@医務室
「いやぁ、負けてもうた…」
「身体は大丈夫?」
「気付いてん?」
僕は目を押さえながら答える
「うん」
「デク君のエッチ」
「あっ、いやそんなんじゃなくて、動きとかで!?」
突然鳴り響く携帯の呼び出し音
「電話や」
「あ、大丈夫だよ」
「ごめんな」
髪を避けて携帯に耳をつける
…
電話口から聞こえる
「あ、父ちゃん?」
「いや、やぶれかぶれ凄くないよ、それにあん後のことなんかいっちゃん考えてへんかったし」
僕は扉を見たが服の裾を掴まれその場に留まる
次第に涙声になる麗日さん
「うん…うん、でも」
長い沈黙の後
嗚咽混じりに返事を返す
急んがでも大丈夫やで
そんななるくらい優しいお茶子は
"絶対良いヒーローんなる"
電話口に別れを告げると堰を切ったように
泣き始めたその子にただただ
屈んで背中を貸す
「次の対戦カードは…」
@少し経っての医務室
「大丈夫?」
「ん、でもまだ見んといて欲しい」
俯いたまま視線を合わせてくれない麗日さんに
ハンカチを手渡し、次の試合に備える為扉に向かう
「デク君…」
「うん?」
「負けんなよ!」
親指を立てた麗日さんに親指を立てて返す
@【黒き人】vs【洗脳】6-1
「心操って確か…」
スタジアムに向かう通路で考え事を繰り返す
尾白君との会話内容から個性を考える
そんな事を考える時間は少なく
通路の切れ端から陽の光を爪先から抜ける
ここまでの快進撃は誰が見ても明白!
雄英の伏兵にして普通科からの新星
心操 人使!!
ここまでの対戦相手をことごとくひん剥いて来た
A組のすけべ野郎、今回は剥かなくていいからな?
緑谷 出久!
「わざとじゃないよ!!」
プレゼントマイクの紹介に対して叫ぶ
「大変だな緑谷」
「そうだ…」
しまった…
そう、気づいた次の瞬間には体が動かなくなっていた
「準備は十分か?そうじゃなくても始めるがな〜」
価値を確信した心操は緑谷に違和感を感じた
視線が…動いている
「(俺に返事した時点で動けるはずがない…)」
「レディー!ふぁい!」
「緑谷出久!振り向いて白線から出ろ!!」
試合開始の合図と共に心操が叫ぶ
スタジアムの壁に反射し響き渡る
しかし
両手を見つめ始めた緑谷が
【洗脳】の不発を告げていた
「対策?いや、たしかに返事をした」
虚な瞳に真顔で手のひらを振っている
「…余裕かよ」
心操その仕草に対して苛立ちと困惑を口にする
未だ返答のない傀儡擬き
徐に握り拳を作り始め、それに警戒するが
「な!?」
手加減なしの一発
それを自身に向けて放った
@【複製器官】vs【洗脳】6-1
「はぁ、はぁ」
口の中から血を吐き出す
少しの手加減もなし
全力で殴り飛ばされた
そのおかげで解けたけれど
「あぁぁぁ…」
予想以上の衝撃
立つのもやっとで膝をつく
「自力で解きやがった…」
驚きを見せる心操君だったが
真相は違う
【洗脳】にかかった直後
マニュアルに意識が持っていかれた
自律的な行動をしてはくれないものの
指令に対しては従順であった
しかし、その後【洗脳】対策を考えた直後に
拳を叩き込まれた…
「思考までは奪われないみたいだね…」
「マジかよ…」
「緑谷!真正面から洗脳を打破!!本当に何なんだこいつはよ〜」
プレゼントマイクからヤジが飛んでくる
「なぁ緑谷」
「…」
「尾白ってやつ居ただろ?」
「…」
頷き返事をする
「やっぱり聞いてるんだな…せっかくのチャンスを不意にするなんてな、ヒーローを馬鹿にしてんのか?」
「なんてことを言うん…」
「【洗脳】の命令は効かなくても!」
肩と首を掴んで場外へと押し出しを図る心操
しかし、びくともしない
「…」
「くそぉ」
振りかぶり殴りつける
空を切り、いなされ
相殺され傷すら与えられず
「くっ」
「なんで?ヒーローに憧れた…の」
アイアンクローを喰らう緑谷出久
2度目の洗脳無効
「それがどうしたかよ?」
「…」
「憧れたんだから仕方ないだろ!」
息を切らしながら殴りへと転ずる
しかし、勢いもキレも失われた拳が当たることは
ない
「…」
「何だよ緑谷…哀れみか?」
「いや」
「じゃあ!なんだよ!?負けてくれるってか?んなこと望んじゃいねぇんだよ!」
「…」
口を開こうとした直後
「お誂向きの個性だよな!個性に対策が完璧な個性なんてな!」
「!!?」
お誂?…そうか
「個性…個性か…」
「… …?」
何というか…分かり合える気がしたのは
全部気のせいなのかも…
「心操君」
「何だ…」
黒く澱んだ瞳の先で敵を見る
ジャージを脱ぎ捨て
「頑張ったんだよ、こうなるまで」
黒い腕が露わになる
右の握り搾った拳が手のひらを貫通する
左の二の腕から瞳が三つ現れ、視線を泳がせ、触手を漂わせる
顔についてる一対の瞳がそれぞれ見開かれる
陽炎を背負う
【】
ーーー
@【???】vs【洗脳】6-…
「なぁあれ」
「変身したと思ったら心操に対応されてないか?」
緑谷の変形
その直後の戦闘再開は
側から見れば心操が対応してるように見えるが…
対応
空気を叩き放つ拳を強引に相殺させられ
後隙を減らす為の裏拳は無理な体勢で
裏拳から派生した空中半捻りによる足撃は
骨が折れようと構わない防御姿勢で
受けさせられ
いなさせられ
躱させられ
関節が悲鳴を上げようと
筋繊維が嫌な音を立てようと
息が切れようとも
指が痺れても
この演舞に付き合わされる
「何で教師陣は止めないんだ?」
「大丈夫なんだろ?」
観客を他所に
事態は深刻化していた
【個性】が発動しない
【コンクリート】も【眠り香】も【抹消】も
どれひとつとして機能していない
「普通科の実力じゃねぇだろこれ!」
プレゼントマイクが異常事態を悟られないように実況を続ける
数分間の打ち合いの末
緑谷の進言により心操 人使の戦闘続行不能が確認され、緑谷 出久が決勝戦へと駒を進めた
@【爆破】vs【大拳】6-2
「お前、手がデカくなるんだったか?引くなら今のうちだ痛ぇじゃ済まねぇぞ」
「ご忠告どうも」
開始の合図と共に
距離を詰める拳藤
しかし、【爆破】による広域攻撃とは相性が悪かった
詰めた距離より更に押し返される
黒煙を浴び、煤まみれ
「うわぁモロ」
「女の子相手にマジか」
手のひらで爆破を受け直撃は免れたものの
手のひらの中心が赤く染まっている
血は出ていない
「単純だけど、だからこそ無理なのよね」
「じゃあ死ね」
「B組で残ったの私だけなもんでね」
【大拳】を解除し、機動力を確保
しかし、警戒を解く事のない敵
距離を詰めた瞬間から弾き飛ばされる
「なぁ止めなくていいのか?どう見ても打つてなしだぜ?」
観客席から騒めきが漏れ出る
「見てらんねぇ」
甲冑を身に纏った観客席のヒーローが立ち上がると
「お前それでもヒーロー志望かよ!女の子いたぶって遊んでんじゃねぇ」
そう叫んだ
A組、B組共に苛立ちを覚える
それを皮切りにブーイングの嵐に発展したが
「今遊んでるったのはプロか?」
【抹消】により個性を鎮められる
「プロか?何年目だ?シラフでいったんならもう見る意味ねぇから帰れ、かえって転職雑誌でも見てろ」
イレイザーの静かな怒りがスタジアムに響く
「相手を観察した最善策を取ってる、女や男で判断して手を抜くなんざもってのほかだ」
相手の手の内がわからないから警戒してんだろう
「手加減も油断もできない、本気で勝ちに行こうとしてるからだ」
説教の最中
爆豪に拳がめり込む
会場が一気に湧く
爆豪は右腕を庇うように立ち上がる
一方の拳藤も爆発による消耗が激しい
「こいつ…」
「そろそろと思った」
両者満身創痍
しかし、その目には諦める意思はない
「やれ!拳藤!B組魂見せてやれ!」
「爆豪君どうしたんやろ?」
「多分、爆破の許容限界」
「許容限界?」
「うん、爆豪君は【爆破】、汗腺から出る汗が爆発するようになってるんだ」
僕は手のひらを指差しながら説明する
「それを支える土台と汗腺の疲労がそのまま個性発動の許容限界になる、鉄哲君とやり合った時相当使ってたから」
「待って、じゃあかなり不利じゃん!」
「それでも」
それでも
「決めさせてもらうよ爆豪君!」
「…はっ」
飛び上がった拳藤さん
だったが
諦める気は毛頭ない爆豪
左の掌を前に突き出し、右手を添える
「なっ!」
「甘めぇんだよ」
〔スタジアムを揺らす爆音〕
黒煙がさらに勢い良く立ち上る
「なんか策があると思ったが…」
スタジアムの壁に背中を任せ、力無く膝から崩れ落ちる
「爆豪君決勝進出!」
右が先に出るのは相変わらずだった
その為右腕が早々に限界になる
それでも残った左腕はそれだけ休まる
限界を迎えさせるなら両方同時にしなければ
まず勝ち目はなかった
@医務室
起きて最初に気づいたのは
身体の重さに反した運動能力
まるで俺のじゃないみたいな
そんな気がする程
「心操?良かった…倒れた時は心配したぞ」
そうか…俺は負けたのか
個性が通用せず、挙句には肉弾戦でも
「カッコよかったぜ心操!」
「正直ビビったよ」
「A組トップと良い勝負してんじゃねぇよ」
いい勝負?俺は個性を破られ、なす術がなかったのにか?
「どういうことだ?」
「どういうって格闘でA組と互角に渡り合ってたじゃねぇか」
「プロヒーローがこぞってお前を称賛してたぞ、何で普通科なんだって」
…どういう
「いや、俺は緑谷に負けた筈だろ」
「?負けには負けたが何だ心操、覚えてないのか」
「覚醒ってやつ?」
「はいはい、【治癒】に体力使ってるんだよ、そこまでにしな」
医務室のおばさんに促され普通科の面々が退室していく
「あんたも勝ちに貪欲になるのはいいけど、程々にしな、全く」
呆れた様子で机に向き直るおばさん
「どうなってんだ?」
皮膚の下から確かに感じる膂力と熱
「…緑谷」
不思議と屈辱的とは感じなかった
不意の眠気にふと
思い出した言葉
「多芸であれ…」
一芸では務まらないプロヒーローへの道
「…なるほどな」
わざわざ教えられたってことか…