冥王来訪(ハーメルン投稿版)   作:雄渾

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 月面のハイヴより発射された、一つの射出物。
それは、着陸ユニットと呼ばれるBETAの基地であった。
隕石が地球に向けて進路を取っている、その時、米国の意見は割れていた。


危険(きけん)予兆(よちょう) 前編

 マサキが、東ドイツに一週間ほどの私的訪問をしている同じころ。

なにやら月面で、不穏な動きがあった。 

そのことに一番最初の感づいたのは、米国であった。

テキサスのジョンソン宇宙センター*1には、人工衛星からの画像が送られていた。

「所長、妙な隕石が地球上に接近しています」 

「どうした。隕石の一つなど今に始まったことではあるまい」

地球上には、毎年2万個の隕石が飛来していた。

そのほとんどは、小型で、人里離れた山奥や大海原に着陸し、発見されることは(まれ)であった。

「月面からです。

 ハイヴから、何か飛翔物が……」

地球上のハイヴは、既に完全攻略されていた。

だが、肝心な月面上の本拠地──ルナ・ゼロ・ハイヴだけは、なおまだ頑として落ちずにあった。 

「着陸ユニットか!」

 

 着陸ユニット。 

それは、BETAの発生源であるハイヴを内包した飛翔物である。

1973年、1974年と続けて地球上に飛来して、多大な被害をもたらした存在。 

米国では、戦術核の飽和攻撃でハイヴ建設を防いだ。

だが、カナダの東半分が深刻な放射能汚染のために、居住地域が制限されてしまう事態になった。

 

隕石接近の報に、所長以下、対策を話し合ってていると、電算室からの連絡があって、

「コンピュータの計算によりますと、着陸まで3日ほどです」

こう情況を伝えて来た。

所長は、はるかにそのさまを想像しながら、

「軌道上に発射可能な核ミサイルは……」

と、口の内で、不機嫌な(つぶや)きを鳴らしていた。

 

 ここで簡単に、1978年当時のミサイル技術を振り返ってみたい。

当時の大陸間弾道弾ミサイルは、米ソともに液体燃料であった。

液体燃料ロケットは、軌道制御が簡単な反面、燃料注入に日数がかかるのが難点だった。

固体燃料を主としたピースキーパーミサイルが配備されるのは、1986年になってからである。  

 参考までに、われわれの世界での、固形燃料ロケットについて述べておく。

1970年に、世界に先駆けて全固体燃料のロケットを開発したのは、日本であった。

(はやぶさ)」「鍾馗(しょうき)」を開発した航空工学の大家(たいか)糸川(いとかわ)英夫(ひでお)*2博士。

彼が、(きた)る宇宙開発時代に向けて、1950年代から研究していたのだ。 

それが功を制し、わが日本国は世界で4番目*3に人工衛星を打ち上げた国家になった。

 

 このままいけば、アサバスカの二の舞になるかもしれない。

所長は、一刻も晏如(あんじょ)としてはいられない焦躁(しょうそう)にかられていた。

「打つべき手段はないものか……」

「日本軍のゼオライマーを使う案はどうですか」

「再突入駆逐艦に乗せて、軌道上に運ぶのかね……

 私が、聞いた話によれば。たしか、ゼオライマーの大きさは、50メートル、500トン。

 再突入艦は60メートルだよ。それだけの重量と全長の物をどう運ぶのだね」

 

 再突入駆逐艦とは、この異世界で作られた大気圏突入用宇宙船(スペースシャトル)

全長60メートルで、地球の軌道上から戦術機を輸送するために開発された輸送機である。

駆逐艦と呼ばれているが、非武装の有人宇宙船である。

ミサイルはおろか、大砲、機関銃すらついていなかった。

 

 所長は、懐中に手を入れると、白に緑の文字が書かれたタバコの箱を取り出す。

「Kool*4」と書かれた箱から、数本のタバコを抜き出し、机の上にきれいに並べる。

「とりあえず、怪情報に踊らされず、出来るだけ多くの正確な情報を収集したい」

整然と並べられたタバコを端から掴んで、口にくわえる。

ジッポライターで、炙るように火をつけた後、悠々と紫煙を燻らせた。

男は、咽頭を通じて伝わる結晶ハッカ油に、心の安らぎを求めた。

その様を見た副官は、所長の愁眉(しゅうび)を開かせようと、

「任せてください」と、力強く答えた。

 

 

 

 さて、ワシントンD.C.にあるホワイトハウスでは。

テキサスにあるジョンソン宇宙センターからの一報を受けて、緊急会議が招集されていた。

会議の冒頭、航空宇宙(NASA)局長が立ち上がって、上座の方を向いた。

「今回の隕石は、情報分析によりますと、着陸ユニットと思われますが……」

白版に張られた地図を見ながら、副大統領は、

「うむ」

と、航空宇宙局長の意見に深くうなずき、

「諸君らも、月面のハイヴの隆盛(りゅうせい)をみれば、膨大なG元素が眠っているのが一目でわかる」

思わず声を上げて笑った。

 まもなく、哄笑している副大統領に、意見をはさむものがあった。

彼との関係が微妙である、CIA長官であった。 

「副大統領! G元素集めに無駄な時間を割くより、例の計画を進めた方が得策かと……」

 副大統領の目が途端に鋭くなる。

彼は精悍な顔つきをしている為に、かなりの迫力を感じさせた。

「まだ、こだわっているのか」

腕組みを解いて、席より立ち上がった。

「悪いとは言ってはいません。私は、貴重な味方の戦力を無駄にはしたくないだけです」

 国防長官は、その言を聞くや、いつにない激色を見せ、

「ならばこそ、例の計画を進めるために、G元素の収集を続けているではないか」

と、席から立ち上がって、CIA長官を叱りつけた。

「その通りだ。心配はいらん。

 調査隊の成果を楽しみにしていたまえ」

 そういうと副大統領は、会議場から辞した。

CIA長官は、立ち去る彼に、懸命に食い下がった。

「犠牲を……、最小限にとどめたいものですな」

議場に残った閣僚たちは、CIA長官に冷ややかな目を向けるばかりであった。

 

 

 

 

 ホワイトハウスでの秘密会合から、わずか数時間後。

場所は変わって、ニューヨークのマンハッタン島にある国連日本政府代表部。

 全権大使の御剣(みつるぎ)雷電(らいでん)は、ある人物の非公式な訪問を受けていた。

米国の諜報をつかさどるCIA長官であった。

黒塗りの公用車で来たCIA長官は、代表部の一室に差し招かれて、

「結論から申し上げます。

 殿下並びに、元枢府*5も、内閣も、このBETA戦争を終結させるものは新元素爆弾であると……

 その様な考え方を否定なさらないと思います」

御剣が鋭い目でしげしげと見おろしながら、たずねる。

「それで……」

「多額の予算を投入したにもかかわらず、我が合衆国はいまだにG元素爆弾を完成しておりません」

男は意味ありげに、深い深呼吸をした後、

「ですが……、状況に深刻な変化が出たと申し上げなくてはいけません」

「ロスアラモス研究所で、新元素の分裂実験に成功したという件かね」  

「やはりご存じでしたか」

「しかし、余りにも大きく、航空機にも、大陸間弾道弾にも搭載できぬという話だが……」

「ですが、彼らは戦略航空機動要塞という途方もない手段を思いついたようです」

御剣は、CIA長官の発言にほとほと感じ入った様子で、

「なんと……」

脇にいた次席公使も驚きの声を上げる。

「それは初耳です」

CIA長官は、やがて御剣の前にかしこまっていた。

「実は」

と、CIA長官は注意深く、大使館の周囲を覆う竹林の外を見て。

「G元素の反応を利用した機関を乗せた大型攻撃機を月面に近づけて、地表で炉を暴走させる計画なのです」

 長官は口を切った。

御剣はうなずいた。──大いに聞こうという態度である。

「NASAによりますと、着陸ユニットの発射源は月の静かの海にあると言う事です。

 クレーターを(えぐ)り、地下に建設されたハイヴらしく、空爆やミサイル攻撃による損害を与えることは難しい。

 特殊作戦は、不可能と結論がなされました」

御剣は息を内へ飲んだ。

「つまり、正攻法で行くしかありません。

 合衆国は国家の命運をかけ、相当の損害を覚悟のうえで、大規模な月面降下作戦を実施する事にいたしました」

「実施時期は……」

「ロケット燃料充填や人員の確保、月面の温度が上昇を勘案しますと、早くとも半月後になります。

 詳細は追って、連絡いたします」

CIA長官は席から立ちかけて、

「大統領閣下からの伝言でありますが……。

 貴国には、ぜひ、ゼオライマーの作戦参加を、とのことです」

御剣はひとみを正した。

CIA長官の終りの一言に、よってである。

 男は、それを猛烈(もうれつ)反駁(はんばく)の出る準備かと覚悟した。

今回の依頼が、無理を承知の上でしていたからである。

「わかりました」

 案外、御剣は、幾度も大きくうなずいた。

決して、軽々しくではない。

歎息して、言った。

「元枢府、内閣との検討の上に可及的速やかに返答を申し上げましょう」

御剣も同意の色を満面に見せた。

「よろしくお願いします」

 男は、御剣に深い礼をした後、静かに部屋を後にする。

迎えに来た屈強な護衛たちと共、に車でマンハッタンの町へ去っていった。 

 

 

 

 CIA長官が帰って間もなく、執務室から人払いをした御剣は、大急ぎ電話を掛けた。

既に米国ニューヨークは昼下がり、6時間先の西ドイツのボンは、夜の時間帯になっていた。

「御剣だ。大使館付武官補佐官に連絡して、訪独中の彩峰(あやみね)大尉を呼んでくれ」

 それから5分ほどもすると、電話は彩峰につながった。

「御剣閣下、彩峰です。火急(かきゅう)要件(ようけん)とは……」

「すまぬが、木原に一つ汗をかいてもらうことになった」

「ゼオライマーを出撃させろと、いうんですかッ」

 彩峰は御剣の問いかけを聞いて、本音を漏らした。

いや、口に出せない感想もまだあるのだ。

「まぁ、聞いてくれ。

 先ごろ、米国のNASAで月面から異様な飛翔物の発射を確認した。

 それに対応するために、近々米軍の降下部隊を送ることが決まった」

「じゃあ、どうやって安全な場所に送り込むのですか。

 10年前のサクロボスコクレーターでの、接触事件以来……

 ただ、月面がどうなっているかわからないのですよ……」

 その先を言うか迷った。

出過ぎたことをしゃべって、彼の逆鱗に触れたら、大変だ。

「簡単な事だよ。

 降下作戦が始まるまでに、候補に挙がっている月面のハイヴ全て。

 それを、破壊すればいいだけだよ」

「エッ」

「それが、帝国に対する米国のやり方なのだよ」

 そこで、御剣は口をつぐんでしまう。

彩峰は受話器を握りながら、相手の反応を待つ。

しばらくすると、御剣は口を開くなり、受話器の向こうに問わせた。

「木原は、どこにおる」

「いずれも、まだ確かなるところは」

彩峰の手元にも、まだ的確な情報はないような返答だった。

「では……木原を探し出しまいれ」

御剣は、彩峰にいいつけ、それも、

「ニューヨーク時間の月曜午前8時までに」

と、時を()った。

「了解しました」

 受話器を置くと、彩峰は、窓の向こうの、夕闇に染まり始めたボンの街並みを見つめた。

(『(ゆる)せ、木原。これが薄く汚れた政治の世界の現実なのだ……』)

権力者の手の上で踊らされる一人の青年の身の上を、人知れず涙していた。

 

 

 

 同じころ、CIA長官といえば。

マンハッタン島中心部にあるセントラルパークの近隣に、こじんまりとした建物があった。

 その建物こそが、外交問題評議会本部。

米国の内政外交に影響を与える、奥の院である。

最上階の会長室では、数人の男たちが集まり、今密議が凝らされていた。

「私に、CIA長官を()めろというのですか」

CIA長官の問いを受けて、上座にいる男が顔を上げる。

「このあたりで考えてみては、どうですかと……。

 ご相談しているのです」

「今のは退職勧告(かんこく)と同じではないか、私にはそう聞こえますが!」

別な男が、口つきの紙巻煙草をもてあそびながら、長官をにらむ。 

「はっきり言おう。我々はゼオライマーの活躍を支援する君を……

 いや、今後もそんな主張をする君を今後も支持するわけにはいかんのだよ」

 みな長官の顔に瞳をあつめ合った。

長官も一人一人を見まわすように、しばらく、口をつぐんでいる。

「そこまで聞いて分かったぞ」

と、たまりかねたように、長官は言った。

「副大統領をそそのかし、G元素獲得(かくとく)工作を進めているのは、君たちなのだね」

「長官、我々がゼオライマーを、木原マサキを支援してきたのは……

 BETAの進行によって、経済活動が立ち行かなくなる。

 その様な懸念(けねん)が増大してきた事への、不安だったのです」 

押し黙る長官を見て、さらに別な男が口を開く。

「だが、状況は大きく変わった。地球上にあったハイヴは消滅した。

 脅威であったソ連は、BETA戦争で国力が疲弊し、今や見る影もない。

 そしてソ連の衛星国であったコメコン諸国も、西側(われら)との連携を模索(もさく)し始めている」

長官は、やや声を高めて、

「そんな事で、本質は変わってはおりません。

 BETAは、まだ月と火星に()るのですよ!」 

はなはだしく不快な顔をした男達は、興奮する長官を責め立てる様に、一斉に口を開く。

「……かもしれません。

 でも国際政治とは、常に変化するものです、生き物ですよ。

 少しでも現実に即したものを選ばなければ、我が合衆国は、時代に取り残されてしまいます」

「我らにとって、黄色い猿(イエローモンキー)の科学者……。

 そして彼の作った超マシン……百害あって一利なしだ」

 みなまで聞かないうちに、長官の(おもて)には、ありありと、不満の色が現れる。

長官は、瞋恚(しんい)もむき出しに、机から立ち上がった。

 無敵の存在であるゼオライマーが失われれば……

BETA戦争はまた、かつてのように凄惨(せいさん)な結末を迎える。

その様な懸念(けねん)(いだ)いて、彼らに反撃したのだ。

「皆まで言うのか……。

 (よろ)しい! ならば私も言わせていただこう。私は()めぬぞ」

赫怒(かくど)のあまり、机を何度もたたく。

「諜報機関の長として、守らねばならぬのは、君たちだけではない。

 合衆国を支える、2億の民を思えばこそ、職責を全うせねばならん。

 その様に、決意を新たにした」

 しかし、誰もが一瞬、その面を研いだだけで、しんとしていた。

来るべきものが来たという悽愴(せいそう)な気以外、何もない。

「残念ですな……

 中間選挙の結果が開票される前に、辞任(じにん)していただきたかったのですが……」

「明日も早朝からの閣議があるので、失礼させてもらうぞ」

 長官は、きつい口調でその様に告げ、背を向けて逃げるようにして、その部屋を後にした。

彼に出来る事は、ドアを勢い良く閉める事だけだった。 

 

 

 CIA長官が去った後、会議室の中は冷たい笑いに包まれていた。

上座の男は、パーラメントの箱から、タバコを抜き出すと、紫煙を燻らせる。

 そして、静かに夜景(やけい)(のぞ)いた。

ビルの最上階からは、壮大(そうだい)絵画(かいが)の様な、精緻(せいち)(まばゆ)い夜景が広がっている。

他の男たちは、肩を()すって笑い、そして、二言(ふたこと)三言(みこと)(ささや)()っていた。

「あの莫迦(バカ)者は、別といたしまして……」

「木原という黄色猿(イエローモンキー)は、どうしますか」

「しかし、まったく不可能とされたハイヴ攻略を単独で成し遂げるとはな……」

「パレオロゴス作戦の参加……。

 活躍させない為の、無理(むり)難題(なんだい)であったのにな。

 おかげで日本政府まで、奴を重視し始める結果になった」

「しかし、あれだけの行動ができる男を失うのは、()しいがね……」

上座の男は、初めて強い調子で答えた。

「自分で行動のできる猿などいらぬ。

 主人の言う事を聞く有能な猿が欲しいのだよ」

「なるほど」

「で、どういう筋書きで……」

「心配はありません。

 月面偵察にかこつけて、機械もろとも、宇宙の海の藻屑(もくず)にするつもりです」

上座の男は、つい微笑を持った。

黄色い猿(イエローモンキー)の見る夢など……、この世界にはなかったと言う事か」

 地上のハイヴ攻略はなった、この上は危険なゼオライマーと木原マサキは消えてもらう。

彼の腹はできたのである。

*1
正式名称:リンドン・B・ジョンソン宇宙センター。1961年11月1日設立

*2
1912年7月20日- 1999年2月21日。日本の工学者

*3
1970年2月11日に人工衛星「おおすみ」の打ち上げに成功した。ソ連、アメリカ合衆国、フランスに次いで、世界で4番目である

*4
1933年以来、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ社から発売されてる世界初のハッカ入り紙巻煙草

*5
マブラヴ世界における政府機関




 ご感想、ご評価お待ちしております。

近いうち、グレートゼオライマー出そうと思っています。 ですが、OVA本編は未登場で、設定のみは公式資料集。 映像化の初出が『スーパーロボット大戦J』となっています。 その際は、スパロボのタグが必要なのでしょうか

  • スパロボタグは必要
  • むしろTEのタグが必要
  • タグは不要
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