RASは全然わからーん
「ん~...!」
「...何やってんだ」
駅前の自販機にて、一番上の段に手を伸ばす少女が一人。
背伸びして届いてないけど。
「...チュチュ?」
「What!?...あぁ、カバー。どうしたの?」
カバーというのは俺のあだ名。
覆い隠す意味の英単語で、彼女が作り上げ、また所属するバンド、「RAISE A SUILEN」は全員、「隠す」意味を持つ英単語のあだ名がついている。
それの縁だ。
「で、チュチュはそんなとこで何してんの?」
「...ミルクティーの場所が遠いのよ...」
「押してやるよ、どこだ...一番上か、ほれ」
俺もよく飲むミルクティーを押してやり、出てきたものはチュチュが取る。
「...Thank you.」
「どういたしまして...って言っても、家に帰ればミルクティーぐらい作れないか?」
「...アンタ、ワタシの家を何だと思ってるの?」
「大豪邸?」
「そこまでじゃないわよ...」
呆れられた。
まぁ、しょうがないと言えば、しょうがない、か。
「あ、カバー。ちょっと頼まれなさい」
「はいはい、なんでしょ」
「新曲のデモが出来たの、聞いてくれないかしら?」
「...それ、俺聞いていいのか?」
「カバーならいい感想が聞けるのよ。その反応を見て改良できるわ」
いろいろ言ってるが、要は。
「実験台ってこったな?」
「Yes. 受けてくれるかしら?」
「いいよ。でもいい感想は期待するなよ」
「抽象的で構わないわ。それでupdateしていくのが、ワタシの腕よ」
チュチュの家に入り、時間も惜しいからと早速デモを聞かせてもらった。
椅子に座って、チュチュの物は違うヘッドフォンを付ける。
流石に猫耳を付ける勇気はなかった。
「...す、っげぇ...」
「...アナタ、語彙力ないの?」
「いや、こんなすげえの聞いて事細かく感想言えって言われても無理だよ」
「...それほどワタシの音楽が強力、ってことね」
「そういうことだ」
頭の中を殴られるような激しいサウンド。
自然と体が乗ってくるリズム。
やっぱり、チュチュは天才だ。
「やっぱりすごいよ、チュチュは」
「当然よ!RASは最強のバンドなのよ?こんなんじゃ、まだまだ足りないわ!」
「うん。きっとRASは、どこよりも人気になれると思う」
「Really? 」
「あぁ。多分、だけどね」
そうおどけてみると、チュチュは俺の後ろに回って、背中に体重をかけてきて。
「ちょっと疲れたわ、寝るわね」
「ん、いっぱい寝ろ。6時前ぐらいになったら起こしてやるから」
「...よろしく、頼んだわ...Good night...」
「...おやすみ、ちゆ」
後ろにいる温もりを感じながら、俺は意識を落としていった。
次に目を覚ました時には、可愛らしい柄の毛布が、俺とちゆにかけられていた。
「...誰がやったんだか」
カバー君なんですけど、たぶんRASの話の中では全部彼が出てくると思います