全人類、素直に言うこと言えるようになったらいいのになぁなんて、思うことがある。
誰もが好き嫌いを素直に言えて、ちゃんとした友情や愛情を育めないかなぁ、なんて。
そう思うのは、主にお隣にいる彼女のせいなんですけど。
「ん、何?」
「いや、さっきの問題分かんなかったけど私だけっぽいし言うの恥すかーーっ!?」
こいつ...!
授業中にも関わらず足踏んできやがった...!
「続きを1文字でも喋ったら、もっと強くするから」
「わかった、わかったから離して」
「次から余計なこと言うな」
これである。
お前が悪い?ほっとけやい。
彼女は美竹蘭。
左側に赤メッシュを入れた、見るからに勝気な女の子。
今をときめくガールズバンド、Afterglowのギターボーカル。
家はめちゃめちゃ有名な華道の家で、反抗期だか何だかで赤メッシュ入れたんだっけな。
あんまり覚えてないけど。
「...それでは、今日はここまで。課題は教科書62ページの...」
62ページの課題はさっき終わらせた。
特に追加でやることもなさそうだ。
「ありがとうございました~」
今日最後の授業の挨拶を適当に流し、荷物を持って教室を出ようとする。
「ねぇ、ちょっと」
「何だよ。俺は予定ないから帰るんだけど?」
「...ここ」
蘭が指を指しているのは、62ページ最後の課題。
「それが?」
「...あたしの計算があってないのか、答えがおかしい」
「...で?」
ヤな予感がする。
全力で退避したい。
「ここ、見せて」
「嫌だ、モカとかつぐみに教えてもらえよ」
「二人ともバイトだから、もういない」
見ると、教室には誰もいなかった。
「あいつら...!」
「てわけで、いいでしょ?ていうか、拒否権とかないと思うけど」
「...へーへー、わかったよ。腐れ縁だ、付き合ってやる」
「ーーで、この公式使えば...」
「できた...答え、一緒?」
「あぁ一緒だよ、よかったな」
疲れた。
もう人に教えたくない。
蘭が地頭よくて助かった。
これがひまりだったら死んでたかもしれない。
「よし、帰ろう」
「情緒。...いや早いな」
荷物を持って振り返ったら、もう蘭はいなかった。
教室の鍵を閉めて、職員室に返して、外に出ると、正門に蘭がいた。
「何だ、帰ったんじゃなかったのか」
「別に帰っても良かったけど、今日のお礼、まだしてないから」
「へぇ、何してくれるんだ?」
蘭は立ち止まって、カバンから何かを取り出した。
それを俺の手に乗せた。
「これ、あげる」
「...どーも。次困ってても助けてやんねー」
「...別に、いつも助けてもらう訳じゃないし」
「恩は売っとくもんだぞ、いつか報われるかもしれんから」
「あんたに恩とか、売りたくない」
「そうかよ」
こいつ、可愛くない。
でも、この関係で落ち着いてる俺がいるのも、事実だ。
むずかしい