異世界に転移させられたので、いろんな人(外)に恩を売って生きていく   作:おれは

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十恩目『一生そのままでいいんじゃないかしら』

 

 

 数十分ほど歩くと、鬱蒼と生い茂る木々の中で、少しだけ開けた場所に出た。その中心に、細い松明の火で両脇を彩られた、ダンジョンの入口があった。

 

 

「うわ……脳がバグる」

 

 人一人がちょうど通るサイズの穴。右に反れようが左に反れようが、ぽっかりと空いた黒い空洞はこちらを見つめている。

 物理法則がしっかり崩壊しているようで、入口は本当に"穴"としか形容できない様相で存在しているし《ジハマリ第二ダンジョン》《此先無法也(コノサキムホウナリ)》という二枚の立て札が並んでいなければ、慌てて逃げ帰るところだった。

 

 あっても逃げ帰りたいけど。

 

「さあ、入るわよ!」

 

「いやいやいや、絶対イヤですよ! この字が読めないんですか!? もう明らかに無法地帯じゃないですか! 身ぐるみどころか命まで取られますよ!?」

 

「そんなの承知の上よ。多くを得るためには、多くを失う覚悟がいるからね」

 

「ほんとにできてんのかなあ……」

 

 世間知らずのお嬢様の世迷言にしか聞こえない。いや、出奔した以上、失うものがない無敵の人なのか。

 

「あ、あくまで自己責任であることを念押しする看板なので、モンスターに負けたりしない限りは、死なないはずです……たぶん」

 

「それで死んだら問題だから言ってるんですよね」

 

 命って奴は一つしかないんですよ? いや、異世界転移したり邪神を連れ歩いたりしながら言うことじゃないかもだけど。でも痛いのも辛いのも嫌だからな。

 

「意気地がないですね」

 

 ヴィラが大きく嘆息する。やれやれとでも言いたげな大げさなジェスチャーを取り、

 

「まあ、一生そのままでいいんじゃないかしら? ()()()()、誰も救えないままの貴方でいれば」

 

「………………」

 

 いつも以上に嘲笑うような表情をしながら、邪神はそう言った。あまりにも悪意が含まれた言い方に、流石に反論しようとしたが。そんな資格などないことに気づいて、俯くことしかできなかった。

 

「……わかりました、行きましょう。ただし、命の危険を感じたら絶対帰りますからね」

 

「ええ、勿論じゃない。命あっての物種でしょう?」

 

 命の重みを知らなさそうな令嬢は、そう言って笑った。

 

 

 *

 

 

 入口を抜けると、薄暗い石畳の迷宮に出た。学校の廊下程度の道幅で、壁に等間隔に置かれた松明のおかげで、何とか視界は確保されている。ちょっとマイクラチックだな。

 

「ん、アレ? さっきの入口は?」

 

「勿論消えたわよ。入る度に階層のランダムな場所に転送されるのがダンジョンでしょ?」

 

「いや、さも当然みたいに言われても困るんですけど」

 

 昔遊んでいたローグライクゲームを思い出した。入る度に構造も、敵・アイテムの湧き方も変わる不思議のダンジョン。昔は『ゲームだから』で納得していたが、説明の通り、この世界のダンジョンが魔力で形を変える生き物のようなモノなら、それこそ納得せざるを得ない。

 

「あ、明かりがついてるのは既に誰かが通った後の道ですね。そういう場所でもお宝は再生成されますが、狙い目だとされているのは──」

 

「あっちよ!」

 

 クリルが元気よく指差して向かったのは、一寸先も見えない暗闇。恐怖を感じながらも、一人にする訳にはいかないので、ずんずんと歩く彼女に着いていく。

 ある程度等間隔で、通った道の壁にある松明が点灯していく。前を歩いてくれるのは頼もしいような、何かがあった時やばいような──そんな不安は、唐突に回収される。

 

「グオオオオオ!!!」

 

「うわああああ!?!?」

 

 点灯した瞬間、目の前に帯電したヴェロキラプトルみたいなモンスターが飛び出してきた。え、どっから出てきたの!? 

 

狼炎(ウルファイア)!」

 

 己に向けられた牙に対して、クリルは狼の顔を象った炎を飛ばして迎撃する。が、これまでのモンスターとは格が違うらしく、吹っ飛ばされつつもすぐに起き上がり、ヴェロキラプトルはこちらを睨む。

 

「グルルルル……ガアアアアア!!!!」

 

「うるさっ!!」

 

 反響する雄叫びに思わず耳を塞ぐ。水場から上がった直後みたいに鼓膜に膜が張ったような感覚。

 鈍っていた聴力が戻ってくると同時に、どこからか足音が近づいてくるのがわかった。

 

「まさか……!」

 

 ドッドッドッ、と数え切れないくらいの足音が響く。気づけば、狭い通路はヴェロキラプトルの群れに囲まれていた。普通に大ピンチじゃない?

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