三十歳の魔法少女   作:きなかぼちゃん

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1話予定の話でしたが、長すぎたので2話に分けることにしました
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3.奥多摩湖の魔神

 魔法少女。

 

 《魔法》により人間として埒外の身体能力と超常現象を起こす力を持つ怪物である。

 その中でも特筆すべきはその飛行能力だった。

 

『やほ~こちら登坂だよ。あと5分くらいで着くかも~』

 

 耳元の無線から聞き慣れたやる気のなさそうな間延びした声が聞こえてきた。

 

『……こちら東雲です。同じくおよそ5分後に現場へ到着します。ねえ登坂、あんたそのやる気のなさそうなしゃべり方どうにかならない?』

『アハ、そんな細かいこと気にすんなよぉ~。機嫌悪いのかな?』

『あ゙? 魔法少女は遊びじゃないっていつも先生が言ってるじゃない。真面目にやりなさいよ』

『あーしは真面目に二人と仲良くなりたいと思ってるよん。とりま同じ隊同士仲良くしようぜぇ優子ちゃん』

『そんな呼ばれ方するほど仲良いつもりはないわ。遊びに行くのと勘違いしてない? これから戦うって時にそんな適当だと調子狂うからやめて。だいたいあんたいつもいつも』

 

 ごめん、やっぱこれ辛いわ。

 

 東京都西部上空。

 視線を落とすと眼下には暗闇に包まれた山と点在する建物の灯りが小さく見える。

 

 高層ビルよりはるかに高い空中を高速で飛行しながら、(ゆずりは)日菜乃は盛大に溜息をついた。

 

「えっと、二人とも喧嘩はやめな……? この会話、司令部の皆さんが聞いてるから、ね!」

『アハハ、知ってた。てか喧嘩じゃなくてコミュニケーション? みたいな』

『杠さんを困らせないでよ、いい子なんだから』

「とりあえず任務に集中しよう。うん」

 

 色々と突っ込みたい気もしたが面倒だったので日菜乃は適当に会話を終わらせた。

 

 超マイペースギャルの登坂希海と堅物で短気な東雲優子はいつもこんなかみ合わない会話を続けていた。

 

 どう見ても相性が悪いのだがなぜか同じ隊に配属されている。

 

 こんな仲の悪い二人を見続ける私の気分にもなって欲しいと日菜乃は思う。

 見てるだけでヒヤヒヤしてしんどくなる。

 

 日菜乃は自分のことを目立たず空気を読む人間だと思っている。

 学校では波風を立てないように気を遣いながら生活していたし、それに何も不満もなかった。

 穏やかに喧嘩などせずそれなりに楽しく過ごせればそれでよかった。

 

 暴力や争いは見るのもするのもキライだ。

 

 なのに何の因果か《適性》とやらのせいで、コスプレのような山吹色のフリルドレスを着て魔法少女なんてものをやっている。いつも恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

 

 だから今日は街中の戦闘じゃなくて日菜乃は内心ほっとしていた。

 ニュースやネットで自分のやりたくもないコスプレ姿がばらまかれるのは正直辛い。

 

「はやく二十歳になりたいなあ」

 

 無線には乗せずにぼそりと呟いた。

 魔法少女になりたいと思う女の子にいますぐこの才能を譲ってあげたい。

 

 やがて日菜乃の眼下に曲がりくねった大きな湖が見えた。その中ほどに浮かんでいるのは異常な魔力を放出している半透明の発光体だ。

 

 《魔神》である。

 

 魔法少女はその目で魔力を視認できる。

 その色は暗黒の宇宙に広がる青白い銀河の光に似るという。

 

 魔神出現からおよそ10分。

 出現場所が人のいない山奥の湖なのもあるのか、本格的な活動を開始する前に到着することができたようだ。

 

 魔神の行動パターンは一定ではないが、出現次第に周囲を無差別に破壊することが多い。

 

 日菜乃は浮遊している魔神を遠目に見つつ、戦闘に備えて山吹色のとんがり帽子を深くかぶり直した。

 左手に握るのは細かな幾何学的意匠がびっしりと走り、杖先が知恵の輪のようにねじくれた暗銀の杖である。

  

「《薊班》杠、指定座標に到着しました。東雲・登坂が到着次第戦闘に入ります」

 

 無線で報告しながら、とんがり帽子は魔法少女じゃなくて魔女の装備じゃないだろうか、なんてこの瞬間でさえ、眼下の《魔神》に集中せず脳天気なことを考えている。

 

 東雲さんには言えないな。と日菜乃は思った。

 きっとこの隊で一番やる気が無いのは登坂さんじゃなくて私だ。

 

 

 

 

 杠日菜乃はCランク魔法『活性』の魔法少女だ。

 杖先から放つ紐状のビームを仲間の魔法少女に接続することで、繋げた魔法少女の回復や強化を行なったり、《魔神》に接続することで体力や魔力を吸い取ることができる。

 

 いわゆる後方支援型の魔法少女である。

 

 日菜乃はこの能力を他力本願でやる気のない自分に丁度いいものだと思っていた。

 

 

 

 

 巨大な青白い半透明の蛇のような魔神が鞠のようにとぐろを巻いて回転した。

 そして身体に口のような亀裂が大量に開く。その数24個。その全ての奥に青い星が瞬いた。

 

『無差別攻撃よ! 避けなさい!』

 

 無線に副司令官の鋭い声が飛ぶ。

 

 死が放たれた。

 

 只の人間であれば間違いなく一瞬で蒸発して死ぬであろう殺人光線だが、魔法少女の動体視力と身体能力をもってすれば避けることは難しくはない。

 

「ウワッ、キモいなぁ~こいつ。ウケる」

 

 ひらり、と光線を避けて、

 希海が両手にフリントロックの短銃を構えてケラケラ笑った。

 藍色のコルセットドレスに、ゴーグルを巻いたキャスケット帽の組み合わせはどことなく産業革命めいていて魔法の香りがしない。

 

 奥多摩湖に3人が合流して、

 

「動かないならこっちからちょっかいかけてみよーよ」

 

 という希海の特に根拠のなさそうな銃撃によって起きたのが上述の現象である。

 

「ま〜あれだけ派手な攻撃したらお疲れでしょ」

 

 回転をやめた魔神の口からちりちりと粒子が漏れる。どれだけ魔力があろうと一度の出力は別だ。

 光線はずっと打ち続けられるわけではない。希海は薄く笑みを浮かべた。

 

「優子ちゃんゴーゴーッ!」

「命令しないでっ」

 

 言葉とは裏腹に希海の背後から突撃した優子が一瞬で魔神との間合いを詰めた。その背中からは山吹色に淡く光る紐が伸びる。日菜乃による魔力強化だ。

 

「くらえ! クリムゾンハンマーっ!」

 

 身体がねじきれそうになるほど振りかぶった大槌で魔神の胴体をぶん殴って吹き飛ばした。

 

 次の瞬間、魔神の殴られた箇所が爆発し、粘着質の半透明の青い液体が飛び散った。

 

 東雲優子のBランク魔法『粉砕』は打撃を与えた箇所を生物非生物問わず内部から爆破し粉砕する。

 殴っただけで魔神の再生力すら追いつかない抉り取るような傷を負わせる、恐ろしい魔法である。

 

 魔力で構成された魔神にただの攻撃は効かない。

 効くのは同じく魔力を纏った魔法少女の攻撃だけだ。

 

『giaaaaaaaaaaaaa!!!!』

「うるさいな!」

 

 生物が出してはならない不協和音のような悲鳴がこだまする。

 

 優子がさらに跳び上がり上段に大槌を構えた。狙いは頭らしき長細い胴体の先端。

 

 狙いを定めると、魔神の体内に二つの赤い球が生成されたのが見えた。魔神の瞳が優子を捉える。

 

 魔神の胴体から大量の触手が展開した。その全てが優子の身体を串刺しにしようと迫る。

 

「やばっ」

 

 優子の背が怖気立った。だが、動けない。

 

『Splash Slicer』

 

 電子音声と共に、視覚外から放たれた二閃の水色の光線が全ての触手をなで斬りにした。

 

『東雲、深追いは禁物よ』

「すみません……」

 

 優子は引くよりとにかく攻めるタイプだ。魔法の破壊力はずば抜けているがそれに頼り脇が甘くなる欠点がある。

 

 優子と銃口を構えた希海の視線が交錯した。

 

「そマ? 優子ちゃん、考えなしで突っ込みすぎ〜。やる気あるな〜」

「ヘイトビームっ!」

 

 怒られてバツの悪そうな優子を希海が煽り始める。喧嘩に発展しそうな空気を察した日菜乃が言葉を被せて杖先から紫色に光る紐を魔神に放った。

 

 瞬間、魔神が頭をもたげギョロリと赤い目で魔力を吸う不届き者の姿をとらえた。

 

『魔神体内魔力炉の活性化を確認! 杠、大きな攻撃が来る。警戒しなさい!』

「はい!」

 

 日菜乃は上空に飛び上がりスピードを上げた。

 

 魔力を吸われるという感覚は魔神的に不快らしく、魔神の気を引きたい時に使う技として『ヘイト(を稼ぐ)ビーム』という適当極まりない名前を日菜乃は付けている。

 

 ヒロイックな戦いに興味がないので、格好いい技名は必要ない。

 

 魔神の顔面が裂けてぽっかりと暗い穴が開いた。

 最初と同じ攻撃、だがその規模は明らかに異なる。

 

『quaaaaaaaaaaaaaa』

 

 先程とは比べ物にならない太さの閃光が日菜乃を薙ぐように放たれた。

 

 それは一瞬では終わらず、魔神は頭を振りかぶり縦横無尽に死の輝きを放ち続ける。

 

 日菜乃は全速力で空を疾走しそれを避け続けた。

 この程度、なんてことはない。

 

 攻撃は全て仲間に任せる代わりに、魔神の攻撃を避けて魔力を消費させまくるのが日菜乃の最も得意なことだ。

 

 逃げに自信がなければこんな囮になるような技を使うはずがない。

 

 日菜乃は優子と希海に向かって大声で叫んだ。そのくらいの余裕はあった。

 

「あとおねがいしま────す!!!」

 

 一瞬だけ遥か下の優子と希海の様子が見えた。

 二人とも同時に技を放つ寸前だった。

 

 もしかするとなんだかんだこの二人、結構息合ってるのかな。

 喧嘩するほど仲がいいのかもしれない。

 日菜乃は優子と希海が早く仲良くなってくれることを願った。

 

 

 

 

 優子と希海は言葉も交わさず、ほぼ同時に武器に膨大な魔力を流していた。

 希海の二丁拳銃が海のように蒼く輝き、優子の大槌がマグマのように赤熱する。

 

 この状態をマジカルウェポンオーバーロードと呼ぶ。

 それが魔法少女の奥義(アルティメット)発動の条件である。

 

 二人の武器に内蔵された電子音声がカウントダウンを始めた。

 

『アルティメット準備完了、3…2…1……撃てます』

 

 虫の知らせか、魔神の胴体にある24の口が開いた。

 全ての魔力を使った光線で魔法少女たちを焼き尽くすつもりのようだ。

 だが遅い。既に二人の魔法少女の手には銀の弾丸が握られている。

 

 優子が叫んだ。

 

「登坂、コイツ打ち上げてっ!」

「オッケイ」

 

 軽い返事。お互いに意図を完全に理解していた。

 希海は迷いなく魔神の巨体の腹の下に回り込み、その半透明の腹に向かって両手の引き金を引いた。

 

 凄まじい衝撃が希海を襲った。

 

『Double Aqua Blast』

 

 轟音が響いた。次いで現れたのは極太の下から上へ突き上げるような水流である。魔神はその質量にも関わらず容赦なく衝撃で高く、高く上に打ち上げられていく。

 

 優子が垂直に飛び上がった。打ち上げられる魔神を越え、悠々と見下ろせる高度まで飛翔する。

 

 アルティメットの衝撃で湖に落下した希海は顔だけを水面から出して上空を見た。

 

「羽ばたいてるねぇ」

 

 そこには満月に照らされている影が三つ。

 

 優子は再び上段に大槌を構える。さっきよりもより深く振りかぶる体勢で、全ての力をこの一撃に込めた。瞬間。ドン、といきなり横から力を叩き込まれたような感覚がした。

 

 自分の身体が山吹色の光に包まれているのを優子は見た。すぐ横には杖の先から魔力を流している日菜乃の姿があった。

 

 お膳立ては万全だ。

 

「とどめはよろしくっ」

「任せて!」

 

 日菜乃がウインクすると、優子は猛獣のような笑みを浮かべた。

 ここまで戦いが好きになれる優子のことが日菜乃は少しだけ羨ましかった。

 

「これで! 終わりッ!」

 

 残った水流が止んだ。

 それを合図に、優子は急降下しながら大槌を渾身の力で魔神の頭頂部に叩き付けた。

 

『Crimson Meteor Strike』

 

 轟音と共に湖の水面に魔神の身体が叩き付けられ、頭部が完膚なきまでに爆散した。

 

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