面白く書けてるといいんですが。
京都レース場 芝 2000m[中距離]右回り
それがボクの走る初めてのレース……メイクデビューになる。
態々東京からこんな所までやって来たのだ、負ける訳にはいかない。
……とは言え注目度という点において今回のレースは非常に低調である。
少し前のレースでセイントスターさんが順当に勝利。
取材にせよ観客にせよ誰もが注目株のそちらに注目。
誰もが今日のメインは終わったといった様子でそちらのライブを見に行くか三々五々に帰ってしまった。
記者に至ってはゴシップ系所属かここまで取材をし損ねた新米なんかが掘り出し者は居ないかとやる気の無い目でレース場を眺めているだけ。
そもそもこれで最終レース、元々今日はメイクデビュー戦のみということもあって動員数はそう多くない。
現在会場に残っているのは余程のレース好きだけだ。
パドックでもボク達を熱心に見ているのは少数で大半は惰性という感じ。
そもそも人影が疎らしかないのだけれど。
とは言えそんなものボク達には無関係。
誰もがやる気満々といった様子でポーズを取っていく。
ボクも精一杯目立つようにアピールして疎らな拍手を受けながらさっきまでのことを思い出していた。
空はいくつか小さな白雲が浮かぶだけの快晴となり、バ場も良バ場のまま。
芝の整備も終わり本日最後のレースの準備も整いつつあるレース場の片隅。
ランマーみたいになっている男性と泰然自若とした少女の姿があった。
言うまでも無く森下さんとボクである。
「おおおお落ちち着いて行くんだ、そそそそうすればぜぜ対にかかか勝てるかるるぁ……!」
「はい、そうですね。森下サブトレーナーが代わりに焦燥してくれてるおかげでボク全然焦りそうに無いです」
目に見えて上下にガタガタと震える森下サブトレーナーの姿に思わず苦笑してしまう。
これじゃあどっちが指導者なんだか分からない。
そんな森下サブトレーナーの後ろで沖野トレーナー筆頭にスピカの先輩達も頭を抱えてしまっている。
「あせあせあせらないで自分のぺぺぺペースをね、維持してね……!」
「森下サブトレーナー」
「!」
震える彼の右手を両手で包み込むように握る。
そしてじっと目を合わせれば段々と震えが治まっていく。
「大丈夫です、貴方の育てたウマ娘は強いということを証明して来ますから」
「!」
ボクの言葉に森下サブトレーナーは目を丸くしてしまう。
微笑んで続ける。
「だから『お前なら出来る』って…『頑張れ』って言ってください。貴方が応援してくれるならボクは凱旋門賞だって取って来ますから」
それを聞いてまるで時間が止まったかのように固まる森下サブトレーナー。
再起動すると顔を真っ赤にして頭を掻く。
後ろではそんなボク達を見てスピカの面々も何故か赤くなっている。
「は……ハハハ。そうだな、自分が信じなくてどうするんだって話だよな」
そう言って森下サブトレーナーは笑顔で頷いて、ボクを真っ直ぐ見つめ返す。
「君を……君の走りを信じている!ヤマト!頑張れ!」
「はい!行ってきます!」
パドックでのアピールを終えてボク含めて9人のウマ娘がターフへと足を踏み入れる。
ここに来て体調は万全、準備運動が効いたのか脚の動きも好調と言って差し支えない。
9人でのレースで7番人気というのは残念と言うべきかマークされる恐れが無くてありがたいと思うべきか。
ゲート番号は5枠9番、一番外側。
個人的にはスタミナに自信ありの身として外側を突けるのはありかも知れない。
前世での新馬戦だと確か両側に馬が居た気がするので既に今世は違う道を歩き出していることが分かる。
それが吉と出るか凶と出るかはまだ分からないけれど。
何にせよここから先は真剣勝負の場。
全神経を集中させ、脚に力を込めてゲートを睨み付けた。
『各ウマ娘ゲートに入り態勢整いました』
そして、ゲートが開……かない!
『スタートです!』
右からは小気味のいい機械音と共に8人のウマ娘が駆け出したというのに、ボクの目の前のゲートはギシリと不気味な音を立てるだけでピクリともしない。
後から考えればそこで声を上げるなり何かすれば良かったのだろうけれど、その時のボクはレースを中断するだなんて欠片も思い付かなかった。
開かないと気付いた刹那、半ば反射で繰り出した渾身のタックルでゲートを抉じ開けボクはターフへと躍り出た。
当然、そんなことをすればフォームが崩れフラつく他ないけれど。
ゲート抉じ開けても小揺るぎしないなんてこと出来るのは最早戦車とか装甲車の類いだろう。
転ばなかっただけマシ……寧ろ自分の体幹の良さを誉めたいくらいだ。
『おっと?9番出遅れました』
『力が入り過ぎたようですね、ここから巻き返すのは難しいかも知れません』
競争中止の旗は振られず、実況もあくまで『出遅れ』として扱っている。
ならばヨシ!
脚を緩める理由は皆無。
『現在ハナを進むのは1番スターライトスター!かなり早いペースです!1バ身離れて1番人気5番タカマツアキカゼ!期待通りの結果は出せるのか!?』
『1バ身付かず離れずを維持しています、流石ですね』
最後尾のボクのことなどお構い無しにレースが進んでいく。
その中にあってボクは自分でも驚くほど冷静だった。
と言うか、何故か分からないけどここ大一番でのトラブルというのにビックリするくらい身に覚えがある。
心の底から『この程度大したことない』と思えてしまえる。
前々世では余程やらかしたのだろうか。
とにかくポツンと最後尾のまま最初のコーナーへと突入。
最早自分のペースとかいつも通りとか言っていられる状況ではない。
ではどうするか?
どうするもこうするもないのだけれど、だからといって自棄になって加速しても勝てない。
とにかく集団に追い付くべくship先輩のスパートの如く歩幅を出来る限り広くして加速しながらも脚の回転数を落としてスタミナ温存に努める。
新歓の時とは比べ物にならないけれどグングン加速し瞬く間に団子状態の他バへと接近。
向正面から第3コーナーに突っ込む頃にはボクの射程圏内へと収められた。
見ていろ、ボクがこの程度で諦めるようなタマかどうかこの場の全員に見せ付けてやる!
──────────
『さぁ第3コーナーに差し掛かります。先頭は変わらずスターライトスター、2番手にはタカマツアキカゼ、少し後ろには6番アドマイヤレイラ、差がなく4番グラスセプテムと続いています。集団は固まったまま、これは苦しい展開になりそうです』
『いや、まだ分かりませんよ。グラスセプテムの末脚は凄まじいものがありますからね。そろそろ仕掛ける頃合いでしょう』
『ああっと!9番今度は第3コーナーで大きく膨らむ!これは逸走か!?』
『出遅れたからかかなり焦っているようですね。落ち着ければいいのですが』
ゲートの不具合を無視したまま……と言うより最早華麗とも言うべきヤマトのゲート突破によって運営が不具合に気付かぬままレースが続く。
余程ヤマトに注目していなければ気付くことは難しかったことを考えれば仕方ないと言えば仕方ないのかも知れないけれど。
いち早く気が付いた沖野氏が意見するべく運営詰所に向かったが、何の音沙汰もないまま無情にもレースは最終局面を迎えつつある。
「やべーぞマジで!こんなんありかよ!」
握りこんだルービックキューブに悲鳴を上げさせながらゴールドシップが悲鳴を上げる。
その隣ではマックイーンが眉を下げた不安げな表情でコーナーの遠心力に負けていくヤマトを見ていた。
「駄目だヤマトぉ!自棄になるなぁ!」
「インよ!1人なんだからインを突くの!」
ウオッカとスカーレットも喉も枯れんばかりに叫ぶが当然届くものでもない。
しかし、その中でスペシャルウィークだけが鋭い目を最終直線に向けていた。
「違う……」
「スペちゃん?」
スペシャルウィークの呟くような声にテイオーが顔を上げる。
「ヤマトちゃんは勝つ為に外に出たんだ」
「え!?」
「どういうことスか!?」
振り向くスカーレットとウオッカ。
スペシャルウィークは尚もヤマトを凝視している。
「ウマ込みを避けて全員差すつもりなんだよ。ヤマトちゃんは勝つつもりだよ!」
「「!!」」
「……っ!行けぇぇぇっ!ヤマトぉぉぉ!」
森下は血が滲みそうな程拳を握ると全霊を込めて声を張り上げる。
まるでそれに呼応したかのように観客席からどよめきと歓声が上がった。
『ここで9番アガッて来た!?凄まじい末脚!外から先頭集団を抜く気か!?』
『これは……いや、もしかするかも知れませんね』
「やべーぞマジで!こんなんありかよ!」
ゴールドシップから発されたのは先程と全く同じ言葉で全く違う声音だった。
──────────
ストライド走法を使って貯めたスタミナ。
遠心力に逆らわずに貯めたスタミナ。
坂を緩やかにする為に斜めに下りて貯めたスタミナ。
極僅かだろうと確かに残っているそれを一気に爆発させる。
外側の余りにも走りやすい芝を文字通り爆砕しながら加速していく。
『9番ソラノヤマト真っ直ぐに加速する!あっという間にごぼう抜き!!』
『ここまで追い掛けながらスタミナを温存していたようですね。まさに戦艦並のタンクを持っているようです』
『9番、内から伸びてくるタカマツアキカゼを躱し更に加速!』
「ッ……あぁあぁぁぁああっ!!!」
ボクの視線の先には、もう誰も居ない。
ただひたすらに前へ前へと進む。
『残り200を切りました!先頭は9番ソラノヤマト!後続をどんどん引き離す!こんな伏兵が潜んでいたとは!!』
最初とは全く違う大歓声。
ボクの名前を呼ぶ声も聞こえて来る。
勿論、森下サブトレーナーの声も。
それらが一際大きくなった時、ボクはゴール板を駆け抜けたことに気が付いたのだった。
『勝ったのはソラノヤマト!まさに戦艦の如き力強い走り!……2着は5番タカマツアキカゼ!』
人数に見合わない大歓声。
それに応えようと手を上げかけたけど、その手を下ろすことになった。
歓声も段々とどよめきに変わり、ゴールしたウマ娘達も肩で息をしながら顔を見合わせる。
ボクの……その場に居る全員の視線の先には掲示板に灯る『審』の文字があった。
それから5分もしない内に結果が発表された。
淡々とした無機質な放送が、ゲートが故障して開かなかったこと、それをボクが抉じ開けたことを報せた。
『──今回の事態はあくまで我々URA運営委員会及びレース場側のミスでありソラノヤマト氏による斜行等の走行妨害は認められず、よって今回の審議による着順変更は一切ありません』
放送と同時に爆発したかのような歓声。
ゲート故障からの自力の突破、そしてその後の追込勝ち。
中々話題性に富むメイクデビューとなってしまった。
我ながらこんな楽しいレースがあっていいのだろうか。
コースに飛び出して観客席に向かって両手を大きく振れば信じられない程の歓声が返って来る。
みんな笑顔で拍手してくれている。
ボクの勝利を祝福してくれるものだ。
これが勝利の味。
前世とはまた違う感触、そして歓喜が全身を震わせた。
『7番人気からまさかのアクシデントを切り抜けての見事な逆転劇でした。解説のタカノさん、如何でしたでしょうか?』
『レースとしては波乱万丈でしたがエンターテイメントとしては満点をあげたいですね。あとはチームスピカ伝統の初ライブ失敗が無ければ個人的には120点です』
なんでそんなのが伝統になってるのさ。
──────────
─響けファンファーレ
─届けゴールまで
─輝く未来を君と見たいから
『うぉぉぉ!ヤマトぉぉぉぉ!!』
『おめでとぉぉぉ!』
会場の熱気は下手な重賞ライブに匹敵しかねないものとなっていた。
普通なら初めてのライブステージでガチガチになってもおかしくない筈が満面の笑みであっちに手を振りこっちにポーズを取って愛想を振り撒きまくるヤマト。
軽やかに歌い舞い踊る姿はまるで本職のアイドルだ。
「はぁ、余計なことしちまったな」
その熱気の最前列。
珍しく森下の前で弱気な言葉を吐き出す沖野氏。
何とも言えない表情で舞台上の楽しそうなヤマトを見ている。
その隣で森下はサッパリした表情を浮かべていた。
「そんなことありませんよ、自分だってゲートの件は意見すべきだと思ってましたから」
「だが結果的にアイツの勝利に水を差しちまった」
「それなんですけどね?」
─あんな演出があるなんてまるで主人公のキラキラウマ娘みたいですね!
「って、ヤマトは楽しそうでしたよ」
「何だよ、敵わねえなそりゃ……」
大人2人は顔を見合わせ苦笑を浮かべるしかなかった。
にしても、と更に溜息を吐く沖野氏。
「くっそぉ、スパート見たかったなあ!」
「そこは安心しろよ、そう言うと思ってちゃんと録画してあっから!」
ニヤリと笑ってスマホを取り出すゴールドシップ。
でかした!と満面の笑みを浮かべる沖野氏。
「もう!今はヤマトさんのライブの応援に集中ですわよ!」
サイリウムを振りながら跳び跳ねるマックイーンの横でスペシャルウィークが涙を拭き取ってはサイリウムを振り、また涙を拭う。
「うぅぅ、立派だよぉヤマトちゃん!良かったぁ!」
「モー!スペチャンオオゲサダヨー!」
後にゲート破りのメイクデビューと呼ばれるレースは大盛況のまま幕を閉じるのだった。
─駆け抜けて行こう君だけの道を
─もっと速く
─I Believe!
─夢の先まで
もしゲームしててメイクデビュー戦の7番人気とか8番人気とかのステータスがスピCスタCパワC根性D+賢D+とかだったら「は?」ってなると思う。