「本日付でスピカに入団しましたソラノヤマトです、よろしくお願いします」
翌日のスピカのチームルーム。
そこにはチームの先輩方にお辞儀をするボクの姿があった。
「皆、挨拶だ」
『ようこそ!チームスピカへ!』
スピカの先輩方が一斉に頭を下げる。
改めてG1バが勢揃いしているのを見ると壮観だ。
「おし、まず足上げろ」
「はい?こうですか?」
ゴールドシップ先輩に言われて足を上げる。
密かな自慢である体幹の良さを生かして片手を軽く添えるだけで左足を上げI字バランスをして見せる。
トレセンウマ娘の嗜みとしてスパッツは装備済みなのでパンツが翻るのもそう気にはならない。
我ながら見事なI字に周囲からおぉ、と感嘆の声が上がる。
「ほい」
「!?」
上げた足先に大きめの飛行機の模型が載せられる。
三式水偵。
何故。
「ヤマトだからですか?」
「ヤマトだからな」
今後ゴールドシップ先輩のことはship先輩と呼ぼう。
足先に水偵を載せたままship先輩は鼻歌を歌いながらメジロマックイーン先輩の隣に戻ってしまう。
「えーっと……ヤマトは森下サブトレーナーがメインで見て行くんだよな?」
ウオッカ先輩が水偵をチラチラ見ながら確認する。
完全に心ここにあらずだ。
「あぁ!コイツは俺じゃなくて森下が見る。皆、負けてられないぞ!」
沖野トレーナーが頷きながら宣言する。
森下サブトレーナーは更に表情を硬くしてしまうけれど。
「ヤマトだからか?」
「ヤマトですから」
唯一、転生以外のもう1つの意味で私が森下さんを選んだ理由を理解しているらしいship先輩に頷く。
他の皆さんは首を傾げるけれど。
「それは構わないのですが……いえ、ヤマトさんの実力は一昨日の件でしかと見せて頂きましたしそこに何も不安は無いのですが……」
メジロマックイーン先輩がチラリと森下さんを見る。
森下さんは頬を掻きながら苦笑する。
「ま…まぁ、うん大丈夫。自分のトレーナーとしての能力については自分が一番良く知ってるつもりだから、死に物狂いでどうにかするさ」
「そうですか?まあ、ヤマトさんが選んだのならわたくしがとやかく言う道理はありません」
「それで?ヤマトは何か目標はあるの?」
「はい、まずはダービー含めた3冠を目指します。ダービーを森下さんに捧げます!」
「お……おぉお!」
ダイワスカーレット先輩の質問に自信を持って答えるとダイワスカーレット先輩だけではなくスペシャルウィーク先輩まで頬を染める。
「ヤマトちゃんはサブトレーナーさんが大好きなんですね……?」
「大好き……ではあるんですが、多分好きと一言で言うには難しい感情なんですこの感情は」
「へ……へぇぇ!何だか聞いてるコッチがドキドキしちゃいますね!ね、テイオーさん!」
「いや、それよりさ」
思わず、といった風にトウカイテイオー先輩は声を張り上げた。
「イツマデアシニヒコーキノセテルノー!?」
「……これ、何周目ですの?」
「4周目。もしかしてヤマト、スカーレットやマックイーンよりもスタミナお化けかもよ」
森下サブトレーナーに指示された最初のトレーニング……というか実力を測る為のそれは2400mトラックを一定の速度で走り続けることだった。
昨日の監督トレーナーの元で行ったそれとは全く違う高速だけれど初日に出したのと比べれば遥かに余裕を持った速度。
これなら8周は走っていられるだろう。
それを半ば呆れたように眺めるトウカイテイオー先輩とメジロマックイーン先輩。
「最後!最終コーナーで加速!」
第3コーナー入口で森下サブトレーナーの声が聞こえて来る。
瞬く間に最終コーナーに突入。
内ラチに沿って一気に加速していく。
「……っ」
脳内に響く不思議な起動音。
まるで何かのエンジンのよう。
こうして加速しようとすると充填するような音が、加速すると噴射音のような音が頭に響く。
不快ではないそれを聞きながら足を踏み出す。
猛烈な風切り音を聞きながら森下サブトレーナーの前を通過。
森下サブトレーナーの元へと戻るとサッパリとした笑顔で宣言された。
「お疲れ様。ウイニングライブの練習始めようか!」
「余りに気が早過ぎでは?」
息を整えつつ森下サブトレーナーに突っ込む。
「だって現状ヤマトに教えることないよ本当に」
「余りに言い過ぎでは?」
「しかし、これ以上は実戦的な練習くらいしないと……」
トウカイテイオー先輩とメジロマックイーン先輩をチラリと見やる森下サブトレーナー。
2人はボクが走ったあの時と同じ爛々とした目で森下サブトレーナーを見返していた。
あれよあれよとチームスピカのメンバーが集まり再びボクはG1バに囲まれることとなる。
芝2400左回りチームスピカ杯だ。
流石に森下サブトレーナーだけでは納まりが付かないと言うことで話を聞きつけたship先輩が沖野トレーナーを引っ張って来て、今は簡単な説明を受けている所。
スピカの面子が揃って並ぶ光景に周囲のチームやトレーナー達までもが何事かと視線を向けて来ていた。
「これはあくまで練習、ヤマトの慣らしになる。実戦に近く、とは言え限界を超えるみたいな無茶させんじゃねぇぞ」
『はい!』「ういー」
「ヤマト、チームの実績ある先輩と走れるんだ、全力で盗み学べ」
「分かりました」
沖野トレーナーの言葉に頷き、拳を軽く握る。
こうして皆に世話を焼いて貰えるのだ、勝つつもりで挑んでやる……と。
「任せておいてよ!ボクがキッチリ先輩として引っ張ってってあげるからさ!」
「今のヤマトさんならば……いえ、ダービーを目指すのならば私達の7割くらいには余裕で付いて来て頂かなければですわね」
ヤル気満々のトウカイテイオー先輩とメジロマックイーン先輩が微笑む。
折角燃え上がった闘志に不安という冷や水がぶっ掛けられる。
「7割……ですか」
「なぁに?もしかして全力のアタシ達に勝つって言うのかしら?」
「あいえ、そう言う訳ではなくてですね」
不敵な笑みのダイワスカーレット先輩にプルプルと首を横に振って慌てて否定する。
皆さんに7割も出されたら置いてかれてしまうんじゃないか……。
いや、そんな弱気でどうする。
ペチペチと軽く頬を叩いてスタートラインに並んだ。
「位置について、用意……!」
沖野トレーナーの笛による号令が響き一斉に飛び出す先輩達。
出遅れたつもりは無いがそれでもかなりのハイペースだ。
先頭は逃げの姿勢のスカーレット先輩。
続いてマックイーン先輩、テイオー先輩。
この3人がレース全体を引っ張っている。
ボクはその後ろ。
テイオー先輩の背中に張り付いてスパート所を狙う。
後方にはウオッカ先輩とスぺ先輩がship先輩を引き連れてボク含めた先団に凄まじいプレッシャーをかけてくる。
本来逃げや先行はレースのペースが遅い程有利と言われている筈だけれど、スカーレット先輩もテイオー先輩もマックイーン先輩も全く容赦なく後方を磨り潰すつもりの速度。
いや、ボクに付いて行けるだけの速度と持久力が無いだけか。
瞬く間に第1、第2コーナーを駆け抜け向正面へ。
想像以上の野次ウマ、見物人が並び黄色い声援を上げている。
その声援も一瞬で後方へと流れ第3コーナーへと突っ込んでいく。
後方から足音が迫る。
見返る余裕など欠片も無く、誰が加速したのか全く分からない。
ただテイオー先輩に付いていくだけで精一杯だ。
そして遂に最終コーナー手前、マックイーン先輩がこっちを刹那の間見たかと思うと加速を開始。
テイオー先輩も負けじと加速するので必死にそれに食らい付く。
そこにスぺ先輩とウオッカ先輩も突っ込んで来る。
抜かれまいとスパートをかけるスカーレット先輩。
置いて行かれて堪るか!
前とボクとの間で徐々に開くバ身を渾身の加速で縮める。
と、そこで脇を抜ける葦毛の影。
「へへ!おっ先ー!」
ship先輩が見事なストライド走法でバ群を追い越して行く。
当然の如く前方から声が上がる。
「ゴールドシップさん!?無茶な走りは駄目だとトレーナーから言われているでしょう!?」
「無茶じゃなきゃいいんだろ?先行くぜマックちゃーん!……!?」
「はぁあぁぁぁ!」
「なにぃ!?」
「ヤマトちゃん!?」
猛烈なスパートのship先輩の背をこそ狙うべきと脳内にあのエンジンを響かせながら追従する。
抜かれた……抜かれた!
抜かれたのなら追い越し返せばいい。
それだけで頭がいっぱいになっていく。
ボクの雄叫びにウオッカ先輩、スぺ先輩が目を丸くする。
「「容赦は不要と言うこと(だね)(ですわね)……!」」
即座に反応したのはテイマクコンビ。
ボクを……ship先輩をぶち抜かんと先程とは全く違う速度のスパートをかける。
とっくにship先輩とバチバチしているスカーレット先輩に並びかける。
当然、スぺ先輩とウオッカ先輩も吹っ切れて加速。
その中にあってボクは引き剝がされまいとship先輩とスカーレット先輩の背中を追いかけ続けた。
それなりに長さのある筈の直線が走マ灯のように流れていく。
ship先輩とスカーレット先輩を外から追い越し尚加速する。
当然マックイーン先輩、テイオー先輩の順に抜かれる。
加速し抜く。
スぺ先輩、ウオッカ先輩に抜かれる。
更に加速し抜く。
直ぐ後ろ、背中から凄まじい圧力。
それでも!
「うわぁぁぁあぁあっ!」
結果ボクはビリ。
あの後普通に抜かされた。
1位はスカーレット先輩、2位はship先輩。
次いでスぺ先輩とウオッカ先輩が同着で3位。
その気が無かったのに急にスパートをかけた結果加速が上手く行かなかったらしくテイオー先輩とマックイーン先輩がそれぞれ4位と5位。
恐らくは。
と言うのも全員ハナ差も無い大接戦となった為正確な順位が分からないのだ。
で、ボクはマックイーン先輩とアタマ差で間違いなく6位。
この中で最大のバ身差を付けられることになってしまった。
当然の結果。
当然の結果なのに……。
「はぁ…はぁ……やっちゃったわ」
「マジで…ハー…何やってんだよ…フー…スカーレット……はぁ…、逃げのお前が無茶したら一番駄目じゃねぇかよ」
ウオッカ先輩が苦言を呈すると慌ててそっぽを向くダイワスカーレット先輩。
「し…仕方ないでしょ!?そもそもゴールドシップがいけないのよ!」
「そうですわ!ゴールドシップさんっっ!!!」
鬼の形相でship先輩を睨み付けるメジロマックイーン先輩。
うひぇ!?と身を引き顔を青くさせるship先輩に肩を怒らせながらズンズン歩み寄って行く。
「いやほら、アタシはちょーっと面白くなるかなぁって思っただけで……ほら、ヤマトにもいい経験になったしアたたたたたたたたた!?」
見事なコブラツイストを極められ悲鳴を上げるship先輩。
それを見ながらテイオー先輩は溜息を吐いた。
「スズカが居なくて良かったよ。こんなことしたらゴールドシップ並に爆走してただろうし」
「ですね。スズカさんも走るとすぐ本気になっちゃうタイプですから」
「…………」
「あのー……ヤマトちゃん?」
黙ったまま俯くボクに心配そうに声をかけてくれるスペシャルウィーク先輩。
おかげで感情の堤防は決壊してしまった。
思わず口から言葉が溢れてしまう。
「悔しいです!」
自分でも驚くほど血が滲むような声だった。
相手はG1を幾つも獲るような先輩達。
寧ろ大大健闘もいい所だ。
分かっている、頭では分かっている。
でも……。
「相手が誰であっても!その時に勝たないとダメなのに!ボクは……!」
「そうだな、その通りだ」
沖野トレーナーが頷きながら言う。
「才能、能力、経験の優劣、そんなものあって当然だ。レースに出て勝つと言うのならその差は言い訳にもならない。勝負とはそういうものだ」
「……はいっ」
「だからな、ヤマト……」
沖野トレーナーはニヤリと笑って森下サブトレーナーを見た。
「ウイニングライブの練習が先だなんて言うトレーナーの尻は蹴っ飛ばしてやれ!」
「はい!スミマセン!」
ボクが何か言うより先に森下サブトレーナーが勢い良く頭を下げる。
上げた顔は悔しさを基に色々な感情を混ぜ合わせた不思議な表情だった。
「だが、まぁ今日はもう辞めとけ。そもそも10キロ近く走った後だったんだろ?あんだけ走ってよく普通に喋れるなお前」
「自分でも不思議なんですが、どれだけ無茶してもその後普通にしないといけないって思うんですよ」
まるで野生動物か何かのよう。
何故か馬の頃に見ていたアニメ……某宇宙戦艦がボロボロにされても動き続けていた姿を思い出した。
「何にせよ……お前ら無茶すんなつったろうが」
「えへへ……」
呆れたように咎める沖野トレーナーの言葉に照れたような誤魔化すような笑みを浮かべるトウカイテイオー先輩。
スペシャルウィーク先輩も頬を掻いて眉を下げる。
「と言うか、ヤマトはどのくらい付いて来れてたの?」
「……わたくしのアタマ1つ後ろですわ」
ダイワスカーレット先輩の疑問にship先輩を放り捨てたメジロマックイーン先輩が答える。
え?とウオッカ先輩が目を剥く。
「マジで!?オレらと1バ身も差無かったのかよ!?」
「でも、所詮70%相手ですから……」
「いやいや、オレ含めて皆ムキになってたぞ!?100パー完璧とは言わねーけど間違いなく70パーではねーよ!?」
「そ…そうなんですか?」
「おう、マジマジ。もっと自信持てって、お前は強いよ」
ウオッカ先輩に頭を撫でられる。
褒められたことが嬉しくて尻尾が勝手に揺れた。
「なぁに先輩ぶってんのよウオッカ、アタシに負けた癖に」
「あぁ!?」
「そー言うのは1番のアタシのセリフでしょ!?」
「はん、掛かった癖に一丁前に!」
「何よ!」
「何だよ!」
「はいはいストップ、そこまで!」
また喧嘩を始めようとする二人を沖野トレーナーが止める。
この二人はいつもこうなのかな。
「とにかくだ、ヤマトだけじゃなくて全員ストレッチとクールダウン。しっかりとしておけよ」
『はい!』「ほーい」
クールダウンの後、折角だから夕飯前に少し駄弁ろうという話になってカフェテリアに来ていた。
話はまあ当然の流れとしてボクの話になった。
「ソラノという冠名は聞いたことありませんが、お母様はウマ娘でいらっしゃいますの?」
「はい、お母さんもウマ娘です」
ship先輩に頭の上に零式観測機の模型を載せられて頷けないので言葉だけでメジロマックイーン先輩の疑問を肯定する。
「ただ、地方で少し走ったことがあるだけで無名なんですよ。フォレストスノーって言うんですけど」
当然聞いたことが無いのでスペシャルウィーク先輩もメジロマックイーン先輩も首を横に振る。
ship先輩は知恵の輪を弄っている。
「親父さんが元トレーナーだったりとかするのか?」
ウオッカ先輩の疑問は否定。
「いえ、父は普通の会社員です。空気清浄機の販売員してます」
「ふうん、じゃああの滅茶苦茶なスタミナと末脚は完全に先天的なものって訳?」
「そっちは少し心当たりがあって、小さい頃から14.8キロ離れた叔父の家まで毎日行ったり来たりしてたのが関係してるんだと思います」
「毎日30キロかー。確かに小っちゃい頃からずっとやってたらスタミナは付きそう」
トウカイテイオー先輩が訳知り顔でウンウン頷いている。
ship先輩は知恵の輪を弄っている。
「え?末脚は?」
「最後の1キロくらいは全力で走るようにしてました」
「ふえー、15キロ走ってスパートかけてたんだぁ」
「14.8キロです、スペシャルウィーク先輩」
「あ、そこ重要なんだ」
勿論、と答える。
何故かこの14.8という数字はボクの胸の内に誇らしげに響くのだ。
「おースピカの皆さん。さっきのレース見てたよー」
お茶を啜っていると、ボクの背後から聞き覚えのある声。
「ネイチャ!……と」
「イクノディクタスです。ヤマトさんは新歓以来ですね」
トウカイテイオー先輩の弾んだ声に続き落ち着いた声が続く。
チームカノープスに鉄の女ありと謳われたイクノディクタス先輩。
水観を落とさないようにする為にゆっくりと振り返るしかないがとにかく2人を視界に収めた。
流石にこの時ばかりは零観を手で抑えて頭を下げる。
「ネイチャ先輩、改めてこの間はありがとうございました。念願のトレーナーさんを射止めることが出来ました」
「うんうん良かった良かった。レースするってなった時は新人イビリかとも思ったけど全然やってけてるみたいで安心したよ」
「スピカでイジメなんてある訳無いじゃんかー!」
トウカイテイオー先輩の抗議に分かってる分かってると目を細めるネイチャ先輩。
「ところで何故ヤマトさんは頭上に飛行機を載せているのでしょうか?」
何かのトレーニングですか?とイクノディクタス先輩。
やっと突っ込んでくれるヒトが!とトウカイテイオー先輩。
「ヤマトですから」
「ヤマトだからな」
ボクとship先輩の言葉にやはり首を傾げる皆さん。
軍用機に詳しいヒトなんて学園に居るのだろうか。
マヤノトップガン先輩とか名前から知ってそうな雰囲気はあるけれど。
「まーそれは置いといて。今日はもう練習終わり?」
「はい、クールダウンも済ませてこれから夕飯食べようかなーと思ってたところです」
ネイチャ先輩の問いに笑顔で答えるスペシャルウィーク先輩。
「じゃあ一緒にご飯どう?」
「おぉ!いいねー」
「ライバルチームに新人が入りましたからね、我々も偵察したいのです」
「えぇ!是非!」
トウカイテイオー先輩とメジロマックイーン先輩が続けて頷く。
結構な大人数で食卓を囲むことになった。
で、その場での話はボクと森下さんの話になっていく。
「ところでさー、ヤマトは何で森下サン?を選んだのさ?有名なトレーナーさんって訳じゃないよね?」
ネイチャ先輩の疑問に頷く。
有名どころかサブトレーナーだし。
「簡単に言うとボクを一番上手く乗りこなせるのが森下さんなんです」
「の……乗りこなせる……ってどういうことだっぺウオッカちゃん!?」
「ししし知らねーっすよスぺ先輩!?おおおオレいい意味分かんねーし!?」
「あ、言い間違えました。一番上手く動かせるのが森下さんなんです」
「う…動かせ……ブハ!?」
「ハレンチですわ!ハレンチですわ!」
「ワケワカンナイヨー!」
何故か鼻頭を押さえるウオッカ先輩。
周囲のヒト達もship先輩以外は顔を赤くしている。
「それはやはり足腰を、という意味でしょうか?」
眼鏡を光らせながらニヤリと笑うイクノディクタス先輩。
横からネイチャ先輩がその肩を掴む。
「ちょいとイクノさんや!?トレーニングですよね?それトレーニングって意味ですよね!?何で言い方変えた!?」
「はい」
「ヤマトも平然と答えんな!?」
何故か頬を真っ赤にして耳を激しく上下させるネイチャ先輩。
何かおかしなこと言っただろうか?
尚、後日何故か一部のウマ娘の間で森下さんは絶倫というあられもない噂が流れることになるのだった。
森下信衛(1895年~1960年)
旧大日本帝国海軍の軍人。
最終階級は少将。
著名な乗艦としては戦艦「大和」(5代目艦長)等。
操艦の名手であり、「大和」艦長として参加したレイテ沖海戦においては米軍機の激しい攻撃を受けるが7万tの艦をまるで手足の如く操り爆弾3発以外の攻撃を全て回避して見せた。
その際に防空指揮所において防弾チョッキを着用せずに咥え煙草のまま指揮を執ったという伝説が残されている。
部下にも冗談を言ったり酒を飲みかわしたり、漂流中の米軍兵士への銃撃を辞めさせる等優しくモラルの高い人格者だったエピソードが多い。
戦後は故郷に戻って晴耕雨読の生活を送ったと言われている。
森下信衛(2071年~2150年)
JRA所属の騎手。
幼い頃に馬に騎乗した経験から乗馬に、ひいては競馬に興味を持ち騎手の道を歩む。
競馬学校の成績そのものは平凡でありとにかく目立たず特にエピソードも無い人物であったが、ソラノヤマトに騎乗しデビューしたが為に波乱の騎手生活が幕を開ける。
元々期待薄だったソラノヤマトに「ヤマトだから森下という名のジョッキーを乗せよう」という馬主の安易な考えから主戦騎手として騎乗させられ新馬戦で勝利。
有力馬揃うレースで連勝したうえで経験才能豊富な騎手が操る世代最強とされた「ヒュウガミーティア」に迫ったこともあり急激に表舞台へと立たされる。
新米であり親や先祖に騎手が居た訳でもないこともあって騎乗依頼自体は非常に少なくまたソラノヤマトが故障を全くしない馬だったこともあってソラノヤマトが予後不良となるまで一貫して騎乗。
2040年代~2050年代に行われた騎手の騎乗制限緩和が無ければソラノヤマトとG1を駆けることは不可能であっただろう。
騎乗馬の血統と合わせて「雑草コンビ」と渾名された。
初の担当馬ということもあって厩務員と共にソラノヤマトを甘やかすので調教師から度々注意を受ける等ソラノヤマトには特別愛着があった模様。
ソラノヤマトの安楽死から3日後に自殺未遂を起こすが自身で思いとどまったことを後に明かしている。
「騎手を続けてG1を獲って、そのうえで馬を無事引退させることがソラノヤマトへの供養になると信じている」と語り、後年主戦となった馬から予後不良を出すことは無かった。
成績自体は振るわず引退までに獲得したG1は9回。
実に半分以上がソラノヤマト騎乗時のものであった。
尚軍人森下信衛氏の生まれ変わりではない。
森下信衛(1999年~)
中央トレーニングセンター学園所属のトレーナー。
現在はトレーナー免許1年目ということもあってチームスピカサブトレーナーとして実習段階。
当然実績は皆無。
トレーナー学校の成績も非常に平凡であり特に目立つ人物ではない。
スピカのサブトレーナーになったのも型破りで今一勉強にならなそうなスピカで実習という立場を押し付けられただけである。
ソラノヤマトの担当となり成長出来るかは三女神すら知らない。
トレーナーを目指した理由は幼い頃ウマ娘のレースを見た時にトレーナーにならないといけないような気がしたから。
騎手森下信衛の生まれ変わりだが記憶は無い。