
(どうしたら良いのかしら・・・どうしたら)
力の使い方は間違っていない筈。だから、今度はその力で守れる力を最大限振るえば良いだけのこと。とは言えそんな単純でもない事。
瓦礫の上に腰掛けながら朝陽を眺めるカエデは、ここ数分それだけを考えていた。
「おーい、カエデ」
撤収作業と警察への連絡をミドリコ主軸で行っている中、ギンジも手伝いを終えてカエデの所に小走りで向かってきた。
彼の主な手伝いと言うのは、この広場に突き立てられた黒い十字架を赤鬼と共にぶち抜くという事だけなのだが。
「ひゃい!?」
ついさっきミヤコの救出を完璧に終えたヘヴンホワイティネスは、ミヤコとカエデを中心に、告白大会が開かれたのだ。不本意とは言え、ミヤコに対抗する形でカエデもギンジへの好意を伝えてしまった。
だからなのかギンジがわざわざここに来てくれて嬉しいと思う反面、ギンジが居るだけで顔が上手く見れなくなってくるし、鼓動も早まって胸が痛くなってくる。
「あ、何よ・・・」
今特別な言葉を投げかけてほしい訳ではないが、カエデはギンジに素っ気ない態度を取ってしまっている。こんな事をしていれば、いつか愛想を尽かされて、ミヤコの方に向いて行ってしまうかも知れない。
こんな事したい訳じゃないのに・・・。
本当に恥ずかしくて。
本当に苦しくて。
本当に、大切に想ってて・・・。
だけど素直になれなくて、そもそもあんな形でギンジに想いを伝えたくなかったから、今カエデは不貞腐れ気味でもある。
そんな悩むカエデの左肩を、ギンジは隣から軽く手を乗せてくれる。
カエデの小さな肩に乗せられたギンジの手は、とても大きくてそれでいて暖かく感じられる。
「あのさ」
ギンジが肩から手を離すと、カエデが座っているのと同じぐらいの大きさの瓦礫に腰掛けて隣に座る。
サングラスで弾かれる光と、海岸から押しては引いていく波音と共に、ギンジが小さく声を出す。
「ありがとうな」
ギンジからの言葉はたった一つのお礼。ミヤコを助ける事に協力してくれたカエデへの感謝。
「な、べ、別に・・・いいわよ。お礼なんて」
「ミヤコを助けるのも、俺がここまで来れたのも、全部カエデのおかげだと想ってるんだ。多分、一人だったら何も出来なかったと思う」
まだまだ自分の弱さを完璧には拭いきれていないギンジは、例え自分が人間を超越している怪人であっても、ここまでの戦いは出来なかったと思っている。
自分の〈大好きな人達〉の未来を守る手伝いをしたいと言う想いから、いつしか自分だけが一人で背負う戦いだともギンジは勝手に思っていた。
「でもさ・・・最初っからそうだけど、俺一人の戦いじゃないし、皆がそれぞれの思惑を持って戦ってくれているって・・・そう考えてるんだ。俺はさ・・・」
ギンジがカエデの隣で淡々と話す。
「本当に一人じゃ何も出来ないただの生きた屍だったし、俺が俺がって一人で突っ走ろうとも考えてたりしてたんだけどさ」
今までのヘヴンホワイティネスとしての行動でも、ギンジの発言にカエデが妨害したり、カエデの行動にギンジが追従したりと、色々ごちゃごちゃしていたと、二人して思い出して苦笑する。
「今回の戦いもそうだけど、ミヤコの救出だけはお前絶対動かないと思ってたし、ホント協力してくれて嬉しかったぜ」
「別に・・・仲間なんだし当然でしょ」
ミヤコの事を仲間と思っている事にも驚きだったが、カエデはミヤコと普段から仲が悪い。それは元ヘルブラッククロスの大幹部でもあり、元敵だからと言うのもあるだろう。
それと二人が仲が悪い理由はもう一つある。
カエデもミヤコも、佐久間ギンジと言う一人の男に恋をしている。
「ねぇ、バカギンジ」
「?」
瓦礫の上で身体を抱きしめる様にして、カエデがギンジの方へと顔を動かした。陽の光を弾きながら揺れるカエデの瞳に、ギンジはサングラス越しで確認する。
何か言いたい事があって、それを上手く伝えられるか分からないと言ったカエデの表情に、ギンジは黙って視線を動かさずにカエデの次の言葉を待つ。
夜通し戦い続けた疲れた顔をしながらも、カエデの唇がゆっくり開かれる。
「あんたは、あたし達の事、ど、どう想ってるの・・・?」
聴くかどうか悩んだ末、カエデは今この瞬間で言葉を出した。
あたし達、というのは勿論ミヤコとカエデの事だろう。
「正直に言って・・・別にそれで怒るとか、あんたの事嫌いになるとか無いから」
声を震わせながらもカエデは、ギンジが自分達に想っている事を正直に話して貰いたかった。
普段のカエデからは想像出来ない程の弱った感じと、表情と、声。それらが混ざって見て見ればこの子も普通の女子高生となんら変わりない。
ヘヴンホワイティネスという使命が無ければ、ただの一般市民。
「・・・俺は」
ギンジがカエデから目線を離して、登り征く朝陽を眺める。
光を弾いた海はとても綺麗で、さっきまでここで戦闘が繰り広げてられているなんて、誰も想像出来ない様な夏の早朝に、ギンジは眩しくて目を細める。
「カエデもミヤコも、本当に、俺も含めて全部大切にしてくれようと、頑張ってるんだなって思う。ミヤコもあんなだけど、本気なんだって解るし、カエデも・・・」
本人を前にして本当に正直に話そうとするのも、なんだか気恥ずかしい。
「俺がこの世界に来てから、命を繋いでくれて、戦う為の力をくれたミヤコには感謝してる」
ミヤコが自分に授けてくれたギフトが、今こうして生き残っている自分を造ってくれた事に、心から感謝している。
それで居てミヤコは自分を本気で好きで居てくれる。
「カエデも、最初は信じてくれなかったけど、俺の言った事を信じてくれて嬉しかったし、何ていうか・・・その、憧れ?みたいなモノもあったしさ。ヘヴンホワイティネスってだけじゃなくて、神宮カエデって人間に」
ゲームの方のカエデは折れない精神力で最後まで戦った。
だけど快楽には勝てなくって、この日本を支配する驚異の実力者として堕ちてしまって行ったカエデを、ギンジは知っている。
3月に遭遇した時も、退魔教会との戦いも、6月28日の運命の戦い然り、その後の夏休みでの戦いも、魔法界で自分を信じてくれた時も。
自分を信じてここまで一緒に戦ってくれたカエデには、本当に感謝している。
「だから・・・ごめん、今は上手く言えないかもだけど」
それでもギンジは頑張って言葉を繋いで見せる。
「俺が信じた正義の為に、ここまで来てくれてありがとうな。俺、本当に情けないけど・・・カエデもミヤコも大切だって想ってる」
「・・・そう、なんだ」
カエデもギンジの言葉に嬉しく想いつつも、まだギンジの一番になれていない事に少しだけショックを受ける。
「お前らが泣いてたら、なんでも言ってほしいし、なんでも助けてやる。苦しいなら、ちゃんと俺に言ってくれよ?なんだか、辛そうにしているのなんて見たくないしよ」
ギンジがまたカエデの肩を優しく乗せる様にして叩く。
「まだ・・・答えが出せなくてごめん。でも、嘘じゃないんだ。カエデもミヤコも・・・全部悪のしがらみから俺が断ち切ってやる。辛い戦いなんてしなくても良い未来の為に・・・」
天国の様に優しくて、輝かしい未来の為に、ギンジはカエデに向き直る。
「未来を守るんじゃなくて、一緒に未来を変えようぜ。俺とカエデなら、きっと・・・いや、絶対出来る。難しいかも知れないけど」
「難しくなんか無いわよ。簡単よ」
カエデもギンジから目を逸らさずに、しっかりと前を向いていつものカエデの笑顔で、強気なご令嬢の笑顔でギンジに言葉を投げる。
「あたしとあんたがやるんだから。絶対に簡単よ。でもギンジ」
カエデもギンジと同じ気持ちだ。
同じ気持ちだからこそ、カエデがギンジの身体に自分から擦り寄せた。
硬く大きな、ギンジの胸にカエデが頭をぶつける。優しく、しかし勢いは乗せたまま。
ギンジのシャツの裾を掴んで、引き寄せる様にしてカエデがギンジの身体の中で、一番心に近い場所で声を出す。
「あんたも辛かったら、ちゃんとあたしに言ってよ。あたしも同じ!ギンジが苦しかったり、辛かったりするのは見てらんないの」
そのままカエデがギンジの胸から顔を離して、ギンジの顔を見上げる。
「さっき言ったあんたの事が、す、好きだって事。あれ、本気だから・・・良くても悪くても、いつか絶対返事しなさいよ!」
「ああ・・・必ずするよ」
ギンジはカエデもミヤコも好きだ。
カエデもギンジが好きだ。
ミヤコもギンジが好きだ。
それがどっちか一番にならない限り、カエデは返事が聴きたくない。
そしてそれはミヤコもきっと同じ事だろう。
その猶予が、今ここで突きつけられた。いつか、それはいつになるのか多分誰にも分からない。
でも、佐久間ギンジは今ここで戦いに勝つと言う事よりも、もっと大きくて重大な問題を一つ抱えたが、それほど嫌な気分にもならなかった。
故に、必ずどちらか片方を選ばないと行けない時が来るだろう。
その時、10年後、20年後に後悔しないように、ギンジは今も先もしっかり生きていく事を決意した瞬間だった。
「おーーーい兄貴ーー姉御ーーー」
遠くから赤鬼が呼ぶ声がする。声のする方へ見れば、もうそろそろ撤収の準備をしないといけなさそうだった。
「そろそろ戻ろうか」
「そうね。ねぇ、ギンジ」
ギンジの少し先を歩いたカエデが、振り向きながらギンジに笑顔を見せる。
「ちゃんとあたしを守ってね」
「おう、任せとけよ。俺ならカエデだけじゃなくて、この街も、この世界も魔法界もまもってやらぁ」
「あーら大口叩くわね〜流石・・・あたしの下僕ね」
「なんですか、お二人共。兄貴も姉御も距離感近いですな〜」
「うるっせ。オラ、戻るぞ」
赤鬼の尻に蹴りを入れながら、ギンジは警察関係者やマスコミが来る前に、撤収を開始するのであった。
この時、神宮カエデの不安は何もかもが消え去っていた。
守れなかった人達の無念を背負いながら、カエデは強く前に進もうと決めたからだ。
最強の味方である、最強の怪人の隣を歩きながら、カエデはまた新たな志を胸に秘めて、正義のヒーローとして強く強く、果てしなく強くなろうと、決意した瞬間だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8月31日、午前。
8月30日の神宮リゾートホテルの襲撃は、一度落ち着いた見込みらしく、甘白ミドリコからの連絡を受けた機動隊の行動を見て、小鳥遊アキラは安堵しながら胸を撫で下ろした。
場所は中央度固化市、警視庁本部。
その人事相談室にて、小鳥遊アキラは身体にフィットするスーツを着用し、クールな表情を崩さずに、眼の前の人事部の長官に臆さず敬礼した。
「君、本当に警察を辞めるのかい?」
長官が言う辞める、という言葉は本心からの疑問だ。
本来、女性警官の退職はおめでたい事や、家族の不幸、大怪我等で退職する事が基本ベターみたいな所がある。
しかしアキラはそのどれでも無い理由で、公安警察という約束された立ち位置を蹴るつもりで居た。
「はい・・・この街の警察組織には大変お世話になりましたが、私にもやりたい事が出来ましたので」
今月、8月に入ってからと言うモノ、公安警察は凍結騒ぎに、女王ナメクジの怪人と呼ばれる者の単身の襲撃、おまけに公安警察からかのヘルブラッククロスのスパイに堕ちた裏切り者、柏木タツヤの存在。
事実上の機能停止に落とされた中央度固化市の警察機構は、今や半グレやヘルブラッククロスが動きやすい土地として、治安は悪くなっていく一方である。
オフィスビルエリアは、見るに耐えない喧騒のたまり場となり下がり、時たまに怪人の遭遇の報告がこの本部にも出てくるぐらいだ。
無力。警察では太刀打ち出来ないこの巨悪に、アキラは半ば今の立場での一斉検挙は出来ないと諦めてしまっていた。
だからこそ彼女にも考えがある。
部下を失い、警察としての信頼も失い、けれどもアキラにしか無い行動力を使って、別の事をする。
ヘルブラッククロスを倒す為に、彼女は、小鳥遊アキラは警察を辞める道を選んだ。
「第一、こんな大変な状況で警察を辞めて、何か宛はあるのかね?」
長官の言葉は少し棘を感じる言い方であった。相変わらず女性だからと言ってアキラを舐めているらしい態度と口調に、もうこんな奴に嫌味を言われないで良いと思うと、少し心が晴れやかな気分になる。
「ご心配なく。これからも治安と平和を守る為にも、警察とは違う職業で尽力していく次第でございます」
言いながらアキラは手元から一枚の封筒を取り出し、それを長官のテーブルに叩きつける様にして渡す。
少し力を込めた渡し方に、長官はビビっている。
一枚の封筒は退職届。そう達筆に書かれた封筒があり、それを叩きつけた瞬間に、アキラの警察人生は終わりを告げた。
「何か言うことが無ければ、私はこれで」
狼狽えるだけの長官を相手に、アキラが静かにそれだけを告げて人事異動室から抜けていく。スラリとしたパンツルックの後ろ姿を見せつけるような歩き方に、ミディヒールを打ち付ける音が静かな部屋にこだまする。
そのままドアノブに手をかけたアキラに、長官が声をかけているのが聞こえたが、何も聞こえないフリをしてアキラはその場から出ていった。
部屋を出てまっすぐ進めば、警視庁本部のエントランス。様々な人の出入りのあるこの道を歩くのも、彼女にとってはこれで最後だ。
ふと、眼の前を見れば見覚えのある赤いジャケットと、少し黒みがかった濃い肌に、手入れのされていないヒゲが目立つ中年男性、藤原が立っているのを見つけた。
「小鳥遊さん。聴きましたぜ、警察辞めるって」
驚いた事にこの話はもう広まっている様子で、藤原のあっけらかんとしている態度に、少しばかり可笑しくも思える。
「ええ。私の力では・・・悪を倒す事は出来ないと思い知ったのでね」
「次はなんの仕事を?あ、まさか結婚!?」
「・・・」
藤原の冗談には無言の圧で返して黙らせると、藤原の背筋をピンと伸ばさせる。もう同じ警察では無いと言えど、流石に元公安トップの睨みはおじさんにも効果抜群のようだ。
「まだ、結婚なんて出来そうにないが・・・そうだ、藤原さんはまだ警察に?」
アキラのスタイルの良い身体を凝視しながら、藤原は返答を返す。
「ああ、まぁ・・・柏木の奴も逮捕出来るってんで、おじさんにもまだ出来る事があるかなってな」
赤いジャケットのシワを伸ばしながら、藤原はアキラに向き直る。
少し深く呼吸すれば、熟れていても美しい女性の香りが藤原の鼻腔をくすぐってくる。これは良い女だと、本能で確信する。
「そうか。まぁ、頑張ってくれ。追う者が同じならいつかきっと会えるだろうしな」
「で、まじでどこ行くんですか?」
藤原の言葉にアキラが微笑をこぼして、ある一枚の紙切れを見せる。
その紙に書いてある信じられない内容に、藤原は苦笑混じりアキラの顔を見る。
「これ、まじですかい」
「ああ、本気だとも。藤原さんも来るかな?」
公安局を襲撃してきた女王ナメクジの怪人を撃退した、あの二人が顔写真の中心に貼られている紙切れ。
内容も今のこの街の現状なら、納得が行く内容。
「決めたんだ。悪を倒すためならば、確実にヘルブラッククロスを捕まえる為ならば、法律の下では行動する事が出来ないからな・・・革命をお越しに、行動を一つ取ってみるよ」
紙切れの中には電話番号の様なモノも書いており、それが誰の番号なのかもだいたい理解出来てしまった。
「まさか入るってのかよ・・・」
「ああ、本気だ。私は、レジスタンスに入る事にしたよ」
小鳥遊アキラ・公安トップ→レジスタンス。
まさかの大きな異動に、藤原は度肝を抜かれる気分であった。
「甘白君も職に困ったら、ここに来れば良いと伝えてくれ。それじゃあ、私はもう行くよ。藤原さん、この先も大変だろうが頑張って」
「・・・いつかまた会ったら、そのおっぱい触らせろよ」
「ふふ、高いぞ?」
冗談に冗談で返されて、藤原は少しだけニヤリと笑ってみせる。その不敵な笑みはアキラも同じで、二人して立場の違う正義を追い求める事となった。
「あんな巨悪を倒す為ならば、多少の法には目を瞑ってもらうしか無いのでな。では、元気でな」
「ええ、まぁ、小鳥遊さんも」
公安警察としての正義を諦めた訳ではないが、アキラは真に正義を手にする為にも、法律を厳守する事は無くなった。変わりに、確実に平和を取り戻す為に、アキラは少し動きやすい方法を取る事にしたのだ。
そんな小鳥遊アキラの背中を見て、藤原は少しだけ若い時の情熱が取り戻せた様な気分になる。
「こりゃあ、おじさんも敗けてらんねぇな」
パンティラインがみえるアキラのパンツルックを目に焼き付けて、藤原も自分の正義の為に動き出そうと、行動を開始するのであった。
「先ずは・・・受付オネーチャンに番号聞かないとな」
漢の顔つきで、藤原は思い切りセクハラに動こうとしたのであった。
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──聖カエルム教会。
夏休みの最終日に、子供達の幸せそうな笑い声が外で響く中、礼拝堂では傷ついて帰還したレイナと、お留守番をしていたナルミ、そしてミツキが、女神像の前でスパーリングをしていた。
何故ここで?とは思っても、ミツキの事だから恐らくは次の襲撃に向けた能力の強化を目論んでいるのかも知れない。
「いいですねナルミ!そこでジャブ!はい、ワンツー、ワンツー!」
ナルミは一向に喋る気配が無いのだが、ミツキの掛け声に順応しながらも、ショートジャブを繰り返している。
空気を軽く打ち出せるぐらいには、拳のキレが素早くて重たそうな威力。
ミツキとナルミであれば、いつか素手で魔人を倒せそうな感じさえ伝わってくる。
「ところで・・・レイナは、ギンジさんの所に居なくて良いの?神はこう仰られております、等しく愛に生きる者は全て、自分の気持ちの赴くままに生きるべき、と」
ミツキがジャブの空気圧をレイナに贈ると、レイナは痛む身体を抑えてそれを否定する様に首を振る。
「ああ・・・まぁ、あんなの見ちゃうとな・・・」
あんなの、と言うのはヘヴンホワイティネスの仲間の一人であるミヤコが、ずっとギンジの腕に自分の身体を抱き寄せて、イチャイチャしそうな雰囲気を見てしまったのだ。
それを見てしまうと、諦めたわけでは無いが、今回ばかりはミヤコに譲ってあげようと、思えてしまう。
「私はまだギンジの事を諦めたわけではないよ。いつか立派な退魔師になって貰って、私の隣で戦っていてほしいからな」
勇ましくも少し儚げな表情と声音で、レイナは礼拝堂スパーリングを眺める。
まだまだ自分の弱さを知った事で、レイナは自分の成長のきっかけを知る事が出来た。
怪人キラーエリートとの戦いもそうだが、まだ自分は弱い。ゲヘナミレニアムを潰しただけでは、まだ足りない。
それを痛感した今回の戦い。もうレイナは敗ける訳には行かないのだ。
何度でも同じことを言うし、何度でも諦めない。
ギンジに自分を認めてほしいから。
「神はこうも仰られております。愛を知る子羊は、自らを厳しく見つめ直す良い機会を見落としがちだと。レイナ、貴女はきっと強くなれますよ」
ミツキの言葉にナルミも頷いてくれており、レイナの恋を二人も応援している様子だった。
「ミツキ・・・ナルミ・・・」
「さ、痛みをこらえて私と殴りあ・・・いえ、スパーリングしましょう」
修道服を翻しながら、ミツキが破邪の鉄拳を構える。
虹色に輝く拳が、レイナに容赦なく向けられている。仮にもけが人相手に、本気のスパーリングをするつもりなのだろうか。
「本気か・・・?私は、本調子ではないぞ・・・」
「神はこう仰られております。かまへん、と」
「それは流石に嘘だ!」
「問・答・無・用!修・行・開・始!」
ミツキの強引なスパーリングの開始がナルミのゴングによって開始させられ、レイナは怪我を抑えながらもミツキと全力で戦う事になった。
退魔師に敗けは基本許されない。何故なら敗ければ敵に連れて行かれて、地獄に引きずり込まれるからだ。
そうならない為にも、ミツキはレイナを1から鍛え直す覚悟で、破邪の鉄拳を煌かせて、レイナも破邪の剣を煌かせた。
礼拝堂の女神像は、そんな彼女達が強くあろうとする姿を見て、微笑んでいる様にも見えていた・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8月31日。時刻は16時を回る頃。
場所は神宮亭。
神宮亭の裏にある場所ではなく、いつもの生活居住として使われている豪邸の方だ。
その豪邸の内部、家族が食卓を囲む大きな長机のある食堂とキッチンが合体した、巨大なワンフロアでは、神宮ソウジロウの指示によって様々な食事、豪勢な料理が並べられており、戦いに勝利したヘヴンホワイティネスのねぎらいの為に、ソウジロウが用意したモノだ。
これは自分の愛娘の戦いの勝利と、自分の命を救ってもらった恩義への、祝勝会。
「ソウジロウ様、お嬢様の準備が整いました」
十五夜ヒトシが、一番奥の席に座るソウジロウに声掛けをすると、高級なスーツジャケットの襟を正して、立ち上がる。
そして食卓には、正装でまとめ上げられた、カエデの友人、仲間達がここに集っていた。
黒いスーツにサングラス、ツーブロックに金髪という傍から見れば反社にも見える様な出で立ちをしている男は、佐久間ギンジ。
ヒトシを始め、ソウジロウにも正体はバレているのだが、他の使用人にバレては事なので、そのままサングラスをかけている。
そしてギンジの後ろから、タキシードの中にサスペンダーを合わせた姿をしているのは、角倉ケイタ。少し大人びて見せようとしているのか、髪型もいつもの適当に伸ばしたモノとは違い、右側に逸してジェルで固めたヘアスタイルをしている。
赤鬼は相変わらずの体躯をしているが、筋肉で張り裂けそうなほど腕の密度が高くなってしまっている。普段スーツやジャケットを着る事の無い赤鬼の姿が蝶ネクタイと合わさって余計に面白く見える。
奇譚のない感想を言えば、赤鬼にスーツは似合っていない。
「お前やっぱ似合わねぇな!ギャハハハ」
「いやまぁ、ケイタの旦那がコレ着ろって言うんで・・・」
「え!?僕はそんな事言ってない!」
恐らくケイタは言っていないのだろうが、それでも赤鬼はケイタのせいにしたいのか、それとも冗談なのか、ケイタをいじり倒す。
「うるさいぞ、君たちはまったく・・・」
騒ぎ始めた男性陣に続いて、奥の扉からミドリコが出てきた。
この神宮財閥の高級ドレスを貰った様で、ハイヒールもブレスレットもネックレスも、ほぼ赤色で統一された姿。
肩を出してふわりと巻かれたケールと、普段の髪とは思えないぐらいにケアされてこちらもふわりと巻いて、ドレスに恥じない髪型に変えられている。
「おおー、ミドリコ綺麗だな」
「う、うんそうだね・・・あれ、どうしたの赤鬼」
素直にオトナの女性の魅力を褒めたギンジとケイタから少し離れて、赤鬼はなにやら中腰になりながら、ぷるぷると振るえている。
「ミドリコが・・・俺っちのミドリコがあまりにも綺麗すぎて・・・うおおおおお!」
叫んだ瞬間、赤鬼は雄々しい一本角を思い切り黒曜石の床に叩きつける。思い切り頭突きをして、あまりにも美しく輝くミドリコの姿を見た事で暴走しかけた性欲を粉砕してみせた。
「何をしているんだ赤鬼!」
「へぇーへぇー・・・俺っち、勝ちましたよ。自分の欲望に」
「欲望に!?」
足早に近づいてきたミドリコに対して、赤鬼はなんとかリビドーを抑える。
「とりあえず、飯はもういいでしょう。ベッド行きやしょう、ミドr」
「やめんか馬鹿者!」
赤いエナメルの手袋で赤鬼の角を掴んで、もう一回床に叩きつける。
今の赤鬼にとってはこれでさえご褒美である。
「ちょっと、何騒いでんのよ」
「む、私が一番乗りだったか」
そんな赤鬼を叩き潰したミドリコの後ろから、カエデとレン、ミヤコが3人揃って奥のドレッシングルームから出てくる。
さらにその後ろでは、サクラとルカもここに5人同時に出てきたのだ。
レンのドレスはスカイブルーの髪色に合わせた、白みのある水色の生地の、ハーフドレス。
蒼いリボンをあしらったボリュームのあるドレス姿を見て、普段とは違う可憐さを見たケイタが中腰になる。
「あ・・・僕もう死にそう」
「縁起でもない事を言うな!いや眩しいのは解るけど!」
倒れそうなケイタを支える様にして、ギンジがレンにケイタを投げ渡す。
「あ・・・」
「うわぁ・・・ッ」
ケイタを抱きかかえる様にレンがケイタと腕を絡ませて、抱き合う様な構図になると、二人して顔が赤くなる。恋人同士の素敵な一面に、見てるギンジが逆に恥ずかしくなってくる。
「どう、綺麗、かな?」
「うん!もう誰にも渡したくないよ!それぐらい綺麗だし、なんか、あのその、綺麗!すっごく綺麗!最高!」
「なんだよ旦那・・・はよ結婚しろや」
べた褒めするケイタにレンも昇天気味であり、そんな二人のやり取りを見て赤鬼がケイタとレンを煽る。
「ケイタの髪型も、いつもと違うから、素敵、だよ」
言い慣れていないレンの言葉が嬉しくて、ケイタもレンもニヤニヤが止まらない。
そんな二人の甘い空間には、ミドリコが今度は中腰になる。
彼女が抑えるのは男性陣とは違い、心臓を抑えている。
「わ、若者の・・・あの尊い瞬間が・・・私には効く。効いてしまう・・・」
「何意味わかんねー事言ってんだよ」
ミドリコやケイタの事は放っておいて、ギンジはカエデとミヤコに目線を合わせようとしたが、そこにサクラとルカがこちらに向かって歩いてきていた。
サクラはやはり桃色のドレスで身を包んでおり、意外とモデル体型なのか、生足をスラリと出しては身の丈にあった長いピンヒールを履いて、フリルのついた大きな袖の桃色ドレスと、足元の対比がかなりアンバランス感を醸し出している。
しかしサクラの歩き方もかなりしなやかで、ヒールの履き慣れている感がすごく、腰を軸に背中を曲げずに歩いてくるその姿は、まさしくモデル。
「えっへへーいいでしょこのドレス!」
「おう!やっぱサクラは桃色のドレスだよな、そう来ると思ったぜ」
「そうでしょそうでしょ!せっかくお呼ばれしたんだから、ドレスコードも完璧にしないとね!」
サクラを褒めた次はルカの方を見る。
ルカの衣装は、まるで執事の様な燕尾服の生地感を思わせる、ジャケットスタイルに、正面にスリットの入ったパンツを合わせ、靴を会えて金色の装飾が取り付けられた革靴にされている。
マニッシュとボーイッシュの融合とも言える様な豪華な衣装に、一瞬ルカが女の子だと言うことを忘れてしまいそうになる。
「僕はドレスとかは似合わなさそうだし、こっちにさせてもらったよ・・・」
「そうか?こっちもかっこいいけど、きっとルカもドレス着たら似合うと思うぜ!ほら、ミドリコとかレンが着てる様なやつとかさ」
(ほらーだから言ったでしょ?アタシはドレスの方が似合うって!)
アキハは相変わらず急に出てくるが、やはりその姿はルカとギンジにしか見えない。
幽霊の様な存在なのに、なぜかアキハは白い浴衣の姿から、今回だけは王女様の様な衣装を着ている。プリーツの入った大きなスカートは、まるで・・・。
「ポモドロさんを思い出すな」
「?誰だい、それは」
「ああ、いや。なんでもない」
魔法界に居る王女様の事を今話しても、余計な混乱を招きそうだから今はやめておこうと、ギンジはここで会話を終わらせる。
最後に、既に仲間達と会話をしていたカエデとミヤコが、ギンジに振り向くと、風が一瞬舞ったかの様な不思議な感覚がギンジにやってきた。
カエデはいつもに金髪を後ろに回したツインテールに変えており、真っ白はサマードレス。ワンピースタイプに近いドレスであり、ツインテールの幼さを抜きにしても、高級感の溢れる姿をしている。
足元も薄手の白タイツを履いているのか、光を反射して妙な光沢感を感じている。
しかしながら一切の怪しさを感じさせず、ご令嬢としての清廉なる姿が、ギンジの心を一つ掴んだ。
対するミヤコは正反対の真っ黒な、ショートドレスであり、ヘアスタイルは後ろで巻き上げてオーク怪人と思わしき顔のデフォルメされたバレッタで止めた、いつものミヤコとは違うアップスタイル。
なにより一番驚いたのが、腕、脚を全部出していて、傷を一つも隠していない、ミヤコの生きた証を見せつける様なコーデとなっている。
流石にヒールは履けなかったのか、ロウファーじみたシューズを履いているのだが、それでもこのミニドレスに合わせた印象が損なわれない。
『似合う?』
『!?』
『同じタイミングで話さないで!』
カエデとミヤコが二人同時にギンジに声をかけたのだが、その後の反応もある事ながら、最早練習しないと出ない様なリアクションに、ギンジは腹をかかえて爆笑している。
「いやーホント息ぴったりだな」
『合ってない!』
『!?!?』
『だから・・・!』
白黒の美少女二人の行動はまたもや被り通して、今度はギンジだけではなく仲間達全員で笑う。
笑顔を取り戻せたこの瞬間が、今ヘヴンホワイティネスにとってなにより嬉しいひとときだった。
「いやでも、ちゃんと似合ってるよ。可愛いし、カエデもミヤコも」
ギンジに素直に可愛いと言われたら、悪い気はしないし、カエデもミヤコもデレりと溶けた様な笑顔になっていく。
皆して色々と話す事はあるが、一先ずは部屋の明かりが少し暗くなる。
ソウジロウの合図で部屋に料理が運ばれるのを確認し終えると、ヒトシが明かりを消したのだ。
そして料理に刺されたろうそくに火が灯されると、一気に部屋がろうそくで明るくなっていく。
「先ずは・・・財閥を代表して言わせて貰うが・・・」
ソウジロウが集まってきた自分の娘の仲間達にマイクを向けるが、あまり上手く言葉は出てこない。だが、一つだけ今すべき事は解っている。
「佐久間、お前が何か気の利いた事を言え」
ソウジロウがマイクを投げ渡すと、ギンジはそれを受け取るが、今このタイミングで自分が言うべき事なんて何かあるだろうか。
「お前の戦いでもあったのだろう?カエデから全て聴いたよ。我が娘の下僕ならば、こういう席にも強くなっておけ」
「あーじゃあ・・・」
ギンジがソウジロウの立っていた場所に登り、それぞれ仲間達を見つめながら精一杯言葉をひねり出していく。咄嗟の事だったから何を言っていいのか分からないし、転生してくる前はこんな事したことも無かった。
とは言っても、今何かアガる事を言えば、士気だって十分大きくなることだろう。
「大幹部もぶっ飛ばしたし、俺たちはミヤコも助ける事も出来た!今度もまた勝つぞ!そんで・・・俺たちの!」
マイクを持ちながらギンジはもう一つ言葉を、何よりも仲間たちに伝えたい言葉をもう一つ伝える。
「俺たちの、未来を変えるぞ!!俺とお前らなら絶対に出来る!」
「レンのビーム剣があれば、なんでも斬れる!」
「ケイタの魔法があれば、仲間が安心して戦える!」
「ミドリコのランチャーがあれば、どんな敵だって怖くねぇ!」
「赤鬼は俺について来い!そんで、皆の背中を守ってくれ!」
「カエデ!」
ギンジがそれぞれ仲間達の激励を贈りながら、最後にカエデの時だけは、名前を大きく呼んだ気がした。
「俺とお前なら、この先どんな敵が来たって、どんな悪い状況だって、絶対に超えられる!だから、俺に力を貸してくれ!俺も、全力をお前に貸すから!」
これだけの信頼を寄せて、寄せられて、その言葉が聞けただけでもカエデは嬉しくなって、少しだけ涙が溢れる様なきがする。潤んだ瞳をハンカチで拭き取りながら、カエデは確実にギンジに向かって微笑んでみせた。
その顔はもう、ただ恋をしているにあらず、愛している人の成長を見ている様な気分になった。
「そしてーーー!ミヤコ!!」
「えっ!?はいっ!」
最後に一番忘れちゃいけない仲間の名前を、ギンジは呼び出した。
自分の命を繋いで、ここまでの戦う力をくれた大切な恩人であり、今はもうヘルブラッククロスと言う過去を捨てた大事な仲間の名前を。
「ずっと待たせてごめんな!そして、お帰りーー!」
「・・・!」
ミヤコの顔もカエデと同じで、恋をしている人に向ける顔ではなかった。本当に、心の底からギンジを愛しく想う顔をして、たった一人の男を見つめている。
「ちょ、ソウジロウ様!いいんですか!アレ」
ヒトシがいい加減場違いな男の言動を止めようと動こうとしているが、ソウジロウはそれを黙って聴いている。
「良い。カエデ達の戦いの勝利であり、この私がほんの少しだけ認めた男の話だ。聴いておけば良いさ」
「ぬぅ・・・」
少し納得が行かないが、財閥長が言うならと、ヒトシは刀に添えた手を止める。
「さーてそれじゃあ」
ギンジがマイクを止めて、次は両手から炎を出す。
一気に部屋が明るくなり、ギンジが最後に声を大きく出した。
「俺たちの勝利だ!飯、食おうぜぇ!!」
『おーーー!』
ヘルブラッククロス・大幹部柏木タツヤ戦
勝者・ヘヴンホワイティネス
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「やいやい見てろよ!レンの姉御のマネ!ビィィィ〜ム剣術〜!!」
酒も入ったのかへっぴり腰の誇張しすぎたモノマネをしている赤鬼を見て、ミドリコが馬鹿さ加減に爆笑していると、レンが登壇に駆け上がり、ビーム剣を取り出して本物の動きを見せていく。
「本物のビーム剣術は、こう」
「レン!違うって!それカゲフ選手!」
野球のゲームからの引用をしているのか、レンが野球選手の振り方でボケにボケを重ねていく。
ケイタは気が気では無かったのだが、赤鬼のボケについていく。
サクラもルカも思い思いにご飯を食べて、ミドリコもお酒を飲んで、カエデとミヤコはギンジを取り合いながら、ご飯を食べていた。
相変わらず険悪な空気にはなるモノの、今では冗談じみた話を交えた煽り合戦も行う様になっているので、仲は良くなっているのかも知れない。
「レイナさんも来れればよかったのにねー」
「しょうがないさ・・・色々あるみたいだし、本業とか」
サクラとルカがローストビーフを食べながら、赤鬼がレンにぶっ飛ばされる瞬間を見て、二人して笑う。
「こらこら暴れるな!皿が!床が!天井が!どうやったらこんなに汚れるんだ!」
ヒトシが好き放題騒ぎ出している赤鬼を主な的にして、怒鳴り散らすが、最早ソウジロウも気にしていないのか、誰もヒトシの注意に耳をかたむけない。
「そうだ・・・カエデ、裏の倉庫から、ワインを持ってきなさい」
ソウジロウが喧騒だらけのこの食卓の中で、カエデに指示を出す。
「ワインだったら、俺が持ってきてやるよ、オトーサン」
「大丈夫だ。貴様の持ってくるワインなんて飲みたくないわ」
「味変わんねぇだろ・・・」
「いいわよギンジ。お父様のワインを持ってくるのは、あたしの仕事なの。昔色々あってね・・・」
その昔話も気になる所だが、カエデはそこから先は何も言わずにワインを取りに倉庫へと向かっていく。
が、その一瞬で背後を向き、ミヤコに指差す。
「・・・今だけは、あたしの下僕、貸してあげる」
それだけ告げると、カエデは倉庫へと向かっていき、ミヤコとギンジはここで二人きりになる瞬間が来た。
「佐久間、これからも私の娘を頼むよ。残念ながら、我々ではヘルブラッククロスには太刀打ち出来ない。それに・・・」
ソウジロウが少しだけ深刻そうな顔をしているが、ここは祝いの席。ソレ以上は何も言わない事にしたが、ギンジはソウジロウの顔を覗きながらへらへら笑ってみせる。
「任せろってオトーサン。何があっても守ってやるからさ」
「フン・・・もう話すことは無い。行け」
ソウジロウもギンジの態度だけでは信用出来なかったが、彼の実力を見ていれば、そこだけは信じても良いかと思えるぐらいにはなっていた。
「ギンジ君!テラスあるよ!テラス!涼しいからそっち行こ!」
興奮した年相応の少女の様に、ミヤコがぐいぐいとギンジの腕を引っ張る。
「ああオッケー。それじゃ、また」
「早く行け!」
ギンジがテラスに行ったのを見送ると、登壇の方に目を動かす。その登壇では先程までは赤鬼がふざけ倒していたが、今は何故か赤鬼とレンが正装のままでガチバトルを繰り広げるまでになっていた。
「・・・どういう事なの・・・?」
「おい、もう止めるんだ!」
流石にまずいと思ったのか、ミドリコが止めに入るが、サクラとルカも悪ノリではやし立てるので、二人の演舞と称したバトルはまだもう少し続いている。
「ビーム剣術!ヘヴン・トランプル!」
「
「オイィィィィ!!私の家が壊れる!なんでこんな事してるんだ!」
『演舞』
「いや、何してるの?って聴いたんじゃないよ!?馬鹿なの!?」
これで本当に演舞と言い切って、お互いに攻撃が当たらない様にしているのだから、つまり家にだけは被害が及ぶと言う事になる。
つまりこの瞬間だけ、ヘヴンホワイティネスは馬鹿だったと言う事になる。
祝勝会はまだまだ続く・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・
テラスに出たギンジとミヤコは、夏の夜風に涼みながら、暗くて夜になりつつある空を二人で眺めている。
「くふふ、ギンジ君と二人っきり・・・くふ、くふふーふふ」
「そんなに嬉しいか?」
苦笑混じりに冗談を言ってみたつもりだが、ミヤコはそれを本気でうなずく。
場所がどこであれ、ミヤコはもう我慢がならないと言った感じだった。
「だって・・・ギンジ君にもう会えないかもって、正直思ってたから・・・そしたら再開出来たし、わたしを連れ戻してくれたんだよ?それってもうプロポーズでしょ?」
「いや色々すっ飛ばしすぎな」
「もー照れなくて良いのに〜くふふ・・・」
実際、ギンジは照れていた。今にして思えば、この子だってギンジに想いをたくさんぶつけている。
そこまでされたら、男としては気づかない訳には行かない。
でも、まだ答えは出せない。
そんな煮えきらないギンジの考えもちゃんと解っているからこそ、ミヤコはそこまでギンジに詰め寄ったりはしない。たまに愛が爆発して暴走するぐらいだ。
「ねぇ、ギンジ君」
ミヤコが部屋の明かりを背景に、テラスに怪しく立つ。
怪しいとは言っても、いつものミヤコの様なギンジラブ全開の怪しさの方だった。
「くふふ、もう、抑えきれない所まで来てるんだよ。あんなかっこいい事言われたら、わたし、お腹が熱くなって・・・ギンジ君の全てをこの身体に流し込んでほしいって思っちゃうぐらいだよぉ・・・くふふ」
「・・・いや、なんだ、暴走するなよ?」
「しないよ。今はね。でも、ギンジ君次第かな〜」
トコトコ歩くミヤコの発言に、ギンジはなぜだか冷や汗が止まらない。
「俺次第・・・か?何すればいいんだ?」
できればこんな所で暴走はしてほしくない。
だから今ミヤコを抑えられるなら、なんでもしてやろうとも思う。
「くふふ、簡単な事だよ」
ミヤコが再び部屋の明かりを背景にして、ギンジの目の前に近づいてくる。不気味とも呼べる様な奈落の様な瞳。
ミヤコは元々悪の側面が強い人間、今は半怪人。
ミヤコがギンジの身体、主に肩に体重をかけて少しだけ身長を落とす。
具体的には中腰にさせる。
(たはーっ俺もかーい!)
中腰になった事でギンジも心の中で、自分にツッコミを入れる。
「それで・・・えっと、痛くしないから目を閉じて欲しいなぁ〜くふふ『ふふふふふ』・・・」
最後の方だけ、わざと笑っている様に感じたが、今は聞き流す事にする。そもそも目を閉じると言う単語が、一気にギンジの不安を駆り立てる。
「・・・〜〜まぁ、出来る事ならなんでもするって言ったしな。いいぜ、新しい細胞でも力でも、注射でもなんでも来い!」
「くふふ、ありがとう・・・」
今からミヤコがギンジにする事は、きっと誰にも言えない事になるだろう。
それと合わせて、ミヤコは・・・あの時攫われる瞬間に言おうとした事を、今ここで伝えようと、目を閉じるというハンデを持ったギンジに、全部を伝えようとした。
ある一つの行動と合わせて・・・。
「・・・〜〜んっ」
瞳を閉じたギンジの顔が、ミヤコの理性を打ち砕いてくる前に、ミヤコも瞳を閉じた。
そしてギンジにした事は・・・。
「・・・!?」
襟首を掴んだミヤコが、ギンジが離れないようにする為に震える手でギンジを逃さないという意思をもたせながら、ミヤコはついに自分が造った最強の怪人の唇を奪った。
長く、しかし短く、初めてのキスを、甘く、苦く、堪能した。
頭の中でミヤコの全てがスパークしそうな勢いで、閉じた瞳が明滅しそうな程に、狂おしく愛おしい感情が全て全身を駆け巡る。
鈴村ミヤコと言う少女は
初めは愛を知らず孤独だった
その少女は恐怖を知り
他人を愛する事を学び
必要とされる事を理解して
彼の下に帰りたいと願った
だけど、離れ離れになり
本当の恐怖の意味を理解して
こんなにも助かりたいと願った
そして、彼女に救いの手が差し伸べられた
佐久間ギンジという、怪人の手によって、鈴村ミヤコが今
本当の本物の愛を知った。
唇を離して、ミヤコが何よりも嬉しそうな表情でギンジのサングラスを外す。
開けた視界で、ミヤコからのキスを受けたギンジが、何も喋れずにミヤコの嬉しそうな顔を見て心臓が跳ねる程に鼓動を早めている。
音が誰かに聞こえそうな音が・・・。
何かを言おうとしたギンジに、ミヤコはタイミングを合わせたかの様に、愛している男に向けて言葉を告げた。
「君が大好き。本当に愛してるよ、ギンジ君・・・でも、答えはまだ先でいいからね?くふふ」
ミヤコ然り、全ての女性然り。
(俺、やっぱり女の子には勝てないなぁ・・・)
初めてのキスを嬉しく思うのと同時に、ギンジはくらくらとする頭に必死に理性を保ちながら、二人で祝勝会に戻るのであった。
続く
お疲れ様です。
ついにメインヒロインの一人が主人公にキスしやがりましたね。許せん
でもいつかはこうなるって決めてたのだから、これで良いのだ!
キャラネタ書きます
鈴村ミヤコ
ついにギンジとキスした。次は・・・本番か!?
佐久間ギンジ
ミヤコにキスされた。
柔らかく、それでいてなんとも言えない優しさを感じた。
神宮カエデ
ギンジに一応告白した。だけどまだ答えは保留で良いと言わせた。多分、こうなるって知ってたけど、ミヤコにチャンスをあげた。これでも優しさがあるから、ミヤコを仲間と完璧に認めた事もあって、泣いてはいないが倉庫から出てきていない。ワインは八つ当たりで壊した。
赤鬼/レン
二人して神宮亭に大損害を決めた馬鹿者二人。
・・・
さてさて、長かった中盤もついに終わりを迎えて、物語は終盤!
ワン○ースで言うなら、ワ○国終わりぐらい
ハイ○ュー!!で言うならビーチバレーはじまったぐらい
エアマ○ターで言うならバトルロワイヤルが始まったぐらい
でもまだまだ物語は続きます!100話の大台は見えている!
この物語とももう少しだけお付き合いいただければと思います!
それではまた次回!応援、コメントいただければ幸いです!