バカと艦娘と恋心   作:mam

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ウチと日本と知ってる言葉

 もうっ!

 私は急いでいるのに何をゆっくり歩いているのよ!?

 近くで止まって、よく見てみると……

 

 

 陽炎さんたちの提督が着ていたのと同じ白い軍服。

 

 

 ――――と、言う事はこの人も提督なのかしら?

 

 陽炎さんたちの提督みたいに優しそうで頼り無さそうなところが似てるわね。

 でも見た目はずっと若いけれど。

 一応確認してみるかな。

 

 

das was(なによ).Gehen Sie auch zu(アンタも鎮守府に) einem Admiralitätshafen(行くんじゃないの)?」

 

 私が話しかけても、きょとんとして私の事を見ている。

 

 

 …………いけない。

 

 そう言えば、さっきから私が話しているのはドイツ語だったわね。

 ここは日本なんだから……

 

 東京で会った人たちみたいに言葉が判らなくて困っているみたいだけど

 すぐ逃げるように行かないだけ、他の人たちよりはずっとマシね。

 

 

 ――ん?

 

 私に向けている視線が上に行ったり、下に行ったりしてる?

 ひょっとして私に見蕩れているのかな。

 それに良く見るとちょっと可愛い顔をしてるわね。

 

 でも私には心から逢いたい人が居るし……って、何処見てるのよっ!?

 

 視線が上下に動いて、今は途中で止まっている。

 

 

 ――――私の胸の辺りで。

 

 

 何よっ!

 今度は、ちゃんと日本語で話しかけてやるわっ!

 でも……ちょっとお仕置きは必要よね。

 

 

「今、失礼な事考えてなかった?」

 頬を抓りながら、そう言うと……

 

「滅相もありません……って、日本語話せるの?」

 手を左右に振りながら申し訳無さそうに話しかけてくれた。

 

 ……仕方ない。逃げないで話を聞いてくれた事に免じて許してあげるわ。

 

「ええ。日常会話くらいならね……でも読み書きがまだ出来ないから駅の表示とか判らなくて」

 

 ――――って、いけない。こんなところでゆっくりしてる暇は無いのよね。

 

「そうだ。遅刻しそうになって急いでいたんだわっ!」

 鎮守府までの一本道を歩いていたし、軍服も着ているし……

 きっと、この人も鎮守府に行くのよね。

 

「アンタも鎮守府に行くんでしょ?ほらっ、急ぐわよっ!」

 

 そうする事が当たり前のように――

 

 何故か、私は男の子の手を握っていた。

 

 

 何処かで繋いだ事があるような……優しい温もりの手。

 

 

 

 

 ――前に一度だけ、手を繋いだ記憶がある。

 

 静かで暗い海の底から目を覚ました時、光の中から差しのべられた温もり。

 男の子の手を握り、その手にどこか懐かしさを感じながら走り出した。

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 結局、手を繋いでここへ来た男の子が私の提督だった。

 

 名前は『吉井明久』って言うのね。

 しかし改めて見ていると……

 

 まだ正式に提督になっていない提督見習いだから頼りないのは仕方ないにしても

 落ち着きも無さそうだし、バカな事を言ったりやったりして

 副司令に散々頭を叩かれているし……

 

 本当にこの人の(もと)で、ちゃんと深海棲艦と戦えるのかしら?

 

 

 

 

 

――――夕方。

 

 

 副司令が吉井たち提督見習い四人と私たち艦娘四人の着任祝いをしてくれた。

 

 その時、みんなでそれぞれ将来の事を話していると……

 

 

「こんな戦争なんて終わって……誰とでも友達になれて笑いあえる世界になれば良いのにって思うんだ」

 

 

 ――――っ!?

 

 吉井が言った『友達』と言う台詞に……『あの言葉』を思い出してしまった。

 

 

 まさか、ね……

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

――――その日の夜。

 

 

 

 …………なんか寝付けない。

 

 

 まだ日本に来たばかりだから時差ボケなのかな。

 ちょっと、その辺を散歩でもしてこようかしら?

 

 

 そして外に出ようとして建物の出入り口に行くと……

 

『――――うん。ほら、僕が小さい頃……』

 

 吉井が公衆電話で何か話していた。

 携帯持ってないのかしら?

 

 あまり詮索するのも悪いわよね。

 いくら、私の提督だからって盗み聞きするのは気分良くないし。

 

 こちらに背を向けて電話をしている吉井に気付かれないようにこっそりと外に出て……

 

 私が散歩から戻ってきた時には吉井の姿は無かった。

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

――――次の日の朝。

 

 

 私と瑞希の二人の艦娘と、吉井の提督(見習い)としての一日目。

 

 

 私たち三人は、見習いとは言え一応提督として着任した吉井に与えられた執務室に居る。

 

 

「じゃあ、まずは秘書艦をどうするか決めようよ」

 吉井が私たち二人を見ながら、話しかけてきた。

 

 

 ――秘書艦。

 

 提督の仕事のフォローをする私たち艦娘の事。

 

 

 吉井の仕事のフォローをするなんて、きっとすごく大変よね。

 私は捜さなきゃいけない人も居るし、まだ日本語の読み書きが出来ないし。

 

 

 それに……

 

 あの子(みずき)は吉井に特別な感情があるみたいね。

 私たち三人は昨日初めて顔を合わせたんだけど、そんな気がするわ。

 

 

 少し……

 

 ほんの少しなんだけど、心のどこかに引っかかるモノを感じながら……

 

 

「……私はまだ日本語の読み書きが出来ないから、しばらくは瑞希で良いんじゃない?」

 

 そう言ってドアの方へ歩き出した。

 

「美波ちゃん……」

「島田さん、何処へ行くの?」

 

 二人が私に話しかけてきたけれど……

 

 瑞希が吉井に何か話したい事がありそうな雰囲気だったし

 このまま、ここに居ると私が二人の邪魔をしちゃう気がするもの。

 

「散歩がてら、ちょっと周辺の見回りに行ってくる」

 

 私は振り返ることなく、執務室を後にした。

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 私は見回りを終えて、工廠に擬装を置いた。

 

 

 どうしようかな……

 

 このまま戻っても、まだ二人が何か話をしていたら私が邪魔になるかもしれないし……

 

 

 ――――あ、そうだ。

 

 そう言えば、藤堂司令に聞こうと思っていた事があったんだっけ。

 昨日はちょっとバタバタしていたから聞けなかったけど……

 

 二人の居る執務室に戻るのもあれだし、ちょうどいい時間潰しになるわよね。

 

 

 

 工廠を後にし、総司令部の建物へ向かって歩き出して、しばらくすると……

 

 

 

――ヴィィィィィ ヴィィィィィ ヴィィィィィ

 

 

 なにかしら?……緊急警報が鳴っているわ。

 

『…………深海棲艦……一体……』

 

 深海棲艦が現れたのかな?

 でも海の上だろうから陸地に居れば問題ないわね。

 さっき見回りした時は、私たちの担当海域には居なかったし……

 

 

 私が再び歩き出すと、後ろの方から

 

 

――ガサガサッ

 

 

 何かが動く物音がするので振り返ってみると……

 

 

《……グ…………》

 

 道の脇の雑木林から黒い物体が現れた。

 距離にして10メートルくらいだろうか。

 その距離からでもハッキリと判るその姿は……

 

 

 ――――深海棲艦っ!?

 

 

 今、私の目の前には……

 

 左腕は肩から完全に無くなっていて、右脇腹も少し(えぐ)

 片足を引きずりながら立っている深海棲艦が、そこに居た。

 

 彼女の目はまだ光を失っておらず、私の姿を捉えると残った右腕を少しずつ持ち上げて

 その腕に装着されている連装砲の砲口が私に向けられた。

 

 

 ちょっ……なんで、こんなところに深海棲艦が居るのよっ!?

 

 いきなり現れた、通常なら絶対そこに居るはずのない目の前の彼女に

 私の思考は完全に奪われてしまい、彼女と見つめあう形でその場に留まってしまった。

 

 

《……ギ……グギ……》

 

 まるで私に『覚悟を決めろ』とばかりに少し微笑んだ気がした。

 

 

 その時――

 

 

「――――さっせるかぁーっ!」

 

 

 深海棲艦が現れた雑木林から、何かが飛び出てきて……

 私に向けて構えられた右腕にぶつかった。

 

 

――ドドンッ

 

 その瞬間、連装砲から砲弾が放たれる。

 

 砲撃の瞬間、腕にぶつかった衝撃で照準がずれたのだろう。

 私の少し右を(かす)めて砲弾は飛んでいった。

 

 

「痛たた……深海棲艦って、こんなに硬いんだ」

 

 涙目になりながら、ぶつかった箇所を(さす)っている……

 

 

 

 

 ――――吉井がそこに居た。

 

 

「なんで、アンタがここに居るのよっ!?」

「なんでって……僕が島田さんを助けるのに――ぐっ!?」

 

 吉井は立ち上がりながら話している途中で

 深海棲艦の右腕の一振りで吹っ飛ばされた。

 彼女の目は……私ではなく、吉井の方に向いている。

 

 そして彼女は足を引きずりながら、吉井に近付いていく。

 

 私なら砲撃をもらっても大破くらいで済むと思うけど

 生身の人間の吉井が、あんな至近距離でもらったら……

 

 

 一瞬、私の頭の中に最悪の結果が浮かんでしまう。

 すると、その結果を吹き飛ばすように……

 

 

「明久君っ!」

 

 瑞希が離れたところから声を掛けてきた。

 重そうな……大きい砲塔で狙いを定めながら。

 

 

《……グ……ググ……》

 

 深海棲艦も予期せぬ瑞希の到着を見て……

 再び吉井の方に視線を向けると、また右腕を少しずつ持ち上げ始めた。

 

 

「明久君っ!飛んで下さいっ!!」

 

 瑞希の悲痛とも、お願いとも聞こえる叫び声。

 

 何故か判らないけど……

 

 瑞希がそう叫んだ瞬間、私は吉井の方へ向かって思いっきり走り出していた。

 確証がある訳じゃなかったんだけど……

 

 絶対あのバカなら……

 

「とっ、飛ぶっ!?判ったっ!!」

 

 

 

 

 

 

 ――――思ったとおり、その場で“真上”に向かってジャンプしていた。

 

 

「ああっ、明久君っ!?ちっ、違いますっ!!」

 

 瑞希が飛べって言ったのは横に向かってで

 瑞希の砲撃の射線上から逃げろって事なのに……

 

「瑞希っ!撃ってっ!!」

 

 私が叫びながら吉井の方へ向かって走っているのを確認したのか

 

「美波ちゃんっ!任せましたっ!」

 

 そう叫んで瑞希は砲撃を……

 

 

――――ドォンッ

 

 

 瑞希の砲撃音と同時に私は深海棲艦の横から吉井にタックルするように飛びついて……

 

 その直後に深海棲艦に瑞希の放った砲弾が命中し、私は背中で爆風を受けた。

 

 

 

 ――――吉井を庇うようにして。

 

 

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 

 

 さすがに直撃だったわけじゃないけれど……

 

 やっぱり戦艦クラスの主砲の砲撃はすごいわね。

 至近距離とは言え、爆風だけでも中破くらいのダメージがあるわ。

 

 とりあえず私の被害は……

 装甲の代わりになっている制服が破けたくらいで

 身体を動かすのに支障はないみたいね。

 

 それより吉井は無事なのかしらっ!?

 

 今、私は覆い被さる様に吉井の上に居る。

 とりあえず起き上がって、寝ている吉井の横に座って頬を叩いてみる。

 

 

――ぺちぺち

 

「……ん……んん」

 

 意識を取り戻したのか、少し頭を動かしている。

 

 良かった……とりあえず生きてはいるみたいね。

 

 そして吉井は目を開けると……

 いきなり起き上がって私の姿を見て

 

「島田さん、大丈夫っ!?痛いところとか無いっ!?」

 

 私の手を握って無事を確認してくれた。

 

「大丈夫よ。それより吉井の方こそ、痛いところは無いの?」

「うん。たぶん大丈夫……」

 

 そう言いかけるとジッと私を見つめている吉井。

 なによ。そんなに改まって見られると……照れるじゃない。

 少し顔が火照ってきた気がするわね。

 

 こうして見ると結構可愛い顔立ちだし

 私の事を心配して駆けつけてくれるくらい優しいし……

 

 良い提督(ひと)なのかもしれないわね。

 でも何時まで私の事を見ているのかしら?

 

「吉井?私なら大丈夫だから……」

「良かった……」

 

 なおも私を見ている吉井。

 その視線を追いかけてみると……私の肩のところを見ている?

 

「ちょっと、どうしたの?」

 私が問い掛けると吉井は視線を動かすことなく

 

「うん。制服が破れてるから肩のところからブラヒモが見えて……」

「このスケベーっ!!」

「みぎゃぁぁぁぁ」

 

 そこへ瑞希がやってきて

 

「明久君、美波ちゃん大丈夫ですか……って、明久君が轟沈寸前ですっ!?」

 

 

――――

―――

――

 

 

 今、私は瑞希に制服の上着を借りて羽織っている。

 

「まったく……助けに来てくれてすごく嬉しかったのにっ!」

「心の底から、ごめんなさい」

「まぁまぁ、二人とも……みんな無事だったんだから良いじゃないですか」

 

 頭を下げてしょんぼりしている吉井を、私が腕を組んで怒っていると

 瑞希がそう言ってなだめてきた。

 

 確かに全員無事だったから良いけど……

 

「そうだ。吉井?」

「なに?」

 

 話しかけると首を傾げて私を見ている。

 

「これからは、あんな無茶しちゃダメだからねっ!」

「無茶って?」

「普通の人間のアンタが深海棲艦の前に飛び出て、私の盾になることよ」

 

 私はそう言いながら吉井のおでこを人差し指で(つつ)く。

 

「でっ、でも……あの時は島田さんが危ないって思って夢中で……」

「『でも』じゃないの。私たち艦娘は例え轟沈しても死んじゃう訳じゃない。また何処か違う場所で生まれ変わるだけなのよ。アンタは一回死んじゃったら、それで終わりなのよっ!」

 

 私がそう言うと……

 吉井は、おでこを突いていた私の手を握りながら

 

「生まれ変わるって……また、ここに戻ってきてくれるの?」

 

 優しく包むように私の手を握っている吉井の手は……すごく温かくて心地好い。

 

「それは……艦娘としての今までの記憶は全部無くなってるから、ここには戻って来れないわね」

「そんなのは僕は嫌だっ!」

 

 一瞬、ドキッとしてしまう強い語気で言葉を出す吉井。

 

「折角、知り合えたのに……これからずっと一緒に仲良くやっていけると思っていたのに」

 

 そしてギュッと私の手を強く握り締めて……

 

「僕、島田さんに伝えたい事があるんだ」

「伝えたい事?」

「うん」

 

 そして吉井は優しく微笑むと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちゅうぬぷどればどぶにいるもなみー』

 

 

 

 

 ――――っ!?

 

 

 

 私が艦娘として生まれ変わってから……

 

 

 誰かに言って欲しくて……

 

 言ってくれる人に逢えると信じて……

 

 ずっと……ずっと……ずっとずっと……

 

 

 

 ――――ずっと探し求めていた……私が生まれ変わった理由(ことば)

 

 

「吉井っ!アンタ、どうしてその言葉をっ!?」

 

 私が尋ねると吉井は……

 

「島田さん、日本にまだ慣れていないのか、一人で行動する事が多いからさ」

 

 少し染めた頬を指で掻きながら

 

「友達からでも良いから……少しでも一緒に居て笑顔になって欲しいんだ」

 

 吉井は屈託のない笑顔でそう言った。

 その笑顔が眩しくて……

 

 吉井の笑顔を見ていると今まで足りなく感じていたものが全て……

 満たされ、溢れてくる気がした。

 

 

 ――――目頭が熱くなって、まともに吉井の顔が見れない。

 

「ああっ、島田さん!?大丈夫っ!?」

「大丈夫よ……それより、何処でその言葉を?」

 

 私が目元を拭いながら尋ねると

 

「昨日の夜、外国に居る父さんに電話して聞いたんだ」

「外国?」

「うん。僕の父さんは外国で仕事してて、僕も一回だけフランスに行った事があるんだ」

「フランス……それって地中海のマルセイユ?」

 

 すると吉井は首を傾げながら

 

「うーん。何処だったかは忘れちゃったんだけど……でもドイツから近いし、フランス語なら判るかなと思ってさ」

 

 笑いながら頬を掻いている吉井。

 

「一回だけ言った記憶があるんだけど……フランスの何処で誰に言ったのか覚えてないんだよね」

 

 

 アンタは覚えていなくても……私はずっと覚えてる。

 

 艦娘として生まれ変わってから……

 

 その言葉を掛けてくれる人をずっと探していたのよ。

 

 

 

 嬉しい。

 

 

 まさか日本に来て……こんなに早く捜していた人に逢えるなんて。

 

 しかも言葉を掛けてくれた人が……

 こんなに優しくて私の事を真剣に考えてくれる人で本当に嬉しい。

 

 

 

 この人の傍なら……

 

 ううん、私はこの人の傍じゃないと……

 

 決めたわっ!

 私はずっと日本(ここ)に居る。

 何があっても吉井の傍に居て一緒に笑っていたい。

 

 

 そんな事を私が考えていると、瑞希が心配そうに吉井の顔をハンカチで拭いていた。

 そんな二人を見ていて……

 

 

 アイツは『友達になってくれませんか』って言ったんだっけ。

 所詮、私は友達どまりって事なのかな……

 

 

 

 ――――誰が友達までって決めたのよっ!?

 

 

 

 友達から先へ進んだっていいじゃないっ!

 むしろ進むべきよねっ!!

 

 瑞希とアイツにどんな絆があるのか判らないけど……

 私にだってあるんだからっ!

 

 

「あの……」

「美波ちゃん、どうしたんですか?」

 

 瑞希が顔を拭くの止めて私の方を見ている。

 

「瑞希、ごめんね。私も秘書艦をやりたいの」

「ええ、それは構いませんが……でもいきなりどうしたんですか?」

「もっと……いろいろ知りたくなったのよ」

 

 私がそう言うと、吉井が首を傾げて

 

「ふぇ?秘書艦の仕事を?」

「違うわよっ!バカっ!!」

 

 アンタの事に決まってるじゃないっ!

 ものすごく鈍いわねっ!!

 

「それにアンタみたいなバカ、ほっとくと何するか判らないじゃない」

「そうですね」

 

 瑞希も苦笑いしながら吉井を見ている。

 

「いつも見張れるように私も秘書艦をすることに決めたの」

 

 このバカと一緒に居たら退屈しそうにないし……

 なにより傍に居るだけで嬉しいんだもの。

 

「ふふっ。明久君も、これから大変ですね」

「そうかな?でも瑞希さんも島田さんもこれからよろしくね」

 

 吉井は私たち二人に向かって、ぺこりと頭を下げている。

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますね」

「私の方こそ、よろしくね」

 

 

 

 

 ――――そう言えば。

 

 

 瑞希はいつのまにか名前で呼んでいるのに私は島田さんって……

 私も呼び方を変えてもらわなきゃ!

 

 私の事は美波で良いけど……

 『明久』だと瑞希と一緒だし、それにちょっと呼び辛いわね。

 

 うん。

 

 決めたわっ!

 

 

「じゃあ、せっかく仲良くなるんだったら今後私はアンタのことを『アキ』って呼ぶから、アンタは私のことを『美波』って呼んでくれる?」

「えっ、呼び捨てでいいの?」

「もちろんよ。だって私たちは……友達から始めるんでしょ?」

 

 友達なんかで終わらない。

 終わるつもりなんて全然無い。

 いつか、きっと……

 

 

「そっか……じゃあ、改めまして。美波、瑞希さん、よろしくね」

「「私の方こそ、よろしくお願いします」」

 

 三人揃って同時に頭を下げる。

 

 

 

 頭を下げながら……

 

 自分の事を呼ぶ時、『私』って言うのも瑞希と一緒だと……アキも判り難いわよね。

 それに翔子も『私』って言ってたし……

 

 

 どうしようかな、と少しだけ考える。

 せっかくアキと仲良くなるためにお互いの呼び方を変えたんだし。

 それなら自分の呼び方もちょっと変えてみようかな。

 

 

 そう言えば――

 

 昨日陽炎さんたちの宿舎に居た艦娘の一人が特徴的な一人称を使っていたわね。

 ちょっと変かもしれないけど、私の事をもっとアキに印象付けて……

 

 

 

「あのね。アキ、ウチは――」

 

 




絆編、一応終わりです。
姫路さんの方が少し短過ぎましたね。
そのうち追加修正出来ると良いんだけどなぁ……
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