文月鎮守府の日常part01
歩きながら見上げると――――
道の両脇に広がっていた淡いピンクが鮮やかな緑に変わった頃。
――ある朝、僕らは作戦会議室に集合していた。
第一艦隊は――
司令官に性格最低、顔は最悪の坂本雄二と、艦娘は戦艦霧島翔子さん。
第二艦隊は――
司令官に僕、吉井明久と、艦娘は駆逐艦島田美波さんと戦艦姫路瑞希さん。
第三艦隊は――
司令官にムッツリーニこと土屋康太と、艦娘は潜水艦工藤愛子さん。
第四艦隊は――
司令官にいつも可愛い木下秀吉と、艦娘は……。
「今日は何をするの?」
「姉上。昨日説明したじゃろう」
「アンタの説明はここに集まるって言うだけで、何をするのか聞いてないわよ」
まるで鏡を見ているような瓜二つの二人。
最初、艦娘の居なかった秀吉の
着任したのは重巡洋艦木下型一番艦、優子さん。
こうして秀吉と木下さんを見ていると、ほとんど双子にしか見えない。
昔、二人は一緒に住んでいたらしく、思念体である艦娘は年を取る事は無いので
当時から今の姿だった木下さんが、お姉さんとして秀吉の面倒を看ていたらしい。
そういえば雄二と霧島さんも昔からの知り合いみたいだし……
学校に通っていた頃は全然そんな話をしていなかったんだけどな。
「おい、お前ら。ちゃんと聞いとけよ……特にムッツリーニと明久」
「はいはい」
「…………(コクコク)」
ふいに雄二に声を掛けられる。
やっとF地区の全艦隊に艦娘が配属されたので
初めて第一から第四艦隊の合同での出撃となった。
今回旗艦を務める霧島さんの提督である雄二が、司令官として指揮を執る事になっている。
「アキっ!『はい』は一回よ」
美波に軽く頬を抓られながら注意される。
しばし美波が僕の頬をむにむにと指で挟んでいると……
「アキのほっぺって柔らかいのね」
楽しそうに僕の頬をいじっている美波。
すると瑞希さんが反対側の頬をいじりだした。
「ほんとです。柔らかくて触り心地が良いですね」
「ひょっほっ、ふひゃりほもっ!?」
そしてムッツリーニは工藤さんに袖を掴まれながら
「ねぇねぇ、土屋君。ボクもムッツリーニ君って呼んでも良い?」
「…………好きにしろ」
「あ~、そっけないなぁ……じゃあ、『ご主人様』の方が良いのカナ?」
掴んだ腕に抱き付いて悪戯っぽい笑顔でムッツリーニを見上げている工藤さん。
――プッシャァァァァ
今まで(僕の知っている範囲で)女の子と接触する機会の無かったムッツリーニが
あんな可愛い女の子に水着姿で抱き付かれて鼻血を我慢出来る訳が無いよね。
僕がムッツリーニの出血量を心配していると……
「ねぇ、アキも……」
美波が少し頬を染めながら僕を見上げている。
顔立ちは可愛いし、すらっとした細身で手足は長いから
きっと似合うであろうメイド服を着た美波に『ご主人様』なんて呼ばれたら……。
そして瑞希さんも見た目は可愛いし、少し小柄だけどスタイルは抜群だから
きっとメイド服姿も似合うだろうし、あの可愛い声で『ご主人様』なんて呼ばれたら……。
「えっ!?そんな風に呼ばれたら照れちゃうよ」
こんな可愛い二人に『ご主人様』って呼ばれるなんて……提督に志願して本当に良かった。
すごく顔が火照ってきた気がする。
たぶん耳まで真っ赤になってるんだろうな。
一日くらいメイド服を試してみても良いかな……なんて思っていたら
「ご主人様って――――ウチの事、呼んでみたい?」
美波は嬉しそうに笑いながらそんな事を言ってきた。
「僕が言う方なのっ!?」
言われると照れちゃうけど、言う方は恥ずかしすぎる。
たぶん僕が、
「きっと可愛いと思いますっ!」
瑞希さんは胸の前で両手を合わせ、目をキラキラさせて僕を見ている。
そんな期待するような目で見られても絶対に女装なんてしないからねっ!?
「お前ら、ちゃんと話を……」
そう言っている雄二の背中に霧島さんが抱きついた。
「……雄二も私にご主人様って呼んでもらいたい?」
「なっ……お前は何バカな事を言い出して」
顔を真っ赤にして身体を捻って霧島さんから離れようとしている雄二。
それを察したのか、霧島さんは雄二から離れると
「……じゃあ、雄二も私をご主人様って呼びたい?」
何処から出したのか、霧島さんの手には鎖の付いた首輪が……
「おっ、お前は何バカな物を持ち出して」
顔を青くして両手を前に突き出し、霧島さんを近付けない様にしている雄二。
「はぁ……アタシ、なんでこんなところに配属されたんだろ」
「姉上。人間、諦めが肝心じゃぞ」
「アタシは艦娘なんだけど……ほら、みんなっ!出撃するんでしょ」
木下さんが手をパンパンと鳴らした。
☆ ☆
――工廠前。
艦娘は全員、擬装を装備して出撃準備は整っている。
「中破したと判断したら即戻ってくる事……いいな」
首輪を付けた雄二が最後の指示を出すと
美波が笑いを堪えながら視線を逸らし
「どうして?中破くらいなら大丈夫よ」
「そんな事決まっているじゃないか」
僕は拳を握り締めながら美波と瑞希さんを交互に見る。
「アキ……」
「明久君……」
二人が頬を仄かに染めながら少し潤んだ目で僕を見ている。
ちょっと恥ずかしいんだけど……
二人が傷付くと心配だからに決まっているじゃないか。
「美波や瑞希さんの下着姿を早く見たいからに決まっている……って、何で二人とも主砲をこっちに向けてるの!?」
「本音の方が声に出ているのじゃが……」
「アキのスケベーっ!」
「私だけならともかく、美波ちゃんのまで見たいなんてっ!」
「うぉいっ!こんなところで撃つなっ!やるなら素手で殴れっ」
僕が二人に殴られていると……
――ポタポタ
「ムッツリーニよ。想像だけで鼻血が出るのか」
「ボクは普段から水着だから結構露出多いんだけどなぁ……もっと布地を減らした方が良い?」
工藤さんが水着に手をかけながらそう言うと……
――プッシャァァァァ
「工藤よ。ムッツリーニには刺激が強過ぎるじゃろう」
「あはは。でも、それだけムッツリーニ君がボクの事を気にしてくれているって事だよね」
八重歯を見せながら嬉しそうに笑っている工藤さん。
「出撃前に提督の方が死に掛けて……まぁ今は居ても居なくても問題無いから良いか」
F地区全員揃っての初めての出撃は……。
秀吉が困ったような顔をして、雄二が首から鎖をぶら下げて
僕とムッツリーニが血だらけで倒れて見送るという……。
傍から見ると事件現場のように見えるかもしれない。
――――
―――
――
――そして結果は。
全員小破もせず、木下さんと霧島さんがわずかに被弾しただけで無事帰還した。
気分がすごく高揚していたせいか、瑞希さんと美波がMVPを交互に取っていた。
「明久君のおかげですね」
「そうね。今度出撃する時もよろしくね、アキ」
無事戻ってきた二人の眩しい笑顔を見ながら僕は……
これ以上、僕の艦隊に艦娘は増えないで欲しい、と心の底から祈った。