転生とは如何なるものか。
神様に導かれる?異世界チート?
そんなのは無いけど、都合のいいことだらけ。
気が付いたら「あ、自分持って生まれ変わってる」ってなるのだ。
そうして自分もある日転生に気が付いた。
美少女になってた。
それもとびきりの。
前世の自分が美形だったのかは分からないけれど。
敢えて現世を例えるならば競争馬のヴァルハラと言った所か。
この世界には四足歩行の馬が居ない代わりにウマ娘と呼ばれる人種が存在する。
獣の耳と尾を持ち、類稀な身体能力を持つ亜人だ。
そして何の因果か、自分は前世と同じ「ソラノヤマト」の名を受けてウマ娘として生を受けている……と理解したのだ。
前々世においてよっぽど功罪があって煉獄代わりに輪廻転生でもやらされているのか、何にせよ自分がウマ娘で走りたいと思っていることは否定出来ない事実だった。
そうしてボクはまぁそれなりに、波乱万丈の「はら」分くらいには色々あって中央トレーニングセンター学園に入学出来たのだった。
とは言え十把一絡げの内の1人としてだけれど。
当たり前ではあるんだけど、中央トレセンなんてそりゃもう日本のエリートのその上澄みが集まっている。
誰もかれもが名家の子女ばかりで、一般家庭出身の方が少ないくらい。
その中でも入学前から名の知れた生徒が居るのだから末恐ろしい話だ。
当然居ました「ヒュウガミーティア」さん。
同期の中の超有望株。
小学校からトレセン付属の学校に通っていて幼い頃からメキメキ頭角を現した本物の「天才」。
こう言ったらなんですけど前世のアドバンテージがあくまで「中身が人間」だった自分はコッチの世界じゃなんの取柄もない基礎ステ少し盛られただけのモブなのでライバルとかにはならないだろうなぁ、とは思っています。
取り留めも無くぼんやりとそんなことを考えながらヒュウガミーティアさんの新入生挨拶を眺めていたらいつの間にか入学式は終わっていた。
未だに自分が中央トレセン学園に入学出来たことに現実感を得られないままHRも終わり自由時間と相成る。
言うまでも無く大半の学友が付属校からの進級か、そうでなくても名家で互いに交流があるため既に仲の良いグループが出来上がり自分を含めた僅かな一般家庭からの出が手持ち無沙汰にするだけになる。
居ても無意味だしと外に出ればチーム勧誘のお祭り騒ぎが始まっていた。
レースに出るならチームに所属しトレーナーに師事しなくてはならないのは分かっているが、当然無名なボクに声を掛ける物好きなど居る筈も無く。
幾つかの人だかりはそんな有望株の青田刈りなんだろう。
椅子に腰掛けぼんやり考えていると1人のウマ娘がズカズカと近寄って来た。
「何やってんだスカーレット、行くぞ」
「……え?」
157㎝のボクより結構背の高い、外はねで後ろ髪を一束括った特徴的な流星を持つスラッとした均等のとれた体躯の先輩がボクの腕を掴んで引っ張ってきた。
「もしかしてツインテ解けてやる気無くしてたのか?ったくトレーナーがまた呆れるぜ?」
「いやその……?」
完全に想定外の事態にクエスチョンマークを浮かべるしかなく引っ張られるまま歩いて行く。
恐らく人違い……なのだろうけど、もしや強引なチームへの勧誘だったりするのだろうか?
だとしたら何となく断りづらい。
というかそうなら嬉しいかも知れない。
……いや、無いか。
そのままされるがままに歩いて行くとチーム勧誘の立て札を持つ集団の元へとやって来た。
「スンマセン、遅れました!スカーレットのやつあっちでぼんやりしてて……?」
「んー?スカーレットならそっちに居るけど」
ボクより背の低いポニーテールの生意気そうなヒト……このヒトは知ってる、去年有馬記念で復活の勝利を遂げたトウカイテイオーさんだ……が外はね先輩の言葉に首を傾げる。
その言葉に呼応するようにボクの髪色によく似たツーテールの先輩が漁っていた段ボールから顔を上げた。
「何よ、アタシがサボってるとでもいいたいの?アンタこそアタシにかこつけてサボろうとしたんじゃないのウオッ……か?」
「す…す…す……スカーレットさんが2人居ますわー!?」
ボクとボクそっくりらしいツーテール先輩を見比べて、葦毛の先輩……このヒトも知ってる、天皇賞ウマ娘にして不治の病から奇跡の復活を遂げたメジロマックイーンさんだ……が素っ頓狂な声を上げた。
どうやらチームスピカに連れて来られたらしい。
立札にも書いてあるし。
「すまねぇ!てっきりツインテール解いたスカーレットだとばかり……」
外はね先輩改めウオッカ先輩が手を合わせて頭を下げる。
それに対して首を横に振る。
「いえ、大丈夫です。気にしてませんよ」
「いや、ホントに悪かった!」
ちょっと不良っぽい見た目だけれど悪いヒトではなさそうだ。
「まあ見間違えるのも無理無いかも知れないわね、背丈くらいしか違いなさそうな感じだもの」
ツーテール先輩改めダイワスカーレット先輩が自分とボクとを鏡の中に並べて見比べている。
とは言ったものの、スカーレット先輩との身長差は6㎝くらいあるので見れば分かる気はする。
ボクに八重歯は無いし目付き悪いし脚太いし。
「はー本当にそっくりですねぇ……」
しみじみとそう言ったのはダービーウマ娘にして日本総大将と称えられたスペシャルウィーク先輩。
肩書の割にはポヤポヤとした雰囲気でスカーレット先輩とボクを交互に眺めている。
「本当に無関係ですの?実は姉妹とか……ほら、何と言いましたっけ?ダイワメジャ……」
「違うわよ」
マックイーン先輩が言いかけた言葉を即座に否定するスカーレット先輩。
そんなに触れて欲しくないのか、姉妹の話題。
「何だ何だ、お前らどうした……ってスカーレットが2人!?」
「モウソノナガレヤッタヨトレーナー」
背の高い男性……ダービーに天皇賞に有馬記念にとここ最近多数のG1バを輩出したチームスピカのトレーナーとして名高い沖野氏がやっぱり目を丸くして声を上げる。
それを見てテイオー先輩が呆れ顔で肩を落とした。
「あー、えーっと?」
「ソラノヤマトです、新入生です」
「お……おぉ!?もしかして入団希望者か!?ゴルシが追い返す前に話聞こう!」
「いえ、あの、その……なんと言うか」
「トレーナーさん、いきなりそんなにグイグイ行ったら困らせちゃうじゃないですか」
勢いに押されて答えられずに口ごもっているとスペシャルウィーク先輩がやんわりと制止してくれる。
そのうえでそもそもそうじゃないと説明してくれた。
「なるほどね……、そりゃすまなかったな」
「いえ、自分もチームを決めかねていたのでいい刺激でした」
「……真っ当にいい子だなぁ。なぁ、やっぱりスピカに……!」
沖野氏の言葉に後ろでどういう意味だと声を上げるスピカメンバー達。
その前にふと聞きたいことが出来てしまった。
「あの、その前にちょっといいですか?」
「ん?何だ?」
「モリシタ……森下信衛さんというトレーナーは学園に居ますか?もしくは有賀幸作さんというトレーナーは……?」
森下さんはボクが四足歩行だった頃の騎手さんで有賀さんは同じく調教師だ。
もしボクと同じように生まれ変わりがあるというのなら……もし出会えたならこの世界でも届かなくてもダービーを……三冠を目指してもいいかも知れない。
走るのが好きでも結局モチベーションは他人任せなんだなぁと内心苦笑してしまう。
「モリシタ……?それなら……」
「すみません沖野さん、チラシ受け取って貰えませんでして……」
「!」
背後から聞こえる線の細い声。
自信無さげな声音を聞こうと耳が後ろを向く。
「おう、丁度良かった。森下ならウチのサブトレーナーだ」
振り返ると、あの人が……森下さんがキョトンとした表情で立っていた。
黒髪のどこにでも居そうな朴訥とした顔、中肉中背の男性。
思わず声を上げそうになった。
「森下、逆指名だ」
「え?」
沖野氏に示されて頭を下げる。
どういうことかと再び頭にクエスチョンマークを浮かべる森下さん。
「初めまして、新入生のソラノヤマトです」
「あ……あぁ、チームスピカサブトレーナーの森下です。どうも」
「と、言う訳でお前がメインで担当する訳だが……」
沖野氏の言葉に森下さんはえぇ!?と目を剥いて、メンバーからはおい!と突っ込みが入る。
「まだ入るって決めてないでしょ!?」
「これだから変態トレーナーとか怪奇スカウト男とか言われるんですのよ?」
「気が早ぇんだよトモ触り痴漢トレーナー!」
スカーレット先輩とマックイーン先輩、ウオッカ先輩が口々に沖野氏を詰める。
ばつの悪い顔で頭を掻きながら私と森下さんを見る沖野氏。
「まぁ何だ、これも何かの縁だし折角だから考えてみないか?」
「……」
「もし許して頂けるなら是非森下トレーナーに師事したいです」
「!?」
率直に言うボクに森下さんは驚愕の目を向けワタワタと挙動不審になる。
見ず知らずの生徒に詰め寄られればそうもなるだろうけど。
「いやでも、自分はトレーナー免許取りたてだし!サブトレーナーだし!?」
前と同じですね、なんて内心苦笑してしまう。
見かねたのか飽きたのか、テイオー先輩が割り込んで来る。
「何にせよさー、走りを見てからでもいいんじゃない?スピカに入るにしてもサブトレーナーに見て貰うにしてもさ」
「だな。もう少ししたらカノープスの模擬が終わるから南坂に声かけりゃ走らせて貰えるだろ」
沖野氏の言葉にテイオー先輩はうんと頷くと走り出した。
「それじゃあボク許可貰って来るねー!」
「じゃぁ俺も!森下、後は頼んだぞ」
テイオー先輩に続く沖野氏がそう言って走り去った後、スピカメンバーも皆撤収作業に入る。
「あの、いいんですか?こんな軽くて」
3人のヒトがダートコースに犬神家しているチラシの入った段ボールを持ち上げながらスペシャルウィーク先輩に尋ねる。
スピカと言えば目の前のスペシャルウィーク先輩にはじまってダービーウマ娘や天皇賞ウマ娘、有馬記念ウマ娘と名立たる名バが勢揃いの強豪チームだ。
突然やって来たどれだけ走るかも分からない新人をロクな試験も無しに入れるなんてどうなのだろうか。
「あぁぁ!手伝わなくて大丈夫だよヤマトちゃん!私達に任せて!」
「これから走りを見せて貰うんだから荷物は気にすんなって。ま、軽いノリなのか目利きがあったのかはそれで決まるだろ」
スペシャルウィーク先輩の言葉に頷いてウオッカ先輩が笑顔で段ボールを受け取る。
「あ、あっちに簡易の更衣室あるけどジャージはある?無ければ貸すわよ?」
早速撤収準備を終えたスカーレット先輩がそう気遣ってくれる。
今は素直に甘えることにした。
「それでしたらジャージを借りてもいいですか?荷物は全部寮に送っちゃってあって……」
芝のコースでピョンピョンと軽く跳ねて調子を整える。
ジャージは体型も似ているということでスカーレット先輩のそれを借りているが6㎝差は無視出来ず少々大きい。
走るのに邪魔になるほどではないけれど。
スピカと巻き込まれたチームカノープスのメンバー、それと興味本位で集まって来る学生達や教員達が観客さん。
往年の熱狂には程遠いが、それより前の無名だった頃を思い出す。
「あの、森下サブトレーナー」
「えっと、何かな?」
「こんな物言い失礼なんですが、頑張れって言って貰えますか?一言でいいので」
「あ……あぁ。その……頑張って」
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて出走位置へと向かう。
怪訝な表情も一瞬、応援すると決めたのか真剣な表情でボクを見詰める森下さん。
「よーい、スタート!」
沖野氏の掛け声と共に駆け出し一気に加速していく。
他に誰も居ない、作戦も無いただ走るというだけの行為。
それでも、誰かが見ている……応援してくれているというだけで力が湧いて来る気がした。
速度を上げる、ただ上げる。
あの空の向こうにまで飛んで行けるくらい。
────────
正に飛ぶようにとはこのことか。
スタートダッシュもいいなら加速もいい。
沖野は思わずソラノヤマトがその名の通りそのまま宇宙まで駆け上がる姿を幻視した。
長い脚が見事な回転で前へ前へと貪欲に加速していく。
「ゴルシ」
「ん」
「ガン頼む」
「ほれ」
何時の間にか横に居たゴールドシップにスピードガンでの測定を頼む。
一体何処から取り出したのか、淀み無くスピードガンを構えるゴールドシップ。
その数値はコース半ばにあって未だにヤマトが加速を続けていることを示していた。
「コイツは……」
別に低速から上げているという訳ではなく、コース序盤でも下手な短距離バのトップスピードよりも速度を出していながら加速が緩む様子は無い。
機械を思わせる距離に比例した滑らかな加速に思わず身震いしてしまう。
とうとうゴールするまで加速し続けるという冗談のような光景を見せ付けられ、思わずストップウォッチを押すのが遅れてしまうのだった。
────────
気が付いたら終わっていた。
整備の行き届いた2000mのコースはやはり地元のグラウンドや公園とは全く違って至極走りやすかった。
フーフーと息を整えながら行き過ぎた分を戻る。
想像以上に走りやすかったからだろうか、今生最高の走りが出来た気がする。
今の走りがコンスタントに出来るなら重賞でも通用しそうな気がする。
レースは駆け引きありの場なのでそう甘くは無いだろうけど。
やはり作戦を指示して貰わなければ暴走みたいな走りしか出来ない。
結局自分は指示待ちウマ娘なんだなと実感する。
そもそも早いヒトらに比べたら大した速度でもなかろうし。
「どうで…フー…しょうか?ハー、ボクの走りは」
「あの……新入生の方……なんですよね?」
飴を落として目を丸くしている沖野氏ではなく、チームカノープスの南坂トレーナーが代わりに聞いて来た。
「ええ、そうですが……」
「素晴らしかったですよ!私もそれなりにトレセン学園に勤めていますが新入生であんなに走れるウマ娘は初めて見ました!」
興奮気味に話す南坂トレーナーの言葉が信じられず聞き返してしまった。
「そんなにでしたか?」
「えぇ!フォームは綺麗だし加速は滑らか、当然の如く速い……。正直どう言ったらいいか分かりません!」
「そ…そうなんですか」
べた褒めされて大変恐縮する。
もしかしたら意外と自信を持っていいのでは?と勘違いしそうになる。
「やはり脚質はサイレンススズカさんのような大逃げなのでしょうか?」
「いえ、以前逃げは向いてないと言われたことがありますので……」
前世の話だけど。
そもそも得意な脚質など無いのだけど。
「ふむ、ならば差しか追込ということですか?確かにあの加速と持久力を末脚として使えれば大外からでも行けますね」
「いえ、そういう訳でも無くてですね……」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
何と説明しようか迷っていると突然の大声に耳がキーンとなる。
何事かと思って沖野氏の方を見ればワナワナと震えていた。
「ピェ!?」
「ど、どうかしました?」
テイオー先輩の小さな悲鳴と南坂トレーナーの困惑が重なる。
「南坂!勧誘はスピカが先だ!カノープスはスピカが断られたらにしろ!」
「そうなんですか?決めるのはあくまでヤマトさんだと思いますが」
「そーだけどさー!?」
大人2人の大人げない言い争いを尻目にスピカ、カノープスの優駿達が何故かボクに集まって来る。
てっきりこのままお疲れーな感じになると思っていたのに。
「ウオー!あんだけ走ったのにもう息整ってるじゃねぇか!スゲー!」
「こんな新入生が居るなんてアタシもうかうかしてらんないわね」
「いやホントすっごいですわ、これが本物の才能ってやつなんですかね?眩しくてびっくりしちゃいますわー」
「スッゴく速かったね!どういう呼吸法したらあんなに加速してられるの!?コツとかある?」
「これだけのスタミナがあればステイヤーとしても十二分に通用しますわね。やはり長距離路線で行きますの?」
皆口々に新入生のボクに暖かな言葉を掛けてくれる。
ただ、その目には爛々と闘志が燃え上がっていた。
競いたい、そして自分が勝つ……そういう、正にウマ娘の目だ。
たじろいだり恐れを抱くというのとは違って寧ろ羨望を覚えた。
勝ちたいという気持ち自体はあるのにこういう目が出来ない自分が情けなくなった。
「サブトレーナーさん!ヤマトちゃんなら絶対強いウマ娘になりますよ!」
スペシャルウィーク先輩の言葉に我に返る。
そうだ、ボクは森下サブトレーナーの眼鏡にかなうことは出来たのだろうか。
見ると森下さんは気持ち暗い表情でボクを見ていた。
「いや、自分には少し荷が重過ぎるかな……。君ほどの才能のあるウマ娘ならこんな新米じゃなくてちゃんとしたトレーナーに見て貰った方がいいよ、それこそ沖野さんとか…さ」
体の芯から冷えた気がした。
やはり自分のような凡才では能力が足りないらしい。
そうですか、と震える唇で答えるしかなかった。
「分かりました……。スカーレット先輩、ジャージは洗ってお返しします」
「え?あ……うん」
「沖野トレーナー、チームの件はもう少し考えてみます。お騒がせして申し訳ありませんでした」
「……そうか。ま、何にせよ今年のスピカは入団ゼロっぽいからな、何時でも相談しに来い」
「ありがとうございます」
どこか暗くなってしまった雰囲気。
それを破ったのは葦毛の長身美女……ゴールドシップ先輩だった。
「ったく情けねーぜ!スズカにスぺにテイオーにマックちゃんまで居る強豪チームだってのに新入生の加入ゼロとかトレーナーもっと頑張れよな!」
「あのなぁ、お前が入団試験とか言ってマムシの姿焼き食わせようとしたりヤキソバ作らせようとするから皆逃げちまったんだろうが!」
楽しそうな光景を見て、ボクは曖昧に笑うことしか出来なかった。