分からなさすぎて殺されても文句は言えない。
6限が終わって、教室の空気が弛緩する。
明日も使うものはロッカーに、それ以外はカバンに詰める。
すると、後ろから控えめに声を掛けられる。
「あ、あの」
「...高松?」
高松燈。
『羽丘の不思議ちゃん』なんて呼ばれてる、収集癖がある人。
「どうした?」
「あの、ね。一緒に、水族館、行かない?」
高松の手には水族館のペアチケット。
「...千早は?」
確かバンドメンバーだったはずだし、仲は良いはずだが。
「あのちゃんは、用事があるみたいで...」
「他のバンドメンバーは」
「その...みんな、忙しい、みたいだから」
...千早のやつ、何か企んだか?
「...まぁ、無駄になるのは悲しいしな。俺でよければ」
「うん...!ありがとう...!」
なんで目キラキラさせながら喜んでるのかは知らないけど、まぁ楽しみならそれで。
学校を出て、いつもとは違う方に出る。
「...んで、なんで俺なの?」
「ぇ...やっぱり、迷惑...だった?」
「違うよ、他にも選択肢はあったろうに、なんで俺に来たんだろうって思っただけ」
同性であればそれほど話題にもならないだろうに、なぜわざわざ異性の俺を選んだんだろうか。
「この前、ヒゲペンギンの絆創膏、してたから」
「あー...あったなそんな事。え、それだけ?」
「ペンギン、好きなのかなって。だから、誘って、みた...」
確かにペンギン筆頭に海の生物は嫌いじゃないが、水族館に行くほどでは...とか考えたけど言い訳っぽいからやめた。
高松がいい気分なのに水を差しちゃ悪いし。
「着いた...」
考え事をしてたら到着したみたいです。
俺は高松についていって、入館手続きを受ける。
チケット持ってるのは高松だし...待ったこいつ年パス持ってんじゃん。
「(...なんでチケットで?)」
年パスがあるならペアチケットより安価で入館できるはずだ。
「まさか、な」
「...?何か、言った?」
「いやなにも。楽しもうぜ」
少し離れた場所にて。
「...あっぶなー...!」
柱の裏に身を隠しながら息を吐くピンク髪の少女が一人。
「なんで燈がデートしてるわけ?どう考えたって釣り合わないでしょ」
苦言を呈する茶色が混ざった黒髪の少女が一人。
高松燈を尾行していた。
「ともりんが言ったんだよ?「話してみたい」って」
「だからって水族館で2人きりってどうなんだよ...いい、私止めてくる」
そう言って出て行こうとするを必死で止めるピンク髪の少女。
「待って待って!今出て行って下手に刺激したらともりん傷つくよ?」
「うっ...はぁ、じゃああれが変なことしだしたら止めるから」
「了解!尾行再開だ!」
「はぁ...」
水族館の楽しみ方が分からない俺だが、泳いでる生物を見てるとちょっと心が安らぐというか。
「あのペンギン、仲良し」
2匹のペンギンが身を寄せ合いながら泳いでいる。
高松の心に響く何かがあるのだろうか。
「やっぱり、わかんねぇ」
「ぅ...やっぱり、迷惑...」
「違う。ここの楽しみ方だよ」
説明文を読みながらこういうのは見ていくのだろうが、高松のペースが分からなくてゆっくり読めない。
「あっちのペンギンはーー。こっちはーーで、あっ、今通っていったのがーー」
目線や指があちこちに行く仕草の中で、同行者を楽しませようと考えてるような気がした。
「高松、詳しいんだな」
「好き、だから。いっぱい、調べて」
「良いと思う。ペンギンのことは高松に聞こうかな」
「...な、何でも、教えるよ!見分け方とか、名前とか...!」
何かに必死になれるのは良いことだ。
高松を見て、柄にもなくそう思った。