正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちは、アトラクションです。

監獄襲撃が・5で終わるかも、とは言いましたが話しの流れを調節して・6まで続ける事になりました。

この一話に全員の戦闘をつめこむのは無理だ!ってなりましたので、申し訳ございません。

それではどうぞ!


94・監獄襲撃・4

 虹層作市の監獄刑務所の中は、地獄。

 

 どこかの独房に捉えられている囚人は、そう告げてこの独房で死に至った。

 

 犯罪者には容赦なく拷問を与えるこの環境こそが、生きる全ての人間、生きる全ての囚人にとっての大きな地獄。

 

 そのはずだった。

 

 9月6日、この日、虹層作市の監獄刑務所は、地獄と呼ばれるこの場所を、本当の意味で地獄に変えてしまった。

 

 人を超える超常的な存在である怪人達の大侵入によって、ありえなかった囚人達の暴動、そして怪人達の侵入、警備兵は死に絶え、外にはまさかの軍隊の出撃。

 

 それに加えて・・・虹層作市全域に走る衝撃と大混乱。

 

 中央監獄刑務所に立ち昇る無数の黒煙。

 

 そしてこの監獄の地下では・・・。

 

 「オヒョヒョ、サン・アンフェールとはやはりザコ!」

 

 柏木タツヤの奪還作戦の為に、この政府の土地とも言うべき監獄内部において、ヘルブラッククロスの触手の怪人、犬も怪人、紐の怪人がサン・アンフェールのガット、チョトツ、ソル・レヴェンテと交戦を開始していた。

 

 お互いに敵組織に所属しており、超人と呼ばれる彼らと、怪人と呼ばれる彼らの戦いは、到底人間に真似できる様な戦いではない。

 

 「ニャハッ、一撃を当てただけでいい気になるなよ!」

 

 猫の超人であるガットが、オレンジ色の囚人服からその毛皮を表しては、威嚇する猫の様に毛を逆立てている。

 

 猫の瞳がギョロリと瞳孔を細くさせると、伸ばして両腕の爪をコンクリートをひっかきながら突進してくる。

 

 「猫罰爪王斬(キャットフルブレイド)!」

 

 明らかに鋭利になった両の爪を伸ばした攻撃は、触手の怪人が眼に捉えられない速さで振り回され、音もなく猫の超人ガットは姿を消した。

 

 「あり?逃げ・・・っ!?」

 

 触手の怪人が宇宙人の様な小首をかしげると、自慢の無数の触手達の表面に、これまた無数の爪痕が残され、それから少し遅れて体表から紫色の血液が流れ出てくる。

 

 「馬鹿な・・・!?」

 「ニャハハ、見えなかったかい?」

 

 姿を消した筈のガットが、触手の怪人の耳元でふぅふぅと息を立てる。

 

 無数の触手全てに爪の切り傷をつけて消えたのではなく、見えないぐらい速く動き、触手の怪人の背後に回っていたのだ。

 

 「サン・アンフェールがザコ?言うじゃないか、ヘルブラッククロスのザコめが・・・」

 

 ギザギザの歯を見せつけながら、ガットが勝ち誇った笑みを見せる。

 

 ヘヴンホワイティネスとはまた違う斬撃を味合わされた事で、触手の怪人が顔色を変える。怒りとも微笑とも取れる謎の顔で、ガットに向き直るその姿は、まるで大きな蛇にも見えるぐらいには、触手を床に引きずっている。

 

 「キレたぜ・・・あっしらを馬鹿にするとはなぁ・・・」

 「バカなんだから当然だにゃぁ・・・」

 

 ガットの言葉に一本、拳台の大きさの触手を殴りつけようと伸ばしてみるが、やはりガットには当たらない。残像でも出すかの如く、ガットの姿が左右に分かれて消えてしまったからだ。

 

 「お前のその触手を輪切りにしてステーキにしてやるぜ、お兄ちゃんよぉ!」

 「ステーキ?触手は刺し身のほうが美味いぜ・・・お前には絶対に食わせてやらんけどな!」

 「いるかバカ!」

 

 ガットの声が聞こえたのは頭上、挑発に乗って触手の怪人が拳の触手を伸ばしてみるが、もう既にガットの姿はなく、空を虚しく切るだけ。

 

 「下だ!」

 

 三本の触手が閃光を帯びるかの様に、触手の怪人の胴体と顎を狙った、思い切りの良い強力な攻撃が命中してしまう。

 

 「ニャハハ、遅いし、よそ見もする。そんなんじゃあ、このガット様には勝てないぜ」

 「オヒョヒョ、抜かせ猫娘。お尻にドリル触手ぶちこむぞ」

 

 どういう訳か挑発になっていない挑発をしている触手の怪人の発言に聴く耳を持たず、ガットがせせら笑う。

 

 この笑いはこいつだけは何があっても殺してやると言う、自分より下の立ち位置にいる奴へのマウント意外に何でもない。

 

 絶対に殺すと決めた以上、猫の瞳が真っ赤に染まり、キリキリと歯を固めていく。その表情を見た途端に、触手の怪人には見えないぐらい素早く動き出して、触手の怪人を追い詰めていく。

 

 「くっ!こんな狭い(・・)場所でそんな素早く動き回るなんて・・・ずるいぞ!」

 (せまい?一体何を・・・?ま、良いか、殺すしなんでも)

 

 先程までは広い場所で戦っていたようだが、いつの間にか二人が入ってやや狭く感じる(・・・・・・・)部屋にまで移動して来た様だった。

 

 「どうしたどうした!動かないのか!それともいたぶられる趣味にでも目覚めたか?ニャハハ、とにかく死ね!猫爆裂爪(キャット・バビロン)!」

 

 この地獄において、最後に勝つのは我々サン・アンフェールだ。ソレ意外の勝利はなく、陽光の輝きこそがこの弱肉強食の世界を成立させる。

 

 禍々しく輝いたS字の爪が、触手の怪人の額に向かって飛び出してきた。その爪から感じ取れる殺意はとてつもなく大きく感じるが、触手の怪人はこんな事では臆さない。

 

 「そんなに動き回ってばっかりだと、あっしに捕まるぜ?覚悟は出来てる?」

 「先程からまともに動けてもいない、そして攻撃も当てられていないくせに、ほざくなミミズ野郎!」

 

 今度こそ捉えた頭部。どこに心臓があるか解らないが、同じ異人同士頭部を潰せば殺す事が出来なくとも、動きは止められる筈。

 

 そう睨んだガットの爪が、触手の怪人の額についに到達した。

 

 これで勝った。ヘルブラッククロスの怪人なんて、取るに足らないのだ。今まで何をビビってお互い戦わなかったのか不明だが、いざ戦ってみればこんなモノ。あっけなく終わる。

 

 「ふんっ!」

 

 ガットは自分の勝利が来たと、完璧に信じていた。

 

 触手の怪人が鼻息いっぱいに踏ん張った声を出したのは、その硬い頭部の皮膚を活かして爪を砕き折った声だった。

 

 ガットの爪が砕け散った一瞬、何をされたのかが理解出来なかった彼だが、事の重大さにあっけに取られるわけでもなく、すぐにその場から飛んで離れる。

 

 「ニャッ!?にゃにが!」

 

 触手の怪人からは眼を離さずに、後方に飛び出すガットの背中が壁とぶつかった。

 

 「だから狭い(・・)って言ったでしょ。もっとよく周りを見てごらんよ」

 「ニャんだこれは・・・!!?」

 

 ガットが振り向いて、そこに見える壁はとてもコンクリートの壁とは思えない、蠢きながらも鼓動を感じる生命体の様な壁が出来ていたのだ。

 

 くぱくぱと口みたいな部位も、やらしくヌルついた液体を絞り出す様に噴射する部位も、黒い眼球がいくつもギョロギョロと動かしながら、ガットと眼が会った瞬間に、一斉に動きを止めて全ての眼球がガットを凝視する。

 

 「・・・」

 

 この瞬間、ガットがついにあっけに取られた。

 

 「あっしは別に、動きが遅いわけでも、攻撃力が低いわけでもありゃせんぜ。ましてや弱いだけでも無くてな・・・」

 

 宇宙人の様な顔がどんどん強い悪を滲み出しながら、勝ち誇った顔でガットに歩み寄る。

 

 その姿が本能的な恐怖を呼び起こさせたのか、ガットが触手の怪人から眼を離せないまま、後方へと押し込む様にして下がるも、蠢く壁によってこれ以上下がれなくなってしまう。

 

 「・・・はっ、はっ・・・」

 

 ガットから見えた触手の怪人の足元には、床を伝って四角く広がっていく触手が無数に見えた。

 

 それらは中心に立つ触手の怪人から伸びては、鼓動を分かち合うかの様にして、その無数の触手達がガットを囲う部屋となっていた。

 

 「まさか・・・これだけの触手を、自分の身体とつなげながら、このガットと戦っていたのか・・・!?」

 「ま、そんなトコ。これ、あっしのフェーズ3の能力なんだ。名付けるならば、メガギガテラペタエクサ・ゼッタヨッタ・テンタクルズ。この部屋に囲まれた女は、快楽に悶えながら、あっしの子を孕む」

 

 わざと弱いフリをして防戦一方に陥ったのは、この触手部屋が完成されるまでの辛抱のためであり、準備が整ってかつ、この猫は触手の怪人が招待した部屋にわざわざ入ってきた。

 

 オヒョヒョと笑うその顔がなんとも怖く、得も言われぬ恐怖心がガットの神経を逆なでする。

 

 後頭部を淫執に蠢く壁に埋めると、もう身動きは出来なくなる。

 

 身体をまとわりつく触手が、ガットの手足を拘束し、あの素早さはもう披露する事はなくなってしまった。

 

 「そして捕まったのが男ならば・・・」

 

 触手の怪人が壁と身体から無数の極太触手を取り出しながら展開させる。

 

 大きく伸ばされた人の舌、ベロの様に見える形状のその触手には、無数の大小の瘤が取り付けられ、または淫靡な形を取ったしなやかで、弾力のあるような触手。

 

 これならばどんなに精神力の強い女でも、すぐに絡め取り、その弾力とヌラついた液体と、THE神経毒により、屈服させられる事だろう。

 

 「男ならば、死ぬまで叩き、この触手の糧となる」

 

 伸ばした瘤舌触手を剣の様に向けて、ガットの鼻先をつつく。

 

 「地獄に堕としてやる・・・!」

 「や、やめ・・・にゃあああああーーーー!!!!」

 

 壁や本体から伸びる全ての触手を全身余す所無く、思いっきり叩きつけていく。

 

 「ニャァ・・・!?」

 

 瘤のついたベロ触手が鞭の様にしなりながら、表面についた粘液と共にガットの皮膚を叩き擦る。しなやかなその触手は瘤と肌に触れるとピリピリとした痛みと叩いた痛みが重なっていて、しっかりと身体に跡をつけるようにしては、ガットの身体の一部にくっつけたまま一気に引き抜いて元の位置に戻っていく。

 

 それは言うなれば、肉のヤスリがけであり、間違いなくガットを確実に地獄に追いやる一撃であった。

 

 無数の触手の内、一本細い触手がガットの口を塞いで、声も上げさせない。

 

 そうして再び全身をめった撃ちにする瘤ベロ触手の殴打の合図が、ガットの視界いっぱいに広がり、想像している痛みが、想像以上の威力でガットの身体をぶっ叩いて行く。

 

 肉を削り、毛皮を引き裂き、骨を叩き、命を砕く。

 

 この光景はまさしく地獄。

 

 女ならばある意味天国で、男ならば間違いなく地獄の触手の世界。

 

 「おヒョヒョヒョヒョ!」

 

 ぶるん、ぱちん、べちゃ、ぼろん、ぐちゅ、どぴゅ・・・。

 

 触手の怪人の高笑いと耳元で鳴る粘着質な触手の水音。

 

 触手の怪人がどこが腕でどこが脚なのか解らない全身をくねらせて、大きく息を吸い込む。この部屋の全てが触手の怪人の一部なのか、全ての触手がガットを暴力で埋め尽くす。

 

 「ハイクオリティ・タン・テンタクルズ・インポート・インサート・インスタ・ハイスタンダード・オブ・ザ・ブラッドエッジ・シェイクスピア・ピースインフィニティ・ハイライト・ウィンストン・セッターラッキーストライク・ダブルバースト!!」

 

 やたら長い必殺技を絶対噛まずに言い切る事こそ、この触手の怪人の真骨頂。そしてこの強さもまた、彼にしか出せない魅力である。

 

 ガットの断末魔を聴く事も無く、無数の極太触手達による殴打の嵐が、ガットの命を完全に消滅させた。

 

 「ほら、やっぱりサン・アンフェールってザコじゃん?」

 

 潰れて見る影も無いガットの亡骸を触手で吸い取りながら、触手の怪人がせせら笑い返す。

 

 「あっしの同期、進化の怪人ぐらい強くないと、あっしらは止められんぜ。地獄の太陽でも崇めて反省会でも開くんだな」

 

 にちゃりとした触手をパスタを啜る様に、身体に巻き戻していく。

 

 触手に付着しているのは淫靡な毒ではなく、ガットの血液であった。その血液を一滴も残さず体内に取り込むと、触手の怪人は触手部屋からひょっこり頭を出して、後の二人の戦況を観戦するのであった。

 

 触手の怪人vsガット

 

 勝者・触手の怪人

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 二本の鉄棒を振るい、両手でくるくると回しつつ打ち鳴らしながら、サン・アンフェールのソル・レヴェンテは紐の怪人と交戦を繰り広げていた。

 

 ソルの攻撃は自信に放射能を纏わせた体当たりや、その武器による殴打が主な攻撃手段だ。

 

 ムーン・パラディースから奪った変身道具を用いた時は、更にその威力が倍増され、ソルは人の身でありながら超人達と肩を並べる程の強さを手にする事が出来ていた。

 

 今でも同じサン・アンフェールの超人達にも敗けないぐらいの胆力と、実力は兼ね備えていると自負がある。

 

 それ故になんとしてもタイヨーズを開放して、サン・アンフェールの再建をしないと行けない。

 

 「我々は負けるわけにはいかんのだ!」

 

 この紐の怪人と呼ばれている存在。

 

 この怪人が非常にソルと相性が悪かった。

 

 「ホッホッホッ・・・貴方の攻撃は舞踊でも武道とも全く違う・・・」

 

 どこが正面でどこが背面なのか不明な棒人間の姿をした紐の怪人が、頭部に大きく見える黒い怪人の瞳を開きつつ、口元を手で隠しながら微笑みをあげている。

 

 ソルの攻撃は本来巨大扇子を用いる事で、舞を披露しながら戦う事を得意とするバトルスタイル。

 

 そんな彼は憎きヘヴンホワイティネスとの戦いに敗北した後、武器を没収されてしまい、最早どこにあるのかさえ不明な状態であった。

 

 「我らがヘルブラッククロスをコケにした割には・・・浅い攻撃ばかり。同じ力に固執する様な組織だと思っていましたが・・・」

 

 丁寧な態度を崩さずに、紐の怪人が眼を細める。

 

 細めた奥の瞳はソルをしっかりと見つめて、それでいて憤りと弱者を睨む目つきをしている。

 

 ソルはこの目線を合わせるたびに、この紐の怪人に自分の攻撃が当たらずほぼ無意味に終わっている事が納得行かない。

 

 紐一本の身体には、横殴りの打撃も、体当たりも通っているのか分からず、攻撃に手応えを感じない。

 

 それどころか、紐の怪人はこちらを縛り付けたり、細い腕で殴ってくるだけでも普通にダメージが高く、ソルをじわじわと追い詰めている状況でもあった。

 

 次に攻撃が通るとすれば、あの眼球部分には鉄棒による攻撃が通るのと思うが、伸縮自在の紐の攻撃により接近戦が許されていない状況でもある。

 

 「来ないのですか?では、こちらから行きますよ」

 

 攻めあぐねて長考するだけのソルを見て退屈になったのと同時に、ザコならばザコなりに丁重にいたぶって差し上げようと、紐の怪人が圧倒的な強者感を見せつけて、ヒタッと一歩を踏み出した。

 

 (しめた!あーしの舞で、あいつが近づいた時に、あの眼球に強烈なのをお見舞いしてやる!)

 

 ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ・・・。

 

 希望の足音が聞こて来る。紐の怪人が近づいて来て、自分から攻撃するチャンスを得た、希望。

 

 (まだだ、焦るな・・・この鉄棒のリーチじゃない、あーしの身体が当たる距離まで待つんだ。そうすれば、あの眼球を潰して、ヘルブラッククロスよりもサン・アンフェールが勝利する所をボスに証明するのだ・・・)

 

 紐の怪人に表情と考えている事がバレない様に、ソル・レヴェンテは鉄棒を握る手に力が入る。

 

 「怖じ気ついてしまいましたか?」

 

 紐の怪人から見下す様な目つき声音で話しかけられる。

 

 「今ならまだ許してあげようと考えても良いですよ。頭を垂れて、這いつくばりながら、命乞いをしなさい。そうすれば貴方もヘルブラッククロスとしてのヘヴンホワイティネスを倒す優秀な手駒になれますよ」

 

 ソルが何もしない、出来ない事を哀れんであげたのか、紐の怪人が明らかに見下した意味合いを多く含ませた言葉で、勧誘を行った。これは断られたとしても、直ぐに殺せると言う紐の怪人の余裕の現れでもある。

 

 ジリジリと紐の怪人が近寄ってきて、ついにソルの体当たりの範囲、それもより強い一撃を与えられる所にまで迫ってきた。

 

 ここで眼球に自分の必殺技でも与えれば、きっと確実に殺せるはずだと、気合いを込めて自分の鉄棒に放射能を纏わせる。相手がただの人間で無い以上、ソルの放射能だけで紐の怪人を撃破する事は不可能だ。

 

 「もう怯えて言葉も出ないようですね?では、命乞いをするか死ぬか選ぶだけのチャンスは与えてあげるとしましょう」

 

 どちらにせよ紐の怪人はソル・レヴェンテを下に見ている。

 

 どう足掻いてもその事実が変わらないのであれば、今油断しきっているこの状況で確実な攻撃を与える。それしか無い。

 

 「あーしらはここを出たらすぐにやらないといけない事があるんでな。命乞いもしないし、お前に殺される事も無しだ。逆に・・・」

 

 右手を太鼓のバチの様に振り上げて、左腕を振り下ろす勢いを使って、背中を向ける。

 

 オレンジの囚人服に隠されていても、舞によって鍛え上げられた背中はその形を強調されており、放射能が陽炎みたく揺れては、ソルを中心に円を描いて行く。

 

 「死ぬのはお前の方だ!六方(ろっぽう)!」

 

 かつてはムーン・パラディースにもヘヴンホワイティネスにも通用した、背中を使った体当たりを発動する。足元を滑らせ、放射能を使った一種のブーストによる速度の向上、全身の体重をかけて繰り出される攻撃。

 

 確実に紐の怪人の頭部をめがけた体当たりを当てる。

 

 そのつもりで居たし、当てれば勝てるとソルは信じていた。この監獄を抜けて自分達こそ真の悪に生きる者達だと言う事を証明する為に、目の前に立ちふさがったヘルブラッククロスを倒さないとならない。

 

 これは一つの試練だ。

 

 ソル・レヴェンテ個人に与えられた舞う試練ではなく、サン・アンフェールが地獄を抜けて陽光を人々に当てつける為の試練の一つだと。

 

 「死ねぇぇぇ!!」

 

 立ちふさがる怪人を倒す為に、全身に覚悟を乗せた重みのある体当たりが、紐の怪人の顔面へと向かって飛び出された。

 

 「取った!その眼球ならば弱点だろう!」

 

 ソルの一撃がついに紐の怪人の頭部、その視界に当たる。

 

 「ふごおぉっ!?」

 

 眼球に重たい一撃が入った事で、棒人間の頭部が打ち上げられる。人の身体一つの体重を放射能と鉄棒二本を合わせた全身を使ったアッパーカットが、紐の怪人を頭からかち上げると同時に、身体まで浮かされる。

 

 「己ぇ!!ドクターが造ってくださったこの眼球によくも!!」

 

 やはり眼球は弱点だったのだ。これを当てた事により、紐の怪人が苦悶の声を上げて怒鳴り散らしている。

 

 「絶対に許しませんよ、この虫けらめがぁ!これでも喰らいなさい!キエッ!」

 

 浮いた身体のまま紐の怪人が腕と足を伸ばして、ソルの周り正面左右、後方左右を取り囲んでいく。

 

 左右に伸びた紐が硬い床に突き刺さりながら、その伸びた紐が太く厚みを増していく。

 

 「もう許しませんよ!貴方の様な愚か者は、ここで死ぬのです!なにがあっても、それでも私に殺されるべきなんだーっ!」

 

 中央に眼球を残した紐の怪人が、ソルの頭上でキレ散らかしていると、ソルの周りの紐がどんどん太くなっていく。

 

 ソルはその紐一本に対して鉄棒による攻撃を加えてみるが、ゴムの様な不気味な弾力が鉄を容易に跳ね返して来る。

 

 「何をするつもりだ!」

 

 攻撃が余計な一手になってしまったのか、太みを増していく四本の紐から逃げる手段がなくなってしまった。

 

 上を見上げれば、紐の怪人の眼球が覗いており、ソルも下から紐の怪人の眼球を睨みあげる。

 

 「こんなチンケな攻撃がお前の手段か!?圧殺でもするのか?あーしをそんなんで殺せるのか?」

 「でかい口を叩くのもそこまでだ!」

 

 眼球だけの姿のまま地面に紐を伸ばして、ソルの逃げ場を無くした事で、今度は頭上から攻撃を仕掛けようとしている。

 

 ただし攻撃に使うのはその眼球である。

 

 「逃げ場はもうありませんよ。観念して死になさい!」

 

 紐の怪人が告げたのは死刑宣告。確実に殺すと言うヘルブラッククロスの怪人ならば誰でも使うその宣告。

 

 「うっ・・・うおおおお!」

 

 眼球のみとなった紐の怪人が、勢いをつけてソルに向かって落ちてくる。黒い眼球赤い瞳の大きな頭部が落ちて来るその様は流石に誰でも怖いと思える様な光景だった。

 

 「ホッホッホッ!もっと恐れなさい!恐れた所でもう遅いですがね!」

 

 迫る眼球、振り上げる鉄棒。

 

 その構図が完成した時、鉄棒の先端が紐の怪人の眼球ど真ん中に突き刺さり、再び弱点を攻撃された事で、紐の怪人が悶絶する。

 

 「ぎゅおおおーーーっ!?ぉぉんおおん!?んほぉぉぉ!?」

 (こいつもしかして・・・馬鹿なのか?)

 

 自分の弱点を晒したその攻撃は、逃げ場を無くしたソルでもこの構図は想像出来た。

 

 本当は少し焦っていたが、それでも想像は出来たのだ。

 

 「やはり人間はドクター意外滅ぼすべきなんだーっ!」

 

 床に伸ばした紐を元の細さに戻して、身体に巻き戻していく。ヤジを飛ばしながらも、元の形態に戻った紐の怪人は、眼球から涙を流しながら着地を決める。

 

 「ドクターにも会わせてやるから、さっさとおっ死ね」

 「組織ならず、我らがドクターも愚弄するのですか・・・」

 

 片膝をついて眼球をおさえる紐の怪人が、ソルの言葉に肩を震わせ始める。

 

 自分に取って敬愛すべき母なる存在であるドクターまでも愚弄されてしまえば、紐の怪人はもう黙っていられない。

 

 「絶対に許しませんよ・・・」

 

 わなわなと震える紐の腕の先端をソルに向けて、紐の怪人が思い切り踏ん張り始める。

 

 拳でも作るかの様に、両方の腕に力を込めて、身体をかがめた力の溜め方はとてつもなく恐ろしい気迫を感じる。

 

 「ぐっ・・・ぬぉおお〜」

 

 力を込めるその姿から数秒後には、周りに空気の波が生まれ、衝撃も共に発生する。

 

 「何をするつもりだい?お気に入りのドクターとやらに思いでも馳せるつもりか?そんなモノ、あーしの舞の前では「だまりなさい」

 

 ソル・レヴェンテの挑発はもう聞かなくても十分だ。なにがあってもこの先この人間を生かしておく必要がなくなったし、紐の怪人ももうお遊びを終了するつもりで居た。

 

 「見せてあげますよ。この私の戦闘力、そして・・・」

 

 気合い、力、戦闘力の放出。

 

 それら全てが衝撃と波となり、紐の怪人の全身を包み込んでいく。

 

 「地獄をね・・・!」

 

 黒と赤と逆巻くエネルギーまでもが現れて、それらが粒子と同じぐらいきめ細かく光り輝くと、どんどん衝撃が強くなっていき、最早ソルの視界には舞い上がる竜巻の様な衝撃と戦闘力の放出によって、紐の怪人の姿が見えなくなっている。

 

 「覚悟の時間ですよ・・・っ!」

 

 両腕を交差させてから、竜巻の中で紐の怪人が衝撃波を打ち消すと同時に、身体の中に先程の光り輝く赤と黒のエネルギーの吸収が行われていた。

 

 ソルの目の前に姿を表したのは、紐の怪人のセカンドフォームとも呼べる姿。

 

 棒人間の姿からまるっきり姿を変え、現れたのは無精髭の似合う少しだけ老けた顔のした中年前の男の顔。

 

 赤と黒の眼球だらけの洋服に、人間らしさのある手指、足の形。

 

 そして肩に巻かれているショルダーガードの様にしているのは、真っ黒な紐を分厚くなるまで巻きつけた奇妙な姿。

 

 スキンヘッドの頭部に、きりっと固められた眉、そして黒く赤い瞳。

 

 「貴方が初めてですよ・・・私をこの姿にさせたのは・・・」

 「な、なんだ・・・」

 

 何が起こったのか解らないままで居るソル・レヴェンテ。

 

 「・・・バン」

 

 左手の人差し指だけソルに向けた紐の怪人が、誰に聞こえるでも無くその言葉を言う。間違いなく怒りが込められ呪詛と思える程憎しみを込めた、小さな一言。

 

 それがソルに聞こえなかったのか、気がついたらソルの鉄棒を貫通して、両手に紐が貫通していた。

 

 いつの間にそうなったのか視認すら出来ない程に、紐の怪人の肩からソルの両手を貫いた紐が、骨に巻き付いて腕を絡めとろうとしてくる。

 

 「なっ・・・!?」

 

 今更その事に気づいたのか、ソルは後から遅れてやってくる痛みに驚いている。

 

 この一瞬でそんな攻撃をしかけて来た紐の怪人の能力が上がっているのだろう。

 

 穴を開けられた鉄棒からは放射能が漏れ出てしまい、もうソルの能力を使いながら攻撃出来る武器ではなくなってしまった。

 

 (な、何か反撃の手段を・・・)

 

 ソルが痛む両腕を引っ張られながらも次の行動手段を考え始めるが、もう遅かった。

 

 「おや、次はどんな曲芸をお見せしてくれるのでしょうか?」

 

 紐の怪人が一瞬で背後にまわり、ソルの耳元でニコニコ微笑みながら、しかし殺意の籠もった瞳が向けられていた。

 

 「この私こそ、ドクターの手によって造られた怪人なのですよ。お前ごとき格下が、顔も見たことのないドクターを愚弄するなど、おこがましい!」

 

 怒鳴りながら繰り出した拳が、あっけなくソルを殴り飛ばし、血液を滲ませた紐が抜けて行く。

 

 あまりにも高い威力の一撃をモロにもらってしまい、ソルは壁に亀裂を作りながらも途絶えそうな意識をなんとか引っ張って持ち直す。

 

 壁から剥がれる様にして再度立ち上がったソルの近くには、変身した紐の怪人が微笑みながら近づいていた。

 

 「ごふっ・・・な、なんだその力は」

 「これこそ怪人としての本領発揮。フェーズ3と呼ばれるモノですよ、知らなかったのですか?」

 

 紐の怪人がひげを触りながらソルの後ろ髪を引っ張り上げる。

 

 持ち上がった頭部から身体を反らせながら、しなった背中にもう一撃加える。今度は前蹴りを与えて、背骨が折れる音がした。

 

 人体を簡単に蹴っ飛ばす脚力による一撃により、今度はソルが恐怖を覚える事になる。

 

 変身一回しただけでここまで強くなるとは思っていなかったし、ここまでの戦闘力を持っているのは想定外過ぎた。

 

 ヘルブラッククロスに命乞いをしようにも、もはやこの身体では生きて居られるのかさえ不明な所である。

 

 ドクターと呼ばれる存在を馬鹿にしてみた事こそが、ソル・レヴェンテの命を落とすきっかけであり、それほどまでに紐の怪人に取って崇拝されている人物なのだろう。

 

 「な、なんだってこんな事に・・・」

 

 背中を蹴られ吹き飛んだはずが、ソルの正面には無数の紐が張り巡らされ、トランポリンの要領でソルが後方に跳ね返される。

 

 そして後方、元の道に居るのは・・・。

 

 「苦しむ事無く殺して差し上げましょう。そしてドクターの素晴らしさを、あの世でしっかり味わいながら苦しんでください!」

 

 親指を下に向けて暗に示すのは地獄行きを意味したハンドサイン。

 

 「ドクターへの侮辱!それは絶望と後悔、そして地獄の暗示!」

 

 肩の紐を全て振り広げ、両腕からも黒い紐を展開させる。

 

 跳ね返ってきたソル・レヴェンテ全身を紐が絡め取り、折れた背骨を更にバラバラに折っていき、身体を十字に伸ばして苦しめて行く。

 

 「ぐっがが・・・あ、あーしは・・・まだ、舞え、る・・・」

 「いいえ、貴方はここで終わりですよ。ドクターを軽蔑した者のは、いかなる理由があれど死を!」

 

 地獄紐固め・黒十字架。

 

 監獄の大広間の神へと祈る銅像の目の前に、ソルを真っ黒な紐で固めた大きな十字架を建てあげる。

 

 その中に閉じ込められたソルは、全身を引っ張られ、固定させられ、脱臼と骨折のオンパレードによる紐固めの状態のまま、体中に走る痛みによってソルの意識は既に地獄行きとなっていた。

 

 関節と呼ばれる所があるとするならば全てが折られて、外せる所が全部無理やり外され、地獄への祭壇を一つ建てた気分のまま、紐の怪人が元の姿に戻る。

 

 「ドクターを愚弄する者には全員に死を!我々ヘルブラッククロスにはどんな事でも勝利を!ホーッホッホッホッ!」

 

 元の棒人間の姿に戻っても、憤りと興奮は尽きないのか、紐の怪人は両腕を広げながら大きく高笑いをしては、頭上に出来上がった黒い紐による十字架を仰ぎ見てドクター=自分の勝利に再び高笑いをするのであった。

 

 紐の怪人vsソル・レヴェンテ

 

 勝者・紐の怪人

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「わん!」

 

 大きく吠えると、右足を大きく振り上げる。煙がつま先を追いかけて来て、今度はその煙を踏み抜く様にしては右足を鉄の床に押し付ける。

 

 「わん!」

 

 そして今度は反対の左足を横に上げる。こちらもつま先を煙が追いかけるが、それも先程と同じく踏み抜かれて形を無くして、足のまわりを漂う事となる。

 

 「おー!」

 

 今度は両手で握りこぶしを作ると、前かがみとなり、拳を軽く床につける事で、大きな犬歯を見せながらの睨みが生まれる。

 

 腰を深く落としたその姿勢と、両足を大きく開いたその姿は、相撲の構え。

 

 相撲と呼ばれては居るが、どうみてもその構えを取った怪人は、体脂肪が最も少なそうな身体つきをしており、変わりに全身を筋肉で覆い尽くしたかの様な身体をしている。

 

 踏ん張った両足や、強張らせた腕から肩、胸筋には大きな大きなセパレーションが生まれ、そのどこを見ても山脈が如く、そして太く硬く長く強くなったバスキュラリティが浮かび上がっている。

 

 生半可な鍛錬では決してたどり着くことの無い、巨大な筋肉。

 

 身体の細部に宿るまで、この身体が鍛え上げられたモノであると同時に、精神力、膂力、実力、マッスルパワー、性欲、食欲、悪の志。

 

 それら全てが何よりも鍛え上げられた抜群のコンディションと、犬の怪人の強さを見た目だけで体現するには十分な姿と気迫を宿している事が、犬の怪人の目の前に立つチョトツには見えていた。

 

 「チワワ、お前嫌い。なんか弱そう、あと臭そう」

 

 犬の怪人がブーメランパンツのもっこり具合を確かめながら、目の前に立ちふさがるチョトツに向かい唸り声をあげる。

 

 「ブシシシ、特別な能力を持っていない様に見えるが・・・それでも貴様は強いのだろうな。我々とて負けるつもりも無いのだがな」

 「それはチワワも同じ。待ったなしの勝負だ!」

 

 チワワの顔で睨みつけた犬の怪人が、チョトツに向かって吠える。再び吠えた事が二人の中で戦闘の合図となり、お互いに思い切り突進を繰り出す。

 

 「ハッケヨイ・ノコッタ!」

 

 腰をかがめたまま膝と腰の力をそのまま飛び上がる様に使い、前方に突進していくのは犬の怪人。

 

 丸太の如く鍛え上げられたナイスバルクを、犬の力を込めて張り手を繰り出す。

 

 「ウルフドッグオオハリテ!」

 

 ウルフドッグのオーラを見せるこの張り手の攻撃は、ほとんどの場合はただの物理攻撃である。このオーラもただのまやかしに過ぎない上に、チョトツの顔面を捉えてもさほどダメージは入っていない。

 

 しかし犬の怪人には自分の攻撃に手応えがあるのを感じる。

 

 先手を決めたのは犬の怪人。

 

 「ブシシシ。やるな」

 

 次はチョトツが右足からのハイキックを繰り出すが、それは犬の怪人には当たらず、サイドローリングで避けられてしまう。

 

 浮いた身体ががら空きになってしまうが、転がった犬の怪人も同じ様に蹴り技で反撃をする。

 

 犬の怪人が繰り出したローキックに対して、チョトツも体制を整えて蹴り技を足で防ぐ。

 

 お互い浮いた片足のままの状態で、ショートジャブを繰り出し、犬の怪人の右手とチョトツの左手がお互いの心臓をめがけたパンチとなって、後方に跳ね返る。

 

 両者の闘気は十分に感じ取られた短い取っ組み合いが終了し、再び突撃。

 

 犬の怪人のフック、ストレートの拳に上手く身をかがめて回避したチョトツからのローキック、ダブルフックを防御しつつ、襟首を掴んだ犬の怪人。

 

 「喰らえ!シバイヌイッポンゼオイ!」

 

 足も絡めず豪腕による力任せの胴体一本背負投げ。これによりチョトツの身体が浮かされ、硬い鉄の床に投げられてしまう。

 

 「ブシシシ、いいぞ!もっとやってみろ!」

 

 犬の怪人の投げが想像以上の威力だったのか、痛みを感じつつも喜びを見せるチョトツが、その巨体に見合わぬ速度ではね起きると、起きて来た所をすかさず犬の怪人が狙って踵を落としてくる。

 

 「当たるモノか!」

 

 素早くその足を避けると、鉄の硬い床に犬の怪人の踵が深くめりこんで行き、素足とは到底思えない硬さによって、チョトツはなおも驚く。

 

 「ふっ!」

 

 息を吐いて飛び出したチョトツの右フックを受け止めて、前蹴りで距離を離すと、短い助走からジャンピングパンチを繰り出し、チョトツの動きを制限させた。

 

 「アオンッ!」

 

 着地に合わせて犬の怪人の後ろ蹴り、そこからすかさずハイキック、連関腿、フェイントを混ぜた突き出し蹴りを繰り出しては、チョトツの動きをさらに制限させていく。

 

 巨体と筋肉に彩られていても軽やかな身のこなしが、犬の怪人の戦闘力を裏付ける努力の現れでもあった。

 

 「チワワ全力!チワワ全力!」

 「甘い!」

 

 次々と繰り出される蹴り技を全て捌ききったチョトツの反撃のターン。左足を掴み、右足をすくい上げ、そのまま犬の怪人にダウンを取り、チョトツのダウン追い打ちが始まった。

 

 馬乗りにはならず、胸を踏みつけて動けなくなった所に、チョトツの全体重を乗せた拳が、身体全部を使って叩き落された。

 

 犬の怪人の顔面めがけたその拳が、白い優しい毛並みの顔に次々と振り落とされていく。

 

 このまま顔面を叩き潰して、速く監獄から出ないとならないチョトツ達は、ヘルブラッククロスに構っている余裕は正直無い。

 

 ならばこのマウントで勝たないと、次のチャンスが来るかどうかも解らないのだ。

 

 「ぎゃいん!きゃん!わんっ!あおっ!がぶっ!!」

 「ぐっ・・・!」

 

 連続で殴られつつも反撃の機会を伺っていた犬の怪人が、チョトツの拳に噛みつき、深くその歯を食い込ませる。

 

 「がぶがぶおー!」

 

 噛みつきながら下半身を起き上がらせて、チョトツの首に脚を回してから思いっきりチョトツの身体を振り落とす。

 

 「チワワ、お前の手の味嫌い。臭い」

 「ブシッ、オレも貴様の事が嫌いになれそうだぜクソッタレ」

 

 頭を抑えながら立ち上がったチョトツと犬の怪人。

 

 両者再び走り出し、肉弾戦を開始する。

 

 顔を狙ったチョトツの拳を避けて、足払いをする犬の怪人。

 

 足払いを飛んで避けて、左脚の前蹴り、右腕のラリアット。

 

 前蹴りを受け止めて、ラリアットに身をかがめて身体を360℃ターンを決めて、お互いに正面に向き直りつつ、犬の怪人の左フックがチョトツの顎を正確に狙う。

 

 軽く見えてその実かなり重たい犬の怪人のフックが顎に命中した事で、チョトツが脳を揺さぶられてしまい、片膝をついてワンダウン。

 

 「チワワ、敗けない。来い!」

 

 左手で仰ぐ様にすてチョトツを挑発し、チョトツも犬の怪人にラッシュを叩きこもうと、揺れる視界の中で拳を連続で振り出す。

 

 犬の怪人もそれに敗けじと、拳を振り出し、お互いのラッシュのぶつかり合いが始まっていく。

 

 「勝負あったな!犬野郎!同じ体格、同じ戦闘力、同じ拳!ならば勝つのは、猪ベースであるこのオレの方だ!」

 「いいや、同じ条件で戦っているならば勝つのは・・・」

 

 繰り返される超ラッシュの中で、犬の怪人の右手と、チョトツの右手がお互いに引いていき、そして同じ速度で拳が発射され、そしてぶつかって行く。

 

 骨と筋肉のぶつかり合いにおいて、最後に勝負をつけるのは・・・。

 

 「勝つのは!」

 

 犬の怪人の拳がチョトツの拳とぶつかって、その勢いが双方共に止められてしまう。

 

 しかし、犬の怪人にはまだ策があった。

 

 勢いを止められてなお、拳に力を残す最後のパンチが、まだ彼には残っていた。

 

 「拳の!!」

 

 その策は・・・止められた勢いの中で、拳にスクリューを込める事。

 

 特段筋肉意外の特別な能力を持たない犬の怪人が、最後に頼るのは怪人の能力でもフェーズによる成長でもない。

 

 「硬いほうだ!!!」

 

 スクリューが追加された拳がチョトツの右拳の骨を砕き、右へ左へと回転させた拳骨が、犬の怪人の拳が、チョトツの右腕を超えて、顔面へと突きこまれた。

 

 「ぶっしぃ!?」

 「チワワには特別な能力は無いが、これはお前に見せてやる。筋肉膨張!」

 

 顔面を叩き壊されたチョトツの眼の前で、犬の怪人が全身の筋肉を大きく膨れ上げさせる。

 

 「ここまではチワワのフェーズ2・・・そしてここからが!」

 

 大きく筋肉が膨張していき膨れ上がったその身体は、通常2メートル近くある犬の怪人の身体を更に大きく上げて、3メートル程はあろう巨体へと変貌させた。

 

 自分の筋肉操作だけならば犬の怪人フェーズ2のまま。

 

 「ここからがチワワです!フェーズ3!」

 

 先ずは体格で勝った事で、チョトツのボディに2撃拳をお見舞いする。

 

 そうする事で、チョトツが倒れず、まだ立ったままになるからだ。

 

 「見せてやる。チワワの大技。セントバーナード!」

 

 右手で拳を作り、顔より高く上げたその握り方は、この一撃で相手を沈めると言う宣言に近い。

 

 真っ赤なセントバーナードのオーラを纏った右拳が、今にも倒れそうなチョトツの顔面に狙いを定めて、次の瞬間、大振りな溜めから思い切り撃ち抜いた。

 

 「グスタフ!」

 

 踏み込み、殴り出し、打ち抜き。

 

 全てのフォームが綺麗で完璧なその拳が、チョトツの頭部を殴り飛ばして、犬の怪人の新たなスモウの大技・セントバーナードグスタフによって、圧倒的なまでの破壊の一撃を叩き込んだ。

 

 首から上を犬の怪人の拳によって、無くしてしまったチョトツは最期の言葉を告げる事なく、この場を持って絶命した。

 

 「ふーむ・・・本気を出すとコレだからチワワお前が嫌いと言ったんだ」

 

 筋肉膨張が戻らないまま、犬の怪人は倒れたチョトツの身体を見る。

 

 「・・・少し、お腹空いたな。チワワは雑食だからな」

 

 犬の怪人がまだ鮮度が保たれているチョトツ、否猪の肉にかじりつき、生のままそれを思いきりありついた。

 

 肉を噛みちぎる感触、血を飲下す甘さ、骨を噛み砕く美味しさ。

 

 そのどれもが犬の怪人の敗者を喰らうと言う楽しさ、娯楽、食欲処理に繋がり、地獄の厳しさの中で生きる怪人の勝利となった。

 

 「安心しろ、辱める事はしない。チワワ、臭くてもお前は腹いっぱい食べてやる」

 

 肉質の硬い所も、骨の関節も、髄が詰まった血液も全てをたいらげるまで、雑食自称の犬の怪人の晩餐が終わらなかった。

 

 犬の怪人vsチョトツ

 

 勝者・犬の怪人

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 それぞれサン・アンフェールを撃破し、地下に向かう傍らで触手、紐、犬の怪人達が合流を果たす。

 

 お互いに勝利した事は当たり前だと言いつつも、やはり仲間が勝ったと言う事実は嬉しかったのか、三人の怪人がニコニコと微笑んでいる。

 

 きっとここにドクターとギンジが居たら余計に楽しかったかも知れない。

 

 「あっしらって結局全員フェーズ3になれてたんですね」

 

 触手の怪人がひらひらと触手を動かしながら言うと、紐の怪人も犬の怪人も同じく不思議そうに頷いた。

 

 「どうあれ、その辺の詳しい事は紫に調べてもらいましょう。今からやることはたった一つです」

 

 紐の怪人が告げた内容はもう解りきっている。

 

 先日ヘヴンホワイティネスに敗北し、情けない事に逮捕までされた大幹部柏木タツヤの奪還だ。

 

 「チワワ、あいつ嫌い。なんか臭そう」

 「あっし、あいつ嫌い。なんかロリコンっぽい」

 「ふざけた事を言っている場合ではありませんよ、触手さん、犬さん。さっさと下に向かいますよ!」

 

 紐の怪人が焦っているのは、リコニスが余計な事をしないか心配だからだ。下に居るのかは不明だが、とにかく彼女が余計な事をして作戦に何か支障をきたすのでは、この先のヘルブラッククロスの活動にも関わりそうで心配だからだ。

 

 「まったく・・・あの人形は・・・」

 

 紐の怪人がリコニスを人形と呼ぶのは、いつか自分のおもちゃになるからだ。

 

 全ての作戦が終了した暁には、この紐の怪人はリコニスを縛り上げて拘束しては辱める為。故に人形と呼んでいる。

 

 「何をしているのですか!速く行きますよ!」

 

 階段の下層にて、紐の怪人が触手の怪人と犬の怪人を手招きし、雑談を終わらせた二人の怪人が楽しそうに先に進んだ怪人達の下へと急ぐのであった。

 

 

続く    

 

 




お疲れ様です。

今回の監獄襲撃の話しなのですが、全部通してヘルブラッククロスの怪人達の成長がテーマとなるお話となっております。

得に1話から登場している触手の怪人、犬の怪人はただのかませじゃないんだぜ!って事と、まだ生きている!まだ死んでない!ってなるキャラクター達なので、そんな出番の少ない彼らにフォーカスしたお話ともなっています。
全ての章においてほぼ出番のあったリコニスにもその成長がフォーカスされる事にもなっております。

悪役の成長なんて良いから誰が勝ちヒロインなのか教えろ?
それはまだ秘密(話し脱線し続けてすいません)

キャラネタ書きます

触手の怪人
物語の初期から居る怪人。
今回フェーズ3である
メガギガテラペタ・エクサ・ゼッタヨッタテンタクルズを開発。
彼の触手で堕ちない壊れない敗けない女性は今の所居ない。
女王ナメクジの怪人の粘液には触手の怪人のTHE神経毒が入っているのには世界的に有名。

紐の怪人
フェーズ3ではなんと人型になった。
しかし時限性なのかすぐに元の棒人間の姿に戻ってしまう。
リコニスをいつかは自分の人形として遊ぶ予定らしい。

犬の怪人
様々な犬種の中でもミヤコが当時好きだったわんちゃんを使って犬の怪人の構想が練られた。
フェーズ2の能力は筋肉膨張。身体だ大きくなり、筋力も増す。
犬の怪人のちわわも大きくなる。
フェーズ3の能力はセントバーナードのオーラを纏う事で圧倒的な破壊力を一回使用可能になる、破壊の力。使うと空腹に苛まれる。
犬の怪人元々の能力は雑食。生物ならなんでも食べる事が可能。口からの摂取にのみ効力を発揮。食べた怪人や他の生物の最も優れたモノを一つ自分の力に吸収出来る。その事に気がついたのはほぼ最近だったらしい。

・・・

次回はリコニス達と戦闘を開始した龍の怪人達のお話!
彼女達も成長を遂げて悪の志を大きくしていきます!
それではまた次回!!
よかったら感想やいいね、高評価、登録お願いいたします!

またね!
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