元深淵の監視者だった褪せ人が四方世界入り   作:古鉄の夜

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色々考えている内に筆が乗ってしまい、書き上がってしまいました。


第一話 転移そして遭遇

 ……落ちた葉が伝えている。

 

 エルデの王を目指し、しかし、決して名誉や栄光に拘泥する事なく戦い抜き、新たな女王を誕生させた誇り高き狼の戦鬼。その末裔たる褪せ人。

 

 霧の彼方、我らの故郷、狭間の地で。

 

 その治世は、呼ばれるだろう。栄えの時代と――

 

 しかし、その褪せ人が狭間の地に至るまでどんな生を歩んできたのか。それは女王と褪せ人に近しい者達しか知らないという。

 かの褪せ人。その真の故郷である国の名はファラン。属するは「ファランの不死隊」、そして「深淵の監視者」と呼ばれていた事。それがリムグレイブに居を構えるカーレという商人の話から僅かに知られているのみである……

 

 

 

 

 

「ぐぁっ!?」

「うひゃあっ!?」

 

 鬱蒼と草木が生い茂る森の中に突如、金属鎧と肉が地面に打ちつけられた鈍い音が周囲に響いた。続いて響く二つの悲鳴。片方は鎧を纏った剣士と思しき男。その背には鞘に納められた大剣、「クレイモア」を背負っている。もう一人は人間ではない。人間並みの体格を持ったネズミの亜人だ。服を身に付けており、地面に投げ出された際に脱げてしまったのか、帽子が彼の近くに転がっていた。

 

「ッッ……き、貴公。無事かね? な、なにがどうしたというのだ。急に霊馬から投げ出されるとは……」

「あたた……は、はい。我が王(マイロード)。オイラは大丈夫です。そんなに痛い所もありません」

「そうか、良かった。しかしあれは一体なんだったのだろうか? 転送門を潜る時と似たような感覚だったが……」

 

 剣士、いや、彼が元いた世界、狭間の地において狼の戦鬼と呼ばれた褪せ人。その末裔たる男。始祖バルグラムが纏っていたものと同じ鎧に身を包んだ褪せ人は周囲を見回した。兜の後ろに伸びる白狼の鬣が揺れている。緑の森が視界一杯に広がっている。

 

「リムグレイブの森の何処かか……? ともあれ、見晴らしのいい場所に出て現在地を確認してみるか」

 

 褪せ人は指に嵌められた柔らかい金の指輪、「霊馬の呼び笛」を吹き鳴らした。身体が浮き上がる感覚。同時に彼の相棒たる駿馬が虚空から現れた。霊馬に跨った褪せ人は己の従者である亜人に声を掛けた。

 

「ひとまず、見覚えのある場所まで移動して地図を確認してみよう。乗るんだ。お針子!」

「は、はい! 我が王!」

 

 お針子が霊馬に跨った自分の背にしがみついたのを確認した褪せ人は森を抜ける道を探すべく霊馬をゆっくりと前進させていく。

 ……しかし、褪せ人は気付いていない。お針子である亜人もまた気付いていない。これまで■■■と必ず名前で呼んでいた彼の事を「お針子」と役職名で呼んでいる事に、それに全く違和感を感じていない事が。

 何故ならば彼らが踏み入れたこの地は四方世界。神々の遊戯場。そこに住む生き物達は神の駒として扱われ、賽子を投げて出た目の数によって、その者達の運命が決まっていく世界なのだから……

 

 

 

 

 

 霊馬を緩く走らせつつ、周囲の風景を眺めていた褪せ人は違和感に気付き始めていた。

 

「おかしい……こんな森はリムグレイブに存在していなかったはずだ。いや、それどころか生息している虫や動物まで異なっている。どういう事だ?」

「オイラもそう思います。草木の匂いも全然違いますし……もしかして、ここはオイラ達の知らない土地なんじゃないでしょうか?」

 

 お針子の言葉にまさか自分達はとんでもない所に来てしまったのか? と褪せ人が焦りを胸に抱き始めたその時、霊馬がピクリと耳を動かし、鼻を軽く鳴らした。どうした? と褪せ人が霊馬に尋ねたその時、草木の匂いとは異なるものが混じっている事に気付いた。霊馬が顔を向けている方角。耳に手を当てながら其方から響いてくる音をよく聞いてみた。

 ――鉄臭い、これまでの旅路で嫌という程、嗅いできた匂い。血臭だ。そして金属と金属が打ち合う音。これは戦闘音だろう。

 

「お針子! しっかりと捕まっていろ。この先で誰かが戦っている!」

「は、はい! わかりましたぁっ!」

 

 褪せ人が霊馬の胴を蹴る。霊馬が激しく嘶き、次の瞬間、全力の疾走を開始した。目的地は音の発信源と思しき場所だ。褪せ人は背負った鞘から愛剣であるクレイモアを抜き放っていた。

 

 森を抜けた先にある雑草が生えた広場。そこで広がる光景に褪せ人は兜の奥の目を見開いた。

 仰向けに押し倒されて悲鳴を上げる半森人(ハーフエルフ)の女性。その上に跨る醜悪な小鬼(ゴブリン)が喜悦の叫びを上げて彼女の衣服を剥ごうとしているではないか!

 

「やめろおぉぉぉーーーッ!!」

「GOB?」

 

 広場に怒号が響き渡る。ゴブリンは思わずそちらに顔を向けてしまう。その目前にクレイモアの剣先が迫る。ゴブリンの顔面が縦に立ち割られ、女性の上から吹き飛ばされた。褪せ人は霊馬を走らせながら後ろの女性を見やった。まだ、身じろぎしているのだから致命傷ではないのだろう。さっと広場を見渡せば、数匹のゴブリンに囲まれて片膝を突きながらグレートアックスを振るっている男が一人、見える。顎に豊かな口髭を蓄えた鎧を着込んだ鉱人(ドワーフ)戦士が必死に応戦している。褪せ人は戦士の周囲を取り囲んでいるゴブリンの元へ霊馬を走らせる。鉱人を包囲しているゴブリン共に容赦なく、クレイモアを振るい斬り倒していく。

 

「援軍かの……?」

「貴公! 無事かね!? 怪我の程度は?」

「流石に平気とは言いがたいのう。足をやられてしもうたわい……」

 

 荒々しい息遣いの中、くたびれきった声音で隣に来た馬上の褪せ人に鉱人は答える。左足の脹脛に酷い傷がある。どくどくと流れ落ちる血液を見た褪せ人は緊急性が高い傷だと判断。残存するゴブリン共はこちらを窺がっている。突如として乱入し、仲間のゴブリンを薙ぎ倒した褪せ人に委縮している様だ。ならば今の内。褪せ人は即座にクレイモアを鞘に納めると懐から黄金に輝く幻影の聖印――「黄金樹の聖印」を手に握りしめて、強く祈りを捧げる。

 

 祈祷「黄金樹の回復」――古い黄金樹に纏わる祈祷が発動した。大地に浮かび上がる黄金樹の紋章(クレスト)。黄金の残滓を引く無数の小さな光が周囲を旋回する。そして鉱人の傷がみるみる治癒されていく。

 

「むおっ!? これは如何なる奇跡じゃ!? 傷がすっかり治ってしもうた! お主、何処(いずこ)の国の聖騎士じゃったのか!?」

「貴公、あそこで倒れている娘を守ってやってはくれまいか? この異形共の始末は私が引き受けよう。お針子、馬から降りるぞ。私の従者の護衛も頼む!」

「はい! 我が王!」

 

 霊馬からひらりと地上に降りる二人。霊馬は出現した時と同様、風に溶ける様にその姿を消してしまう。その光景に鉱人の目が見開かれる。今、目の前で起きた事が信じられない。ベテランの神官と見紛うばかりのあの見事な回復の奇跡。そして姿を消したあの馬。この二人は一体全体、何者なのだ?

 

「さぁ、あんた! 驚くのは後にして! 今は我が王の言う通り、あの娘さんを守ってやらないと!」

「お、おお。そうじゃな!」

 

 お針子の言葉に気を取り直した鉱人は急ぎ、同じ一党(パーティ)のメンバーであった半森人の野伏の元に走った。ゴブリンの集団に無数の火球を放り込んでいる褪せ人を横目で確認しながら。

 

 祈祷「火よ、降り注げ」――ゴブリンの群れに駆け寄った褪せ人は火の巨人の監視者たる司教らが使う、無数の火球を投擲する祈祷を解き放った。火球をまともに喰らい、耳障りな喚き声を上げながらゴブリンが次々と絶命していく。

 褪せ人は数が減り、動きが一番鈍い三匹のゴブリン共に目を付ける(ターゲットロック)。聖印を懐に入れ、背中からクレイモアを抜き放つ。戦技「猟犬のステップ」(踏み込み)で一気に肉薄する。余りの疾さに褪せ人の姿が一瞬、掻き消えて見えた。一匹目のゴブリンに踏み込んだ勢いのまま、横薙ぎの一閃を叩き込む。上半身と下半身が分断されたゴブリンを尻目に二匹目のゴブリンにクレイモアによる刺突(強攻撃)をお見舞いする。胴の中心を穿たれて息絶えるゴブリン。

 三匹目がやっと反応したのか、剣からゴブリンの死体を振るい落とした褪せ人に向かって、手にした粗末な手斧で斬り掛かってきた。

褪せ人は左手に握っていた「双鳥のカイトシールド」で受け止める。クレイモアの間合いの内側に入り込まれた。無理に攻撃に移れば振りの遅い大剣では逆にこちらがダメージを受けるだろう。褪せ人は冷静にゴブリンの手斧による連撃を防いでいく。一撃、二撃、三撃。ゴブリンが手斧を縦に振り落ろし、地面に手斧が埋まってしまった。

 その隙に攻撃を受けて踏ん張った反動を利用して大剣を振り下ろした。(ガードカウンター)ゴブリンを縦一文字に両断する。

 

「GGGI!」

「GOBRGOBGGG……!」

 

 火球を受けた混乱から立ち直り始めた他のゴブリンが褪せ人に殺到し始めた。もっともそれは仲間を殺された怒りではなく、たった一人の人間にいいようにやられた事に対する苛立ちの発露だろう。仲間の死体を石ころの如く蹴とばしてこちらに迫ってくる餓鬼共に褪せ人は冷めた目を向けていた。

 クレイモアのリーチの長さを活かした横薙ぎの連撃で複数のゴブリンを纏めて斬り飛ばしていく。スタミナが尽きる前に一旦、バックステップを踏み、距離を取る。

 褪せ人は息を整えながら(スタミナ回復)群れの動向を伺う。群れの後ろにいた何匹かのゴブリンが弓に矢を番えて褪せ人に次々と矢を射掛けてきた。後方からの援護射撃にこれ幸いと、手斧や短刀を持ったゴブリン共も褪せ人に攻撃を仕掛けてきた。接近してくる奴と遠距離から矢を射掛けてくるゴブリン。同時に始末するには……

 褪せ人は左手のカイトシールドを一度、己のルーンに還すと、黄金に輝く大剣へと持ち替えた。

 

 「黄金律の大剣」――かつて褪せ人がエルデの王を目指した旅路の果て。エルデンリングに見える為の最後の試練として立ちはだかってきた赤髪の英雄「黄金律、ラダゴン」。黄金律原理主義を掲げたラダゴンがその象徴として、エルデンリングを模して鍛え上げた「伝説の武器」の一つである。

 

 的を絞らせないように、何度か猟犬のステップを挟んだ褪せ人は射手のゴブリンを《間合い》の内に入れた事を確認する。クレイモアを背の鞘に納めて黄金律の大剣を両手に持ち、捧げるが如く天に突き上げる。そして右手に握った大剣の切っ先は天を突いたまま、腕を右横に流しながら肩と水平になる位置で構える。同時に足を揃え、独特の敬礼を行う。しかし、褪せ人のその隙だらけの仕草にしめたと感じたゴブリンが喜び勇んでその手に持った武器で飛び掛かっていく。すぐに不用意な行動を取ったツケを支払わされる事になるとも知らずに。

 戦技「黄金律掲揚」――敬礼と共に掲揚した黄金律の大剣。褪せ人の身体に一瞬、逆三角形の黄金律の紋章が浮かび上がる。そして刀身から黄金の炸裂が放たれ、群がるゴブリン達が消し飛んでいく。黄金の波動を滾らせた刀身を一度頭上で旋回させながら振り回し、更に、一歩踏み込んで横薙ぎの一閃として前方の弓矢持ちのゴブリンへと解き放つ。その斬撃は黄金の光波となり、ゴブリンに向けて飛来していく。弓矢持ちと光波の進路上にいたゴブリン共を纏めて上下に斬断し、その身をもろとも塵に還していった――

 

 

 

 

 

 その様子を鉱人と、そして鉱人とお針子に助け起こされた半森人は呆然と見ていた。本当になんなのだ、あの剣士は。火球を無数にぶっ放すわ、姿を消しながら動くわ、挙句の果てに黄金に輝く大剣から光の斬撃波を放つわ……まさか、伝説の勇者がこんな辺境に現れたとでもいうのか?

 

「み、見事すぎて……言葉が見つからんわい」

「凄すぎるよ……誰なの、あの人……」

 

 最後のゴブリンをクレイモアと黄金律の大剣の二刀流で斬り捨てた褪せ人。ゆっくりと周囲を見回して、残存する敵は無いと確認。振り返ると三人の元に歩いてやってくる。鉱人と半森人は褪せ人を前にしてなんと口にすべきか悩んでいた。




ちなみにこの褪せ人のステータスはレベル300程度、筋力寄りの上質信仰戦士マンとなっています。神秘もある程度は上げているとお考えください……

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