この二度目の人生に祝福を!~二柱の女神を添えて~ 作:猿の棍棒
タイトル通り、急展開。
つまり、今まで通り。
他の用事もある、か。
…いやいや、俺は何を期待しているんだ。俺にはめぐみんという人が…今はいないか。
「何にせよ、俺はめぐみん一筋なんだ!」
「…いきなり何言ってるの?そんなの、分かりきってることじゃんか。」
クリスさん、ちょっと怒ってます?
もしかして、
「妬いてんの?」
「そ、そんなわけ……ない…よ…」
どんどんと弱々しくなっていった。あれ?クリスさん?いつもなら、そんなわけない!と全否定してくるのに。なんで顔を下の方に俯かせてんの?
もしかして、まじで、
「妬いてんの?」
「………。」
あらら、下を向いたまま黙っちゃった。どうすんのこれ。
…そうだ!スキルを教えてもらわなきゃ!(責任放棄。)
「クリスー?俺に盗賊スキルを教えてくれるんじゃなかったのかー?」
「……え?」
女神様は難聴らしい。
「だーかーら、俺にスキルを教えるんじゃなかったのか?」
「………あ、あーそういえばそうだったね…。」
アハハ…とクリスが苦笑しながら頬の傷をかく。
もしや、忘れていた、なんてことはないよな?そうだとしたら、逆にすげぇな。
「ごめんね。急に黙っちゃったりして。」
「別に良いよ。そのまま黙ったままだったら…」
「黙ったままだったら、何をしてたの?」
「そりゃあもちろん、物理的にスティー―」
「カズマさん?」
「なんでもないですすいませんでした。」
俺は命の危険を感じたため、何時に無く早口だった。
「よし。これで習得できたかな?」
「ああ。それにしても、久しぶりだなーこのスキルを習得する感覚!これで若返った実感が湧いてくるってもんだな!」
「まだ若返ってる実感湧いてなかったんだね。」
ジャイアントトードを討伐したのは主にクリスだが、一応俺も五匹くらい討伐できた。もしクリスが瀕死の状態にしてくれなければ俺は一匹も討伐できなかっただろうがな。それで、レベルが上がりスキルポイントを五、得た。そしてそのスキルポイントを、『バインド』と『潜伏』に振った。俺といえば、のスキル、『スティール』はどうしたかって?なんかクリスが習得させてくれなかった。理由は、パンツを盗まれるのが嫌だから今はダメ、だそうだ。
…今世では絶対にクズマだのカスマだの、そういうあだ名を付けられないようにしなければ。
さて、スキルも教えてもらったし、さっさと自分の部屋に戻ってもらおうか、と言いたいところだが、その前に聞きたいことがある。
「で、"他の用事"って何だ?」
「…君ってやっぱり、ダクネスが言ってるとおり、容赦ないよね。」
「フッ…それは昔の俺の話だろう?
今の俺は違う。変わったんだ!俺は!」
「変わってないと思うよ。」
「クリス、俺だって変わろうと努力してるんだぞ?」
「別に、変わる必要ないじゃん。君は君なんだからさ。」
「…とにかく、"他の用事"っていうのは何なのかさっさとおしえてくれよ。」
「うーん…後悔するかもよ?」
「後悔するのは慣れてるから安心しろ。」
「……そっか。分かった。」
クリスは何かを決心したらしい。
「ねぇカズマ君。アタシが君と初めて出会ったのは、確か…君にスキルを教えることになって、それで、アタシのパンツを盗んだときだったよね?」
「なんか、すいません。」
「べ、別に謝んなくていいから!そういうつもりで言った訳じゃないから!」
クリスはコホン、と咳払いをすると、続けて言った。
「正直、あのときは君のことを、変態で最低だけど根は優しい人、程度にしか思ってなくて、気に留めてなかったんだ。」
俺を褒めてんのか軽蔑してんのか分かんねぇな、おい。
「でも、君と盗賊団を組むことになって、色んな物を盗んでいくうちに、なんだか楽しくなっちゃってさ。君と義賊活動をするのがアタシの、私の楽しみになっていました。」
盗むのが楽しみだったのか。さすが女神様だな。
「地上でも、天界でも、それを考えることが多くなっていて、良い意味で、暇がなくなったんです。」
なるほど。盗むのが暇潰しになっていたということか。暇潰しのレベルが違うな。さすが女神様だな。
「退屈するのが嫌だなと思う自分がいたんです。普通なら、私が退屈しているのは、世界が平和だということですから、喜ぶべきことなんですけどね…。」
…今更気づいたが、今変な雰囲気じゃね?
どゆこと?一体今何が起こってるの?ていうか何時の間にかクリスがエリス様の姿になっているのだが。
「義賊活動に限らず、貴方と色んなことをしていく内に、どんどんと楽しみが増えていきました。
でも、貴方は歳を取っていき、出来ることも限られてきて、私が少々多忙で貴方と会うことすら出来なくなった頃には、私は憂鬱になっていました。」
そういえば、クリスを見掛けることが少なくなった時があったが、なるほど。あれは多忙で地上に降りることがあまりできなかったからなのか。
なんで多忙になったんだ?とは聞かなかった。どうせアクア絡みだろうからな。
「そして、貴方が人生を全うし天界に来たとき、正直に言ってしまうと私は、喜んでしまっていました…。」
エリス様ヤンデレ説。
「分かってます!人が死んだことを喜ぶなんて、たとえどんな理由があろうとも駄目だと分かってます!分かってたはずなんですが…喜んでしまったんです。」
…女神には女神なりの苦労があるんだな。
「それで、貴方とまた会話が出来ると喜んでいるのも束の間。貴方ともう絶対に会うことが出来ないという現実を突きつけられて、またあんな憂鬱な日々が続くのかと思うと…嫌気が差してくるようで、それでも見送りは笑顔でするつもりだったんですが、やっぱり、どこかぎこちない感じになっていたと思うんです。」
「なるほど。でもまぁそんなこと言われなくても、あのときのエリス様の笑顔は変だったかなんて誰でもすぐに分かりますよ。」
「…私って考えてることが顔に出やすい方ですかね?」
「出やすい方だと思います。そりゃあもう可愛いくらいに。」
「///!?カ、カズマさんはいきなり何を言ってるんですか!?」
照れてる照れてる。やっぱ、これこそがメインヒロインっていう感じだわ。
「それで、あの…真面目な話をしているようで申し訳ないんですけど、早く言いたいこと言って終わらせてくれませんか?俺、眠いんですよ。」
「…やっぱりカズマさんはカズマさんですね。」
どういう意味だよ、おい。
「コホン。私は今まで色んな人と接してきました。だからこそ、なんでしょうかね。何故、カズマさんとのことばかり考えてしまうのか。何故、カズマさんに会えなくなるのが嫌なのか。その理由が分かりませんでした。
でも、今こうして話している内に、その理由が分かった気がするんです。この気持ちが何なのかやっと自覚できた気がするんです。」
「私は…」
エリス様は深呼吸をし、澄んだ青みがかかった目でこちらを見て、
「佐藤和真さん、貴方に…」
こう言う。
「恋をしていると。」
「こ、こい、ですか?あの魚の…」
「それは違う"こい"です。」
ヤバい。どうすればいい?恋?何それ美味しいの?
…ちょっと待ってほしい。一旦落ち着かせてくれ。1日あれば落ち着けると思う。
「あの、その、えっと、な、なんでそんなことを今言う必要が、あったんですか?」
「明日になればパーティー募集をして、めぐみんさんやダクネスが来るのではないか、と思いまして…。それで、この事を伝える機会がなくなるのではないか、と…。」
「あ、あーなるほど!そ、そーゆうことですね!」
……………。
静。それはそれは気まずい空気になった。
「あ、あの!え、えっと、その…。」
どうにか会話を続けようとするも頭がうまく回らず言葉が全く出てこない。
俺が俺自身に悪戦苦闘しているとエリス様から会話を切り出してきた。
「…すいませんでした。」
エリス様はいきなり謝ってきた。そして、続けて、こう言う。
「いきなりこんな事を言われても困るだけですよね…。でも、これが私の気持ちなんです。
結果がどうなろうと私は貴方にこの想いを伝えられただけでも、だけでも………」
エリス様は今にも泣き出しそうだった。
苦しそうだった。
…だけれど、俺は優しくない。俺はエリス様にとどめを刺すようにこう言う。
「…俺には好きな人がいるんです。」
続けてこう言う。
「俺はめぐみんが好きです。めぐみんとはまだこの世界では知り合いですらないけど、俺はとにかくめぐみんが好きで…今の俺がいるのはめぐみんのおかげが大きくて…。
……だから、俺は貴方とは…付き合え、ません…。」
「……そうですよね。貴方がそう答えることは分かっていました。もしそんな風に答えてなければ私は貴方に幻滅していました。
…時間を取らせてすいませんでした。私はもう大丈夫です。…ですから、カズマさん、今日のことはもう…忘れてください。」
エリス様は笑顔だった。
辛そうな笑顔だった。悲しそうな笑顔だった。
平然を装っているその笑顔は…もはや笑顔とは言えない、酷いものだった。
やはりエリス様、貴方にはそんな笑顔は似合わない。
…仕方ない。クズマさんになるしかなさそうだ。
「エリス様、たしかに前世では、俺にはめぐみんという人がいましたが、今はどうですか?この世界のめぐみんは多分俺のことをまだ知らずまだ好きになってもいないんですよ?といっても、俺がめぐみん一筋なのは変わらないんですけどね。」
「…何が、言いたいんですか?」
「俺は今はエリス様のことが好きだけど好きじゃない。だから、俺は今はエリス様を選ばない。
だったら、選ばせるにはどうすればいいか、分かりますよね?そう。俺を、エリス様のことを好きで好きでたまらない奴にすればいいんですよ!」
「…本気で言ってるんですか?」
「半分冗談半分本気。」
「尚更最低ですね。でも…」
「でも?」
「そんなカズマさんを好きになってしまった私が悪いんですがね。」
やっと"笑った"。
「そうだ。お前が悪いんだぞ!俺は全く悪くないんだ!」
「アハハ…相変わらず最低だね。君は。」
エリス様は何時の間にかクリスの姿に戻っていた。
「なんか自己嫌悪に浸りたくなるよ。カズマ君にはめぐみんがいるのにさ。それで、その間に割り込もうだなんてさ。」
「今はまだめぐみんもダクネスはいないぞ。まぁ、明日にはパーティ募集の貼り紙貼って、めぐみんが来ると思うがな。」
「…はぁ、アタシが一番最低だったりするのかな…。」
いつも通りの空気に戻った。さすが俺。伊達に魔王倒してないからな。
「というわけで、カズマ君、改めて、これからよろしく。そして…」
「アタシに心をスティールされないように気をつけなよ!」
「もしスティールされてもすぐに俺の心をスティールし返してやるから、安心しろよ!」
プッ、アハハ、と笑う俺とクリス。
…やっぱり俺はこういう感じがすきだな。
月明かりは俺とクリスを照らしていた。
彼は優しかった。
余りにも自分勝手で我儘なアタシを、私を、許してくれた。
彼はこう言った。
『俺をエリス様のことが好きで好きでたまらない奴にすればいいんですよ!』と。
あの発言は最低としか言いようがないが、真意は私を元気付けることにあったのかもしれない。もしそうだとしたら、彼に気を遣わせたということになる。
やはり私は彼を困らせていたようだ。
私は私のみっともなさを痛感した。
そして、彼の優しさにつけ込んでいる私の醜さを改めて認識した。
…女神としてこれでいいのだろうか。
…特定の人物を特別扱いしていいのだろうか。
…平等という名の下に私はいるのではないだろうか。
私は思いに耽た。そして、結論に至った。
私は、私が思っている以上に、最低なのだ、と、そう結論付けて考えることをやめた。
ふと、窓越しの月を見上げる。
…彼は今何をしているだろう。
眠いと言っていたからもう寝ているだろうか。それとも、まだ起きてるだろうか。
明日どんな顔で話せばいいのだろう。だが、そんな心配と不安とは裏腹に、彼に会いたい、彼を近くに感じていたい、という思いが募る。私は彼のことで頭がいっぱいになっていた。ここまで私が彼を慕っていたとは予想外だった。まさか、初対面で、ぱ、パンツを盗んだ人を好きになることになるとは誰が予想しているというのだろう。
きっと、私にとって彼はなくてはならない存在になっているのだろう。
好きで好きでたまらない人になっているのだろう。
だったら私のできることはただ一つ。
私の思い出を彼との思い出で紡ぐ。ただそれだけである。
…さて、これからどうなってしまうでしょうかね。
「今日の事は、内緒ですよ。」
私は1人呟き決心する。
今夜の月はより一層輝いて見えた
投稿遅れてすいませんでした。
エリス様視点追加しました。