@保須市
神出鬼没にして17名の殺害
23名のヒーローを再起不能に陥れた
ヴィラン、英雄殺しステイン
黒霧は貯水槽の上で
保須市を一望しているそいつを見つけた
ため息混じりの独り言に
割って入るように声を掛ける
「探しましたよ、ヒーロー殺しステイン」
声をかけられた方向へと刀が振り下ろされる
素早い抜刀による振り下ろし
常人ならばその太刀筋すら理解できずに
鎖骨から胸骨付近を通過し肋骨に当たることなく
筋肉を引き裂き抜けることになる軌道を描く
しかしながらその軌道を描き終わる前に
黒霧の身体に
刀身の先端数センチが飲み込まれ止まる
「落ち着いて下さい、我々は同類…
悪名高いあなたに是非とも会いたかった」
淡々と続ける黒霧が丁寧に詫びを告げながら
とある場所へと転移した
@バー
視界の暗闇が徐々に薄れていく
その境の先
木造の酒場
酒樽より瓶の似合う作りのお洒落な内装
木箱が酒棚の内に並べられているのは意図的か
そこに不釣り合いとも見れる気だるそうな
貧相な背格好の少年
簡単な自己紹介をし終えると
ステインはため息を漏らしながら口を開く
「なるほどな、お前達が雄英襲撃犯…
その一団に俺も加われと」
「あぁ、頼むよ悪党の大先輩」
嘲笑
ステインへの敬意なんて物は微塵も感じられない
小馬鹿にした口調
ステイン自身はこの態度に対し
それほど気にもとめていない、それ以上の疑問
「目的は何だ?」
ステインの質問に
気だるそうな少年こと
死柄木がそれに答える
「取り敢えずはオールマイトをぶっ殺したい
気に入らないものは全部壊したいな」
話題を続けつつ
懐から写真を取り出しステインに見せ
「こう言うガキとかも全部な」
ステインはため息をより一層深めた
興醒めだった
「興味を持った俺が浅はかだった…はぁ…
お前は俺が最も嫌悪する人種だ」
「子供の癇癪に付き合えと?
ハ!…ハァ信念なき殺意に何の意義がある?」
両脇に携えた刀をゆっくりと引き抜く
「はぁ?」
唐突な敵意に苛立ちに似た疑問が口から漏れる
純粋な破壊衝動、言うなれば単純な動機
ステインにとってそれは忌むべき意志
わざととも言えるこの采配に黒霧が画面の先で
事の成り行き見守る者に問い掛ける
「先生止めなくて良いのですか?」
「これでいい!」
黒霧の心配を他所に
画面の向こう、先生と呼ばれたそれは
嬉しそうに即答する
「答えを教えるだけじゃ意味がない
至らぬ点を自身で考えさせ、気づきを与える
教育とはそういうものだ」
先生の考えは
単純な破壊衝動を何かもっと明確で
揺るぎないものにしようと考えているようである
しかし、現場の空気は最悪最低
ステインが今…
@そう経たずして
部屋の中をその狭さをものともしない機動性
臨戦体制に入ろうと動き出した死柄木
死柄木を守ろうと動いた黒霧
黒霧の左肩付近をナイフが抉る
その傷口を何かが素早く這ったかと思うと
黒霧の身体はその動きを極端に鈍らせる
カウンターの酒棚を足場に
死柄木を勢いで地面にはっ倒す
同時に抜刀していた
ナイフ…というには長く
ショートソードと形容できるそれを一組
肩を突き刺す
それを首を刎ねんとその隙間を徐々に狭めながら
「何を成し遂げるにも信念…想いがいる
ない者、弱い者が淘汰される…当然だ」
説教を始めた
「だから
「はっははは、いてええぇ、強過ぎだろ」
肩に突き立てられた刃物から血が溢れ出す
「黒霧こいつ帰せ、早くしろ」
体を動かそうとする黒霧
しかし動けない
「体が動かない…」
それをお構いなしに説教を続けるステイン
「ヒーローが本来の意味を失い
偽物が蔓延るこの社会も
徒らに力を振りまく犯罪者も粛清対象だ」
その言葉に合わせるように刃物が死柄木に迫るが
その刃物を掴んだ死柄木
「ちょっと待て待て…この掌はダメだ」
先程までの舐めた態度から一変する
「殺すぞ」
掴んだ刃物が
ボロボロと刃こぼれを増し、忽ち砕け、塵となった
ステインに対しての驕りから明確な敵意
「口数が多いなぁ…信念?んな仰々しいもんないね」
「強いて言えばオールマイトだな…
あんなゴミを祀りあげられてるこの社会を
めちゃくちゃにぶっ壊したいなぁとは思っている」
手が触れようとしたのを躱し
ステインが刃を収める
「せっかく前の傷が癒えてきたとこだったのにさ…
こちとら回復キャラがいないんだよ…
責任とってくれんのかぁ?」
「それがお前か」
「はぁ?」
先程までの戦意のなさに呆然とする死柄木
「お前と俺は対極にあるよう…だが」
『今を壊す』
「この一点に於いて俺たちは共通している」
「ざけんな帰れ死ね"最も嫌悪する人種"なんだろ」
急な手のひら返しに馬鹿らしくなり
臨戦態勢が解かれる
「真意を試した、死線を前にして人は本質を表す
異質だが…"想い"
歪な信念の芽がお前には宿っている」
お前がどう芽吹いていくのか
始末するのは
それを見届けてからでも遅くはないかもな
「始末すんのかよ…こんなイかれた奴が
パーティーメンバーなんて嫌だね俺」
「死柄木弔彼が加われば大きな戦力になる
交渉は成立した」
「用件は済んだ!さぁ保須ヘ戻せ
あそこにはまだ成すべきことが残っている」