「失礼します」
執務室に入ってきて、横一列に並ぶ四人の女の子たち。
最初に部屋に入ってきた女の子と、僕が今朝会った二人は
首元に小さくて赤いネクタイを締めて、薄い黄色のラインで縁取りされた黒のブレザーと
赤いスカートの制服を着ているんだけど、最後に入ってきた女の子は……
競泳用の水着にパーカーを羽織っているだけだった。
……目の保養と言うか、すごく嬉しいラフな格好だなぁ。
僕の隣のムッツリーニはすでにティッシュを丸めて鼻に装着済みだった。
相変わらず仕事の早い男だ。
すると僕とムッツリーニの視線に気が付いたのか
水着の女の子が、八重歯を少し覗かせた可愛い笑顔で
僕たちの方に向かって手を振ってくれた。
結構、開放的な性格なのかもしれない。
そして今朝二番目に会った、ふわふわとした優しい感じの女の子が僕に向かって
「先ほどは、どうもありがとうございました」
ぺこりと頭を下げて挨拶をしてくれた。
「お礼を言われるほど、大したことはしてないよ」
本当に何もしなかったからなぁ……ただ抱きつかれただけの気がする。
気絶しそうになったけど、こんな可愛い女の子に抱きつかれたのは正直嬉しかった。
僕が、その時の彼女の優しくて良い匂いを思い出していると……
「アンタ、ちゃんと間に合ったの?」
最初に会ったポニーテールの女の子に質問をされた。
「ちょっと遅れちゃったけど、大したことはないよ」
本当はだいぶ遅れて着いたからなぁ……寝坊した僕が悪いんだけど。
でも、こんな可愛い女の子と手を繋いで、この鎮守府に来れて本当に嬉しかった。
――ゴンッ
「バカ者。何がちょっとだ。30分以上も待たせおって」
「痛っ」
鉄人に頭を叩かれて僕が目から火花を出している横では……
「うぎゃぁぁ。しょっ、翔子っ!お前なんでこんなところにっ!?」
「……雄二。もう離さない」
雄二が、最初に執務室に入ってきた長い黒髪の女の子に
顔を掴まれて持ち上げられていた。
雄二は身体も大きくて筋肉質だから結構体重もあると思うんだけど……
片手で軽々と持ち上げている。 流石艦娘、と言ったところかな。
「しょっ、翔子。話せば判る」
「……嫌。絶対に離さない」
微妙に会話が、ずれている気がする。
「霧島。今はその辺にしといておくれ。顔を掴むのは、この部屋を出た後で好きなだけやりな」
「……はい」
触ると呪われそうな、気味の悪い置物のように静かだったババァが口を開いた。
そして黒髪の女の子が雄二の顔から手を離すのを確認すると
椅子から立ち上がり、姿勢を正し、真剣な顔つきになり……
「では……坂本少尉以下3名、文月鎮守府F地区の担当とする」
「「「「はっ」」」」
一応、僕らも姿勢を正して直立不動の形をとる。
軍隊のこういうところが嫌なんだよなぁ……
「アンタらはまだ見習いだからね。一つの地区を四人で担当してもらうよ」
「まず第一艦隊司令官に坂本少尉」
「はいっ」
ババァに呼ばれて雄二が右手を額に当てて敬礼をしている。
「次に第二艦隊司令官は吉井少尉」
「はいっ」
僕も雄二に倣って手を額に当てて敬礼をする。
「第三艦隊司令官には土屋少尉」
「…………はい」
ムッツリーニも敬礼をして……三人同じ様に敬礼をしたけど微妙に違うんだなぁ。
「最後に第四艦隊司令官は木下少尉」
「はい……(なのじゃ)」
秀吉は小さく爺言葉を付けて敬礼をした。
やっぱり、なかなか癖は抜けないらしい。
「次に艦娘の配属だよ」
「戦艦霧島型一番艦、翔子……第一艦隊に配属とする」
「……はい(ポッ)」
さっき雄二の顔を掴んでいた長い黒髪の女の子が返事をする。
「戦艦姫路型一番艦、瑞希……第二艦隊の配属とする」
「はい」
僕が今朝二番目に会った優しい感じの女の子が可愛い声で返事をしていた。
「駆逐艦島田型一番艦、美波……同じく第二艦隊配属とする」
「はい」
僕が最初に会ったポニーテールの女の子が元気良く返事をしている。
「潜水艦工藤型一番艦、愛子……第三艦隊へ配属とする」
「はい、よろしくね」
水着の女の子がムッツリーニの方に手を振りながら片目を瞑って返事をしていた。
今朝会った二人が、まさか僕の艦隊に配属されるなんて……
やっぱり運命的な何かがあるんだろうか。
…………ちょっぴり期待しちゃうよね。
そう言えば……
僕ら見習い提督は四人。
彼女たち、艦娘も四人。
そして、そのうち二人は僕のところに配属された。
秀吉のところには艦娘が誰も居ないよね?
…………
………
……
…………ああっ、そうか!
「あの……司令官殿」
「どうしたんだい」
「ワシのところには艦娘は配属されておらんようなのじゃが……」
おずおずと片手を上げて秀吉がババァに質問をしている。
でも、秀吉のところに艦娘が何故居ないのか、僕は見当がついちゃったもんね。
「違うよ、秀吉」
「んむ?明久よ、何が違うのじゃ?」
「艦娘が配属されてないんじゃなくて、秀吉が司令官兼艦娘なんだよ」
この可愛さなら、きっと世界一の艦娘になれるはず。
「…………是非、俺のところへ来て欲しい」
ムッツリーニがスッと秀吉に右手を差し出している。
まったく抜け目無いな。僕も負けじと右手を差し出して
「ああっ、ムッツリーニ。ずるいぞっ。気が付いたのは僕なのにっ」
「…………早い者勝ち」
僕の方を向いて、“フッ”と小さく笑うムッツリーニ。
僕だって負けるもんかっ。
そう思ってムッツリーニを睨むように見ていると……
――ゴンッ ×2
「「痛ぁぁ」」
「落ち着かんかっ!バカ者ども」
鉄人の拳が僕とムッツリーニの頭に振り下ろされた。
今日何度目だろう……このままだと僕の頭はお月様みたいにクレーターだらけになっちゃうよ。
「まったく……アンタらは本当に揃いも揃ってバカばっかりだねぇ」
吸ったら即効性のある毒ガスのようなため息を吐きながらババァが、そうのたまった。
「木下のところの艦娘はまだ到着してないんだよ。しばらく待ちな」
「では、ワシは何をしていれば良いんじゃろうか」
「そうさね……そう言えば広報部で鎮守府のPR用のビデオ撮影をするとか言ってたね」
「ビデオ撮影とな」
「ああ……艦娘が来るまで
「了解……(なのじゃ)」
秀吉はだいぶ不服そうだったけど小さく敬礼をしていた。
でも秀吉のプロモーションビデオか……
僕は秀吉の手を握って
「発売されたら絶対買うからねっ!握手会のチケットとか、生写真が入っていたらサインしてくれるよね?」
「お主は何を勘違いしておるのじゃっ!?」
――ゴンッ
「痛ぁぁ」
僕が鉄人に頭を叩かれていると、今まで黙っていた雄二がババァに向かって
「普通、提督が指揮する艦隊は艦娘が4から6人くらいで構成されると聞いたんだが、俺たちには一人ずつしか配属されてないみたいだが」
「ああ、そうだね」
「足りない分は、話に聞いた建造とかで補うのか?」
雄二が質問をするとババァが、ふふんと椅子にふんぞり返って
「ここには建造施設は無いんだよ……特にアンタらF地区は運に任せて艦娘を配属させてるんじゃないからね」
「運に任せてって……どう言う事だ?」
雄二がそう質問すると……ババァは机の上で組んだ両手にあごを載せて
「アンタらは知らないだろうが……艦娘の間で伝わる都市伝説みたいなものがあってね」
都市伝説って……
ババァみたいな妖怪が僕らの司令官だって言う方が都市伝説だろう。
「艦娘と提督の絆が強ければ強いほど……艦娘の能力が向上するらしいんだよ」
絆か……今朝会った事だけじゃなくて、もっとこう……
何か強いモノが、この二人と僕の間にはあるのだろうか?
でも、この二人とは会うのが今日初めてだと思うんだけどなぁ。
「それに必要があれば4人一緒に行動すれば良いじゃないか」
「ふむ……」
雄二があごに手を当てて何か考えているみたいだけど……
「ああ、それと秘書艦について説明しとくよ」
「「「「秘書艦?」」」」
僕らが首を傾げていると
「読んで字の如く、提督の仕事のフォローをする秘書みたいな艦娘の事さね」
「へぇ……艦娘って、そんな事もするんですね」
「坂本と土屋は一人しか居ないから決まっているけど、吉井には二人居るからね」
「そう言えば、そうですね」
僕はチラッと二人を見た。
「絆を強くする弟一歩だから、しっかりやんな」
「はっ」
一応敬礼をして部屋を出て行こうとする僕らにババァが
「慣れるまで大変だと思うけど、深海棲艦としっかり戦いな……って、アタシを指さすんじゃないよっ!?」
ババァの叫びを聞きつつ、僕らは退室した。