僕は彼女の奴隷だそうな   作:ゴズ

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周知となる秘密

 メグの日用品が届くのは早くても明日。

 姉さんの服を借りたかったけど、一枚残らず向こうに持っていった様でクローゼットはもぬけの空だったから、必然的に僕の服を着てもらうことになった。

 唯一助かったのは、下着を数着持参していたことだ。体育服と共に入れていたらしい。

 サイズが大きいから腕は袖に隠れていて、ミニスカートみたいになっている…………何も考えて無いよホントだよ?

 まあ、僕だって健全な高校男児だからね、メグみたいな可愛い子がシャツ一枚しか着てない様に見えれば、そういうことを想像しても責められまい。えぇ、考えましたとも。階段を降りてくる時から考えてましたとも。

「じゃ、まず何処になにがあるのか、簡単に説明するから」

「うん」

 玄関に立ち、メグが頷いたことを確認してさっき彼女が降りてきた階段を指す。

「この上が、僕とメグの部屋になってる二階。後二つある部屋の内一つは物置で、もう一つは家族の思い出って言うか、僕と姉さんが小さい頃の写真とかそういうのが保管されてる。どっちも鍵は掛かってないけど、物置の方は結構ごちゃごちゃしてて危ないから、僕がいない時は入らない様に」

「そんなに?」

「姉さんの衝動買いとか、父さん母さんが送ってくる不可思議な置物とか、そういう物で溢れてる」

「……分かった」

 今の説明で分かる通り、僕とメグは部屋を共用することになった。

 一階には父さんと母さんの部屋があるにはあるけど、今は使ってない仕事関係の物とかが置いてある以上、勝手に弄ることは出来ない。聞いて許可を貰っても、何をどこにやったのかきっと分からなくなるから、今のままにしておく方が良い。

「次にこっちが、リビングとキッチン」

 さっき二人で話をし、一緒に作った夕飯を食べた所だ。

 メグが作ったから揚げ美味かったな~……。

「アキラくん、涎」

「おっと……大丈夫か?」

「うん、垂れてない」

 さっき食べたばかりなのにまた食べたくなって来たな。

「んで次」

 階段横の通路、その奥を指す。

「正面に見えるのが御手洗い。そっちが風呂。今から入ってくるけど、一通り見てるから大丈夫だよな?」

「うん」

「今日からお前の家でもあるんだし、好きにしてて良いから。じゃ」

「アキラくん!」

 階段の三段目に足を掛けた所で名を呼ばれ振り返る。

「どした?」

「えっと……ふ、不束者ですが、これから、よ、よろしくお願いしますっ!」

 結婚した訳でもあるまいに。

 けど、見ていて微笑ましい。

 階段を降り、メグの頭に手を載せる。

「こちらこそ。よろしくな、メグ」

 ぽふぽふと軽く叩きながら言い、階段を上がり部屋へ。

 後ろからはドタドタボフン! と言う、コミカルな音が聞こえた。

 着替えを取って風呂に向かい、ついでにリビングを覗くと、メグはソファの上でクッションに顔を埋め足をぱたぱたとさせていた。

 とりあえず、早く服が届いてくれると有難い。

 脱いだ服を洗濯機に入れ、スイッチを押す。

 垢を落として湯船を堪能した後、栓を抜いて上がり服を着てリビングへ。

 テレビを見ている様で、お笑い芸人が司会をしているバラエティー番組が流れていた。

 メグの姿は見えないけど、多分横になっているんだろう。それか部屋、もしくは御手洗い。

 冷蔵庫からコーラを取り出し、頭を拭きながらソファに近付くと、メグは横になっていた……というか寝ていた。

「ふむ」

 意味も無く頷き、プルタブを引いて一気に煽ると、冷えた炭酸が火照った体に良い刺激を与えてくれた。

 息を吐いて、腰を下ろす。

 姿勢を変えた結果眠ったのか、メグの頭は僕の方を向いていた。

 テレビからは、賑やかな声が聞こえてくる。

「何が起こるか分からないもんだね……」

「ん……ぅ」

 起こしたかな?

 呟きながら頭を撫でると少し身動ぎしたからそう思ったけど、また寝息を立て始めた。

 メグはイギリスから飛行機でこっちに来て、そのまま学校に向かったと言っていた。長時間飛行の際に眠っていたかも知れないけど、その後に学校と言うのは、僕等の年齢では厳しい所があるだろうから、この時間に眠ってしまうのも当然かも知れない。

 と言っても十時だから、この時間に眠っている人だって多くいるだろう。

 中学までは、僕自身そうだったし。

 ……このままだと風邪を引きかねないし、運んだ方が良いか。

 テレビを消して、出来るだけそっとメグを抱き上げる。

 普通に抱っこなんて出来ないし、おんぶも出来ない訳だから、どうしてもお姫様抱っこになってしまったけど、仕方ないだろう。

 階段さえ気を付けて上がれば、後はベッドに寝かせるだけだし。

 普段の倍くらい時間を掛けて階段を上がり、二段ベッドの下にメグを寝かせる。僕が使っている方だけど、これも仕方ない。投げて上のベッドに寝かせる、なんて芸当は出来ないし。

 毛布を掛けて電気を消し、再びリビングへ。

 残っていたコーラを飲み干して、またテレビを見ながら洗濯が終わるまで待ち、終了を告げる音が聞こえた所で風呂場に向かった。

 

 その後、メグの下着を干す為とは言え勝手に触って良いのか等のことで悩むことになったのは、まあ、仕方ないことだと思う。

 

 翌日。

 眠りが深いメグを起こすのに二十分掛かったり、寝ぼけている所為で制服のボタンを掛け違えたりしているのを直したり、卵ご飯に醤油と間違えてソースを掛けたりと色々、一部愉快なこともあり、いつもより家を出る時間が大幅に遅れた。

 結果どうなるのかなんて、言わなくても分かるだろう。

 全力疾走。

 この一言に尽きる。

 僕もメグも足はそれなりに速い方だから、着いた時間は何とかいつもより五分程遅いくらいで済んだ。

 けど、そこで問題、と言うか何と言うか、とりあえず一騒動起こることに。

 発端は、校門で腰に手を当て仁王立ちしている黒髪ショートの彼女――矢智葉姫孤(やちはひめこ)。

 この街にある小さな神社、狐火神社の巫女をしている後輩。

 中三の頃、散歩がてらふらりと立ち寄った時に会ったのが切欠となり、それからの付き合いだ。

 中学は結構有名な所だったのに、何故このごく一般的な高校に来たのかは未だに疑問だけど……それを言うとメグだってそうなんだよね。

 

 思考が逸れた。

 

 そこで制服の裾を引かれる。

「知り合い?」

「ああ。後輩の矢智葉姫孤」

 振り向くと同時に聞かれたことに答え、また視線を姫孤に戻す。

 とりあえず、挨拶をしておこう。

「おはよう、姫孤。どうした? 仁王立ちなんてして」

「……おはようございます。アキラ先輩」

 はて……なにやら言葉に棘を感じるのは気の所為だろうか? 心なしか怒っている様に見えないことも無い。特に約束とかはしてなかったと思うが……ダメだ、分からん。

「いきなりだがメグ、お前に今の姫孤はどう見える?」

「怒ってる」

「即答ですか。因みに、その原因までは分からんか?」

「目の前にいる人」

「あ、やっぱり私でございますかね?」

「そうでございますよ」

 にこやかに問うと同じくにこやかに返してくれやがった。

「あの、目の前でイチャつかないで貰えます?」

 と、ここで姫孤からのツッコミが入る。が、

「イチャついてなどおらん。何処をどう見ればそう見える?」

「何処からどう見てもイチャついている様にしか見えません」

 むう……まあ、良いか。

 しかしだ。さっきからそうだったが、そろそろ周囲からの視線が痛い。いや、朝から校門で仁王立ちしている女子生徒なんていたら、大体の奴は見ていくだろう? そしてソイツと話している奴にも、自然とその視線が流れてくるだろう? 結果僕とメグも登校中の生徒から容赦ない好奇の目で見られている訳だ。その中にいた旧友が笑いを堪えながら素通りしていったのは頭に来たが。

 とりあえず後で一発殴ることに決めた。

「まあ、アレだ。話は休憩室でしよう。まだ時間はあるだろ?」

「いいえ」

 言って足を進めようとした僕は、姫孤の言葉に足を止めた。

「姫孤、授業が始まるまで、まだ十分以上残っているだろう?」

「ええ、確かに残っています。正確には十四分二十一秒」

「その十四分十八秒があっても話は終わらないのか?」

「終わりません。なので、今日の昼休みは無い物と思ってください」

「マジですか?」

「マジです。それでは」

 そう言って身を翻し昇降口へ向か――

「あぁ、それから」

 おうとした姫孤は更に百八十度反転すると、右手の人差し指を突きつけてきた。

「昼食は買わないで下さい。お弁当を作って来ていますから」

「え、あ、はい」

 今までにないことを言われたからだろう。まともな返事を出来ないでいる僕を見てくすりと笑った姫孤は、隣にいるメグを見て挑発的な笑みを浮かべると、今度こそ昇降口へ向かった。

「ん? ちょ、い、いて、ちょ、メグさん? 痛い、痛い。脇腹は抓ったらアカンですって」

「……ふんだ」

 あ、聞いてねえな、コイツ。その膨らんだ頬つついたろか? とまあ、そんなことを公衆の面前でする自身はありませんがね?

 

「源、槙浪。前に出ろ」

「んあ? はい」

「……?」

 朝のHRが始まり、連絡事項を伝え終わった担任の女教師に呼ばれ、僕とメグは教壇に並んだ。が、当事者の僕たちだけでなく、クラスの奴も皆疑問を浮かべている。

「お前達、今後自分達の状況が知られた時どうなるか、考えてなかっただろ?」

「状況……あ、そういや」

「考えてなかったね。ありがとうございます、先生」

「あざす」

「ん」

 短く答えた先生からクラス内に目を戻し、一つ咳払い。

「えぇ、メ――」

「わたし、昨日からアキラくんと同棲してます」

 クラスから、音が消えた。

 

 ――はああああああっ!?

 

 と思ったら割れんばかりの、雄叫び? みたいな声が一斉に沸きあがった。

「うるさいぞー」

『ぎゃああああっ!』

 何の躊躇いも無く黒板を引っ掻き、身の毛もよだつ音を発生させる担任のお陰で、なんとか静かにはなった。ダメージは相当なものみたいだが。

「両親がイギリスで仲良くなったのが、槙浪家でな。姉さんと入れ替わる形で、こっちに来たんだ」

「私としては同棲くらいで問題にすることがアホらしいが、頭の固いアホ共は納得しないんでな。そもそも校外で何をしようがどうでも良いし……お前等、夏休みとかに問題起こすなよ? 私の休みがなくなるから」

 すんごい正直なんだよなぁ、この人。僕は好きだけど。

「…………」

「アレ、いたい、いたいよ、メグさん? え、ちょ、抓る力上げないでくれません? いたい、いたいんですってばメグさん。聞いてる? ねえ、聞いてる?」

「聞いてないよ?」

 うわあ、なにこの輝かんばかりの笑顔。ってかおもっきし聞いてるじゃないですか。

「アキラくんのばーか」

「えぇ……」

 まあ、かわいいから許すことにしよう。

 さて、こんな訳で、僕とメグの同棲はクラスメイトの知る所となり、すぐ校内にも知れ渡るようになったが、我等が担任にはどんな力があるのか、校長、教頭及び生活指導担任から何か言われることは無かった。

 

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