バカと艦娘と恋心   作:mam

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ウチと日本と初めての鎮守府

 

 駅からタクシーに乗って20分ほど走ると……

 陽炎さんたちの鎮守府に着いた。

 

 

 そしてメインゲートから20分ほど歩いて小ぢんまりとした建物の前に来ると

 

「ここが私たちの宿舎よ。今日は私と一緒の部屋でも良いわよね?」

 陽炎さんがそう言ってくれた。

 

「はい。よろしくお願いします」

 もちろん、嫌な訳がない。

 むしろ私がお邪魔して申し訳ないくらいなのに。

 

 宿舎の中に入り、見慣れない制服や和服を着た初めて会う艦娘に挨拶をしながら

 廊下を少し歩いて階段で二階へ上がり、陽炎さんの部屋に案内された。

 

「ここが私の部屋よ。二人で寝るにはベッドはちょっと狭いかもしれないけど我慢してね」

「いえ、私の方こそ押しかけてきてごめんなさい」

「ここへ誘ったのは私だから気にしなくて良いわよ。それより……」

 

 そう言って持っていた手提げ袋を机の上に置き、私の顔を覗き込むように見ると

 

「うちの司令に早く会いたいんでしょ?顔にそう書いてあるわ」

「えっ!?」

 

 私が慌てて両手を頬に当てていると陽炎さんは、にこっと微笑んで

 

「隠さなくても良いわよ。よっぽど、その男の子に早く逢いたいのね」

「――はい」

 

 そんなに顔に出ていたのかな?

 ちょっと恥ずかしいわね。

 

「じゃあ、司令に会いに行きましょうか」

「よろしくお願いします」

 

 私と陽炎さんが階段を下りて宿舎の出入り口へ行くと

 金剛さんと衣笠さんも荷物を置いてきて私たちを待ってくれていた。

 

 そして四人で少し離れた所にある三階建ての建物へ。

 中に入り、【執務室】と書かれたプレートが掛けてある扉をノックすると……

 

 

――コンコン

 

 

『どうぞ』

 

「失礼します」

 

 陽炎さんを先頭に三人が部屋の中に入った後、私も部屋に入る。

 部屋の中には、大きな机の上で書類を書いている最中だったらしく

 白い軍服を着た男の人がペンを持ったまま、私たちの方を見ている。

 

 

「提督、まだ仕事してたの?」

「無理はしないで欲しいデース」

 

 衣笠さんと金剛さんが心配そうに声を掛けている。

 この人が陽炎さんたちの提督なのね。

 

 提督と言うくらいだから、もっと年を取った人かと思っていたんだけど……

 パッと見、金剛さんと同じくらいかな?

 私や陽炎さん、衣笠さんの少し年上のお兄さんといった感じね。

 すごく優しそうな雰囲気で軍人と言うには、ちょっと……

 頼りない感じがするわね。

 

 

「誰のせいでこんな時間まで仕事をしていると思っているんだ……」

 提督が疲れ切った顔で私たちの方を見ると

 

「司令、ごめんね」

 陽炎さんが両手を合わせて片目を瞑って謝っている。

 

「陽炎が俺の部屋の鍵を持って行っちゃうから、風呂に行こうにも着替えも出せないし」

 提督はそう言うと立ち上がり、私たちの方へ歩いてくる。

 

「今朝、司令の部屋の掃除をしていたら鍵を返すの忘れちゃったのよ」

 陽炎さんが、「はい、これ」と提督に鍵を渡している。

 すると衣笠さんが悪戯っぽく笑って

 

「ホントは掃除と称して提督の部屋の抜き打ちチェックしていたくせにぃ」

「ちょ……それは言わないでよっ!?」

 

 笑っている衣笠さんの口を塞ぐように手を(かざ)す陽炎さん。

 陽炎さんが少し横に動いたので、後ろに居た私は提督と目が合った。

 

「うん?この()は……文月の制服を着ているな。この娘も艦娘なのかな?」

「提督に話があるそうデース」

「あの……」

 

 いきなりだったので私が何を言おうか考えていると

 

「司令っ!私たちと初めて逢った時の事、覚えてる?」

 

 今さっきまで衣笠さんとふざけていた陽炎さんが真剣な表情(かお)で提督を見ている。

 

 

「――――忘れるもんか」

 

 

 すると陽炎さんの表情から何かを汲み取ったのか……

 提督も疲れた顔から一転して真剣な顔になり

 

「俺が海軍に入りたての頃、初めて乗った艦がいきなり――――っ!?」

 

 そこまで言いかけて……何かに気付いたのか、私の方を見ると

 

「ひょっとして……君はあの時の駆逐艦かっ!」

 提督は少し驚いた顔で私を見ている。

 

 私がまだ艦だった頃、一度会っているけど……

 艦娘として会うのは初めてだし、とりあえず最初は挨拶からよね。

 

「あの……初めまして。今度、文月鎮守府に着任する美波と言います」

 私がそう挨拶をして頭を下げると

 

「ああ、初めまして……に、なるのかな?でも文月じゃなくて、どうしてここへ?」

 首を傾げて私を見ている提督。

 それもそうよね。違う鎮守府に……しかもこんな夜遅くに来るなんて。

 

「私たちが東京から帰ろうとして電車に乗る時、この子が迷っていたから連れてきたの」

「そうか。それなら文月の司令官の方には俺から電話しておくよ」

 衣笠さんが説明をすると、提督は机の上のメモに何かを書いている。

 書き終わったのを確認して陽炎さんが

 

「司令?昔、美波さんに乗っていた時、男の子と一緒だったでしょ?」

「ん?……ああ、小さな男の子の相手をさせられていたが」

「その子の事を知りたいんだって……覚えている事、なんかないの?」

「覚えている事?うーん、そうだな。確か、名前を聞いた覚えはあるんだが……」

 

 陽炎さんに質問をされて提督は少し俯いて指をおでこに当てて考えている。

 名前……すごく重要な手掛かりになるわねっ!

 

 私はドキドキしながら待っていると……

 提督は私の方を見て少し微笑んで

 

「――すまんっ!全然覚えて無いっ!」

 

 両手を“パン”と合わせて私に頭を下げている提督。

 

 

 ――――ええ~~っ!?

 

 

 確かに私も『あの言葉』はハッキリと覚えているのに

 名前をすっかり忘れちゃっているけど……

 

「ちょっと、司令っ!もっとしっかり思い出しなさいよっ!」

 陽炎さんはそう言うと提督の頭を両手で押さえて……

 

 

 ――――思いっきり振っている。

 

 

「ちょっ……ちょっと落ち着けっ!」

 提督は手をバタバタさせているけど……陽炎さんは一向に振るのを止めなかった。

 すると衣笠さんが陽炎さんの手を押さえて頭を振るのを止めさせた。

 

「そんな事をしても提督の頭には全然効かないと思うわよ?」

「すまん、衣笠……って、今度は動かせないぞっ!?」

 衣笠さんは陽炎さんの手の上から

 提督の頭を押さえて動かないようにしているわね。

 

「そうデスネー。振るより叩いた(こっちの)方が効果的だと思いマース」

 金剛さんが右手の拳を思いっきり握り締めている。

 

「ちょっと待てっ!俺は壊れた家電じゃないぞっ!?」

「確かに壊れてはいないけど、鈍いのは治るんじゃないかな?」

「鈍いって、なんの事だ――――っ!?」

 

 金剛さんが振りかぶった拳を躊躇なく提督の頭目掛けて……

 

 

―――― ゴンッ

 

 

 鈍い音が響いた。

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

「いつつ……」

 

 提督が涙目で叩かれたところを押さえながらソファに座っている。

 

「……少しは手加減してくれないと男の子の名前を思い出すどころか、自分の名前を忘れそうだ」

「それで思い出せたの?」

「全然。15年前にほんのちょっと一緒に居た人の事を覚えているほど俺の記憶力は良くないぞ」

 

 陽炎さんの質問に手を振って答えている。

 すると陽炎さんがその手を握り締めて

 

「でも司令とその男の子、一緒に仲良く死に掛けたんでしょ?」

「仲良く死に掛けたって……」

「吊り橋効果って言うんだっけ?危険な目に会った男女が恋に陥りやすいって」

 

 陽炎さんがそう言うと、提督はため息を一つ付いて

 

「あのな……俺は男なんだぞ?なんで男の子と恋に落ちなきゃならんのだ」

 

 そう言って陽炎さんと金剛さんを見て

 

「あの時程度の危険な目になら俺はほぼ毎日会っているぞ……お前らのおかげでな」

 

 

「提督ー!それって毎日私と恋に落ちているって事デスカー?」

「ちょっ……そんな訳ないじゃないっ!?」

「陽炎、落ち着けっ!俺の腕がもげるっ!」

 

 金剛さんは嬉しそうな笑顔になって両手を胸の前で合わせ

 陽炎さんは握った提督の手をブンブン振り回して

 提督は顔を青くして陽炎さんをなだめている。

 

 確かに毎日これだと命の危険に会ってそうね。

 

 

 私が、この前まで居たドイツの鎮守府だと少し固っ苦しい感じだったんだけど……

 日本の鎮守府って全部こんな感じなのかしら?

 

 

 そこへ衣笠さんが、水で湿らせたタオルを持って戻ってきた。

 

「ほらほら、美波さんがビックリしてるじゃない」

 

 陽炎さんが大人しくなったのを見て、提督の頭にタオルを当てる。

 

「大丈夫?痛くなぁい?」

「ありがとう……それで名前は覚えていないけど、日本にいるのは間違いないと思うよ」

 

 衣笠さんにタオルを当てられて若干表情が(やわ)らいだ提督がそう言った。

 

「なんで判るのよ?」

 陽炎さんが首を傾げながら質問をすると

 

「まず名前が日本語だったのと……」

 提督は、あごに手を当てながら思い出すように話を続けている。

 

「フランス海軍司令部へ戻った時、父親に会って日本に戻るって言っていたからな」

「後は名前を覚えていたら良かったのに……ごめんね」

 

 何故か、陽炎さんが私に向かって頭を下げて謝っている。

 私は慌てて手を振り

 

「いえ、日本に居るのが判っただけでも大収穫です。ありがとうございました」

 この部屋に居る人たちに向かって、ぺこりと頭を下げる。

 

 

 きっとドイツに居たら、何処の国に居るのかさえずっと判らなかったでしょうし

 ビスマルクの言ってた通り、日本に来た甲斐があったわね。

 

「ところで提督?」

「ん?」

 

 衣笠さんが提督の頭にタオルを当てながら質問をしている。

 

「私たちが何処に行って何をしてて帰ってくるのが遅くなったのか、気にならないの?」

「今日一日、ずっと気にしてたに決まってるじゃないか」

 

 陽炎さん、衣笠さん、金剛さんの三人が

 身体全体から嬉しそうなオーラが出てキラキラした状態になったように見えて……

 

「お前らが帰ってこないと俺は風呂に入る事も寝る事も出来ないからな」

 

 提督が疲れた顔でそう言うと……三人は無言のまま

 

 陽炎さんは、握っていた提督の手の関節を外して

 衣笠さんは、首がめり込むんじゃないかって言うくらいタオルを頭に押し当てて

 金剛さんは、また右手を握り締めて振り上げている。

 

 

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 確かにこの提督(ひと)なら……

 

 陽炎さんたちの気持ちには永遠に気が付かないかもしれないわね。

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 

―― 次の日。

 

 

 陽炎さんは昨日言った通り、文月鎮守府の最寄の駅まで私と一緒に来てくれた。

 

 

 別れ際に陽炎さんが私の手を取り

 

「私が司令と逢えたのも……今一緒に居られるのもあなたのおかげなのよ」

 

 そして嬉しそうに微笑んで

 

「だからあなたにお礼をしたかった」

 

「こんな事くらいではまだまだ足りないけど……あなたがその男の子に逢えるよう祈っているわね」

「ありがとうございます」

 

 私は文月鎮守府の方へ向かって歩きだし……

 すぐ振り返って

 

「陽炎さんも頑張ってくださいね」

 

 私がそう言うと陽炎さんは首を傾げて

 

「頑張るって何を?」

「提督との事です」

 

 すると陽炎さんは優しく微笑むと

 

「昨日はちょっとあれだったけど……ちゃんと私たちの事を見てくれているのよ」

 

 とてもそうは見えなかったんだけど……

 私がそう思っていると

 

「ほらほら、早く行かないと……今日、あなたの提督が着任するんでしょ?」

「本当にありがとうございました」

「あなたも頑張ってね」

 

 陽炎さんの声援に送られながら私は鎮守府へ向かって走り出した。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

 私が桜並木の下を鎮守府に向かって走っていると

 前に白い軍服を着た一人の男の人が道の真ん中をのんびり歩いていた。

 

 もぅっ!急いでいるのにっ!

 

 私は走りながら思わず……

 

「Nur für einen Mo(ちょっと)ment, bewegen Sie sich beiseite(どきなさいよっ).」

 

 

 

 ――これが私の提督になる、吉井との出会いだった。

 

 





美波との絆編は、もう少し続きます。
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