「お前らが執務をする場所はこっちだ」
僕ら提督四人と艦娘四人は、鉄人の後をついて歩いている。
しばらく歩いて海の匂いが強くなってきたな、と思ったら
広さは小学校の体育館より少し大きいくらいだろうか……四階建ての建物が見えてきた。
脇には倉庫みたいな、トタン屋根の今にも壊れそうなボロい平屋建ての建物がある。
突き出た
その下には両開きのガラスドアがあった。
鉄人がそのドアを両手で広げてドアの脇に立つと
「ここがお前らの執務兼居住する場所だ」
僕らが中に入ってみると……
採光のためか、割りと大き目の窓ガラスのおかげで建物内は思ったよりも明るく
まだ中には、さほど物が入ってないので広々と見える。
入ってすぐのところに部屋の区割りなどの案内板があり
充満している匂いで、この建物が出来て間もない事が判る。
僕らが中に入ってきょろきょろ周りを見ていると鉄人はドアを閉めて
「先月完成したばかりだ。汚したり壊したりするなよ」
そう言うと鉄人は奥の方へ向かって歩きだす。
僕らは遅れないようにその後を付いていった。
そして左側に【大食堂】と書かれたプレートがかかっている扉があり
右側には【作戦会議室】と書かれたプレートがかかっている扉がある。
鉄人は右側の扉を開けて中へ入る。
僕たちも続けて中へ入り、最初に全員で、この建物の説明を受ける。
そして、みんな揃って食堂でお昼御飯を食べてから
午後は僕ら提督四人は鉄人から、提督としての執務の説明を受け
艦娘四人はここから少し離れた所にある工廠へ行き
自分たちの艤装のチェックを行う事になった。
――――
―――
――
しばらく鉄人の講義を聞いていると、お腹一杯食べたせいか眠くなってきちゃったよ。
僕がうつらうつらしていると……
――――ドォン……ドンドンドン……ドォン……ドンドン……
砲撃音が聞こえてきた。
「うわぁっ!敵襲っ!?」
僕が慌ててきょろきょろしていると鉄人が
「違うぞ。あれは彼女たちが持ってきた艤装のチェックのために実弾射撃している音だ」
「ほぅ……彼女たちはずっと
雄二が窓の外を見ながら呟いた。
「ああ。一番長く居るのは霧島だが、彼女でも一週間くらい前からだ」
「それまでは
秀吉が首をちょこんと傾げながら聞いている。
どんな仕草も可愛いなぁ。
「霧島はこの近くの出身だが姫路は呉、工藤は佐世保で島田は欧州だ」
「結構みんなバラバラなんじゃのう」
「島田さんって欧州の何処から来たんだろ?」
そう言えば最初に会った時、他の国の言葉で話しかけられたんだっけ。
何処の国の言葉か、さっぱり判らなかったけど……
「島田か?艦娘として生まれたのはドイツとの事だが」
「何でドイツ生まれで名前が日本語なんだ?」
「俺も詳しくは知らんが元々日本人が設計した艦だと聞いている」
鉄人が質問をした雄二を見ながら答えている。
「艦娘になる前は欧州を転々としていたらしいが……藤堂総司令に呼ばれて、ここへ来たそうだ」
へぇ……艦娘にも帰国子女って居るのか。
でも、ますます判らないな。
島田さんもそうだけど姫路さんも僕との絆と言うか、接点があるようには思えない。
姫路さんは呉から来たとの事だけど、呉って確か瀬戸内海だったよね。
僕はドイツも瀬戸内海の方も行った記憶が無いのに……
「それより吉井。俺の講義はそんなに退屈か?ずいぶんと眠そうだったが」
首を捻って考えている僕を、ギロッと睨む鉄人……判ってるなら少しは他の事をしようよ。
でも、そんな事は言える訳も無く
「あはは。やだなぁ……そんな訳ないじゃないですか」
僕が愛想笑いで返すと
「つまらん話をして悪かったな……眠気覚ましに少し身体を動かしてくるか?」
「何をするんですか?」
「なに、簡単な事だ……彼女たちのところへ行ってだな」
僕が恐る恐る尋ねると……
鉄人は窓の外を指差して、にぃっと口の端を吊り上げて笑っている。
でも、ハッキリ言って全然楽しそうに笑っているように見えない。
「お前目掛けて撃ってくれと頼むだけだ。もちろん実弾でな」
「死んじゃうよっ!?」
「彼女たちの標的になるだけの簡単な仕事だ。お前でも出来るだろう」
「実弾なんか使ったら一発で終わっちゃうじゃないかっ、バカっ!」
「じゃあ、ちゃんと俺の話を聞けっ。バカ者っ(ゴンッ)」
また鉄人に頭を殴られた。
☆ ☆ ☆
そして夕方になり――
食堂に僕ら提督四人と艦娘四人……と、何故か鉄人一人が集まっている。
「それでは貴様らのF地区就任を祝って、ささやかながら俺からのプレゼントだ」
テーブルの上には結構豪華な料理が並んでいる。
どうやら鉄人が自腹を切って僕らのために用意してくれたらしい。
昔から顔に似合わず、そういう細かい心配りが出来るのはすごいなぁと心底思う。
でも流石に初日から飲酒はダメだろうという事で全員ジュースや烏龍茶だけどね。
「俺が居るからと言って気兼ねしなくて良いぞ。今は無礼講で行こう……では、乾杯っ!!」
鉄人がグラスを上げると僕らも一斉にグラスを上げて
「「「「「「かんぱーい」」」」」」
――――
―――
――
雄二が『提督』や階級ではなく、お互いに苗字や名前で呼ぶように提案すると
「ふむ。まぁお前らが絆とやらを深めるためなら仕方ないか……ただしF地区内だけだぞ」
「鉄人は頭まで鉄のように固いのかと思ったら、そうでもないんだね」
――ゴンッ
「代わりに拳は鉄のように硬い事を身体に教えてやろう」
「今日は無礼講って言ったのにっ!?」
「吉井。物事には限度って物がある……貴様のバカには限度が無いみたいだが」
僕を一睨みした後、鉄人は言葉を続けて
「俺の事は副司令と呼び辛かったら今まで通り……」
「「よろしく、てっつぁん」」
――ゴンッ ×2
「「痛ぁぁぁ」」
「西村教官だ」
ギロッと僕と雄二を睨んでいる鉄人。
でも雄二の言うとおり
彼女たちに提督なんて呼ばれてもすごい距離感を感じちゃうよね。
絆がどうとか、まったく判らないけど……
みんなとは仲良くやっていきたいと思う。
「まったく、お前らは昔から変わらんな……少しは将来の事とか考えていないのか」
不意に鉄人がそんな事を言ってきたので……
みんなでそれぞれの将来を考えてみる。
ムッツリーニは何で鼻血を出してるの!?
一体どんな未来を予想したのだろうか……すごい幸せそうな顔をしていた。
秀吉を見ると、もぎゅもぎゅと口を動かしながら頭を右へ左へと傾げていた。
その可愛い仕草を見ていると……きっと秀吉の将来は可愛いお嫁さんだよね。
僕がそう思って秀吉を見ていると
「んむ?明久よ。何故、ワシを見て微笑んでいるのじゃ?」
僕は秀吉の問い掛けに対して、黙ってグッと親指を立てておく。
秀吉は何か言っていたけど、その可愛さならきっと将来は幸せだろう。
「『……俺の夢は翔子をお嫁さんにもらって幸せになってもらう事だ』……って、勝手に俺の台詞に上書きすんなっ」
雄二の将来は霧島さん色に染まっているんだろう。
雄二なんかどうでもいいけど、霧島さんが幸せなら良いかな。
そして僕の将来は……全然思いつかないな。
正直、何かやりたい事があるわけじゃない。
でも……ふっと、こんな言葉が僕の口から出た。
「こんな戦争なんて終わって……誰とでも友達になれて笑いあえる世界になれば良いのにって思うんだ」
――――僕がそう言うと、島田さんと姫路さんが少し驚いていた気がする。
☆ ☆ ☆
楽しかったお祝いの会も終わり
お風呂でも入って自分の部屋でゆっくりしようかなと思って、鉄人に聞いてみる。
「そう言えば僕らの部屋は何階なの?」
確か午前中に受けた、この建物の説明だと
一階が全員共有のスペースで
二階がそれぞれ僕ら提督の執務室やら通信室などの施設があり
三階と四階が居住スペースだと聞いていた。
きっと三階と四階で、僕ら提督と艦娘たちで分かれているに違いない。
さすがに絆を深めるためとは言っても同じ部屋って言う訳にも……
そんな嬉しい事になったらムッツリーニが朝日を迎えられる訳が無いだろう。
「ん?貴様らは一階だ……そう言えば居住スペースの説明をするのを忘れていたな」
鉄人が、やれやれと言った表情で僕らを見ている。
「ちょっと待て。一階って俺たちはここで寝泊りするのか?」
雄二が食堂の床を指差しながら鉄人に詰め寄っていた。
確かに食堂だと広さは問題無いだろうけど、僕ら士官なのに個室も貰えないの?
僕ら四人が首を捻って考えていると……
「違うぞ。貴様らが寝泊りする場所はあそこだ」
鉄人は外にあったボロい倉庫を指差している。
まさか……
「
鉄人がすごい自信有り気に僕らにそう言ってきた。
いくら鉄人が言っても……夜の暗闇の中でも、ところどころ壁に穴が開いているのが判る。
「騙されたと思って行ってみろ。外観はああだが、ちゃんと風呂も個室もある」
☆ ☆
「「「「だまされたぁぁぁーーっ!!」」」」
風呂は五右衛門風呂。
今時、薪を使ってお風呂を沸かすなんて……
無人島にでも行かないとこんな体験はしないだろう。
部屋は確かに個室なんだけど……
畳から変な匂いはするし、廊下は気をつけて歩かないと床が抜けるし……
でも、天井から見える星が綺麗だった。
――――今日は晴れていて良かったなぁ。
…………こうして
僕の提督としての着任初日は無事(?)終了した。
そして次の日……着任二日目の朝。
―― 明久の執務室 ――
「じゃあ、まずは秘書艦をどうするか決めようよ」
僕が二人に向かって、そう話しかける。
秘書艦とは字の如く、僕ら提督の仕事の色々なフォローを
付きっ切りでしてくれる艦娘の事らしい。
ババァが言うには提督と艦娘の絆を深めるためにも重要みたいなんだけど……
「……私はまだ日本語の読み書きが出来ないから、しばらくは瑞希で良いんじゃない?」
島田さんはそう言うと、くるっと向きを変えてドアの方へ歩いていく。
「美波ちゃん……」
「島田さん、何処へ行くの?」
「散歩がてら、ちょっと周辺の見回りに行ってくる」
僕の問い掛けに島田さんはこちらを振り返ることなく、そのまま部屋を出て行った。
そして僕と二人っきりになると……
姫路さんが頬を少し染めて真剣な表情になり
「あの……吉井君に聞きたい事があるんです」