入学式の時と同じかそれ以上にぼんやりしながら栗東寮の指定された部屋に足を踏み入れた。
同室の子はまだ来ていないらしく、ボクは一人きりで荷物の整理を始める。
「はぁ……」
溜め息ばかりが出る。
森下さんの暗い顔を思い出す度にこれだ。
我ながらなんとも情けない話だけれど。
「はぁ……」
それでも足りないのは自分なのだから仕方ない。
そう思っても寂しいと思ってしまうのは止められない。
森下さんの目にかなうウマ娘はどんな子なのだろうか……。
「はぁ……」
「さっきからうるさいぞ。そんなにため息ばっかりついてると幸せが逃げると言うだろう」
「へ?」
突然の声に振り返れば、そこには綺麗な芦毛の髪を持つウマ娘が立っていた。
余程ボクは気もそぞろだったのだろう、入室音に全く気が付かなかった。
見れば身長はボクより頭一つ分くらい高く、まるでモデルのような体型をしている。
ゴールドシップ先輩に少し似ているかも知れないが、こっちはどう見ても愉快って感じじゃなくて堅物って感じだ。
「同室になるセイントスターだ」
「あ……ソラノヤマトです」
振り返って頭を下げる。
セイントスター……ボクが馬だった時も同期で大体掲示板に乗ってた。
なんだったらミーティアさんがいないG1レースで普通に負けたこともある。
牡馬でのミーティアさんのライバル枠だった馬だ。
この世界でもやっぱり既に名を知られていて将来を有望視されている。
やっぱり強い馬が強いウマ娘になるんだなぁ、と感慨深げにしているとフンと鼻を鳴らして自分のベッドにどっかと腰を下ろすスターさん。
脚と腕を組む姿は非常に絵になる。
「貴様、確か一般出だな?どうせどこのチームからも声が掛からなかったのだろう?」
「まぁ……そうですね」
スピカにせよカノープスにせよ正確には向こうから声を掛けて貰った訳ではないのでその通りになる。
そもそもスターさんやミーティアさんみたいな名家の出で、かつ付属校とかで活躍したりしてないとトレーナーやチームから声を掛けられるなんてまず有り得ない。
ウマ娘は前世の競馬ほどブラッドスポーツではないけれどメジロやシンボリみたいに冠名を継ぐ血筋、強い娘を輩出した血筋に強いウマが出やすい。
目の前のスターさんもその1人……セイント冠の1人だ。
「今期は実質ミーティア一強だ。この私ですら3チーム程度しか声を掛けてこなかった」
「はぁ……」
3つもチームから勧誘があれば十分凄いのでは?としか思えなかったが、ボクの態度に何故か不機嫌になるスターさん。
「一般出どころか付属校で名を上げた者ですら声を掛けられなかった者もいる」
「……ああ」
ボクの察しの悪い頭でも漸く話が見えて来た。
要するにスターさんは声を掛けられていないのはお前だけじゃないから気にするなと言いたい訳だ。
機嫌が悪くなったと言うよりも上手く言えないことに居心地が悪くなってたってことか。
前世でも不器用だけど優しい馬だったから、今世でもそういうヒトなのだろう。
「ありがとうございます、スターさん。ボクだけじゃないですものね」
「フン」
お礼を言うと耳の端を少し赤くしてそっぽを向いた。
そんな彼女が微笑ましくてクスリと笑ってしまう。
「誘われるどころかフラれちゃいましたし……」
「……なに?」
思わず零した呟きに聞き捨てならぬと振り返るスターさん。
あ、いやと首を振る。
「ボクの力量がトレーナーさんに見て貰うには足りなかっただけなんです」
「……タイムは?」
「計れなかったので分からないです」
「計れなかった?」
「別のトレーナーさんに計ってて貰ったんですけどストップウォッチを止めるのを忘れちゃったそうで」
「ハン、余程無能なトレーナーなのだな」
沖野氏が有能か無能かは世間でも非常に評価の分かれるところではある。
スターさんみたいなキッチリしたタイプからは無能判定かも知れないなぁ、なんて思いながら苦笑を返すしかなかった。
「気にするな……とは言わんしお前に才能があるとも言わん」
そりゃ初対面ですもんね。
「だが、その程度で諦めるようなヤツならそもそもトレセン学園には来んだろう?」
「それは……そうですね」
思わずそりゃそうだと納得してしまう。
ウマ娘の夢の舞台であるレースの世界。
そこに辿り着く為には如何したってトレーナーの存在は必要不可欠なのだ。
1人にフラれたくらいで泣き言を言っても仕方ない。
ここに来たのは燻るためじゃなくて走るためなんだから。
スターさんの「トレセンの飯は美味いぞ」の言葉に誘われて食堂へと赴く。
食って嫌なことは忘れてしまえということらしい。
スターさんとは入口までは一緒だったけれど、流石に友人に呼ばれているのに付いていくほどの勇気は無かった。
デパートのフードコート並……いや、それ以上に広い綺麗でお洒落な食堂はどっちを向いても美女美女美女。
ウマ娘だけなのだから当たり前なのだけれど、華やか過ぎて思わず目が眩みそうだ。
「あー……ヤマトだったよね?昼間ぶり」
キョロキョロしていると不意に横合いから声を掛けられてそちらを見れば、そこには見覚えのある顔があった。
「ナイスネイチャ先輩」
「おー覚えててくれたんだ、改めてよろしくね。あとネイチャでいいよ」
笑顔が素敵なナイスネイチャ先輩だった。
どうやら右往左往していたボクを見かねて声を掛けてくれたようだった。
面倒見のいいヒトみたいだ。
「ここは所謂バイキング?ヴュッフェだっけ?そういう形式だからさー、初めてだと面食らうよねー」
「成程」
「あとおかわり自由だから安心していいよー」
「あー……」
食堂の一角で葦毛のヒトが5人前は食べている様子を遠目に見て納得してしまう。
5人前と言ってもウマ娘向けの5人前だから一般人からすれば15~20人分だ。
流石にあれは食べ過ぎでは?とも思ったけどその葦毛のヒトがあのオグリキャップさんだと分かって納得する。
あのヒトの大食いっぷりはそれはもう世間に大変な轟きっぷりである。
「んで、ここではおかずを頼めるって訳。おばちゃん、煮付けとシューマイくださいな」
「あいよネイちゃん、沢山食べな」
丼八部盛りの炊き込みご飯とお吸い物、サラダとおひたしの前に大振りの魚の煮付けとこれまた大粒のシューマイ6個が並んだ皿が置かれる。
これでもウマ娘としては普通なのだから恐ろしい。
「次、決まってたらどうぞ」
「焼き鮭と人参ハンバーグ、それととんかつください」
「新入生さんかい?いっぱい食べて強くなるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
初日から躓いたボクにはこんな簡単な言葉でも身に染みる。
丼飯と大振りのお椀いっぱいのお味噌汁、お新香に海藻サラダまで付けて自分もやっぱりウマ娘なんだなぁ、と変な所で実感する。
折角の美味しそうな料理だけどあんまり味は分からなそうだけど……。
ネイチャ先輩の御厚意で席まで共にさせて貰い、一緒に夕飯を突く。
先輩曰く「チームメイトが皆他に行っちゃって私も寂しかったんだよね」とのこと。
当然、それは理由の半分なのは分かっている。
黙々と人参ハンバーグを切り分けては口に詰め込んでいるとネイチャ先輩が口火を切った。
「あー……あのさ、昼間のアレなんだけど」
「……はい」
「アタシが言うのも何なんだけどさ、大丈夫?」
「大丈夫です、ボクの方こそ雰囲気悪くしてしまってすみませんでした」
「いやいや、トレーナーになってくれって話してたんでしょ?あんだけ走れるの見せ付けたのに断られるってのは中々ショックだろうからさぁ」
「いえ、ボクの力不足ですから。選抜レースまでには森下サブトレーナーが振り向くような走りが出来るように頑張ります」
「お…おぉ、流石キラキラウマ娘、言うことが違うねぇ」
キラキラウマ娘……ネイチャ先輩の言うキラキラがどういう意味かは詳しく分からないけれど、活躍してるという意味なら地方トレセンとかろくにレースに出られない子達からすればネイチャ先輩だって上澄みだろうに。
いや、勿論上には上が居てネイチャ先輩なりの苦労があるのだろうけれど。
「それに、ボク達世代でキラキラって言うのならヒュウガミーティアさんみたいな子のことを言うんじゃないですかね」
「あー」
ネイチャ先輩は察したような諦めたような声を上げる。
チラリと視線を向ければ何人もの同級生や先輩に囲まれて優雅に食事を取るヒュウガミーティアさんの姿。
格が違う、というのが率直な感想だ。
メジロ、シンボリにも劣らないヒュウガ冠は伊達ではなく、既に風格というものがその姿から発されているように感じた。
「まあ確かにねー……あそこまで行くと別次元というか……。うんそうだね、あれがキラキラウマ娘だよ」
「ですよね」
「でも、アタシ的にはヤマトも十分輝いて見えるよ」
「そうでしょうか?」
思わず首を傾げてしまう。
そんなボクを見てネイチャ先輩はクスッと笑う。
「あんだけ走って、そのうえすぐにケロっとしちゃってた癖によく言うわ。あんな走り方したらネイチャさんなら半日はぶっ倒れてますよ」
「半日は言うにしても言い過ぎじゃないですか?」
「そう?」
たはは、と笑うネイチャ先輩。
釣られてボクも笑ってしまった。
「ごめんね、ツマンナイ話に付き合わせちゃって。さー食べよ食べよ」
「いえ、そんなことありませんよ。ありがとうございました」
ボク達はお互いの皿が空になるまで他愛の無い会話で楽しんだ。
お互い一般家庭の出だけあって寧ろコッチの話の方が盛り上がってしまった。
「ごちそうさまでした」
「ほいお粗末様…ってアタシが作った訳じゃないけど。食器は自分で片付けるんだよ」
「はい、分かりました。……ありがとうございます、ごちそうさまでした」
職員のおばさんにお礼を言いながらトレーを返却口へと置く。
ネイチャ先輩は別れ際に「良かったらカノープスも考えといて」と誘ってくれた。
まさかの強豪チーム2つ目のお誘いである。
夢でも見てるんじゃなかろうかと思わず頬を抓りそうになった。
「…………」
入浴後に部屋へと戻りベッドの上に寝転ぶ。
まだ見ぬトゥインクル・シリーズ。
中央のレース。
そこで活躍する自分の姿を想像してみる。
(本当に、ボクに出来るんだろうか)
不安はある。
でもそれ以上にワクワクしている自分が居る。
もし重賞なんかに出ることが出来たら。
もし1人でも応援してくれるヒトが居てくれたら。
そう考えるだけでほんの少しだけ元気が戻って来た気がした。
もしアプリ的な感じにするならば
ソラノヤマト
芝C ダートC
逃げC 先行C 差しC 追込D
どれだけ因子継承しようと上がらない。
金スキルは一切覚えない。
代わりに初期ステータスがオールC(スタミナのみA)で伸びが非常によくどれだけ無茶してもステータスが下がることは無い。
またコンディションが普通以下に下がらない。
でSSよりも更にステータスが盛れるって感じでしょうか。