@13:55:02
「あ?」
死柄木の両手首を水中から掴む
骨と筋張ったうえ、冷たいと感じるほどの体温が
手のひらに伝わる
掴んだ腕をそのままに【複製器官】で
一対の手を作り出す
水中から勢い良く身を引き上げられると同時に
死柄木をタオルの様に放り投げる
空中で体を捻り、掴んだ腕をそのまま振り抜く
僕は焦っていた…
あのまま掴んでいた方が良かったのかもしれないという後悔が頭を
しかし、その判断ができるほど落ち着いてはない
やばい、ヤバいやばい
触れたらいけない
身の震え、相手の個性が不明な状況
相澤先生を見たことが幸いしたのか
勘がそう告げる
震えが増すばかりで
さっきから腕が言うことをきかない
無理矢理震えを押し殺して峰田君と蛙吹さんをひ…
「脳無」
瞬きすらしていない
気づけば影に飲まれていた
視界の端に辛うじて映る2メートルを超える巨体
油断していたのだろうか
接近を許してしまった
いや、油断なんてしてない
瞬間移動?そう見間違えるほどの俊敏性
改めて後悔する
驕った考えだった
"【個性】が通用する"なんて
背中を半分ヴィランに見せている状況
殺せる算段に対して背中を見せている状況に
幸か不幸か震えが止む
「いい動きするなぁ、まるでヒーローだ」
死柄木は首元を掻きながら嫌味ったらしく言い放つ
空中で掴まれた腕を起点にそのまま放り投げられ
緑谷達からやや離れた位置でのっそりと体を起こす
脳無に背を向けた状況
この状況はマズい
震えが止んだ両足で回避行動を取る
「先ずは 兎に角 距離を…!?」
【リンクスタイル】による初速から加速に移行する隙、片足で蹴り出す必要があるその一瞬を足を鷲掴みされ妨げられる
「脳無、やれ」
鷲掴みにされた足が張り上げられると
視界に映ったのは脳無の鮮やかな薄赤色と
峰田君と蛙吹さん、USJの景色
マジかよ…
風を感じ、咄嗟に庇った頭部に衝撃が走る
拾った枝を振り回し、地面に接触させるように
地面に叩きつけられた
遠心力により意識が飛びそうになった直後の地面のコンクリートの感触、頭部のみならず少なくとも頸部、胸部も同時に叩きつけられる首から流れてきた痺れ、折れていないにしろ重体かも知れない
「平和の象徴が少しでも嫌がってくれたら最高だ」
地面と足が擦れる音
痺れてまともに動かせない四肢を必死に動かし、上体を起こす、コンクリートに亀裂が入り、顔の形を大雑把に作り出していた
ぼやける視界、輪郭が曖昧な視界が鮮明になりにやけ面擬きを目にする、引き攣った笑顔でゆっくりと二人に近づいて行くのが見えた
「あ…すい…さ…」
振り絞って出した声に嫌な味が満ちる
足を掴まれ移動はできない、腕を飛ばそうにも考え方がまともにできていない、起こした上体をそのままに地面に倒れる
視界に映る動かない同級生
ダメだ…だめだ、駄目だ
逃げて、お願い二人とも逃げろ
必死の懇願
「恨むんだったらオールマイトを恨みなよ」
二人の前で屈んだ死柄木がそう呟く
「しが…らき!」
眼球が熱を帯びる
睨みつけ、殴ってやりたい気持ちでいっぱいになる
腹の奥底から沸き立つ嫌悪で視界がぼやけ始める
辛うじて見えた視界がやがて
ぶっつりと消えてしまう
@13:55:05
その直後だろうか
最初に気づいた違和感は辺りに漂う臭い
焦げた様な…それでも生臭い感じの残る悪臭
蒸発音と頬に触れる液体の感触に徐々に顔の感覚が戻り始めたことを実感する、目尻からも垂れているのを感触が分かる
しかし、それ以上に感じるのは痛みだった
「ぐぁあぁ?!」
その臭いを出してるのは…
僕だった
眼球が膨張し、骨に収まることを拒絶する様に外へ、外へと見開かれる
眼球の当たるはずのない位置に空気が触れる乾燥は忽ちたれている液体で緩和されるが、その直後から蒸発する
「脳無」
掴まれていた足で
再びが持ち上げられ叩きつけられる
@13:55:25
眼球が熱い、頬を何かが垂れる頻度が上がっている
痺れが抜けきり感覚がより鮮明になったことで
分かったことは
目を見開いていられるというより瞼が固まって閉じないこと、眼球は最早視界を映してくれていなこと
【透視】じゃない目の酷使であること
緑谷の眼球は血管が浮き出ており
白目の部分が赤く染まっている
度々流れでる黒い液体でそれらを包もうとしている様子ではあるが間に合っていない
死柄木の手のひらが峰田に触れている
蛙吹のことを必死に引っ張っている峰田
「ふ…たりともにげて」
「緑谷!お前の心配をしろよ!」
緑谷が口にした願い
それを一蹴した峰田の叫び
間際に鼓膜に触れた誰かの声に抜けきっていた力が
全身を駆け巡る
コンクリートに
「今にも泣きそうな…声だ…」
痺れの治り、代わりに湧き出た怒り
痛みが嘘のように引き、思考が整う
@???
「友達…は!」
突き立てていた腕から液体がこれでもかとコンクリートに漏れ出る、色付きのコンクリートが黒く染まっていき、脳無の足元が先に浸かり、死柄木の足元、水中に染み出す
黒い液体から伸び出た腕が死柄木の足首を掴むと
それを
その行き着いた先は緑谷の腕
「傷付けさせない!」
死柄木が驚く暇もなく足首の圧迫が増したかと思うと
連結された腕がピンと張り
死柄木の足首と緑谷の腕が黒い線で繋がる
緑谷は力一杯、死柄木を鞭の要領で何処かの壁にめり込ませると掴まれている足に手を伸ばす
依然として緑谷の足を鷲掴みにしている脳無
黒い液体のど真ん中で身動きをしない脳無は余裕の現れにも見えるがしかし、確かに掴んでいた獲物は主人の獲物へと向かっている
手首からモロに千切れ落ちる手
液体から伸びた腕が脳無の手首に対して
一つ、またひとつと群がるにつれ緑谷を掴んでいた腕の手首が徐々に細り出し千切れていくのを峰田と蛙吹は見ていた
棒立ちの敵を他所に折れた足を庇うように歩く緑谷、ボロボロの顔面と身開かれている目、片腕は伸び地面を這う、折れた足を引き摺るように歩く姿は満身創痍そのものだった
そんな緑谷の胸中は劣等感で埋まっていた
【黒き人】ならどうしただろうか?
もっと上手く立ち回ったのかも知れない
死柄木を友達から引き離すことに成功したが
これ以上の打開策は見込めない
液体から手が伸び、二人と先生を持ち上げる
…勝てる見込みがない以上、僕が
誰かが泣いてる
いつの間にか破れていた鼓膜の代わりに
皮膚で感じる後の感触
聞こえないけれど肌に感じる
きっと
峰田君かな?
「ごめん、峰田君、蛙吹さん」
【レスキュースタイル】何てことを考えながら
浮かした峰田と蛙吹、相澤を入り口方向へと移動させ始める
必死に抵抗する友達を無視して液体の上を移動させる
液体から伸びる腕や手が入り口まで運んでいく
眼球が地面に落ち、液体の中に溶けていく
そんなことを知る由もない緑谷
ぽっかりと空いた目だった場所が敵に向く
「なるほど、それが君の【個性】か」
「イレイザーの真似とかチーターかよ」
増やしていた腕の最前列、死柄木の足首を掴んでいた腕が完全に消えたのを感覚で理解する
敵の個性が発動まで少し時間が必要なようで安心する緑谷
「しかも脳無の腕を引きちぎるとか…いよいよ反則だな」
峰田君達の保護…誰かやってくれることを祈る
液体が緑谷の足元にあつまりはじめると
【ギガントスタイル】の準備をする
垂れ流していた液体が徐々に引いていく
両腕を広げ、覚悟を決める
大きく吸った息を細く吐き続ける
「脳無!」
死柄木の苛立ちを乗せた叫びが肌に触れる
あの巨体を押し留める必要があることを考える
緑谷
鋭敏に研ぎ澄まされた感覚が
一瞬だけ、緑谷自身の反応速度を超え
脳無を抑える算段を考え始める
@14:03:01.23
【ギガントスタイル】による押し出しは準備段階
もう少し掛かる
今発動したとしても押さえるのがやっと
押し出す力の最大を過ぎれば突破されてしまう
@14:03:01.42
かと言って
他の手段を使う余力が僕にはない
@14:03:01.52
… … …
@14:03:02
不意に吹き荒れる強風
脳無と何かが衝突したことで
押し出された空気が壁となって吹き荒ぶ
続いて聞こえるのは揺れ騒ぐ草木と波打つ水の音
巨大化させた手の再現で
脳無の突進に対して、【ギガントスタイル】から派生させることに成功した【Gスタイル】の巨大な手のひらが
「黒霧!何とかしろ」
「この風圧の中ではゲートが…」
【個性】に対する対策を考えながら【Gスタイル】の中へ中へと脳無を埋めていく、巨大な手が指を閉じていくと脳無を握り潰す
「ゲーム…オーバー…」
「あぁ??嘘だろ?脳無さえいれば…違う、奴が突っ込んだから…は?何も考えず突っ込める盾がなくなったんじゃ意味がないだろ、何が平和の象徴だ?そんなものよりバケモンなのが生徒にいたじゃないか、オールマイトの100%以前の問題じゃないか!?」
苛立ちを乗せた言葉の数々が聞こえている中
「痛」
庇っていた右足の感覚がなくなり重心が傾く
不意の落とし穴に落ちたかのように
バツンと直後無理矢理にでもなく切断された右足
理解が追いつくこともなく茫然とする緑谷
@14:04:05.10
脳無だけじゃない
平和の象徴を殺す算段は防ぐだけじゃ意味がないな
@14:04:05.10
体の一部をそれぞれ迎撃すれば或いは
だから人員が必要だったのか
@14:04:05.20
脳無は無力化
友達も逃した
指揮官は僕に釘付け
惜しむらくはもっと皆んなと
@14:04
「黒霧」
「はい」
打つてなし勝負に勝って試合に負ける
僕一つの命でここまでやれたんだ
僕は重心を保っていた体から力を抜くと
勢いよく倒れ込もうとした
その直後
辺りを包む冷気と爆発音
抱き抱えられた肩
そして
@14:05
〔もう大丈夫、私が来た〕
聴き慣れたフレーズ
男性三人に
女性の声…
「ぼ…くの友…達は?」
〔先生達が保護しました〕
「よか… … …」
完全に切れた緊張の糸
意識を失うのに不安はなかった