冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
その方を受けたソ連赤軍は核ミサイル攻撃の準備に急いだ。
ソ連首脳部の思惑は如何に……
ウラジオストックは、もう初雪の舞う季節だった。
雪となり出すと、明けても暮れても
だが、この冬、いつもの年よりは、何か、あたたかいものがあった。
長く続いた戦争にも終わりの兆しが見え始めていたせいであろう。
空がにわかに
ウラジオストックの共産党本部に凶報が舞い込んできた。
「何、何だと月面からだと……」
受話器を持ったまま、チェルネンコ議長は立ち上がった。
「隕石だと……しかし……
まさか着陸ユニット……そんなものが飛来しているというのか」
居合わせた秘書たちは、眼と眼を見あわせた。
皆、聞き耳を立てているふうだった。
だが、まもなくチェルネンコはむっとした顔をして答えた。
「もうよい」
静かな室内に受話器をたたきつける音が轟いた。
「同志議長」
「至急、政治局員を集める準備に取り掛かれ。
対策会議を開く」
対策会議の座上、ソ連戦略ロケット軍司令官が呼ばれていた。
司令官は、並みいる閣僚たちを前にし、
「考えうるあらゆる角度からの分析の結果、例の飛翔物は着陸ユニットの一部と思われます」
なぜ戦略ロケット軍司令官が、宇宙空間から飛来する隕石について呼び出されたのか。
ここで著者からの説明を許されたい。
ソ連では、宇宙開発のための部署は軍の一部だった。
軍事組織から分離させ、NASAを作った米国と違い、資金も人員も軍に依存したものだった。
その為、計画や運営は、ICBMを取り扱う戦略ロケット軍がほぼ管理したのだ。
また1959年に戦略ロケット軍が新設されて以来、司令官職は国防次官も兼務した。
その事は、戦略ロケット軍が、如何に重視されていたかの現れでもあった。
「……何か、言い足りぬことでも」
戦略ロケット軍司令官が、顔を
チェルネンコは、黙って
しかし容易に、次の口は開かなかった。
なお何か、思い
「米国の反応は」
「ホワイトハウスで、緊急の閣議を開いた模様ですが?」
閣僚に、政治局員も加え、夕方より熟議されたことは、かなり重大らしかった。
対米問題である。
すでに、指導部の
受け身ではなく、積極的にだ。
「何か、お調べなさりたいことでもあれば、偵察衛星など飛ばしましょうか」
群臣たちは、チェルネンコの案じ顔へ、かさねてそう言ってみた。
「だからこそ」
チェルネンコは初めて、閣僚へ、迷いをはかった。
「もし迎撃に失敗してふたたびユーラシア大陸に落下されれば、対処のしようはないぞ」
「その件ですが、ご心配はございますまい」
「ないか」
「まったく」
戦略ロケット軍司令官は、言った。
「……なるほど」
そう聞けば、そういう気もしてくる。
チェルネンコは、自分の迷いを、迷いに過ぎなかったかと、まもなく笑った。
しかし、この一策にして、もし
しかも、ソ連は既に冬。
シベリアにいる軍の多数は、積雪のために、明春まで動かせない。
となると、何よりは、国際外交におけるソ連の孤立化。
それと米国の対応などが、大きな不安となってくるのであった。
故に、このミサイル迎撃作戦は、重大中の重大だった。
そのうちに議長は、周囲のものを安心させるために話題を変えた。
「今一度、着陸ユニットとは何かから、説明したまえ。
今回の閣議から、新しく政治局員や政治局員候補になった人物が大勢いるからな」
戦略ロケット軍司令官は、一通り議場の顔を見渡す。
議長はじめ閣僚たちに、深々と頭を下げた後、
「では同志議長、閣僚の皆様方。
既にご存じの方もおられると思いますが、着陸ユニットとはBETAの巣です。
忘れもしない1973年4月に支那に飛来し、わずか一か月ほどでソ連まで侵攻しました。
現在、
ですが、その前に米国がアサバスカから残存物を得ております。
米国での研究成果からしますと、着陸ユニットから未知の元素が発見されました。
G元素と呼ばれるもので、その量はハイヴ一つ当たり200トン以上とされます」
閣僚たちが、戦略ロケット軍司令官の言葉を聞いて、感嘆の声を上げる。
「入手できれば、すごい利用価値があるな」
「では早速、先制攻撃として飛翔物に……」
チェルネンコは、満足そうに言った。
「そうだ。
米軍に察知されるよりも早く、迎撃準備に取り掛かり給え」
戦略ロケット軍司令官が議場を出ようとしたとき、参謀総長に声を掛けられた。
教本に出てくるような模範的な敬礼に、答礼で返す。
周囲に人がいないことを確認してから、参謀総長が近づく。
それまで黙っていた参謀総長が、初めて口を開いた。
「例の不確定要素さえ、介入してこなければな……」
彼のその言葉に、一時
「不確定要素でありますか」
戦略ロケット軍司令官の表情が険をおびた。
「天のゼオライマーだ……いまは
参謀総長は、
いや、このような帰着となってから、善処などという余地があろうはずはない。
戦略ロケット軍司令官は、まったく
一方、シベリアにあるスヴォボードヌイ基地*1では。
駐留する戦略ロケット軍の部隊が、ロケットの発射準備に取り掛かっていた。
「最終点検急げ!」
粉のような雪が降る中、ロケットの移動発射台に集まる作業員たち。
そこに向かって、メガホンで将校が呼びかける。
「作業員は速やかに退避せよ。繰り返す。作業員は速やかに退避せよ」
「ロケット発射準備!」
発射基地に、
「射場の周辺異常なし」
まもなく、放送でカウントが開始された。
「ロケット発射まで、あと410,9、8、7、6……」
指令所より、オペレーターや操作員はロケットの様子を見守った。
「液体窒素準備完了」
カウントの合間に、ロケット点火の合図が響き渡る。
「ロケットモーター点火、メインシステム準備完了」
ロケットからうっすらっと白い煙が上がり始める。
「5、4、3、2、1……」
ロケットブースターが点火され、上段マストにあるケーブルが切断された。
「発射!」
4本の液体燃料補助ロケットを備えた大型ロケットは、上空に向けて、飛び上がっていく。
空に白い線を書くように煙を上げ、たちまちのうちに大気圏に消えていった。
場所は変わって、米国東部の都市、ニューヨーク。
マンハッタン島にある、コロンビア大学ロシア研究所。
ソ連のミサイル発射を探知した米軍は、情報分析に乗り出す。
急な情報分析の為、米軍では間に合わず、各種研究機関も協力を要請された。
様々な米国内外の学者の中には、米国大統領補佐官ブレジンスキーの姿もあった。
彼は、米国におけるソ連研究の第一人者であり、コロンビア大学ロシア研究所の教授でもあった。
教授がコロンビア大学へ着いたのは、日もほとんど夜半に近い頃だった。
教授は研究室に入るなり、応接用の椅子に腰掛ける二人の青年に声をかけた。
「
「いいえ……」
ユルゲン・ベルンハルトは、留学以来、教授の信任が厚かった。。
そのほかに、日本人留学生の
この事は、日本にとって、マサキにとって幸運だった。
教授の顔には、深い疲労の色がありありと出ていた。
ついさきほどまで閣議にでも、出ていたのであろう。
「大詰めに来て、余計なことに頭を使わされる」
うなだれたままの教授は、ユルゲンたちの顔も見ずに、
「ソ連がロケットの準備態勢に入っていることはわかっているが……
まだ、どの程度の規模の攻撃を行うか、判ってはおらん」
いかんせん、
氷のような沈黙と、蛍光灯のゆらめきが、座中3名の顔を白々と見せるのだった。
「判明しているのは、大型ロケットを打ち上げ地点だけだ」
と、涼宮が補足した。
「場所は、スヴォボードヌイ」
このとき、ユルゲンの眉に、一瞬の驚きがサッとかすめた。
涼宮の手から地図を奪い取ると、
「涼宮さん、もう一度名前を言ってくれ」
「スヴォボードヌイだが……」
ユルゲンの想いは、確信に変わった。
「スヴォボードヌイ……やはりか。
俺は、前にこの基地に関して、聞いたことがある」
スヴォボードヌイとは、中ソ国境を流れるアムール川支流、ゼヤ川中流の右岸にある都市。
アムール州州都のブラゴヴェシチェンスクからは北へ1670キロの場所にある。
1930年代には第二シベリア鉄道の建設の為、大規模な収容所群がこの地に設けられた。
同市の50km北方には、閉鎖都市ウグレゴルスクがあった。
この町は1961年にソ連軍のミサイル発射のために作られた町。
1969年以降、「スヴォボードヌイ18」という暗号名で呼ばれた。
町の中心から5キロの場所にシベリア鉄道の支駅、レデャーナヤ駅があった。
その駅より、貨車による軍事物資の搬入も可能であった。
「俺がまだ駆け出しの軍人で、モスクワに留学中の話だ。
ソ連のロケット学者から、この場所の話を直に聞いた」
涼宮は口元をゆがめ、驚愕の表情でユルゲンを見やった。
「ロケット学者!」
次の言葉が聞えたとき、その注目は、ことごとくユルゲンの下に集まっていた。
「クビンカ基地で、歓迎パーティーが開かれた時だ。
ソ連の人工衛星コスモス1号の打ち上げが話題になったのが、記憶に残っている」
そういって冷徹な一瞥を、教授と涼宮にくれる。
「その時は確か、シベリアの原野に、秘密都市が建設されていたという話を耳にした。
それも、日本とも関係の深い極東、シベリアにあるミサイル基地だった」
教授の鋭い目が、ユルゲンの端正な顔立ちに、くぎ付けになった。
しばらくぶりに会うユルゲンは、以前に比べて頼もしく感ぜられた。
「男子、三日会わざれば
「秘密都市……」
感情を押し殺した声で告げると、脇にいる涼宮の方に向き直った。
「それが……今は宇宙ロケットの発射基地か」
涼宮は無表情で答えた。
三名の顔は、同じものだった。
不安に塗りつぶされたのである。
いかに勇猛な者とはいえども、こうした非常時に立つと、日頃の顔色もない。
「とにかく、米国一国では止むおえん場所だ」
といううめきが、教授の唇から出たとき、二人はもう一度、胸を
だが、教授は、その太い眉をもって、うろたえるな、と叱るように二人を睨んだ。
「涼宮君」
「はい」
「君は、日本政府筋にこのことを伝えたまえ」
涼宮は、これ以上の情報収集が出来ないと考え、一足先に研究室を後にした。
東ドイツ大使にあてた書状を、したためるしかあるまい。
そう考えた教授は、机に座ると、早や
「ベルンハルト君、本当にいいんだな」
教授の顔が途端に鋭くなる。
精悍な顔つきをしている為に、かなりの迫力が
「これは日米同盟という、安全保障上の問題だ。
だが、失敗したら、東ドイツも共倒れだ」
「はい。分かっております」
そういって、
内心の不安を覚えつつも、ユルゲンは笑みを浮かべながら答えた。
『唯一の勝算は……、味方が天のゼオライマーである事か……』
さしものユルゲンも、そう思わざるを得なかった。
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近いうち、グレートゼオライマー出そうと思っています。 ですが、OVA本編は未登場で、設定のみは公式資料集。 映像化の初出が『スーパーロボット大戦J』となっています。 その際は、スパロボのタグが必要なのでしょうか
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