その音が鳴ったのは、俺が朝起きてすぐのこと。
起き抜けの頭で音源の物を掴み、電源を入れる。
『今からCircleに来れるかしら?』
たったそれだけ。
それだけだけど、なんとなく「来なかったらどうなるか」というのが容易に想像できるのは、長年の付き合い、という奴だろう。
『着くのは20分後になりそうだ』と送れば、すぐさま『大丈夫よ、待っているわ』と返信。
この女、もういるな?
そんな思考を追い出すかのように顔に水を浴びせ、歯を磨いて着替える。
部屋の隅に立てかけてあるケースを背負って、家を出た。
「っ...はぁ、はぁ...」
流石にギターケースを背負って全力疾走は死ぬ。
あとで飲み物でも買おう。
「そんなに急がなくてもよかったのに」
「早めについたら好感度上がるとか、ない?」
「残念ながらないわ」
「そっすか」
そう言いながら、友希那の顔、というか口が緩んでいた。
何でなのかは全く知らないけど。
俺に会う前に会った猫でも思い出してるのかな。
「どうしたの?」
「え?なにが?」
「さっきから口角が上がってるわよ?」
「いや、友希那がうれしそーな顔してるから、可愛い猫でもいたのかなー思って」
「...そうね、そんな猫も、いたわね」
やっぱりいたんだな。
友希那が笑う時って、大体猫絡みだし。
「さ、ご丁寧にギターも持ってきてくれたことだし、練習しましょうか」
「俺は良いけど、友希那はいいのか?氷川のギターとだいぶ違うぞ?」
「構わないわ。突然サポートが入っても大丈夫なように練習しておくのも大事なことよ」
たっかいプロ意識、さすがだな。
俺も見習うべきだな。
「さぁ、1時間ほど、たっぷり行くわよ」
「OK。骨は拾ってくれ」
「~♪」
改めて思う。
友希那の歌への情熱は桁違いだ。
そして、声も。
神がいるなら、恵まれすぎているとしか思えない。
「...ふぅ」
「お疲れ。そろそろ1時間だ、片付けようぜ」
「...えぇ」
ギターは自前だからいいとして、楽譜置きも使ってないし...
「前から思っていたのだけど」
「何を?」
「バンド、興味ないの?」
「ないな。俺のギターは趣味だ」
「...そう」
...逆に聞きたいよ。
猫のいないこの状態で、どうしてお前は笑うんだ。
どうして、そんなに顔が緩んでるんだ。
知りたい。
「さ、出ようぜ。喉乾いたし」
「えぇ」
幼馴染なのに分からないことだらけ、というのは異性であるが故の壁か。
いや、俺が詮索しないだけだな。
友希那もプライベートは明かさないし、この感じで落ち着いてるのも事実だし。
まぁ、このままでもいいか。
「友希那」
「なに?」
「昼飯食わん?俺の奢りでいいからさ」
「えぇ、ご馳走になるわ」
なんかオリ主くん友希那への知識止まり過ぎじゃない?
これでも高3なんだけどな