─ヤマト発進!
「ヤマト、発進します!」
「!?」
大声と共にガバリと起床すると隣でもセイントスターさんも目を丸くしてこちらを見ていた。
「……おはようございます」
「……おはよう」
「その……すみません」
「いや、大丈夫だ。目覚まし代わりと思っておく」
聖人だろうか、セイントスターさんは。
偶にあるボクの悪癖、「誰かに声を掛けられたような気がして叫んで目覚める」も許してくれる。
今度から口枷して寝ようかな……。
鳴り出した瞬間に目覚ましを止め背伸びをするセイントスターさん。
惚れ惚れする美麗なシルエットの肢体だ。
足長いなぁ。
「しかし大和発進とはな。そんなにフネが好きなのか?」
「はい、好きです。現実の方もアニメの方も……」
何故か馬の頃から艦船……特に「大和」には郷愁にも似た懐かしさを感じる。
ヤマトという名前からではなく生まれ持ったものであることは馬の頃に把握済みだ。
やはりボク、人間だった頃は海軍軍人か何かだったのだろうか?
ship先輩から貰った三式水偵と零式観測機、実家から持って来たブラックタイガーとコスモタイガーの模型に軽く刷毛を通して埃を飛ばしてから朝の準備を始める。
「しかし模型は飛行機なのだな?」
着替えながら机に並べられた艦載機群を見てセイントスターさんが首を傾げる。
確かに詳しくないと軍艦と飛行機に関連性は見出せないかも知れない。
「これは皆「ヤマト」が載せた飛行機なんですよ。プロペラの方は現実の方が、ジェットの方はアニメの方が」
タイガーシリーズのエンジンは多分ジェットじゃないけれど。
「ほう?アニメなら分からなくはないが現実の軍艦も飛行機を積めるのか」
「ええ、そうですね」
「零戦というのとは違うのか」
「零戦は空母っていう専用のフネにしか載せられないんですよ。普通の軍艦は滑走路を装備する場所が無いのでフロートを装着した水上機を積んで水面で発着させるんです。今時はヘリコプターですけど」
「ほう、色々あるのだな。空母というのはあれか?偶にニュースに出て来る上が平たいヤツか?」
「そうですね……?」
「日本も持っているのか?空母は」
「昔は持っていましたね。今は小さいのを4隻程持っているみたいですが」
F-35を30機程度積んでいるだけではあるけど。
流れるように一緒に朝食を取りながらトレセンでするとは思えない話を続ける。
というかセイントスターさんこういう話興味あったの?
それともボクの内面を探ろうとしている?
何かグイグイ質問してくるのですが?
「お前ら朝っぱらからトレセン生がする会話かよソレ……」
「デュライトオリオンさん、おはようございます」
「おう」
ボクの隣に山盛りの朝食を皿に盛ったデュライトオリオンさんが座る。
それを見たセイントスターさんが僅かに目を細めた。
「デュライトオリオンか、こうして話すのは初めてだな」
「ああそうだな、優等生様。聞いてるぜ?お前の話はよ。リギルに入ったんだよな、セイントスター」
「如何にも。名の知れたチームとは言えあくまで入っただけだが、な」
「へっ、よく言うぜ。新歓のテストでブッチギリだった癖によ。私を完全に置いてけ堀にしたのも知らねぇだろ?」
「さてな」
新歓でテストって考えるとチームリギルが如何に人気のチームか良く分かる。
というかデュライトオリオンさんリギル入り目指してたんだ。
以前のデュライトオリオンさんだと絶対肌に合わなさそう……。
「だがな、最後に笑うのは私だ。お前も、スピカに入ったヤマトも、ミーティアのヤローだって全員ブチ抜いてやるから楽しみにしてろよ!」
「フッ、大言壮語にならないといいな?」
「はん!お前こそ吠え面かくんじゃねぇぞ!」
「……」
ハムハムと大変に美味なスクランブルエッグを食みながら2人の顔を眺めていると、2人共毒気を抜かれた表情でこちらを見て来た。
「ヤマトさぁ、一応宣戦布告なんだからもう少しシャッキリ聞いてくれよなぁ」
「泰然自若と言うか緊張感が無いと言うか……肝が据わっているな、お前は」
「はあ、すみません」
そう言われても宣戦布告は2人共から貰っているし、今更改めて言われなければ2人を侮ったままな程ボクも間抜けじゃない。
そもそも2人共顔は笑っているしお互い「強いヤツとぶつかれて嬉しい」くらいな感じなのが分かるので。
それよりも、少し離れた場所で……ボク達の会話が聞こえる距離で食事をしているのに、名前を挙げられているのに耳すらコチラに向けないミーティアさんの背中が気になってしまった。
「…………」
ゲートを模した小屋?門?
とにかく模擬ゲートに出たり入ったりを繰り返す。
ウマ娘は狭い場所が苦手な生き物だ。
ウマソウルのせいなのだろう、一般人と比べて非常に耐性が低い。
なんだったら中高生レベルの歳になってもゲートに入るのに人手を借りないと入れない子が居るくらいだ。
では自分は?
全く苦にならない。
馬だった頃からそうなのだが、寧ろ狭い場所にこそ居るべきとすら思ってしまう。
狭い場所でジッとしていることこそがいいことで広い場所で駆け巡ることはあまり良いことではないという記憶がある。
やはり前々世は暇な方がいい職種……軍人だったのだろうか。
そう考えてから出走態勢を取る。
合図は一切なし。
見えない位置で森下サブトレーナーがスイッチを操作しゲートが開放され、それに合わせて飛び出す。
要は実戦に近いスタートダッシュの練習だ。
開く瞬間を逃さない、スタートのフォームを完璧に。
何度も何度も、何度も何度も何度も繰り返し練習する。
凡才である自分はとにかく繰り返し、身に沁み込ませるしかないのだ。
前世でもそれなりに活躍したつもりだけれど、同じような戦績なら生まれ変わった意味が無いと考え直した。
目標は全戦全勝。
スターにも、オリオンにも、ミーティアにも負けない強さを!
手に入れられる器量があるかなんて関係無い。
ボクの武器は愚直さと頑丈さだけなんだから。
「どうだ?ヤマトのスタートは」
「いやかんぺ……凄いですね。まるで後ろで爆発でも起きてるみたいですよ」
外から沖野トレーナーと森下サブトレーナーの声が聞こえて来る。
ヒョイと顔を覗かせるといつも通り飴を咥えた沖野トレーナーがよっ、と手を上げて来た。
「お疲れ様です、沖野トレーナー」
「おう、お疲れ。どうだ?森下も少しはマシになったか?」
「森下サブトレーナーは経験が少ないだけです。これからどんどん素晴らしいトレーナーになるに決まっています」
「マジでお前どうやってこんないい子誑かしたんだよ」
「心底自分が知りたいですよ」
森下サブトレーナーと沖野トレーナーは顔を見合わせるしかないといった表情。
確かに前世が分からないのだから異常なレベルの信頼ではあるだろう。
それでも、1日で自身の過ちを反省してこうして練習を考えてくれているのだ、トレーナー1年目にしては上出来過ぎるだろう。
神妙な顔になった森下サブトレーナーが模擬ゲートの入口側を開けてボクを出してくれる。
「走りの方はフォームの微調整くらいしか自分の考えでは思い付きませんでしたのでスタートダッシュをレベルアップさせるべきかと思いまして。体幹も最高クラスですしスタミナも瞬発力もあるなら後は作戦ですかね」
「悪くないとは思うが……作戦の方はどうなんだ?考えてるのか?」
「それが……」
「実は……」
「作戦が思いつかねぇ!?」
ウオッカ先輩が目を丸くしてボクと森下さんを見る。
スペシャルウィーク先輩はそういうモノじゃないのかという視線だけど。
この場に居るのは2人の他にダイワスカーレット先輩とメジロマックイーン先輩。
そして森下サブトレーナーだ。
トウカイテイオー先輩は他チームの仲の良い子と練習で沖野トレーナーはそれに付き添い。
ship先輩は……釣りにでも行っているのだろうか。
「えーっと、ヤマトちゃんはここだ!って場所あったりしないの?昨日の模擬レースの時とかそういうの感じたり」
「全く無いですね。あの時はここでスパートしないと置いて行かれるって考えからのものでしたから」
「初めてのレースで色々考えられるんだ……。私って……」
「スぺ先輩は感覚タイプですから」
何故か落ち込むスペシャルウィーク先輩をダイワスカーレット先輩が慰める。
すぐボクに向き直った。
「でも、早めに考えた方がいいとは思う。アンタは確かに出来るヤツだけど、それなら尚更自分の勝ち筋とそれが崩された時の対策は考えなくちゃ」
「得意な脚質が無いというなら特に、ですわね。脚質に特化した練習も必要でしょうし」
「そうですよね、差しとかにするならパワー上げる練習とかもしないと……。トレセンって戦車の残骸引っ張れたりするんでしたっけ?」
「辞めましょう、作戦なんて考えても無駄ですわ。その時の行き当たりばったりで何とかなりますわ」
「メジロマックイーン先輩、ちょっと薄情じゃないですか?」
「いくら何でも戦車を引っ張ることの出来る方の作戦なんて考えられる訳ないでしょう!?貴女、のほほんとしているようでゴールドシップさんと同じ人種ですわね!?」
そう言えばスカーレットさんもノる時はノる方でしたわー!麻袋とか!と叫ぶメジロマックイーン先輩。
麻袋ってなんだ。
「いや、戦車と言ってもT-34……古いので砲塔も引っこ抜いたトラクター仕様のヤツですから……」
「だったら何だって言いますの!?」
※ウマ娘が根性練習で引っ張るタイヤの重さは推定5t、T-34戦車は1番軽い1940年型で26t
「せめて逃げ先行か差し追込か、どっちかくらいは決めないとじゃないか?」
ウオッカ先輩の当たり前過ぎる言葉にボクと森下サブトレーナーは揃って唸る。
ただ、何となく…何となくだけれど先行と差しで行こうかと考えつつある。
理由は全く完全に直感の部類だが。
勿論森下サブトレーナーがより良い作戦を思いつけばそれに沿うのは吝かではないけれど。
先行。
逃げの後方に展開し気を見てスパートをかける戦法。
以前言ったけれどレースの展開は遅い方が有利とされる。
如実に本人の実力が出るとされる走り方。
前世ではよくこれで勝てていたものだと我ながら関心してしまう。
差し。
酷く簡単に言えば集団後方に位置してレース後半で加速する戦法。
瞬発力とスピードがモノを言う戦術だけれど、その性格上前方集団を避ける為に外から攻める場合が多くスタミナも重要になる。
追込との違いは集団の後方寄りか最後方か、スパートの仕掛け所、主にこの2つかな?
この2種は比較的近い戦術となる。
集団の前方寄りか後方寄りかとなる訳だけれど、これを戦況によって使い分けようと思案したのである。
基本的には先行気味で展開し必要なら下がってスタミナを温存する。
併せウマになっても競り負けないパワーと体幹、そして気性を持つボクなりに愚考してみた。
前世からの疑問なのだけれど、体当たりされようと揺るがない体幹とパワーは一体どこから来ているのやら。
人間だった頃のボクはお相撲さんみたいに体当たりでもしまくっていたのだろうか?
それはまあさておき。
数日後の練習中、考えを伝えると森下サブトレーナーは得心したように頷いた。
「ああ、良いと思うよ。ただ問題は……」
「スパートですね」
「うん。本番のレースとなるとタイミングを一瞬でも間違えると致命的になりかねない」
「こればっかりはレース映像での研究と模擬レースくらいしか対策がありませんね」
「……そうだね」
もどかし気な表情を浮かべる森下サブトレーナー。
経験豊富なら教えられるのに……とでも考え自責しているのだろう。
それこそそこは状況次第、選手次第になるのだからそこまで考えなくてもと思わなくも無い。
基本を押さえて指導してくれるだけで十二分過ぎる。
少なくともボクはそう思う。
何にせよ、約2ヶ月後の6月後半にあるメイクデビュー戦に向けて出来る限り練習を続ける他無いというのが実情だった。
差し寄りの先行でスピード以外に特に必要なもの。
スタミナ、パワー、瞬発力。
その中でボクの中で重点的に鍛えるべきものはパワーと瞬発力とされた。
そこで実家に連絡を取って実家近所の農家の方に取り次いで貰いT-34改造トラクターの行方に関して聞いてみた。
農家の方曰く既に新型のトラクターに買い替えたがT-34自体は畑脇に放置されていると言う。
もし大丈夫なら譲って貰えるかと聞いたら農家さんは寧ろ引き取って貰えたら嬉しいとの言質を取れた。
そこでまずトレセンに問い合わせると、当然このような嘆願は初めてだったらしく最初は冗談だと思われたが農家の方に送って貰った譲渡証明書を提出したら流石にボクが本気だと理解したらしい。
尚名目は学園への寄付なのでトレセンの備品扱いになる。
そうなれば当然理事長にまで話が上がることになったが、その間に各自治体にもこの話を通しておく。
いくら武装や装甲全てが撤去済みとは言え「戦車」だ。
ウマ娘の存在する世界であっても日本はWW2で敗戦し憲法には軍事力の放棄を謳っている。
そんな中戦車を輸送するのだ、通せる場所には全て話を通すべきだと考えた。
ちなみに理事長とは……
「質問!それは直せばトラクターとしても使えるのか!?」
「T-34は60年間泥に埋まっていても修理すれば動くことが出来るのでエンジンと転輪の都合が付けば問題無いと思います」
「驚愕!戦車とはそんなに頑丈なのか!ならば了承!存分に使い後に学園に寄付して貰えれば嬉しい!」
……という会話で許可が貰えた。
ウマ娘のお願いに対して少し寛容過ぎるのではないだろうか?
とにもかくにも4月末に森下さんの手配した運送会社がT-34を学園に運び込み、ボクのパワー練習が本格化する。
メイクデビューまで後1ヶ月。
ボクのトレーニングは一層負荷を上げるのだった。
ソラノヤマト
誕生日 10月8日
身長 157㎝
体重 微増(成長中)
3サイズ B91・W55・H88
ダイワスカーレットによく似た外見のウマ娘。
ツインテールでないことが一番の違い。
涼しい顔でとんでもない負荷のトレーニングをこなすうえに自ら努力を厭わない。
何故か初対面の新米トレーナーに絶大の信頼をおきダービーの勝利に並々ならぬ執念を燃やす。
のほほんとしながら熱血なウマ娘。
※タイヤ引きは根性練習でした。訂正致します。