【リハビリ中】僕の個性は【紳士ハンド】   作:『代行さん』

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@雄英体育祭-『延期』の幕間

@水中戦

加えた手で口の中に酸素が満ちる

水中特化型の脳無と高速遊泳戦中

 

片手のひらから体外へと排気する

 

排気の推進力

移動方を活用しながら脳無と叩き合う

雄英体育祭が延期なった翌日に

八木先生と母さんが話をする為家から出た

 

同席することは許されず

仕方なく散歩へと向かった

 

石畳みを鳴らしながら晴れた空を扇ぐ

…空は雲一つもない青が広がっている

足元で鳴く猫と戯れながら時間を浪費していた筈なんだけど

 

何故(なにゆえ)この様な事態になったのか…

 

 

 

@…

商店街に来たはいいが特にやることがなく

伸びをする、向かっていた目的地は休館日ともあって

完全にやることをなくす

 

バイトもないときた…

どうしたものか

鳴きながら足元に擦り寄る猫を撫でる

 

商店街に設けられた椅子に腰をかけ

天井の天窓を眺めると

 

酷くぐずる子供を見かける

「…」

 

手に巻かれた包帯と白色髪

歳は…10ほど

 

「こんにちは」

声をかけると

ひどく怯えた様子で振り向く

その子と目線を合わせるように屈むと改めて

 

「こんにちは」

「…」

頷き俯くその子に【黒き人】が

喉を鳴らしながら擦り寄る

 

「ねこ…」

「名前はニューって言うんだ」

猫を抱えて表情が緩んだその子に

 

「お名前は?」

「…壊理」

猫を撫でながら椅子に腰掛け話し合う

 

「エリちゃんって言うんだ僕は出久って言うんだ」

「イズク?」

「よろしくねエリちゃん」

「出久…」

よく見ると足にも包帯が巻かれているのが分かる

何というか、この子を一人にしてはいけない

でも誘拐犯ってことになりかねない…

 

「エリちゃん、その包帯は?」

「!…」

押し黙ってしまう

猫が頬に擦り寄り抱き合う猫と少女

 

「言わなくても大丈夫だよ、ただ痛くない?」

頷く少女…

 

 

 

少しばかり話をしていた時

「お?居た居たこんなところにいたんですね」

エリちゃんに歩み寄る男

 

「お父さんか…な?…」

「…」

震えている…

猫に覆いかぶさるように俯いている

 

「あの…」

「あ!エリと遊んでくれたんですか?ありがとうございます」

「この子怖がっていますよ」

立ち上がりエリちゃんと男の間に割って入る

 

「何でしょうか?」

「この子のお父さんですか?」

後ろ手に【黒き人】に商店街の端を指差す

 

「はい、エリがご不便をお掛けしました」

「…」

向き合った父親面する不審者

エリちゃんは渡しちゃいけない

 

「…あの、何か?」

「…」

仮に父親であったとしても

包帯だらけにする奴に渡しちゃいけない

 

@商店街にて

犬が商店街をゆっくりと歩きながら端へと向かう

「…」

「…」

 

スーツに身を包んだ風体

マスクで隠された表情

スーツの膨らみの正体

 

【透視】で見た拳銃と弾倉

マスク越しの

苛立ちを露わにした表情が見られているとも知らず

 

「…」

「…」

懐から引き抜かれ

構えんとした拳銃を

硬貨にて弾く

 

天井に向いた銃口を下に下ろすにも足りず

【トリガー】の拍手をぶつける

 

男は視線が定まらない様子で下ろした銃口を僕に向ける

しかし、ふらついた腕の動きが肩から足先に伝染した後には力なく膝をつき天井に向けられた視線、瞳孔が小刻みに震え続ける

 

「ーエリちゃん」

 

@砂浜

震える少女を抱え込む夜

太陽の光を拒絶する夜

それが外の世界を怖がる少女に寄り添い守る

 

それでも

夜はいつしか開ける

なら

 

「大丈夫エリちゃん!」

「!?… …いずく〜」

少女が怖がることのない世界を用意するしかない

太陽が天辺に到達した刻

夜の中から少女は自ら飛び出すことを決意した

 

 

 

砂浜…波が押し、引く中で惚ける

胸に抱いた少女を慰める

何というか…やらかした感が否めない

 

お父さんだった可能性は十分ある

それでも傷害事件になりかねない対応と

個性の私的使用、退学だけは勘弁して欲しいけど

「…どうしよう」

 

「緑谷さん?」

「あ、水乃さん」

 

@昼過ぎの砂浜

競泳水着を身につけた水乃さんに声をかけられる

最近のデジャブラッシュに不服にも慣れてしまった

 

「誘拐事件の可能性もありますよね」

「そうですね」

胸の中で眠りこけている少女の頭を撫でる中

 

脳内に走った痺れすごく嫌な予感が頬をなぞる

…?

 

「鮫が出たぞ!」

「誰かヒーロー呼んで!」

エリちゃんを水乃さんに任せる

周囲を見渡し逃げ遅れた子供を確認した故

 

飛ばしたマニュアルで子供を砂浜に退避させる

【リンクスタイル】の加速を打撃に乗せ放つ

「当たれ!!」

 

砂浜から海上へ

その加速を背鰭に目掛けて蹴り放つ

背鰭を中心点にして鮫が水中から飛び出す

 

虚な目と広がる薄紅色のシワのある背中

皮膚は深紫色…これは

 

「脳無!?」

空中に剥き出しになったと思われた鮫は

僕の腹部に噛みついていた

 

抵抗もなく水の中へと引き摺り込まれる

 

@水中

泡が耳を擦りながら体から離れる音がする

吸おうにも空気は口から徐々に吐き出される

コの字に折れ曲がった身体が水の抵抗に晒され続ける

 

液体を展開しようとするが

液体を生成した先から

水流にのって集まることすら叶わない

 

噛みついている顎を掴もうとするが

水流でそれどころじゃない

 

そうこうしているうちに

強い衝撃と共に顎から離される

顔面から突っ込んだ鮫は頭を左右に振りながら

離れていく

 

抵抗の弱くなった水中で海底に仁王立ちする

 

「(海面が遠い…けど)」

腕に纏わりつく泡が目に入った

腕から剥がそうとするがどうやら腕全体から

気体が生成されているようで徐々に泡が大きくなる

 

大口を開けている鮫が頭上を陣取っていた

岩場を無視して上顎と下顎が閉じられる

岩場を力の入らない足で蹴り間一髪で避ける

再び顔を左右に振り回し海面へと向かう鮫

 

「(どうしよう…)」

口元に腕を押し当てる

 

運良く腕から出ていたのが酸素だった為

急いで海面に浮上する理由が一つなくなった

 

しかし

液体を顔に纏わせようとするが

固まらず水中に漂い続ける

 

頭上を旋回し続ける鮫

追いかけようにも

機動力が足りず

 

攻めに転じようにも

環境の妨害もあり近接必至

 

手詰まりしてしまっている

 

「…」

液体が満ちた盤面では

液体の展開、形成ができない

 

なら…指を咥える

移動手段と呼吸の確保の点で

今できる最善策…咥えていた指の手を切り離してみる

 

「うん」

手首から先が再生できないものの

既に固まったていた手は口の中で形を保っている

三度(みたび)の捕食行動

 

残った手のひらに溜めた空気を射出する

海水を割って飛び出した空気弾が体を押し出す

 

@水中戦

共に水中での機動力を確立している

加えて

 

「まただ…」

気づけば腹部に噛みつかれている

鮫の歯が食い込んでいるが

 

「今度は違うぞ!」

泡を体に纏わせる

水流の抵抗を無力化

 

再生が完了した片手

咥えていた手が顔全体に広がりマスクに変化する

嘴のような形に変わる

 

寸前まで近づいた岩場、叩きつけの攻撃

それが叶うことはなかった

網状に展開した【触手】と【空気】により

水中で足場を確立し、水面に向け【カタパルト】

を展開する

「軽い!」

 

@砂浜

「イズクは?」

「緑谷さんなら大丈夫ですよ」

砂浜で抱き合う水乃と壊理

未だ戻ってこない緑谷を心配している

 

鮫の出現により砂浜が騒ぎになる

民間人の通報により

駆けつけたプロヒーローが警戒に当たっている

 

イエローテープで砂浜への侵入が

誘導により混乱を治める

 

そんな最中、鼓膜を破壊せんとする破裂音

直後押し寄せた波により砂浜が整えられる中

海面から勢いよく打ち上がったそれに一同が視線を送る

 

黒鳥が海面から空に向けて勢いよく飛び立ち

その隻足の黒鳥は鮫を掴みながら空へ

飛び上がるのを皆が目撃した

 

@森の中

「ブへぁ」

咥えていた手を口から引き抜く

項垂れた様な姿勢で水から出る

片手には鮫の頭部から背中を引き摺る

 

「こいつ何だろう?」

脳無が抵抗する

差し込んだ腕が形を保てず鮫の喉に流れ込む

 

「【遊泳】かな?」

【触手】の展開後にも抵抗が続いた

鮫の膂力による単純なそれだった

 

しかし、乾燥した【カタパルト】内でニュートラルが

鮫を引き裂いて行った…【触手】を連ねて飛び立った

 

「やるなら先に言えよ」

苦笑いしながら髪をかき上げる

 

ふいに軽くなった片手を見やると

鮫の背面から徐々になくなっていくのを目撃する

「脳無の捕食か…」

 

2度目の目撃

USJでの『最強の盾』を思い出す

これでまた

 

「【個性】が増えるな」

口角が吊り上がるのは間違いなかった

確信があった

 

@砂浜

「緑谷さん!」

「あ!水乃さん」

「エリちゃんが!」

 

 

 

「君がイズク君かな?」

背の高い男性

黒いマスクにラフな私服に身を包んだ風体

白い薄手の手袋

 

「イズク!お父さんが居たの」

笑顔のエリちゃんにホッとするが

足元で物静かな【黒き人】に異常を察する

 

「よかったねエリちゃん」

今じゃない、今ではない

 

「えっと…」

「…治崎と申します」

「治崎さん」

【黒き人】に目配せする

 

「この子を一緒に連れて行ってはくれませんか?」

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