冥王来訪(ハーメルン投稿版)   作:雄渾

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 軌道上に、着陸ユニットの迎撃に向かうゼオライマー。
マサキの運命は、如何に。


迎撃(げいげき)作戦(さくせん)

 一報を聞いた、ユルゲンの行動は早かった。

即座に車を手配して、マンハッタンにある東ドイツ代表部に駆け込んだ。

 ユルゲンは、その手紙を携えて、大使公室を尋ねた。

ブレジンスキー教授からの詳しい内容を伝えると、大使は、

「ベルリンは何時だね」と尋ねてきた。

ユルゲンは腕時計を見て、

『ニューヨーク・ベルリン間の時差は6時間』と時間を計算した後、

「いまは午前4時になります」

 

 その朝、木原マサキは、早暁(そうぎょう)から身支度をしている所だった。

本心を言えば、緊張の為、まったく寝付けなかったのだ。

 マサキは、鉄人ではなかった。

普段の振る舞いと違って、非常に繊細な男であった。

 仮初(かりそめ)とはいえ、結婚式を挙げた興奮もあろう。

それよりも彼の心を悩ませたのは、着陸ユニットの接近であった。

 いくら素晴らしいマシンがあっても、地球上に再び着陸されたらやりようがない。

超マシンで巻き返そうにも、建造するための原材料や、兵站を維持できなければ、無意味なのだ。

今ここで、もたもたしていたら、取り返しのつかないことになる。

 鉄甲龍を倒した時も、躊躇なくやっていれば、日本本土への被害は防げたろう。

幽羅(ゆうら)を、八卦(はっけ)ロボを誘い出すためとはいえ、米海軍第七艦隊の損失は割に合わなかった……

前世の失敗を、今更ながら悔いていた。

 

 

 マサキの意識は、若い女の声で現実に戻される。

まもなく、寝間着(ねまき)姿のベアトリクスとアイリスディーナが来た。

「木原、木原はいる!」

 ベアトリクスとアイリスディーナは、とにかく過敏な眼いろだった。

だが、さすがにマサキは、何気ないふりを振舞いながら、

「どうした」

と、落着き払っていた。

「主人から電話が来てるの!」 

 ヴァントリッツに電話がつながった時、ベアトリクスは偶然起きていた。

ユルゲンの話を聞くなり、アイリスを起こして、急いで彼の部屋まで来たのだ。

 

 居間(いま)にある電話機まで近寄ると、受話器を取り、

「ユルゲン、どうした。俺だ、木原マサキだ」

 いつにない真剣な表情で、ユルゲンに尋ねた。

ユルゲンは、一呼吸おいてから、ゆっくりと語りだした。

「未確認情報だが、ソ連がロケットを上げた。

発射場所はスヴォボードヌイ……。

シベリアのアムール川*1流域で、中ソ国境地帯だ」

「スヴォボードヌイ」

 マサキにも、初めて聞く名前である。

それは無理からぬことであった。

 その場所は、前の世界でさえ、ソ連崩壊まで完全に隠蔽(いんぺい)された閉鎖都市。

CIA発行の航空写真では判明していても、どのようなものがどれだけあるか。

それは、秘中の秘だったからだ。

「場所の事はどうでもいい。

お前が話せる限りのことを、話せ」

「ソユーズ宇宙船の打ち上げに使われるプロトンロケットではない。

聞いたことも、見たこともない新型ロケットなのは、確かだ……。

今は、これしか言えない」

 そう言って、受話器をベアトリクスに渡した。

夫婦であれば、積もる話もあろう……

マサキなりの最大限の気づかいだった。

 

 

 国際電話は、たちまちシュタージの知るところになった。

マサキ番のゾーネ少尉は仮眠から起きると、通信室に入った。

複数並ぶモニターの電源を、一斉に付ける。 

 椅子に座って、国際電話の内容を傍受していると、後ろから声がした。

「なるほどな。ずいぶんと金のかかった部屋だ」

ゾーネは後ろから入ってきて感悦(かんえつ)をくり返しす男に、驚愕の色を示す。

「誰だ、お前」

「ボデーガードさ、木原先生のな」

白銀は、軽く笑っていなした。

「たまには、木原先生の特別講義を聴講させてもらわないとね。

あんただって、そのつもりなんだろう」

と、本音を吐いたときの、ゾーネの顔つきは、ひどく複雑だった。

美男(びなん)好きのどうにもならない諜報員でも、将校は将校だもんな」

 その瞬間、瞋恚(しんい)をむき出しにしたゾーネは、白銀のネクタイをつかんだ。

「な、何だと」

白銀は、一瞬驚くも、ゾーネの腕を逆につかみ返して、興奮するゾーネを抑えた。

「まあ、まあ、怒るなよ。本当のところ言われてさあ」

 そのうち、白銀ともみ合いになりながら、ゾーネは、

「出ていけ、警備兵をよぶぞ」と叫んで、電話機の方にかけていった。

白銀は背広の上から着ていたオーバーコートを直すと、

「連れないね」

と、ドアの方に下がっていった。

 慌てたゾーネが、受話器を持ち上げると、

「分かった。分かったよ。

よくお勉強なさってください……」

白銀は、そういって背を向けると、会心の笑みを漏らしながら、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 マサキは、アイリスディーナと一言も交わさないで、庭まで来てた。

誰もいないのを確認した後、懐中よりホープの箱を取り出す。

悠々と紫煙を燻らせると、再び過去への追憶へ沈降した。

 

 この時代のソ連で核搭載可能な宇宙ロケットは限られてくる。

プロトンロケットでなければ、1980年代後半に完成した大型ロケットエネルギアぐらいか。

 エネルギアは記憶が確かならばペイロードが35トンまで耐えられるはず……

27トンの核爆弾「ツァーリボンバー」であるならば、搭載可能だ……

 低軌道か、静止軌道か、判らない。

だが、着陸ユニットを迎撃するとすれば、50メガトンクラスの核爆弾でなければ厳しかろう。

核での粉砕が成功すればよいが、破片が落下する事態になれば、地球上への被害は免れない。

 何よりも、マサキを怖れさせたのは、着陸ユニットそのものが無傷である可能性であった。

今までは新疆(しんきょう)やアサバスカなど、はるか蕭疎(しょうそ)邑落(ゆうらく)だから良かったものの……

大都市ならば、その影響は甚大だ……

 問題は、低軌道上にどうやって上がるかである。

次元連結システムを使えば、指定したあらゆる座標に移動可能ではある。

 だが、マサキ自身は宇宙空間での実験を一切してこなかった。

地上での戦闘のみを想定していた為である。

 まさか、異世界に来て宇宙怪獣のBETAと戦うとは夢にも思っていなかった。

全長50メートル強の機体を運ぶ宇宙ロケットがあるのか、どうかも不明だ。

マサキの悩みは、留まることを知らなかった。

 

 さて、マサキはどうしたであろうか。

シュトラハヴィッツ少将とチェックポイントチャーリーで分かれた後、西ベルリンに入った。

 西ベルリンのテーゲル空港から、チャーター機でハンブルグ空港へ向かった。

この時代の西ドイツ本土と西ベルリンを結ぶ航空路は、限定された空域で飛行が許可されていた。

それは1946年2月に設定された『空の回廊』と呼ばれるものである。

 東ドイツ上空の高度は10,000フィート*2、空域の幅は20マイル*3

基本的に、西ベルリンを管轄する米英仏の3か国。

その他に、例外としてポーランド国営航空のみが離着陸を許可されていた。

 

 ハンブルグ空港に着くなり、マサキは彩峰(あやみね)から衝撃的な事を聞かされた。

結論から言えば、ソ連が発射した迎撃用の核ミサイルは、失敗した。

大気のない宇宙空間では核爆発の威力は半減し、着陸ユニットを破壊するまでには至らなかったのだ。

 小惑星の直径が、どれほどかわからない。

もし、今回の迎撃に用いた核ミサイルがツァーリボンバーであったのならば……。

広島型原爆の1500倍の威力の原爆で破壊できないとなると、恐らく非常に大きい。

或いは、狙いが外れて至近距離で爆破したために、十分な威力が出なかったか……

 米軍が行った1962年の高高度核爆発実験の際は、大気が少ないために予想通りの威力が発揮できなかった。

その代わり、爆発に伴う電磁パルスの影響で、大規模な停電がハワイ全島で起きるほどであった。

 実はBETAの着陸ユニットに対して、手をこまねいているばかりではなかった。

米軍は4年前のアサバスカへの着陸ユニット落下事件を受けて、迎撃システムの研究を開始する。

 宇宙空間に核ミサイル迎撃システムを設置するというもので、その名はSHADOW。

ラグランジュ点L1、つまり太陽と地球の間に迎撃衛星を設置しようという案である。  

 しかし、軍事予算のほとんどを新規開発中のG元素爆弾にとられ、迎撃衛星の研究は滞ってしまった。

その為、計画からすでに5年の月日がたっても、衛星は一機すら上がっていない状況になっていたのだ。

 

 

 すでにゼオライマーはハンブルグ空港の駐機場に準備されていた。

マサキは、渡された宇宙服に着替えながら、彩峰に尋ねる。

「彩峰、射出物の場所は……出来る限り正確なデータが欲しい」

「まだ地球周回軌道には、入っていない」

 その話を聞いて、マサキは内心ほっとした。 

地球周回軌道に入っていないのならば、宇宙空間でメイオウ攻撃をしても問題はない。

 ただ、宇宙空間にいきなりワープするにしても、正確な座標や目標がなければ移動はできない。

そこで、対地同期軌道上を飛んでいる人工衛星の位置を頼りにワープすることにしたのだ。

「彩峰、衛星放送用の人工衛星の座標を教えてくれ。今からそこにワープする」

「じゃあ、今から人工衛星シンコム3号の場所を言う……」

そういって、詳細な位置を伝えてきた。 

 マサキは、コックピットに乗り込むと、ゼオライマーを転移する準備に取り掛かる。

彩峰の話を基に、高度3万5786キロメートルの円軌道上を飛んでいる人工衛星の位置情報を入力した。

ゼオライマーは、基地から飛び上がった後、即座に対地同期軌道上にワープする。

 管制塔からゼオライマーの発進を見守っていた彩峰は、ゼオライマーの姿が消えるまで敬礼していた。

他の管制官やスタッフたちもそれに続いた。

 

 

 

 マサキは、ワープした瞬間、どこにいるか、判らないような感覚に襲われた。

太陽光の反射で白く輝くゼオライマーの機体とは別に、周囲は漆黒の闇夜。 

 まるで、虚空に放り出されたようだ。

そんな感覚に陥っていた。

 マサキは、宇宙服のぶ厚い手袋の上から操作盤に触れながら、美久に隕石の位置を尋ねた。

「この方角で間違いないのだな」

「計算が正しければ、この位置で隕石は来るはずです」

「120パーセントの威力でメイオウ攻撃を実施する」

 この方角ならば、メイオウ攻撃の最大出力で、大丈夫なはずだ。

そう考えると操作盤を連打して、攻撃準備に取り掛かった。

 メイオウ攻撃は、異次元から取り出したエネルギーを無尽蔵に放出し、あらゆる標的を破壊する。

それも原子レベルまで分解し、消滅させて。

大陸一つ消滅させる威力を誇る攻撃で、おそらく直径数キロの隕石は消し飛ぶ……

 

 メイオウ攻撃を放った瞬間、衝撃波がゼオライマーに降りかかった。

大気のある地球上と違い、宇宙空間には遮るものが何もなかった。

その威力がそのまま、機体に直撃する。

 無論マサキもそのことを想定して、バリアを張っていたし、即座にワープする準備もしていた。

だが思ったよりも、その衝撃はすさまじく、しかもワープの準備をするより早かった。

正面からの衝撃で座席にたたきつけられたマサキは、そのまま気を失ってしまうほどであった。

 

 バリア体で周囲を保護したゼオライマーの機体は、そのままボールのように弾き飛ばされ、地球の方に向かった。

マサキが気が付いたときには、既に大気圏に突入している最中。

 ぼんやりと落ちていく様をながめながら、

奈落(ならく)の底に落ちていくのか……」

 奈落とは、地獄の事である。 

このBETAのいる世界……地獄かもしれない。

今まで自分がして来た事を思えば、それは当然のことではないか。

だが自分は、一度ならず二度復活したのだ。

折角(せっかく)生き返ったこの機会に、己の長年の野望を叶えずしてどうするのだ。

 

 死にたくない……

このまま、一度目の人生で自分を死に追いやったソ連への復讐を……

道具のように扱い、簡単に暗殺した連中への復讐を果たすまでは……

 

 そう思うと、自動操縦を担当する美久に呼びかけた

「美久、聞いているか……

ぼさっとしてないで、姿勢制御のブースターを作動させろ」

「背中のブースターに異常が……」

同時に、マサキは必死の思いで操作盤に手を伸ばす。

「肝心な時に役に立たないとは、ガラクタだな」

 操縦席にあるコントロールパネルに手動操作で座標を打ち込んでいく。

北緯53度38分、東経09度60分……

機体は即座に、ハンブルク空港に転移した。

 

 ハンブルクは、ちょうど日の出前だった

空港の上空1500メートルに転移すると、航空管制に従って駐機場に着陸させる。

 メインスラスターが損傷していたので、補助スラスターを用い、姿勢制御をおこなったのだ。

すると、5分もしないうちに化学消防車と救急車がサイレンを鳴らしながら近寄ってきた。

どうやら彩峰の指示で、ゼオライマーの機体が損傷した可能性を考えて用意したものだった。

 幸いなことに早朝だったので、ゼオライマーを隠す時間も十分だ。

マサキはそう考えながら、救急車のストレッチャーに乗せられると、救急車で医務室に運ばれていった。

 今回の宇宙への出撃は、スペースシャトルによる短期フライトより短かった。

なので、空港にいる医師が健康状態を簡単に評価し、その後、診療所で診察、検査が行われた。

さらに3日後、より詳しい検査を大学病院で行い、異常がなければ通常の活動に戻れるという話であった。

 昨日からほとんど寝ていないマサキは、診察の合間に転寝をするほどであった。

普段心配するそぶりすら見せない彩峰から、奇異に思えるほどに心配された。

 

 マサキは遅めの昼食を取りながら、思い悩んでいた。

今回の宇宙空間での活動から、マサキは以前にもましてグレートゼオライマーを進めるしかない。

そのような結論に至った。

メイオウ攻撃は無敵なのは、間違いない。

 だが、威力があまりにも強すぎるのだ。

牽制(けんせい)用のミサイルやレーザー、ビームの剣などは必要であろう。

そうすると、自分一人で何かするには対応しきれない……

(たかむら)あたりを引き込むか。

 

 一緒の席でコーラを飲んでいる彩峰に聞いてみることにした。

「なあ彩峰。篁とミラ・ブリッジスに関してだが……」

「どうした」

ここはあえてグレートゼオライマーの件ではなく、戦術機の話をしてごまかすことにした。

「俺の考えてる、戦術機のロケットブースター改造計画に関して奴らの手を借りたいと思ってな」

「跳躍ユニットは米国のプラッツ・アンド・ウィットニー*4

英国のロールス・ロイス。

あとは自社で戦術機を作っている、ゼネラルダイノミクス*5の航空機エンジン開発部門ぐらいか」

「日本国内でライセンス生産はしていないのか」

富嶽(ふがく)重工*6で行っているが……

どうしてそんな事をいまさら聞くのだ」

 彩峰はコーラの入ったグラスを片手に、真剣な表情になる。

マサキは、一頻りタバコを吸った後、彩峰の方を振り向く。 

「実は昨日、アイリスディーナと話しているときに跳躍ユニットの話になった」

そういうと弾んだ声で話し始めた。

「跳躍ユニットは操作性が悪く、ユニット自体の可動域が非常に狭い。

操作を誤ると、よく転ぶという話を聞いてな……」

「……だから背面の推進装置を作りたいというわけか」

「戦術機は宇宙服の有人操縦ユニットの発展形だろう。

月面や火星での作戦に向けて、改良は必要になってくる」

 マサキはほくそ笑み、いかに次の作戦で背面バーニアが必要か、興奮した口調で話すのだ。

「……そこでだ。宇宙空間での姿勢制御は背面スラスターでなければ、十分にできない。

俺のゼオライマーの背面バーニアの技術と、有人操縦ユニットのノウハウを合わせれば……」

 呆れた表情を見せる彩峰。

マサキのぞっこんぶりに戸惑っているのだ。

「あくまで民生用部品として、ルーマニアに輸出する。

ルーマニアは東側だが、米国の最恵国待遇の対象国だ。

世銀にも入っているし、合弁会社を作れば、ココム規制に引っかからない。

上手くいけば、ルーマニア経由で日本企業が金稼ぎを出来るようになる……」

それに、自分の製作した作品がアイリスディーナの手助けになるのなら、望外の喜びだと思った。

*1
支那名、黒龍江

*2
1フィート=30.48センチメートル

*3
1マイル=1609.34キロメートル

*4
現実世界のプラット・アンド・ホイットニー

*5
現実世界のゼネラル・エレクトリック・エアクラフト・エンジンズ

*6
現実世界の富士重工業




 ご意見、ご感想、お待ちしております。

近いうち、グレートゼオライマー出そうと思っています。 ですが、OVA本編は未登場で、設定のみは公式資料集。 映像化の初出が『スーパーロボット大戦J』となっています。 その際は、スパロボのタグが必要なのでしょうか

  • スパロボタグは必要
  • むしろTEのタグが必要
  • タグは不要
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