異世界に転移させられたので、いろんな人(外)に恩を売って生きていく 作:おれは
昼間の疲れもあってすぐに消灯し、静かに目を閉じた……ところまではよかったのだが、すぐさま障害が訪れることになる。
「すぴー……すぴー……」
第一の障害、令嬢の寝息。これはまあ、気になるといっても『この子こんなかわいい感じで寝るんだ』という動揺が大きいだけなので、そこまでではない。
「不敬ですよ!」
「ちょ、ヴィラさん。いくらなんでも寝てる人に……」
「私を誰だと思っているのですか! 早く貢ぎ物を……ぐう」
「あんたも寝てるんかい」
第二の試練、邪神の寝言。夢の中でまで偉そうとは恐れ入る。
彼女の寝言もやかましかったものの、少しすれば収まってきたのでまだ赦せた。
そして訪れた最後の関門。
「んんー…………」
ガチャガチャガチャ! と、喧しい音が絶えず部屋に響く。それは鉄同士がぶつかり合う音ーー即ち甲冑が擦れる音であり、メイリュが身じろぎして寝返りを打つ音に他ならなかった。
「いや寝相悪っ!!」
ほぼ絶え間なく聞こえてくる音に、思わず声を上げて突っ込んだ。隣を見れば、小さく唸りながら、あっちへ行ったりこっちへ行ったりするメイリュの姿がある。
少し考えたけど、恐らく寝相が悪いと言うよりは寝苦しいんだと思う。そりゃあそんな甲冑着て寝たら苦しいだろうな。いま一番苦しんでるのは、寝たくても寝られない僕だけど。
「ええ、ですから賑やかで楽しそうだな、と思いまして」
「楽しくなーーーい!」
自分でもわかるくらい目に隈ができてしまった。絶対今後は別室で寝る。何が何でも。
「ということで、こちら朝食でございます。パンのおかわりはカウンターにございますので、お好きにお願いします。食器もそちらに片付けて下さい」
「はーい」
宿の人が厨房の方に消えてから「自分で下げなきゃいけないなんて、客に対してなんて不義理な宿なのかしら」とクリルが鼻息を荒くして言った。
「そ、そういったところでコストカットしているからこそ、このお値段で泊まれるのですよ。お嬢様はご存じないかもしれませんが」
「ふん、メイリュの癖にナマイキ言うじゃない。あーあ、こんなことなら実家から宝石の一つや二つくすねて家出してくればよかったわ」
「今からでも身代金を要求するなら、私は協力しますわよ?」
「異世界に来て早々犯罪の片棒を担ぎたくはないなあ」
いや、名目上は今も誘拐ってことになってるんだっけ。世間体は既に最悪だった。
「まあでも、やっぱり金銭の問題はどうにか解決したいですよね。まだすべては把握できてないですけど、宿代とかピジャ代とかから算出した感じ……昨日稼いだ分だけだと、三日も持ちそうにないですよね」
「き、切り詰めれば一週間くらいはいけるかと……」
「はあ? これよりひどい生活をそんなに続けなきゃいけないの!?」
「私も今日ので限界だったから、明日にはどうにかしたいわ。貴女たち、あまりにも五月蠅すぎるわよ」
「それはこっちのセリフ!」
「まあまあまあまあ……」
一番キレたい僕が堪えてるんだから、全員喧嘩しないでほしい。本当にマジで。
「この世界に来たばかりで本当に右も左もわかんないんですけど、戸籍ないと働けないとかそういう制度じゃないですよね?」
「身分の証明ってことかしら? それだったら一度ギルドに行って魔力を登録すればいいわ」
つまり指紋認証とかマイナンバーみたいな感じか。
クリルの説明によるとギルド会員というのは要は派遣社員とか日雇い労働者みたいなものらしく、仕事を斡旋してもらって働くこともできるらしい。
「でもそれ、魔力で個人登録するってことは、クリルさんの実家にバレたりしない?」
「ギ、ギルドへの登録は義務じゃないので、一定以上のーー雇われるのではなくて雇う側の貴族の方たちは、登録してないことも多いんです。クリル様もそうなので、姓さえ隠せばどうにかなるかと」
「最悪変装魔法とかで誤魔化せるし、何も問題ないわ。癪だけどね」
「じゃあ、とりあえず今日はギルドに向かうということで」
話が一段落したので、そろそろ朝ご飯を食べようとパンを齧る。味は悪くないがパサパサで固く、白米が欲しくなってしまった。