やはりトレセン、トレセンこそ至高の後ろ盾だァ   作:庭顔宅

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皆様はすごいのであらゆる言語が日本語に聞こえます。

けっして私が日本語しかわからないからではありません。


それは冬でありながら熱っ苦しい日だった。

次の日。私は相も変わらず働いていた。昨日は帰ってもご飯を食べる気になれず我らの味方、栄養食品を食べた。そしてニュースを見ようと思ったがトップニュースにレースが見えてしまいそっとフェイドアウトした。暇な時間が増えてしまったので珍しくお風呂を溜めた。テレビも見る気にもなれず、何か変化をと思ってお風呂に入ることにした。

 

結果から言うと最高の暇つぶしになった。ただボーっと熱いお湯に身を包まれながら何かを考えることも無く浸かっていた。時間も気にせず手がふにゃふにゃにふやけるほど入っていた。お風呂を出たのは23時だった。その後は寝た。

 

「紅助さん。来てください。」

 

たづなさんは昨日と同じ時間に来た。その顔は優しさの中に少しだけ厳つさが見えた。

 

「はい。」

 

昨日と同じ会議室に行った。昨日と違う点があるとするなら今日は曇りなのでカーテンを開ける代わりに会議室の照明をつけた。そして机の上に紙袋が見えた。

 

「その紙袋には昨日の服が入っていますよ。持って帰ってくださいね。」

 

「はい。」

 

たづなさんはそう言って昨日と同じ椅子に座った。そして私も昨日と同じ場所の椅子に座った。

 

「紅助さん。何か変わったことはありませんか?考え方とか思い…とか。」

 

「…ないです。」

 

私は首を横に振る。変わる以前に考えることも無く昨日は寝てしまっていた。

 

「それでは覚悟はありますか?変わる覚悟が。」

 

覚悟…ねぇ……

 

「これ以上に無いぐらいには出来ていますよ。」

 

紅助は困ったように微笑いする。

 

正直に言おう。これ以上を求められても困りますよ。

 

「それでは、ちょっと失礼しますね。」

 

たづなさんは携帯電話を取りだし何処かへと電話を掛ける。そして私に近づいてくる。

 

「紅助さんどうぞ。」

 

たづなさんは携帯電話を私に渡してくた。おどおどしながら私は電話にでる。

 

「……もしもし?」

 

「…その声…よく似てる。お前がデスフォレッサだな。」

 

「……ベルッサアルマ…」

 

ベルッサアルマ。昔、まだ私が走っていた時にしのぎを削り合った長距離先行ウマ娘。その言葉の荒さは動きにも出ている。もはや親の敵とでも言わんばかりに敵意をむき出しにするがそれ以上はない。何をしたいのか結局わからずじまいだった。

 

「何かようでもあるのか?」

 

「こりゃひでぇな。わざわざ理事長秘書様が時間を取れないかと連絡くれたのに。それがこんなのの為になんてな。」

 

やれやれとわざとらしくそして大げさに肩をすくめる姿が頭の中に思い浮かんだ。

 

「悪かったな。理事長秘書には悪いことを言ってやらないでくれ。」

 

「はぁ………はぁ……………このバカが。バカだ。いやアホか?まあいい。早速本題に入ろう。何か聞きたい事があるんだろ?」

 

「ない。」

 

「嘘だな。諦めろ。私は諦め無いぞ。さっさと話せ。」

 

ベルッサアルマはいつもそうやって結果や目的から話すタイプだ。理由とか過程とか全部吹き飛ばして結論から攻めてくる。それは言葉だけではなく走りにも出てくる。彼女が前に出ようとして追い抜き切れなかったことは殆ど無い。問題はその状態を最後まで維持出来ることが少ないことだ。主に私によって。

 

「……なぜ走る?」

 

「……?…どういう意味だ?もしかしてお前は二足歩行動物がなぜ歩くのかとでも聞いているのか?」

 

「言葉通りだ。なぜ走る。どういう理由でベルッサアルマは走る?」

 

「は?理由なんてねぇよ。走りたいから走るんだろうか。何が言葉通りだ。だ?ふざけているのか?」

 

そんな答えを聞きたいわけじゃあないんだけどな……いったいどう聞けば良かったのだろうか?

 

「はぁ……話せ。全部話せ。面倒くさい。そんなことを聞く理由とか過程とか、全部話してみろ。」

 

全部……全部。問題って何だっけ?何をこれだけ困っていたっけ?なぜ私は走るのを辞めたんだっけ……あぁ…思い出した。

 

「私は走ることに嫌気が刺した。…貴女達は平然と走っていられるんだ?」

 

「…走りたいからだ。競いたいからだ。俺が一番になりたいからだ。先頭でゴールして注目を浴びたいからだ。そして再び挑んでくる奴らを蹴落としたいんだよ。」

 

性格悪いなぁ……まあわからないことは無いけど。あの優越感は確かにくせになる。そして負けた悔しさの分だけ次の優越感が増す。

 

「……だからだよ。」

 

「………どういうこと?……ん?」

 

「依存しているように感じた。普段は気にもしない。だが走り出したら全てを忘れて走ることだけに集中してしまう。その感覚が嫌だ。」

 

「ほーーん…別に良いんじゃねぇの?」

 

「は?」

 

何を言っているんだ?嫌だといったのに良いんじゃねえの?と返された。まったく意味がわからない。

 

「依存って言ったら聞こえ悪いけどよ。別に悪いことしてないだろ?」

 

「……」

 

「気持ちよく走って賞金が貰える。俺たちの走りに歓声が沸く。良いことだろ?むしろまだ嵌まってなかったのか?」

 

聞けば聞くほど、納得してしまう。いったい何が問題だったの?なんでそこまで…嫌気を感じていたんだ?

 

「……」

 

「よしならばいい。半年後アメリカG1長距離出ろ。」

 

「…なぜ?」

 

「まだわかっていないなら走って確かめろ。最後にまた走ってから決めろ。あそこのマスターはお前のこと高く評価してるからよ余裕で出れるだろ。それにあの追従のデスフォレッサの復帰だぞ?お前が無理なら誰が走れるんだって話だ。」

 

「私は非公式だよ。ゲストとして参加していただけだ。」

 

「それは理由になってないぞ?結果は変われねぇ。もう一度言う、…いや俺から連絡入れるわ。何が何でもねじ込むから半年後のレースまでにアメリカ来い。」

 

「もう覚えてないよ。参加方法も飛行機の乗り方も何もかも。」

 

「ならそこの理事長秘書に頼めば良いだろうが。いい加減諦めろって言ったろ?出ろ。」

 

……理事長秘書様だよ?忙しいに決まってる。そんなサービス残業をやるお人好しなんて…………いたね。サムズアップしてる。若干いつも以上に笑顔な気がする。

 

はあ……こんなに悩むのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。

 

「…もう一つだけ聞いて良いか?」

 

「おう。なんだ?」

 

「実は私、外見にコンプレックスを持ってるんだ。それでも……私は走れるかな…?」

 

「問題ねえよ。足があって走れるなら問題ねえよ。」

 

「……わかったよ。そんじゃまぁリハビリでもして待ってるから首くくって待ってろ。」

 

問題無いね……上等ってところかな。まぁ前と同じ走りが出来たら外見なんて関係ないか。たとえ坊主で出場してもそれはそれでネタになるのかな?

 

「俺も一つ聞きたい、いや言いたい事出来たわ。」

 

「なに?」

 

「俺たちの戦績覚えているか?」

 

「全く。」

 

そもそも勝ち前は気にしない。大切なのは追い抜ききって一位になるか。追いつけずに負けるか。それだけ。たまにクソ煽ってくるウマ娘がいること以外どうでもいいね。

 

「バカッが!!最高記録それぞれ4連勝、2連勝勝で俺の負けだ。このクソがッ!?」

 

「はっは……そうなんだ。」

 

それでどうしたいんだよ?怒鳴りつけたいのか?

 

「本題はそこじゃない。今俺が何連勝してるかわかるか?わかるよなぁ??むしろわかれ!」

 

「2連勝…?」

 

戸惑いながらも言う。この数字ならば無駄に怒鳴られることも無いだろう。

 

「正解。と言うことで次は俺の三連勝を掛けた大事なレースになるんだよ。言いたいことは…わかるよなぁ??」

 

「安心しろ。言い訳はしない。そして貴女も言い訳しないでよ?」

 

「もちろんだ!!」

 

「それ聞いて私も言いたいこと一つ出来たわ。」

 

たぶんどんなウマ娘でも共感できないと思うけど私はそう思っている。

 

ベルッサアルマはいじめると面白い。

 

ベルッサアルマは基本怒り、煽りウマ娘だ。だからこそ煽りには慣れている。良い意味でも悪い意味でも。ウマ娘達はうるさいとウザいと離れていくが私は理解が出来ない。あの止まらないマシンガン貶しトーク。聞くだけならおもしろいのに……今回は電話。耳の防御性も充分。つまり今やるしか無いよなぁ~?

 

「ん?なんだ?」

 

「実はまだ全盛期じゃないんだよね。」

 

「は?」

 

「まぁ明確な年齢は知らないけど記録的にはそろそろ全盛期に突入しようとしてるんだ。」

 

「ハ?」

 

「だけどそれを言い訳にするなよ?じゃあな。」

 

「オイッ!!?ふざけr」

 

私は電話を切る。あのまま電話を続けていたら止まることなく罵倒が出てくるだろう。そしてもし私が目の前にいたのなら、私の後ろにピッタリと付いてきて罵倒を叫び続けるだろう。街角を曲がっても階段を上っても後ろにピッタリと続いている。さらにその後ろにはボディガードらしき人物が冷や汗をかきながらベルッサアルマを追いかけてくる。ご飯を食べようとお店に入るとベルッサアルマも一緒に入ってきて一緒の席でご飯を食べる。どうやらベルッサアルマはVIPのようで個室に案内される。口に食べ物が入っている間以外は罵倒は続くからそうで無くても隔離して正解だ。

 

ちなみにその時間帯になるとただの愚痴になっている。本当は苦労してるなーとか寂しそうだなぁとか嬉しそうに話すなーとか思いながらジュースを飲んでいる。

 

もし私より頭一つ小さい身長であればそこに可愛いが追加されていたのに……と思っていたりする。

 

なんだろう…肩に詰まっていた何かが飛んで行った気がして体が軽い気がする。

 

「たづなさん。ありがとうございます。」

 

私はそこでやっと携帯電話を返す。

 

「いえいえお構いなく!そして半年後のレースに関してはお任せください!!」

 

「えっと…あの……参加方法も飛行機の乗り方も覚えているので大丈夫ですよ…?」

 

さすがに覚えている、というか忘れられないと言うべきだろうか?参加については最悪オーナーに用意しろ、さもなくば出ない。出れないぞ?と脅せばなんとかなる。そして経費あっち持ちで良いホテルに泊まれるおまけ付き。

 

「いえいえお構いなく!一年と半年も事務員をしていたんですよ?その期間を取り戻すのは大変ですよ!!リハビリに専念してください!!」

 

「……退職したいので後で退職届を受理してください。」

 

「はい受理します。そして貴女は外部インストラクターとするのでこの学園でリハビリしちゃってください!場所に関しては後日決めるのでお待ちいただく感じにはなってしまいます。ごめんなさい。」

 

「いえ!わざわざそこまでして頂く訳には行きません。賞金がまだあるので3,4年ぐらいなら遊んで暮らせる程度には持っていますのでわざわざこの場所を貸して頂かなくても……」

 

「それじゃ私が貴女のサポートを出来ないじゃ、じゃなくて申し訳ありませんが貴女のその外見で外に放置は出来ません。トレセン学園で保護します。色々と回す手や埋める堀があるので時間は掛かりますがちゃんとそこら辺も対処します!」

 

「えっと………」

 

たづなさん……強い。

 

「あっ実はもう一人連絡を付けた相手がいるのでせっかくなのでそっちにも連絡して見ましょう!」

 

「いえ必要はあり…」

 

たづなさんを止める前に電話のコール音が鳴り響く。私は諦めてたづなさんから電話を受け取る。

 

「もしもし。」

 

いったい誰だろう?そんな事を思いながら電話に出る。

 

「あらお久しぶりねデスフォレッサ。会いたかったわ。」

 

「まさかアリーゼモーラさんとは、お久しぶりです。」

 

さすがにすごいと言うしか無い。たづなさん。相手名門ですよ?海外の名門ですよ?なぜアポが取れるの?

 

アリーゼモーラ。中距離逃げウマ娘。水色の髪は本当に水のように薄く、青い目を引き立たせる。ひょんな事から縁があり最終的には一緒にご飯を食べるくらいには仲が良くなった人だ。この人から私は文明の利器(スマホ)とか映画とかを授けてもらった。

 

「いったいこの約二年間何をやっていたのかしら?私に連絡もせずに消えてしまって。」

 

「あはは…すみません。火急でしたもので。」

 

「まあいいわ。それで相談って何かしら?」

 

「えっと……」

 

もう終わったんですけど…聞きたい事…言いたいこと…あるとするならば

 

「私が居なくなってどう思いましたか?」

 

「それは客観的に?それとも主観的に?」

 

「両方でお願いします。」

 

「そうね。客観的には戸惑い。主観的には悲しかったわ。」

 

「悲しい?」

 

聞いてスッと耳に通る。悲しい。そう言われて頭に涙は流さないけど顔を暗くするアリーゼモーラを思いついた。

 

「ええ悲しかったわ。いきなりライバルがいなくなったもの。これで大丈夫かしら?」

 

「はい。」

 

「私は貴女の質問に答えたわ。次は私の番よね?…それで?なんでいなくなったの?理由はちゃんと教えて貰えるのよね?」

 

痛いところを突かれる。あの時は逃げるように日本に逃亡したかから余裕が無かった。環境が整っても昔の友に連絡を入れる気にはなれなかった。いや思い出したくなかった。

 

「そうですね……嫌になったからです。」

 

「嫌に?」

 

「はい…なんと言いますか麻薬のような依存した感じが嫌になりまして……」

 

「そう。もう大丈夫なの?」

 

「はい……いやっ!?麻薬なんてやっていませんよ?ちょうど良い例えがそれだと思っただけで。」

 

「はいはい。もう克服したのならいいわ。」

 

「ほんとうにやっていませんよ。」

 

「そんなことより。貴女これからどうするの?」

 

「えっと…とりあえず流れだと半年後のアメリカの長距離レースに出る事になりました。」

 

「長距離?……あぁなるほどね……まったく酷い人です。」

 

「え?どうしたんですか?」

 

長距離からどうやって酷い人に繋がるのかがまったくわからない。

 

「その感じだともう他の方に相談したんでしょう?」

 

「はい…」

 

納得した。完全に私が悪いです。

 

「まったく…私のこと考えもしなかったの?」

 

「ごめんなさい。」

 

「…私もごめんなさい。意地悪をしてしまいました。たづなさんから聞いていたのですが…聞いてしまうとどうしても思ってしまいました……」

 

「いえこちらこそごめんなさい。」

 

「もう……そこは貴女がお互い様と言うところでしょ?」

 

「あっはい。すみません。」

 

いまだにお嬢様がフレンドリーなのは慣れない。あそこで私に関わってくるお貴族様は高飛車がデフォルトだったから……あんまり調子に乗らないでくれんまらし?今日は調子が悪かっただけよ。勝った気になるんじゃ無いわよ!

 

うぅ幻聴が……

 

「はいこの話は終わり。謝るのもやめめなさい。」

 

「はい。」

 

「それじゃ私は半年後は開けておきましょうか。」

 

「え!?」

 

嘘でしょ?そこまでライバル意識あったの?

 

「何を驚くことがあるんですか?友人のレースを見に行くのが可笑しいですか?」

 

「あ~なるほど。」

 

「いったい何を勘違いしていたので?」

 

「アリーゼモーラさんが長距離に出るのかと……」

 

「プッ…ハッハッハッハッ」

 

「そんなに笑わなくて良いんじゃないですか?」

 

「フフ…そんな事をこの私に言うのは貴女ぐらいですよ。ほんとうにおもしろい人です。」

 

「えっと……」

 

おもしろい?何?え?おもしろい要素があったっけ?……お嬢様の考えることはわからない…

 

「それではそろそろ終わりましょうか。他に何か聞きたい事はありますか?」

 

「いえないです。それでは半年後。」

 

「ええ。この目でまた貴女の走りを見れることを楽しみにしていますよ。」

 

「最高の走りを見せてみせますよ。それでは。」

 

私は電話を切る。これで本格的に負けれない理由が出来てしまった。

 

私はたづなさんに携帯電話を返してから、立ち上がり、改めて向かい合う。

 

「いろいろとよろしくお願いします。」

 

頭を軽く下げる。私が折れたことによりたづなさんがいろいろと雑務をすることが決定してしまったのだ。下げる頭しかないだろう。

 

「はい!任されました。」

 

そう良い返事をされると罪悪感が……何かイケナイことをしている感じがする……なぜ?

 

「それでは私は業務に戻りますね。」

 

「はい。後で退職届を持ってきてくださいね。」

 

「ありがとうございます。」

 

そう言って私は事務室へ戻っていく。そして歩きながら自分のスマホを取り出しある所に電話を掛ける。

 

「もしもし。元気~?」

 

「……誰じゃ?」

 

この声。そしてこの挨拶でも変わらぬ声音。間違いない。じいやだ。後継者っているのかなぁ?

 

「デスフォレッサです。」

 

「久しいの……それで今日はどうしたのじゃ?」

 

あれだけ騒がして消えてたままなのにその対応。間違いない。じいやだ。まだまだ現役のようで良かった。

 

「勝負服作ってくださいな。」

 

「……また走ってくれるのか?」

 

くれる?へぇ~~~じいやも私のファンだったりするのかなぁ~~

 

「はい。逃げられない理由が出来てしまったので。」

 

「ふむ。良かろう。今持っている勝負服と三サイズをまとめて送れ。」

 

アッ勝負服無い

 

「あっ勝負服無いです。」

 

心と声が意思疎通した。そういえば予備を作ってもらった時に前の勝負服を送れと言っていたっけな。

 

「なぬ?捨てたのか?」

 

「はっは……すみません。」

 

面目ないです。あれは過去とレースと共に捨てた……それだとレースと共に勝負服をどこからから取り戻さないとダメ?最後は適当に欲しがっている子供にあげちゃったんだけど?まだ持っていたりは……しないよなぁ……

 

「はぁ……まあよいわ。前と同じで良いな?」

 

「はい。お願いします。三サイズは○○で場所は○○にお願いします。」

 

変えたら私がデスフォレッサだと見てわかる物が無くなるじゃん。それにあれ以上華やかにされるのは困る。

 

「急に言うでない!正確にメモが取れないじゃろうが!」

 

「すみません。気持ちだけ先走っちゃって。」

 

まったくと言いう姿が思い浮かぶ。じいやはやっぱりじいやだなぁ。

 

「確認するぞ。三サイズは○○、場所は○○じゃな?」

 

「はい!支払いは前の口座から抜き取っておいてくださいな。」

 

それでもきっちり話を聞き取ってくれてるじゃん。さっすがじいや!信頼してた!

 

そういえば最初に作ってもらったときもそんな感じだったけ…

 

あの時はG2に出ることが決まって服がねぇと金がねぇと嘆いていた時だった。そんな中、安い金額、それも早く作ってくれる所を探して見つけ出したのは。あのじいや。あのじいやは金がねぇと言ってるのに無駄に装飾したり華やかにしてきて困ったものだ。

 

なんとか黒色を主体とすることと帽子や髪飾りなどを作らないことを約束できた。ロングスカートを拒否したらミニスカートになってるし、背中の布を無くしてマントを付けるのを拒否したら横腹の布が無いし。

 

もう私には勝てません。

 

「わかった。すぐに仕上げる。」

 

「いえ五ヶ月までに届けて頂いたら良いです。」

 

「構わん。今のところ予定はない。それに早めに送った方が良いじゃろ?」

 

「……はい。ありがとうございます。」

 

「うむ。それじゃあ早速わしは作業に取りかかる。またな。」

 

「はい、また。」

 

私は電話を切ろうとしたが先に切られてしまった。これでやっと前準備は終わった。これで明日からウマ娘としての生活が始まろうとしている。

 

心配することがあるとするならば半年までに仕上げる事が出来るのか?

 

それだけだった。

 

 

 

 

……さぁ本日はビッックゲストッ?の登場だァ!!あのトレセン学園からの刺客。そして我らがこのレースのオーナーからトレセン学園理事長様まで本人と認めた。恐らく本人であろうその人ッッ追従のデスフォレッサァダァー!!」

 

ほんとこれだからアメリカは……無駄にはやし立てて……いくらゲストといえどここまで環境を整えるかね?わざわざスタジオに私専用のゲートを別に作りやがってあのクソオーナーめ……

 

緊張で跳ね上がろうとする心臓を押しつける。その鼓動の速さはただの緊張だけでは無く不安もあるだろう。今はワックスを使っていないからよく見ればウマ耳の悲しい原型が見えてしまう。尻尾はミニスカートに隠されているからそこまで関係はないだろう。

 

外では歓声が止まり、私の出場を今か今かと待っている。まるで出走前だな。

 

自信満々に胸を違和感にならない程度にそり上げる。左右の肩をしっかりと動かしながら歩く。一歩一歩大股で。

明かりが私を照らす。それは日光とスポットライトとシャッターだ。

 

まぶしい……目の前には沢山のカメラがいっぱいある。そしてキャスターぽい人も数人見える。あのカスオーナーめ。謀ったな。メディアめっちゃ使ってくるぅ……ぁぁなんかうるさいぞ外野。

 

戸惑い、誰だアイツ?ミスか?人がいるぞと騒ぎ立てる野次馬。失せろ!偽物!この屑!と戸惑い無く批判するアンチ兼自称ウマ娘評論家共め。

 

横にいる先ほどの紹介をした司会者に近づきマイクを寄越せと手をクイックイッとする。

 

司会者は何の躊躇も無く渡してくれた。

 

 

せめてあのオーナーへの仕返してとして……そしてうるさい外野を黙らすために。そう私はやらないといけない。さすがにこのままレースが始まると支障がでそうだからね。しかたないよね。

 

私はマイクを片手にステージ中央に立つ。そこに規則正しさも礼儀もありはしない。

 

パシャパシャとシャッターの音と観客のざわめきだけが聞こえてくる。キャスターは静かに私の言葉を待っている。限界まで息を吸い、叫ぶ。

 

「ファッーーーーーーーーーーーー○クッ。……フゥ……」

 

観客が一瞬だけ静かになる。だがすぐにアンチ兼自称ウマ娘評論家が声を上げる。アイツをこの場からたたき出せ!とかなんだいあの失礼なやつは!?とか。

 

言い切ったよ、オーナー。視線をがっつり上のフロアにいるオーナーに向ける………正直このままゲートインしようかと思ったけどオーナーがめっちゃ手振り足振りでどうにかしてくださいと語っている。確かにこれではただの煽り。しょうがないなぁ。

 

わざわざ大げさにため息を吐き、言う。

 

「レースを見てろ。」

 

それだけ言ってマイクを司会者に投げ返す。ギャーギャー叫び出したキャスターを無視して私もゲートに向かう。私がステージを離れたらキャスター達は少しだけ静かになる。だがまだアンチ兼自称ウマ娘評論家達が騒いでいた。

 

だが周囲の評価に敏感なやつらだ。周囲の視線にも敏感のようですぐに静かになった。まだすべてのウマ娘がゲートインしていないのにすでにレース会場はレース開始数秒前の空気だった。

 

私は最後にゲートインしたのだった。

 

驚いたことに隣にはベルッサアルマがいた。だがその顔には隈が見え、心なしか体調が悪そうだ。

 

「どうした?体調でもわるいの?」

 

「あ?ち、違ぇよ……悪かったな。前はお前の状況も知らずに偉そうにグチグチ言って……」

 

ふむ?やはり可愛い。それはそうとたづなさん……ウマ耳のこと言ってなかったんですね……

 

左右を見渡すと……誰も気にしていないようで目の前だけに集中していた。まだ集中出来ていなかったのは私とベルッサアルマだけだった。

 

はぁ……自分の精神状態を管理できないとは…まぁ私の責任と言えば私の責任だな。何とかしようか。

 

「それで?勝ちを譲ってくれるのか?」

 

「うな訳ないだろうが!?ふざけてるのか?」

 

「ならいいだろ。」

 

そこで私は腕を組み前を向く。

 

「……そうだな。」

 

ベルッサアルマも前を向いた気がする。そこから会話は無く、レースの開始宣言を今か今かと待つ。

 

 

 

バンッ

 

「さぁ一斉に走り出してないぞォッ!?どうしたデスフォレッサ!?腕を組んで立ち止まっているぞ!?走り出す様子がッ、今走り出した!五秒停止で前に出てきた!」

 

「おっとベルッサアルマ。前に出る。いったいいつから逃げウマ娘になったのか?先頭を走っているぞ!それにつられて全体的にややハイスペースだ。」

 

「それに合わせたのかデスフォレッサ前傾姿勢でまだまだ加速しております。そんなのでスタミナは持つのか?デスフォレッサ。」

 

 

「レースは中盤。先頭はベルッサアルマ。三馬身開いて……

 

・・・

 

気配を感じる。近くにはいないけど確かにそこに居る。少しでもスピードを落とすと差を縮められそうだ。だけど逆を言えばスピードを落とさなければ差は縮められそうになさそうだ。

 

俺は今の速度を維持しつつ足を溜める。

 

勝負はラストの直線。そこで逃げ切る。

 

~~~

 

最後の直線。

 

コーナーを曲がりきって体勢を立て直した瞬間、加速する。だけど近くに気配を感じる。

 

加速したはずなのにその差は徐々に縮められている。縮められているが前に出そうな気配はない。今の状態を保てばこのまま一着のはずだ。

 

俺なら勝てる。いやこの状態なら勝てるッ。

 

・・・

 

「ゴォーーールッ!いまベルッサアルマが一着でゴォーール!!二着………

 

 

ハァハァ……勝った……この耳で聞いた。俺が一着。勝ったぞッ!見たかデスフォレッサッ!!……デスフォレッサ?

 

ベルッサアルマが息を整える暇も持たずに後ろを振り返る。だけどすぐそこにデスフォレッサはいなくて、だいぶ後ろの方で芝生に寝転がりながら荒く激しい呼吸を繰り返していた。

 

確かにすぐ後ろにいたはずだ。俺は順位表を見る。ベルッサアルマは7着だった。俺はベルッサアルマに近づく。

 

「ぉ…オイッ?ベルッサアルマ?…ハァ…ハァ……どうした随分と遅いじゃねぇか??」

 

「うるせぇ…ハァ……おめでと……ハァハァ……」

 

「はっ随分と間抜けな姿だなぁ?……」

 

「うるせぇ……」

 

デスフォレッサは未だに激しく呼吸をしていた。

 

「おい。本当にどうしたんだよ?ちょっとおかしいぞ?」

 

俺のその一言でデスフォレッサの眉間にしわがよったように見えた。

 

「クソ野郎が?作戦勝ちで嬉しいか?この野郎?」

 

「負け惜しみはやめろよ。わざわざこの日のために鍛えていた逃げ走りだぞ?それで負けたら俺は泣いてしまいそうだよ。」

 

芝生に寝転がるデスフォレッサを見下しながら言う。だがそこにいつものような返しは無かった。代わりに

 

「ぁあ……もういいわ。せいぜい4連勝目指して頑張れや。」

 

デスフォレッサが立ち上がり司会者ステージに向かう。それは去り際に言われた負け惜しみのようなタイミングだがまったく負け惜しみのような声音では無かった。俺が疑問を口にする前にスタッフからのライブ案内が来た。

 

デスフォレッサを見るとカメラの前でオーナーと一緒に会話をしていた。俺は疑問を心に閉じ込めてライブ会場に向かう。ライブが終わったらやつを問い詰めると覚悟を決めて。

 

 

・・・・・

 

観客席の上にあるVIP部屋そこに一人の名門がレースを見ていた。

 

「すばらしかったです。あの加速力。ですが持久力が無かったのが敗因でしょうね。」

 

デスフォレッサは数年前と変わらないスタイルで走っていた。今回は五秒。いつもよりも少しだけ長く立ち止まっていました。だけどその五秒分の距離を足してもデスフォレッサは三位以内には入れなかったでしょう。だけどその走りを見て偽物だと語る奴は見る目がないとしか言いようがないでしょう。

 

「…お嬢様。」

 

黒いスーツを身に纏ったウマ娘達がこの部屋に入ってくる。それは会場を監視させていたボディガード達からの報告だった。

 

「…それでどうでしたか?」

 

「怪しい人物は16名。ソロは9名。その内精神的問題を所持していそうなのが3名。さらに目元を隠していたのは1名でした。」

 

「よくやりましたね。」

 

たづなさんから聞いた証言に一致する人物が丁度一人だけ絞れました。さて

 

「私はその目元を隠している人に接触します。残りは他の15名の監視、そしてSNSや裏を調べてください。」

 

「了解いたしました。」

 

たづなさんからの噂によるとウマ娘の身体能力を持ってしても抵抗が不可能でしたか。動くのは一瞬。そして最新の注意を払って行動をしなくてはいけませんね。

 

「行きましょうか。」

 

「はい。」

 

アリーゼモーラの背後にいた5人の精鋭達がそれぞれが動き出す。いま蒼き独眼を持つ青鬼が動き出す。

 

~~~

 

「すみません。」

 

「うわっ……ってアリーゼモーラ様!?」

 

対象の男が人通りが少ない道を進むところを見計らってアリーゼモーラが近づいた。その男の反応を見るに可能性が高そうだとアリーゼモーラがほくそ笑む。

 

「すみません。少し、聞かれたくない話があるのでそこの路地裏に行きませんか?」

 

「はい!アリーゼモーラ様。」

 

良い返事と共に男は自ら路地裏に歩き出す。それに続いてアリーゼモーラも路地裏に行く。路地裏に入る前に目線を横に動かすとボディガードから準備は万端と合図が来る。すなわちこの路地裏の先にはボディーガート達が監視しており、車の用意も済んでいるということである。

 

「さて、さっそく本題に入らせて貰います。貴女がデスフォレッサさんをやってくれたんですか?」

 

「ッ!?なぜそれを知っていらっしゃるのですか!?」

 

「噂を少し聞いただけです。それで本当なのですか?」

 

「はい!僕がやりました!……すみませんっ!」

 

男は頭を撫でられた犬のように意気揚々としていたが次の瞬間には意気消沈していた。

 

「ど、どうしされたのですか?」

 

「すみませんッ、私が甘かったばかりにまたレースに出てしまいしたッ!次こそは確実にレースに出れないにします!!」

 

「……なぜですか?」

 

口に出してから気づいた。仮面を忘れて本心から聞いてしまった。だが焦らない。運が良いことに声のトーンは変わらずに疑問を聞くような声だった。

 

「それはどういう意味でしょうか?」

 

「なぜ貴女がそれほどの行動に出たのかがいまいちわからなくて……すみません。不快にさせてしまったようで……」

 

「いえ!不快なんて滅相もないです。行動に出た理由はあいつのせいでアリーゼモーラ様が敗北してしまったからです。あのクソ野郎がアリーゼモーラ様の戦績を悪化させるなどあってはならないことです!なので僕は行動に出ました!」

 

「そうですか……一つだけ聞いてもよろしいですか?」

 

「はい何でしょうか?」

 

「証拠ってあったりしますか?疑っている訳ではないんです。でももしかしたらあるかなぁと思っただけです。すみません余計なこと聞いてしまって……」

 

「いえいえ。当然の反応です。証拠ですが尻尾ならあります。耳は気持ち悪くて捨てちゃいまして……」

 

「……よかったら是非!その尻尾だけでも見せてもらえませんか?」

 

「はい。よころんで!」

 

男はまるで自慢をするように胸を張りながらアリーゼモーラを自分の家に案内した。

 

男の家は三階建てマンションの二階の一室だった。

 

「かたづけるので少し待っていてください。」

 

「いえお気になさらず。」

 

男は部屋に入り部屋の中からガサゴソと音が聞こえた。しばらくして男が部屋から出てきた。

 

「ではどうぞ。汚いですが。」

 

「お邪魔します。」

 

1LD。袋やら箱が部屋の隅に固められ中央の机にはその部屋の雰囲気とは違う白い正四角形の箱があった。

 

「これです。どうぞご確認ください。」

 

「ありがとう。」

 

箱を手に取る、慎重に開けると、そこにはデスフォレッサの黒い毛が入っていた。

 

「……これは間違いないのですよね?」

 

「はい間違いありません!」

 

「そうですか。それでは。」

 

その言葉を合図にして扉と窓からボディガート達が入り込み、男を確保した。

 

「ど、どういうk…」

 

男を取り押さえていたボディーガードが男を気絶させた。その間にDNA鑑定を行っていたボディーガードから結果が舞い込む。

 

「DNA同じです。」

 

「素晴らしいですね。それではその人をしかるべき対処しなさい。後は身辺調査、組織の有無の確認、このマンションの防犯カメラ……三年前の記録は残っているんでしょうかね?……どちらでもいい事です。全ての証拠を見つけ出しなさい。」

 

「はい。」

 

DNA鑑定を行っていたボディーガードが証拠物をアタッシュケースに詰め込み、他の証拠物を探しに出る。それに続くように次々とボディーガード達は動き出す。

 

だがアリーゼモーラの背後にいるボディーガードは動かない。それに違和感を持ったアリーゼモーラは振り返る。

 

「どうしましたか?私の護衛は必要ありませんよ。」

 

「いえ……アリーゼモーラ様。それで本当に良かったのですか?」

 

真意を尋ねるように、最も親しいボディーガードが訪ねる。その目には心配の色が写し出されていた。

 

「ええ。例えるなら、準備していたお誕生日ケーキにGが入り込み全てを台無しにした、でしょうか?話しても無駄な相手に怒ることなどありません。それは無駄な行為です。その場合私が行動すべき事は、そのGとその仲間達を我が家から滅ぼし、新たなケーキを作ることです。持てる最善のケーキを作ることです。」

 

「…了解しました。私は裏の方へ回ります。」

 

話を変えるようにゴホンと咳払いをしてから言う。

 

「それとデスフォレッサ様ですがどうやらベルッサアルマが街中で追い回しているようです。行ってみてはいかがですか?」

 

「ですが、私だけサボるような事を…」

 

口で断りをいれる。それが本心で思っていることもわかっている。だけどその目は行きたいと語っていた。

 

「お構いなく。我々だけでこの程度終わらせて見せましょう。」

 

「………はい。ありがとうございます。また迷惑をおかけしますね。」

 

「いえ、行ってらっしゃいませ、お嬢様。」

 

「はい。」

 

アリーゼモーラはこの部屋を出る前に一度だけ振り返る。そこには幼い頃から一緒にいた友達と大人になってから仲良くなった友達が私に向かって手を振っていた。

 

私は少しだけ手を振り返して外に出る。そしてSNSを開く。最近のトピックにはデスフォレッサとベルッサアルマが街中をレース会場にした、今度はベルッサアルマが負けてるぞと出ていた。今も刻々と新しい情報が入ってくる。だが十秒後には彼女たちの姿は消えているだろう。ただ彼女達が行った後を辿るだけでは追いつけそうにない。そして何処に向かっているのかすらわからない。

 

だからアリーゼモーラは走り出す。彼女たちのように走り出す。今度こそは逃がさないと、約束も計画もないけど

ただこのまま見失わないようにと消えてしまわないようにと走り出す。

 

 

その数日後、新聞とニュース番組の一面とトップを独占していたのは顔は知っていたが名前までは知らなかった男だった。

 

・・・・・

 

「おいッ!!どういうことだ!?説明しろ!!」

 

……めんどくさい……二時間前にライブは終わっていたはずだよ?

 

オーナーとのお話が終わってようやく帰れるという所でベルッサアルマが出待ちしていた。

 

「はぁそんなことの為に二時間も待っていたのか?メールで聞けば良いのでは?」

 

「俺が知っているのは前のメール番号だけだ!?そして前のメールにいくら連絡しても出なかっただろ!そして今さっきも連絡しても何にも反応なかっただろうがッ!?」

 

ベルッサアルマは自分の携帯の登録メール欄。それもデスフォレッサが刻まれているページを見せつけるように見せながら言った。

 

「はぁ……悪かった。それでいいか?」

 

それに対するデスフォレッサの対応はとてもめんどくさいと、まるで散歩していたら変な男に話しかけられたかのように心底どうでも良さそうだった。

 

「そんなことはどうでも良いんだよ!!ちゃんと教えろ!?」

 

「言い訳はしない。おめでとう。貴女の勝ちです。四連勝、いや五連勝頑張ってください。」

 

パチパチと拍手をしながら言う。その目はジト目でその声は猫を被っているように高い声だった。

 

「そんなことを聞きたいんじゃ無いんだよ!!その理由を聞かせろ!」

 

「ベルッサアルマ?それ相応の言動ってのがあるんじゃ無いの?」

 

先ほどの高い声とは打って変わってまるで当たり前の事を指摘するように自然な声音でそう言った。

 

「デスフォレッサ様。教えてください。」

 

それに対してごく自然にそういった。まるで売り子のように、完全に別人と割り切っているように。

 

「……はぁプライドとか無いの?」

 

「それで聞けるならだいぶ良い価値になっただろ?俺のプライドは?」

 

「じゃあ殴って良い?」

 

え?じゃあ遠慮無くといった感じに言う。だがその背後に何かをベルッサアルマは感じた。

 

「は?嫌だよ。」

 

「遠慮するなよ~殴らせろ?」

 

「嫌だ!」

 

ベルッサアルマは感じた。これは間違いなく、やられる。と。

 

「あれも嫌これも嫌。全くわがままな子……」

 

まるでバカな人を見るように、蔑んだ目をした。

 

「当然の反応だろうが??」

 

背後の気配が消えたので、しっかりと反応ができた。だけど恐怖が消えたわけではない。

 

「……自分の頭で考えたらわかることだよ。以上だ。じゃあな私は帰る。」

 

「考えてもわからないから聞いてるんだろうが教えろ!」

 

ベルッサアルマはミスをしでかした。だがその事実には気づかない。

 

ベルッサアルマは後ろからデスフォレッサに飛びかかる。デスフォレッサは激突する前にベルッサアルマの方を向いてしまった。なのでベルッサアルマはデスフォレッサに馬乗りになる。デスフォレッサは今にも眉間にしわを寄せ、キレかけていた。

 

「何をする?ベ ルッ サ ア ル マッッ!」

 

デスフォレッサはキレた。なので頭突きを繰り出した。その勢いは強く、それはデスフォレッサがベルッサアルマを馬乗りする程度には。

 

「そんなに教えて欲しいなら教えてやるよッ。いったいどうやって半年で長距離を走り切れるスタミナと、G1で勝つことが出来るスピードと加速力をどうやって手に入れろって話だ?あ?」

 

デスフォレッサはベルッサアルマの胸元を握りしめ上下に振る。ベルッサアルマは頭をガクンガクンと揺らしながらデスフォレッサをなだめる。

 

「お、落ち、落ちつっ落ち着けよデスフォレッサァ?」

 

「こちとら三年間全く走っていなかったんだぞ?それを半年で取り返せと?バカか?アホなのか?ベルッサーアーールーーーマーーーーッ!」

 

デスフォレッサは胸元を掴んでいた腕を放すと同時に立ち上がる。そしてホテルに向かう。

 

「理由はそれだよ。わかったなッ!じゃあな。バカ!」

 

そう言い捨てた。だがベルッサアルマが後ろをピッタリとついてくる。

 

「ま、待てよデスフォレッサ。とりあえず今のメール教えてくれよ?」

 

「断る。バイバイ。次もこんな楽に勝てると思うなよ?アホ!」

 

「待ってくれ。謝るから!ご飯奢るから!」

 

「私は帰る。お前も帰れ。」

 

「いいじゃねぇか?ご飯まだだろ?いいパスタ屋見つけたんだよ一緒に行こうぜ!」

 

「断る。ついてくるな!!」

 

デスフォレッサは走リ出す。

 

「断るッ!!逃げるな!!」

 

ベルッサアルマも走リ出す。

 

「諦めろッ!例え数年前といえど地形は覚えている!そしてお嬢様のお前よりは覚えているだろうな!!」

 

「諦めろッ!!!俺は充分に休んだ!まだ足も出来てないお前が俺から逃げ切れると思うなよ!!!」

 

デスフォレッサは走る。だがそれは全速力ではなく子供が追いかけっこをするようだ。ベルッサアルマはその後ろをピッタリとついてきている。本気になればすぐに追いつき、捕まえることも出来そうだが、ベルッサアルマはデスフォレッサの後ろをピッタリとついて行く。その顔は無邪気の子供のようにこの瞬間を楽しんでいた。

 

それにつられてかはわからないがデスフォレッサも楽しそうにわらっていた。

 

 

その後、どこからともなく出てきたアリーゼモーラがデスフォレッサに抱きデスフォレッサの足が止まった所で、楽しい楽しい追いかけっこは終わりを迎え、楽しい楽しい食事会が始まりましたとさ。

 

おしまい。

 

 

 




これにて終わりです。

レース描写なんて知りません。頭の中で頑張ってください。

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