冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
彼等の正体とは……
事の起こりは、1973年4月19日。
今より50年ほど前のことである。
この日、中華人民共和国新疆ウイグル自治区カシュガル市に、一つの隕石が落下した。
人口密集地への隕石落下の衝撃は、すさまじかった。
だが、それ以上に衝撃を与えたのは、隕石より湧き出てきた存在である。
サソリやクモを混ぜたような化け物が、人々を悩ませたのは、その異様さばかりではなかった。
化け物の数は、数千の単位ではなく、10万単位で密集し、都市部へ怒涛の如く進撃をした。
異星より来て、一切人類側の呼びかけに応じず、ただただ破壊と殺戮を繰り返す存在。
人はそれを、BETA*1──人類に敵対的な地球外起源種──と称するようになった。
その頃の
毛沢東の主導したプロレタリア文化大革命*2の開始から、はや7年。
国民ばかりではなく、さしもの中共政権も、疲弊状態に陥っていた。
だが、怪物は待ってはくれない。
そういう事で、戦略爆撃機による大規模な核飽和攻撃を実施した。
しかし、戦闘開始から2週間後に状況は一変する。
あらゆる飛翔物を撃墜するレーザーを備えた光線級という怪獣の出現によって。
今まで対空防御のないBETAは、航空優勢さえとれば瞬く間に駆逐できた。
戦略爆撃機や戦闘機、機関砲を装備したヘリで、簡単に勝てたのだ。
光線級の出現は、それまで優位に進めていたBETAとの戦闘を一変させた。
航空機はおろか、誘導ミサイル、はては砲弾まで……
人類は、苦しく長い戦いを強いられることとなった。
既に、4年の月日が過ぎた1977年7月。
ある夜の事、一台の大型ロボットが突如として、虚空より現れた。
場所は、支那大陸の真ん中に位置する
時刻は、深夜11時にもなろうかというころ合いである。
闇夜に横たわる白い巨人。
それは、天才科学者木原マサキが作ったスーパーロボット、天のゼオライマーである。
全長53メートル、総トン数500トン。
本体の色は、白を基調とし、ところどころに赤い色合いが入っていた。
固定武装と呼べるものは、なかった。
だが、両腕の手の甲に付いた宝玉から繰り出す衝撃波は、どんなものも破壊できた。
そして、なによりこのマシンを無敵と足らしめる必殺技があった。
両腕と胸の宝玉から繰り出す、メイオウ攻撃。
その威力と範囲は、ゼオライマーのパイロットの意志で自在に操作出来た。
もし、望むのなら支那全土、あるいは地球上の半分さえも消すことが出来るほど。
砂漠の上の前に横たわるゼオライマー。
そこへ、一台の軍用車が近づいた。
車を離れた場所に止めると、数名の男達が、後ろから飛び出す。
助手席から、降りた男の指示の下、目の前の物へ、駆け寄った。
鉄帽に、深緑の軍服姿で、針の様な銃剣を付けた小銃を持って、近づく。
静かに忍び寄ると、ゼオライマーから一組の男女が現れて、周囲を伺う。
拳銃を手にした指揮官が、手招きをする。
まもなく立ち止まった兵士達は銃を構え、呆然とする男女へ銃口を向ける。
指揮官は、銃を構えた右手に左手を添え、射撃の姿勢を見せた。
そして拳銃をゆっくり目線の位置まで上げて、彼らに尋ねた。
「動くな。人民解放軍だ」
近くに止めた車から、
前照灯に映し出される中、一組の男女は、両手を上げて無抵抗の意思を示した。
その際、指揮官は再び問うた。
「あなた方は、何方から来られたのですか」
先ず、黒い服を着た男の方が話し掛けて来たが、理解出来なかった。
どうやら外国語らしい。
顔立ちからすると、恐らくは、日本人、あるいは、朝鮮人。
ひとしきり話した後、脇に居る女が、彼にかわって話し始めた。
外国人とは思えぬような、
「私たちは日本から来ました。ここはどこですか」
指揮官は、外国人だと解ると、拳銃をゆっくり下げ、拳銃嚢に仕舞う。
ここで、もし彼らを殺せば……。
もし上の指示を仰がずに、独断で物事を決めた場合、 それが間違っていたら。
政治の風向きによっては、自分の政治生命は立たれる。
そう思って、態度を軟化させた。
それほどまでに、10年に及ぶ文化大革命の影響はすさまじかった。
にわかに、周囲の兵達が騒ぎ始めた。
見た事も無い、大型の戦術機*3と思しき機体に、一組の男女。
そして、半ば鎖国状態の、この国に、日本人とは……
指揮官は、兵達をなだめてから、再び話し始めた。
「ここは甘粛省。場所は、蘭州市より150キロほど西方です」
おそらく、強化装備であろう異様な服を着た長い髪の女。
彼女は、脇にいる男に話し掛けていた。
男が話すと、女が通訳をし、指揮官に語り始める。
横たわっている巨人を、操縦中に、道に迷って不時着したのだという。
その話を聞いて、おそらく新型の戦術機は、戦闘中に迷ったのであろう。
彼は、その様に判断した。
取りあえず、その場で対応出来る様、本部に連絡を入れる。
彼らは、指揮官と1名の兵士を残し、BETAが消えたとされる場所の確認へ向った。
ちょうど、夜が明け始まる時間帯であった。
場面は変わって、甘粛省の省都、蘭州市城関区。
そこにある甘粛省政府本部では、夜遅くまでBETA対策会議が行われていた。
深夜2時、紫煙が立ち込める省長執務室に一人の男がたたずむ。
灰色の人民服を着て、両切りタバコを手にした男は、机に置いた報告書を眺めていた。
彼が目を落とした書類には、秘密を表すスタンプが押されている。
ドアを叩く音が聞こえて、男は呼びかけた。
「入りたまえ」
ドアが開くと書類を抱えた深緑の指揮員*4の服を着た男が入って来た。
「昨晩の続報をお持ちしました」
そして報告書の内容が軍官の口から説明された。
蘭州の西方300キロにいたBETAの大群は、一晩で消え、そこから150キロほど先で怪しげな人間を保護したと言う。
全長が50メートルもあろうかという白色の戦術機に、日本から来たと話す男女。
男女の服装や態度からすると、黒の軍服を着た男がおそらく指揮官。
そして、強化服に似た服を着た女がパイロット。
そのような推測を、彼らは立てた。
男は中国語は全く話せないが、多少は英語が出来る様であり、今は同行している女が通訳の代わりを務めているという。
彼は、タバコを黙って差し出すと、軍官は深くお辞儀をし、火を点けた。
「日本語のできる通訳はいないのかね」
軍官は椅子に腰かけながら、話し始める。
「なにせ、文革と今回の動乱で通訳できる人間は前線にいませんからねぇ」
一瞬沈黙した後、深くタバコを吸うと、こう続けた。
「ロシア語なら前線でも用意できるのですが……」
灰色の制服を着た男はタバコを片手に執務室を歩き回る。
軍官はじっと下を向いたまま、待つ。
やがて男は口を開くと、こう告げてきた。
「この報告は党中央には上げない。一旦、私が預かろう」
軍官は驚いた表情をしながら、返事をする。
「省長、それは……」
省長と呼ばれた男はタバコに火を点けながら、続けた。
「党への背信行為になるかもしれんが、あまりにも報告書の内容が酷過ぎる。
それに、男の方から何も聞けていないのだろう。
ちょうど良い所に、日本語の出来る男が、居るではないか」
笑いながら省長は、椅子に近寄る。
彼は腕時計を見た後、灰皿にタバコを捨てながら、こう続けた。
「8時までに、新品の軍服と上等な食事を用意してやれ。
そして尋問が終わった後、北京に報告しろ。以上だ」
軍官はタバコをもみ消した後、立ち上がり敬礼をすると、部屋から静かに出て行った。
「しかし興味深い話だ。本当ならば……」
新しいタバコに火を点けながら、彼は佇んでいた。
ゼオライマーに乗っていた2名のパイロットは、どうしたであろうか。
蘭州市内にある蘭州軍区本部の1区画にある建物に幽閉されていた。
建物は、自動小銃で武装した兵士にぐるりと囲まれていた。
狭い室内には、寝台と簡素な机、椅子が2脚。
その中に白い巨人から現れた一組の男女が、寝台に腰かけて居た。
彼等こそ、ゼオライマーのパイロット、
そして彼に付き従うアンドロイド、
ゼオライマーは、
マサキはひとしきり考えた後、静かに語り始めた。
「なあ、俺達は、あの時、マサトの自爆で消えたはずだ……」
立ち上がり、脇にいた美久の左頬を静かに触る。
「こうしてパーツである、お前が無事。
そしてゼオライマーの能力も欠けた所が無い。
……と言う事は、おそらく次元連結システムの保護機能が働き、助かった。
そう考えるのが、
彼は、不敵な笑みを浮かべ、
「だとすれば……。
再び俺は、この世の
そして都合の良いことに、
現場に来た将兵の話から類推すると、時代を10年ほど遡った事に当初驚いた。
だが逆に、彼にはチャンスに思えた。
ただ、この世界を掌握するにしても、それなりに障害になる物が在るのを知った。
BETAと呼ばれる、異様な化け物共だ……
しかし不思議なのは、人民解放軍の航空戦力が元の世界より古すぎる点。
そして戦術機と呼ばれる、18メートルの量産型軍事用ロボットが存在するという点だ。
おそらくは、次元連結システムの応用により、並行世界に転移してしまったと言う事であろう。
多分BETAぐらいで、変わりはなかろう。
もし、科学技術の立ち遅れや、歴史的な事象の相違があるのであれば、話は変わって来るが……
マサキは静かに美久の左頬から手を放し、今度は彼女の胸をつかみ始める。
思わず美久は、彼の右手を両手で掴んで、叫んだ。
「何をするのですか」
彼は高らかに笑った後、こう告げた。
「俺のたかぶる気持ちを、落ち着かせる事ぐらい出来るであろう。
例えガラクタであってもな……」
そして美久を抱き上げて、顔を近づける。
彼は、彼女の耳元でそっと囁く。
「貴様には……俺の野望の為、再び馬車馬の如く働いてもらう。
その喜びを……全身で味わうが良い」
そう言い終わると、マサキは乱暴に美久の唇を奪った。
翌朝、この地に来て初めて暖かい湯で体を清めた後、新しい服に袖を通す。
それは、彼の下に届いたばかりの新しい軍服一式であった。
着替えた後、部屋に戻ると机の上に食事が並んでいた。
昨晩までの冷たく硬い食事ではなく、温かい食事。
肉が少なく、味付けが辛い点に関しては、不満であったが……。
支那では冷めた食事は、囚人の食事として伝統的に嫌われていた。
温かい食事が出されると言う事は、歓迎することを意味する。
どうやら自分たちの扱いは、よくなるのだろう。
食後の茶を飲みながら、ひとまずは安心していた。
食事を終えると、まもなくマサキ達は、別の場所に移動させられた。
立派な建物のある場所に着くと、中に入って50がらみの人物と会う。
甘粛省の省長と名乗る男は、多少訛りはあるが流暢な日本語で話しかけてきた。
そして2日前の話を、訪ねてきた。
マサキは、男の問いかけに対して、おもむろに口を開き語り始める。
「それで、あんた等が言うBETAという化け物を退治すれば……。
俺を、自由にしてくれるんだな」
省長はタバコを差し出しながら、こう答えた。
「もしあなた方が言うように、単独でBETAを殲滅したというのならば……。
自由になさって結構です。
我々はソ連なり、アルバニア*5なりにどこに行っても構いません」
マサキは、タバコを受け取ると火を点け、吹かし始めた。
「別にカシュガルまでとは申しませんが……。
BETAを綺麗さっぱり、無くしてくれれば、我々はあなた方の自由を保障しますよ」
省長は彼に向かって、この世界に関して語り始めた。
今から数年前*6、文革が激烈な時期に新彊のカシュガルに宇宙より襲撃してきた存在。
軍の指揮系統が混乱していた故に初動の対応が遅れ、ソ連軍の増援を仰いだ時にはすでに手の施し様の無い状態。
現地部隊の装備はソ連国境沿いで十分。
核攻撃も実施したが起爆した場所が悪く、思ったより効果が得られなかった。
そのうちに登場した
そして米国で開発された戦術機というロボットで、何とかしのいで居る。
一連の説明を受けたところで、マサキは思い悩んだ
(『とんでもない場所に来てしまったようだ。
しかし、この機会を利用すれば、俺は、この世界において冥王として君臨できる』)
幸いな事に、自分を邪魔する秋津マサトも、鉄甲龍も居ない。
ゼオライマーの次元連結システムの秘密さえ守れば、上手くやれる。
話の中にあった、
だが最初の戦闘で、次の攻撃までタイムラグがあるのは分かった。
中共やソ連なりから、詳しい記録が欲しい。
情報さえあれば、BETAは、十分対策が出来る存在だ。
残る心配は、自分のスペアパーツが不在という点だけか……
タバコを吸い終わると、マサキは話し始めた。
「まず、俺からの要望は3点だ。美久が居なければゼオライマーには乗らん。
二人で、一つと扱ってもらう様に
第二に、出来るだけ詳細な戦闘報告書なり記録が欲しい。
地理にも詳しくないから、正確な資料が欲しい。
第三に、ある程度、片が付いたら、自由にやらせてもらう。
もし俺を止めるようならば、無事では済まないと覚えておく様に。
あと俺達は客人だ。それ相応の扱いをして貰う事を期待している。以上だ」
マサキは、思い悩んでいる美久の手を引っ張ると立ち上がって、
「話がなければ帰らさせてもらうぞ」
そして勢いよくドアを開けて、その場を後にした。
ご意見、ご感想、よろしくお願いいたします。
脚注やフリガナに関して
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脚注やフリガナは必要
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脚注の数が多すぎる
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脚注の数が少なすぎる
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フリガナが多すぎる
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フリガナが少なすぎる
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現状維持のままでよい