異世界に転移させられたので、いろんな人(外)に恩を売って生きていく   作:おれは

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三恩目『これはなかなか』

 

 

「おー、これは……」

 

優雅な馬車の旅(壊れてボロボロだし馬じゃなくて狼に引かせたけど)を終え、僕たちは無事に近隣の町まで辿り着いた。煉瓦や石造りの街並みは、誰もの心の中にある中世ヨーロッパ像そのもので、つまるところテンプレートなファンタジー世界のようだった。

 

「とりあえず、どうしましょうか」

 

「クリルの家に身代金の要求でもしたらどう? 何をするにもお金は入り用でしょう」

 

「受け渡しのときに絶対メンドクサイことになるじゃない! というかアタシは、あいつらともう関わりたくないのよ!」

 

「まあ僕も、異世界(ここ)に来て早々犯罪者になりたくはないので、それはイヤですね」

 

あくまで口実のままがいい。なるべく揉め事はごめんだし。

 

「でもお金の問題はありますよね、僕たち一文無しですし」

 

「あ、わたし多少ならありますよ! きゃっ!?」

 

メイリュが鎧の中から取り出したのは、大きく膨らんだがま口財布である。しかし中身を見せようと開いた瞬間、勢いよく小銭がぶちまけられた。

 

「すすす、すみません〜!!」

 

「もう、何やってるのよ」

 

「慌てなくていいよ」

 

呆れたようなクリルと二人で小銭を拾う。どこ吹く風の女神は流石だと思う。メイリュはその大きな鎧のせいか、しゃがむのが大変なようだった。

 

「はい、これ」

 

「ありがとうございます〜!」

 

小銭を返すとピロン、と音が響いた。【親切:1000】の表示とともに、恩が貯まった。え、いまので二分の一誘拐分貯まんの?

 

「お礼にごはんでも奢らせてくださいっ!」

 

「あら、いいですね。丁度小腹が空いてきたところです」

 

「それはよかったです! この辺りはチーズを使った料理が有名なんですよ〜」

 

一番何もしてないヴィラが、厚意に秒で乗っかった。とはいえお腹が空いていたのは事実なので、ここは甘えることにする。

 

 

「おまたせしましたわ」

 

「ありがとうございます」

 

黒と白のツートンカラーの制服に身を包んだお上品そうな店員さんが、焼きたてほやほやといった様子の料理を持ってきた。たぶんピザみたいな物だと思う。チーズがたっぷり乗せられたソレは、赤や緑の野菜で彩られており、こんなのもう不味い訳がない。

 

「いただきます」

 

手を合わせて口元へと運ぶ。熱でとろけたチーズの伸びと芳醇な味わいが堪らない。野菜の食感がいいアクセントになっている。

 

「ふむ、まあ、これはなかなか……」

 

「ええ、庶民の食べ物にしては、上等……」

 

女神とお嬢様が、動揺を示すような片言で料理を褒めている。たぶん、めちゃくちゃ美味しかったのだと思う。

 

「気に入ってもらえて何よりです! わたし、このピジャがとても好きなんですよ〜、特にここのはチーズが自家製だからとっても美味しくて!」

 

「それはマジでわかるんですけど……それ、食べづらくないんですか?」

 

メイリュは微かに兜を上げて、ピザ──もといピジャをもぐもぐ食べている。が、本当にわずかにしか上げないしそのペースが異常なので、傍から見ると兜の中にピザが吸い込まれているようにしか見えない。

 

「慣れてるので、あまり気にならないですね」

 

「メイリュは吸血鬼でね、日光に弱いからいつも鎧を着てるのよ」

 

「そ、そうなんですね」

 

従者で丁寧でニンニクの効いたマルゲリータっぽいピザが好物の吸血鬼とは。まあ、異世界だから吸血鬼の苦手な物も違うのかもしれないけど。

 

「すいませーん、ピジャチーズ大盛りでおかわりお願いします〜」

 

「大変申し訳ございませんわ、先程のピジャが最後でして……」

 

「え〜〜〜!」

 

「生地や野菜はあるのですが、チーズを作るための材料が足らないのです。定期便で届くのですが、ここ数日、隣町との境にモンスターの群れが居座っていて……都のギルドに依頼してはいるのですが、まだ到着に時間がかかるようで」

 

「そ、そんなぁ〜!」

 

メイリュの鎧が悲しげにガチャリと鳴った。それを見て、閃いたとばかりにヴィラが手を叩く。

 

「ならつまり、モンスターを退ければピザは作れるのですね?」

 

「ええ。多少お時間はいただきますが……」

 

「なるほど、わかりました。それでは、腹ごなしに少し動いてきましょう」

 

「え、もしかして僕たちで一狩り行くってことですか!?」

 

「何か問題でも?」

 

問題は当然あるだろう。依頼が通ってるなら、ギルドとやらのメンツが潰れるし。

あとシンプルに、危ない。

 

「大丈夫よ、アタシ強いし」

 

「ちょ、ちょっと怖いですが、おいしいピジャのためなら……!」

 

めちゃくちゃ行く流れになっている。困ったことになったなと嘆息すれば、耳元で邪神が「ここで動けば恩、売れますよ?」と囁いてきた。

 

「いや、別にそんなことしたいわけじゃないですけど……まあ、悪いことするわけでもないですし、行きますか」

 

「気をつけてくださいませ~」

 

笑顔で手を振る店員さんを背に、街境の森の方へと向かった。

 

 

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