冥王来訪(ハーメルン投稿版)   作:雄渾

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 マサキ一行は、秘密資金を調べるために、東独第二の都市ドレスデンを訪れる。
そこでシュミットと関係の深い、ザンデルリングから事情を聴取する。
彼より渡された、衝撃的な資料とは……。


ドレスデン(旧題:シュタージの資金源)

 ドレスデンは、かつては、ザクセン王国の中心地として栄えた古都でもあった。

同地には、ザクセン選帝侯(せんていこう)アウグスト2世こと、アウグスト強王により作られた日本宮殿があった。

宮殿の中には、所狭しと東洋より持ち込まれた白磁(はくじ)が並んでいた。

 アウグスト強王は白磁(はくじ)()れこむあまり、自身でその白磁(はくじ)の生産に乗り出すほどの愛好家であった。

1710年に王立ザクセン磁器工場を設け、その研究に乗り出した。

後に、『白い黄金』と(しょう)されるマイセン陶磁器は、この酔狂人(すいきょうじん)のおかげで発展したのである。

 

 エルベ川の谷間に位置し、エルベ川の真珠(しんじゅ)とも呼ばれる、古都ドレスデン。

この町は、われわれ日本人にも、馴染(なじ)みの深い町であった。

明治18年*1のころ、官費(かんぴ)留学中だった(もり)鷗外(おうがい)*2青年も、同地に半年間滞在するほどであった。

 

 ドレスデンは、ワイマール共和国、第三帝国の時代を通じ、ドイツでもっとも重要な都市のひとつであった。

戦前の1939年には、63万人の人口を(よう)し、華麗(かれい)な文化都市として栄えた。

 だが、1945年2月13日から14日にかけて、米英軍の激しい空爆により壊滅的な被害を受けた。

この2昼夜の空襲の被害は、10万といわれる犠牲者を出した。

かつて、アウグスト強王により作られた古都は、その美しさから「エルベ川のフィレンツェ」と呼ばれていた。

しかし、英空軍の激しい爆撃により、そのほとんどは灰燼(かいじん)()した。

 

 東ドイツ政府は、チェコ国境に近い、この都市を政治的に注目した。

戦後復興として、社会主義的な町づくりをした。

市の中心部に文化センターを建設し、ソ連式の集合住宅を立ち並べた。

 しかし、ほんとうの戦後復興にはまだまだ遠く、いたるところは焼け跡だらけであった。

名跡(めいせき)であるフラウエン教会やツヴィンガー宮殿などは、瓦礫の山と廃墟が放置されていた。

 

 マサキたちは、空路ドレスデンに入った。

高速を使っても2時間はかかる175キロの道を、ヘリのおかげで30分弱で移動した。

最大速度、時速320キロを誇るMI-24の恩恵(おんけい)は、すさまじかった。

ドレスデン市内にあるクロッチェ飛行場*3に降りたつと、基地の中で夜を待った。

 

 クロッチェ基地には、物資・人員の空輸を主任務にする第24輸送航空隊が置かれていた。

大隊規模の航空隊で、ヘリとセスナ機の他に、16機のイリューシン14を所有していた。

 イリューシン14は、東ドイツがライセンス生産した数少ない航空機である。

1956年から1959年までの間、人民公社ドレスデン航空機工場*4で80機が生産された。

 

 1955年に設立された、人民公社航空製作所*5

同社は、1950年代後半に、国中から集められた戦前からの技術者とともに航空機開発に望んだ。

 しかし、開発の遅れと、ソ連の援助中止という形で東ドイツの国産飛行機は立ち消えになった。

目指していたアフリカ、中南米諸国への販売も、市場原理を無視した社会主義ゆえの国際市場への甘い見通しの為、失敗した。

 1961年以後、ドレスデン航空機工場と社名を改め、航空機とヘリコプターの修理工場になった。

同社はワルシャワ条約機構軍と国家人民軍向けに、航空機の整備を専門とした。

 

 

 総裁が言った通り、ザンデルリングは、ドレスデンにいた。

シュタージが運営するホテルに潜み、そこで半月に渡る綿密な逃亡計画を練っていた。

 その日、シュタージ少将と、ホテルの一室で飲んでいるときだった。

不意に、官帽にオーバーコート姿の将校たちが現れて、

「お時間を頂けないでしょうか」と声をかけてきた。

  

 シュタージ少将は、ドレスデン県本部長で、KGBと近しい人物であった。

でっぷりと太った体躯に、剃り上げた頭からは、とても想像も付かない。

ザンデルリングをはじめとする党幹部とのつながりが噂される男であった。

   

 肥満漢(ひまんかん)のシュタージ少将を追い出した後、ザンデルリングはいらだちを隠さなかった。  

突如(とつじょ)として現れたシュトラハヴィッツ将軍に、敵意をむき出しにする。

「何だね。君たち、これは少し失礼じゃないかね」 

 

無礼(ぶれい)重々(じゅうじゅう)承知(しょうち)しております

単刀直入に申し上げましょう、同志ザンデルリング。

同志はSEDの主席、国政の首班になる気はございませんか」

「な、何だって」

ザンデルリングは、途端(とたん)驚愕(きょうがく)の色をあらわした。

「何を言い出すかといえば、同志シュトラハヴィッツ将軍。

君がどういう考えで、シュタージと対決し……

どの思って、こういう若い軍人たちと徒党を組んでいるのか、分からない」

ザンデルリングは冷たく言い、曲がったネクタイに手をやる。

「だがね、君がどんなに行動を起こそうとも、党と癒着(ゆちゃく)したシュタージは動かない」

「一党独裁体制は、盤石(ばんじゃく)と言う事ですか」

「その通り」

 

「シュタージは、国家、国政の上に根を張った巨樹(きょじゅ)なのだよ。

簡単に倒せる相手じゃない……。

利口(りこう)な人間なら、倒す事よりもその大きな(みき)の下に入って、利益に甘んじることを選ぶ。

それが、政治家の選択というものじゃないのかね」

「もしその木を切り倒す道具があるとしたら、どうする」

 

 沈黙を破るように、マサキが口を開く。

彼は、今にも吹き出しそうなのをこらえて言った。  

「知らねえとは、言わせねえぜ。

シュミットと近い貴様は、この計画にも(から)んでいるはずだろう」

 

「同志ザンデルリング。

貴方はシュミットの事を可愛(かわい)がっていたから、KGBにも認められている……

そう思っていたら、大間違いですよ。

いくらKGBに取り入ったところで、所詮あなたは、モスクワ派の外様(とざま)

ソ連人じゃない、ドイツ人。外国人だ。

いざとなったら、トカゲのしっぽきりで、ばっさりってことも……」

 シュトラハヴィッツの眼差しの真摯(しんし)さに、ザンデルリングも動かされたようだった。

 

 マサキは、その夜ドレスデンに泊まった。

本当ならば、日帰りでベルリンに帰るつもりであったが……

夜10時を過ぎてしまったので、急遽(きゅうきょ)ドレスデン市内に泊まることにしたのだ。

 ホテルの一室は、シャワーと簡単なベッドだけ。

ルームサービスも台所もない簡単な宿泊施設で、冷蔵庫すらないのには驚いた。

ただ、シュトラハヴィッツ将軍が無理を言ってくれたおかげで、市内で一番高層を誇るホテルに宿をとれたのだ。

 本来ならば、外人は指定された宿やホテル、民家以外泊まれない為である。

『シュトラハヴィッツに貸しを一つ作ってしまったな』と、密かに感謝していた。

 

 

 東ドイツ製のコーラの入ったグラスを片手に、地方都市の夜景を眺める。

紙巻煙草を燻らせながら、次の方策を一頻り思案していた。

おもむろに立ち上がると、念入りに部屋中を見て回った。

 ソ連をはじめとする東側諸国では、外人用ホテルに盗聴はつきものであった。

 いや、同国人であっても、監視の目を緩めない。

硬直したスターリン主義の支配制度の中にある、東ドイツでは、より顕著(けんちょ)であった。

 マサキは、ベッドわきにあるラジオや室内電話、電球などをくまなく調べる。

ソ連では、マイクロ波を用いた優れた音響装置による盗聴器があるためだ。

衛星国であった東ドイツで、使わない理由はない。

 そして、このドレスデンの町は、KGBの秘密基地があった場所である。

何事も、用心して足りぬことはない。

 

 そうこうするうちに、壁掛け時計の中に怪しげな部品を認めた。 

やはり、シュタージは(くさ)ってもシュタージなのだな……

そっと壁時計を戻した後、次元連結システムの子機を取り出して、起動する。

 あらゆる電波や熱線を遮断するバリア体を、部屋中に張り巡らせた。

これで、ひとまずは安心だろう。

そう考えながら、鞄の中から、ある道具を取り出した。

 それは、携帯式の通信機器である。

テーブルの上に置かれた機材の形状はノートパソコンに似ており、受話器がついていた。

折りたたむと、縦幅21センチ、横幅30センチ強で、A4判ほどの大きさだった。

 

 マサキは、通信機を起動させるなる。

画面に映る美久に向かって、静かに、

「美久。今からデーターをゼオライマーに送る」

美久は、画面越しに部屋中の様子をうかがっている風だった。

「はい」

「映像と音声は、カセットテープとビデオに焼き直しておいてくれ」

 そういうと記録装置の端子をつないだ。

情報量にして、500ギガバイト。

次元連結システムのちょっとした応用で、一時間もあれば、すべて送り終わるであろう。

 懐中より煙草を取り出して、火をつける。

悠々と紫煙を燻らせながら、

「あと、キルケに連絡を入れてくれ。西ドイツのメディアと接触を図りたい。

なるべく早く、と言ってな」

 そういって通信を切ると、灰皿に吸殻を投げ入れ、ベットに横たわる。

「あとは、この木原マサキの意志(いし)覚悟(かくご)だけか……」 

そう意味ありげに(つぶや)き、愛用の回転拳銃を抱えたまま、眠りに就いた。

 

 

 マサキ一行は、ドレスデン市中に繰り出した。

午前中はシュトラハヴィッツ将軍たちと別れて、市街に出る。

半径2キロほどの小さい町なので、観光するのに4時間もあれば十分だろうと、徒歩で出かけた。

 東ドイツ有数の地方都市という割には、活気がなく、汚い建物ばかり。

教会も、オペラ座前広場も、ツヴィンガー宮殿も、どれも爆撃の後で、薄く(すす)けているばかり。

 驚くべきことに、道路にはまったく車が走っていなかった。

ポーランド方面に行くのは深緑の塗装をした軍用車両ばかり。

時折、薄汚れたトラバントやトラクターを見かける程度である。

 もっとも、路面電車がかなりの本数で走っているので、車は必要なさそうだったが。

社会主義国で成功した東ドイツでこれなのだから、隣国ポーランドはもっと貧しいのだろうか。

 マサキは、力なくため息をついた。

アイリスを、日本に連れ出したら、苦労しそうだと一人思案していた。

 

 ドレスデンは、東ドイツの(はし)で、外人が少ないせいもあろう。

マサキたちは非常に目立った存在だった。

 またこの町が、KGBとシュタージの秘密拠点であったこともあろう。

監視の目も、異様なほど、多いことに気が付いた。

 それとなく様子を見るつもりで、ぶらぶらとドレスデンの町の中を歩いた。

彼は至る所で町中の目という目が、己に注がれている。

マサキは、そのような気がして、妙に背筋に(うす)(さむ)さを感じた。

 

 ホテルには台所もなく、ルームサービスもなかった。

その為、わざわざ朝食を市内に買いに行くしかなかった。

 近くの国営商店(ハーオー)に寄った際、店内を探索して、気になる点があった。

値段はかなり格安で、補助金等の政府による価格調整の影響もうかがえる。

 ライ麦パン、1キログラム34ペニヒ*6、ブレートヒェン、1個5ペニヒなど……

ドレスデン名産の菓子、アイアシェッケ *7も85センチ四方で 1マルク25ペニヒ。

実に、驚くべき安さだった。

 

 目についたのは、青果類(せいかるい)などの青物(あおもの)が少なく、ビールなどは逆に30種類以上ある事。

社会主義特有の需要と供給を無視した、発注ゆえだろうか……

 

 店員の話によると、これでもBETA戦争での物不足は解消した方だという。

その話を聞いて、東ドイツに住む主婦やパートタイマーの職業婦人は大変であろう。

 朝から商店に並んでも、お目当ての品物がかえないという馬鹿げたことになるのだから……

マサキは、不思議と、そんな事ばかりを考えていた。

 

 

 市中のパン屋に寄り、アイアシェッケという、ドレスデン地方発祥のチーズケーキを買った。

その際、店員は、動物にエサを渡すがごとく、パンを投げてきた。

店員の愛想の悪さと、乱暴な対応が、非常に気になった。

 東洋人の事を、見慣れぬのもあろう。

だが、カシュガルハイヴの構築を許してしまった支那(しな)に、よからぬ感情を持っている。

 その様なことも、今回の態度の一因ではなかろうか。

もっとも、社会主義国特有のサービス精神の欠如もあろう。

 ここで、ドレスデン名産のひとつ*8である、バームクーヘンを買い求めた。

だが、卵や牛乳の供給量の関係で、週に1度しか作れないと聞いたとき、マサキはあきれていた。

仮に売っていたとしても、朝から行列ができて、昼には売り切れてしまうほどだという。

 そしてバームクーヘンは、東ドイツでは高級菓子の部類であった。

クリスマスや、慶事(けいじ)での贈答品(ぞうとうひん)の習慣が根強かった。

西ドイツへの贈答品として売られて、ほとんど東ドイツ人は食べないと言う事だった。

 

 

 さて。

午後、マサキはシュトラハヴィッツ達の下に出向いていた。

彼等と共に、今後の事を話し合っていると、不意にザンデルリングが現れた。

 何やら重たげに、箱を抱えてきて部屋に入ってきた。

いきなり段ボール箱を置くと、そのまま帰ってしまった。

不思議な行為をするものだと、マサキは(いぶか)しんだ。

 

 ザンデルリングの持ってきたものは、資料だった。

ロシア語とドイツ語からなり、A4判の300枚入りのファイルで、25冊。

 一番古いものは1957年からの物で、最新のは1977年だった。

 

 資料を手に取ったハイムは思わず、

「完璧だ……完璧に資金の流れが解明できる。

この資料だけでも、毎年、2億マルク*9の金がシュタージを通して、KGBの手に渡っている」

さっきとは打って変わった熱心さで資料を見入るシュトラハヴィッツは、やや興奮気味に答えた。

「それにしても、ザンデルリングは見事なものだ。

この資料から完全に名前を消している」

 

 マサキは、ちょっと考えて。

「問題はそこだ……」

「というと……」

「この資料を西ドイツなり、米国に持ち込んだにしろ、どこから出たかが問われる。

ザンデルリングが名乗るわけがない。

この資料から名前を消したように、一切自分に関わりのないと、否定するのは目に見えている」

と、マサキは語尾に力をこめて、もう一度、

「はっきりとした出所が分からなければ、()()もない怪文書(かいぶんしょ)*10として切り捨てられる」

 五分間ばかり、沈黙の時間が続いた。

互いの胸の鼓動(こどう)が聞こえるのではないかと思えるぐらい、静かな一刻(いっとき)であった。

 

 そのうち、マサキの監視役として来ていたゾーネが入ってきた。

灰色の開襟制服に、ベルトにマカロフ拳銃という(いか)めしい巡察(じゅんさつ)の格好で来て、

「アクスマン少佐の遺品(いひん)*11から、出て来たことにすればいい」

と、やがて、彼はしずかに、

「少佐は、対ソ独立を望んだ、ベルリン派の派閥(はばつ)の長。

シュタージ内部で、西ドイツに調略(ちょうりゃく)をかける中央偵察総局の将校。

出所としては、文句はないでしょう」

 

 それは、まんざらの出鱈目(でたらめ)でもなさそうな話し具合だった。

だが、ゾーネはシュタージの現役将校。

それは、余程(よほど)割引(わりひ)きして聞かねばならない。

 ハイム達は、その話を聞いた瞬間、

シュミットと同じ、シュタージのくせに何を()ぼけたことを

と、いう言葉が、のどまで出かかっていた。

 

 シュトラハヴィッツの静かな眼は、やがてしげしげとゾーネの面を見守っていた。

さて、別に言う事もない様な無感動を、そのまま置いて。

「いいのか……。

それをしたら、お前さんの派閥(はばつ)の長は……この闇資金の流れを知って、関与していたことになる」

「そうだぞ、ゾーネ少尉。アクスマン少佐の名前に傷がつくことになる」

 しかし、ゾーネはあくまでも、懸命だった。

ハイムの問いに答えて、

「構いません」

と、息をつめた。

「KGBと刺し違えるのなら、アクスマン少佐も本望でしょう」

 

その話を聞き終わると、シュトラハヴィッツは不意に椅子から立って、

「西ドイツにヴァルトハイムという俺の知り合いがいる……。

その男に、ドイツ連邦検察庁の特捜部(とくそうぶ)の検事を紹介してもらう」

 彼らの顔に、さっと一脈の生色(せいしょく)*12が浮かんだ。

それは力強い、全身全霊(ぜんしんぜんれい)をかけて頼れる存在だった。

「よし、その線で行こう」

 

 マサキは、話が一段落すると、市中に再び出かけた。

再び、バウムクーヘンを買うためである。

 ドレスデン土産にバームクーヘンを買おうをしていたマサキは、納得がいかなかった。

色々思案した末に、護衛役の私服警察官に聞いて、別な店に行って買うことにした。

 別な店では、外人と言う事で無理をして、バームクーヘンを用意してくれた。

出されたバームクーヘンは、4段リングで、1キロ50マルクほどだった。

 店主によれば、数時間かけて、わざわざ焼いてくれたという。

なので、東ドイツマルクの代わりに、西ドイツマルクで支払い、買って帰った。

 店主は、マサキの差し出した西ドイツマルク*13にひどく驚くも、喜んで受け取ってくれた。

 

 

 夕方、薄暗くなってから戻ると、やっと話は終わったようだった。

ドレスデンの空港からベルリンに戻るべく、ヘリコプターを準備していた時である。

シュトラハヴィッツは、見送りに来たゾーネを認めると、

「おもわず時を過ごしたぞ。

同志ゾーネ。これから一人で帰るのも面倒であろう。俺が連れて行ってやるよ」

 

 ゾーネは、あわてて、ヘリへ飛び乗った。

少し先には、ハイムとヘンペル少尉が、なお用心(ようじん)(ぶか)く、物蔭からじっとにらんでいた。

 

「シュトラハヴィッツ、本当に不思議(ふしぎ)な男だ」

 シュトラハヴィッツは、ただただ、解らない男、この一語につきる。

 本心、シュタージを敵とみるならば、そのシュタージの正規職員であり監視役でもある自分を、どうしてこう寛大にして帰すのか。

 手ぶらで送り返さぬまでも、重要な情報源として、これを拷問(ごうもん)のすえ、敵状を知る手懸(てがか)りとする。

そういうは、KGBやCIAなどの秘密警察、情報員の常識といってよい。

「それなのに……」

ゾーネは、疑いながらも、その怪しみに引かれて、ついつい犬の子の如く、シュトラハヴィッツのあとについて行った。

シュトラハヴィッツもまた、ゾーネを、野良犬ほども、気に止めていない風だった。

 

 しかし、マサキはシュトラハヴィッツの対応に気乗りしない感じだった。

「これは……」

彼は、シュトラハヴィッツに、ある種の不安を感じた。

 シュトラハヴィッツは、どうして、シュタージの現役将校と共にここにいるのか。

これは解らない方がもっともだった。

 およそ、わが身を狙う間者といえば、これを銃殺にしても問題ないのが当然なのに……

シュトラハヴィッツは、かつて自分を狙ったことも明確な下手人を、こうも許すのか。

 まさか、ゾーネとかいうシュタージ将校に、貸しでも作っているつもりなのだろうか。

マサキは、あきれるほかなかった。

*1
1885年

*2
本名、森 林太郎。1862年2月17日(文久2年1月19日) - 1922年(大正11年)7月9日。日本の小説家、陸軍軍医

*3
今日のドレスデン空港

*4
VEB Flugzeugwerke Dresden.今日のエアバス傘下のエルベ・フルークツォークヴェルケ社

*5
VVB Flugzeugbau

*6
ペニヒとはドイツマルクの補助通貨単位。100ペニヒ=1マルク。この貨幣単位は、東西ドイツ共通であった

*7
Eierschecke.ドレスデン地方名産のチーズケーキ

*8
バームクーヘンの起源とされる地域は複数あって、ドレスデン、ザルツヴェーデル、コトブスなどである

*9
1978年の1ドイツマルク=115円

*10
他人を中傷し、情報の暴露など世間をさわがせるような、出所不明の文書

*11
死後に残した品物。形見の品

*12
いきいきと元気があふれる顔いろや様子のこと

*13
東ドイツマルクと西ドイツマルクは東ドイツの公式レートでは同一とされたが、実際の貨幣価値は違った。1978年の段階で既に西ドイツマルクは東ドイツマルクの5倍であった




 フリードリヒ・ザンデルリングは小説版6巻に出てくるシュミット子飼いの議員です。
傀儡政権の首班指名を受け、書記長の地位に就いた人物になります。



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マサキの恋愛路線に関する質問

  • 女と遊びながら、戦う
  • 色恋より戦闘描写
  • 別な原作ヒロインと逢瀬
  • 現状維持
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