バカと艦娘と恋心   作:mam

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「「緊急連絡(ですか)?」」

 僕と瑞希さんが頭に『?』を浮かべながら、雄二の顔を見ていると……


――ヴィィィィィ ヴィィィィィ ヴィィィィィ

 緊急時のサイレンが鳴り響き、続いて放送が入る。

『深海棲艦一体が鎮守府内海域において行方不明』
『なお、深海棲艦は被弾している模様』
『発見次第排除せよ……繰り返す、発見次第排除せよ』


「雄二が言ってたのって今の放送の事?」
「ああ。連絡があってすぐに翔子と工藤は海に出たんだが……」

 雄二はそう言うと部屋の中を見回して

「島田は何処へ行ったんだ?」
「美波ちゃんなら……」
「島田さんはさっき見回りに行くって出て行ったよ」
「そうか……なら、姫路も早く擬装をつけて捜索に加わってくれ」
「判りました」

 雄二は(せわ)しなく部屋を出て行った。

「美波ちゃん、大丈夫でしょうか」
 雄二の出て行ったドアを見ながら瑞希さんが心配そうに呟く。

 正直言って、瑞希さんもそうだけど島田さんの実力をまだ見ていないから……
 本当にこんな可愛い顔をしていて、あんなに怖そうな深海棲艦と戦えるのだろうか。

 でも……

 ここで考えていても仕方ないか。
 島田さんが見回りに行くって言ってからだいぶ経ってるし
 ひょっとしたら見回りを終えて戻ってきているかもしれない。

「ごめん。瑞希さんも付いてきてくれるかな?」
「それは構いませんが……明久君、何処へ行くんですか?」
「とりあえず工廠へ行こう。島田さん、見回りが終わってるなら擬装を外してると思うから」
「はい。判りました」

 そして僕と瑞希さんは工廠へ急いだ。



☆   ☆   ☆



「美波ちゃん、居ないですね」
「F地区司令部へ向かってるなら僕たちとすれ違ってるはずだから……」

 そう言いながら島田さんの擬装を確認すると……ここに置いてあった。
 どうやら見回りはすでに終わっていたらしい。

「瑞希さんはすぐに擬装を装着してくれる?」
「はい……あっ、明久君。何処へ行くんですか?」
「僕は購買の方へ行ってみる。瑞希さんも擬装の装着が終わったら来てくれるかな」
「はい、判りました。すぐに追いかけますね」
「よろしく頼むね」






美波との絆
ウチと男の子とBon Voyage


 

―― 15年前 フランス ――

 

 

 

「わぁ、大きなお船だね」

 

 一人の小さな男の子が目をキラキラさせて私を見ている。

 そして男の子を挟むように男性が二人、立っているわ。

 すると一人の男の人が男の子の頭を撫でながら

 

「この艦を気に入ってくれたのかい?」

「うんっ」

 

 どうやら私の事を気に入ってくれたみたい。

 男の子はにこにこしながら私に向かって手を振ってくれている。

 その笑顔が可愛くて……ちょっと気になるわね。

 

 私は今、地中海に面したフランスの観光地、マルセイユに停泊している。

 そして私の名前は……

 

 

「この艦はね」

「うん」

「どんな荒波にも負けず、華麗に美しく波を切り裂くように速く進む艦になって欲しくてね」

「へぇ……美しく波を……」

「そうだよ。だから、この艦の名前はね」

 

 

「――――『美波』って言うんだよ」

 

 

「美波……綺麗なお名前だねっ」

「名前も気に入ってくれたかい?」

「うんっ」

 

 男の子は元気良く返事をすると、もう一人の男の人に向かって

 

「ねぇ、お父さん?」

「なんだい?」

「僕、このお船と友達になりたいんだ」

「明久はどうやって友達になるつもりなのかな?」

「友達になってくださいって言いたいんだけど……」

 

 男の子はそこまで言うと、両手を合わせてもじもじしている。

 雰囲気がちょっと困っている小動物っぽくて可愛いかも。

 

「じゃあ、そのまま言ってみたら良いんじゃないか?」

 男の人が笑顔でそう言うと……

 

「でも、ここ日本じゃないから……この国の言葉で言った方が良いかなって」

「そうか……それならフランス語だね。明久、良く聞くんだよ」

「うんっ」

 

 元気良く返事をする男の子の頭を撫でながら

 男の人が一言一句、丁寧に教えてあげている。

 

 しばらくすると男の子がすごく真剣な顔で

 

「えっと……ちゅっ……ちゅうぬ…えっとえっと、ぷどれぱ……」

 

 男の子は口篭りながら一生懸命、何かを言おうとして

 何度か途中で言うのを止めて呟くように言葉を思い出している。

 

 やがて……

 

 

 ――――男の子は満面の笑みで私に向かって言葉を掛けてくれた。

 

 

『ちゅうぬ……ぷどれば、どぶにいるもなみー』

 

 

 こうして、この男の子が……

 

 私の初めての友達になった。

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

―― 三日後 ――

 

 

 男の子は毎日、私のところへ来て甲板まで上がり

 嬉しそうに自分の事を話してくれたり、お父さんやお母さんの事

 昨日見たテレビのアニメや漫画の話をしてくれたりした。

 

 でも一回も勉強の事を話していなかったわね……ちょっと苦手なのかな?

 

 そして男の子と一緒にいつも男の人も二人、来ていたわ。

 今日も一緒に来て、男の子から少し離れたところで何か話しているわね。

 

 

「船による輸送で輸入に頼っていた日本だと深海棲艦が現れてからは、艦の建造に資材が全然回ってこなくなったんだ」

「それでわざわざ俺を呼んでドイツで造ったのか」

「まぁ、そう言うなよ。お前の人脈のおかげで資材や人材を集められたんだからな。感謝してるよ」

 

「俺と言うより、ほとんど家内のだけどな。元々経営コンサルタント事業は彼女が始めたんだし」

「そうだったのか」

「そうなの……それより、今更だけど今の日本で、この艦を作る必要があったのか?」

「そうだな……俺がこの艦を造ったのは誰かを守るために作ったつもりなんだ」

 

「守る?」

「ああ。今の装備だと深海棲艦を倒す事は出来ないが……この艦の速度なら逃げる事は出来る」

「ずいぶん消極的だな」

「そう言うなよ。今はまだ深海棲艦を倒すのは艦娘たちに頼らざるを得ないけど、きっとそのうち……」

 

「そのうち?」

「対抗できる技術が生まれると思うんだ。それまで造船を含めた日本の技術を衰退させないためにもこの艦を造ったんだからな」

「その技術とやらは……いつごろ出来そうなんだ?」

「わからん。俺たちが生きてる間には、たぶん無理だろうが……きっとそのうち、だ」

 

「それまで日本という国家が存続していれば良いけどな……ところでいつまでマルセイユにいるつもりなんだ?」

「なんだ、日本が恋しいのか?」

「違う。明久の夏休みが終わるまでに日本に帰れるか心配してるんだよ」

「そろそろだと思うんだがな……この艦の護衛を頼んでいる艦娘たちが来るはずなんだが」

 

「なんだ。この艦なら逃げ切れるんじゃなかったのか?」

「何処までも海が続いていればね。スエズ運河を使う予定だからドイツから地中海にやってきたんだよ」

「そうか、それでマルセイユで待ち合わせにしたのか」

「ああ。お前にも俺の仕事を見せたかったしな」

 

「明久も連れてきちゃったけど……良かったのか?」

「大丈夫、この艦が動くまでは何もする事が無いからな。明久君も喜んでいるみたいだし」

「ありがとう。あの子は何にでも興味を持つし、誰とでも友達になりたがるから」

「そう言えば、この艦を初めて見た日に友達になっていたっけ」

 

「あの子の優しいところは良いんだが……ちょっと抜けているところもあるからな」

「お前がそれを言うのか。親父そっくりじゃないか」

「ああっ。お前までそんな事を言うのかっ!?」

 

 男の子を見ながら、二人がそんな話をしていると……

 

 

 PiPiPiPi…… PiPiPiPi…… PiPiPiPi……

 

「ん?俺の携帯か」

 そう言って携帯を取り出して画面を確認している一人の男の人。

 そして画面を確認すると慌てて携帯を操作し、耳に当てて……

 

「あれ……繋がらないな?」

「此処は戦闘艦の上だからな。通信とか入ると電波障害が起きて携帯は使えなくなるぞ」

「むぅ……早く電話しないと大変な事になるんだよ」

「何か仕事上のトラブルか?」

 

 すると電話をしようとしていた男の人が顔を青くして

 

「家内からの電話だったんだ。早く掛け直さないと俺が大変な事になるんだよっ!」

 

 この人の奥さんは一体どれくらい怖い人なのかしらね?

 

「じゃあ、仕方ない。この艦から降りて掛け直すしかないな」

「おーい、明久――」

「ちょっと降りるだけだから大丈夫だろ。それより急がなくて良いのか?」

「そっ、そうだな」

 

 そう言うと慌てて降り口へ向かう男の人を追いかけるように

 もう一人の男の人も移動する。

 

 ちょうどその頃、艦橋では……

 

 

 

 

―― 艦橋内 ――

 

 

『艦長、緊急連絡が入電しました』

『内容は?』

『深海棲艦三体が我が艦に向かっているとの事です』

『本日ここへ来る予定の艦娘はいつごろ到着予定だ?』

 

『どうやら、その深海棲艦を追いかけてきているようです』

『ふむ……乗船していた民間人はまだ艦に居るのか?』

『先ほど艦を降りたとの事です』

『ではすぐ出航する……出航準備出来次第、すぐに出航せよ』

 

『『『『はっ』』』』

 

『どうするおつもりなんですか?』

『ここに泊まったまま砲撃されるよりは、一回やり過ごしてそのまま逃げ切った方が良いだろう』

『そうですね』

『それにここに居たままでは港も破壊されかねん』

『はっ。了解しました』

 

 

 

 

―― 桟橋 ――

 

 

「電話は終わったのか?」

「ああ……今日は久しぶりに日本食が食べたいから俺と明久で御飯作れって」

「お前も大変だな」

 

 二人が私の方に戻ってくると……

 

 すでに吊り階段は跳ね上げられていて、錨も巻き上げ終わる寸前だった。

 

「ああっ!まだ明久が乗っているのにっ!!」

「一体、何があったんだっ!?」

「どっ、どうやったらあの艦止めてくれるんだっ!?」

「これだけ急いで出航するとなると……たぶん緊急で何かの指令が出たんじゃないか」

 

「お前っ、あの艦の艦長の携帯番号とか知らないのかっ!?」

「ちょっと落ち着け。携帯が繋がらないから俺たちは艦から降りたんだろ?」

「じゃあ、どうすれば良いんだよっ!?」

「とりあえず司令部へ行ってみよう。たぶん通信管制で向こうから発信は出来ないけど受信は出来るはずだ」

「よしっ!すぐ行くぞっ!!待ってろよ、明久っ!」

 

 

 

 ――――こうして私は男の子を乗せたまま、港から出航した。

 

 






本文は美波視点です……一応念のため。
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