@夕方
視界不良なんのその
【透視】の視界に映る景色は春と変わらなく
色はないもののはっきりとした像を映し出している
「やっぱり便利なのね」
「僕もやっと慣れたのでまだまだです」
【複製器官】と個性の同時併用
最近では紅茶によるブーストもなしに可能になった
雄英体育祭で無我夢中の変身も今にしてみれば反動を受けていない
「初日からこの密度…」
「なかなか頑張ったのね」
書類を抱えて部屋を歩き回る瞬さんを目で追う
ハイヒールなのに音が全くしない
右へ左へ、屈んで伸びをしても
鈍い音すらしない
「これから慣れますかね」
「慣れるのね」
話をする間にもハイヒールの音はしなかった
ヒーロー活動の内容は
人助けから頼み事まで
大から小まで全て受けていた
これを元ヒーローの還暦過ぎた人間がこなしていたのかと考えると個性というよりタフネスに興味が湧いた
平和な島でのヒーロー活動はヒーローの本質とも言える
信頼関係を築き上げる、その重要性を
しかし、疲れがピークに来たので
その夜はぐっすりと寝て明日に備えた
@夢の中
「このヒーロー社会を壊すぞ」
聞いたことのない声…
〔扉を叩く音〕
で目が覚める
@事務所内
「はい」
扉を開けると朝方に顔合わせをした
「村長さん!」
村長が立っていた
その側には40代程の女性
「お邪魔するよ」
「天霧さんにこれを」
「ビーチの監視ありがとう」
「修理もね」
島民が大勢で事務所に向かって来ているのを
目で確認する
「こんな時間にありがとうございます」
「それはこっちのセリフだよ、夜遅くまで御苦労さん、これは差し入れだよ」
身の回りのことは一通りできるような生活をしているヒーロー
そんなヒーローでも疲れた日には何もかもをほっぱらかしにして休みたい時がある。そんな時の差し入れほど有難いことはない
「ありがとうございます」
「皆さんでいただいてください」
島民の歓声に胸が熱くなる
苦労しただけ報われるわけではないと知っているが
いざ報われた時のこの瞬間は何ものにも代え難く幸福感で満たされた
@食後
昼間には見られなかった他のプロヒーローと卓を囲みながら談笑する
島の恵みをふんだんに使った料理の数々は瞬く間に完食された
「ご馳走様でした」
その後交代でお風呂へと向かう
残ったものは電話に警戒する
その間にも清掃、片付けをテキパキとこなす面々
流石プロヒーロー達と言った印象だった
「洗剤の詰め替え終わった、皿片しといて」
「ベッドメイクしてくるついでに廊下磨いてくるわ」
「施設の方仕上げてくるな」
片付け中にもプロヒーローから個性や関わった事件などの話を聞く
「緑谷君は寝なくていいのかい?」
「大丈夫ですよ」
「ここはやっとくから寝ておいで」
そう促され、床につく
眠たくない目を強引に閉じ休む
瞼の裏に映るのは島の全体像
人がいなくなって寂しくなった海辺の目を閉じ休む
人が迷い込まないように監視をしていた洞窟に森の手と目を休ませる
少なくなった映像を見ながら
センチになる、個性のなかった僕が今やプロと活動を共にしている
夢の…様…だ
その間にぐっすりと眠った緑谷
早朝、鳥の囀りがある中
〔突然の爆音〕
目が覚める…
朝日の登り切らないうちの発光
瞼から貫通して見えた光で雷が落ちたことを理解する
「びっくりした…近くに…落ちたの…」
いや、おかしい
ここ最近は雨どころか雲一つない快晴が続いていた…
遠くからの雲もなかったはず
雷に驚いた震えが止むより早く
コスチュームに着替える
「みんな起きたか?」
廊下に出ると整列した面々が確認作業をしながら一階へと移動を始める
「状況報告」
「何者かにより防波堤が壊されました、今も破壊活動が続いています」
見開いた目で情報を拾う
「被害状況」
「移動手段の破壊が主です」
「一体何の目的で」
慌てることなくプロヒーロー達は行動を開始する
避難誘導、ヴィランへの強襲、伝達
それぞれが息をつく暇もなく
行動を開始する
「僕も…」
「緑谷さんはここに残って下さい」
「なっ!?」
天霧さんに止められ抗議をしようとする
が
「特別待遇ではありますが貴方は学生です、仮免の取得もまだの身で戦闘は極力避けたい、それに」
それを諌めるように柔らかい口調で説明される
「貴方はこの場で唯一の偵察能力があります、貴方しかできません」
それぞれが出動を始める中、握りしめた拳で自分の意思を押し殺す
〔再び爆音〕
「また?」
「やられた通信手段がやられたのね」
「!?」
扉から身を乗り出すと通信塔が炎に包まれ倒れていくのが見えた
「くっ…」
「ミドさん!!」
今にも外へ向かい出さんとしていた僕を瞬さんが静止する
「行くんだったら島乃家に」
「!はい」
【リンクスタイル】からの【スカイランナー】
それ程時間は掛からなかった
@島乃姉弟
「お姉ちゃん!ヒーローに敵のことを知らせなきゃ!」
「携帯が通じない、もしかしたら家のなら」
黒煙の通報者の二人は
通話が繋がらず、必死にその状況を伝えんとする二人は収穫を待つ背の高いサトウキビ畑を抜け、自宅へと向かっていた
島に来て間もないヒーロー
しかし、出久ならと
「見えた!」
やっと見えた家にホッとした真幌だったが
次の瞬間…快晴から落ちた雷に
耳鳴りと目が眩む
活真を庇った真幌
爆風で巻き上げられた麦わら帽子が空中を舞う
「見つけたぞ【細胞活性α】」
一瞬にして無くなった我が家を茫然と眺める中
家の中から現れた人間が現れる
二人は気づく海辺に居た敵の親玉らしき人物
「先回りされた!?」
見知らぬ人間が真っ直ぐ手を伸ばしてくる
「来ないで!」
真幌は【ホログラム】で幻獣を投影し、襲い掛からせるが
「物理的でないのは分かってる」
幻獣が噛みつこうと大口を開け、今にも噛み付かんとしたが
ナインを素通りしたかのように虚空に噛み付く
「お姉ちゃん」
「…!」
真幌は怯える活真を守ろうと抱きしめる
一瞬にして家を消し飛ばす程の敵相手の虚しい抵抗
それでもそうするしかなかった
「お前なんてヒーローがやっつけるんだから!」
「個性をくれるなら今すぐにでも襲撃をやめよう」
「!?」
敵が近くまで迫り足音が聞こえる
もう駄目だと身構えた瞬間
威圧感が遥か遠くに消えていった
恐る恐る目を開ける
「ごめんね、活真君、真幌ちゃん僕が来た」
抱えられた腕が力強く包み込まれる
「遅いの…よ」
「いずく…にいちゃん」
立ちすくむ敵を尻目に事務所へと向かう
@事務所近くの森の中
「活真君、真幌ちゃん、動けるね?」
森の中に着地をする
抱えた二人を下ろし尋ねると頷く
「それじゃこの子を追って」
犬を模した【黒き人】を事務所方向に向かわせる
さてと
「止まってください」
振り返り様に敵の気配に警告する
しかし、歩く速さは変わらない
「止まれ」
「退け」
再びの警告をするが
威圧感のある返答で返してくる
「退くとでも?」
「邪魔をするなら殺す」
両者構える
敵は腕を持ち上げると
紫色の閃光が飛んでくる
力なく握る拳の指先5本からそれぞれ飛んでくる
それを黒腕で掻き消すべく腕を振るい相殺すると
腕鞭を伸ばすが敵に触れる前に弾かれる
「(見えない壁?)」
腕鞭の先端を液体化させ突破を試みるが
「(端がない…)」
液体は広がるばかりで一向に端を捉える様子がない
見えない壁が液体を弾き返しながら
緑谷は【リンクスタイル】で素早く後方に回避するが
間髪入れずに閃光が飛んでくる
点の攻撃から線の移動で対処する
木々の隙間を縫う様に移動しながら拾った小石を
【黒弾】として撃ち込む
いずれも見えない壁に阻まれる
程なくして地面に落ちると再び閃光が飛んでくる
「防戦一方か」
木の影で紅茶に口をつけながら打開策を立てる
木にぶつかる閃光は木の皮を少し削る程度の火力
人体で受けてはいけない必ず【黒き人】で受けなければ
見えない壁は何とかなるかも
後は
「何個【個性】があるかだよな」
【黒き人】に似た特性、いずれにしろ個性を複数持っている可能性は捨て切れないことを念頭に置くと木の影から飛び出す
「この色…見たことがない」
敵の呟きを記憶しつつ【トリガー】による拍手を放つ
「!?」
見えない壁を貫通しての攻撃
鼓膜に届いた拍手の音でよろめいた瞬間
腹部に強烈な一撃が射し込まれる
「ぐっ!!」
吹き飛ばされた敵がマスク越しに声を漏らす
「投降してください」
「この個性…危険だ」
近づいてくる緑谷に対して敵は姿を消す
「!?」
「その個性奪わせてもらう」
振り返り様に攻撃をしようとした緑谷をアイアンクローで持ち上げる
頭の中に何かが流れ込んでくる感覚を感じ、必死に抵抗する
「未知の力だが応用が効きそう…」
瞬間、敵は中へと何かが侵入してくる感覚に陥る
「何だこれは!」
足元から這いずって来る何か
やがて太腿に突き刺さる指の感触
脊髄が引きちぎられるような感覚が脳へ登ってきた
その時
強烈な一撃により正気に戻る敵
緑谷から放たれた右足による左側頭部への一閃
よろめき足を確認する
「何だ今の感覚」
「ナイン…強き者が世界を手にする世界を目指そうとしてる」
緑谷の口から放たれた言葉に動揺する
名乗ったはずのない名前と目的
「精神作用系とは色が違う…」
「個性を色で見る【個性】」
たじろぐナインに緑谷が詰め寄る
ゆっくりとした歩みで確実に距離を縮めてくる
「お前も奪う個性か?」
「どうだろうね?」
太陽が真上で留まる
木々の隙間から覗く木漏れ日が二人の表情を映しながらもひた隠す
「強い個性のせいで身体が限界へと近づく」
「お前も俺と同種か?」
「個性の空きがなければ奪えない」
「…どこまで分かる」
ナインが天を指差す
「それが強い個性の正体かな?」
「それがどうした!」
ナインが腕を振り下ろすと
轟々と鳴る雲の中から蒼い閃光が緑谷を貫く
膨大な電気の奔流が地面の送電を通じて電柱の変圧器を次から次にショートさせていく
「…」
人1人を飲み込む太さの落雷が緑谷を通過したのを確認したナイン
辺りの木々が蒼い閃光を帯びながら焦げ臭さを浴びる中
「ここで始末しなければ」
ナインが腕を構え緑谷を始末しようとした瞬間
全身を引き裂くような感覚に襲われる
身体の内側から崩壊するように身体が砕ける感覚に見舞われる
それでもそれを必死に耐え緑谷を視界に収めるが
虚ろな瞳で見てくる緑谷の姿
ナインの放った閃光が緑谷の身体を貫き、吹き飛ばす
血飛沫はなく、切断、貫通、抉り取る
しかし、そのどれもが有効的な効果をもたらしてないことを物語るように緑谷は真顔で立ち尽くしている
「コイツ不死身か…」
「ナイン!」
「スライス…」
呼吸が乱れ、ふらつくナインを支えるようにスライスと呼ばれた女性が肩を貸す
「あの小僧を始末しろ」
「わかったわ」
ナインを支えながら髪の毛を一本硬質化させ
千切ると
緑谷の心臓を投擲により貫いた
「少年は?」
「プロヒーローの所だ…」
「居場所がわかってるなら体を癒すのが先よ」
スライスは懐から信号弾を打ち上げると
ナインを抱える
〔砕ける音〕
スライスの耳に聞きなれた音が入ってくる
木よりも硬質で金属質な自分の髪
強度が足りず貫けなかった時になる音
「まさか?」
振り返ると刺したはずの髪が2本に分断され
立ち尽くす緑谷の姿、動く気配はない
「…」
訝しみながらもナインの容態が心配なスライスはその場を後にした